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2013年6月

オーラルヒストリー「新時代の日本的経営」

労働関係オーラルヒストリーの一環として、日経連関係者のオーラルが慶應義塾の産業研究所から出ていますが、今回あの有名な「新時代の日本的経営」に関わった方々のオーラルをお送りいただきました。「能力主義管理」のオーラル、職務分析センターのオーラルに引き続く第3弾ということになります。

「新時代の日本的経営」といえば、この図であまりにも有名ですが、

Nikkeiren

こういう絵柄になった秘話も語られています。

登場する方々は:

小柳勝二郎さん(当時、賃金部長)

福岡道生さん(当時、専務理事)

荒川春さん(当時、労務管理部長)

樋渡智子さん(当時、賃金部課長代理)

成瀬健生さん(当時、常務理事)

鈴木不二一さん(当時、連合総研研究員)

鈴木さんはカウンターパートからどう見えていたか、というお話です。

思えば「新日プロ」(「新日本プロレス」じゃなくて「新時代の日本的経営プロジェクト」)発足から20年。ついこの間のようでありながら、少しずつ歴史の領域になりつつある時代ですね。

2004年に新設の東大公共政策大学院で労働法政策の授業を始めたときには、90年代半ばの動きというのはまだまだとても生々しい現代の話だったのですが、講義10年目の今では、聞いている学生さんたちにとってまだ幼い頃の話という感じになってきていて、時代の流れの速さを感じますが、こういうオーラルがまとめられるようになったのだな、という感慨しきりです。

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『POSSE』19号

1678c24ea3858defe236cde1665ef0d9『POSSE』19号をお送りいただきました。まだPOSSEのサイトにも出版社のサイトにも上がっていないようですが、フラゲというわけではありません。

特集は「ブラック企業の共犯者たち」で、児美川孝一郎さん、居郷至伸さんはじめ、キャリアセンターの職員さん、ユニオンの方、いい社労士の方々、麓幸子さんなど豪華なラインナップです。

巻頭特集は「アベノミクスは雇用を救うのか」で、吉川洋さんへのインタビューを筆頭に、まっとうなリフレ派から松尾匡さん、反リフレ派から小西一雄さんが登場。

それに続くのは「各政党に聞くブラック企業政策」ですが、興味深いのは各党の限定正社員に対する考え方です。

・自由民主党(園浦健太郎):

-限定正社員とかの議論はいかがですか。

 あれはやらないといけません。例えば育児休業や産休制度がここまで整備されているのに、女の人が日本で第一子の出産を機に辞めてしまう率は6割です。せっかく5年、10年キャリアを積み上げてきた人が結婚、出産を機に辞めてしまって戻ってこないのは社会的に大きな損失なわけです。・・・

・民主党(山井和則):

-現政権の雇用政策をどう思いますか

 ・・・限定正社員という名のもとに解雇しやすい正社員を増やしていくというものです。

・公明党(谷合正明):

・・・また、勤務地限定や短時間正社員、ジョブ型と言われますが、そのような多様な働き方の提言もしております。限定正社員に関して、正社員から第2正社員へダウングレードするのではとの組合員の反発の声もあります。しかし、問題意識としては、年功序列、終身雇用といった昭和型の労働法制、労働慣行はもう通用しないじゃないか、と。質の良い多様な働き方を増やしていかないといけないと考えています。

・生活の党(三宅雪子):

・日本共産党(小池晃):

・・・規制改革会議は「限定正社員制度」の導入を検討しており、正社員の首切りも容易にしようとしています。

・社会民主党(福島瑞穂):

-限定正社員についてはいかがですか。

 限定正社員ということについては、最初から否定ではないんですよ。・・・全員を終身雇用、年功序列賃金に戻せばいい、という話ではないですよね。ただ、必ず限定であることで不利にならないようにしなければならない。・・・

日本未来の党(阿部知子):

解雇規制については、安藤至大さんと佐々木亮さんのインタビューですが、このうち安藤さんの語っていることは、あまりにもまともな労働法の基本原則に則った議論過ぎて、そういう議論がほかにあまりないことが悲しくなるくらいです。

ほぼ同じことが、こちらでも語られています。

http://diamond.jp/articles/-/37951(なぜ「解雇規制の緩和」は不要か “できる解雇”と“できない解雇”の視点から考える)

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限定正社員は企業も我慢@朝日記者有論

本日の朝日新聞の「記者有論」というコラムで、沢路毅彦さんが「限定正社員『企業も我慢』忘れないで」を書いています。

表層的な議論ばかりがはびこる昨今、大変貴重な記事です。

最後のところで、私の発言が引用されています。

・・・限定正社員は「企業と労働者がお互いに我慢をして契約を守る制度」(濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構統括研究員)だ。今後は厚生労働省の有識者会議が限定正社員のルールを話し合う。「企業も我慢」という理解が広がるような成果を出して欲しい。

「企業も我慢」を忘れて好き勝手に解雇したいという議論と、「企業も我慢」を忘れて解雇されるから絶対反対という議論ばかりが空中戦をしている状態は不毛だという認識が、こういうコラムを通じて少しでも広がればと思います。

その意味では、表層的なマスコミ報道の欠片に反応する形で、

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2013/06/post-563.php(「限定正社員」構想の議論、欧米では一般的だというのは大ウソ)

参考:http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-5f42.html(ジョブ型正社員が(貴様ぁ)解雇しやすいなんてのは大嘘)

という記事を書いた冷泉彰彦さんが、今回

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2013/06/post-569.php(「ジョブ型雇用」が成立するための3つの条件とは?)

というまことに冷静かつ本質的な記事を書かれていることは、表層的な議論は一次的には受けても長続きするものではないということをよく示しているように思われます。

・・・3番目は、この「ジョブ型雇用」を通じて「ワーク・ライフ・バランス」が成立するように、また解雇権が乱用されたり、差別的な採用がされないようにして雇用を守るためには「労使の利害をオープンな場所で調整する」機関が必要だと思います。

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草間徹『やる気もある!能力もある!でもどうにもならない職場 閉塞感の正体』

Img_0005_largelyresizedthumb228x314草間徹『やる気もある!能力もある!でもどうにもならない職場 閉塞感の正体』(東洋経済)をお送りいただきました。

http://www.creia.jp/blog/2013/06/13/1213

これは、クレイア・コンサルティングという組織・人事系のコンサルティングファームの調査やコンサルティングの知見をもとにして書かれた本ということです。

本書のテーマは「職場の閉塞感」である。
閉塞感という言葉は、個人が抱く「感覚」であるが、その「狭いところに閉じ込められ」「身動きができない」そして「手の打ちようがない」雰囲気は、社会や企業の構造的な問題から発生している。つまり、働く個人としては簡単には対処のしようがなく、不条理感に近いものがあるのだ。職場内での閉塞感が続くと、働く人々は気力を失い、場合によっては精神的に追い詰められて、病に至る場合も出てきてしまう。
(中略)
閉塞感を発生させている根源的原因を解決しないかぎり、いくら社員を元気づける研修を行なっても、結局は元の木阿弥なのだ。
(中略)
これらの結果から私たちが導き出したのは、働く人々は「成長意欲があるにもかかわらず、企業内の構造がそれを阻害しているのではないか」という問題意識である。本書ではこの問題意識に基づき、職場に蔓延する閉塞感と日本企業が抱える構造的な問題点の関係を解明していく。

最初の第1章で、4つのケースが小説風に語られるのですが、

第1章は「今そこにある閉塞感―4つのケース」と題して、20代から50代までの幅広い世代のビジネスパーソンが、どのような場面で閉塞感を抱いてしまっているのか、その状況をストーリー仕立てで描写しています。

就職氷河期に入社後頑張ってきたもののキャリアの危機に立たされる30代、入社後バブル期を謳歌しつつも事業不振の渦の中でやむを得ず今の仕事を続ける40代、終身雇用を約束されながらもそれを自ら反古にする役割を割り当てられて苦悩する50代、様々な理由の中ジョブホップをし続ける中で知らず知らずのうちに報われない階層に押し込められている20代の4人が主人公。

第2章でその背景があぶり出され、第3章ではその構造的メカニズムが説明されます。ここでは、仕事主体の組織の米企業に対して人主体の組織の日本企業ゆえの人材フローの停滞など、ジョブ型とメンバーシップ型の議論と通じる説明もされています。

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小林美希『ルポ 産ませない社会』

9784309246222小林美希さんから『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

おりから、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)という言葉がはやり出している今日、小林さんの問題意識がページごとに叩きつけるような勢いで噴出しています。

「産めない」のではなく、社会が「産ませない」のだ。孤立する母親、妊娠解雇、ベルトコンベア化するお産、商業化し消費される妊娠……出産に前向きになれない社会に光を探す痛切なルポ。

まるで、「子どもが心配なら家で(母親が)みろ」と言わんばかりの環境が整ってはいないだろうか。

マタニティ・ハラスメント、“孤育て”、妊娠解雇、職場流産、ベルトコンベア化するお産……なぜ今、子どもを産むことに前向きになれないのか。
子育てを未だに「女性」に押しつけ続ける現実を問う、痛切なルポ。

本屋で見かけたら、まず「あとがき」に目を通してください。

雇用情勢が悪化の一途をたどり、かつてのように、職場の上司や同僚が妊娠・出産を祝ってくれるようなムードではない。むしろ、正社員・非正社員を問わず、「妊娠解雇」「職場流産」が横行するような現実だ。そうした中で、妊婦は職場でも社会でも孤立する。男性の側も、自身の雇用を守ることで精一杯。互いにハードワークが強いられ、どこか「子供」という存在や「子育て」が「別世界」のものとなってしまっていることに危機を感じた。・・・

それは取材対象だけの問題ではなかったようです。

・・・私事なので詳細は記さないが、本書『ルポ 産ませない社会』の取材途中、通常の人であれば仕事を諦めるであろう状況に筆者は置かれていた。・・・

・・・本書の執筆に当たり、どんな状況、どんな環境に産まれても、親子が健やかに過ごすことのできる社会を目指していかなければならないという想いを強くした。・・・

本書にみなぎる熱は、小林さんのそういう想いから湧き上がってきているのでしょう。

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明治大学労働講座

先週今週の月曜日に、明治大学で労働講座企画委員会寄付講座で講義をしてきました。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~labored/kifukoza/rodokoza2013.html(2013年度 労働講座企画委員会寄付講座)

