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2013年4月

2013年4月30日 (火)

『ジュリスト』5月号は高齢者雇用特集

L20130529305『ジュリスト』5月号は「高齢者雇用の時代と実務の対応――高年齢者雇用安定法の改正」という特集です。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/detail/018853

•〔鼎談〕高年齢者雇用安定法改正の評価と高年齢者雇用のこれから●森戸英幸●清家 篤●水町勇一郎……12
•高年齢者雇用安定法改正の概要●厚生労働省……32
•高年齢者の継続雇用制度をめぐる法的課題●山下 昇……37
•高年齢者雇用安定法の改正と逆理的帰結――暗黙の選抜と揺らぐ雇用保障●高木朋代……43
•〔インタビュー〕経団連からみた高年齢者雇用安定法改正の評価と取組●遠藤和夫……49

やはり、森戸、清家、水町という何とも言えない取り合わせの鼎談が読み応えがあります。

それぞれに、自分の本来の考え方と、今回の改正の妥協の距離感を感じつつ、より良き現実への第一歩として論じているあたりがなんとも。

本来定年廃止論の清家さん、年齢差別禁止論の水町さんとの対比で面白いのは、森戸さんが「思い切って解雇してみろよ」論になっている点で、これは労政審での審議がかなり影響しているのでしょうか。

森戸 私は、企業が今回の改正に本当にちゃんと対応しようとするのであれば、場合によっては60歳前でも解雇する、という覚悟を決めなければいけないと思っています。・・・

森戸 企業はこれまで、60歳になったので辞めて下さい。あなたはまだまだできるけれども、60歳定年なんですいませんと言えばよかった。今後はそうではなくて、あなたは定年まで仕方なくつないであげたけど、もう能力的にはゼロなんですよ、と言わなければいけなくなるわけです。私が思うに、経営側が今回の改正案に強く抵抗したのは、本音のところで、「おまえは能力がないから辞めろ」とは言いたくないというのがあったのではないかと。

これは、まさに私も改正の経緯の中で強く感じたことです。その趣旨は、例の海老原さん主催の場でもちょいとしゃべりましたね。

ただ、そういう議論自体が、実は日本型システムにどっぷり浸かった感覚から出てくるものであって、本当にゼロベースで考えて、「もう能力的にはゼロなんですよ」なんて馬鹿なことはほんとはないわけです。そういう風にしてしまったのは、本人の本当の能力とは別に年功的に昇進させて管理職にしてしまってきたからなので、就職したときから「もう能力的にはゼロなんですよ」だったはずはないのですね。

会社の命令であれこれ回されてきたあげくに「もう能力的にはゼロなんですよ」が通用するかという話になると、それはなかなか難しかろうとも思われるわけです。この手の話は全部つながってくるわけですが、日本で能力に基づく解雇も結構難しい最大の理由は、具体的なジョブの遂行能力でもって人事管理をやってないからですから、これは覚悟だけの問題じゃないのですよね。

秋闘で労働法研修を妥結

『労働新聞』5月6日号に、興味深い記事が載っていました。

秋闘・日本介護クラフトユニオン 労働法研修を妥結

という見出しで、

介護労働者らでつくるUAゼンセン・日本介護クラフトユニオンが秋期労働条件闘争で会社側に要求していた「労働法規の研修実施」で一定の成果が上がっていることがわかった。妥結の前提に掲げた会社の費用負担などの条件もほぼクリアし、上々の成果(政策局)としている。・・・

今まで、会社側に労働法研修を要求して実現したという実例があるのかどうかわかりませんが、これはなかなかいいポイントを突いたやり方かもしれませんね。

・・・法律に基づく何らかの措置を求める要求ではなく、労働法そのものの研修機会を会社側に提供させることで職場環境の充実を狙ったのが今回の要求で、受講する労働者にとっては権利意識の向上や働くもののわきまえを涵養する機会になり、研修機会を提供する会社にとっても、自治体監査通過のメリットや研修実施者としての責任感高揚といった効用が期待できる。・・・

このアイディア、ほかの労働組合でも真似してみる値打ちはありそうな・・・。

『現代思想』5月号特集「自殺論」

Isbn9784791712625_2橋口昌治さんより、その論文の掲載された『現代思想』5月号をお送りいただきました。特集「自殺論」です。ありがとうございます。

http://www.seidosha.co.jp/index.php?9784791712625

自殺論  対策の現場から

【イントロダクション】
「誰も自殺に追い込まれることのない社会」をめざして / 清水康之

【討議】
死なせないための、女子会 / 雨宮処凛+川口有美子

【エッセイ】
狂気が希望に転じるとき / 大野更紗 

【自殺対策への批評】
労働の病、レジリエンス、健康への意志 / 北中淳子 
自死の「動機の語彙」としての「うつ病」 労災保険における「自死=病死=災害死」という構図 / 山田陽子 
自殺対策の推進における家族員の責務とその上昇をめぐって / 藤原信行 

【自殺のタイポロジー】
老いらくの自殺 ポスト経済成長時代の超高齢社会から排除される人たち / 天田城介
労働にまつわる死の変化と問題の所在 死傷、過労死から自殺へ / 伊原亮司
「就活自殺」とジェンダー構造 / 橋口昌治

子どもの自殺を消費する社会 / 伊藤茂樹

【死-権力】
「理性的自殺」がとりこぼすもの 続・「死を掛け金に求められる承認」という隘路 / 大谷いづみ
遺体たちの遺書、焼身への差押えを解け 悠久かつ残酷なジャンル、韓国の焼身労働者たちの「評伝」について / 黄鎬徳 田島哲夫訳
絡まり合いと自滅 ドゥルーズ=ガタリのファシズム論の現代的意義の検討 / 篠原雅武

【自殺へのアプローチ】
モラリズムの蔓延 / 小泉義之
自殺の社会学的課題 / 山下雅之
自己、社会、そして神に反して 哲学・法学・文学に見る一八世紀イタリアの自殺論 / F・カンパニョーラ

橋口さんの「「就活自殺」とジェンダー構造」は、就活自殺の原因となっている「正社員になりたい」という心理的圧力の背景にあるものとして、「女だからフリーターもやれる・・・男の人は就職した方が良い」「私にとって、フリーターは『結婚する相手』としては不十分です」「将来のことを考えると男の人は正社員になるべきだと思います」といったジェンダーバイアスがあるとし、妻と子を経済的に扶養できる存在を目指して「正社員になりたい」と努力するが、入口の段階で躓くと「就活自殺」にいたる可能性があると述べています。

もう一つ、本誌で労働問題から自殺を論じている伊原亮司さんの「 労働にまつわる死の変化と問題の所在 死傷、過労死から自殺へ」は、戦後労働史を概観しながら、手際よい頭の整理をしてくれています。次の文章は、読まれるに値するでしょう。

・・・読者は既に気づかれているであろう。「日本的経営」論と労働市場の流動化論のどちらが望ましいかの選択を迫る議論が多いが、その対立図式は本質的な論点を避けていることを。どちらの議論も、働く場の実態を軽視し、労働規制という視点を欠いている。そして、組織か市場かの二者択一の議論に入り込み、組織や市場の外の社会という視点を持たない。それゆえに、職場はいつまで経っても閉ざされた世界であり、職場環境は経営側の「善意」に任されている。・・・

極めて当たり前の判決だが、法の世界では「権利」は主張して初めて問題になる

医師の転職雑誌『DOCTOR'S CAREEA MONTHLY』(リクルート)の2013年5月号に、標題のインタビュー記事が掲載されました。

中身は例の奈良県立病院事件最高裁判決についてですが、この雑誌の読者である医師たちにどれだけ届く話なのか、という気もしたりします。

2月13日、奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が、県に対し当直勤務の時間外手当を求めていた裁判がついに結審した。最高裁は県側の上告を受理せず、当直は労働基準法(労基法)の時間外勤務に当たるとして、県に約1500万円の支払いを命じていた2審判決が確定した。労働政策研究・研修機構統括研究員の濱口桂一郎氏は、「極めて当たり前の判決。病院側が最高裁まで争ったことが不思議なくらいだ」と言う。
 
裁判では、原告医師の当直が労基法の時間規定(1日8時間、週40時間)から除外されるか否かが争点となった。労基法では、41条3項で定めた『監視または断続的労働』と、労基法施行規則第23条にある『宿日直』は、どちらも労働基準監督署長の許可を得ることで時間規定から除外される。県側は、独自に定めた条例で「県立病院における入院患者の病状の急変等に対処するための当直勤務」は断続労働としていることを理由に除外を主張していたが、裁判所は認めなかった。濱口氏は「民間企業が労基法より就業規則を優先させようとするような話でナンセンス」と言い切る。県の認識と法律は大きく乖離していたのだ。
 
