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2013年8月

2013年8月31日 (土)

『福祉と労働・雇用』(ミネルヴァ書房)のお知らせ再掲

120806ミネルヴァ書房から刊行されている『福祉+α』というシリーズの第5冊目になる『福祉と労働・雇用』が、来月(9月)に刊行されます。わたくしの編著です。

http://www.minervashobo.co.jp/book/b120806.html

「正社員」体制の下で成り立っていた福祉と労働の幸福な分業は、「正社員」が徐々に縮小し、企業単位の生活保障からこぼれ落ちる部分が徐々に増大するとともに、否応なく見直しを迫られている。福祉と労働のはざまで見落とされてきたものはなにか、そして両者を再びリンクしていくにはどうしたらよいか。
本書は福祉・社会保障政策と雇用・労働政策の密接な連携を求めて、これらの「はざま」の領域の政策課題について検討をおこなう。

目次は次の通りです。

はしがき 濱口桂一郎
総論 福祉と労働・雇用のはざまで 濱口桂一郎
1 雇用保険と生活保護の間にある「空白地帯」と就労支援 岩名(宮寺)由佳
2 高齢者の雇用対策と所得保障制度のあり方 金明中
3 学校から職業への移行 堀有喜衣
4 障害者の福祉と雇用 長谷川珠子
5 女性雇用と児童福祉と「子育て支援」 武石恵美子
6 労働時間と家庭生活 池田心豪
7 労災補償と健康保険と「過労死・過労自殺」 笠木映里
8 年功賃金をめぐる言説と児童手当制度 北明美
9 最低賃金と生活保護と「ベーシック・インカム」 神吉知郁子
10 非正規雇用と社会保険との亀裂 永瀬伸子
11 医療従事者の長時間労働 中島勧
12 外国人「労働者」と外国人「住民」 橋本由紀

文献案内/索 引

テーマが福祉と労働にまたがるというだけではなく、執筆者のディシプリンも法律系、経済系、社会系、医学系とさまざまにまたがっていますし、年齢、性別の分布も意識的に若手女性研究者に重点を置いて編んでみました。・・・と、編著者が申しております。

官邸主導の政労使協議始動

去る8月10日のエントリで、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-be89.html(「政労会見拒否」の読み方)

これを安倍政権が単純に連合に喧嘩を売ってると読むのはあまりにも表層的でしょう。

政労会見という二者構成ではない形でやりたいというメッセージととると、朝日の一昨日の社説の最後のところの話とつながってきます。・・・

・・・つまり、政労使三者構成の場で、使用者側の反対を押し切ってでも政府が主導して賃金上昇をやる。今回かなり上げた最低賃金よりも上の方の、しかし春闘相場が直ちに及ばないようなレベルの労働者層に焦点を当てて。

デフレ脱却という政権の看板を裏打ちする賃金上昇を、しかも政権のイニシアチブでやるという意図が背後にあると読むと、逆にこれで何を叩こうとしているのかも読めてきます。

この動きがいよいよ始動し出したようです。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS3004S_Q3A830C1PP8000/首相、政労使協議設置を指示 9月に初会合

安倍晋三首相は30日、首相官邸で甘利明経済財政・再生相と会談し、政府と労使が協調して景気回復に向けた課題に取り組むため、経団連や連合など経済界や労働界の代表による会議を設置するよう指示した。政府は9月中旬にも初会合を開き、賃金引き上げのほか、雇用や事業環境の改善策を巡り話し合う。

甘利経財相は記者会見で「企業の収益改善が、購買力につながっていくためには賃金が上昇する好循環が必要。労使がお互い考えていることを共有し合う場にしたい」と述べた。2014年度の春闘が本格化する来年2月より前の今年12月~来年1月ごろまでに合意点を探る。

初回の会議には首相のほか、菅義偉官房長官、甘利経財相、麻生太郎財務相、田村憲久厚生労働相、茂木敏充経済産業相など主な経済閣僚が出る予定。経済界から経団連の米倉弘昌会長をはじめ中小企業団体を含めた代表者、労働界からは連合の古賀伸明会長らを招く方向で調整している。

諮問会議の民間議員の高橋進日本総合研究所理事長も参加する見通し。政府は労働政策審議会会長の樋口美雄慶応大学商学部長ら有識者からも意見を聞く方針だ。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL300NN_Q3A830C1000000/経財相、賃金巡る政労使協議「9月中に開始」 約4カ月間で議論

甘利明経済財政・再生相は30日夕、消費増税の影響を巡る集中点検会合後に記者会見し、賃金や雇用改革について話し合う政労使協議について「スタートは9月中にもしたいと思っている」と述べた。「最終的には12月か2014年1月あたりまでの会になる」とも話し、4カ月程度協議を続ける見通しも示した。

安倍晋三首相の出席は「最初と最後の回だけ」という。継続して開く会合は政府から甘利氏と茂木敏充経産相、田村憲久厚労相、菅義偉官房長官、麻生太郎副総理・財務・金融相らが出席するとの見通しを示し「臨時国会までにそこまで何回か開いた中での意見の集約があればいい」と語った。ねらいは「企業の収益改善が、購買力につながっていくためには賃金が上昇する好循環が必要。労使がお互い考えていることを共有し合う場にしたい」と説明した。

この記事からすると、やはり賃上げが最大のテーマになりそうですね。

賃上げは労使は決めることなどとうそぶいてみても現状経営側が楽になるだけで労働者にとってなんの利益にもならないし、とはいえ手柄を全部政権に持って行かれても困るわけで、こういうセッティングの場で、連合がどういう的確な行動をとれるか、とれないかが、今後のポジションを相当程度左右することになるのでしょう。

ただそこは政権側もわかっているので、連合の手柄を取るのではなく、「自民党の方が役に立つだろう」と、労働者に呼びかける素材にするわけですが。

長時間労働禁止令・・・は実はあるんですが・・・

ネタかも知れませんが、

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130827/252672/?rt=nocnt(長時間労働禁止令を発動せよ 勝間和代氏が語る労働生産性と女性活用の関係)

労働法的にマジレスしてしまうと、

長時間労働禁止令、ってのは実は存在します。えっ?

http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%eb&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S22HO049&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

第三十二条  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

この法律の本来の趣旨は、あくまでも長時間労働禁止令ですからね。残業代払え令じゃありませんからね。
でも、圧倒的に多くの日本の労使が、これを長時間労働禁止令なんかじゃなくって、残業代払え令だと思って積み重ねてきた結果、勝間さんも含めて、日本には長時間労働禁止令なんて代物は存在しないと思い込むようになったわけです。だから、労働弁護団の方がなんと言おうが、現実社会の人々にとっては、正社員は時間無限定正社員なんですよ。そして、だからホワイトカラーエグゼンプションは、長時間労働をもたらすだから悪いんじゃなくって、残業代ゼロ法案だから極悪非道ということになるわけです。

「さくら」さんのアマゾンレビュー

Chuko_2アマゾンカスタマーレビューに、「さくら」さんのあたたかい書評が載りました。

http://www.amazon.co.jp/review/RX1R3QMPQ05TA/ref=cm_cr_dp_title?ie=UTF8&ASIN=4121504658&channel=detail-glance&nodeID=465392&store=books「解きほぐすというサブタイトルに納得」

この「「入社」の仕組みから解きほぐす」というサブタイトル、最後の最後まで悩んだ、というかむしろ編集担当の谷口法子さんが悩みに悩んで、最後に帰り道から携帯電話で連絡してきて決めた、というものです。それはともかく、「さくら」さんの書評です。

本書は、企業のメンバー入り(正社員になる)ことを前提とした社会の仕組みを解説しつつ、 そうした社会の仕組みが縮小する今日において、若者の雇用問題を解決する処方箋を示しています。本性読み進めるうちにはっきりしてくるのは、日本の雇用システムが良くも悪くも内側に多様な機能を備えており、このシステムに入ることが若者の職業生活のみならず、生活安定や職業能力形成において死活問題であった社会の姿です。本書を読むことで、メンバーシップ型社会が様々な機能を備えてきたからこそ、さらに教育や社会保障がこれと整合的な形で成り立ってきたからこそ、メンバーシップ型社会の縮小が若者に大きなダメージを与えたという構造が立体的に理解できると思います。 一方で、本書は、仕事に人を貼り付けるジョブ型社会に即座に移行することもよしとしていません。著者はジョブ型社会は学校を出た若者に一定の職業能力を証明することを求め、これができなければまともな仕事など、望めないという点で、若者にこそ厳しい社会と指摘します。これを踏まえ、本書は漸進戦略としてジョブ型正社員を推進すると同時に、これまで職業との関係が薄かった教育をジョブ型の雇用を支える教育システムに変革する必要を指摘しています。 本書は非常に分かりやすい文体で書かれており、メンバーシップ型の雇用システムとジョブ型の労働市場を前提とした労働法制、その間を見てきた判例との関係、あるいは、雇用システムと教育システムが相互にメリット共有しながら互いに無関係できられた構造などを、様々な人がアクセスできる柔らかな情報に解きほぐしています。その結果今後の働き方についてたくさんの人が感情論でない議論をしていく上での、共通の足掛かりを作ることに成功していると思います。 本書は、国が推進している限定正社員を理解したい人にもお勧めです。メンバーシップ型社会とジョブ型社会双方のメリットと限界について、海外の雇用システムにも触れつつ解説している本書は、なぜ今漸進戦略としての限定正社員が必要とされるのかを理解する上で、非常に参考になると思います。

ありがとうございます。そう、まさに、若者雇用問題というのはそういう多元連立方程式を「解きほぐす」手つきが必要なんですよ、というのが本書の伝えたかったことの中核にあります。

あと、ツイートでは、

https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/373313445493366784

コンパクトに、最新の論点がまとまっててよかった。しかも分かりやすい

2013年8月30日 (金)

児美川孝一郎「教育困難校におけるキャリア支援の現状と課題」

92『教育社会学研究』第92号というのを見つけ、その中に児美川孝一郎さんの「教育困難校におけるキャリア支援の現状と課題」という論文があるのを見つけました。

http://www.gakkai.ne.jp/jses/2013/08/09140036.php

これ、なにかと問題の多い大阪の偏差値の低い高校「教育困難校」3つを取り上げて、その状況や取り組みを述べているのですが、絵に描いたように職業的レリバンスがないほどひどいことになっているという結果になってますね。

最初の普通科X校、偏差値36。尼崎に近いところのようで、ずっと定員割れ、入学者の半分しか卒業に至らず、卒業者の半分がなんとか就職にこぎ着ける。先生方は丁寧な丁寧な寄り添うような進路指導をするのだけれど、いわゆる「荒れた学校」で、授業が成立しないような生徒たちに履歴書を書かせるので精一杯、その困難はきわまる。

次の工業科Y校、偏差値37。中小企業集積地とあるので東大阪でしょう。偏差値はX校と大して変わらないけど、入試倍率は1倍を下回ることはなく、就職実績は遙かに高い。約3割は工学系の大学や専門学校に進学し、7割が就職するがすべて正規雇用で、大手・中堅も多い。

非常に面白いのがY校と同じ地域にある普通科Z校、偏差値37。X校同様の「荒れた学校」として「Z校に行っているなんて、とても言えない」ような状況だったが、地元密着の学校づくりを目指し、普通科高校でありながら2年次から専門コースを設け、週1回インターンシップに行かせるなどしたところ、その評判は「見違えるくらい変わった」。

というとZ校の成功物語みたいですが、これにはオチがあって、よくなったのは専門コースだけ。そして、2013年度からこの専門コースを総合学科として独立させることになっていて、いやそれはそこはいいけど、取り残された普通コースは依然として「困難校」。

というわけで、めでたしめでたしだけでも終わらない現実のほろ苦さも振りかけつつ、興味深い実情を示してくれています。

本日の朝日社説 on 派遣労働

派遣法についてもよく勉強しておらず、今回の派遣研究会報告書もろくに読まずに書いたとおぼしき社説が多々見られる中、本日の朝日新聞の社説は、ちゃんと物事の構造を理解した上で書かれていて好感が持てます。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1(派遣見直し―働き手を守る覚悟は)

