ようやく『POSSE』18号が届きました。特集は左の表紙にあるように「ブラック企業対策会議」です。
http://www.npoposse.jp/magazine/no18.html
特集は「ブラック企業対策会議」です。研究者、評論家、投資家など各界の論客からブラック企業への対抗策の意見を集めました。
国会の首相答弁にも「ブラック企業」が登場し、「ブラック企業」言説が急速に広まっています。
そこで今号の特集は「ブラック企業対策会議」と題し、研究者、評論家、投資家など各界の論客からブラック企業への対抗策の意見を集めました。
また、巻頭には大阪市天王寺区での生活保護「不正受給」に関するルポを掲載。作られた「不正受給」の実態や、生活保護制度がどうあるべきなのか、またブラック企業と生活保護費の引き下げの関係性を検討しました。
ということで、まず目次を。なかなかすごいメンツを集めましたな。
◆特集「ブラック企業対策会議」
「海外に学ぶ労働時間規制」田端博邦(東京大学名誉教授)
なぜ日本で長時間労働を規制できないのか
「「一流企業」批判なくしてブラック企業批判はできない」佐高信(評論家)
社畜批判のあの論客がブラック企業問題を斬る!
「労働の自己疎外から「自生的秩序」の構想へ」柴山桂太(滋賀大学准教授)
グローバル資本主義の深化が、社会の「自己防衛」に帰結する
「地域を空洞化させるブラック企業」三浦展(消費社会研究家、マーケティング・アナリスト)
労働とコミュニティを見直し、シェア社会の実現を
「ラック企業に掘り崩された社会を救うには」常見陽平(作家、人材コンサルタント)
ブラック企業を選んでしまう学生たちへ、就活生とノマドに問う
「フェアな経営のためにブラック企業をつぶせ」山本一郎(投資家、イレギュラーズアンドパートナーズ(株)代表取締役)
経営者が語るブラック企業対策! ブラック企業が業界全体を崩壊させる?
「ブラック企業の消費者も加害者である」岩崎夏海(作家、ブロガー)
ブラック化は資本主義の必然だった?
「「悪いのはアナタじゃない!」――会社の奴隷と化す前に」河合薫(健康社会学者)
「ブラック企業の若者を救済するための策」海老原嗣生(人事コンサルタント、編集者)
苦しいのは失業者だけではない
「政治が変わらなければブラック企業は変わらない」山下芳生(日本共産党参議院議員)
なぜ若者に雇用政策は届かなかったのか?
「“職業的意義のある教育”で「強み」と「当事者意識」の育成を」本田由紀(東京大学大学院教授)
意識調査から見えてきた、若者の労働環境を変えるカギ
「なぜ労基署は「使いにくい」のか?――労働基準監督官に聞く、労基署の実態と「正しい」使い方」労働基準監督署官
労基署にいるのはどんな人たちなのか?
「過労死の労災認定と遺族の取り組み」本誌編集部
過労死・過労自殺の労災認定により、遺族の救済と長時間労働の社会問題化を
「生活保護制度の破壊は最悪のブラック企業支援策」川久保尭弘(京都POSSE代表)
労働市場規制のための社会保障の充実を
「15分でわかるブラック企業――長時間労働と過労死」「ブラック企業を考えるための11冊」
「作られた「不正受給」――犯罪取り締まりではなく、福祉の専門家による支援の必要性」
岩橋誠(京都POSSE事務局)
「ほんとうに必要な貧困支援とは何か――生活保護制度に求められる根本的改革」
藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事)
「格差の広がる韓国社会に福祉国家政策を」韓国福祉国家ソサイエティ
「韓国の若者労働運動――その現場から」韓国青年ユニオン
「「これから」のマルクスとユニオニズム――現代日本の左派における資本主義批判再定義」
木下武男(昭和女子大学特任教授)×佐々木隆治(一橋大学社会学研究科特別研究員)
「学生アルバイトの基幹化に関する調査」本誌編集部
佐高さんのインタビューは、「いかにも」的な展開ですが、でもやはり、こういう発想で議論していったんではダメだよね、という典型になっているように思います。
・・・『ブラック企業』を読んで、まず最初に考えたのが、もちろんブラック企業というのは、とんでもない企業なんだけれども、あなた方の切り口でいったときに、原発の問題がある東京電力がブラック企業から抜けてしまうということが、一番難しい問題だなと思ったわけ。
というわけで、私が例のブラック企業大賞で、一番ダメな点と指摘した東京電力問題が、まったく正反対の観点からこう言われているのを見ると、佐高氏と私はよっぽど対極的なんでしょうね・・・。
(念のため)
https://twitter.com/yamachan_run/status/318660856449757184
今月号のPOSSEはいつもに増して執筆陣がすごいな。hamachan先生・海老原さん・常見さん・本田由紀さんという常連カルテット+三浦展・岩崎夏海・佐高信・やまもといちろう ! ”労基署はなぜ使いにくいのか”という文章もある。
いや、今号に私はいません。私は前号で今野さんとたっぷり対談してますので、。