「当直勤務とは、医療法で定められた概念ですが、医療法は医療施設のあり方を規定するものです。労基法の『宿日直』とは似て非なるもので、適応除外にはなりません」医療従事者が「監視または断続的労働」「宿日直」となるかどうかは、厚労省が02年に出した通達が基準になっている。そこには“常態としてほとんど労働する必要がない業務のみであり、病室の定時巡回や少数の要注意患者の検脈、検温等の軽度または短時間の業務に限る”とあり、いわゆる“寝当直”のイメージだ。
 
原告の2人は当直中も分娩等の対応に従事し、通達の基準とはかけ離れていたため時間外手当は当然の権利だが、「法の世界では、権利は主張して初めて問題になります」と濱口氏は言う。
 
一方で、宅直の扱いについては、今回は原告の訴えが退けられた。病院側が指示を出した証拠がないことが理由だが、濱口氏によると「たとえば院長が一言『今日の宅直、よろしく頼む』といえば覆ります」というように、これはかなり危ういロジックなのである。今回の判決によって、これからの医療現場にどのような波紋が広がるか、引き続き注目していきたい。

2013年4月29日 (月)

中学校用教科書『職業指導』 について

先日、『労基旬報』に載せた「終戦直後の中学校の労働教育」をこちらにアップしましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-22f7.html(終戦直後の中学校の労働教育)

筆者の勤務する労働政策研究・研修機構には労働図書館という施設があり、雇用労働に関わるさまざまな書籍を収納しています。その書庫には、思いもかけない書籍や文書が眠っていることもあります。たまたま見つけたのは、文部省検定済中学校用教科書『職業指導』でした。発行は昭和22年。終戦直後です。 ・・・

これを読まれた山野晴雄さんが、ご自分のブログでほぼ同じ教科書を引きながら、より詳しい説明をされています。

http://yamatea.at.webry.info/201304/article_12.html(中学校用教科書『職業指導』)

136711980609213227204_img208_2濱口桂一郎さんが、自身のブログに「終戦直後の中学校の労働教育」というテーマで、1947(昭和22)年の文部省検定済中学校用教科書、日本職業指導協会『職業指導』の内容が紹介されています。

私が持っているのは、48年3月に修正発行されたものですが、内容的には大きな変更はないものと思います。

最後のところで、このように述べられています。私も同感です。

この教科書を読む限り、中学校で就職する人が多かった時代に、中学生に労働問題に関する知識もきちんと伝えなければならないということは、文部省(現在の文部科学省)も、教科書を編集した日本職業指導協会(現在の日本進路指導協会)も自明のこととしてとらえていたことがわかります。
しかし、濱口さんも指摘されているように、その自明性は、戦後60年余の間に雲散霧消してしまいました。今日、高校や大学で行われているキャリア教育は、正社員で就職するための「適応」の教育が中心となり、労働法や労働者の権利の教育に関しては、ごく少数の学校でしか取り組まれていません。

先週、大学の「職業指導」の授業で、この職業指導の教科書を紹介しました。
学生の1人は、次のように感想を書いていました。
「普段目にすることのない、古い職業指導の本をみられたのは有意義だった。中学生が自分の進路を一生懸命考えていたのがわかった。
現代の中学生はそんなに進路を考えることはないな、と思った。大学3年生と同じことを中学でやっていたと思うと、すごく驚く」

なお、この山野晴雄さん、長く桜華女学院高校で教鞭を執られ、今は進路指導・キャリア教育関係で活動されている方のようです。

菅野和夫先生に瑞宝重光章

本日付の春の叙勲で、労働法の菅野和夫先生に瑞宝重光章が贈られました。

言うまでもなく、長らく東大法学部で労働法を教えられ、その著『労働法』は国会審議でも引用されたほどです。

最近まで中労委の会長を務められ、今月からJILPTの理事長をされています。

2013年4月27日 (土)

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案

昨日、内閣府の障害者政策委員会差別禁止部会で議論されてきた法律が、ようやく法案として国会に提出されたようです。

http://www8.cao.go.jp/shougai/pdf/kaisyouhouan-anbun.pdf

既に国会に提出されている障害者雇用促進法の改正案において、精神障害者の雇用率制度とともに、雇用における障害者差別の禁止と合理的配慮についての規定が盛り込まれていますので、こっちは雇用・労働以外の分野の障害者差別に関する法案ということですね。

最初の責務に関する訓示規定的なところ:

  (国及び地方公共団体の責務)
第三条 国及び地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない。
  (国民の責務)
第四条 国民は、第一条に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない。
  (社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)
第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

実体的な差別禁止に関する規定は:

      第三章 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置
  (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
  (事業者における障害を理由とする差別の禁止)
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

障害者であることを理由とした入店拒否とかが主たる対象ということになるのでしょうか。

2013年4月26日 (金)

正社員の辞書に「それは私の仕事ではない」という言葉はない

脱社畜さんが

http://dennou-kurage.hatenablog.com/entry/2013/04/24/210130(「これは私の仕事ではない」が強く言えない日本の職場)

112483いや、それは昔から言い古されていることで、わたくしの『日本の雇用と労働法』でも、131ページからのところで

以上のような労働時間の無限定さの背景にあるのは、職務限定のないメンバーシップ契約という日本型雇用システムの本質です。Ⅰ章で「実際に労働者が従事するのは個別の職務です」と述べましたが、欧米の職場のように個々人に排他的な形で職務が割り振られているわけではなく、個々の部署の業務全体が人によって責任の濃淡をつけながらも職場集団全体に帰属しているというのがむしろ普通です。「自分の仕事」と「他人の仕事」が明確に区別されていないのです。そのため、同僚の作業がまだ終わっていないのに、自分の作業が終わったからさっさと仕事を終えて帰る、という行動様式をとることが難しく、結果的に職場集団の全員が仕事を終えるまでみんなで残業することが多くなります。正社員の辞書に「それは私の仕事ではない」という言葉はないのです。年休の取得が難しいのも、同じメカニズムが働いているでしょう。

と述べています。

 

2013年4月25日 (木)

今野晴貴『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』

Sinnsho_201304_blakthumb150xauto218今野晴貴さんの『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社新書)をお送り頂きました。

http://www.seikaisha.co.jp/information/2013/04/09-post-157.html

『POSSE』で対談したときに、文春新書の『ブラック企業』ともう一冊新書を書いているといわれていたその本ですね。

先日、ご本人がツイートで、

https://twitter.com/konno_haruki/status/320855644817223681

先ほど、今月末に刊行予定の星海社新書『なぜ日本の「労働」は違法がまかり通るのか!』の最終原稿チェックを終了しました。長かった。『ブラック企業』よりも先に書き始めていたのに・・。あまりに本気で書きすぎて、激難しくなったのを、何度も簡単に書き直しました。本当に、渾身の一冊です。

といわれていたその本です。

ひと言でいうと、そうですね、労働法の解説書です。いや、そんじょそこらにあるような解説書じゃないですよ。全然そういうイメージじゃないですけど、でも通読すると、これこそ労働法を知らない人向けの労働法のその社会構造から何から全てをきちんと説明しようとした一番の解説書という印象です。

若者が考えるべきは、「働き方」ではなく「労働」だ

いま、若者を食いつぶすブラック企業がはびこり、20代・30代の過労死や過労自殺が社会問題になりつつある。なぜ奴隷でもないのに死ぬまで働くことになるのか? 非正規雇用になるのも過労で鬱になるのも、すべては「自己責任」なのか? 経済成長ばかり叫ばれるが、どれだけ成長したら労働環境はマシになるのか?「日本には、過労死するほど仕事があって、自殺するほど仕事がない」と誰かが言ったが、本当にその通りだ。何かが、決定的におかしい。日本はいったいなぜ、こんな異常な国になってしまったのだろうか? 本書では、日本の苛酷労働・違法労働の発生原因を一から探り、どうすれば私たちの力で労働環境を良くすることができるのか、その可能性を提示していく。

確かに書かれていることは、いくらでも難しく難しく書ける内容です。結構高度な中身がこれでもかと出てきます。

それを必死にかみ砕いてわかりやすく書こうとしているのがひしひしと伝わってくる文章ですね。

毎日「月刊時論フォーラム」で拙論紹介

毎日新聞のオピニオン欄、「月刊時論フォーラム」で、『世界』に載せた拙論が森健さんの「今月のお薦め3本」の一つとして紹介されています。

http://mainichi.jp/select/news/20130425ddm004070002000c5.html(月刊・時論フォーラム:4月・座談会 アベノミクス)

◇ジャーナリスト・森健さん

■世界標準からみた「保守」「リベラル」(会田弘継・宇野重規、中央公論5月号)

日本で政治思想が混迷する一因を読み解く。

■「労使双方が納得する」解雇規制とは何か(濱口桂一郎、世界5月号)

日本企業の解雇の実態を紹介し、職務型雇用の推進など雇用制度全体の見直しを提言。

■アベノミクス後の日本(藤吉雅春、文芸春秋5月号)

アベノミクスの展開を、豊富な取材とともに予見。日本の潜在的な危機が顕在化する

2013年4月24日 (水)

日経病?