・・・内容を大づかみにいえば、「派遣先で労働者がどう働くか」については、規制を緩和する一方、「派遣元がどう労働者を保護するか」については規制を強化する。

 労働力の需給調整という派遣制度の機能を正面から認めており、業界大手が加盟する「日本人材派遣協会」の要望に沿ったものといえる。

 現行法では、ずっと派遣に任せていいのは26の専門業務に限り、そのほかの業務には最長3年の上限を設けている。

 「ずっと続く仕事なら、正社員にさせるべきだ。そこに派遣労働者が入って、正社員が代替されるのを防ごう」という理念が背景にあった。

 報告書は、この考え方を見直し、仕事の内容による区別の撤廃を提言した。

 いまや非正規雇用は、働き手の3人に1人、1800万人に及ぶ。派遣社員は約137万人で、パートやアルバイトにはない特別な規制を、派遣にだけかける意味は薄い。専門26業務の中身もあいまいになっていた。区別の撤廃自体は妥当だろう。

このあたりが「違い」がわかるかどうかですね。

その上で、朝日社説は注文をつけていきます。

・・・焦点は、派遣会社が派遣労働者をきちんと保護できるかどうか、である。

 報告書は、派遣会社との契約が有期の場合、3年の派遣上限に達した働き手に対して、派遣会社に「雇用安定化措置」を講じるよう義務づける。

 具体的には、(1)派遣先に直接雇ってもらうよう申し入れる(2)新しい派遣先を提供する(3)働き手との契約を無期雇用にする、のいずれかだ。

 もっとも現実的なのは(2)だろうが、切れ目なく派遣先を用意し続けるには、派遣会社側に相当な努力が必要となる。

 逆にいえば、派遣労働者の生活を安定させる力のない派遣会社は、ビジネスを続ける資格がないという意味でもある。

 全国に8万3千近くある派遣会社のうち、かなりの数は淘汰(とうた)される可能性があるが、働き手にしわ寄せがいかない形で進めるしかない。

 業界の覚悟が問われている。

CIETTのレポートなどでも示されているように、日本の派遣業界の欧米諸国と比べたときに最大の特徴は、異常なまでに事業者数が多いということなんですね。言い換えれば、「派遣労働者の生活を安定させる力のない」中小零細というにも及ばないような形だけの派遣会社が山のようにある。そういう業界関係者ならみんなわかっている問題点にもきちんと目を向けています。

今日から労政審で議論が始まることになりますが、それを伝える報道機関が少なくともこの程度の基本的な認識枠組みをもって報じていって貰わないと、あらぬ方向にミスリードすることになりかねませんので、宜しくお願いしたいところです。

基本的な勉強の素材は

http://homepage3.nifty.com/hamachan/jkoyou.html

に載せていますので、ご参考に。

第一生命経済研究所の若者雇用レポート

第一生命経済研究所の鈴木将之さんの「若年世代の雇用問題」というレポートが、拙著『若者と労働』をも引用しつつ、中庸な議論を展開しています。

http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/rashinban/pdf/et13_154.pdf

・・・国際的にみた日本の若年失業率の低さを踏まえれば、いわゆる日本型雇用慣行に付随する新卒一括採用を捨て去るには惜しい。
この長所として、たとえば既存の労働者に比べて具体的な職務能力に劣る学卒者が、既存の労働者とは別に雇用機会を確保できることがある。企業には、新卒時からの長期雇用を想定することで、若年期には労働生産性の上昇に対して賃金を抑えられることがある。また、労働者と同時に消費者でもあるため、雇用機会が安定すれば、その分内需の下支え役としても期待できる。社会全体からみれば、短期的には若年失業率を低く抑えられ、その分失業給付や職業訓練など費用が不要となり、長期的には人材投資が若年期から継続されることで将来を担える若年世代を育てられる。一方、短所は新卒採用から外れた学卒者はその後正社員になりにくく、生活が不安定化しやすいことがあげられる。企業からみれば、学卒者を潜在能力で見極めるスキルが必要になり、その分のリスクを負うことになる。これらは、若年世代の雇用にまつわるリスク自体を、誰が負担するのかという問題に帰着するため、長所を残し、短所を改める観点から若年雇用に対する処方箋を考えてみる。

1つ目は、雇用の大もとである労働需要自体の確保が必要だ。・・・

2つ目は、労働市場の入り口で、多くの若年世代を労働市場に参入させ、雇用機会の獲得を促すことだ。・・・

3つ目は、働き方の多様化、雇用安定化や所得向上を狙った、正・非正社員の転換経路の拡充だ。・・・

この3つめの話の流れで、ジョブ型正社員についても触れられています。

2013年8月29日 (木)

「ジョブ型」論の正常化?

一時は、話が出てきた文脈もあって、マスメディア上ではほとんど「解雇しやすい」という形容詞付きでしか語られなかった「ジョブ型正社員」ですが、最近はだいぶ冷静になって、メンバーシップ型との対比をきちんとわきまえて、働き方の枠組みとしての理解が進んできたようです。

典型的なのは、冷泉彰彦さんで、最初は表層的なマスコミ報道の上っ面だけに脊髄反射するような反応を示されていましたが、

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2013/06/post-563.php(「限定正社員」構想の議論、欧米では一般的だというのは大ウソ)

中身をきちんと理解されてからは、

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2013/06/post-569.php(「ジョブ型雇用」が成立するための3つの条件とは?)

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2013/08/post-583.php(「ジョブ型雇用」はまず経理部から導入してはどうか?)

提案に賛成するかどうかは別として、まっとうな枠組みで議論をリードしようとしておられます。

一方、国内でも、大和総研の調査レポートで、

http://www.dir.co.jp/research/report/esg/esg-news/20130815_007562.html(ジョブ型職業を意識した進路選択の兆し)

従来のメンバーシップ型だけでなくジョブ型の職業が意識されている可能性が示唆されよう。

それを受けて、ハフィントンポストが

http://www.huffingtonpost.jp/2013/08/18/employment_n_3777159.html(『ジョブ型』の働き方を意識?若者の進路選択に変化の兆し=大和総研の分析より【争点:雇用】)

これからの日本の雇用のあり方には『ジョブ型』または『メンバーシップ型』のどちらがふさわしいだろうか。あなたの考えをお寄せください。

と呼びかけ、さらに昨日東京FMのタイムラインで、

http://www.tfm.co.jp/timeline/index.php?itemid=69272&catid=1166(若者が意識し始めた“ジョブ型”は、働き方の未来を変える?)

これまでの“ニッポンの正社員”は、会社内のあらゆる職種を経験するメンバーシップ型が主流だった。
しかし、アメリカ・ニュージャージー在住のジャーナリスト・冷泉彰彦氏は、グローバルビジネスの世界ではこのような制度はないと話す。

若者が意識し始めたジョブ型は、日本の労働を変えるのか。
日本で働く私たちの“働く未来”とは?

という取り上げ方をしているようです。

ネット上にさきはう「解雇自由にさえすれば、万事うまくいく」教の教祖たちにとってはあまり面白くない雲行きですが、働き方の問題がまっとうな枠組みで議論されるようになるというのは、それ自体として望ましいことですので、「ジョブ型正社員」唱道者の一人としては、もう少し事態の成り行きを見守っていきたいと思います。

2013年8月28日 (水)

日経新聞社説の見当外れ

日経新聞が昨日朝刊の社説「派遣で働く人たちが使いやすい制度を」で、今月出された厚労省の派遣研究会報告を批判していますが、いささか見当外れの感があります。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO58963660X20C13A8EA1000/

この報告書の眼目は、今までのインチキとごまかしに満ちた「専門26業務」か否かによる規制区分を改め、派遣労働者の雇用契約が無期か有期かによって区分しようとするのが中心ですが、そのそもそものところで、依然として

通訳や秘書など「専門26業務」

などと寝ぼけたことを言っています。そんな本当の専門業務など「専門26業務」の中のごく一部に過ぎないことなど常識でしょう。

「専門26業務」と称するものの中心が事務用機器操作やファイリングなど一般事務職として最低限の技能でしかなく、それゆえに民主党政権下での適正化プラン通達で派遣業界が痛い目に遭ったという経緯が、そしてそれゆえにそれまでインチキを黙って受け入れていた派遣業界がその見直しを訴えるようになってきたという経緯が、日経新聞の論説委員の方には全然見えていないようです。

http://www.jassa.jp/information/detail.php?mode=detail&id=831田村 厚生労働大臣に「労働者派遣制度の在り方についての要望書」を提出

派遣期間の制限を業務から労働者の就労期間に変更するとともに、無期雇用者には期間制限を設けないこと、労働契約の申込みみなし、日雇派遣の原則禁止及び1年以内に離職した労働者の派遣の禁止の規定を削除するとともに、マージン率の情報公開を再検討すること、特定派遣事業を一般派遣事業と同じ規制とすることなどの制度の見直しを行うこと。

もし日経新聞の方が、専門26業務とは本当に通訳や秘書ばっかりだと思い込んでこう書いているなら、それは勉強不足だし、大部分が本当は専門業務とは言えない事務用機器操作やファイリングだとわかった上で書いているなら、インチキごまかしをそのままに維持しろと言っているに等しいことになります。

この点に関する限り、日経新聞が見当外れで、人材派遣協会の言ってることの方がまっとうだと言わざるを得ません。社説執筆者ももう少しよく勉強して欲しいですね。

2013年8月27日 (火)

佐々木亮さん on 『日本の雇用終了』

112050118日本労働弁護団の出している『季刊・労働者の権利』2013年7月号(300号)で、労働弁護士のssk_ryoこと佐々木亮さんに『日本の雇用終了』を紹介していただいておりました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/20130827135945408.pdf

最後の一節から:

・・・本書は、法律や判例などどこ吹く風という現状や実態の存在を、圧倒的な数の事例により不気味な説得力を持って迫ってくる希有な書物である。本物の法をいかに現場に通わせることができるのか、「フォーク・レイバー・ロー」をどうすれば「改正」できるのか(つまり、雇用の現場における労働者の権利の向上)、ついつい考えさせられる。是非、一読をお勧めしたい。

家族形成と労働@『JIL雑誌』

New_2『日本労働研究雑誌』9月号は、「家族形成と労働」が特集です。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2013/09/

提言 家族形成の多様性(118KB)渡辺 秀樹(慶應義塾大学文学部・大学院社会学研究科教授)

解題 家族形成と労働(256KB)編集委員会

論文 男性稼ぎ主型モデルの歴史的起源 斎藤 修(一橋大学名誉教授)

婚前妊娠結婚経験は出産後の女性の働き方に影響するか? 岩澤 美帆(国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部第1室長)鎌田 健司(国立社会保障・人口問題研究所人口構造研究部研究員)

日本における労働市場と結婚選択 三好 向洋(愛知学院大学経済学部講師)

人事管理における家族 田中 佑子(諏訪東京理科大学前教授)

家族形成と法 笠木 映里(九州大学法学部准教授)

紹介 未婚女性の貧困問題を考える──若者支援・困窮者支援からのレポート 鈴木 晶子(一般社団法人インクルージョンネットよこはま理事)

ニート・引きこもりの家族形成 二神 能基(NPO法人ニュースタート事務局理事)

このうち、読んで知的好奇心をいたくそそられたのは、斉藤修さんの「男性稼ぎ主型モデルの歴史的起源」でした。

男性稼ぎ主型世帯は20世紀中頃までに多くの国で支配的な形態となったといわれる。本稿では、日本との比較において英国とスウェーデンを取上げ、その成立の歴史過程にかんする研究史のサーヴェイをまず行う。次に、工業化段階における世帯内生産に注目した経済史家ヤン・デ・フリースの仮説を紹介し、日本のデータによる若干の検討を加える。

結論として、欧米であっても日本であっても、男性稼ぎ主型世帯を成立せしめた要因の一つに主婦による家事という世帯内生産への時間投下の増加があった可能性を指摘する。これは家族が生活水準の質の向上を求め、健康や育児の領域で消費を充実させようとしても、市場では調達できない、あったとしても質の劣るモノとサービスしか存在しなかったという、特定の発展段階に固有の問題があったからである。