この講座に出るのも3年目ですが、一昨年、昨年は担当は1回でしたが、今年は2回にわたってお話をしてきました。

学生さんは政治経済学部、経営学部、文学部、情報コミュニケーション学部、法学部などさまざまです。

先週は「日本の労働社会の成り立ち」、今週は「日本の労働社会の改革〜EUと比較して」です。

配付資料は上記リンク先にありますが、今年は講義の様子がビデオに撮られ、アップされています。

こちらが先週の講義です。

そしてこちらが昨日の講義です。

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野川忍さんの連合批判

野川忍さんがツイートで連合の姿勢を批判していますが

https://twitter.com/theophil21

(1)過日、連合会館で行われた規制改革会議雇用WG報告書を検討するワークショップに、WG座長の鶴光太郎氏らと、パネラーとして出席した。報告書の中身についてはもちろん議論があったが、それよりも強く印象付けられたのは連合の深刻な沈滞ぶりである。

(2)雇用WG報告書には確かに多々問題もある。しかし、出席した連合関係者から出されたのはおしなべて、「ここが心配だ」「この点が不安だ」という後ろ向きの指摘ばかりで、「むしろこうすべきだ」「こういう対策の方が優先されるべきだ」といった、「打って出る」という前向きの姿勢が全くない。

(3)大学などの研究機関には、まだまだ労働法を専攻する大学院生や助教など若い研究者も少なからずいる。彼らが異口同音に言うのは、「公正な労使関係が必要だが、今の連合には全く魅力を感じない」ということ。周囲を見回しても、連合に希望を見出している者など皆無に等しい。

(4)本来なら、今こそ連合は多くの労働者の期待をになって力強く行動すべきであるのに、前述のように後ろ向きの姿勢ばかりで、内輪の人間以外にはほとんど期待を抱かれない、という現状はいかにも情けない。「既得権益擁護集団の典型」という評価を覆す第一歩を、死にもの狂いで踏み出せ!!

なお、野川さんは先月末にもジョブ型正社員についてこうツイートされています。

(1)規制改革会議雇用WGが提出した提言案につき、「解雇しやすい」ジョブ型正社員の構想が盛り込まれている、と報道されている。このWG座長の鶴光太郎さんとはかねてから、私的な研究会をご一緒する間柄である。解雇にだけ注目する報道には、彼も内心忸怩たるものがあると思われる。

(2)来月半ばに、ある場所で、私と鶴さんを含めた数名でこのWGの提言をめぐってシンポジウムを行う。おそらく、主催者側の関心の主たる対象もこの「解雇しやすい正社員をつくる」という表現であろう。しかし、これは必ずしも的確な表現ではないし、議論の本位を誤らせる。

(3)提言案の主要なポイントの一つは、日本における「正社員」と「非正社員」との峻別慣行を是正することであり、その眼目の一つとして、正社員のリジッドな雇用形態を合理的に再編することが目指されている。具体的モデルとしてジョブ型の正社員が提示されているのである。

(4)確かに、正社員だというだけで高い労働条件と雇用が守られ、非正社員だというだけで不当に低い労働条件と不安定雇用を余儀なくされる、という実態が是正されるべきであることは間違いない。では是正の方向はどうあるべきか。労使のニーズが対等な立場で折り合うことが最優先されるべきである。

(5)WGの提言も、企業側の視点で「ジョブ型正社員」を提唱し、解雇しやすくなることが主たる目的であるかのような誤解を生む点に問題があるが、そうではなく、労働者の側も「転職しやすくなる」方向が同時に目指されているはずである。解雇と辞職が、同等に可能であるような状況と言ってもよい。

(6)そのためには、企業の側の雇用制度の改変だけでなく、労働者が転職しやすくなるようなサポートも重要であり、むしろ順番としてはこちらが先に政策対応されるべきであろう。「より望ましい職にいつでも移れる」ような実態があれば、解雇される前に会社に辞表を叩きつけることも可能となる。

こういうまっとうな議論がなかなか世の中に広がっていなかいのですね。

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「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム@nippon.com

「nippon.com」(ニッポンドットコム)という多言語発信サイトがあり、「日本の政治、経済、社会および文化について、広く海外の読者に情報発信を行うことで、国際社会における対日理解の促進を図ってい」るそうです。

http://www.nippon.com/ja/about-nippon-com/

その「nippon.com」に、わたくしの「「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム」というコラムが載りました。

http://www.nippon.com/ja/currents/d00088/

政府の規制改革会議が6月5日に安倍首相に提出した答申に「ジョブ型正社員」(限定正社員)のルール整備が盛り込まれた。「ジョブ型正社員」提唱者の一人の濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構)が、「ジョブ型」の意義と従来の日本型雇用システムの問題点を解説。

日本の正社員は「メンバーシップ型」

 

1990年代以降、非正規労働者が急増

 

積極的に拡大すべき「ジョブ型正社員」だが…

 

メンバーシップ型は「ブラック企業」問題の根源

というような中身ですが、その中で、最近の労働組合や野党の反発について解説しているところがありますので、参考にしていただければ、と。

・・・しかしながら、これまでのメンバーシップ型正社員を前提とする発想はなお極めて強固であり、最近のジョブ型正社員の提唱に対しては労働組合や労組が支持基盤の政党から激しい反発が生じている。その反発の半ばは保守的な感覚からくるものであるが、残りの半ばは根拠がないわけではない。

ジョブ型正社員自体は数年前から労働行政サイドで構想されてきたものであるが、そのときはほとんど反発はなかった。ところが2012年末の民主党から自民党への政権交代後、第2次安倍晋三内閣の下で矢継ぎ早に創設された規制改革会議や(とりわけ)産業競争力会議で企業経営者らが解雇自由化論を積極的に打ち上げた後に、それに代わる形でこのジョブ型正社員が持ち出されてきたという経過があり、労組側が不信感を持つことにも理由があるのである。

実際、規制改革会議答申には現れていないが、途中の議事録を見ると、ジョブ型正社員であるということを理由にして、仕事がなくなった場合の整理解雇だけでなく、仕事がちゃんとあってもパフォーマンスが悪いという理由で自由に解雇できるようにすべきとの意見が繰り返し表明されている。パフォーマンスを理由とする解雇をどうするかは本来ジョブ型正社員とは別の論点であり、このような暗黙の意図を持った形でジョブ型正社員が提示されるのであれば、反発するのは当然であろう。

もっとも、現時点ではそうした腑分けした議論はほとんどなされておらず、労組や野党の多くは「仕事がなくなったからといって整理解雇するのはけしからん」という、欧米の労組にも通用しないような日本独特のロジックを叫んでいるにとどまる。・・・

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医者の不養生

『労基旬報』6月25日号に「医者の不養生」を載せました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo130625.html

 今年2月12日、最高裁判所は奈良県立奈良病院事件の上告を受理しないという決定を下しました。これにより、医師の宿日直をめぐる問題に最終判断が下されたことになります。もっとも、その判断の内容は労働基準法施行当初から当然と考えられてきたことに過ぎないのですが、医療界にとっては驚天動地のものであったようなのです。

 この事案は、産婦人科の医師たちが「宿日直」という名目で王切開術実施を含む異常分娩や,分娩・新生児・異常妊娠治療その他の診療も行っていたものです。2009年4月の奈良地裁、2010年11月の大阪高裁とも、この「宿日直」勤務を労働基準法41条3号の予定する監視・断続労働の適用除外の範囲を超えるものとして、労働時間と認め、時間外割増手当の支払いを命じています。

 労働法の世界から見れば、この事案のような実態が労働基準法の監視・断続労働に該当するはずがないではないかと思われるのですが、医療の世界からはまったく別の見え方がしていたようです。医療法16条は「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない」と規定しています。医療法で宿直が義務づけられていることを前提に、労働基準法施行規則23条で宿日直は適用除外と書いてあるのを読めば、勤務の実態など関係なく宿日直といえば労働時間でなくなると思い込んできたことも理解できなくはありません。

 とはいえ、施行直後の1947年の労働基準局長通達以来、明確に宿日直の許可基準が示されているにもかかわらず、半世紀以上にもわたって医療界がそれを無視してきたことの背景には、もう少し根の深い問題もあるように思われます。それは、医療の世界では医師、看護師、各種技師といった職種によって立場が隔絶し、とりわけ医師は医療法10条によってなにがしか管理者的立場にある存在と見なされていることです。もちろん同条は「病院又は診療所の開設者は、・・・臨床研修等修了医師に・・・、これを管理させなければならない」といっているだけで、医師であれば管理職であるなどとは一言もいっていません。しかし、看護師その他に対して管理職的立場にあると思っている医師たちが、労働基準法の労働時間規制など自分たちには関わりのないことだと思い込んできた背景としてはありそうです。

 ようやくここ数年になって、医師の長時間労働が大きな社会問題として取り上げられるようになりました。厚生労働省でも労働基準局と医政局が合同で省内プロジェクトチームを設け、今年2月には報告書がまとめられています。長きにわたって放置されてきた「医者の不養生」に、ようやくメスが入れられようとしているといえましょうか。

なお、参考までに『ジュリスト』2009年11月15日号に載せた判例評釈はこちらです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/naraken.html(地方公務員たる医師の宿日直の監視断続労働性及び宅直の労働時間性--奈良県(医師時間外手当)事件)

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「日本型雇用」の功罪めぐり海老原、濱口両氏が講演

130620本日開かれた海老原さんとの共演会(?)が、早速アドバンスニュースに報じられていますね。素早い・・・。

http://www.advance-news.co.jp/news/2013/06/post-866.html

NPO法人、人材派遣・請負会社のためのサポートセンター主催「2013年第2回派遣・請負問題勉強会」(アドバンスニュース協賛)が20日、東京・両国で「迷走する日本型雇用に決着点はあるのか!」をテーマに開かれた。この日は、派遣・請負も含む雇用システム全体を取り上げ、政府の規制改革会議などでも議論された旬のテーマとあって、会場は約250人の参加者で満席となった

この日の講師と演題は、ニッチモの海老原嗣生社長の「こんなに良かった、日本型雇用」と労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員の「ここが変だよ、日本型雇用」。講演後は、2人の対談「だからどう変える?これからの日本型雇用」が行われた。

私の話については:

濱口氏は、日本と欧米の雇用システムの違いから、欧米では若者の雇用が主要問題であるのに対して、日本では主に中高年が問題になっていたことを指摘。しかし、バブル崩壊後は「正社員の少数精鋭化」の傾向が強まり、日本型雇用システムと労働法制とのギャップが拡大し、日本でも若者の雇用問題が焦点になってきた経緯を解説した。そのうえで、今後、実現可能な改善策として「ジョブ型正社員」「デュアル型職業大学」の充実などの必要性を示唆した。