どうあっても、限定正社員では不満で、解雇を自由化したくて仕方がないんですかねえ。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2300Y_T20C13A4EA2000/解雇規制、緩和見送り 競争力会議が雇用改革案

政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は23日、成熟産業から成長産業への人材移動を後押しする雇用制度改革の骨格を決めた。従業員の転職を支援する企業向け助成金の拡充などが柱。企業から要望が強かった解雇規制の緩和は民間議員が主張を取り下げ、6月に策定する成長戦略には盛り込まない方向になった。

・・・職務や勤務地を絞った限定正社員制度の普及も促す。賃金は従来の正社員より安いことが多いが、社会保険にも加入できる。子育てや介護と両立しやすい利点があり、多様な働き手の確保につながる。契約社員と異なり期限を定めずに雇用されるが、就業規則や労働契約で定めた職務がリストラなどで廃止されれば雇用契約は終わる。

 限定正社員の普及策は規制改革会議や経済財政諮問会議でも検討し、厚生労働省は就業規則のひな型を作る方針だ。

ただ解雇規制の緩和など痛みを伴う改革は成長戦略に入らない方向になった。企業経営者ら競争力会議の民間議員は「過剰な規制を見直し、諸外国並みにすべきだ」と指摘。労働契約法に「解雇自由」の原則を規定し、再就職支援金を支払えば解雇できる「事前型の金銭解決制度」を導入するよう求めていた。産業界は正社員を解雇しにくいことが新規採用を通じた雇用拡大の阻害要因になっており、成長産業への労働移動も妨げていると主張している。

 しかし国会で野党などから批判を浴び、政府内でも「7月に参院選を控えて刺激的な話題は取り上げにくい」(内閣官房)との声が強まり、民間議員も尻すぼみになった。この日の民間提言からは解雇の主張が落ちた。

いや、頭を冷やしてよく考えたら、そんなことはできないという当たり前のことがわかったというだけではないでしょうか。

前から不思議に思っているのですが、労働契約法16条が諸悪の根源とかいう人々は、何をどう変えようとしているんでしょうか。

(解雇)

第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当であると認められなくても、権利を濫用しても有効である」とか?

もしかして、法学部に行ったら誰でも最初に習う民法冒頭の

(基本原則)

第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

 権利の濫用は、これを許さない。

の例外規定を労働契約法に規定しようと?権利の濫用は雇用以外では許されないけれども、雇用だけはなぜか許される、と。それは大変勇気のある話ですね。

そういうとてつもないことはやめて、「客観的に合理的な理由」の中身を明確化していこうという、規制改革会議雇用ワーキンググループなどの素直な発想に整理されたというだけのことだと、ある程度もののわかった人々は共通に考えているはずですが、一部の人々はなかなかそこにたどり着かないようですね。

BSフジプライムニュース『65歳定年時代の働き方 日本型雇用の行方とは』のログ

去る4月9日にBSフジプライムニュース『65歳定年時代の働き方 日本型雇用の行方とは』に出演したときの発言のログが同局のサイトにアップされました。

130409
塩崎恭久 自由民主党政務調査会長代理 衆議院議員、八代尚宏 国際基督教大学客員教授と、私の3人の発言が載っていますが、ここでは、私の発言部分を引用しておきます。若干誤植もあるようですが、読めば分かるので訂正しません。

話の流れ全体を見たい方は、このリンク先でどうぞ。

http://www.bsfuji.tv/primenews/text/txt130409.html

濱口氏「そもそも今日のタイトルの65歳雇用義務化というのは実は若干嘘があります。と言うのは、義務化は既に2004年にされています。小泉内閣の時の高年齢者雇用安定法の改正で65歳までの雇用が義務化されています。ただし、その時は労使協定で対象者を限定して、この人は再雇用しませんよという人を作ってもいいですというふうにしてるんですね。それは結構たくさんの人を排除しているんじゃないかというふうにおそらく思われると思います。実は定年後に継続雇用を希望したけれども、離職した方が何%いるかというと、実は2%もいないんです。1.6%です。と言うことは、既に義務化をされ、企業はその義務を1.6%を除けば既にやってるんです。従って、既に65歳まで再雇用されてるんです。頭数で言ったら7割は再雇用されています。その7割の方々は人件費的に企業が困らないように再雇用していいですとなっている。いわば応急措置としては一応できているんです。問題はむしろ中長期的にそのままでいいのかというと、それはそうではないだろう。65歳まで年功で上がってきて、悪いこともしていないのに雇用がつながるけど、給与がガクンと半分や3分の2以上に落ちてしまうということで本当にそれでいいのか。先ほど2割が辞められるというのは、そんな低い賃金ならば、私は再雇用なんてされたくないよという方も実は結構多いんですね。そういうことからすると、これは当座の解決ではあっても、長期的な解決ではない。つまり、前倒しで中高年時代の年功制までを含めて見直していく必要というものが出てくるし、そういう年功賃金制を見直していく企業に対しての促しのきっかけになるのではないか」

 反町キャスター「このデータは、規模30人以上の企業の話ですよね。30人以下の小規模な企業では守られているかわからないし、大企業と中小企業の雇用格差がどのくらいあるのかわからない。そこはどう見ていますか?」

 濱口氏「昔の数字で見ると、むしろ中小企業、零細企業は定年がない、あるいは定年があっても65歳とか、70歳とかが当たり前なんですよ。なぜかと言うと、年功制というのは大企業正社員ほど強いんですよ。中小、零細企業になればなるほど、実は払えないんですよ、中高年になってからも。欧米型のフラットな賃金というのが多いんです」

濱口氏「問題になってきている中高年問題、そして高齢者問題というのが、この日本型雇用の一番アキレス腱だと思います。逆に非常に多くの方は意外に思うかもしれませんが、若者、とりわけスキルも何も学校で身につけていない若い人が欧米だったらまず失業してしまうんですね。そういう方々が新卒一括採用という形で企業に採用されるというのは、実は若者から見ると日本型雇用の良い面なんですよ。ただ、この良い面はその裏腹として、新卒一括採用の枠がだんだん減ってくるとこぼれ落ちてしまう。そのこぼれ落ちた人が逆に欧米でこぼれ落ちた人に比べると入りにくくなるという二重のマイナスが出てくるわけです」

濱口氏「新卒一括採用というのは日本型雇用の一番メリットなところなんです。若者の失業率が非常に低いという特徴を生み出しているところなので、なかなかうかつにそこには触りにくいのですが、その中で言うとやや妥協案みたいになるんですが、徐々にジョブをハッキリさせていく。職務をはっきりさせていく。仕事に見合った賃金を払っていくというふうにだんだん持っていく必要があるだろうというふうに思います。一番矛盾が出るのが先ほど申し上げたように中高年、高齢者のところなので、そこはこの仕事をするからいくらというような形ができていると、60歳定年あるいは65歳定年ということをあまり考えずに高齢者雇用というのが割とスムーズにいくようになるのかなと思っています」

 反町キャスター「ジョブ型正社員の雇用形態にとなると生涯賃金の伸びは期待できない。そのへんは我慢しなければならない?」

 濱口氏「多くの日本人は、それでどうやって結婚し、子供を作って、教育費などを養うんだと思う。だから、子供がいればそれに対して一定の手当てを出しましょう。あるいは高校や大学を無償でやるというのは、結構ヨーロッパでは一般的なんですよね。なぜかと言うと、年齢が上がるからといって賃金が上がっていかない社会で子供を育てていこうとすると、実はそこのところを公的に賄わなければいけない。大変な皮肉ですが、前政権の時に子ども手当てとか、高校の無償化とかを、そういうビジョンがあってやっているのかなと思ったんです。素晴らしい政策だと思ったのですが、どうもやられた方々が必ずしもそう思ってはいなかったみたいなんです。だから、ダメだと言うのではなく、むしろ仕事に対する対価は対価としてきちんと払う。子供がいないところは得をして、子供がいると損をするということはあってはならないので、子供がいる人もいない人も皆が払った税金で賄っていく。日本で社会保障というと、どうしても年金だとか、医療とか、介護になるのですが、現役世代の社会保障というのは育っていく子供達をどういうふうに手当てしていくかということだと思いますね」