同時に、個々の国における歴史過程の理解にとっては、家族のあり方、伝統的な社会保障システムの態様と機能、政府の姿勢と政策という、歴史と文化に根ざした要因もまた重要であることが強調される。

私の関心と関わる法政策問題については、笠木映理さんが的確に問題構造をまとめています。

社会法(労働法・社会保障法)は家族形成のあり方を直接に規律する法ではないが、両者の間にはきわめて多様で複雑な相互関係が存在している。そして、伝統的な日本的雇用システムは、明らかに、(男性)片働き世帯を暗黙の前提とした構造となっており、結果として、明確に意識することのないままに、こうした家族のあり方を普遍化・固定化する役割を担ってきた。

他方で、このような社会法と家族の関係は、雇用平等と少子化対策という二つの政策目的を背景として、家族が労働と表裏の関係にあることが意識されることによって、1990年代を出発点として大きく変容を遂げてきた。

また、2000年代後半に議論が活発化したワーク・ライフ・バランスの理念は、家族をもつことに伴う経済的負担という、日本の社会法領域においてともすれば忘れられがちだったともいえる観点から家族を捉え直すと共に、労働者の自己決定という普遍的な価値を基盤として、家族責任に留まらない労働者の私生活全般を考慮に入れ、新しい社会の包括的なイメージを示すものであり、今日においても注目に値する。

今日の社会法には、家族はその法的介入の直接的な関心の対象ではないという点に──特に少子化対策という政策目標との関係で──留意しつつ、社会法が間接的には家族のあり方にきわめて重要な影響を及ぼすことを十分に意識して、こうした新しい価値をふまえた「社会づくりの法」の役割を担うことが期待されている。


2013年8月26日 (月)

نظام التوظيف في اليابان و ”الوظيفة محددة المهمة“

なんやこれ?って思われた方、いやわたしも全然読めません。アラビア語らしい、ってことだけはわかりますが。

http://www.nippon.com/ar/currents/d00088/(نظام التوظيف في اليابان و ”الوظيفة محددة المهمة“)

アドレスからわかるように、これはニッポンドットコム。わたくしの

http://www.nippon.com/ja/currents/d00088/(「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム)

のアラビア語版であるようです。「ようです」ってのは、一字たりとも判読できないからですが。

これまで、英語版、中国語版、フランス語版がアップされてきましたが、

http://www.nippon.com/en/currents/d00088/(Addressing the Problems with Japan’s Peculiar Employment System)

http://www.nippon.com/hk/currents/d00088/(「限定型正式雇員」和日本式僱用體系)

http://www.nippon.com/fr/currents/d00088/(Les problèmes spécifiques du  système de l’emploi japonais)

めでたくアラビア語にも訳され、中東諸国にもジョブ型正社員の話が伝わることになったようです。

『若者と労働』ネット上書評あれこれ

Chukoマシナリさんの本格書評以外にも、ネット上から本書へのここ数日の書評を拾ってみました。

「読書メーター」からYusuke  Sakoさん:

http://book.akahoshitakuya.com/b/4121504658

日本の雇用環境の歴史と変化を若者を切り口に概観する内容で、理解していなかった事もあり、参考になりました。欧米のジョブ型雇用に比較して、職務能力のない若者がスムースに労働市場にエントリーできる日本型の雇用慣行をメンバーシップ型と整理しています。著者は、メンバーシップ型雇用が縮小し、非正規化が進んでいる極端な二極化傾向の現状に対して、ジョブ型正社員という非正規社員と正社員の中間的な雇用形態を創出する処方箋を提案されています。人事労務実務の感覚からも現実的で漸進的な解決策だと感じます。

「ブクログ」から、満田 弘樹さん

http://booklog.jp/item/1/4121504658

日本における若年層の雇用・労働と、そこへ辿り着くまでの教育について、欧米と比較しながら戦後から現在にかけて労働法的な側面と政策を辿っていく。

まず指摘されるのは、若年者の失業問題は国際的には以前からずっと存在し、むしろ日本でバブル期以前に若年失業問題がほとんど存在しなかったことのほうが特殊であるということ。その要因として、日本特有の「ゼロからの企業内育成」を前提としたメンバーシップ型の雇用を挙げ、それが「誰もがどこかへは入社できる新卒一括採用」を生み出して若者の雇用安定をもたらした一方で、家庭を含んだ社会全体での職業教育の必要性の希薄化を生み出したと指摘されている。

ところがバブル崩壊以降、新卒採用の縮小により、「誰もが新卒(=実務スキルゼロ)でどこかへ入社できる」とは限らなくなったことにより、日本でも若年失業の問題が顕在化した。しかし当初は「自主的なフリーター」「就労意欲の低下」といった若者自身の問題と認識されていたため、日本が本格的に若年失業対策に乗り出したのは2000年以降になってからで、いまだに試行錯誤中であることが書かれている。

本書では新卒にメリットのあるメンバーシップ型を維持しながら、そこで抱えきれない部分に対しては欧米に近い「ジョブ型正社員」の導入が提唱されているが、これは中小企業の中途採用ではかなり近い状態にある気がする。なのでネックなのは中小企業経営にあるのではないか、という気がする。

また、政策の観点が詳しい一方で、民間企業による職業斡旋がどのような影響を与えてきたかについて書かれていないので、そこが少し物足りない感じ。

あと、ツイートで、

https://twitter.com/sasho2/status/370891267556659200

濱口桂一郎『若者と労働』を読んだ。知らないこともあったので「へぇ」と知るところも少なくなかった。しかしながら、現在の日本の雇用についての概要はわかったものの、その問題に対しての批判的検討は弱かったように見えた。

https://twitter.com/jai_an/status/371125166090493952

私の新刊『努力する人間になってはいけない ― 学校と仕事と社会の新人論』が、引用した濱口桂一郎さんの『若者と労働』と一緒に購入されているというAMAZON情報 。こんなことで濱口さんと邂逅するとは(笑)。

https://twitter.com/girugamera/status/371232804069056512

あと濱口桂一郎さんの『若者と労働』読んだ。激烈に良書。圧倒的な良書。去年の新書ベストは小熊英二さんの『社会を変えるには』だったけど、今年はこれ。いまからキノベスコメントを考えます。超絶オススメ。

https://twitter.com/brgm0t/status/371769831734800384

濱口桂一郎さんの「若者と労働」が、まだ第二章までしか読んでないけどこれ以上なく分かりやすい。

https://twitter.com/popcorn_house/status/371871847375056896

濱口桂一郎「若者と労働」(中公新書ラクレ)をようやく読み終わった。歴史的な視点と海外との比較で感情論になりがちな若者の労働問題に冷静な見方を与えてくれる。丁寧な解説でとても読みやすい。

2013年8月25日 (日)

マシナリさんの拙著書評+α

Chukoマシナリさんが拙著『若者と労働』に突っ込んだコメントをされています。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-578.html(誰のための「若者と労働」?)

「誰のための・・・」というのは、こういう趣旨です。

・・・本書で示されている「若者と労働」をめぐる諸問題は、特にhamachanブログの愛読者にとっては目新しい内容があるわけではありません。それでも新書としてまとめられたおかげで、歴史や制度の筋道の見通しがかなりすっきりと示されていて、この問題に関心を持つ方には必読の書であることは間違いないと思います。問題は、「この問題に関心を持つ方」というのは誰なんだろうかという点でして、実を言えば、この点ではroumuyaさんの感想に近いことを感じてしまいました。・・・

・・・

この本を読んでしっかりと若者と労働について認識を改めて実践するべきは、堅く言えば使用者側、ぶっちゃけて言えば「メンバーシップ型」の雇用にどっぷりと浸かってしまった大人の側ではないかと思います(的確な現状認識が求められる立場の論者に限って、この本も読まずに俺様理論を開帳し続けるという徒労感満載な展開が予想されてしまうところがアレですが)。その一方で、これからその世界に浸かってしまう若者にとっては、予防線として知るべき知識ではあっても、現時点では残念ながら実践すべき知識ではないだろうとも思います。

これは、ある意味で大変本質的な突っ込みです。

マシナリさん自身の言葉でいえば、

・・・こうした問題を的確に認識し、問題提起を行う若者はほぼ例外なく就活に苦労しているようです。メンバーシップ型の「入社」でなければ日本のほとんどの会社に就職できないために、鍛えようのない「人間力」を重視され「即戦力」を期待されてしまうという就活の現実は、確かに若者にとって多くの矛盾を含むものではあります。しかし、その就活に直面している若者がそれを「抗うべき現実」と考えてしまうと、「メンバーに相応しくない」として「入社」そのものができなくなってしまうというジレンマに陥ってしまうわけです。

というジレンマですね。

ただ、これは本書を、メンバーシップ型の現実を今直ちに「抗うべき現実」と考えて実行に移すべしというメッセージと捉えればそうですが、そういう無謀なことを呼びかけているつもりはありません。むしろ、今日の変形したメンバーシップ型シューカツを「心の底から完全に順応すべき現実」と考えて無意味な「自己分析」などに振り回されている若者に、距離を置いてものを考えるよすがになれば、という程度のものに過ぎません。

マシナリさんの言われるとおり、主として読んで欲しいのは「「メンバーシップ型」の雇用にどっぷりと浸かってしまった大人の側」なんですが、認知的不協和をもたらすであろう人ほどそういうのは読まないというのが世の鉄則ではありますね。

2013年8月24日 (土)

裁量労働制のボタンの掛け違い

『労基旬報』8月25日号に掲載したものです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo130825.html

 去る6月に出された規制改革会議の答申をめぐっては、筆者もその唱道者である「ジョブ型正社員」ばかりが注目を集め、いささかピント外れの批判も浴びたが、答申の中でより議論が必要なのはむしろ労働時間規制に関わる部分ではなかろうかと思われる。具体的には企画業務型裁量労働制の活用が進んでいないとしてその見直しを求めているところであるが、その問題意識が「個々の労働者のライフスタイルに合わせて労働時間に拘束されずにその能力を最大限発揮できるよう」とか「ワークライフバランス・・・の観点から」と、6年前のホワイトカラーエグゼンプションの失敗の時の議論とあまり変わっていないのである。

 筆者は当時いくつかの雑誌で、マスコミや一部政治家が問題視した「残業代ゼロ法案」という点こそがこの制度の本来の趣旨であり、それは労働時間と賃金のリンクを外して成果に見合った報酬を払うという観点からは正当性があるのであって、むしろ問題は労働時間が無制限に長くなって労働者の健康に悪影響を与えないようにするための歯止めとして実労働時間規制を確立することにこそある、と主張した。

 ところが、過労死防止という観点は忘れ去られたまま、残業代ゼロけしからんという批判で潰されたというトラウマを引きずって、今回再びワークライフバランスのための企画業務型裁量労働制の拡大という形で同じ問題が提起されてきたわけである。経営側のトラウマはよく理解できるが、これでは再び同じような帰結に陥るのではなかろうか。もっと正直ベースでこの問題を問い直すべきではなかろうか。

 筆者はそもそも、専門業務型を前提に設けられた裁量労働制という枠組に、普通のサラリーマン向けの時間と切り離された賃金制度を「企画業務型」などというラベルを貼って作ったところに、そもそものボタンの掛け違いがあると考えている。日本の職場では、これは企画業務、これは非企画業務などという明確な業務区分など存在しない。あるのは新入社員から上級管理職に至る連続的な裁量性のスペクトラムの変化である管理職に至る前でも徐々にそれに近い裁量性が増えていく。それを管理監督者か否かのオールオアナッシングで切断すると現実との間で矛盾が生ずる。それを何とかしたいというのがそもそもの出発点であったはずが、企画「業務」などという日本の現実と乖離した理屈づけをしたために、訳のわからない複雑な仕組みになってしまった。

 そろそろ掛け間違えたボタンを正しく掛け直すべき時期なのではなかろうか。例えば、入社後一定の勤続年数や一定の職能資格を要件に、総合職ホワイトカラーに対して労基法37条を適用を除外し、その代わり健康確保のために休息時間(勤務間インターバル)規制をしっかりとかけるといった新たな発想が提起されてよいのではなかろうか。 