ちなみに、その17号の今野さんとの対談の一部が、POSSEメンバーズブログに今日アップされています。
http://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/215b098f6516beb647d9bb1ae5d40ec4(ブラック企業への対案は契約の限定とノンエリートである(『POSSE』vol.17))
今回は『POSSE』vol.17に掲載された濱口桂一郎さん(独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員)と、今野晴貴(NPO法人POSSE代表)の対談企画の一部を紹介します。
今野が『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)を出版したのは記憶にあたらしいところですが、2012年の後半は「ブラック企業」という言葉がメディアに取り上げられる頻度も増え、社会的な広がりを持つようになってきています。こうした状況の中で、ブラック企業を批判する言説には、悪徳な経営者へのバッシングという性質のものや、ジャーナリスティックな問題関心から報道されるものも多いです。
対談では、こうした表面的な批判や論評ではなく、理論的な視座をもって議論がなされ、ブラック企業問題への対案として重要になるのは契約の限定とノンエリート論だと述べられています。
濱口「ここに触れないと絶対にブラック企業の問題が解決しないと思っていることがあります。それは、エリート論をエリート論としてきちんと立てろということなんです。つまり、日本では、本当の一部のエリートだけに適用されるべき、エリートだけに正当性のあるロジックを、本来はそこに含まれない、広範な労働者全員に及ぼしています」。(p.131)
今野「現在では、正社員とはまったく違う仕組みであるはずの非正規雇用のなかでも、契約内容が日本型正社員と同じように崩され、無限定に命令されてしまう状況にひきずられています。正社員とは仕事内容も待遇も違う働き方を主張することが、実は一番、労働者の権利を擁護する主張なのではないかということだと思います」。(p.133)
濱口「釣り合いがとれている一部のエリートのあり方を、あたかも全体の姿であるかのごとく、欧米のサラリーマンはこうなるんだと持ち出すと、課長になれる3割にどうやって入るんだという脅しのロジックになります。結局、いままでの日本型システムはダメなんだという議論が、一見日本型システムを否定するようにみえて、実は日本型システムの根幹の部分を維持することによって、かえってブラック企業現象を増幅している。そこのところをきちんと批判しないといけないと思いますね」。(p.134)
今野「ブラック企業に対する対案はノンエリートでなければなりません。とにかく3割しか残れないという仕組みの話を議論する(※)のではなく、切り離された7割の人たちのための雇用システムを議論していけばよいということだと思います」。(p.134)
(※城繁幸『7割は課長にさえなれません』PHP新書)
ブラック企業の定義について、今野はひとまず「日本型雇用からの逸脱」と規定しています。すなわち、従来の正社員であれば日本型雇用システムの枠内で雇用保障がなされ、高処遇にあり、その対価として広範な指揮命令権のもとでの過剰な労働を受け入れるという「釣り合いのとれた」関係がありました。しかし、現代のブラック企業では正社員ですら離職に追い込まれるように、雇用保障がなくなっているが過剰な労働を行なわなければいけないという関係に変化してきています。
こうした広範な指揮命令権の根底にあるのは、雇用契約が職務に基づいていないために、契約内容が実質的に無限定となっていることです(詳細は濱口桂一郎『新しい労働社会』などを参照)。この前提に立ち、ブラック企業問題を克服するため必要なのは、政策的に雇用契約の内容を明確化すると同時に限定をかけることと、無限定の労働が伴う従来の正社員モデルではなく、高処遇ではないが雇用契約が限定された新しい正社員として「ノンエリート論」を立てることの二つだというのが対談で両者の主張が一致したところでした。
ノンエリート論については、昨今注目を集めつつあり、常見陽平『僕たちはガンダムのジムである』や熊沢誠『労働組合運動とはなにか――絆のある働き方をもとめて』といった書籍でも論じられています。ブラック企業への対案としてノンエリート論は、言説的に今後広がりをもっていく可能性があります。
ここではブラック企業への対案についてみてきましたが、対談ではブラック企業の起源や近年の雇用政策の誤謬など、興味深い論点が多数挙がっています。『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』から、さらに立ち入った議論に触れてみたい方、より理解を深めたいという方は一読してみてはいかがでしょうか?
『POSSE』編集部ボランティア(大学生)
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