反町キャスター「日本の企業というのは解雇しにくいんですか?」

 濱口氏「これは非常に、腑分けして議論しないといけないんです。日本は解雇が厳しいとよくマスコミで言われるんですが、一言でいうと、そうではありません。と言うのは、労働契約法16条というのがあって、客観的、合理的な理由がなければ解雇しちゃいけないと書いてあるだけです。これと同じような規定は実はヨーロッパ諸国にもあります。ところが個々のシチュエーションで見ると、確かにヨーロッパに比べると解雇しにくいところが出てくる。それはどういうことかと言うと、形状の理由によって、もうこの仕事がなくなったという時に解雇が認められるかというと、これは確かにしにくいんですよ。なぜかというと、これは先ほど来申し上げているように、就職じゃなくて就社しているんです。つまり、IPS細胞じゃないですが、どこでもお前を回すぞという約束で雇っているんですね。と言うことは、たまたまこれがお前この仕事だといっている、その仕事がなくなったから、お前はクビだと言えるかというと、これはダメです。裁判所は、それはダメだというわけです。他に回せるところあるでしょう。難しい言葉で言うと、解雇回避努力義務って言うんですね。ヨーロッパだと、たとえば、トラベル関係の雑誌の編集者を、ローカル関係の雑誌の編集者に回すというのは、それは人事権があるから雇い続ける義務がある。しかし、それを超えるなら義務はもうないというようなことが書いてあるんですね。要するにどこまでが契約で決まったジョブかという話で、日本企業が、私はメンバーシップ型と呼んでいるのですが、そういう就社型の雇用契約をやっているが故に、自分自身で企業の解雇権というものを制限しているんです。それは言い換えれば、人事権でもってどんな仕事でもやらせられる。どこでもお前行けと言われれば、送ることができるという裏腹の関係なんです。もしそこを何とか変えていきたいというのであれば、雇用契約の在り方、就職じゃなくて就社型の雇用契約まで見直さないと、それはどこでもやりたい放題やれて、それである時にお前はクビだよと言えるということになると、これは働く側から見るととんでもないって話になっちゃいますね。解雇規制だけが突出して議論されることを私は危惧しています。雇用のあり方の見直しなしで、会社側が人事権をいくらでも行使できるという、そこを残したままで解雇規制だけが緩和されると皆思ってしまうと、逆にブラック企業を作り出すだけなんです。つまり、お前はあれやれ、これやれ、何?やらない、お前はクビだということを認めることになってしまうんですよ。順序を間違えてはいけないんです」

 八木キャスター「今回の解雇規制緩和は評価できるということですか?」

 濱口氏「それは緩和じゃないんですよ。客観的、合理的理由がないのに解雇していいという意味での解雇規制緩和は、私はあるべきでないと思うし、政府はしようとしていないと思います。しようと思っている方がいるかもしれませんが、それはできないと思います。できるのは、客観的、合理的理由は何ですが、あなたはこの仕事で雇われています。この仕事がなくなったらおしまいですねというのが客観的、合理的な理由ですね」

最後に、看板にスローガンみたいなものを書いて説明するシーンでは、

濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構統括研究員の提言:「ジョブ型正社員で普通の職業の安定を」

濱口氏「同じような話なんですが、むしろ中身を書きました。仕事がなくても雇用が守られる正社員と、仕事があってもいつ切られるかわからない非正規社員。その二分論ではなくて、仕事がある限りはちゃんと安心して働ける、私の言うジョブ型正社員というものを作っていく必要があるんじゃないかなというのが私の提言です」

  • 2013年4月23日 (火)

    『教育の設計と社会の設計』

    広田照幸さんより研究成果報告書の第2弾『教育の設計と社会の設計』をお送りいただきました。ありがとうございます。

    第1弾の報告書には、わたくしも呼ばれて喋った記録も載っていますが、こちらは2012年の活動の成果で、特に興味深いのは、天野郁夫『大学の誕生』の合評会の記録と『現代社会の変化と教育システム』というシンポジウムです。

    前者は、森直人さんが発題、吉田文さんと稲葉振一郎さんが報告、天野さんが著者リプライ。

    後者は森直人さんの司会で、広田さんが発題、小玉重夫さんと稲葉さんが報告、さらにコメントがつき、討論があるというなかなか贅沢なものです。

    その中から、話の本筋じゃないくすぐりのところだけ、ちょいと引用しておきましょうか。前者の大学論で、吉見俊哉さんの話が出たところで、

    稲葉:すごく気になるのは、だからまさに、いや草莽の志士の話をしているけれども、あの人ご自身は草莽だったことは一度もないので。

    -:(笑)

    稲葉:むしろ現代で「草莽の志士」に対応する人というと、たとえば呉智英と浅羽道明のことが僕は念頭に浮かぶんです。彼らはずっと在野で食うや食わずでフリーライター兼大学・予備校教師をしつつ、私塾的な試みをもやっているんですね。私塾をやった結果、あの人たちが到達した結論は、現代の私塾には自意識をこじらせた馬鹿、プライドの高い社会的不適応者ばっかりがやってくるんで、草莽の結集どころかこいつらのリハビリをしなきゃいけない(笑)のが今の日本の現状だといっているわけです。そういう世界をね、吉見さんはよく知らないんじゃないか。浅羽さんの言う「教養」ってのはそういうリハビリのことですね。

    と、なかなか痛烈です。

    2013年4月22日 (月)

    「ジョブ型正社員の雇用ルールの整備について」 by 鶴光太郎

    さて、先週金曜日の4月19日の規制改革会議雇用ワーキンググループに提出された鶴光太郎座長の提出資料が、いろいろと誤解の絶えないジョブ型正社員の雇用ルールについてかなり詳しく書いているので、やや長いですが全文引用して、この会議でどういうことが考えられていて、どういうことが考えられていないか(ココ重要)を、よく理解して頂ければ、と思います。

    ここに書かれていることに関する限り、私は鶴さんの見解とだいたい同意見です。

    http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130419/item1.pdf

    1. 日本の正社員の特徴

    ・ 正社員とは、(1)期間の定めのない雇用(無期雇用)、(2)フルタイム、(3)直接雇用(雇用関係と指揮命令関係が同一)といった要素で特徴付けられる。
    ・ 日本の正社員の場合は、加えて、無限定社員という性格が強い
    ・ 無限定社員とは、(1)職務、(2)勤務地、(3)労働時間、などの制約、限定がない社員。つまり、将来、職種、勤務地の変更、残業などの命令があれば基本的に受け入れなければならないという「暗黙の契約」が上乗せされている社員。
    ・ 入社した企業の一員となることが大きな意味を持つため、メンバーシップ型社員、就社型社員ともいえる。
    ・ また、無限定な働き方ができるという意味で正社員は男性中心であり、女性が家事に専念するという家族単位の犠牲・協力が前提にあった。
    ・ さらに、男性が一家の大黒柱として家族を養い続けなければならないという意味で賃金制度も後払い的(年功的)性格が強かった。
    ・ 日本の正社員は、(1)無期雇用、(2)無限定社員、(3)解雇ルール(解雇権濫用法理)が密接かつ強力な補完関係(「鉄の三角形」)
    ・ 一方、欧米では、アメリカ、ヨーロッパにかかわらず、ジョブディスクリプション(履行すべき職務の内容、範囲)が明確であり、職務限定型が一般的であり、それに付随して一般社員にとって勤務地限定、時間外労働なしが前提。一方、幹部(候補生)ほど、無限定社員に近くなるというイメージ。

    2. 無限定正社員のメリット、デメリット
    メリット:
    ・ 企業側からすれば解雇をしなくても、配転や労働時間による雇用調整が可能という意味で柔軟性大
    ・ 企業特殊な投資が促進
    ・ 配転等を通じて企業の部門間のコーディネーションが良好
    ・ 労働者からみれば無限定な働き方に即した雇用保障、待遇(年功賃金、退職金等)を獲得
    デメリット:
    ・ 労働者からみれば不本意な転勤や長時間労働を受け入れなければならないことで家族やワークライフバランスが犠牲に
    ・ 雇用保障や待遇が手厚い分、企業は正社員採用に慎重になり、雇用の不安定な有期雇用が増加
    ・ 無限定正社員は「なんでも屋」になってしまい、特定の能力・技能が身に付きにくく、キャリア形成が難しい。
    ・ このため、転職が難しく、外部オプションが限定され、自己のキャリアの可能性を広げることができない。