我ながら、6年前に『世界』その他で論じていたことからほとんど進歩してませんが、世間が輪をかけて進歩してないので、6年一日の如く同じことを言わざるを得ないわけです。

2013年8月23日 (金)

福祉社会学会編『福祉社会学ハンドブック』

3875_1福祉社会学会編『福祉社会学ハンドブック 現代を読み解く98の論点』(中央法規)を、その中の1項目を執筆しておられる橋口昌治さんよりお送りいただきました。わざわざありがとうございます。

http://www.chuohoki.co.jp/products/welfare/3875/

福祉社会学の入門書として、その理論と方法、諸領域における研究、福祉政策と実践などにまたがる98のトピックを各分野の第一線の研究者が平易に解説する。
現代の社会問題と福祉社会学の到達点が分かる一冊。
福祉社会学会10周年記念出版。

ということで、橋口さんはその中の「57 若者をめぐる状況はどう変化したか?」を書かれています。

その最後のところの記述が、わたくしの『若者と労働』のテーマとも響き合っているのではないかと思い、若干引用させていただきます。

・・・若者をめぐる状況の変化を受けて求められていることは、主に企業が負担してきた若者を訓練する費用と労働への対価(若いうちは安く、年功で上昇)の関係を整理し、若者を育てるコスト・リスクとベネフィットを、企業/労働者/社会(公的機関)の間でどのように配分するのか再設計する枠組の構築である。この問題の難しさは、個別企業で行われ、賃金体系や労使関係と強く結びついてきた人材育成と、国家レベルの社会福祉のあり方を連動させながら変えていく必要がある点にある。個別企業の新規な取り組みだけでは全体構造は変えられないし、かといって個別企業の実情を無視した社会政策でも変えられないであろう。しかし、そのような取り組みなしに、「戦後型青年期」の次は展望できないと筆者は考える。

2013年8月22日 (木)

マンナ運輸事件判例評釈@『ジュリスト』9月号

1369_o8月25日発売の『ジュリスト』9月号(1458号)に、久しぶりにわたくしの判例評釈が載ります。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist

[労働判例研究]

◇兼業不許可の不法行為性――マンナ運輸事件●――京都地判平成24・7・13●濱口桂一郎

評釈の後ろ半分は、事案を離れて「兼業禁止と法政策課題」と題して、労働時間の通算問題などを論じています。

ちなみに本件の労働側弁護士はroubenshiomiこと塩見卓也さんです。

お待ちかね労務屋さんの拙著書評

Chuko_2拙著へのネット上の書評と言えば欠かせないのが労務屋さんの辛口書評ですが、今回も『若者と労働』にちくりとわさびをきかせた短評を書かれています。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20130822#p2

・・・・・ただまあきっとそういう反応になっているだろうなと思ってウェブ上をざっと見てみたところ案の定だったのですが、この本を若者、特に職探しをする(典型的には就活に臨む)若者に推奨するというのはどうなんでしょう。もちろん、若者が知っておくことが望ましい知識はたいへん多く含まれていますし、若者に限らず、若年労働についてあれこれ言いたいならこのくらいのことは知っておけよなという内容の本でもあるのですが、著者の価値観にもとずく記述が随所に入り込んでいて若者がそこまで鵜呑みにすると危ないかなとも思うわけです(そういう人を増やしたいという意図であるならそれはそれで非常によくわかるわけですが)。


拙著書評@「山下ゆ」の新書ランキング

Chukoネット上の新書書評サイトとして有名な「山下ゆ」さんの新書ランキングで、拙著『若者と労働』が取り上げられました。点数は8点です。

http://blog.livedoor.jp/yamasitayu/archives/52043998.html

『新しい労働社会』(岩波新書)が非常によかった著者による「若者と労働」をめぐる問題点を分析した本。地に足の着いた議論を進めていながら、同時のかなり論争的な本でもあると思います。

「論争的」と評されているのは、ジョブ型正社員という処方箋に関するところと、文化系大学に対する「dis」の2点です。前者は「ほんとにそううまくいくの?」というまことにもっともな疑問。後者は「このあたりの「学問」を「職業」に従属させるような書き方にカチンと来る人もいると思います」と。

ただ最後にこう書かれています。

ただ、「論争的」とはいっても、「放言」的な部分はなく、いずれも歴史的な分析などに基づいています。提言については賛成出来ない部分がある人であっても、現状認識として読んで有益な本であることは確かです。

なお、山下ゆさんが『新しい労働社会』を書評されたのは:

http://blogs.dion.ne.jp/morningrain/archives/8609468.html

です。

2013年8月21日 (水)

大野更紗さんの拙著書評@『週刊SPA』8月27日号

000昨日発売の『週刊SPA』8月27日号で、大野更紗さんが「困ってる本棚」という書評コーナーで、拙著『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)を取り上げていただいております。題して「若者の労働問題を懇切丁寧に解説」。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/sarasa.jpg

大野さんには、以前『日本の雇用と労働法』(日経文庫)を朝日新聞の書評論で取り上げていただいたこともありますが、今回も大変好意的に取り上げていただいておりまして、うれしい限りです。

今回の書評の一節を若干引用しておきますと:

・・・非正規雇用や若者の労働に関心がある層(そんな層は、この日本社会の中でごく一部かも知れないが・・・)からは、「はまちゃん」と愛称でしたわれる。

本書は、そんな「はまちゃん」が、グッチャグチャになってわけがわからなくなってしまった、若者の労働問題を懇切丁寧に解説してくれる一冊である。・・・

ありがとうございます。そうですね、今までの2冊に比べると、「懇切丁寧」であることだけはまちがいありません。

2013年8月20日 (火)

『福祉と労働・雇用』(ミネルヴァ書房)のお知らせ

ミネルヴァ書房から刊行されている『福祉+α』というシリーズの第5冊目になる『福祉と労働・雇用』が、来月(9月)に刊行されます。わたくしの編著です。

http://www.minervashobo.co.jp/book/b120806.html

「正社員」体制の下で成り立っていた福祉と労働の幸福な分業は、「正社員」が徐々に縮小し、企業単位の生活保障からこぼれ落ちる部分が徐々に増大するとともに、否応なく見直しを迫られている。福祉と労働のはざまで見落とされてきたものはなにか、そして両者を再びリンクしていくにはどうしたらよいか。
本書は福祉・社会保障政策と雇用・労働政策の密接な連携を求めて、これらの「はざま」の領域の政策課題について検討をおこなう。

目次は次の通りです。

はしがき 濱口桂一郎
総論 福祉と労働・雇用のはざまで 濱口桂一郎
1 雇用保険と生活保護の間にある「空白地帯」と就労支援 岩名(宮寺)由佳
2 高齢者の雇用対策と所得保障制度のあり方 金明中
3 学校から職業への移行 堀有喜衣
4 障害者の福祉と雇用 長谷川珠子
5 女性雇用と児童福祉と「子育て支援」 武石恵美子
6 労働時間と家庭生活 池田心豪
7 労災補償と健康保険と「過労死・過労自殺」 笠木映里
8 年功賃金をめぐる言説と児童手当制度 北明美
9 最低賃金と生活保護と「ベーシック・インカム」 神吉知郁子
10 非正規雇用と社会保険との亀裂 永瀬伸子
11 医療従事者の長時間労働 中島勧
12 外国人「労働者」と外国人「住民」 橋本由紀

文献案内/索 引

テーマが福祉と労働にまたがるというだけではなく、執筆者のディシプリンも法律系、経済系、社会系、医学系とさまざまにまたがっていますし、年齢、性別の分布も意識的に若手女性研究者に重点を置いて編んでみました。・・・と、編著者が申しております。

『若者と労働』抜き書きと感想その他

51wzbmhka5l__sx230_拙著『若者と労働』(中公新書ラクレ)について、ブログやツイートでいくつか感想が書かれていますが、その中でも、かなり詳細に抜き書きと感想を書かれているのが「LandAndFreedom」さんの「故に問う勿れ、誰が為に鐘はなるやと」です。

http://landandfreedom.hatenablog.com/entry/2013/08/19/225133(濱口桂一郎『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』 抜書きとちょっぴり感想 その1)

その1は第1章分ですが、重要部分を抜き書きし、それに適宜感想をつけられており、拙著のいい要約になっているかと。

【第1章の感想】
★「ジョブ型」社会と「メンバーシップ型」社会との違いが鮮やかに示されている。
★会社への「入り方」に関し、欧米の欠員補充方式の具体的なあり方が良く分かり、初めての知見を得られて嬉しい。
★「入社」型社会の来歴が手早くまとめられているが、戦時統制下における展開につき、もう少し詳しい記述が欲しかった。
★日本の労働法体系における判例法理の位置づけが明快である。「司法による事実上の立法」と喝破している点は白眉。

…続きは明日以降に。

その他、ここ数日の書評サイト、ブログやツイートから:

http://book.akahoshitakuya.com/b/4121504658

しんや 「新しい労働社会」「日本の雇用と労働法」よりも読みやすかった。大学などの教育機関から入社までのシステムの問題から、正社員というメンバーシップ型の日本雇用の問題、そこからこぼれ落ちたフリーター問題、更に今若者の間で起きている「見返りのない滅私奉公」を押し付けるブラック企業まで様々な若者に関する問題を挙げ、日本と欧米の労働法の変遷を紐解き、順を追ってそれらの問題を分析している。 自分も含め今の日本では「不毛な感情論」になりがちだが、この本を読めば「本質的な議論」に近付ける気がした。

http://booklog.jp/item/1/4121504658

moriizouさんのレビュー p95-99で教育訓練に関する指摘がありますが、新たな政策を考える際には、こういう極めて当たり前の現実を踏まえつつ細部を詰めていかないと大変なことになるんだろうなあと改めて思った次第。

proton21さんのレビュー 著者がブログや各所で話していることを、若者の就職を切り口にまとめ直した感の書籍。わかりやすく、図解も多いので、専門でない人にもいちばん初めに勧められる。若者と就職という入口にフォーカスしたぶん、ノンエリート労働者の自立あたりはややかけ足。そのため、ジョブ型正社員の必要性がやや弱く伝わりにくいかもしれない。

http://mikawasibu.blog.so-net.ne.jp/archive/20130819(名古屋ふれあいユニオン三河支部・あれこれ)

たとえば、最近発刊された濱口桂一郎さん(労働政策の研究・提言で有名)の『若者と労働』でも、若者の非正規化・ブラック企業の正社員化、に対応したものとして「ジョブ型正社員」の導入が謳われています。このように、単に政府や企業側の利益に沿っているというわけでなく、むしろ労働者にとっても有利な面もあるのではないか、という疑問も、あると思います。このような動き・意見も、引き続き、今回の学習会でも検討していきたいと思います。

http://d.hatena.ne.jp/harumakimiyako/20130819(はるまき都 委員長の日々)

労働問題に関していま最先端の論客である濱口桂一郎『若者と雇用』も買ったがまだ読んでいない。書評を読むと面白そうなのであるが…

濱口桂一郎氏は、現在、私のアイドル的存在(知的な意味で)である。

https://twitter.com/rodokoyo/status/369424002835415040

濱口さんが新たに出された『若者と労働』(中公新書ラクレ)読了。図式がクリアなので読みやすく、データ・事実が抱負かつ詳細なので勉強になるという本です。ジョブ型正社員を展望する上で、主流の労働組合が職務分析・評価に消極的であるという点が今後の課題として残っていると思いました。

https://twitter.com/rodokoyo/status/369424889758756864

前期の拙講義を受けた学生さんたちには、どこかで聴いたことのある話だなぁと感じてもらえる内容ですね。まぁ自分が講義という名でしていることは、ほとんど熊沢さんと濱口さんの本の営業のようなものです(笑)

https://twitter.com/obanano/status/369581140169875457

おはようございます。昨日は打ち合わせ帰りに、仕事の資料収集で専門書探しのため大型書店へ。新刊コーナーの元労働官僚・濱口桂一郎『若者と労働ー「入社」の仕組みからときほぐす』を立ち読み。平明達意な文章に惹きこまれて予定外の購入。この本、大学3年生に読んで欲しい。就活の前に是非。

