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細川良・山本陽大『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約』

GermanJFrance_2ILPTの研究報告書として『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約』(第1巻:ドイツ編。第2巻:フランス編)がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0157.htm

執筆者は、ドイツ編が山本陽大さん、フランス編が細川良さん、いずれもJILPTの若手労働法研究者です。

そもそもどうしてこういう研究をしているのかについて、まえがきをまず引用しておきます。

現代日本においては、労働法制上は労働組合が使用者ないし使用者団体と締結する労働協約が使用者の定める就業規則に優越する法規範として位置づけられているにもかかわらず、企業別組合中心の労働社会においてその存在感は希薄であり、過半数組合ないし過半数代表者の意見を聴取するとはいえ使用者の一方的決定による就業規則が法規範の中心的存在となっている。例えば、菅野和夫『新・雇用社会の法』においても、就業規則を「雇用関係の基本的規範」と呼んでおり、規範としての労働協約の影は極めて薄い。
これに対し、欧州諸国では全国レベルや産業レベルで労働組合と使用者団体との間で締結される労働協約が国家法と企業レベルを媒介する重要な法規範として労働社会を規制しており、その位置づけは極めて高いものがあるといわれている。その典型的な諸国としては、ドイツやフランスが挙げられる。こうしたマクロ社会的な労使の自治規範がほとんど存在しない日本においては、ミクロな企業レベルを超える問題は直ちに国家法の問題となるため、例えば労働時間問題などにおいても、過度に法律政策に依存したものになりがちとの指摘もある。
もっとも近年は、これら諸国においても事業所協定や企業協約への分権化の傾向が指摘されており、産業別協約がどの程度規範としての力を保持しているのか、関心を呼んでいるところである。
そこで、労働政策研究・研修機構においては、産業レベル労働協約が中心である欧州諸国、具体的にはドイツ及びフランスを対象として、現代先進諸国における規範設定に係る集団的労使関係のあり方を調査研究することとした。具体的には、国、産業レベルの団体交渉、労働協約とその拡張適用、企業や事業所レベルにおける労働組合ないし従業員代表機関との協議交渉や協定等について、実証的かつ包括的に調査研究し、これからの日本の労働社会のあり方に関するマクロ的議論の素材とすることを目指している。
今年度はまず、ドイツ、フランス両国の集団的労使関係法制の現状を分析するとともに、両国における産業別協約の実態を明らかにした。
本報告書が多くの人々に活用され、今後の労働法政策に関わる政策論議に役立てば幸いである。

研究計画では、初年度は産業レベルの労働協約の実態を調査し、2年度は企業・事業所レベルの実態を調査する予定です。

この報告書はその初年度の報告書で、関心のある方々には大変有用だと思われます。

是非リンク先でダウンロードしてお読みいただきたいと思いますが、取り敢えずどういうことが書いてあるのかを本人らによる概要によると、

(1) ドイツの産業別協約

ドイツにおいては、法律上、労働協約は労働組合員に対してのみ直接適用されることとなっているが(労働協約法3条1項)、実務上は、非組合員と使用者との個別労働契約のなかで、当該非組合員に対して、組合員に適用されている労働協約を適用する旨の条項(援用条項)が置かれることで、非組合員に対しても間接的に労働協約を適用するという取り扱いが頻繁に置かれている。そして、ドイツの統計を見ると、このような労働協約の直接的・間接的適用により、現在でも旧西ドイツ地域において約7割、旧東ドイツ地域でも約6割の労働者が、産業別労働協約が定める労働条件のもとで就労している。このことからすれば、ドイツにおいて産業別労働協約は、現在でも労働者の多数をその適用下に置いているのであって、労働関係における規範設定に当たり、なお重要な地位を占めているものと評価することができる。

もっとも、このような協約適用率は、近年一貫して低下傾向にある。これには、産業別労働組合・使用者団体の組織率低下、使用者団体内における「協約に拘束されない構成員」の増加、企業別労働協約の増加、開放条項の多用、一般的拘束力宣言を受けた労働協約数の増加など、様々な要因が作用している。これらの要因を検討したところによれば、ドイツにおいて産業別労働協約が保持していた企業横断的な労働条件規制力は、従来に比べれば着実に弱体化しており、我が国においてもつとに指摘されてきたドイツにおける産業別労働協約の「危機」や「動揺」は現在もなお進行中であるといえる。