    3. なぜジョブ型正社員の普及が必要か
    ジョブ型正社員とは?
    ・ 無限定正社員に対し、(1)職務が限定されている、(2)勤務地が限定されている、(3)労働時間が限定されている(フルタイムであるが時間外労働なし、フルタイムでなく短時間)、いずれかの要素(または複数の要素)を持つ正社員をジョブ型正社員と呼ぶ。
     注:ジョブ型という言葉は元々職務限定型の意味合いが強いが、下記の厚労省調査によれば、なんらかの限定が行われている正社員の内、職務限定型が8~9 割を占めており、それに付随して、勤務地や労働時間が限定される場合も多いのでここではジョブ型という言葉で代表することにする。
    日本においてジョブ型正社員の普及・定着が必要な理由
    ・ 非正社員の雇用安定
     正規・非正規の労働市場の二極化が問題となる中で、その間に多様な(多元的な)雇用形態を作ることにより、有期雇用から無期雇用への転換をより容易にし、雇用の安定化を高める。
     正社員を希望する不本意型非正社員も、雇用の安定から期間の定めのない契約(無期雇用)への移行を望んでいる場合も、転勤や残業が強制されるような無限定な働き方を望んでいるとは限らない。
    ・ ファミリーフレンドリーでワークライフバランスが達成できる働き方の促進
     無限定社員のワークライフバランス等の推進が必要であることは言うまでもないが、勤務地限定型や労働時間限定型をライフサイクルに応じて選択できることで、子育て・介護との両立やワークライフバランスをより達成しやすい働き方がより可能となる。
    ・ 女性の積極的な活用
     正社員として登用され、昇進していくためには暗黙的に無限定な働き方が要請、期待されてきたため、特に既婚女性にとっては不利であった。特に、地域限定型、労働時間限定型の正社員が普及することで女性の労働参加の促進、優秀な女性の活躍の場の広がりが期待できる。
     特に、同一の企業で無限定型とジョブ型を相互に移動することが可能になれば、無限定型で入社した社員が子育て期には勤務地や労働時間限定型になり、その後、また無限定型に戻ることが可能となり、キャリアの継続に大きな効果が期待される。
    ・ 自己のキャリア・強みの明確化と外部労働市場の形成・発達
     特に、職務限定型正社員の場合、自分のキャリア、強みを意識し、価値を明確化させながら働くことで外部オプションを広げ、転職可能性も高まり、それが現在の職場での交渉力向上にもつながるため、将来に向けたキャリアを意識しながら「未来を切り開く働き方」を実現できる。
     職務限定型正社員が普及することで外部労働市場(転職市場)も拡大し、「人が動く」ことがより容易に。そうした動きが出てきて初めて職業能力評価システムなどの整備を同時並行的に進めることが可能に。

    4. ジョブ型正社員の現状と問題点
    現状:
    ・ 厚労省の多様な正社員に関する企業調査(2011 年、1987 社、正社員100 人以上)によれば、対象企業の51.9%が多様な正社員(ジョブ型正社員)を導入している。従業員数でみれば、正社員全体の32.9%が多様な正社員であり、その内、職務限定が28.0%、労働時間限定が3.4%、勤務地限定が8.9%である(それぞれ重複あり)。
    ・ 就業規則や労働契約で限定が明確化されていない場合が多い。
     職務限定型で就業規則や労働契約で仕事の範囲が確定しているのは 21.1%。
     勤務地限定型で就業規則や労働協約で勤務地になんらかの限定があるのは 15.6%。
    ・ 事業所閉鎖、事業や業務縮小の際の人事上の取り扱いは通常の正社員と同じ場合が多い。
     職務限定の場合、通常の正社員と同じであるのが 76.6%。
     勤務地限定の場合、通常の正社員と同じであるのが 63.0%。
    ・ 多様な正社員の賃金は通常の正社員の8~9 割未満が最も多い。
    ・ ジョブ型正社員についての契約解除(雇用終了)についてのこれまでの裁判例をみると、いわゆる整理解雇の四要件(要素)1の判断枠組を基本的に維持しつつも、職務(職種)や勤務地が限定されている点を考慮し、無限定正社員とは異なる判断を行い、解雇を有効とする事例がみられる。
    問題点:
    ・ 対象企業の半分が導入するなどジョブ型正社員の導入は進んできているが、その形態が労働契約や就業規則で明示的に定められていないことが多いため、人事上、その特性に沿った取り扱いが必ずしもなされていない。
    ・ 一方、労働契約で明確化されている場合でも実際の運用が属人的になっている可能性ある(ジョブ型であるに能力が高いためなし崩し的に働き方が無限定になっていたり、無限定社員がいずれかの点で限定的な取り扱いを受けているような場合)。
    ・ ジョブ型正社員に対しその特性に沿い、無限定正社員と異なる取り扱いがなされれば、企業は更にジョブ型正社員を増やせるであろうが、リスクに敏感になり、及び腰になっている面も。

    5. ジョブ型正社員の雇用ルール整備のあり方
    基本的考え方:
    ・ 就業規則や労働契約でジョブ型正社員の内容を明確化する。
    ・ 無限定正社員とジョブ型正社員との間の均衡処遇を図る。
    ・ 事業所閉鎖、事業や業務縮小の際の人事上の取り扱い等についてその特性に沿った取扱いができることについて法的ルールの確認・整備を行う。
    具体的な提案:
    (1)労働条件の明示
    ・ ジョブ型正社員の雇用形態を導入する場合は、就業規則においてジョブ型の具体的な契約類型を明確に定める。
    ・ ジョブ型正社員を実際に採用する場合、その契約類型であることを契約条件として書面で交わす。
     具体的には、現行の労働基準法15 条による労働条件明示義務と重要な労働条件の書面による通知とジョブ型正社員の契約条件の書面化との関係を整理する必要あり。
     合わせて、労働契約法4条 2 項による労働条件明確化のための書面による要請が必要。
     労働基準法 15 条、労働基準法施行規則5 条によれば、「労働契約の期間に関する事項」、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」などを労働者に通知する義務があるが、現状では、実際の人事管理の運用を前提に、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」については、当面のものと解するという解釈がされている。
     そこで、この現行規定をより整備して、無限定正社員かジョブ型正社員かを明示し、かつ、ジョブ型社員の「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」を詳細に特定すること求めてはどうか。
    (2)均衡処遇・相互転換の要請
    ・ 有期労働契約についての労働契約法20 条に類する規定(雇用形態による不合理な労働条件の禁止)を定めることを検討するとともに、無限定契約とそれぞれの限定契約との相互転換に関する規定を設け、契約形態相互間の壁を低くしながら、ライフスタイルやライフサイクルに合わせた多様な就労形態選択を可能とする法的基盤を整備してはどうか。
    (3)ジョブ型正社員の人事処遇ルールの検討
    基本的認識:
    ・ いかなる契約形態をとるかは、基本的に当事者の自由である。その中で、ジョブ型正社員の形態をとり、それを普及・定着させていくためには、労働契約において職務または勤務場所などを定めることにとどまらず、人事処遇全般のルールを定める必要がある。従来の就業規則は、無限定正社員の働き方を前提としたルールが多く、ジョブ型社員にはなじまない規定が多いからである。とくに、人事異動、時間外労働を含む時間管理、雇用の終了などについて、ジョブ型社員の働き方に即したルール作りが求められる。
    ・ 例えば、ジョブ型正社員については、職務や勤務地を変更する配転、約定された労働時間を超える残業、人事上の能力評価等の点で企業の人事権が制約される可能性がある反面、職務や勤務地が消失した際の取扱いについては、無限定正社員とは異なる人事上の取扱いをすることが考えられる。
    ・ また、従来の人事処遇に関する判例法理が、企業が無限定社員について行ってきた人事管理ルールを色濃く反映したものであることを考慮すると、ジョブ型社員の普及は、判例法理の見直しにつながっていくと思われる。しかし、判例法理の変化を漫然と待つのではなく、それをリードできるようなジョブ型社員の働き方にふさわしい労働契約紛争の解決ルールを検討することが必要であろう。
    具体的対応:
    ・ 勤務地限定型、職務限定型正社員については、限定された勤務地、職務が消失した場合を解雇事由に加えることを労使で話し合うことを促すことが考えられる。
     具体的には、就業規則の解雇事由に「就業の場所及び従事すべき業務が消失したこと」を追加することが可能であること確認してはどうか。
    ・ ジョブ型正社員の場合、限定された勤務地・職務が消失した場合における解雇権濫用法理(労働契約法16 条、特に整理解雇四要件)の適用については、これまでの裁判例を参照しつつ、多様な実態に応じた解雇の合理性・相当性に関するルールを整理する。
    ・ その上で、限定された勤務地・職務が消失した場合、解雇が客観的合理性と社会的相当性を持つには更にいかなる要件が少なくとも必要であるか、労使および司法の間のコンセンサスを形成していくことが重要であり、かつ現実的にも有効ではないか。さらに、法解釈、必要な要件について一定のコンセンサスが得られればなんらかの形で方向性を示すべきではないか。
     規制改革会議雇用WGで議論のためのたたき台を作ってはどうか。
     法解釈等について最終的に立法事項とするのが難しければ、解釈通達などで明文化してはどうか。
    (4)労使双方の納得性を高めるための対話の促進
    ・ 現場の実態に応じた雇用ルールの明確化を図るためには、企業の現場において労働組合または過半数代表者等と多様な就労形態についての議論を促すことがそもそも重要であり、それがひいては当事者の納得性(ひいては生産性)を高めることにつながる。
    ・ 同一企業で無限定正社員をジョブ型正社員に転換する場合は、労働条件決定の合意原則から考えて、労働者の同意を要することを確認してはどうか。