2013年8月19日 (月)

八代尚宏氏の勘違い

9784480067302八代尚宏さんより、近著『規制改革で何が変わるのか』(ちくま新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067302/

規制改革は「格差を拡大させる」という常識が日本に蔓延している。規制で守られているのは「弱者」であり、市場競争に晒せば弱肉強食の社会になってしまうというイメージがあるためだ。しかし規制は真に「弱者」を守っているのか。特定産業を保護することは、本当に公平なのか。本書は労働、農業、医療、介護・保育、教育、都市・住宅の争点を、肯定派/否定派の対立点から読み解いていく。そこから対立を超えた競争と成長のビジョンを示し、日本の未来を明晰に解き明かす。

内容は下記の通り、多岐にわたっていますが、もちろん本ブログの観点から重要なのは第1章です。

第1章 労働市場の規制改革―企業への規制は雇用を守るか
第2章 農業の規制改革―関税徹廃は日本農業を破壊するか
第3章 医療の規制改革―患者の利益をいかに尊重するか
第4章 介護・保育の規制改革―社会全体でどう担うか
第5章 教育の規制改革―市場競争は教育を阻害するか
第6章 都市・住宅の規制改革―土地の高度利用はどう進むか
第7章 規制改革を推進するために

八代さんの議論は、とりわけその現実認識についてはわたくしと共通する部分がかなりあります。一見、一部の表層的な評論家諸氏と同様に「日本は一旦雇ったら二度と解雇できない」かのごときことをいっているように見えますが(実際そう受け取られかねない記述もありますが)、たとえば、「解雇に厳しい判例は雇用慣行の問題」という項で、「・・・もっとも、日本の解雇規制が国際的に見て強すぎるという認識は、必ずしも正しくはない・・・」と、かなり的確な認識も示しています。

しかしそれを突き詰めると、雇用慣行の問題というのは政府の規制の問題では必ずしもないということであり、企業の人事管理による無限定な働き方をどうするかは(少なくともそれ自体は)規制改革の問題ではなく、「規制改革で何が変わるか」という話でもない、はずなんですね。

企業人事部による共同主観的自己規制による(それに立脚した判例法理を媒介した)整理解雇の困難化を、「規制改革で」どうにかするという発想自体が、やはり少しずれているのではないかと感じるのです。

企業人事部がこれまでの無限定的な人事権を手放さないのに、それを前提とする解雇規制を緩和してしまったらバランスが失われてしまうでしょう。もっとも、八代さんはそこもちゃんとわかった上で書いているのですが。

まあ、それは本ブログでも繰り返し述べてきたところです。ここではこれくらいにしておきます。

いささか枝葉末節的ではありますが、本エントリで指摘しておくべきは、八代さんのかなり大きな勘違いです。56ページですが、

・・・労働審判の事例を集めた濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』(日本経済新聞社、2011年)では、中小企業において解雇はわずかな補償金で容易な例が多いことが示されている。・・・

いや、中小企業の解雇事例を分析したのは、『日本の雇用と労働法』(日経文庫)ではなくて『日本の雇用終了』(JILPT)ですし、その事例は(裁判所の)労働審判ではなくて、労働局のあっせん事案です。

労働審判を分析したのは東大社研で、解決金は平均約100万円。対してあっせんでは20万円足らずでして、この点は増刷の際に訂正していただけるとありがたいです。

濱口桂一郎氏の新著「若者と労働」は,未来への処方箋を与えてくれる@特定社労士しのづか

51wzbmhka5l__sx230_福岡の特定社労士篠塚祐二さんは、労働者側に立って活動する社労士として有名ですが、今まで拙著を何回もそのブログ上で書評していただいてきています。今回も、先週出たばかりの拙著『若者と労働』(中公新書ラクレ)に対して、心のこもった熱い書評を寄せて頂いています。

http://sr-partners.net/archives/51908097.html(濱口桂一郎氏の新著「若者と労働」は,未来への処方箋を与えてくれる)

日本では,小職の若いころには新規に高校や大学を出て仕事に就くことを「就職」ではなく「就社」だと言っていたが,濱口氏は「入社」という言葉の方が現実の感覚に近いと述べておられる。まさに会社へ入ってメンバーの一員となる,つまり「社員」になることだからである。

メ ンバーになるには,定年までの長い年数を仲間として付き合うわけだから,採用試験は地頭と人間力にチェックが入る。その曖昧な人間力「就活」によって,就 活学生は自分を捨て企業に合わせなければならないとの強迫観念が生まれ,自己否定あるいは「洗脳」されて自分を見失う者が多い実態は,今野晴貴氏の著書を引用しておられ,わかりやすい。

「入社」した企業では「仕事」に人がはりつくのではなく,「人」に仕事がはりつけられる。「人」に何がで きるかよりも,企業が人に何をさせるかで決まる。つまり,「人」が入社すれば,どの部署でどのような職種で働くかは全て企業側に選択権がある。新しい仕事を担当するスキルがなければ社内教育訓練でスキルアップが図られる。そこには「人」の意思はあまり関係がない。・・・

という感じで、拙著の内容を適宜要約していき、後半に入っても、

・・・濱口氏によれば,「見返り型滅私奉公」に特徴付けられるメンバーシップ型社会では,労働基準法など労働法を下手に勉強しないこと,労働基準法にはこう書いてありますなどと会社に文句を言う馬鹿は真っ当な正社員になれなかった。「そういう労働者側の権利抑制をいいことに,「見返りのない滅私奉公」を押し付ける」のがブラック企業なのだという。氏の切り方は実に痛快そのものである。一刀両断とはこのことだ。

・・・「自分の職務を大事にしたい,自分の時間を大事にしたい,自分の住む場所を大事にしたいと考える正社員が,ジョブ型正社員(限定正社員)」を自由に選べるようにならなければならないと述べられている箇所に,小職は激しく共感する。

と、大変熱く、熱く、共感を寄せて頂いております。

万人にお勧めしたい一冊である。

ありがとうございます。

2013年8月18日 (日)

『資本主義の新たな精神』雑感

97913日(火)に頂いたボルタンスキー&シャペロ『資本主義の新たな精神』(上)(下)(ナカニシヤ出版)をようやく読み終わりました。上下巻併せて800ページを超え、お値段も1万円を超える大冊というだけでなく、中身もたっぷり詰まっています。

http://www.nakanishiya.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=979

その大冊をひと言で要約することなどできないので、私の関心に惹き付けて偏った言い方になりますが、フォーディズム的な「資本主義の第2の精神」に対する画一的だとか非人間的だとか言った芸術家的批判、フランス風には「1968年的」批判というか、ドゥルーズがどうしたというような現代フランス哲学風の批判が、うまいこと資本主義の側に取り入れられて、ヒエラルキー的じゃなくて自律的な、プロジェクト的、ネットワーク的な「資本主義の第3の精神」が作り上げられ、昔ながらの社会的批判を古くさく見えるものにしてしまった・・・というストーリーでしょうか。

988_2これはフランスの特殊性ですが、最大労組のCGTが共産党系だったことから、80年代の共産主義の壊滅の影響で社会的批判が力を失ったとか、2番目の労組のCFDT(ちなみに翻訳中でキリスト教系と書いてあるのは間違い。キリスト教系はCFTCです)がまさに「1968年」風の芸術家的「労働者自主管理」路線に熱を上げていたら、それが資本主義にうまいこと利用された・・・みたいな話も、日本の文脈と微妙に似たところと微妙に違うところがあっていろいろと面白いですね。

第1章の90年代のマネジメント言説の内容分析は、それ自体も面白いのですが、日本での「知的ビジネスマンはこれを読め」的な膨大なマネジメント言説とその方向性の共通しているところと、その立脚点の違いっぷりがまたなんとも興味深いです。

90年代になって社会的批判が復活してくるけれど、それはマクロ的資本主義批判ではなくミクロ的な社会的排除への問題意識になっていたというのも、十年以上遅れて日本で再現されたわけですね。

(追記)

https://twitter.com/eiji_kawano/status/369289958315417601

もう読んでいただいたのか、早い… ちなみに、間違いと指摘された件ですが、CFDTの前身がCFTCで、もともとはキリスト教系でありました。

そうなんですが、も少し細かくいうと、キリスト教系だったCFTCが脱キリスト教化してCFDTになったときに、やっぱりキリスト教系がいいといって分離していったのが、現在のCFTC。

だから、p248のCFDTのかっこ内解説(「フランス民主主義労働同盟。フランスのキリスト教系労働組合の連合体。」)というのはやはり正しいとは言えない。これにつづいて「・・・だったCFTCが改名した組織。なお現在のCFTCはこれから分離独立した組織」と書けば正しいけれど。

ま、枝葉末節ですみません。

(為参考)

本書を読む上で参考になるかも知れないフランスにおける労働者参加(や労働者自主管理)の動向をごく簡単にまとめたものがこちらになります。

http://www.jil.go.jp/institute/rodo/2013/documents/010.pdf(『団結と参加』)

「第2章フランス」の48ページあたりから・・・

13 企業内組合権の確立25
フランスでは1884 年法以来、労働組合は企業外の存在とされ、企業内は労働組合が介入し得ない使用者の専権の場と見なされてきました。1936 年の被用者代表と1945 年の企業委員会という二つの制度はありましたが、固有の組合活動は権利としては認められていなかったのです。この状態を打破したのは、学生紛争に端を発した1968 年5 月のゼネスト(いわゆる「五月革命」)です。ドゴール大統領はパリのグルネル街にある社会省庁舎に政労使の代表を招集し、企業内組合権を明記したいわゆる「グルネル協定」が合意されました。企業内組合権の確立にもっとも熱心だったのは、1964 年にCFTC が改名したCFDT(フランス民主労働連合)でした(なお、少数派はCFTC として残存)。同労組は企業内における権力の要求、言い換えれば労働者自主管理路線を掲げ、これがゼネストを機に現実化したわけです。同時にこれはドゴールの労働者参加思想ともつながるものでもありました。上記レネ著も企業内組合権の確立を唱えていたのです。・・・

14 オルー法28
1981 年に政権に就いた社会党のミッテラン政権は、オルー労働大臣の「労働者の権利」と題するいわゆるオルー報告書に基づき、一連の法律やオルドナンスを成立させていきました。そのうち、1982 年8 月の企業内における労働者の自由に関する法律、同年10月の被用者代表制度の発展に関する法律、同年11 月の団体交渉及び労働争議の調整に関する法律、同年12 月の安全衛生労働条件委員会に関する法律の4 つをオルー法と呼んでいます。
8 月法は就業規則の制定を義務づけるとともに、その内容を職場規律、安全衛生及び懲戒処分に限定し、その手続も規制していますが、もっとも注目されるのは労働者の「直接的かつ集団的な意見表示権」を定めた点です。これはCFDT が熱心に主張していたもので、労働組合や各種被用者代表制度を通じることなく、作業内容や作業編成、労働条件改善策について発言することができるというものです。これにはFO が労働者が経営に統合されるおそれがあるとして反対しているなど、労組間の立場の違いが露呈しています。・・・

Les problèmes spécifiques du système de l’emploi japonais

日本情報多言語発信サイト「nippon.com」にわたくしが寄稿した文章が、徐々に多言語されてきております。

まず6月21日に日本語で、

http://www.nippon.com/ja/currents/d00088/(「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム)

が掲載された後、7月24日に英語で

http://www.nippon.com/en/currents/d00088/(Addressing the Problems with Japan’s Peculiar Employment System)

が載り、さらに8月1日には中国語で、

http://www.nippon.com/hk/currents/d00088/(「限定型正式雇員」和日本式僱用體系)

がアップされています。

そして8月14日にはフランス語版の

http://www.nippon.com/fr/currents/d00088/(Les problèmes spécifiques du  système de l’emploi japonais)

もアップされました。

小見出しを各国語で並べて比較するとなかなか面白いです。

日本の正社員は「メンバーシップ型」
日本公司的正式雇員是「會員制」型
A “Membership-Based” Model of Regular Employment
Le système de l’« emploi fondé sur l’adhésion »

