JILPT報告書 on 多様な正社員、派遣労働者、勤務間インターバル
JILPT(労働政策研究・研修機構)の報告書が続けざまに出ていますので、まとめて紹介します。
まずは、西村純さんが中心になってまとめた『「多様な正社員」の人事管理に関する研究』です。今まさに政策の焦点になりつつある話題ですが、企業現場の綿密な調査に基づいて見事な研究成果になっています。
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0158.htm
主な事実発見という欄がそれだけで膨大なので、そのうちのはじめの方の一節だけを引用しておきます。
限定正社員の働き方の自己評価は、働き方に限定のない正社員のそれと比べて、必ずしも低くなく、限定正社員の労働条件が働き方に限定のない正社員の労働条件より低いとしても、働き方に限定があることによりその「低さ」が相殺されていることが示唆された。そして、非正社員から限定正社員への登用が行われていない事業所に限定するならば、職種に限定があることによるメリット、勤務地に限定があることによるメリットが確認された。
具体的には、勤務地限定正社員の「現在の生活全体」に対する満足度が、他の社員区分(限定のない正社員、非正社員からの登用が行われている事業所に勤務する勤務地限定正社員、非正社員)と比べて高くなっている。職種限定正社員についても、「仕事の内容・やりがい」について同様の傾向が見られた。これらから、非正社員から限定正社員への登用が行われていない事業所に限定するならば、限定正社員区分は、多様な働き方を実現していると結論づけられる。
次に、こちらは派遣研究の女王小野晶子さんを中心とした『派遣労働の働き方とキャリアの実態』です。
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0160.htm
こちらは「政策的インプリケーション」から:
1.非正規雇用で初職をスタートさせた若年者に対するキャリア形成の手段として、派遣労働を踏み石として正社員へと転換させていく方策が必要である。
2.派遣先企業に対して派遣労働者の育成を推進させる方策が必要:派遣労働者のキャリア形成には派遣先でのOJTが有効であり、就業意欲を向上させる手段としても能力開発視点を派遣先の職場に持ってもらう必要がある。
3.派遣労働者の処遇向上には、派遣元や派遣先との賃金交渉を積極的に行う行動が求められる。一方で、職務遂行や難易度を評価し、段階的な賃金を構築することが必要である。
4.現在は正社員転換の形態として、引き抜きが多くを占めるが、事前に正社員転換の要件、それまでの期間等を伝え、適正な働き方が担保される必要がある。
5.非正規労働の政策課題では、調査分析も含め、自発的、非自発的就業を必ず峻別して政策議論を進める必要がある。
そして、池添さんを中心とした労働時間に関する報告(資料シリーズ)として『労働時間に関する企業等ヒアリング調査―裁量労働制、勤務間インターバル制を中心に―』が出ています。
http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2013/13-120.htm
勤務間インターバルに関するまとまった調査としてははじめてではないでしょうか。
制度導入の経緯として、
長時間労働の傾向のある企業が、その削減の一環として導入している場合が多いようである。しかし、裁量労働制を導入している企業では、相容れないとして導入(適用)していない企業もある。運輸系企業では、改善基準告示に対応するため導入しいている。食品サービス業では、労働環境改善等に資するとの考えから導入している。医療業では、看護師の長時間労働削減とともに、夜勤時間の短縮、医療現場での事故防止等も含めシフトの組み方の工夫を通じて勤務間隔を空けていた。シフト体制を組む建設現場作業員については、作業員の長時間労働、またそのための疲弊感が強く、安全面での問題があるため、導入している。
と指摘されています。
このほかにも、今日的な政策課題に応える研究成果が載っていますので、是非JILPTのサイトを覗いてみてください。
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コメント
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「派遣労働の働き方とキャリアの実態」の6章を見ました。
表8の係数の効き方をみると、50代以上で派遣として働いている人は正社員になれる可能性を見出しているのにそれより若いと見出してないようですね。
「せやな」
と言う感じではあります。
さて、「会社側から見た『派遣社員を正社員に登用するインセンティブ』というのがこのドキュメントから見えないのですが、どう構築していきますかねぇ。
投稿: Dursan | 2013年6月 6日 (木) 05時53分