労働政策レポート『団結と参加―労使関係法政策の近現代史』
こちらは、わたくしが既存の邦語文献をもとにまとめたものです。
http://www.jil.go.jp/institute/rodo/2013/010.htm
こちらも、まえがきを引いておきます。
最近、非正規労働問題の解決の道筋として集団的労使関係システムに着目する議論がいくつかなされています。たとえば厚生労働省の「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」が2012年3月にとりまとめた報告書は、「職務の内容や責任の度合い等に応じた公正な処遇」を求めた上で、「・・・労働契約の締結等に当たって、個々の企業で、労働者と使用者が、自主的な交渉の下で、対等の立場での合意に基づき、それぞれの実情を踏まえて適切に労働条件を決定できるよう、集団的労使関係システムが企業内の全ての労働者に効果的に機能する仕組みの整備が必要である。」と、やや踏み込んだ提起をしています。
ここで、「集団的労使関係システム」に注がつけられ、「集団的労使関係システムにおける労働者の代表として、ここでは、労働組合のほか、民主的に選出された従業員代表等を想定している」と書かれています。ここには、これまでほとんど議論の対象になってこなかった集団的労使関係システムを通じた非正規労働問題の解決という道筋が垣間見えているともいえます。
こうした問題意識は、たとえば2011 年2 月の「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」報告書でも、待遇に関する納得性の向上に関わって「このため、ドイツの事業所委員会やフランスの従業員代表制度を参考に、事業主、通常の労働者及びパートタイム労働者を構成員とし、パートタイム労働者の待遇等について協議することを目的とする労使委員会を設置することが適当ではないかとの考え方がある」と、かなり積極的姿勢に踏み込んでいます。
もっとも、その直後に「ただし、日本では、一般的には労使委員会の枠組みは構築されていないことから、パートタイム労働者についてのみ同制度を構築することに関して検討が必要となろう」とあるところからすると、この問題は集団的労使関係システム全体の再検討の中で検討されるべきという姿勢のようにも見えます。
こうした考え方は労働法学者にも共有されるようになっています。たとえば菅野和夫氏の『労働法第十版』(弘文堂)においても、「特に、正規雇用者と非正規雇用者間の公平な処遇体系を実現するためには、非正規雇用者をも包含した企業や職場の集団的話し合いの場をどのように構築するかを、従業員代表法制と労働組合法制の双方にわたって検討すべきと思われる。」と書かれるに至りました。
今後、様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制の在り方に関して、法政策的な検討が積極的に進められていくことが期待されますが、そのための基礎作業としても、ドイツやフランスなどいつも取り上げられる諸国に限らず、世界各国の集団的労使関係法制のあり方を、労働組合法制と従業員代表法制の双方に目を配りながら把握することが重要となります。
本レポートでは、濱口桂一郎統括研究員が、既存の邦語文献をもとに世界各国の集団的労使関係法制を歴史的推移に重点を置きながら概観しています。今後展開される集団的労使関係法制をめぐる法政策論議になにがしか役立てば幸いです。
目次は以下の通りです。
序章 労使関係法政策の諸類型と日本法制の性格
1 集団的労使関係法政策の諸類型
2 日本の集団的労使関係法制の性格第1章 イギリス
1 労働者規制法と職人規制法
(付) 救貧法制
2 団結禁止法
3 友愛組合
4 工場法
5 団結禁止法の撤廃とその修正
6 主従法
7 1871年法
8 1875年法
9 1906年労働争議法
10 1913年労働組合法
11 第一次大戦と職場委員
12 ホイットレー委員会
13 賃金委員会法