1990年代以降、非正規労働者が急増
90年代以後,非正式勞動者激增
The Sharp Rise in Nonregular Employment
La multiplication rapide des emplois précaires

積極的に拡大すべき「ジョブ型正社員」だが…
應積極擴大「限定型正式雇員」群體
From Membership-Based to Job-Based Employee Status
De l’« emploi à vie fondé sur l’adhésion » à l’« emploi basé sur le poste de travail »

メンバーシップ型は「ブラック企業」問題の根源
「會員制」型是「血汗工廠」問題的根源
The Membership-Based Model Allows Abuses by “Black Companies”
Le modèle de l’emploi à vie et les emplois de misère

ふむふむ、「メンバーシップ型雇用」は「emploi fondé sur l’adhésion」なんですね。

2013年8月14日 (水)

『若者と労働』書評いくつか

51wzbmhka5l__sx230_新刊の拙著『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)に対して、早速いくつかのブログ等で書評を頂いております。心よりお礼を申し上げます。

まず、田中萬年さんの「職業訓練雑感」

http://d.hatena.ne.jp/t1mannen/20130811/1376182861

未だ拾い読みしかしていませんが、濱口さんが「かなり読みやすいものになった」と記しているように、理解がスムーズである。

・・・私も労働問題について素人なりの整理をし、何となく理解していた事が明解に説明されていて、あながち間違いで無かったことに安堵することができた。

・・・上のように本書は職業訓練問題とも深く関わった解説となっており、職業訓練関係者が知っておくべき労働問題書として参考になると思われる。

次に、労働弁護士の水口洋介さんの「夜明け前の独り言」

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/08/post-7dc8.html

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」をキイワードとして、日本の若者の雇用問題を鮮やかに解説されています。特に、欧米のジョブ型労働社会を若者の「就職」の視点から詳細に紹介し、日本の若者の「入社」との差異が詳述されています。

・・・若者の雇用という視点から、労働社会の在り方を、広く深く検討する好著です。

水口さんとしては、やはり「処方箋」のジョブ型正社員が気になるところでしょう。

・・・ただ、「ジョブ型」と呼ぶのは、私にはしっくりきません。欧米のように「ジョブ」が社会化されていないにもかかわらず、敢えてジョブ型と呼ぶ必要があるでしょうか。

最後に、アマゾンのカスタマーレビューに、Tomさんが長めのレビューを書き込まれています。

http://www.amazon.co.jp/dp/4121504658

刊行前にウェブで見たまえがきや目次から、実はこれこそ今から社会へ出る学生さんを中心とした若い人々に、「雇用されて働くこととはどういうことか」、「個人と企業組織の関係」についてぜひとも読んでほしいと思っていました。ところが実際に読んでみて、これは企業の人事部門の人々や、感情論的あるいは情緒的視点から評論する一部の学者などにじっくり読んでほしいものだと思いました。

・・・優しい語り口で書かれていますから、学生さんなど若い方々にとっても素晴らしいテキストです。社会へ出て仕事に就くということは大変なことなのだと認識できると思います。本来ならば、この本の内容も交えた労働法教育を大学3年次の時に、教員や行政マンなど総動員して教えるべきと考えますが、そのような姿が実現していない中、濱口先生の本をテキストにしてぜひ勉強してほしいと思います。


綿野恵太氏の濱口桂一郎批判@『atプラス』17号

9784778313814太田出版の『atプラス』17号に、綿野恵太氏が「新自由主義者の労働論――ユニクロ、ドラッカー、ブラック企業」という論文を書かれていて、これ自体が大変興味深い内容ですが、本筋に入る前に、その中で濱口桂一郎に対する批判がされているので、ご紹介しておきます。

http://www.ohtabooks.com/publish/2013/08/08153042.html

・・・いま現在では「同一労働同一賃金」は「日本型正規雇用」を解体するための合い言葉となっている。繰り返すが、「連帯」ではなく「競争」を導く言葉として。これを新自由主義者が言うのは論理的に理解できるとしても、問題は「資本を持たない企業家」の味方を自認する人までがそう言っていることである。たとえば、その無自覚な論者の一人に濱口桂一郎が挙げられるだろう。濱口はEU的な福祉国家をモデルにし、社会福祉制度の充実を目指した後、「同一労働同一賃金」である「ジョブ型」への移行を唱えており、もちろん新自由主義者ではない。しかし、正規雇用の待遇を非正規の水準に合わせるべきと「同一労働同一賃金」の徹底を新自由主義の立場から唱えている八代尚宏の発言にも「一定の合理性」があるとも述べている.つまり、新自由主義者との違いはつまるところ、福祉の拡充を重視するか否かでしかないだろう。

そして、濱口によれば、そのような雇用形態の改革は、非正規労働者も含めた労働組合の組織化による、上からではなく下からの「産業民主主義」によって担われるというのだから、あきれるほかない。ここでは、労働組合は市民社会における中間団体でしかなく、フーコーが市民社会について18世紀末に現れた「自由主義的統治テクノロジーの総体の一部」と述べていたことを想起しなくても、濱口が目指す最終的な着地点が「労使協調」以外にあり得ず、なぜ資本主義自体は全く問題視されないのか、労働者と雇用者が対等に話し合える「民主主義」などそもそもあり得たのか、とだけ問えばよい。濱口の提案は、非正規労働者の社会的不遇の解決を意図しているが、なぜ正規・非正規という「資本を持たない企業家」同士で少ないパイを争わねばならないのか。たとえその争いを、話し合いによる「民主主義」なる語で糊塗したとしても、そのような下からの「民主主義」など、「同一労働同一賃金」を目指す新自由主義者に早晩骨抜きにされるだろう。・・・

というわけで、ある一つの立場からの批判としては極めて筋が通っており、

https://twitter.com/train_du_soir/status/367220084231512065

atプラス最新号の綿野論文、「新自由主義」批判についての賛否は兎も角として、引用された批評それぞれについての見通しが良く、この手の批判の「原点」がどの辺りにあるかを分かり易くしてくれる優れ物。(ただし、市場経済に代わり得る代替物がどの様なものなのかは分からない。)

https://twitter.com/train_du_soir/status/367220220709982209

濱口桂一郎氏に対する手厳しい批判もあるが、こうした視点からはあり得べき批判であり、理解そのものに問題があるようには見えない。

という評価に同感です。では非正規労働者をどうするの?という問いに対する答えは「資本主義自体」をどうにかするしかなく、それまではお預けという処方箋が納得してもらえるかですが、それはそういう立場であるわけですから。

ただむしろ、本論文で綿野氏がやや無自覚的に摘出しているのは、戦後日本型雇用システム、あるいはむしろ戦後日本型雇用のイデオロギーが、ピーター・ドラッカーの思想の、(その本国における非実現と対照的な)異国の地における実現であったことでしょう。

実際、出発点はカール・ポランニーと同様、資本主義の「悪魔の挽き臼」からの脱出口がナチスのような全体主義とならないためにはどうするべきか?というところにあったドラッカーが、『経済人の終わり』『産業人の未来』『企業の概念』といった初期の著作で徐々に構築していったのが、資本主義の中核であるはずの企業を資本主義の悪魔の挽き臼からの防波堤にするというアクロバティックな発想であり、それを忠実に実現したのが日本型雇用システムであったと言えるからです。

なぜ本国では実現しなかったのか?皮肉な言い方をすれば、労働者自身がまさに労働力の売り手としての資本主義的精神に基づいてあくまでも対峙しつづけ、その買い手に過ぎない企業を市場原理からの防波堤として自らの身を投げ出すという脱商品化に踏み切れなかったからでしょう。

企業内労働力脱商品化を通じた社会的超商品化という理想像の実現を阻んだのは、まさに悪魔の挽き臼で商品化された労働者の資本主義的精神であったという皮肉は、その企業内脱商品化への批判に焦点を当てた日本型雇用システム批判がしかしそれを成り立たせるべき労働者の「労働力販売者精神」を昂揚させるどころか、むしろますますドラッカー的な「社長島耕作になったつもりの係員島耕作」の称揚をもたらしているという今日の皮肉と好対照をなしているとも言えるでしょう。

ドラッカーを否定するにドラッカーをもってする今日の日本の精神状況を、その引用文の羅列は見事に映し出しているのですが、綿野氏の文章自体は必ずしもそれに自覚的でもなさそうに見えるのが、二重の意味で皮肉なところではあります。

2013年8月13日 (火)

『賃金事情』8月5/20日号

1281680137_o産労総研の『賃金事情』8月5/20日号に、最近おなじみの溝上憲文さんのインタビューによる「日本の雇用の行方を考える」という記事が載っています。

http://www.e-sanro.net/sri/books/chinginjijyou/a_contents/a_2013_08_05_20_P01_P03.pdf

インタビュイーはわたくし、山田久、鴨田哲郎の3人です。

私の発言は、例によってジョブ型正社員に関わる話が中心ですが、最近の裁量労働制の動きに絡んで、「残業代ゼロが問題じゃなくて、休息時間が問題だろ」という話もしています。

『若者と労働』在庫が入りました

拙著をお送りした方から、

・・・いまや手に入らない貴重な本を早く読めるなんてうれしい限りです。

なんて皮肉な礼状メールをいただいてしまいましたが、本日amazonに在庫が入ったようです。

http://www.amazon.co.jp/dp/4121504658

一方、中古品はなんと5点、依然として2千円以上の値段を付けてますな。信じらんない。

さて、早速カスタマーレビューも出ています。 「zigeunerweisen」さんという方。

間もなく企業の職を得ることになるであろう学生諸君はもとより、広く雇用問題に関心をお持ちのビジネスパースンに推奨します。雇用問題の法的側面に加え、労働者が直面する現実とその矛盾点etc.が要領よく整理されています。濱口氏は、労働法と労働政策がご専門のようですが、語りの才能にも秀でた方だと常々感心します。

ちなみに、常見陽平さんも言われるとおり、

https://twitter.com/yoheitsunemi/status/366900103816019968

濱口桂一郎先生の『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)が良すぎ。実にわかりやすくかつ丁寧に日本の雇用・労働の事実を整理。編集者もすげえ。新しい働き方だとか、就活だめだとか言うまえにこれで前提をそろえるべき

編集者の功績も大きいです。

(追記)

POSSEの今野晴貴さんにもコメント頂きました。

https://twitter.com/konno_haruki

濱口桂一郎『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)をようやく事務所で入手。濱口氏らしく、雇用の仕組みが圧倒的に体系的に描かれている。今回は「ラクレ」だけあって、丁寧に作りこまれ、「入門書」として完成している印象。

濱口桂一郎氏の新著『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)では、最新情勢にもキャッチアップし、ブラック企業の解説も行っている。そこでは私の『ブラック企業』やPOSSEの取り組みの分析に生かしていただいている。

第6章では、今野さんの『ブラック企業』をかなりたくさん使わせて頂いております。

黑色企業大獎

台湾の新聞だと思いますが、頭條日報という新聞のネット上の記事が、例のブラック企業大賞を取り上げていますが、こちらではそのまま直訳して「黑色企業」と言ってますね。

http://news.hkheadline.com/dailynews/content_in/2013/08/13/250051.asp(和民工作環境惡劣 獲「黑色企業」大獎)

在日本,通常將加班過度、職場騷擾、人才用而棄之等勞工環境惡劣的企業統稱為「黑色企業」,一個名為「黑色企業大獎運營委員會」的組織,前日舉行「二○一三年度黑色企業大獎」,今年獲黑色企業大獎為和民(Watami)食品集團。該集團在本港總共有十六間分店。

        「黑色企業大獎運營委員會」去年開始舉辦評選大賽,評選方法主要是在網上進行意見募集,由網友們投票選舉。「得獎」的和民食品集團,主要經營居酒屋,而被選為黑色企業,一大原因是○八年一名二十六歲的女員工,一個月加班一百四十一小時,入社兩個月後由於過度疲勞自殺。但和民並不承認該公司負有責任,社長渡邊美樹也拒絕與死者家屬見面。・・・

記事の最後のところに、取材を受けたわけではないのですが、なぜか私の名前が出てきます。

隨日本黑色企業數量不斷增多,日本勞動政策研究所研究員濱口桂一郎指,「黑色企業」一詞最初在網絡出現,逐漸被社會廣泛使用,剛好與日本的僱傭體制出現崩壞,正好合。

ボルタンスキー&シャペロ『資本主義の新たな精神』(上)(下)

979ナカニシヤ出版の酒井さんより、リュック・ボルタンスキー、エヴ・シャペロ著 三浦直希・海老塚明・川野英二・白鳥義彦・須田文明・立見淳哉訳『資本主義の新たな精神』(上)(下)をお送り頂きました。上下巻併せて800ページを超え、お値段も1万円を超える大冊です。ありがとうございます。

http://www.nakanishiya.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=979

ネオリベラリズムの核心に迫り、「批判」の再生を構想する
ボルタンスキーの主著、待望の完訳!