とのことです。


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ジョブ型雇用を目の敵にするとこういう議論を否定できない

本日の日経新聞の経済教室で、八田達夫氏が書いている中に、まっとうな労働問題関係者であればトンデモと思うような叙述がいっぱい出てきます。

・・・第2は、労働の流動性を極端に下げている日本の雇用法制である。年功序列と終身雇用の組合せという戦後日本に独特の雇用制度の下では・・・

いや、六法全書を残りくまなく見ればわかるように、日本の雇用『法制』は、いかなる意味でも年功序列も(仕事がなくてもクビにしないという意味での)終身雇用も求めていませんから。

日本の雇用「法制」は、ヨーロッパ諸国と同じようにジョブ型原理でできています。客観的に合理的な理由のない解雇はダメよと言っているだけで。

メンバーシップ型の仕組みは、企業が極端に広範な人事権と引き替えに大企業正社員向けの慣行として事実上行っているだけの話。

と、こんなイロハのイのような基本的なことから説明しなければならないのですね、それなりの経済学者に対しても。

さらにひどいのは、

・・・これは有期労働者が終身雇用労働者と比べて極めて不利に扱われているからである。すなわち、企業は、有期で5年間雇った人を終身雇用に切り替えない限り、雇い止めしなければならないという雇用法制になっているためだ。・・・

あまりにもひどい議論ですが、根本は、有期契約5年経てば欧米でごく普通のジョブ型無期雇用になるというだけのはなしを、勝手に日本の雇用『法制』は何ら求めていない終身雇用を強制していることにしてしまい、あまつさえ、それを飛躍して法律に基づいて雇い止めしなければならないなどいう議論に仕立て上げているわけです。

そして、何年反復更新しても、いつ仕事があっても雇い止めされるかもわからないという無権利状態に未来永劫有期労働者を置き続けることが、あたかも有期労働者のためであるかのようなどや顔で語るわけです。

とはいえ、

彼がこういう思い込みの議論を展開する理由もないわけではないのですね。

なぜなら、ここで八田氏が間違って理解しているように、有期5年でジョブ型の欧米ではごくごく普通の本来の無期契約になるという理解に対して、無限定型メンバーシップ感覚を金科玉条にして非難攻撃してやまない人々が(特に一部左翼方面に)おられるからで、そういう人々の声の大きな姿を見れば、八田氏やそれに類する人々は自分の誤解をますます正しかったと認識し、上で引用したような議論をますます声高に展開していくことになるでしょう。

そういう意味では、ジョブ型正社員を攻撃する人々と、八田氏のような人々とは、価値判断の符号の向きが逆なだけで、無限定型正社員と無権利的非正規の二元論という、ほぼ同じような認識枠組に立脚して、ジョブ型無期雇用を否定するという点において、見事に共通していると言うこともできるかもしれません。

まあ、最近吹き上がっておられる方々のように、ジョブ型雇用を目の敵にするとこういう八田氏のような議論を理論的に否定できなくなるということだけは確かなようです

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平成25年度労働基準監督官A採用試験(労働法)

平成25年度労働基準監督官A採用試験専門記述問題が資格の学校TACのサイトにアップされていますが、この労働法の問題があまりにも時宜にはまっていてなんとも。

http://www.tac-school.co.jp/sokuhou/komuin/pdf/1306roudo_mon.pdf

第1問はごく普通の100字説明問題ですが、第2問が:

(2)次の事例を読んで,下記①~③の設問に答えよ。

飲食店をチェーン展開するA社では, 入社後の半年間を研修期間と位置付け、研修期間中は店舗経営の全体像をつかむための研修として,本来の終業時刻の後の2時間, 配属先店舗の店長の指示のもと店長見習いとして業務を補佐することとされていた。また毎日始業30分前に出社し,店長とその日の研修内容について打ち合わせることが義務付けられていた。加えて月1回程度,先輩職員による研修が企画され,参加は自由とされていたが、結果として毎回新入社員全員が参加していた。A社は,研修期間中は残業をさせていないとして時間外手当(残業代)は一切支払っていない。

また, A社は能力主義をうたっており,業務評定や研修のレポート内容を基に、能力が高いと評価した者を、研修期間後すぐに本社の企画部門に配属するか又は各店舗の店長職に充てるという取組をしていた。

A社では,本社の企画部門については業務発想力の勝負であり、労働時間と成果は比例しないとの考えから,企画部門の職員は研修期間終了直後の者も含め、全員出勤・退社時間や休憩時間は自由とされている。

ある日,所轄の労働基準監督署に対して研修期間直後店長職となったA社の Bから,「自分は店長であり管理監督者であるから残業代の支払いはないとA社本社から言われているが,時間単価に換算した賃金額が同じ店舗のアルバイトよりも低いのは問題でないか」という訴えが寄せられた。A社では,アルバイトについては本社が一括採用し,各店舗に割り振っており、また店長は営業時間中は店舗に常駐し、人員が不足した場合にはアルバイトと同様レジ打ちや配膳等をこなすこととされ,実態としてBの労働時間の大半は,アルバイトと同様の業務態様となっていた。

① 研修期間中は残業代を支払わないとしているA社の対応について,労働基準法上の問題点を簡潔に論ぜよ。

② A社の企画部門における労務管理について,労働基準法上の問題点を簡潔に論ぜよ。

③ Bの訴えが事実であった場合, Bを管理監督者として取り扱うA社の対応について,労働基準法上の問題点を簡潔に論ぜよ。

それぞれ労働時間性の問題、企画業務型裁量労働制の適用可能性、そして管理監督者該当性の問題ですね。

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『季刊労働法』241号

Tm_mjqxx5vcmq『季刊労働法』241号(2013年夏号)が届きました。

特集は「改正労働契約法の残された課題」、第2特集は「個人請負・業務委託型就業者をめぐる法的問題」です。

http://www.roudou-kk.co.jp/quarterly/archives/005701.html

●季刊労働法夏号では、「改正労働契約法の残された課題」と題した特集を掲載します。19条の「遅滞なく」「申込」をめぐる解釈、20条の「不合理な労働条件」に関する問題、それから、公務労働と改正労働契約法をめぐる問題、こうした点を検討します。
●第2特集として、「雇用関係の法的構成と労働法の現代化」を掲載します。就業形態の多様化に伴い、個人請負・業務委託型就業者が増加していますが、こうした就業者は、請負または業務委託契約に基づき、発注企業の指示の下に業務を自ら遂行し、報酬を受けています。外形的には自営の形態ですが、発注企業の指示を受けて自ら業務を遂行することから労働者と類似しています。各国でも、こうした就業者に対する労働法規の適用とその法律関係の検討が行われています。本特集では、わが国おける個人請負・業務委託型就業者に対する労働法の適用とその法律関係を考えます。

その他も含めた目次は以下の通りです。

特集
改正労働契約法の残された課題

改正労働契約法第19条の意義と解釈
 ―判例法理(雇止め法理)との異同を踏まえて
南山大学教授 唐津 博

改正労働契約法20条の意義と解釈上の課題
広島大学教授 緒方桂子

非正規公務員と改正労働契約法の適用問題
公益財団法人地方自治総合研究所研究員 上林陽治

改正労契法を雇用劣化の促進剤に転化させないために
 ~現場の聞き取りから見えてきたもの
ジャーナリスト・和光大学教授 竹信三恵子

第2特集 個人請負・業務委託型就業者をめぐる法的問題

本特集の趣旨 東洋大学教授 鎌田耕一

個人請負・業務委託型就業者をめぐる法政策
東洋大学教授 鎌田耕一

イギリスにおける差別禁止法と労働法の人的適用範囲
専修大学准教授 長谷川聡

イギリスにおける個人請負・業務委託型就業者(the self-employed)の保護の現状
労働政策研究・研修機構副主任研究員 内藤 忍

労災保険特別加入制度の問題点の検討
 ―契約労働者の労災補償の保護の視点から
大東文化大学講師 田中建一

委託型就業者の労働組合の目的と実態
出版ネッツ組合員 杉村和美

■論説■
改正高年法の残された課題
大阪大学教授 小嶌典明

■連載■
■労働法の立法学 第32回■
職業能力評価システムの半世紀
労働政策研究・研修機構統括研究員 濱口桂一郎


■ローヤリング労働事件 第9回■
相談・受任(法的手段の選択を含む)―労働者側の立場から
弁護士 君和田伸仁

■神戸大学労働法研究会 第23回■
派遣労働者の雇用喪失に対する救済法理
 ―2タイプの登録型派遣と常用的派遣をめぐる裁判例の傾向を手がかりに―
静岡大学准教授 本庄淳志

■同志社大学労働法研究会 第9回■
退職労働者の在職中における石綿曝露をめぐる団体交渉
 ―近時の裁判例・労働委員会命令例を素材として―
労働政策研究・研修機構研究員 山本陽大

■北海道大学労働判例研究会 第29回■
雇止め事由の正当性についての錯誤と転籍合意の成否
 NTT東日本―北海道ほか1社事件(札幌地判平成24年9月5日労判1061号5頁,労経速 2156号3頁)
弁護士 加藤正佳

■筑波大学労働判例研究会 第36回■
永住者の在留資格を有する外国人と生活保護
 福岡高判平成23・11・15判タ1377号104頁
佐賀大学教授 早川智津子

■アジアの労働法と労働問題 第17回■
中国における労働契約法の改正―労働者派遣をめぐる法規制の強化―
九州大学助教 鄒庭雲

■イギリス労働法研究会 第17回■
憲法28条と労働組合の政治的機能
――熟議空間の形成と労働者の参加権に関するイギリス労働法学の議論を手掛かりとした一考察
北九州市立大学准教授 石田信平

■文献研究労働法学 第9回■
ドイツ労働法文献研究(二)
三重短期大学准教授 山川和義

■ドイツ労働法古典文献研究会 第4回■
ドイツにおける国家的強制仲裁とフーゴ・ジンツハイマー
明治大学兼任講師 榊原嘉明

■労使で読み解く労働判例 第9回■
精神的不調を抱える労働者に対する無断欠勤を理由とする懲戒処分の効力
 ――日本ヒューレット・パッカード事件(最2小判平成24年4月27日労判1055号5頁)――
筑波大学教授 川田琢之

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山川隆一『労働法の基本』日経文庫

112883なんだか最近、日経文庫がやたらに労働法づいちゃってますね。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/11288/

山川隆一『労働法の基本』(日経文庫)をお送りいただきました。有り難うございます。

雇用にかかわるルール全般を第一人者がわかりやすく解説した入門書。『労働契約法入門』を全面改訂し、法改正を反映させた最新の内容。人事、労務部門などに配属された初学者が最初に手に取るのに最適の一冊。