14 1927年労働争議・労働組合法
15 強制仲裁制度
16 第二次大戦と合同生産委員会
17 ドノヴァン報告書
18 1971年労使関係法
19 70年代労働党の労使関係法政策
20 経営参加構想
21 サッチャー政権の労使関係法政策
22 メージャー政権の労使関係法政策
23 賃金政策の推移
24 ブレア政権の労使関係法政策
25 EU指令に基づく情報協議規則第2章 フランス
1 絶対王制下の同職組合とマニュファクチュール
2 フランス革命期の団結禁止政策
3 二月革命期の国立作業場
4 第二帝政の労使関係法政策
5 第三共和制の労使関係法政策
6 労働組合の発展と第一次大戦後の労使関係法政策
7 全国経済審議会
8 人民戦線内閣の労働立法
9 ヴィシー政府の労使関係法政策
(付) コルポラティスム
10 終戦直後期の労使関係法政策
11 1950年労働協約法
12 労働者参加の推進
13 企業内組合権の確立
14 オルー法
15 オブリー法
16 フイヨン法
17 2008年法第3章 ドイツ
1 ツンフト体制
2 営業の自由と団結禁止
3 三月革命と団結自由
4 第二帝政の労使関係法政策
5 共同決定制の生成
6 第一次大戦と城内平和
7 11月革命とワイマール共和国の労使関係法政策
8 事業所委員会の確立
9 紛争調整制度の確立
10 ナチスの労使関係法政策
11 西ドイツにおける労使関係法制の再建
12 共同決定制の開花
13 1972年事業所組織法改正
14 1976年共同決定法
15 ドイツ統一以後第4章 ドイツ周辺諸国
第1節 オーストリア
1 団結禁止時代
2 三月革命と団結自由
3 第一次大戦とオーストリア革命
4 教権ファシズムとナチス支配
5 第二共和国第2節 スイス
1 労働協約法制のパイオニア
2 被用者代表法制の成立第3節 ベルギー
1 第一次大戦前の労使関係法政策
2 戦間期の労使関係法政策
3 第二次大戦後の労使関係法政策第4節 オランダ
1 第二次大戦前の労使関係法政策
2 ドイツ占領体制とネオ・コーポラティズムの形成
3 労使協議制第5章 北欧諸国
第1節 スウェーデン
1 12月の妥協と労働協約法
2 基本協約
3 企業協議会
4 共同決定法第2節 デンマーク
第3節 ノルウェー
第4節 フィンランド
第6章 南欧諸国
第1節 イタリア
1 労働運動の形成
2 国家の政策
3 工場評議会運動
4 ファシズムの労使関係法政策
5 戦後労使関係の枠組みと憲法
6 「熱い秋」と労働者憲章法
7 被用者代表制度の再確立第2節 スペイン
1 王制期とプリモ・デ・リヴェラ体制
2 第二共和政の労使関係法政策
3 フランコ体制と労働憲章
4 戦後フランコ体制下の労使関係法政策
5 民主化後の労使関係法政策第3節 ポルトガル
第7章 東欧諸国
第1節 ロシア(ソビエト)
1 帝政ロシアの労使関係法政策
2 ロシア二月革命
3 ロシア十月革命と戦時共産主義
4 ネップ時代の労使関係法政策
5 スターリン時代の労使関係法政策
6 非スターリン化時代の労使関係法政策
7 ペレストロイカの労使関係法政策
8 体制転換後のロシア労使関係法政策第2節 ポーランド
1 社会主義体制下の労使関係法政策
2 連帯運動以後の労使関係法政策
3 体制転換前後の労使関係法政策
4 体制転換後の労使関係法政策第3節 (旧)ユーゴスラビア
1 社会主義体制の成立
2 労働者自主管理の展開
3 労働者自主管理の解体第8章 アメリカ
1 労働差止命令とシャーマン法
2 クレイトン法
3 第一次大戦と全国戦時労働局
4 鉄道労働法制
5 福祉資本主義と被用者代表制
6 ノリス・ラガーディア法
7 全国産業復興法
8 ワグナー法
9 ニュー・ディール型労使関係の企業別的性質
10 第二次大戦と戦時労使関係
11 タフト・ハートレー法
12 ランドラム・グリフィン法
13 GM-UAW協約体制
14 労働法改善法案
15 ダンロップ委員会報告とチーム法案
16 被用者自由選択法案第9章 その他のアングロサクソン諸国