雇用の不安定化と新たな貧困、社会的排除に象徴される現代の困難な状況はいかにして生じたのか。
かつてあれほどまでに高まった資本主義に対する批判は、なぜその力を失ってしまったのか。
資本主義を支える「精神」と、それが「批判」を吸収し変容していく過程を、
マネージメント文献の詳細な調査をもとに明らかにし、
資本主義が引き起こす破壊に立ち向かうための「批判」の再生を構想する、
フランス社会学の泰斗リュック・ボルタンスキーの主著、待望の完訳。

上巻では、60年代から70年代の批判を吸収した「資本主義の新たな精神」の形成過程を明らかにし、
それが労働の場面でもたらす破壊的影響について論じる。

988_2実を言うと、この本の英訳『The new spirit of capitalism』(グレゴリー・エリオット訳)をJILPT図書館で見つけ、ぱらぱらめくって、すげぇ面白そう・・・と思いながら、こんなの読み出した日には他の仕事ができなくなってしまうと思って、気がつかなかったことにしてそのままさりげなく本棚に戻したてなことがありました。欧文は日本語より時間消費的なので、EU、OECD、ILOなどの実務的政策文書以外は原則として読まないようにしています。

それが邦訳として送られてきたのは、これはじっくりと腰を据えて読めという神様のお告げなのでありましょう。

どんな風に「すげぇ面白そう」かは、この上巻と下巻の目次を一瞥すれば共有されるはずです。

日本語版への序文
 
  謝辞

 プロローグ

 一般的序論――資本主義の精神および批判の役割について
       一 資本主義の精神
       二 資本主義とその批判

第一部 新たなイデオロギー的布置の出現

 第一章 九〇年代のマネージメントの言説
       一 資本主義の精神に関する情報源
       二 六〇年代から九〇年代にいたるマネージメントの問題設定の進化
       三 動員=可動化の形態の変化
       結論――批判に応えるものとしての新たなマネージメント

 第二章 プロジェクトによる市民体(シテ)の形成
       一 プロジェクトによる市民体
       二 プロジェクトによる市民体の独自性
       三 ネットワーク型表象の一般化
       結論――資本主義の新たな精神が道徳の面にもたらした変化

第二部 資本主義の変容と批判の武装解除

 第三章 一九六八年、資本主義の危機と再生
       一 批判の時代
       二 批判に対する反応と応答
       結論――資本主義の刷新における批判の役割

 第四章 労働の世界の脱構築
       一 関連する変容の広がり
       二 労働の変容

補遺
 1 使用されたマネージメントのテクストの特性
 2 マネージメントの資料体の原典テクスト一覧
 3 マネージメントのテクストの包括的な統計的印象
 4 二つの資料体におけるさまざまな「市民体」の相関的現前

原注

訳者あとがき

索引

第二部 資本主義の変容と批判の武装解除(承前)

 第五章 労働の世界における防衛手段の弱体化

       一 組合離れ
       二 社会階級の疑問視
       三 確立された試練に対する移動の成果
       結論――批判の終焉?

第三部 資本主義の新たな精神と批判の新たな形態
    
 第六章 社会的批判の再生

       一 社会的批判の覚醒――排除から搾取へ
       二 結合主義的正義の諸装置に向けて?
       結論――権利の場所

 第七章 芸術家的批判の試練
       一 不安の顕在化
       二 いかなる解放か
       三 いかなる真正性か
       四 非真正性批判の無力化とその妨害効果
       結論――芸術家的批判の再活性化?

 結論  批判の力
       一 変化モデルの公理系
       二 資本主義の精神の変化の諸段階

 追記  運命論に抗う社会学

原注

参考文献 

訳者解説

索引



2013年8月12日 (月)

ダンダリン・労働基準監督官@日テレ

N0055488_l労働基準監督官が主人公のマンガ「ダンダリン」が、竹内結子主演でテレビドラマ化されるそうです。

http://www.cinematoday.jp/page/N0055488

女優の竹内結子が、10月にスタートする日本テレビの新ドラマ「ダンダリン・労働基準監督官」で同局の連続ドラマ初主演を務めることが明らかになった。本作は、「カバチタレ!」などで知られる田島隆(とんたにたかし)原作のコミック「ダンダリン一〇一」を基に、労働者の保護を職務とする労働基準監督官の姿を描いた作品。竹内は12年ぶりに長い髪をバッサリとカットし、ブラック企業に立ち向かう主人公・段田凛を演じる。

ドラマ「ダンダリン・労働基準監督官」は日本テレビ系にて10月スタート 毎週水曜日午後10時放送

ちなみに、原作の段田凜の姿は・・・

Img_654433_25582298_0



2013年8月10日 (土)

『若者と労働』は在庫切れ@amazon

51wzbmhka5l__sx230_本日発売の『若者と労働』ですが、今amazonを見ると在庫切れになっているようですね。

http://www.amazon.co.jp/dp/4121504658

通常1~2か月以内に発送します。

http://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?&nodeId=915624

通常○~○か月以内に発送 配送センターに在庫がなく、仕入先から商品を取り寄せる場合。(※3)

※3:これらの表示がある場合、ごくまれに、発売中止または在庫切れとなる場合があります。商品が入荷できないことが判明した際には、Eメールでご連絡のうえ、注文をキャンセルさせていただくことがあります。

・・・そしたら早速、中古品が出品されてます。それも2,574円!ひどすぎ・・・。

本日発売の新品が927円ですからね。あまりと言えばあまりな価格・・・。

http://www.amazon.co.jp/gp/offer-listing/4121504658/ref=dp_olp_used?ie=UTF8&condition=used

新刊書店に並んでいるはずですので、是非そちらで。

「政労会見拒否」の読み方

日経新聞が「政府、政労会見を拒否 連合に伝達 」と報じていますが、

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0903J_Z00C13A8PP8000/

政府は9日までに、連合が求めていた雇用政策などを安倍晋三首相と古賀伸明会長が話し合う「政労会見」の開催を拒否する意向を連合側に伝えた。連合が参院選で政府、自民党への批判を強めたことが背景にある。政府高官は「連合とは筋道が異なる。労働者側の意見を聞く場は他にもある」と語った。古賀会長は3月の自民党の石破茂幹事長との会談で、年2回の政労会見の開催を要請した。同席した衛藤晟一首相補佐官は「検討したい」と前向きな姿勢を見せていた。

これを安倍政権が単純に連合に喧嘩を売ってると読むのはあまりにも表層的でしょう。

政労会見という二者構成ではない形でやりたいというメッセージととると、朝日の一昨日の社説の最後のところの話とつながってきます。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201308070548.html(最低賃金上げ 脱デフレへ次の一手を)

・・・デフレからの脱却には、幅広い層での賃金上昇が必要だ。人件費抑制に傾きがちな使用者側に、発想を切り替えてもらわなければならない。

そこで活用が期待されるのが成長戦略に盛られた「政・労・使が意見を述べ合い、共通認識を得るための場」である。

ここに、非正規を含む労働者側を呼び込み、全体的な賃金引き上げを軌道に乗せる.そうしてはじめて、雇用制度全般を議論するような政労使の信頼関係も築いていけるだろう。

つまり、政労使三者構成の場で、使用者側の反対を押し切ってでも政府が主導して賃金上昇をやる。今回かなり上げた最低賃金よりも上の方の、しかし春闘相場が直ちに及ばないようなレベルの労働者層に焦点を当てて。

デフレ脱却という政権の看板を裏打ちする賃金上昇を、しかも政権のイニシアチブでやるという意図が背後にあると読むと、逆にこれで何を叩こうとしているのかも読めてきます。

(参考)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo130725.html(『労基旬報』7月25日号「政労使三者構成原則を唱えているのは・・・」 )

 去る6月14日に安倍内閣がとりまとめた「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」は、広範な分野にわたって成長戦略を語っています。膨大な分量に加え、マスコミは世間の関心の高いところしか報道しないので、多くの方は認識していないと思われますが、この戦略の中に労働政策の観点から見て大変興味深い一節が盛り込まれているのです。
 それは、「第Ⅰ 総論」の「2.成長への道筋」の最後の項「(4) 成長の果実の国民の暮らしへの反映」というところにさりげなく書かれています。
「・・・特に、20 年の長きにわたる経済低迷で、企業もそこで働く人々も守りの姿勢やデフレの思考方法が身に付いてしまっている今日の状況を前向きな方向に転換していくためには、賃金交渉や労働条件交渉といった個別労使間で解決すべき問題とは別に、成長の果実の分配の在り方、企業の生産性の向上や労働移動の弾力化、少子高齢化、及び価値観の多様化が進む中での多様かつ柔軟な働き方、人材育成・人材活用の在り方などについて、長期的視点を持って大所高所から議論していくことが重要である。
 従来の政労会見や経営者団体との意見交換という形とは別に、政・労・使の三者が膝を交えて、虚心坦懐かつ建設的に意見を述べ合い、包括的な課題解決に向けた共通認識を得るための場を設定し、速やかに議論を開始する。」
 ILOの掲げる政労使三者構成原則は、およそ労働法制や労働政策について意思決定しようとするときに必ず践むべき先進諸国共通の原則であるということは、私がさまざまな場で繰り返し述べてきたところですが、連合の支持する民主党から政権を奪還したばかりの自民党政権がこういう形でその原則を宣明するというのは、やや意外な感を与えました。
 これを言い出したのは労働大臣も経験した甘利明経済再生担当相で、5月19日にNHKの番組で、賃上げ加速を狙って、政府、産業界、労働界の三者協議の場を設置する考えを明らかにしたのが出発点のようです。
 このように自民党が三者協議に積極的な姿勢を示すのと対照的に、野党に回った民主党の細野幹事長は同月26日、「政府が賃金の在り方に介入するのは社会主義的、共産主義的な手法だ。戦時中の経済統制のにおいすら漂い、ちょっと考えた方がいい」と疑問を呈したと報じられています。
 いうまでもなく、共産主義と対立する西欧、北欧の社会民主主義的政権下においてこそ、政労使三者構成原則に基づく政策形成が確立してきたのであって、連合が支持する政党の認識としてお粗末としかいいようがありません。かつて第一次安倍内閣の頃、政府の規制改革会議の一部委員が三者構成原則をやたらに攻撃して顰蹙を買ったことがありますが、第二次安倍内閣がこの問題について極めてまっとうな認識に立つようになったからといって、民主党が三者構成原則を攻撃する側に回る必要はないのではないでしょうか。

「ジョブ型正社員」をめぐる錯綜@『労働調査』

Coverpic労働調査協議会発行の『労働調査』8月号は、「「雇用制度改革」を考える」を特集していますが、

http://www.rochokyo.gr.jp/html/2013bn.html#8

特集 「雇用制度改革」を考える

1.労働規制の緩和をめぐる政府での論議経過と連合の考え方 杉山豊治(連合・雇用法制対策局長)

2.規制改革会議「雇用改革」批判 水口洋介(弁護士)

3.「ジョブ型正社員」をめぐる錯綜 濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構・客員研究員)

4.労働者の“つながり”をどのように構築するか?-デンマークからみた雇用制度改革- 菅沼隆(立教大学経済学部・教授)

5.日本的雇用慣行の功罪と雇用制度改革の方向性 山本勲(慶應義塾大学商学部・准教授)

その中で、わたくしも「「ジョブ型正社員」をめぐる錯綜」を寄稿しております。

はじめに

ジョブ型とメンバーシップ型

ジョブ型正社員の提起

規制改革会議版「ジョブ型正社員」の本音は?

