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OECDの解雇指標について

原田さんのコメントに対するとりあえずの情報を簡単に。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-0c27.html#comment-96582704

ペンネーム原田と申します。

MyNewsJapanの渡邉正裕氏が『「解雇ルール見直し」に強まる反発(http://toyokeizai.net/articles/-/13535?page=2)』について、『この文脈は正社員についての話だから事実誤認。正社員は堂々1位』とtwitterで述べております。

渡邉氏がジョブレス解雇と貴様ぁ解雇を単純比較すること自体に違和感がありますが、この指摘は事実でしょうか。

おそらく、これを論拠に解雇自由論を展開してくると思われますので、コメントではなくブログでご意見をお示し頂けると幸いです。

浅学で恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

ここで言われているOECDのデータは、

http://www.oecd.org/employment/emp/oecdindicatorsofemploymentprotection.htm

46085712figure201

ですね。

一目見れば分かるように、日本(左から8番目)の正社員の解雇規制は決して一番厳しくはないですね。コメントに対するお答えとしては、実はこれだけでおしまいで、OECDが日本の正社員が一番厳しいと言っているというのはウソです。以上。

ただ、そもそもこのグラフが、どういうデータを組み合わせて作られているのかを知らないと、日本は比較的緩いというOECDが言っていること自体がどうなのか、と言う疑問がわくでしょう。と言うか、わかないと困るわけですよ。

その辺を、その一つ前のOECDのデータについて解説したのが、『ビジネス・レーバー・トレンド』2007年7月号に、藤井宏一さんが書いた「OECDにおける雇用保護法制に関する議論について」と言う文章です。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/bn/2007-07/P26-33.pdf

ここには、OECDのこの指標がどういうデータを組み合わせたものかが載っています。

これを見ると、特に日本について、をいをい!という点が結構見受けられます。

28ページを見て下さい。

解雇予告手当の下にそれとは別に「解雇手当」という欄があって、勤続20年で2.9か月分とか書いてありますが、そんなのどこにあるの?とか、不当解雇の補償が9か月分とか、いったい何を見て書いてるの?みたいな。

確かに、ヨーロッパ諸国の感覚からすると、不当解雇の補償金が9か月分だったら、「比較的緩い」方になるでしょうね。もっと高い国が結構ありますから。

でもこれは、ヨーロッパ諸国の解雇の金銭解決制度が当たり前の諸国を前提に、裁判の判決では金銭解決がない日本を無理やり当てはめたためにこういうことになっているわけですが、本ブログをご覧の方は疾うにご存じの通り、労働局のあっせん事案など日本の現実はそんなに手厚くないわけですよ。

つまり、原田さんの紹介された「日本が一番厳しいとOECDが言ってる」というのは明白なウソですが、ではそOECDの言っていること(日本の解雇規制はわりと緩い)はどこまで正しいかというと、現実よりも相当程度に厳格な方向に虚構のバイアスのかかった数字である可能性が高いようです。言い換えれば、日本の正社員の解雇規制は、OECDの言う「わりと緩い」というよりも、「もっとずっと遥かに緩い」というのが実態じゃないかと思われます。

この辺は、是非『日本の雇用終了』のデータをもとにして、もういっぺん計算し直して貰うといいかもしれないですね。解決金の平均が10万円台という数字で。

(追記)

気になったので、どうして不当解雇に対する補償が9か月なんていう変な数字が出てきたのかと思って、過去のOECDの文書を遡っていくと、1994年のOECDの雇用アウトルックにたどり着きました。

http://www.oecd.org/employment/emp/2079974.pdf

ここの103ページの「Table 2.A.6. Compensation pay and related provisions following unjustified dismissal」に、日本はこの時は26か月というとんでもなく高額の数字が書かれています。

で、その前の101ページに

Frequent orders of reinstatement with back pay.

しばしばバックペイを伴って復職命令。

そうか、バックペイだから、20年前は裁判が長くて26か月分で、司法改革で裁判が短縮してきたので最近は9か月ですか。

でも、それはヨーロッパ諸国に普通にある金銭補償じゃないですね。

OECDのデータは、きちんと調べていくと、これくらい結構いい加減なんですね。

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コメント

濱口様

ペンネーム原田です。

改めまして、丁寧なご回答を頂き、
ありがとうございました。

さて、河合薫氏が日経ビジネスに寄稿された『「楽に解雇したい!」 規制緩和待望論の裏で早まる企業の死期 企業の寿命を左右するカギは長期雇用』について、国内最大の匿名掲示板2chでも話題なってきているようです。

【安倍政権】 「楽に解雇したい!」 規制緩和待望論の裏で早まる企業の死期 企業の寿命を左右するカギは長期雇用
http://alfalfalfa.com/archives/6435726.html

勝手な思い込みですが、匿名掲示板界隈の方々は盲目的に安倍政権の政策を支持するかと考えていたのですが、反応を見ると反対意見やTPPへの布石だとする意見もあり興味深かったです。

濱口様をはじめとする良識派の労働雇用の有識者の方々の主張が従来のネット右派のみならず、広く人々に伝わっていけばと思います。

投稿: 原田 | 2013年4月 7日 (日) 20時05分

渡邉さんがなにを見て日本が一位だと言ったのかというと、どうもOECDのデータの“Difficulty of dismissal”という欄のようですが、しかし、これは因子が“Definition of justified or unfair dismissal”「不当解雇か正当な解雇かの基準」、“Length of trial period”「試用終了期間」、“Compensation following unfair dismissal”「不当解雇に伴う保障」、“Possibility of reinstatement following unfair dismissal”「不当解雇に伴う復職可能性」、“Maximum time to make a claim of unfair dismissal”「不当解雇への抗議を提起する最大時間」であることから、「解雇の困難さ」ではなく「解雇に関する争議」ではないかと……
しかし、そうであると、日本は世界的にも解雇の際、揉めることが多くて、解決にも時間がかかってるんでしょうか。

投稿: コリオリの力彩芽 | 2013年4月 8日 (月) 05時31分

>コリオリの力彩さん
揉めることが多いのではなく。
法の決定に委ねる場合の困難さとか煩雑さとか期間の長さを
「困難度」みたいな数値としてまとめてるということではないでしょうか

投稿: Dursan | 2013年4月 9日 (火) 05時42分

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