    以上

    大内伸哉さんの根本的誤解

    先日、規制改革会議の雇用ワーキンググループのヒアリングに一緒に出た大内伸哉さんの議論に、どうにも理解できないことがあって、どこに分かれ道があるのだろうとずっと考えていたのですが、今日の「アモーレと労働法」を読んで、大体わかりました。

    http://souchi.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-37b3.html(限定正社員に思う)

    特にここのところです。

    ただ,限定正社員は,以前にも書いたように,職種や勤務場所がなくなったときの解雇を認めてくれ,という話です。ただこれも,最初に書いたように,実は可能なのです。そうすると,結局,限定正社員の議論は,限定正社員として雇ったが,人事管理をきちんとしていなくて,正社員としての雇用継続を期待させたような場合にも解雇をさせてくれ,という主張と同じことになってしまうのです。こういう形での解雇ルールの緩和には反対というのが私の主張です。

    どうも、大内さんは、限定正社員の導入とは解雇規制の緩和だと思い込んでおられるようなのです。

    そうじゃない、日本の解雇規制はなんら厳格じゃない、解雇規制そのものを緩和する必要なんか全くない、と言い続けている私が、これでは解雇規制緩和派になってしまうではありませんか。

    分かれ道はどこにあるか、そう、ここにあります。「ただこれも,最初に書いたように,実は可能なのです」

    そのとおりです。そして、法律学者としてはそれで済むかもしれません。理屈ではこうなるよ、現在でも限定正社員は可能だし、それに対する解雇規制の適用は理論的にこうなるよ、と。

    しかし、現実の解雇は労働法の教科書通りのことが全国津々浦々で実現しているわけではないように、労働法の理論上こうなるということがそのまま企業行動を動かすわけでもありません。現実に昨今の議論を見ればわかるように、いわゆる整理解雇4要件というのは特殊な無限定雇用契約を前提としたものであって、雇用契約によっては様々に適用されうるという基本を抜きにしていついかなる時でも適用されるべき金科玉条と捉える向きもあるし、そのリスクを考えれば、理屈から言えば上の通りであっても二の足を踏むということはいくらでもあるわけです。

    規制改革会議など少なくともわたくしがまっとうな議論だと考えているものに限れば、それらはその理屈を法的に明示しようとしているだけであって、解雇規制それ自体を緩和しようというものではないと理解しています。それは教科書的には明確だが世間一般では必ずしもそうではない雇用契約に応じた解雇規制の適用のあり方を世間的に明確化しようとするものに過ぎません。

    そして、そうである以上まったく当然のことながら、「限定正社員として雇ったが,人事管理をきちんとしていなくて,正社員としての雇用継続を期待させたような場合にも解雇をさせてくれ」などというばかげた主張を認めることはあり得ず、始めから終わりまでちゃんと限定してきたことが解雇権への制約が限定される前提です。契約にちょちょっと書いとけば何でもOKなどというばかげた話こそきちんと批判しなければなりません。それこそ、文言ではなく実態で判断するという労働法の大原則は、ここでこそ重要なわけです。

    そして、そこが大内さんと理解が別れるところのようです。大内さんはむしろ「戦力外」の労働者に対する解雇規制を実体的に緩和すべきという基本的考え方を持ちつつ、それを妥当な範囲に収めることを考えておられるので、話が二重に入れ違ってしまうのでしょう。「こういう形での解雇ルールの緩和には反対というのが私の主張です」などというご発言は、そう理解して初めて理解できるものです。

    小谷幸『個人加盟ユニオンの社会学』

    9784275010094小谷幸『個人加盟ユニオンの社会学 「東京管理職ユニオン」と「女性ユニオン東京」(1993年~2002年)』(お茶の水書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

    http://www.ochanomizushobo.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-275-01009-4

    1990年代に世代、性別、エスニシティ、職位といった社会的属性を結合単位として労働市場横断的に生成した新しい形の個人加盟労働組合(個人加盟ユニオン)を研究することにより、今後の労働運動への示唆および新たな分析手法を提示する。

    最近かなり盛んになってきた個人加盟ユニオンの研究書ですが、調査対象時期は1990年代後半から2000年代初頭で、もとになった博士論文は2005年ですので、むしろそのはしりというか、まだ世間で余り取り上げられていなかった頃の研究ですね。

    研究対象ユニオンは、東京管理職ユニオンと女性ユニオン東京です。リーダーや組合員へのインタビューなどに加えて参与観察ももとにして、非常に微細なところまで観察した記録になっています。

    最後の章で示している新しい労働運動の5つの特質を挙げておきますと:

    特質1。両ユニオンが労働相談機能を重視し、それにより既存の運動では組織対象にされてこなかったような多様な組合員を包摂していること。

    特質2。両ユニオンとの組合員一人一人のニーズに応じた労働問題の解決を重視し、個別労使紛争の解決率及び組合員の満足度が高いこと。

    特質3.両ユニオンとも多様な組合や、組合にとどまらないNPO等諸団体との連携を重視し、それにより公共性を強めていること。

    特質4.両ユニオンが組合員の活動参加及び相互支援を重視し、それにより組合員が幅広い「力」を身につけていること。

    特質5.両ユニオンが組合員の紛争解決過程において、アイデンティティ構築、自立支援を重視し、そうした「教育」的機能を通じて組合員が意識変容すること。

    こうした研究としては、本ブログでも過去紹介してきましたが、

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/npo-0b20.html(遠藤公嗣編著『個人加盟ユニオンと労働NPO』)

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-d4ce.html(橋口昌治『若者の労働運動』)

    などがありますし、JILPTの呉学殊さんのユニオンによる紛争解決の研究も不可欠です。

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-ec96-1.html(呉学殊さんのコミュニティユニオン研究)

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-b431.html(個人加盟ユニオンの紛争解決― セクハラをめぐる3つの紛争事例から ―)

    住沢博紀・生活経済研究所『組合 その力を地域社会の資源へ』

    Sho_634住沢博紀・生活経済研究所『組合 その力を地域社会の資源へ』(イマジン出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。

    http://www.imagine-j.co.jp/book/general/bs634.html

    オビの文句は:

    「生活公共」の視点から労働組合の役割を問う
    労働組合のイノベーションは地域における資源としての活用と活動から
    日本版「ソーシャル・ガバナンス」の独自性と可能性を明かす
    連合主要5労組(情報労連・NTT労組・JP労組・電機連合・自治労)の現場からかの取り組みの報告と。労金・労福協・生協の連携を当事者たちが執筆
    知られていない労働組合の可能性
    新たな社会の転機を解き明かす類書にない一冊

    ということで、一言でいえば「NPOとしての労働組合」というテーマで、労働者自主福祉とか協同組合とか、サードセクターといわれるような領域とのつながりを模索した本ということになりましょうか。

    詳細な目次はリンク先にありますが、

    はじめに —生活公共の創出と労働組合のイノベーション—

    第1部

    1.社会のエンパワーメントと生活公共 住沢博紀 日本女子大学教授

    2.生活公共と地域福祉 藪長 千乃 東京大学教授

    3.社会的孤立への取り組みから、地域政策公共を考える 鈴木 奈穂美 専修大学准教授

    第2部

    4.「情報労連 21世紀デザイン」と「新たな行動」 才木 誠吾 情報労連政策局長 余田 彰 NTT労働組合中央本部交渉政策部長

    5.地域社会の安心・安全のよりどころとしての郵便局とJP労組の地域貢献活動の取り組み 桐谷 光男 JP総合研究所所長

    6.電機連合の事例紹介-電機産業職業アカデミーと障がい福祉委員会の施設運営 住川 健 電機連合産業政策部長

    7.教育研究活動と社会的対話 山本 和代 日教組中央執行員、教育改革部長

    8.自治労の自治研活動がめざしてきたもの 南部 美智代 自治労総合政治政策局長

    第3部

    9.21世紀の労働者自主福祉事業と地域生活公共 高橋 均 中央労福協前事務局長

    10.協同組合の連携の可能性:労金と労災・生協 山口 茂記 中央労働金庫副理事長

    11.ソーシャル・ガバナンスと日本のサードセクターの課題 栗本 昭 公益財団法人 生協総合研究所理事


    2013年4月21日 (日)

