フォト
2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« 「日本型雇用」の功罪めぐり海老原、濱口両氏が講演 | トップページ | 「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム@nippon.com »

2013年6月21日 (金)

医者の不養生

『労基旬報』6月25日号に「医者の不養生」を載せました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo130625.html

 今年2月12日、最高裁判所は奈良県立奈良病院事件の上告を受理しないという決定を下しました。これにより、医師の宿日直をめぐる問題に最終判断が下されたことになります。もっとも、その判断の内容は労働基準法施行当初から当然と考えられてきたことに過ぎないのですが、医療界にとっては驚天動地のものであったようなのです。

 この事案は、産婦人科の医師たちが「宿日直」という名目で王切開術実施を含む異常分娩や,分娩・新生児・異常妊娠治療その他の診療も行っていたものです。2009年4月の奈良地裁、2010年11月の大阪高裁とも、この「宿日直」勤務を労働基準法41条3号の予定する監視・断続労働の適用除外の範囲を超えるものとして、労働時間と認め、時間外割増手当の支払いを命じています。

 労働法の世界から見れば、この事案のような実態が労働基準法の監視・断続労働に該当するはずがないではないかと思われるのですが、医療の世界からはまったく別の見え方がしていたようです。医療法16条は「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない」と規定しています。医療法で宿直が義務づけられていることを前提に、労働基準法施行規則23条で宿日直は適用除外と書いてあるのを読めば、勤務の実態など関係なく宿日直といえば労働時間でなくなると思い込んできたことも理解できなくはありません。

 とはいえ、施行直後の1947年の労働基準局長通達以来、明確に宿日直の許可基準が示されているにもかかわらず、半世紀以上にもわたって医療界がそれを無視してきたことの背景には、もう少し根の深い問題もあるように思われます。それは、医療の世界では医師、看護師、各種技師といった職種によって立場が隔絶し、とりわけ医師は医療法10条によってなにがしか管理者的立場にある存在と見なされていることです。もちろん同条は「病院又は診療所の開設者は、・・・臨床研修等修了医師に・・・、これを管理させなければならない」といっているだけで、医師であれば管理職であるなどとは一言もいっていません。しかし、看護師その他に対して管理職的立場にあると思っている医師たちが、労働基準法の労働時間規制など自分たちには関わりのないことだと思い込んできた背景としてはありそうです。

 ようやくここ数年になって、医師の長時間労働が大きな社会問題として取り上げられるようになりました。厚生労働省でも労働基準局と医政局が合同で省内プロジェクトチームを設け、今年2月には報告書がまとめられています。長きにわたって放置されてきた「医者の不養生」に、ようやくメスが入れられようとしているといえましょうか。

なお、参考までに『ジュリスト』2009年11月15日号に載せた判例評釈はこちらです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/naraken.html(地方公務員たる医師の宿日直の監視断続労働性及び宅直の労働時間性--奈良県(医師時間外手当)事件)

« 「日本型雇用」の功罪めぐり海老原、濱口両氏が講演 | トップページ | 「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム@nippon.com »

コメント

>しかし、看護師その他に対して管理職的立場にあると思っている医師たちが、労働基準法の労働時間規制など自分たちには関わりのないことだと思い込んできた背景としてはありそうです。

公立病院ではしばしば組合が作られていますが、医師は管理職として対象外です。その結果、私立病院に比べて公立病院ではコメディカルがやるべき仕事が医師に押し付けられるために雑用が多く、給与も若手医師より長く勤務している看護師の方がはるかに高いといった逆転現象がみられます。こういった歴史的背景が医師の組合嫌いの感情を生み出してきた面はあると思っています。ここらへん、連合が非正規雇用の方々を包含できないが故に、「労働貴族の集まり」とみなされて世論の広範な支持を得られずに「既得権益」と見なされてしまう構造と類似していると考えています。

日経メディカルCadetto 2013 Summer p76より
(転職に関するアンケート)

>しかし、回答者の給与に関するコメントを見てみると、「事前に提示された額の半分だった」「こちらがきちんと計算しないと規定どおりの金額を払わない」「定期アルバイトの仕事で、勤務3ヵ月後に給与未払いが」といった”ブラック”病院が多数報告されている。転職の際は注意したい。

もうひとつ、ブラック病院の問題も忘れてはなりません。しかし、新自由主義の方々は競争競争といいながら、市場を公正に保つための重要な要素である供給、企業側の不正にはみてみぬふりをするんですよねえ。

hamachanさん、はじめまして。たまたまブラック企業サイト用の情報を探していたらこちらのブログに辿り着きました。

医者の不養生というと、「患者に養生を勧める医者が、自分自身は健康に注意しないこと。」なのに、今の時代は『ブラックすぎる病院のため医者が倒れる』になりそうですね。”ブラック”病院という言葉…なにかしっくりくるものがあります。

非常に参考になる内容でした。ブラック企業は中国語で「血汗工廠」…勉強になります。また、ぜひ読ませていただきます。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 医者の不養生:

« 「日本型雇用」の功罪めぐり海老原、濱口両氏が講演 | トップページ | 「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム@nippon.com »