家族形成と労働@『JIL雑誌』
『日本労働研究雑誌』9月号は、「家族形成と労働」が特集です。
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2013/09/
提言 家族形成の多様性(118KB)渡辺 秀樹(慶應義塾大学文学部・大学院社会学研究科教授)
解題 家族形成と労働(256KB)編集委員会
論文 男性稼ぎ主型モデルの歴史的起源 斎藤 修(一橋大学名誉教授)
婚前妊娠結婚経験は出産後の女性の働き方に影響するか? 岩澤 美帆(国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部第1室長)鎌田 健司(国立社会保障・人口問題研究所人口構造研究部研究員)
日本における労働市場と結婚選択 三好 向洋(愛知学院大学経済学部講師)
人事管理における家族 田中 佑子(諏訪東京理科大学前教授)
家族形成と法 笠木 映里(九州大学法学部准教授)
紹介 未婚女性の貧困問題を考える──若者支援・困窮者支援からのレポート 鈴木 晶子(一般社団法人インクルージョンネットよこはま理事)
ニート・引きこもりの家族形成 二神 能基(NPO法人ニュースタート事務局理事)
このうち、読んで知的好奇心をいたくそそられたのは、斉藤修さんの「男性稼ぎ主型モデルの歴史的起源」でした。
男性稼ぎ主型世帯は20世紀中頃までに多くの国で支配的な形態となったといわれる。本稿では、日本との比較において英国とスウェーデンを取上げ、その成立の歴史過程にかんする研究史のサーヴェイをまず行う。次に、工業化段階における世帯内生産に注目した経済史家ヤン・デ・フリースの仮説を紹介し、日本のデータによる若干の検討を加える。
結論として、欧米であっても日本であっても、男性稼ぎ主型世帯を成立せしめた要因の一つに主婦による家事という世帯内生産への時間投下の増加があった可能性を指摘する。これは家族が生活水準の質の向上を求め、健康や育児の領域で消費を充実させようとしても、市場では調達できない、あったとしても質の劣るモノとサービスしか存在しなかったという、特定の発展段階に固有の問題があったからである。
同時に、個々の国における歴史過程の理解にとっては、家族のあり方、伝統的な社会保障システムの態様と機能、政府の姿勢と政策という、歴史と文化に根ざした要因もまた重要であることが強調される。
私の関心と関わる法政策問題については、笠木映理さんが的確に問題構造をまとめています。
社会法(労働法・社会保障法)は家族形成のあり方を直接に規律する法ではないが、両者の間にはきわめて多様で複雑な相互関係が存在している。そして、伝統的な日本的雇用システムは、明らかに、(男性)片働き世帯を暗黙の前提とした構造となっており、結果として、明確に意識することのないままに、こうした家族のあり方を普遍化・固定化する役割を担ってきた。
他方で、このような社会法と家族の関係は、雇用平等と少子化対策という二つの政策目的を背景として、家族が労働と表裏の関係にあることが意識されることによって、1990年代を出発点として大きく変容を遂げてきた。
また、2000年代後半に議論が活発化したワーク・ライフ・バランスの理念は、家族をもつことに伴う経済的負担という、日本の社会法領域においてともすれば忘れられがちだったともいえる観点から家族を捉え直すと共に、労働者の自己決定という普遍的な価値を基盤として、家族責任に留まらない労働者の私生活全般を考慮に入れ、新しい社会の包括的なイメージを示すものであり、今日においても注目に値する。
今日の社会法には、家族はその法的介入の直接的な関心の対象ではないという点に──特に少子化対策という政策目標との関係で──留意しつつ、社会法が間接的には家族のあり方にきわめて重要な影響を及ぼすことを十分に意識して、こうした新しい価値をふまえた「社会づくりの法」の役割を担うことが期待されている。
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