『若者と労働』(中公新書ラクレ)ができました
本日、中央公論社編集部の谷口法子さんが、刷り上がったばかりの拙著『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)を持ってこられました。ありがとうございます。私にとっては、新書の単著としては3冊目になります。
http://www.amazon.co.jp/dp/4121504658
発行日は8月10日です。書店に並ぶまで、もうしばらくお待ちください。
ここでは、「まえがき」をアップしておきます。
若者の労働問題は何重にもねじれた議論の中でもみくちゃになっています。
一方には、日本の労働社会では中高年が既得権にしがみついているために若者が失業や非正規労働を強いられ、不利益を被っていると糾弾する議論があります。
他方には、近頃の若者は正社員として就職しようとせず、いつまでもフリーターとしてぶらぶらしているのがけしからんと非難する議論があります。
現実社会の有り様をきちんと分析することなく情緒的な議論で世の中を斬りたがる人々が多いことの現れなのでしょうが、いつまでもそのような感情論でのみ若者の労働が語られ続けること自体が、この問題をきちんと位置づけ、正しい政策対応を試みる上での障害となる危険性があります。
本書は、今日の若者労働問題を的確に分析するために、日本型雇用システムやそれと密接に結びついた教育システムの本質についてかなり詳細な議論を展開し、それを踏まえて若者雇用問題とそれに対する政策の推移を概観し、今後に向けた処方箋の提示を行います。
そのポイントをごくかいつまんで述べれば、まず第一に、仕事に人をはりつける欧米のジョブ型労働社会ではスキルの乏しい若者に雇用問題が集中するのに対して、人に仕事をはりつける日本のメンバーシップ型労働社会では若者雇用問題はほとんど存在しなかったこと、第二にしかし、一九九〇年代以降「正社員」の枠が縮小する中でそこから排除された若者に矛盾が集中し、彼らが年長フリーターとなりつつあった二〇〇〇年代半ばになってようやく若者雇用政策が始まったこと、第三に、近年には正社員になれた若者にもブラック企業現象という形で矛盾が拡大しつつあること、となります。
これらは、メンバーシップ型社会の感覚を色濃く残しながら都合よく局部的にジョブ型社会の論理を持ち込むことによって、かつてのメンバーシップ型社会でも欧米のジョブ型社会でもあり得ないような矛盾が生じているものと見ることができるでしょう。
これに対して本書が提示する処方箋は、中長期的にはジョブ型労働社会への移行を展望しつつ、当面の政策としては正社員と非正規労働者の間に「ジョブ型正社員」という第三の雇用類型を確立していくことにあります。
分かりやすく攻撃対象を指し示すようなたぐいの議論に慣れた方には、いかにも迂遠で持って回った議論の展開に見えるかも知れませんが、今日の日本に必要なのは何よりもまず落ち着いて雇用システムや教育システムの実態をきちんと認識し、一歩一歩漸進的にシステムを改革していくことであるとすれば、本書のような議論にもそれなりの意味があるのではないかと思われます。
<目次>
序章 若者雇用問題がなかった日本
第1章 「就職」型社会と「入社」型社会
第2章 「社員」の仕組み
第3章 「入社」のための教育システム
第4章 「入社」システムの縮小と排除された若者
第5章 若者雇用問題の「政策」化
第6章 正社員は幸せか?
第7章 若者雇用問題への「処方箋」
(追記)
ちなみに、まだ発行されていないのに、アマゾンのベストセラーランキングでは、中公新書ラクレ第2位になってますな。不思議だ・・・。
http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/2220206051/ref=pd_zg_hrsr_b_1_3_last
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