    「社会的なもの」と「新しい労働社会」 by 市野川 容孝×濱口 桂一郎

    ジュンク堂書店池袋本店で、トークセッションを行うことになりました。

    http://www.junkudo.co.jp/tenpo/evtalk.html#20130611_talk

    「社会的なもの」と「新しい労働社会」

    市野川 容孝×濱口 桂一郎

    ■日時:2013年6月11日(火)19:30 ~

    平等・連帯・自律を支えるものでありながら、日本の思想・政治状況のなかでは忘却されてしまった「社会的なもの/ソーシャル」の理念。その可能性を徹底的に論じた『社会的なもののために』の刊行を機に、編者の市野川容孝さんと『新しい労働社会』の濱口桂一郎さんに、現代の労働社会と「社会的なもの」について論じていただきます。

    2013年4月20日 (土)

    『文化大革命の遺制と闘う』

    Isbn9784784513444著者の一人石井知章さんより『文化大革命の遺制と闘う 徐友漁と中国のリベラリズム』(社会評論社)をお送り頂きました。有り難うございます。

    http://www.shahyo.com/mokuroku/foreign/china/ISBN978-4-7845-1344-4.php

    大衆動員と「法治」の破壊を特色とする現代中国政治のありようには、いまだ清算されていない文化大革命の大きな影がある。
    現代中国のリベラル派知識人として知られる徐友漁氏を迎えて、北海道大学で行なわれたシンポジウムに、インタビューや論考を加えて構成。

    ということで、中国のリベラル知識人徐友漁さんの報告に、鈴木賢、遠藤乾、川島真、石井知章の各氏がコメントをした北海道大学のシンポジウムの記録に、さらに徐友漁さんと石井知章さんの論文を加えてできている本です。

    版元の詳細な目次があるのでコピペしておきます。

    はじめに   鈴木賢 
      反日と結びつく毛沢東
      文革の余韻ただよう現代
      徐友漁という人
      警察との「遭遇」

    [第1部][シンポジウム]現代中国政治に対する文化大革命の影響
     開会のあいさつ    鈴木賢 
     現代中国政治に対する文化大革命の影響    徐友漁(翻訳/徐行) 
      重慶─文革の再演?
      「唱紅」と「打黒」
      弄ばれる法
      文革はなぜ支持されたか
      文革の結果としての民主化運動
      文化大革命の逆説
     [コメント1]文化大革命の「二重性」について    遠藤乾 
     [コメント2]成功体験と失敗体験のあいだ  中国共産党の記憶   川島真 
      はじめに
      1 専制・権力への問い直しとアイロニー─歴史学からの問い
      2 ふたつの「民主」の交錯
      3 重慶と文革の相違点─「苦難」と大衆の記憶
      4 失敗体験と成功体験
      5 なぜ重慶だったのか
      おわりに
     [コメント3]中国の「新左派」とは何か    石井知章 
     コメントへの応答    徐友漁 

    [第2部]文化大革命の遺制と闘う
     文化大革命の遺制と闘う    徐友漁(聞き手・翻訳・註/鈴木賢) 
      文革への熱狂
      拡大する暴力
      正統派と造反派
      どす黒い文革政治
      農村の貧しさの中で
      失われた信念
      六四天安門事件の意味
      イデオロギー統制と警察による監視
      ソフトランディングは可能か?
     重慶事件における新左派の役割と現代中国リベラリズムの政治思想史的位置 汪暉と徐友漁の言説を中心に   石井知章 
      はじめに
      1 重慶事件のあらましとその政治的背景
      2 「新自由主義派」と「新左派」との対立構図
      3 「新左派」の旗手、汪暉とその文革をめぐる言説の問題性
      4 徐友漁のリベラリズムと「新左派」批判
      5 鄧小平と趙紫陽の政治改革の今日的な意味
      6 天安門事件が今日に及ぼしている社会的影響
      おわりに─「第三の道」としての政治改革への可能性

     おわりに   鈴木賢

    徐さんは高校生時代に文革を経験し、長く中国社会科学院で研究してきた方ですが、ノーベル平和賞の劉暁波氏の08憲章に署名し、その後警察から相当に嫌がらせを受けてきたということです。

    例の重慶の事件を文革の再来と見る立場から、現代中国における前近代「遺制」を厳しく批判するその論調は、まことに説得力があります。

    本書をお送り頂いた石井知章さんは、ご承知の通り現代中国の労働組合(工会)の研究者ですが、そこからそもそも中国社会の東洋的専制主義の根深さに研究を深めていき、最近はウィットフォーゲルの紹介をされていますね。

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-71c7.html(石井知章『中国革命論のパラダイム転換』)

    2013年4月19日 (金)

    経営者が教養として人事労務を学ぶ

    112483「A&M社会保険労務士事務所 代表 多田羅@関西」さんのブログで、拙著『日本の雇用と労働法』を推薦して頂きました。

    http://ameblo.jp/ttran36/entry-11513715619.html

    ある社長から「人事労務を体系的に勉強できる本はないか?」と聞かれたので、日経文庫の『日本の雇用と労働法』濱口桂一郎著を薦めました。

    著者の濱口氏は独立行政法人労働政策研究・研修機構の統括研究員で、BS放送にもちょくちょく出演しており、労働界(?)では結構有名な方です。

    いや、そんな、ちょくちょくじゃないですよ、

    著者のマニアックな情報はさておき、本書は日本の雇用システムや労働法制の全体像を知るには丁度良いです。
    使用者側・労働者側のどちらか一方に極端にかたよることもなく、細かいテクニック論が書いてあるわけではありませんが、判例や歴史を示しながら、経営者が教養として知っておくべき考え方や知識がわかりやすく書かれています。
    (もともとは大学での講義用に書かれたものらしいです)

    労使トラブルを防止・解決するためにもテクニック論が書かれた書籍も必要ですが、経営者には質の良い基本書も読んでいただきたいと思っています。

    冒頭の社長は本質論を大事に考えている方なのでお薦めしましたが、別に私は日経文庫の回し者でも濱口氏の知り合いでもありません。。。

    「本質論を大事に考えている方なのでお薦め」頂いたというあたりが、著者としてはまさに本懐という感じです。有り難うございます。

    中小企業労働問題はどこへ行った?

    『労基旬報』4月25日号に掲載した「中小企業労働問題はどこへ行った?」です。

    http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo130425.html

     若者の就職難に関わって、「中小企業にはいっぱい求人があるのに」という指摘が結構あります。これは、求人量で言えばまったくその通りです。しかし、現に存在する中小企業の求人に応募しないことがマクロ経済的に不合理であるとしても、労働者(未満の学生)にとってもミクロ的に不合理であるかと言えば、もちろん必ずしもそうとは言えません。誰もが知っているように、中小企業になればなるほど賃金は低く、労働条件は悪く、雇用は不安定で、経営者の恣意に晒される危険性が高くなります。もちろん、現実の中小企業にはさまざまな企業がありますが、不完全な情報をもつ市場のプレイヤーが「統計的差別」に走りがちであることは、労使いずれの側についてもおかしなことではありません。重要なことは、学生が「統計的差別」に陥ることなくより完全情報に近い状態で選択しうるような労働市場メカニズムの確立であり、それは商業主義的な就活産業などに任せておいて可能になるものではないでしょう。

     ここではしかし、その前の段階として、なぜ「中小企業にはいっぱい求人があるのに」という言説が、あまり自己反省の感覚もなしに語られるのかといういささか知識社会学的な問題について触れておきます。実は、高度成長以前の労働研究界においては、ただ「二重構造」といえば、本工と臨時工の差別以上に、大企業と中小企業の格差を指すことが一般的でした。あるいは氏原正治郎氏のように、臨時工と中小企業労働者は連続的な存在であり、区別しがたいという認識も一般的でした。非正規が主婦パート化するとともに、雇用形態の二重構造の言説が労働研究から姿を薄れさせていったのと揆を一にして、かつては華やかな議論の焦点であった規模間格差問題が、高度成長終了後にはあまり論じられなくなっていきます。企業内でも企業間でも、「二重構造」は流行らないテーマになってしまったのです。

     確かに、高度成長期に人手不足によって規模間格差は縮小傾向にありました。しかし、経済原則からして、不況期になれば規模間格差は拡大していきます。にもかかわらず、規模間格差問題が忘れられていったのは、「そんなものは問題ではない」という認識が一般化したためでしょう。その一つが、中村秀一郎氏を始めとする「元気のいい」「ベンチャー礼賛型」中小企業論の流行であったことは間違いありません。それと同時に、特に労働研究においては、小池和男氏の知的熟練論の影響で、年功賃金が生活給としてではなく、熟練に対応した賃金体系であると考えられるようになったことが大きいように思われます。もし中小企業の賃金が低いとしても、それは熟練が低いからであって、問題にするに値しないわけです。