今年度から東大に移られた山川さんの、労働法入門書。山川さんの性格通り、大変オーソドックスなつくりです。水町本と読み合わせるとちょうどいいかも。

第1章 労働法とは何か
第2章 労働契約の基礎と労働条件の決定・変更
第3章 人事をめぐる法的ルール
第4章 労働契約の終了
第5章 労働条件--賃金・労働時間・労災補償
第6章 雇用平等・ワークライフバランス
第7章 様々な雇用形態
第8章 労働組合と労使関係

本書の特徴は、各章ごとにつけられた「チェックポイント」という問題。第1章のを示すと、こんな感じです。

次の記述は正しいか

Q1 労働基準法の定める基準を下回る労働条件も、労働者が自由な意思で合意した場合には有効となる。

Q2 使用者が労働契約法の規定に従わない場合、労働基準監督官が是正勧告をすることができる。

Q3 労働審判制度は、労働組合が使用者に対する権利を実現するためにも利用できる。

Q4 都道府県労働局における個別労働紛争解決制度では、当事者に対して法に従った紛争解決を強制することはできない。

分かってる人にとっては当然ですが、結構分かってない人がいっぱいいる問題でもありますね。

もちろん、答えは

Q1 × 労働基準法13条

Q2 × 不当解雇を監督官が救ってくれない!と言ってはいけません。そんな権限はないのです。

Q3 × 組合問題は労働委員会へ

Q4 ○ あくまでも任意の制度ですから

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今野晴貴『ヤバい会社の餌食にならないための労働法』幻冬舎文庫

6651今や、ブラック企業の天敵(?)としてその名も高い今野晴貴さんが、また新著を出した?・・・というわけではなくて、旧著『マジで使える労働法』(イーストプレス)の文庫版(加筆修正入り)ですね。

会社の不当な扱いに、社員はどこまで対抗できるか。「パワハラには手書きの実録が証拠になる」「サービス残業代は簡単に取り戻せる」「有給休暇は当日の電話連絡だけでOK」「不利にならない退職の仕方がある」……。職場の理不尽な圧力に屈せずに、反撃できる法的秘策が満載。再起不能になる前に知っておきたいサラリーマンの護身術。

厚さ6ミリの薄い本ですし、内容も大事なことだけだけわかりやすく書いてあるので、若い人にはお勧めです。

プロローグ 労働法を武器に自分を守れ!

1 セクハラ・パワハラ編ー非常識な上司につける薬とその効用

2 サービス残業代編ー『しごとダイアリー』は強力な武器になる!

3 休暇取得編ー病欠で2年間もの有給休暇が!

4 給料アップ編ーどんどん年収が上がる「仕組み」実践法

5 「辞めろ!」と言われたとき編ー逆境をチャンスに変えるテクニック

このなかでも、特に立ち読みでもいいから読んどくべきは5章。人に労働法について一番凝縮して喋る時にいうべきこともここです。

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『日本再興戦略』に政労使三者構成原則が明記

本日、安倍内閣は「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」を決定しました。

http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html

さて、膨大なその中で、おそらくどのマスコミも評論家も注目しそうにないけれど、これからの労働政治のあり方という観点から極めて重要な意味を持つ一節に、注意を喚起しておきます。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_jpn.pdf

第Ⅰ.総論

2.成長への道

(4)成長の果実の国民の暮らしへの反映

成長戦略で目標とした成長率が実現できたとしても、その成果の果実が供給サイドに留まることなく、最終的には、社会全体の活力が回復し、国民一人ひとりが豊かさを実感でき、将来への希望が持てるようにならなければならない。

特に、20 年の長きにわたる経済低迷で、企業もそこで働く人々も守りの姿勢やデフレの思考方法が身に付いてしまっている今日の状況を前向きな方向に転換していくためには、賃金交渉や労働条件交渉といった個別労使間で解決すべき問題とは別に、成長の果実の分配の在り方、企業の生産性の向上や労働移動の弾力化、少子高齢化、及び価値観の多様化が進む中での多様かつ柔軟な働き方、人材育成・人材活用の在り方などについて、長期的視点を持って大所高所から議論していくことが重要である。

従来の政労会見や経営者団体との意見交換という形とは別に、政・労・使の三者が膝を交えて、虚心坦懐かつ建設的に意見を述べ合い、包括的な課題解決に向けた共通認識を得るための場を設定し、速やかに議論を開始する

三者構成原則を共産主義扱いするのに比べると、こちらの方がはるかに「ソーシャル」といわざるを得ません。たとえどういう政治的思惑があるにせよ、こちらの方が「社会的に正しい」のですから。

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『情報労連REPORT』6月号

2013_06『情報労連REPORT』6月号が届きました。特集は「沖縄とつながろう」ですが、それらは情報労連のHPでお読みください。

http://www.joho.or.jp/doc/report/

わたくしの「労働ニュースここがツボ!」は、「権利教育にすぐれていた終戦直後の中学校の労働教育」です。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororen1306.html

 筆者の勤務する労働政策研究・研修機構には労働図書館という施設があり、雇用労働に関わるさまざまな書籍を収納しています。その書庫には、思いもかけない書籍や文書が眠っていることもあります。たまたま見つけたのは、文部科学省検定済中学校用教科書『職業指導』でした。発行は昭和22年。終戦直後です。

 若干背景を説明しますと、戦後新制中学校では必修教科として「職業科」を置き、農業、工業、商業、水産、家庭の諸科目と職業指導を合わせた内容でした。ところがその趣旨は理解されないままなおざりになり、1951年には職業・家庭科となり、1962年からは技術・家庭科とされ、男女別の内容になるとともに、職業指導の側面は消えてしまったのです(拙著『労働法政策』参照)。

 この教科書は、中学校で職業科が教えられていた時代の貴重な証言ということになります。内容は、中学生用といえどもなかなか高度です。「われらの進路」から始まって、前半は「石炭を掘る人々」「電気を起こす人々」「製鉄所で働く人々」等々とさまざまな職業を解説していきますが、後半は「労働運動」、「働く人の健康」、「労働保護」など、労働問題の基礎知識が要領よくまとめられています。

 たとえば、「労働運動」の章では、労働運動がなぜ必要なのか、何が求められているのかを的確に述べ、「殊に青少年労働者はよく組合の本質を理解し、組合の民主的精神を正しく捉え、自主・自由と放縦とを間違えることなく、立派な組合員になるように修養しなければならない」と呼びかけていますし、「労働保護」の章では、「労働者保護のための労働基準法が、真に働く人々の福祉のためのものとなるかどうかは、その運営のいかんにある。・・・この法律が真に働く人々の福祉の増進をもたらすように、私たちも協力しようではないか」と呼びかけています。

 中卒で就職する者が多数派であったこの時代、彼らにそういった知識を伝えなければならないということは、当時の文部省の官僚たちにとってもあまりにも自明のことであったのでしょう。残念ながらその自明性は戦後60年余の間に雲散霧消し、今日高卒者や大卒者のための「キャリア教育」の名の下に行われ始めたものも、とりわけ労働者の権利の教育という面においては、終戦直後の文部省の意気込みには遙かに及ばないもののようです。

 この教科書では各章末ごとにいくつかの課題が載せられていますが、最後の章の最後の課題はこういう問題です。言っておきますが、これは中学生用の教科書なんですよ。

「(7) 「職業の連帯性」ということを、具体例によって理解し、「社会生活と職業の連帯」という論文を書こう。」 

なんて「ソーシャル」な!

つか、こういうソーシャル感覚が失われていったのが戦後の歴史なわけですが・・・。

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ジョブ型正社員と非常勤講師雇止め

本日の朝日の「働く」が、「大学、5年でクビ? 非常勤講師、雇い止めの動き 無期契約避ける狙い」という記事を載せています。

http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201306130525.html

有力大学の間で、1年契約などを更新しながら働いてきた非常勤講師を、原則5年で雇い止めにする動きがあることがわかった。4月に労働契約法(労契法)が改正され、5年を超えて雇うと無期契約にする必要が出てきたからだ。

この記事で大変興味深いのは、非常勤講師たちの組合の言っていることが、まさにジョブ型正社員論であり、大学側の言っていることがそれへの懐疑論であるという点です。

首都圏大学非常勤講師組合の松村委員長が

「解雇しにくいという理由で大学は無期転換をいやがる。だが、非常勤講師は特定の授業をするために雇われ、その授業がなくなれば解雇される。無期転換を拒む理由はない」

と、メンバーシップ型でなくジョブ型の無期雇用なんだから雇い止めする道理はないと主張するのに対して、大学側は

「担当の授業がなくなっても雇用継続を主張する人も出てくる」(大阪大)と警戒する。

ジョブ型なんて信用できないぜ、正社員はメンバーシップ型に決まっているんだから、雇い止めするしかないだろ、ということのようです。

ジョブ型正社員に対する賛成論と反対論の社会における分布状況を考えると、

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-04-02/2013040201_05_1.html

・・・限定正社員の場合、危険なのはリストラで地域、業務がなくなったら解雇が必至です。このための解雇自由のルールが伴って出てくる可能性もあります。正社員の雇用形態を破壊し、不安定雇用化へと激変をもたらすきわめて重大な動きといえます。

などと猛烈な批判をすればするほど、非常勤講師たちの無期化(「メンバーシップ型正社員化」ではなく)は困難となっていくのかもしれません。

(参考)

https://twitter.com/midorisa/status/132283481987366912

ジョブ型社会→同一労働同一賃金をどうやったら実現できるのか。仕事の切り分けをどうやったらできるのか。大学なんて、できそうな場所なのに、と思う。阪大の非常勤講師全員解雇問題も、ジョブ化によってソフトランディングできないのかと本当に思う。

そう思わない人、それを嫌がる人がいるからですね。どっち側にも。

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梅崎修ほか『人事の統計分析』(ミネルヴァ書房)

108510中嶋哲夫、梅崎修、井川静恵、柿澤寿信、松繁寿和編著『人事の統計分析 人事マイクロデータを用いた人材マネジメントの検証』(ミネルヴァ書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.minervashobo.co.jp/book/b108510.html

本書は、人事処遇制度が滞る原因を統計的に検証する。特に、これまで日本国内はもとより海外においても使用されなかったレベルの人事マイクロデータ(個々の従業員の評価・昇進・報酬に関する個票データ)と従業員アンケート、および、それらを突合したデータセットを用い、人事処遇制度の細部に分け入っていく点に大きな特徴がある。また、そのような分析を提示することで、人事制度や施策の効果を科学的に検証する研究分野の確立および実務の普及を目指す。