特に、労働条件規制権限の産業レベルから企業・事業所レベルへ「分権化」との関連では、かかる分権化には、2つの傾向が指摘できる。1つは企業別労働協約の締結による労働条件規制であり、もう1つは産業別労働協約が定めた開放条項を利用することによる事業所協定の締結を通じた労働条件規制である。本研究では、とりわけ後者に着目し、金属産業およびサービス産業(小売業)の労働協約を採り上げ、実際に産業別労働協約がどの程度開放条項を置き、事業所内労使関係(事業所委員会と個別使用者間の労使関係)に労働条件規制権限を委ねているのかを明らかにした。それによれば、金属産業においては、週所定労働時間の配分・延長や、土曜労働、労働時間口座制の導入、週10時間・月20時間を上限とする時間外労働時間、操業短縮の実施、深夜労働および日曜祝祭日労働の実施など、主に労働時間に関する事項を中心に労働者の重要な利害に関わる開放条項が複数存在する。また、賃金関係でも、協約が定めているのとは異なる賃金等級や格付手続きを事業所協定により定める旨の開放条項や、労働協約による賃金引上げが企業の経営危機をもたらす場合、使用者と事業所委員会は、協約当事者に対して、当該事業所に関して特別な取り扱いをするよう、提案することができる旨の開放条項があり、事業所パートナーに対してかなり分権化の途を開いている。これに対して、小売業の労働協約についてみると、労働者の重要な利害に関わるものとしては、52週間の範囲内で平均的週労働時間が37.5時間となる限りにおいて、週所定労働時間の変形を認める変形労働時間制や、パートタイム労働者の労働時間の配分を原則5日から6日へ延長することを、事業所協定によって行うことができるという開放条項が存在する程度であり、金属産業に比べて、開放条項の数が極めて少ない。それゆえ、小売業においては事業所協定の締結による労働条件規制権限の分権化の余地に乏しいといえようが、他方で企業別協約の締結による分権化が生じている可能性はなお残されている。

(2) フランスの産業別協約

フランスにおいては、労働組合が当該産業における職業(労働者全体)の代表であると位置づけられ、職業(産業)単位で労働条件を規律してきたというその歴史的経緯も影響し、近年における企業内労使交渉を促進する政策にもかかわらず、現在においてもなお(特に中小企業、および中小企業が多い産業において)企業内の労使関係が十分に成熟しておらず、労働条件決定には、企業別協約・協定との一定の役割分担を前提に、今なお産業別ないし職種別労働協約が大きな影響力を有している。その証左の1つとして、産業別労働協約の規定内容が非常に細かく、労働者にとって自身が適用される産業別ないし職種別労働協約の規定内容が非常に重要となっており、産業別ないし職種別労働協約は、とりわけ、産業別ないし職種別最低賃金の設定を通じた市場における労働条件引き下げ競争の防止、産業別職業資格制度の確立および職業教育の実施を通じた労働者のキャリア形成について、主要な機能を果たしている。

ただし、フランスの産業別労働協約は、あくまでも産業別の「最低基準」を設定するものであるので、当該産業における大企業(あるいは中企業)、また地位の高い労働者(管理職等)については企業別協約ないし個別の契約により、労働条件が上乗せされるあるいは独自に決定されているケースが多く、これに対し、従業員200人未満の小規模企業においては、1.でも述べたとおり、企業内の交渉が実体的にはほとんど存在しない結果、産業別ないし職種別労働協約に定める労働条件がほぼそのまま適用されているケースが多い。この結果、具体的には大企業における労働者と小企業における労働者とではおおよそ1:2~1:3程度の賃金の差異が生じている。

2004年の法改正により、企業別協約による産業別労働協約・協定の適用除外制度が導入され、企業別協約によって産業別労働協約の定める労働条件を不利益に変更することができないとする、いわゆる「有利原則」に基づいた労働協約の「階層性」は、制度上は突き崩された。しかし、その実態をみると、企業別協約による産業別労働協約の適用除外の仕組みはほとんど利用されておらず、すなわち現状においては「有利原則の撤廃」は象徴的意味を有するにとどまり、企業単位で労働条件を決定するといういわゆる労働条件決定の「分権化」はほとんど進んでいないのが実情である。その背景には、フランスにおける企業別交渉(労使関係)の基盤の脆弱性、特に中小企業における使用者の(企業別)労使交渉に対する忌避に加え、労働組合のみならず、使用者側においても、産業レベルで労働条件の最低基準をコントロールすることの重要性が今なお(産業別の使用者団体を中心に)一定の支持を受けていることがある。ただし、政府の方針およびフランス経団連の方針として、企業別交渉の基盤を整備する法政策の推進が検討されており、企業別交渉の基盤整備の促進により、こうした状況が変化していくのか、今後注目していく必要がある。

 

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