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« 平成25年度労働基準監督官A採用試験(労働法) | トップページ | 「日本型雇用」の功罪めぐり海老原、濱口両氏が講演 »

2013年6月19日 (水)

ジョブ型雇用を目の敵にするとこういう議論を否定できない

本日の日経新聞の経済教室で、八田達夫氏が書いている中に、まっとうな労働問題関係者であればトンデモと思うような叙述がいっぱい出てきます。

・・・第2は、労働の流動性を極端に下げている日本の雇用法制である。年功序列と終身雇用の組合せという戦後日本に独特の雇用制度の下では・・・

いや、六法全書を残りくまなく見ればわかるように、日本の雇用『法制』は、いかなる意味でも年功序列も(仕事がなくてもクビにしないという意味での)終身雇用も求めていませんから。

日本の雇用「法制」は、ヨーロッパ諸国と同じようにジョブ型原理でできています。客観的に合理的な理由のない解雇はダメよと言っているだけで。

メンバーシップ型の仕組みは、企業が極端に広範な人事権と引き替えに大企業正社員向けの慣行として事実上行っているだけの話。

と、こんなイロハのイのような基本的なことから説明しなければならないのですね、それなりの経済学者に対しても。

さらにひどいのは、

・・・これは有期労働者が終身雇用労働者と比べて極めて不利に扱われているからである。すなわち、企業は、有期で5年間雇った人を終身雇用に切り替えない限り、雇い止めしなければならないという雇用法制になっているためだ。・・・

あまりにもひどい議論ですが、根本は、有期契約5年経てば欧米でごく普通のジョブ型無期雇用になるというだけのはなしを、勝手に日本の雇用『法制』は何ら求めていない終身雇用を強制していることにしてしまい、あまつさえ、それを飛躍して法律に基づいて雇い止めしなければならないなどいう議論に仕立て上げているわけです。

そして、何年反復更新しても、いつ仕事があっても雇い止めされるかもわからないという無権利状態に未来永劫有期労働者を置き続けることが、あたかも有期労働者のためであるかのようなどや顔で語るわけです。

とはいえ、

彼がこういう思い込みの議論を展開する理由もないわけではないのですね。

なぜなら、ここで八田氏が間違って理解しているように、有期5年でジョブ型の欧米ではごくごく普通の本来の無期契約になるという理解に対して、無限定型メンバーシップ感覚を金科玉条にして非難攻撃してやまない人々が(特に一部左翼方面に)おられるからで、そういう人々の声の大きな姿を見れば、八田氏やそれに類する人々は自分の誤解をますます正しかったと認識し、上で引用したような議論をますます声高に展開していくことになるでしょう。

そういう意味では、ジョブ型正社員を攻撃する人々と、八田氏のような人々とは、価値判断の符号の向きが逆なだけで、無限定型正社員と無権利的非正規の二元論という、ほぼ同じような認識枠組に立脚して、ジョブ型無期雇用を否定するという点において、見事に共通していると言うこともできるかもしれません。

まあ、最近吹き上がっておられる方々のように、ジョブ型雇用を目の敵にするとこういう八田氏のような議論を理論的に否定できなくなるということだけは確かなようです

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コメント

日経といえば、私の履歴書で人材派遣会社の創設者が連載していますね。オイルショック後の日本が減量経営に傾き、労働者派遣法をすり抜ける手口をうまく編み出していく過程が、当事者によって語られていて苦笑い。どうもこの数ヶ月日経は女性の社会進出を持ち上げまくりで裏を勘ぐりたくなります。少子化で労働人口が減るから女も社会で働いてたっぷり納税しろ!が本音なのかなー、と。

新聞やネットニュースでは相変わらず「解雇規制改革」となっていますね。どこまでも「解雇しやすくする」というようにもって行きたいような。
「労働契約改革」の方がいいのではないでしょうか(もちろんジョブ型にしていこうという意味で)。

八田氏の教科書(ミクロ経済学Ⅰ・Ⅱ 東洋経済新報社)は具体例が豊富でとても評判が良いようだが、日本の制度への理解のための認知が歪んでいるとすれば、どうしようもなく、結局、経済学者の倫理と規範って何なの?という問題につきあたるのであろうか?
八田氏の教科書に、経済学者の倫理と規範という話はミクロ経済学の確立した方法論が当然前提なので、特に記述はないようだが。

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