この本のすごさは、製造業の大企業から中堅企業6社の人事部から個々の従業員の評価・昇進・報酬に関する個票データを提供されて、それをもとに分析しているところです。なかなかそういう分析はないですからね。

そのいきさつが「あとがき」に書かれています。

振り返ると長い時間が経過した。1999年、著者の3人が社会調査や人事管理に関する読書会をしていたとき、中嶋が企業から預けられたデータの分析方法を梅崎と松繁に相談したことが始まりであった。企業内のデータに研究者がアクセスすることが難しく研究論文も少ないことを、実務家である中嶋は知らなかった。一方、梅崎と松繁はそのようなデータをコンサルタントが入手していることを知らなかった。3人は、そのデータが貴重であり、学問的に分析する価値があると考えた。そこから共同研究が始まった。・・・

そうだったんですね。

内容は次の通りですが、

序 論 研究課題・方法・対象
 1 問題意識と特色,および主要な論点
 2 研究対象企業の予備的検討


 第Ⅰ部 測定の困難と評価制度

第1章 評価者の離反
    ――賃金制度改革の「意図せざる結果」
 1 問題の所在
 2 対象企業の賃金制度改革
 3 賃金制度改革の「意図せざる結果」
 4 結 語

第2章 一次評価のその後
    ――企業内の評価調整メカニズム
 1 問題の所在
 2 対象企業の評価制度
 3 調整による格差の変化
 4 結 語

第3章 数字に依存する評価
    ――評価決定における客観情報の利用
 1 問題の所在
 2 分析のフレームワーク
 3 対象企業の概要と営業組織の特徴
 4 大都市営業所と地方営業所の比較分析
 5 結 語

第4章 評価を告げる苦痛
    ――評価面接制度の運用
 1 問題の所在 
 2 分析のフレームワーク
 3 対象企業の概要とデータ 
 4 記述統計による評価プロセスの把握
 5 評価者負担と評価行動
 6 結 語

第5章 人事部がつくった仕組み
    ――人事評価制度に対する納得度
 1 問題の所在 
 2 分析のフレームワーク 
 3 対象企業の概要とデータ
 4 人事評価制度の納得度を高める要因
 5 結 語

第6章 [補論1]評価の難易度に関する考察
 1 問題の所在
 2 評価難易度の指標化
 3 対象企業の概要
 4 職務特性の把握
 5 人事評価の分布と一致
 6 結 語


 第Ⅱ部 競争メカニズムと処遇格差

第7章 非年功化を生みだす工夫
    ――制度改定による賃金構造の変化
 1 問題の所在
 2 対象企業の概要
 3 制度の改定過程と実態の変化
 4 結 語

第8章 早くから生まれる企業内格差
    ――中小企業における評価・昇格・賃金
 1 問題の所在
 2 分析のフレームワーク
 3 社員系列別の人事制度 
 4 推定結果
 5 結 語

第9章 出口をつくる
    ――希望退職制度の運用
 1 問題の所在
 2 分析のフレームワーク
 3 対象企業の希望退職制度
 4 推 定
 5 結 語

第10章 [補論2]社内序列固定過程に関する考察
 1 問題の所在 
 2 分析のフレームワーク
 3 各対象企業の昇格の仕組み
 4 キャリア競争の実態
 5 結 語


 第Ⅲ部 人材マネジメントと従業員の反応

第11 章 やる気を上げる仕組み
    ――評価・賃金・仕事が労働意欲に与える影響
 1 問題の所在
 2 先行研究と分析のフレームワーク
 3 対象企業の概要とデータ
 4 労働意欲の決定要因
 5 結 語

第12 章 やる気に伴う不安
    ――従業員心理の構造
 1 問題の所在 
 2 先行研究と分析のフレームワーク
 3 データと変数
 4 推定方法と結果
 5 結 語

第13 章 序列を知らずに働く
     ――処遇に関する従業員認識の測定
 1 問題の所在 
 2 認識の実態
 3 認識の決定要因
 4 結 語

あとがき
初出一覧
参考文献リスト
索  引

最初の第1章の、成果主義賃金制度を導入してみたらもっと年功的になってしまった・・・という話からして大変面白く、この分野に関心のある方々にとっては必読です。


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ジュンク堂池袋店トークイベント実録(修正入り版)

昨晩、ジュンク堂池袋店で行われた市野川容孝さんとわたくしのトークイベント「「社会的なもの」と「新しい労働社会」」には、雨の中にもかかわらず金子良事さんはじめ多くの方にご出席いただき有り難うございました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/by-07ba.html

その様子を、alice(alicewonder113)さんがつぶやいておられますので、若干の誤解点を修正しつつ、紹介しておきたいと思います。

https://twitter.com/alicewonder113

昨日のジュンク堂のトークイベントをしばらく連ツイします。

濱口:The Socialというのは「社会」じゃないんだよね。昔ヨーロッパ行って雇用社会局にいた時、みんな「ソーシャル・ヨーロッパが危機に瀕している」と言っていた。「ソーシャル・ヨーロッパVSリベラル・ヨーロッパ」。自分にはヨーロッパ行くまでその「レセプター」がなかった。

(ハマちゃん先生が雇用社会局にいたと言ったのかはメモからは定かでなく自信なし)

ここは、日本はEUの加盟国ではないので、わたくしは欧州委員会の雇用社会総局に勤務することはできません。私がいたのはEU日本政府代表部で、そのカウンターパートが欧州委雇用社会総局であり、欧州労連でありました。

濱口:日本に戻ってきたら、誰もそのレセプターを持っていない。ソーシャル・ヨーロッパを言うのは欧州労連なんかで、労組の内部に社会政策局というのがあって、そこでは別に労働政策とか福祉とかやるわけじゃなくて、教育のこととか環境のこととかやるわけ。そういう感覚。

ここは多分、言葉が足りなかったんだと思います。欧州労連はソーシャルの感覚を持ってるけれど、日本の組合はねぇ・・・、という文脈で、日本の連合には「社会政策局」ってのがあるけれど、その仕事は労働でも社会保障でもなく、それ以外(教育や環境)なんだよね、いかにソーシャルの感覚がないか分かるよね・・・という話でした。

濱口:ドイツ基本法20条に、ドイツとは「民主的で、ソーシャルな連邦国家」だと書いてある。フランスも「社会的な国家、社会的な共和国」だと。国家は人が集まってできてるから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。国家が社会的に運営されるのは。

5)濱口:ところが日本でいう社会学における社会的なものというのは、2人ないし複数の人が意識し合って何かやったらそれで社会的だという。本来社会的なものというのは剥き出しの資本主義に対する批判の言葉なんだけど、そういうものは今の日本にない。

すいません、この二つは市野川さんの発言です。

6)市野川:『世界』5月号で内橋克人さんと寺島実郎さんが対談してるんですが、内橋さんが、「民主党はリベラルだった。(政権交代したけど)今必要なのはリベラルだ、お任せを超えてリベラルへ」と。でも今さらリベラルで政治が何ができるのかと。

ここまで市野川さん。

7)濱口:象徴的なのは、こないだ政府と経営側と労組で三者協議やろうといったとき、民主党が「共産主義みたい」と言ったでしょ。レセプターがない。まさにリベラル。欧米では三者協議当たり前。ソーシャルパートナー、ソーシャルダイアログと言ったら、労使のことなの。

8)ちなみにNGOはシビルパートナーという。

9)日本にはこの感覚がない。それでソーシャルで政治を語るとどうなるかって話。

これは言いたかったところ。

10)市野川:日本にもかつて、ソーシャルはあった。社会党は支持母体は総評で。いま、ネオリベとか批判する人に、じゃあどうしたいのといっても、言葉が出てこない。かつてあったソーシャルなものを思い出そう。古来よりそれがどう語られてきたか。政治の選択肢の一つとしてあった。

11)市野川:1993年の『正論』で西部すすむが「始まるかソーシャルとリベラルの対決」と題して書いてるんだけど、実はその時すでに、日本の議会政治の中にはソーシャルの文脈はなくなっていた。

12)濱口:その空洞化はもっと前から。当時自民党はソーシャルだった。(しばらく、党名と、ソーシャル/リベラルが一致しない話)西部がイラだっていた構造は、60年代に確立していた。

13)市野川:民主党は連合とくっついてるけど、議員の系列は社会党や民社党。ところがこの人たちは社会的という言葉を言わなくなってしまった。そしたらリベラルだと(90年前半)言われ出した。山口二郎さんはリベラルは人々を分散させる、切り離していく言葉だという。

14)市野川:確かにリベラルは、寛容な概念で、多様性を認める。これはこれで重要なんだけどそれだけではだめで、ソーシャル、人々を結合させ、まとめ上げる言葉、リベラルとは異質なものが、並列になっていないといけない。

15)内田樹さんは共産党宣言をひいていて(※文献名失念)、「万国のプロレタリア団結せよと。これは英語でいうとuniteだけど。それは合意を見出して結合するプロセスであり、ソーシャルダイアログである。

ここは、市野川さん主導の政治論ですね。

このあと、わたくしが、なんで90年代にリベラルが人気が出たかについて喋っています。

16)濱口:何で90年代からリベラルが人気になったか。60年代から80年代の日本はあまりにも「社会的」だった。欧州の広がりを持ったソーシャルとは違っていた。社会的なものは会社的であり、有難いとともにウザったいものだった。

17)濱口:それで90年代に反発が噴き出た。「これからは会社人間じゃだめだ」「社畜はだめだ」引き離すリベラルがカッコ良かった。「もういいよ」「自由にやらせてよ」という感じ。

18)産業化によってバラバラになった人々をどう連帯させるかといったとき、日本には中世ギルド的なものはなかったから、まずは一緒に働いている人と何とかしようとして、気づいたら企業で社会的なものが担われるようになっていた。

まだ続くようです。

(追記)

下のコメントにあるように、引き続き、alice(alicewonder113)さんがアップされているので、こちらにも転載しておきます。

19)濱口:60年代には皆、終身雇用の年功序列はダメだと言っていた。ところが70年代になると、欧米より日本のパフォーマンスがいいということになって、日本はすごいんだという話になった。ここで切断がある。なんでそうなのかというのが議論されないできた。

20)濱口:ところが90年代になってバブルが崩壊すると、またしても手のひらを返したように、日本はダメだという論調になった。(それが90年代のリベラル賛美につながっている)

21)市野川:日本的雇用といったら、メンバーシップ型で、具体的には1)終身雇用、2)年功序列、3)企業別、ということだが、揺らぎ始めたのは95年ぐらい?