第1節 カナダ
1 労働争議調査法
2 戦時立法
3 労働関係争議調査法
4 労働法典第5部第2節 オーストラリア
1 強制仲裁制度の成立
2 強制仲裁制度の推移
3 企業レベル協定への法改正
4 職場関係法
5 労働選択法
6 公正労働法第3節 ニュージーランド
1 強制仲裁制度の成立
2 労働党政権の改革
3 1991年雇用契約法
4 2000年雇用関係法第10章 日本
1 治安警察法
2 労働組合法制定に向けた動きの始まり
3 労働委員会法案
4 若槻内閣の労働組合法案
5 労働争議調停法
6 濱口内閣の労働組合法案
7 産業委員会法案とその後
8 産業報国会
9 1945年労働組合法
10 労働関係調整法
11 経営協議会
12 占領政策の転換
13 1949年の法改正
14 1952年の法改正
15 スト規制法
16 労使協議制
17 過半数代表制
18 公共部門の労働基本権問題
19 労使委員会をめぐる法政策論
20 集団的労使関係法制への関心の高まり第11章 韓国
1 日本統治下の朝鮮
2 アメリカ軍政時代
3 李承晩政権の労使関係法政策
4 朴正熙政権の労使関係法政策
5 維新体制の労使関係法政策
6 全斗煥政権の労使関係法政策
7 民主化宣言と1987年改正
8 三禁問題の混迷
9 三禁問題と1996年改正
10 アジア通貨危機と1998年改正
11 2010年改正第12章 中国
第1節 中華民国
1 清朝末期の労働争議禁圧政策
2 北京政府の労働争議禁圧政策
3 広東政府の労使関係法政策
4 国民政府(広東、武漢)の労使関係法政策
5 南京国民政府の労使関係法政策
6 日中戦争期の労使関係法政策
7 国共内戦期の労使関係法政策第2節 中華人民共和国
1 建国期の労使関係法政策
2 社会主義化時代の労使関係法政策
3 大躍進と文化大革命
4 改革開放時代の労使関係法政策
5 1992年工会法
6 1993年労働争議処理条例
7 1994年労働法
8 2001年工会法
9 2007年労働契約法と労働紛争調停仲裁法第3節 台湾
1 国民政府による接収
2 台湾国民政府の労使関係法政策
3 戒厳令解除と改正労資争議処理法
4 労使関係法制大改正への道程
5 新工会法
6 新団体協約法
7 新労資争議処理法第13章 その他のアジア諸国
第1節 フィリピン
1 弾圧の時代と黙認の時代
2 強制仲裁制度の時代
3 団体交渉制度の時代
4 任意仲裁・強制仲裁の枠内での団体交渉制度の時代
5 その後の推移第2節 タイ
1 初期労働立法
2 1956年労働法
3 革命団布告第19号
4 革命団布告第103号
5 1975年労働関係法
6 弾圧と融和
7 その後の動向第3節 マレーシア
1 英領マラヤの労働組合令
2 独立マレーシアの労働組合法制
3 1971年改正
4 1980年改正
5 1989年改正第4節 シンガポール
1 独立以前の労使関係法制
2 独立シンガポールの労使関係法制第5節 インドネシア
1 独立からスカルノ時代
2 スハルト時代の法制
3 通貨危機とスハルト後の法制改革第6節 ベトナム
1 独立直後の時期
2 ベトナム戦争と社会主義化の時代
3 ドイモイ時代の労使関係法制
4 労使関係法制の動向第7節 ミャンマー(ビルマ)
1 植民地時代からクーデタまで
2 社会主義時代
3 民政移管と2011年労働組合法第8節 インド
1 1926年労働組合法
2 1947年の労働組合法改正と労働争議法
3 労使関係法制改正の試み
4 その後の動向
« 細川良・山本陽大『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約』 | トップページ | 内閣府規制改革会議第2回雇用ワーキング・グループでプレゼン »
« 細川良・山本陽大『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約』 | トップページ | 内閣府規制改革会議第2回雇用ワーキング・グループでプレゼン »
コメント