ではどうする?

 以上が、ジョブ型正社員と解雇規制をめぐる現段階の状況である。理論のレベルの問題、価値判断のレベルの問題、さらには表面上の理屈と若干乖離した本音のレベルの問題とが、さまざまなアクターのさまざまな思惑の中に入り交じって、まことに錯綜しきった状態にあると言えよう。
 これに対してどうするかは、本誌を読んでいる労働組合員自身が考えるべきことである。一労働問題研究者である筆者は、上記の通りその錯綜を整理した。その上で、何かを主張するとすればそれは理論のレベルではこうであるということに尽きる。
 理屈はその通りだが政治的にはそれは正しくないというのも一つの判断であるし、それに基づいてさまざまな行動を組織展開していくことも一つの判断である。
 ただ忘れてならないのは、政府諸会議の委員の本音がこうであるから、理屈は何であれジョブ型正社員構想はたたきつぶすという(それ自体は政治的に正しいかもしれない)判断は、とりわけ多くの若い労働者たちを出口のない隘路に追いやることになるかもしれないということである。そのリスクをきちんと認識した上での政治的判断には、筆者が口を挟むつもりはない。

2013年8月 8日 (木)

玄田有史『孤立無業(SNEP)』

355773玄田有史さんの『孤立無業(SNEP)』(日経出版)をお送り頂きました.有り難うございます。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/35577/

SMAPじゃなくって、SNEPです。・・・って、本書のプロローグにも書いてあるし、東大社研のシンポジウムでも似たようなこと言ってましたね。

「ニート」に続く新しいタイプの未婚無業者=「スネップ」が急増。160万人超が社会と接点を持たず、仕事も通学もせず家族の支援で暮らす。将来どうやって生きていくのかなどについて問題提起する初の解説書。

詳しい目次は以下の通りです。

第1章 孤立無業とは

ひきこもりと無縁社会/ニートになる理由
中高年ニート問題/社会的排除
社会生活基本調査/60歳未満未婚無業者
孤立無業の定義/孤立無業162万人
増加する孤立無業/スポーツ、旅行、ボランティア
広い意味での孤立無業


第2章 誰が孤立無業になりやすいのか

男性がなりやすい孤立無業/急速に進む
若年無業者の孤立/学歴と孤立無業
治療・療養は孤立を生む?/都道府県による違い
居住地域の人口規模/世帯の所得
要介護の問題/家族と暮らす孤立無業/孤立の一般化

 
第3章 孤立無業者の日常

どうやって生活しているか/スネップと調査協力
電子メールの利用/インターネットでの情報検索・入手
孤立無業はゲーム中毒?/意外と「昭和」な孤立無業
治療・療養と孤立無業/ニートとスネップ
孤立無業と求職活動・意欲/家族という障壁
孤立は「気づき」を奪う/負のスパイラル


第4章 孤立無業の現在・過去・未来

たかが数字、されど数字/インターネットによる調査
親友の不在/めったにしない外出
起床時間と掃除片付け/孤立無業の気持ち
健康と通院/関心事と結婚願望
正社員と非正社員の経験/無業期間と孤立無業
中学時代の人間関係/貯蓄や財産
老後不安と生活保護

第5章 孤立無業に対する疑問

「孤立無業が増えると、どんな問題が起こるのでしょうか?」
「孤立無業の人たちは、過去にはあまりいなかったのでしょうか」
「孤立無業とひきこもりやニートとの違いがやっぱりわかりません」
「孤立無業に限らず『孤立就業』も多いのではないでしょうか」
「孤立無業になることも、本人の選択もしくは自由ではないでしょうか」
「孤立無業が増えているのは日本だけなのでしょうか」
「孤立無業が、また怠け者の若者の新しいレッテル貼りにならないかと、心配です。」
「孤立無業は抜け出すことができるのでしょうか」
「国や自治体は、孤立無業のために、どのような対策を行うべきですか」


第6章 孤立無業者とご家族へ
孤立無業の人たちへ
孤立無業者のご家族へ

玄田さんがスネップという概念を提示してからいろいろと反応があったようで、その反応に対する回答が第5章に書かれているのが、この本の双方向的なところでしょうか。

「スネップって言うな」という本が出る前に、「孤立無業が、また怠け者の若者の新しいレッテル貼りにならないかと、心配です。」という疑問に対する答えを用意していますね。

若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組を強化

「ブラック企業」を官庁用語に直すと、「若者の「使い捨て」が疑われる企業等」になるようですね。

本日、厚生労働省が「若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組を強化」というプレス発表をしています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000014323.html

 厚生労働省は、若者の「使い捨て」が疑われる企業等が社会で大きな問題となっていることを受けて、以下の3点を取組の柱とし、具体的な対策を行っていきます。

1 長時間労働の抑制に向けて、集中的な取組を行います。
    9月を「過重労働重点監督月間」とし、若者の「使い捨て」が疑われる企業等に対し、集中的に監督指導等を実施

2 相談にしっかり対応します。
    9月1日に全国一斉の電話相談を実施

3 職場のパワーハラスメントの予防・解決を推進します。
    一層の周知啓発の徹底

以下、具体的な取り組みが続きますが、詳細はリンク先を参照のこと。

ただし、9月1日の電話相談の番号だけは紹介しておきます。

  【フリーダイヤル】    なくしましょう ながい残業
           0120  -  794  -  713

やや苦しいような・・・。

Black

2013年8月 5日 (月)

『若者と労働』(中公新書ラクレ)ができました

Chuko本日、中央公論社編集部の谷口法子さんが、刷り上がったばかりの拙著『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)を持ってこられました。ありがとうございます。私にとっては、新書の単著としては3冊目になります。

http://www.amazon.co.jp/dp/4121504658

発行日は8月10日です。書店に並ぶまで、もうしばらくお待ちください。

ここでは、「まえがき」をアップしておきます。

 若者の労働問題は何重にもねじれた議論の中でもみくちゃになっています。

 一方には、日本の労働社会では中高年が既得権にしがみついているために若者が失業や非正規労働を強いられ、不利益を被っていると糾弾する議論があります。

 他方には、近頃の若者は正社員として就職しようとせず、いつまでもフリーターとしてぶらぶらしているのがけしからんと非難する議論があります。

 現実社会の有り様をきちんと分析することなく情緒的な議論で世の中を斬りたがる人々が多いことの現れなのでしょうが、いつまでもそのような感情論でのみ若者の労働が語られ続けること自体が、この問題をきちんと位置づけ、正しい政策対応を試みる上での障害となる危険性があります。

 本書は、今日の若者労働問題を的確に分析するために、日本型雇用システムやそれと密接に結びついた教育システムの本質についてかなり詳細な議論を展開し、それを踏まえて若者雇用問題とそれに対する政策の推移を概観し、今後に向けた処方箋の提示を行います。

 そのポイントをごくかいつまんで述べれば、まず第一に、仕事に人をはりつける欧米のジョブ型労働社会ではスキルの乏しい若者に雇用問題が集中するのに対して、人に仕事をはりつける日本のメンバーシップ型労働社会では若者雇用問題はほとんど存在しなかったこと、第二にしかし、一九九〇年代以降「正社員」の枠が縮小する中でそこから排除された若者に矛盾が集中し、彼らが年長フリーターとなりつつあった二〇〇〇年代半ばになってようやく若者雇用政策が始まったこと、第三に、近年には正社員になれた若者にもブラック企業現象という形で矛盾が拡大しつつあること、となります。

 これらは、メンバーシップ型社会の感覚を色濃く残しながら都合よく局部的にジョブ型社会の論理を持ち込むことによって、かつてのメンバーシップ型社会でも欧米のジョブ型社会でもあり得ないような矛盾が生じているものと見ることができるでしょう。

 これに対して本書が提示する処方箋は、中長期的にはジョブ型労働社会への移行を展望しつつ、当面の政策としては正社員と非正規労働者の間に「ジョブ型正社員」という第三の雇用類型を確立していくことにあります。

 分かりやすく攻撃対象を指し示すようなたぐいの議論に慣れた方には、いかにも迂遠で持って回った議論の展開に見えるかも知れませんが、今日の日本に必要なのは何よりもまず落ち着いて雇用システムや教育システムの実態をきちんと認識し、一歩一歩漸進的にシステムを改革していくことであるとすれば、本書のような議論にもそれなりの意味があるのではないかと思われます。

Lacle

<目次>

序章 若者雇用問題がなかった日本

第1章 「就職」型社会と「入社」型社会

第2章 「社員」の仕組み

第3章 「入社」のための教育システム

第4章 「入社」システムの縮小と排除された若者

第5章 若者雇用問題の「政策」化

第6章 正社員は幸せか?

第7章 若者雇用問題への「処方箋」

(追記)

ちなみに、まだ発行されていないのに、アマゾンのベストセラーランキングでは、中公新書ラクレ第2位になってますな。不思議だ・・・。

http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/2220206051/ref=pd_zg_hrsr_b_1_3_last

『新しい労働社会』第8刷

131039145988913400963本日は、岩波書店創立100周年という記念すべき日のようですが、

http://www.iwanami.co.jp/

拙著『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ』もめでたく第8刷めが出されることになったとのご連絡をいただきました。

着実にロングセラーの仲間入りをしているようで、欣快に堪えないところであります。

これもひとえに、お買い求めいただいた多くの読者の皆様のおかげと心より感謝申し上げる次第です。


2013年8月 1日 (木)

「限定型正式雇員」和日本式僱用體系

多言語発信サイト「ニッポン・ドットコム」に、6月21日付で「「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム」という記事を寄稿したこと、

http://www.nippon.com/ja/currents/d00088/(「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム)

その英訳版が7月24日付で「Addressing the Problems with Japan’s Peculiar Employment System」として掲載されたことは、本ブログで紹介しましたが、

http://www.nippon.com/en/currents/d00088/(Addressing the Problems with Japan’s Peculiar Employment System)

本日、その中国語版がアップされました。

http://www.nippon.com/hk/currents/d00088/(「限定型正式雇員」和日本式僱用體系)

http://www.nippon.com/cn/currents/d00088/(“限定型正式雇员”和日本式雇用体系)

繁體字版と简体字版があるのですね。

6月5日政府的規制改革(管制改革)會議向安倍首相提交的報告中,提出了有關完善「限定型正式雇員(指固定工作地點、時間、內容的正式員工,也稱為JOB型正式雇員——譯註)」制度的內容。作為「限定型正式雇員」提倡者之一的濱口桂一郎(勞動政策研究研修機構)將在本文中對「限定型」的意義及以往的日本式僱用體系的問題所在做一分析說明。

日本公司的正式雇員是「會員制」型

90年代以後,非正式勞動者激增

應積極擴大「限定型正式雇員」群體

「會員制」型是「血汗工廠」問題的根源

ふむ、ブラック企業は中国語で「血汗工廠」というんですね。

筆者也是「限定型正式雇員」的提倡者之一,對這種事態發展深感困惑,但依然認為從中長期觀點來看,大多數勞動者將向「限定型正式雇員」過渡。業務、工作時間及地點均不固定的「會員制」型正式雇員默認違約,是以「一人賺錢養家模式」為前提的,在那已成為過去的美好年代,成人男子的工資包含了撫養妻兒維持一家生計的費用,妻子、孩子最多就是以計時工或兼職的形式工作以補貼家用。在《男女僱用機會均等法》實施近30年的日本,難以想像這樣的模式會永遠持續下去。

如今,強行要求雇員從事長時間勞動的所謂「血汗工廠」問題,已逐漸形成為一大社會問題,其根源就在「會員制」型這個模式上。如果把「血汗工廠」定義為將原本以保障長期就業為交換條件的不固定的工作方式,在沒有任何保障的狀態下強加於年輕人的企業,那麼也可以認為,在實際縮小正式雇員名額的情況下,仍將「會員制」型作為唯一絕對的模式這種觀念,才是「血汗工廠」現象出現的最大原因。

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