22)濱口:企業側の動きとして、1995年に日経連が「新時代の『日本的経営』―挑戦すべき方向とその具体策」を出して労働者を長期蓄積能力型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型の3グループに分けるべきと提言。天下三分の計、これが一つのきっかけだった。

23)濱口:社会的意識の分水嶺としては、バブルの最中ぐらいから、会社の中に閉じ込められるのはウザい、という意識の変化が出て来ていた。こういう反発はいわばリベラル。あの頃、細川から村山の流れの中で、構造改革とか規制改革とか叫ばれて、リベラルな感覚に満ち溢れていた。

24)市野川:石水喜夫さんが『日本型雇用の真実』という本で書いているが、1995年は村山首相で、政治のドクトリンとしてリベラルがあった。この頃急速に社会的なものは脱臼した。石水さんは"やっぱ会社でしょ"という。職業は個人のものではなく会社のもの。

25)市野川:濱口さんはジョブ契約を盛り込んでいけと。ソーシャルなものの現れ方とは対極的。仕事はいろんなつながりの中にある。個人のものにしてしまうのがリベラル。会社のものにしてしまうのがソーシャル。それで70年代みたくみんなが満足していたら良かった。

26)市野川:でも90年代には、もうみんなそういうソーシャルでは満足できなくなった。今は企業組合からはみ出る人をuniteするのが難しい。労組は避けて通れない。これまで包摂されなかった人たちを新しい産業民主主義で、労働組合のあり方を組み替えていく必要性がある。

27)熊沢誠さんは、今必要なのはリベラルではなく、社会民主主義だと言う。(会場から質問)画一主義、官僚主義への反発が「リベラルな欲望」として表れた。そこでは「リベラル」という言葉の変容がある。経済的でない部分でのリベラルな欲望を満たせるのか。

28)市野川:アメリカではリベラルは民主党で、福祉に力を入れている。(aliceメモより発言者不明)社会民主主義は文化的には多様、社会的には平等

29)市野川:(質問者に)リベラルが文化的でソーシャルは経済的だという意見?(質問者)そうです。市野川:社会的なものと文化的なものをつなぐ回路、どうなのかなぁ。

30)市野川:北欧の研究しているオザワさんという方の話で、スウェーデンはソーシャルな国だけど多文化主義にどれだけ開かれているのか、という。福祉国家と多文化主義は本来相性が悪い。貧困の人たちが「なぜ自分がこうなのに外国人が」となって排外主義になりがち。ソーシャルの理念の限界。

31)濱口:社会保険や医療保険や年金は本来社会的なもので、国全体でわかちあっている。皆でわかちあい分け与えるものだから、仲間意識があるのなら本来それをもらう人を叩くのはおかしい。

32)市野川:私たちの身近にある社会的なもの。1920年代から80年代までは、被用者本人はタダだった。80年代からだんだん増えて今は3割負担。身近にあるはずのソーシャルが見えなくなり、アフラックとかアデコの方が「保険」といったら通りがいい。

33)市野川:ソーシャルであるはずなのにソーシャルに見えなくなり、そうでないものがソーシャルとして台頭している。見えないものをもっと見えるようにするのが今後の課題。

34)濱口:ソーシャルなものはナショナルなものと手に手を取って、抜本的に拡充されたのは世界大戦のとき。戦争のために、ラチェット的に。社会的なものはシオニズム(?)を招きよせるものが埋め込まれている。だからリベラルがないとバランスが崩れる。

すいません、発音が悪くて。ショービニズム(排外主義、国粋主義)といったつもりでした。

35)市野川:言葉として「リベラル」しかないことが問題。両方の理念が支え合っていかないと。東独の統一前の憲法で「私たちの国はソーシャルな国」と。リベラルとセットになって初めてそうなった。リベラルがなければソーシャルも立ち上がれない。

36)濱口:グローバル化の中で、企業が組合と延々話し合ってたらダメだ(効率が悪い)という風潮になった。日本で労組の組織率が最も高かったのは、1946年で、GHQの圧力でそうなった。その時でも60%。それ以来減り続けている。

37)濱口:マクロの話だけではそれを支える底辺の仕組みをどう作るのかが見えてこない。唯一成功したのがGHQだということをもっと考える必要がある。

(37まででした)トークイベントメモは以上です。

ありがとうございました。なるほど、こんなこと喋ってたんだ・・・。

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『賃金事情』誌の記事に登場

Chinji産労総合研究所の『賃金事情』誌6月20日号の記事に登場しました。記者は昨日の『プレジデント』7月1日号と同じく、労働ジャーナリストの溝上憲文さんです。

記事は「論議が高まる解雇の金銭解決制度」です。

ひとつながりの話題を、ジョブ型正社員については『プレジデント』用に、金銭解決については『賃金事情』用に、一粒で二度おいしいように切り分けたのですね。

私は、いわゆる事前型と事後型それぞれについてコメントしていますが、それよりもこの記事で興味深いのは、最後のあたりで労働契約法制定当時の最高裁の担当者の話です。金銭解決制度が成立に至らなかったのは、労使の反対もありますが、実は裁判所の反対が一番大きかったということのようですね。

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『プレジデント』誌の記事に登場

0ba1e6d254『プレジデント』誌の7月1日号に、溝上憲文さんの「サラリーマンに「限定正社員」制度は朗報か」というスペシャルレポートが載っています。

http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2013/20130701/

そこに、私もインタビューを受けて登場しています。

・・・ジョブ型正社員とも呼ぶが、その提唱者である独立行政法人労働政策研究・研修機構労使関係部門の濱口桂一郎統括研究員はこう語る。

「会社の命令で職務が変われば、時間外労働もする。遠距離配転など勤務地もいくらでも変わるというのが日本の正社員です。その中のどれか一つでも限定した働き方をするのがジョブ型正社員であり、そうした働き方を労使の自由な契約によって結ぶというのが私の基本的なイメージです。契約内容を細かく書くか、大まかに書くかは自由ですが、労使とも契約の枠を超えた要求はできないし、権利もない。どんな契約を結ぶかは労使の話し合いで決まりますが、例えば、出版社との契約で職務を雑誌編集と書けば、廃刊になれば辞めざるを得なくなる。ただし、出版物の編集とすれば、廃刊しても書籍に移動できますが、経理や営業に移動させられることはありません」

濱口氏は制度を普及させるには「国がある程度の基本ルールを示せば、あとは労使で決めればよい」と語る。・・・

・・・濱口氏は「ジョブ型正社員は入口から出口までワンセットで提示し、労使双方が納得のいくような仕組みであるべきだ。そうではなく出口(解雇)のところだけに着目し、都合よくつまみ食いしようとしているなら問題だ」と指摘する。・・・

ちなみに、わざと図ったわけではないのでしょうが、同じ号に当の鶴光太郎氏が「しごとの未来地図 「残業も転勤もOK」のモーレツ社員がいなくなる日」というエッセイを書いていますね。溝上氏の記事と読み合わせるとなかなか興味深いです。

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児美川孝一郎『キャリア教育のウソ』ちくまプリマ-新書

9784480688996児美川孝一郎さんから『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマ-新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480688996/

この十年余りで急速に広まったキャリア教育。でも、正社員になれればOK? やりたいこと至上主義のワナとは? 振り回されずに自らの進路を描く方法、教えます。

青少年向け新書というレーベルですが、けっこう激しい批判を繰り広げています。

目次は次の通りですが、

プロローグ それぞれの卒業後
ロスジェネ世代の卒業生の「その後」/「標準」が崩れてしまった時代/若者たちの一〇〇人村/「キャリア教育」になにができる?/本書の構成/なぜ、キャリア教育の「ウソ」なのか

第1章 キャリア教育って、なに?

1 キャリア教育の狭すぎるかたち
•「キャリア教育」の幕明け/はじめに「若年雇用問題」ありきだった!/若者のテコ入れ策/大学では「生き残り競争」の道具に/ビジネスのターゲットとしても/大学における「民間活用」/狭すぎるキャリア教育

2 キャリア教育の原点
•なんでカタカナの「キャリア」?/日本社会の構造的変化/キャリア教育とは?/「直接的」および「間接的」な働きかけ/わがもの顔の「俗流キャリア教育」/魔法から目を覚ます

第2章 ウソで固めたキャリア教育?

1 「やりたいこと」探しの隘路
•「あなたのやりたいことは?」/夢、やりたいこと、就きたい職業/職業なき社会における「就きたい職業」/「やりたいこと」重視が“危うい”理由/「やりたいこと(仕事)」の立脚点の脆さ/仕事や職業についての理解が先/働いていく自分の「軸」/「キャリア・アンカー」と「キャリア・アダプタビリティ」/夢を追うこと、現実と折り合いをつけること/「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」/僕からの提案

2 「職場体験」って意味があるの?
•一〇〇%に近い実施率/職場体験とインターンシップ/なぜ、中学校での実施が突出したのか/高校でのインターンシップは?/職場体験の教育的な効果/「体験」の着地するところ/では、どうすれば?/ある中学校の挑戦/なにを学び、どこを参考にできるか?/僕からの提案

3 「キャリアプラン」なんて、立てられるの?
•フランクリン手帳/「キャリアプラン」というもの/なぜ、キャリアプランなのか/ライフステージ上の諸課題への気づき/キャリアプランへの僕のためらい/変化のスピードが速すぎる「未来」/プランニング型の発想と「計画的な偶発性」/キャリアプランを作成する前に/ステレオタイプの再生産?/僕からの提案

4 「正社員モデル」の限界
•フリーターと正社員の生涯賃金/若者よ、正社員になろう?!/生涯賃金という「指標」の危うさ/「正社員」に頼っていいのか?/「個人による自律的なキャリア開発」の時代/頑張れば、正社員になれるのか?/なぜ「正社員モデル」を捨てられないのか?/就職実績をめぐる学校間競争/どうすれば「正社員モデル」を脱することができるか/「非正規雇用」を見すえた、どんなキャリア教育が必要か/非正規雇用者に「防備」を/理不尽には「武器」を/困難に向き合うことを支える仲間の存在/僕からの提案

エピローグ 転換期を生きるということ
「転換期」にある日本社会/自分の人生を引き受ける責任/不幸な時代に生まれた?/危機のなかにはチャンスも宿る/時代と社会に漕ぎ出ていくために/「銀行型」から「料理教室型」へ/学び方を学ぶ/「キャリアデザイン」のマインド/キャリアデザインをどう実践する?/「未来マップ」と「羅針盤」と

あとがき
参考文献

「ウソで固めたキャリア教育」の中でもウソ度筆頭はもちろん、

「職業なき社会における「就きたい職業」」

であるわけです。そもそもジョブ型社会じゃない日本で、キャリア教育専用に「やりたい仕事」ばかりが求められる皮肉。

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岩波『これからどうする―― 未来のつくり方 ――』

0098900岩波書店編集部編『これからどうする―― 未来のつくり方 ――』が届きました。

http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-009890

将来の展望を描きにくくなっている今,読者に広く呼びかけたいと思います.私たちはこれからどこへ向かうべきか,何を大切にしていったらよいのか,議論を始めようではないか,と.政治・経済・文化・社会・科学技術など,さまざまな分野で活躍する228人が,「これからどうする」を真剣かつ大胆に提案します.

ということで、その228人の一人として、私は「ジョブ型正社員の確立を」を書いております。

書店に並ぶのは来週になりますが、著者の一人としてフラゲしたので、労働関係の執筆者をいくつか紹介しておきましょう。

第5章の「経済・労働・産業をどうする」には、

若者よ、安定を求めるな  玄田有史

労働組合の役割 熊沢誠

第8章の「家族と教育の将来像」には、

「学ぶことと」と「働くこと」の結び目をどうするか  本田由紀

その他社会関係多数です。

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労働組合は「組合員」のため?「労働者」のため? by 細川良

労働政策研究・研修機構(JILPT)の細川良さんが、同HPにコラムを書いています。フランス労働法の専門家らしく、フランスの職場選挙という話題です。

http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0224.htm(労働組合は「組合員」のため?「労働者」のため?)

2012年5月にフランス大統領選挙が行われ、17年ぶりの社会党大統領となるフランソワ・オランドが当選してから約1年となるが、さきごろ、フランスの労働組合にとって非常に重要な意味を持つ、もう1つの「選挙」の結果が公表されたことをご存知だろうか?

2013年3月29日、フランス労働省は、2008年の法改正を受けて翌2009年1月1日から2013年1月にかけて実施されていた「職場選挙」の集計結果を公表した。この「職場選挙」とは、企業・事業所内における法定の労使協議機関である従業員代表委員および企業委員会のメンバーを、従業員の投票によって選ぶ選挙のことである。同時に、この職場選挙は、「どの労働組合からの候補者に票が投じられたか」によって、それぞれの労働組合に対する労働者からの「支持率」を図る指標とされている。そして、一定の支持率を確保することが「代表的」労働組合と認められるための決定的な要素となっている。

フランスでは、「代表的」労働組合が労働協約を締結すると、協約を締結した労組の組合員だけでなく、非組合員および他組合の組合員も含めたすべての労働者にその労働協約が適用されることとなる。このため、「代表的」労働組合と認められるための指標である職場選挙は、各労働組合の持つ影響力を左右する重要な選挙であり、筆者が昨秋にフランスで調査を行った際も、この選挙の行方については、関係者の誰しもが大きな関心を寄せていた。・・・

この「筆者が昨秋にフランスで調査を行った」成果が、去る3月にまとめられたこの報告書(フランス編)ですが、

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0157.htm

このコラムでは、フランス的な労働組合観から改めて「そもそも労働組合は誰のためにあるのか?」という基本的な問いを提起しています。

労働組合は、組合員のために、組合員を代表して使用者と交渉を行い、その成果として労働協約を締結するとすれば、労働協約はこれを締結した組合の組合員にのみ適用されるのが筋とも思える(日本でも、労働組合法17条が定める一般的拘束力による拡張適用や、実務上、就業規則の変更を通じて非組合員にも実質的に適用が拡張されることがあるが、その点は措いておく)。それでは、フランスではなぜ「代表的」労働組合が締結する労働協約は、組合員だけでなく、非組合員および他組合員にも適用されるのだろうか?

このことは、フランスの労働運動の歴史と深い関係がある。フランスの労働運動においては、労働組合とは「産業における集団的な利益」を代表する役割がある、言い換えれば、組合員のみならず、非組合員も含めたすべての労働者の利益のために行動するものであると伝統的に考えられてきた。ゆえに、すべての労働者の利益を代表すると認められた「代表的」労働組合は、使用者との交渉の成果である労働協約の締結を通じて、非組合員・他組合員も含めたすべての労働者の労働条件の基準を定めることができるのである。

ここで表題の問いに立ち返ってみよう。労働組合が、「組合員」のために活動するものであるのか、(非組合員等も含めたすべての)「労働者」のために活動するものであるのか、という問いは、「組合員」のための活動が実質的に「労働者」のための活動となる状況下にあっては、それほど大した問題とはならないかもしれない。しかし、労働組合の組織率が低下し(=労働者に占める「非組合員」の労働者がより多数派となる)、また雇用形態の多様化が進む時代にあっては、この問いは案外に重要な命題なのではないかと感じている。近年、集団的労使関係の再構築をめぐって、さまざまな議論がなされているのを目にしているが、そもそも労働組合は誰のためにあるのか?という基本的な問いに答えることが、考えるヒントになるのかもしれない。

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注目されるジョブ(職務)型正社員構想@『月刊公明』

G111307500公明党の機関誌『月刊公明』7月号に「注目されるジョブ(職務)型正社員構想」を寄稿しました。

http://komeiss.jp/products/detail.php?product_id=45

なお、本稿を含む特集は「安定の政治で日本再建」で、以下のような文章が載っています。

特集 安定の政治で日本再建

〈対談〉若者と女性の未来を開く アグネス・チャン/山口那津男

政治家改革の視点「実現力」こそ、政党、政治家の生命 編集部

人口減少社会は成長なき社会ではない 飯田泰之

長期政権実現で日本の国際的影響力の向上を 坂元一哉

成長の鍵握る科学技術イノベーション 林 幸秀

注目されるジョブ(職務)型正社員構想 濱口桂一郎

「円高是正」進展後の成長戦略 安達誠司

イラク南部メソポタミア湿原の環境保全の展望 福原隆一

武器貿易条約(ATT)の意義と問題点 夏木 碧

サッチャー主義回想 河合秀和

個人的には、かつて学生時代に講義を聴いたこともある河合秀和さんの文章が面白かったです。

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毎日新聞のまっとうな社説 on ジョブ型正社員

毎日新聞の社説が、誤解にまみれたジョブ型正社員について、極めてまっとうな社説を書いています。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130606k0000m070116000c.html(正社員改革 多様な働き方への課題)

 雇用には問題が多い。給料が低く生活が不安定な非正規雇用が増え、若い世代が結婚や子育てできない原因になっている。その一方で長時間労働を強いられ疲弊している正社員は多い。経営側にとっては解雇規制が厳しいため非正規雇用を増やさざるを得ず、その分正社員がしわ寄せを受けているという構図だ。

 正社員か非正規かという硬直した現状を変えるため、政府の規制改革会議が打ち出したのが「限定正社員(ジョブ型正社員)」だ。何を「限定」するのかと言うと、勤務地や労働時間や職務の内容だ。日本の雇用制度は一般的に人事権の裁量が広く認められ、いったん正社員として採用すると勤務地も仕事の内容も量も会社側が決められる。合理的な理由があれば賃金や退職金の変更もできる。その代わり労働者は安易に解雇されないよう守られている。

 「限定正社員」は会社側の人事権の裁量を小さくする一方で解雇規制を一部緩めるもので、諸外国の雇用制度はむしろこちらに近い。国内でも流通業などでは既に導入しているが明確なルールはない。職務を限定し、その職務がなくなれば解雇できることにして非正規雇用から正社員への転換を企業に促すねらいがある。正社員の中にも自分に合った仕事を決められた勤務時間だけ行うことを望む人は多いかもしれない。子育てが必要な期間は勤務時間を限定したり、親の介護が必要な場合には勤務先を選べたりすることで離職せずにすむ人も大勢出てくるだろう。

 限られた職務に専念できることで自らの専門性を高め、それを客観的に評価する仕組みを労働市場に作ることができれば、雇用の流動性を高めることにもつながる。より付加価値の高い商品やサービスを開発するためには、なんでも広く薄くできる社員がたくさんいるよりも、職務や分野ごとに専門性の高い社員がいることを求める企業は増えていくのではないか。

 もちろん、懸念がないわけではない。安易な解雇や賃金カットに利用され、職場での差別がはびこることを心配する声は多い。職務に着目した雇用制度を整備することが目的であり、現に職務があるのに解雇するようなことは許してはならない

 生活を大事にしながら多様で柔軟な働き方を実現するためには、労働者側の意向を尊重した仕組みが必要だ。子育てや介護をしている期間は限定正社員となり、それが一段落したら正社員に戻れるような柔軟な運用も可能にすべきだ。職務の内容や能力に応じた人事・処遇制度は経営者にも労働者にも恩恵をもたらすものでなくてはならない。緻密な制度設計と労使の信頼が必要だ。

ジョブレス解雇と貴様ぁ解雇を意識的無意識的にごっちゃにして、「現に職務があるのに解雇する」話に仕立て上げられないように、マスコミの皆さんの責任は重大です。

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JILPT報告書 on 多様な正社員、派遣労働者、勤務間インターバル

JILPT(労働政策研究・研修機構)の報告書が続けざまに出ていますので、まとめて紹介します。

Nishimuraまずは、西村純さんが中心になってまとめた『「多様な正社員」の人事管理に関する研究』です。今まさに政策の焦点になりつつある話題ですが、企業現場の綿密な調査に基づいて見事な研究成果になっています。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0158.htm

主な事実発見という欄がそれだけで膨大なので、そのうちのはじめの方の一節だけを引用しておきます。

限定正社員の働き方の自己評価は、働き方に限定のない正社員のそれと比べて、必ずしも低くなく、限定正社員の労働条件が働き方に限定のない正社員の労働条件より低いとしても、働き方に限定があることによりその「低さ」が相殺されていることが示唆された。そして、非正社員から限定正社員への登用が行われていない事業所に限定するならば、職種に限定があることによるメリット、勤務地に限定があることによるメリットが確認された。

具体的には、勤務地限定正社員の「現在の生活全体」に対する満足度が、他の社員区分(限定のない正社員、非正社員からの登用が行われている事業所に勤務する勤務地限定正社員、非正社員)と比べて高くなっている。職種限定正社員についても、「仕事の内容・やりがい」について同様の傾向が見られた。これらから、非正社員から限定正社員への登用が行われていない事業所に限定するならば、限定正社員区分は、多様な働き方を実現していると結論づけられる。

Ono次に、こちらは派遣研究の女王小野晶子さんを中心とした『派遣労働の働き方とキャリアの実態』です。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0160.htm

こちらは「政策的インプリケーション」から:

1.非正規雇用で初職をスタートさせた若年者に対するキャリア形成の手段として、派遣労働を踏み石として正社員へと転換させていく方策が必要である。

2.派遣先企業に対して派遣労働者の育成を推進させる方策が必要:派遣労働者のキャリア形成には派遣先でのOJTが有効であり、就業意欲を向上させる手段としても能力開発視点を派遣先の職場に持ってもらう必要がある。

3.派遣労働者の処遇向上には、派遣元や派遣先との賃金交渉を積極的に行う行動が求められる。一方で、職務遂行や難易度を評価し、段階的な賃金を構築することが必要である。

4.現在は正社員転換の形態として、引き抜きが多くを占めるが、事前に正社員転換の要件、それまでの期間等を伝え、適正な働き方が担保される必要がある。

5.非正規労働の政策課題では、調査分析も含め、自発的、非自発的就業を必ず峻別して政策議論を進める必要がある。

Ikezoeそして、池添さんを中心とした労働時間に関する報告(資料シリーズ)として『労働時間に関する企業等ヒアリング調査―裁量労働制、勤務間インターバル制を中心に―』が出ています。

http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2013/13-120.htm

勤務間インターバルに関するまとまった調査としてははじめてではないでしょうか。

制度導入の経緯として、

長時間労働の傾向のある企業が、その削減の一環として導入している場合が多いようである。しかし、裁量労働制を導入している企業では、相容れないとして導入(適用)していない企業もある。運輸系企業では、改善基準告示に対応するため導入しいている。食品サービス業では、労働環境改善等に資するとの考えから導入している。医療業では、看護師の長時間労働削減とともに、夜勤時間の短縮、医療現場での事故防止等も含めシフトの組み方の工夫を通じて勤務間隔を空けていた。シフト体制を組む建設現場作業員については、作業員の長時間労働、またそのための疲弊感が強く、安全面での問題があるため、導入している。

と指摘されています。

このほかにも、今日的な政策課題に応える研究成果が載っていますので、是非JILPTのサイトを覗いてみてください。

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ジョブ型正社員が(貴様ぁ)解雇しやすいなんてのは大嘘

間違った認識のマスコミ報道が、その認識に基づいた間違った理解を生み出し、それに対してまっとうな現実認識を持った人が、元々の議論に対してとんでもなく的の外れた批判をしてしまう・・・という奇怪な事態が、ジョブ型正社員構想をめぐって起こっていることを、この冷泉彰彦さんの文章ほど見事に浮き彫りにしているものはないように思われます。

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2013/06/post-563.php(「限定正社員」構想の議論、欧米では一般的だというのは大ウソ)

もちろん、冷泉さんは、職務や勤務地、労働時間が限定された労働者が欧米で一般的だということを否定しているわけではありません。

冷泉さんがウソだと言っているのは、元々のジョブ型正社員の議論とは全く逆のインチキな議論、すなわち、ジョブ型正社員は好き放題にクビにできるかのごとき議論です。

ですが、解雇に関しては「管理職や専門職は簡単に解雇される」一方で「一般職の雇用は組合や雇用契約で守られている」のです。勿論、一般職も事業所の閉鎖などの場合は、現状の日本の法制よりは解雇される可能性は高いと思います。ですが、高給な管理職や専門職よりも、一般職が「簡単に切られる」とか「景気変動や人材流動化の対象」になるなどということは「ない」のです。

ちょっとこの言い方も雑で、ノンエリート労働者は基本的にリストラの際にはセニョリティルールに従って順番にレイオフされるのが普通ですから、景気変動の対象にはなるのです。ただ、最近のマスコミ報道がそもそもジョブ型正社員とは何かという根本認識を完全に無視して、単に解雇しやすいということしか書かないために、それを読んだ冷泉さんが「簡単に切られる」なんてウソだと言いたくなるのは当然でしょう。

とにかく「管理職や専門職より低位の正社員」の方が「より解雇されやすい」などという制度は欧米にはありません。アメリカには少なくともないし、EUの場合は更に雇用を守る法制になっていると思います。この点で「解雇しやすい限定正社員制度」なるものが「欧米では一般的」などというのは大ウソです。

何でこんな訳の分からない話になってしまうのかというと、結局本来雇用契約の基盤であるジョブ自体がなくなった場合の話をしていたはずなのに、あたかもジョブ型正社員であれば仕事がちゃんとありその仕事をちゃんとやっていても貴様ぁ解雇がやりたい放題にできるかのごとき完全に間違った印象を、マスコミ報道が与え続けたからではないのでしょうかね。

もちろん、政府のいろんな会議の委員諸氏が、何かというと(ジョブレス解雇ではなく)貴様ぁ解雇がやりたくて仕方がないという風なことを繰り返し語っているからでもあり、マスコミはそれをそのまま報じているからでもありますが。

ここまで歪みきってしまったジョブ型正社員の理解を、どうやったらまともに戻せるのか、ほとほと徒労感がにじみ出てきますな。

こういう間違った認識のままジョブ型正社員の議論が進められるととんでもない方向に暴走しかねないので、1年くらい冷却期間をおいた方がいいかもしれません。下手にスピード感なんか持たずに・・・。

本来のジョブ型正社員については、こういうのをちゃんと読んでください。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/sekaikaiko.html(「労使双方が納得する」解雇規制とは何か──解雇規制緩和論の正しい論じ方(『世界』2013年5月号)

(参考)

sumiyoshi_49さんの冷静な評言

https://twitter.com/sumiyoshi_49/status/342041538924261376

左翼の人たちが濱口氏のジョブ型正社員論を口汚く批判したのは、それを日本に導入した場合の政治的帰結を直感的に予想していた点では間違ってなかったのかもしれない。

ついでに、

https://twitter.com/tucan/status/342263039707459584

「ジョブ型」っていう呼称は、濱口先生の定義づけが参考にされているのかなあ。だとしたら、濱口先生はどんな思いで今の状況をみているんだろうか。

でもね、ちょうど2か月前に、ちゃんとこういうことを言ってたんですよ、わたしは。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-02ac.html(ジョブ型雇用システムをまったく理解していない解雇自由派)

昨今の解雇規制をめぐる議論がぐちゃぐちゃになる一つの理由は、左派がメンバーシップ型感覚にどっぷりつかってジョブ型システムをまったく理解していないということもありますが、それ以上に事態を悲惨なものにしているのは、自分では欧米型を主張しているつもり(あくまでも「つもり」)の連中が、実は極めて日本的な「貴様ぁ解雇」「この無能野郎解雇」を意識的無意識的に前提にしていることでしょう。

ある種の人々は、なにかというと無能な中高年をクビにして云々というけれども、そもそも明確なジョブディスクリプションのない日本だから、そういう言葉だけの無能呼ばわりができるのであって、仕事のスペックを明確にして雇っている世界であれば、それができていないということをきちんと立証しなければいけないのですよ。

実際、成果主義でなんぼの特殊なエリートの世界を別にすれば、普通の労働者が能力を理由に解雇できるのは、傷病や障害で職業能力を喪失した場合とか、できると思って雇ってみたけど、全然できなかったという雇用当初の時期くらいでしょう。そのために試用期間というのがあるわけですね。

これを裏からいえば、「これができる」で採用して、ずっと雇用し続けてきているということは、それができると認め続けてきているわけで、中高年になって急に無能になったなんて理屈は通るはずがない。いうまでもなく、中高年になっても同じ仕事のベテランになるだけで、管理職にならないのがデフォルトだからですが。

そういう雇用システムの違いをまったく理解しないまま(あるいはうすうすわかっていながらあえて無視して)、一方的なデマを飛ばし続ける人々は何なんだろうか、と思わざるを得ません。

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呉学殊他『労使コミュニケーションの経営資源性と課題』

Oh呉学殊さんを中心とする研究グループの報告書(資料シリーズ)『労使コミュニケーションの経営資源性と課題』が公表されました。

http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2013/13-124.htm

労使コミュニケーションの経営資源性の実態を究明し、その資源性をより多くの労使に広げて企業の発展と労働者の働き甲斐のある職場の実現を図るとともに それに必要な政策的課題を探ること。

を目的として、次のような事実発見を行っています。

中小企業では、朝礼、日報、部門会議、社長質問会、経営チェックシート、経営指針発表会など多様な労使コミュニケーションが行われている。労使コミュニケーションの種類は各社各様であり、また、労使コミュニケーションの円滑化を決断した背景も異なる。労使コミュニケーションの効果を3つの側面で確認することが出来る。第1に、企業内効果として、企業の持続的な発展・利益創出・収益体質の向上、労働生産性の向上、対外環境適応力の向上、定着率の向上(離職率の低下)等を挙げることが出来る。

第2に、労働者効果として、仕事の進め方、設備の導入、残業の決定、人事評価などにおいて企業からの権限委譲の下、労働者が自主性・自発性を発揮し、自分の能力や可能性を最大限発揮し、自己実現を果たしている。

第3に、企業外効果として、労働者の働きやすい職場環境の醸成とワーク・ライフ・バランス等の推進により、少子高齢化や非正規労働者・雇用問題の解消、そして旺盛な社会貢献等を果たしている。

以上のような労使コミュニケーションを生み出すための要件としては次のような「3K2S」が必要である。第1に、社長が労使コミュニケーションの重要性を認識し、それを本格的に行おうとする決断(Ketsudan)、第2に、企業の全経営情報を一般従業員に開示する経営情報の完全公開(Koukai)、第3に、従業員の自主性・自発性が発揮できるように、社長の権限を従業員に委譲する権限委譲(Kengenijou)、第4に、労使が相手の存在を自分と等しく認める労使の相互尊重(SougoSonnchou)、そして、第5に、言動の一致、相手の言動の予見可能性が見える相互信頼(SougoShinrai)である。

さらに、労使コミュニケーションが、その効果をより多く生み出していく好循環の実現には、使用者の半労働者化、労働者の半経営者化が求められる。使用者(社長)は、従業員が就業規則に従うように、自らの行動や報酬を明らかにして守り、従業員からのチェックを受ける「使用者の半労働者化」が進むと、従業員は、社長・会社を信頼し、会社の利益=自分達の利益という認識の下、働く意欲と能力、チームワーク等の労働の質を高めるとともに、視野を会社全体に広げて判断するという「労働者の半経営者化」が進む。それにより、企業の持続的な維持・発展が実現し、社長も従業員もウィン・ウィンすることが出来る。

執筆担当は、呉さんのほかに、前浦穂高さん、鈴木誠さんです。

ちなみに、先日連合主催で行われたシンポジウム「日本の未来を拓く労使関係~活力ある企業と働きやすい職場づくりをめざして~」は、呉さんのほか、本報告書で加盟企業が多く取り上げられている中小企業家同友会の平田事務局長さんも出ていたようです。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/rengonews/2013/20130528_1369645812.html

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