     しかし、アカデミズムの世界では規模間格差問題が論ずるに足りないものになったとしても、普通の国民の民俗知識においては、「中小企業に入ったら損するよ」という口承伝説は着実に伝承されていきました。それは、学者先生の言葉を真に受けて下手な中小企業に入って苦労した人々の姿が現実に存在する限り、抹殺することはできません。なまじアカデミズムから「中小企業労働問題」が消えてしまったために、フォークロアとしての「中小企業労働問題」が政策的に掬い取られることのないまま、労働市場のミスマッチを招いている、という反省が、本当は求められるところではないでしょうか。

    職務限定の誤解

    労働法律旬報さんのつぶやき

    https://twitter.com/roujun_koga/status/325067848865165312

    追い出し部屋をつくってその部署ごとなくした場合、職務がなくなったとして解雇しても解雇規制がおよばないということが可能か?「職務」の定義をどうするかが重要。職務限定正社員へ転換、労働者の同意必要 政府素案

    いや、職務限定というのは、雇用契約の始めから終わりまで職務が限定されているということなんですから、採用の時から追い出し部屋に限定して採用するということでもない限り、そういうのはそもそもあり得ない。

    配転ができないというのが限定ということなんですから。そして、配転することが雇用契約によって禁止されているが故に、当該職務の廃止が解雇を客観的に合理的な理由のあものにするのですから。

    ほかの仕事をしていた人を追い出し部屋に配転したということが既に、その労働者は職務限定じゃないという最大の証明になっているわけです。

    というか、しかし、こういう反応がすぐに出てくるというところに、そもそも限定なんていう感覚が全くない日本社会に「限定」という言葉を持ち出すと何が起こりうるかという格好の材料になっている気がします。

    これは労働法律旬報さんの感覚が、というよりも、実のところ世の解雇規制緩和論者のかなり多くが、職務限定というのは配転禁止なんだよ、という一番肝心なことを全然わかってないまま、なんか適当に書いておけばクビが切りやすくなるという風に思っていそうなことの反映なのかもしれませんが。

    現行法でも3歳まで短時間勤務が可能

    いろんな新聞に載っていますが、読売から

    http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130418-OYT1T01604.htm

    安倍首相が19日に女性や若者の雇用・就労に関して経済界に要請する内容が明らかになった。

    〈1〉子どもが3歳になるまで、男女ともに育児休業や短時間勤務を可能にする〈2〉大学生らの就職活動の開始時期を大学3年生の3月からに遅らせる〈3〉全上場企業で役員に1人は女性を登用する――が柱。女性や学生の就労環境の改善を進めることで、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を雇用面で下支えする狙いがある。

    首相は19日、首相官邸に経団連、経済同友会、日本商工会議所の首脳らを招き、こうした取り組みを要請する。経済界への要請は、2月12日に経団連の米倉弘昌会長らに従業員の賃上げを求めたのに続くものだ。

    要請の一つ、育児支援では、現行の育児・介護休業法で原則1年、最長1年6か月となっている育児休業期間について、子どもが3歳になるまで育児休暇や短時間勤務が男女ともに取れるよう、企業に自主的な取り組みを求める。

    そもそも3年も育児休業してたら仕事を忘れないか・・・という議論もありますし、保育施設の充実が先だろという議論もありますが、その前に、まずは現行法を確認。

    実は、現在、完全な育児休業は原則1年、最長1年6か月ですが、上で育児休業と並んでいる短時間勤務は3歳まで権利として保障されています、言い換えれば企業に義務づけられています。

    http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%a2&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H03HO076&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

    育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

    第二十三条  事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(以下「所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。ただし、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうち所定労働時間の短縮措置を講じないものとして定められた労働者に該当する労働者については、この限りでない。

     当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者
     前号に掲げるもののほか、所定労働時間の短縮措置を講じないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの
     前二号に掲げるもののほか、業務の性質又は業務の実施体制に照らして、所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者

    ざっと見た限り、それをちゃんとわかって記事を書いている新聞はあまりなさそうですが・・・。

    2013年4月16日 (火)

    日本経団連「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」

    日本経団連が「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」と題する意見書を公表しています。

    http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/033.html

    http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/033_honbun.pdf

    目次は次の通りで、

    はじめに

    I.雇用を巡る状況の変化

    1. 国内の雇用機会確保の必要性

    2. 多様な労働者が活躍できる労働環境づくりの課題
    (1) 労働者の実態に対応していない労働時間管理
    (2) 厳格な雇用保障責任の問題
    (3) 年功処遇の問題

    II.労働者が働きやすく、透明性の高い労働法制に向けた具体策

    1. 労使自治を重視した労働時間法制改革
    (1) 企画業務型裁量労働制の見直し等 1.企画業務型裁量労働制の「対象業務と対象労働者の範囲」
    2.手続きの簡素化
    3.事務系や研究・技術開発系等の労働者の働き方に適した労働時間制度

    (2) フレックスタイム制の見直し 1.週休2日制の場合の時間外労働となる時間の計算方式の変更
    2.清算期間の柔軟化

    (3) 変形労働時間制の見直し(天災時のカレンダーの変更)
    (4) 特段の事情がある場合の36協定の特別条項に関する基準3の柔軟な運用
    (5) 休憩時間の一斉付与規制の撤廃

    2. 勤務地・職種限定契約における使用者の雇用保障責任ルールの透明化

    3. 労使自治を重視した労働条件の変更ルールの透明化

    参考資料 労働条件の不利益変更に関連する裁判例

    分量的にもⅡの1の労働時間規制の緩和が中心になっているようです。

    これについては、第1次安倍内閣時のホワイトカラーエグゼンプション時の議論のほとんど繰り返しになるので、改めてどこかで取り上げることにして、ここでは話題の「勤務地・職種限定契約における使用者の雇用保障責任ルールの透明化」について。

    ここについての日本経団連の議論は、ある面で正しい議論の筋に沿っている面もありながら、正直言っていささか危ういものを感じます。

    たとえば、

    ・・・しかし、勤務地や職種限定の労働者に対する使用者の雇用保障責任は、一般に、勤務地や職種が限定されていない、いわゆる正社員と当然には同列に扱われないという解釈がなされている4。したがって、紛争を予防するため、特定の勤務地ないし職種が消滅すれば契約が終了する旨を労働協約、就業規則、個別契約で定めた場合には、当該勤務地ないし職種が消滅した事実をもって契約を終了しても、解雇権濫用法理がそのまま当たらないことを法定すべきである。

    いいたいことはわからないでもないのですが、この言い方では間違いだとしかいいようがありません。

    別に、勤務地限定であろうが、職種限定であろうが、「解雇権濫用法理がそのまま当たらない」などという馬鹿なことはありません。客観的に合理的な理由のない解雇をしてはいけないことには何の変わりもないのです。

    何が違うかというと、勤務地や職種が限定されていることによってその限定を超えた配転によって解雇を回避する努力を講じる義務がないということであって、そこだけ捉えれば確かに解雇しやすいということは可能ですが、それは解雇権濫用法理が適用されなくなるなどということとはまったく別のことです。

    とりあえず、この点については確認的に書いておきます。

    歴史から考える解雇規制@日経新聞「中外時評」

    4月14日(日)の日経新聞の中外時評「『歴史から考える解雇規制』=国際化時代のルールを=」で、論説副委員長の水野裕司さんが、拙著を引用しながら、解雇規制の歴史をたどり、今日の問題について論じています。

    「勤務態度が著しく悪かったり、結果を著しく出せていなかったりする社員は、ほかの社員や組織に迷惑をかけている。解雇を会社が検討しやすいようにすべきだ」

    政府の産業競争力会議ではメンバーの企業経営者からこんな意見が出ている。正社員の雇用契約を打ち切ることが難しい今の制度は変える必要があるとの主張だ。

    日本で正社員を解雇できるのは本人が健康を害して就業できなくなった場合や、希望退職者募集や残業削減で労務費を減らしても経営が立ち行かなくなる恐れのある場合など、限られている。

    こうした取り決めを見直し、社員を雇い続けるかどうかについて、もっと企業の裁量を認めてほしいというのが経済界の声だ。伝統的な日本の雇用のあり方への問題提起といえる。

    なぜ日本の社会は正社員に雇用保障をしてきたのか。雇用契約のルールはどうあればいいのか考えるため、歴史を振り返ってみよう。 

    112483労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員の著書「日本の雇用と労働法」(日経文庫)によれば、1950年前後から、下級裁判所が使用者の解雇権の行使を制限する判決を続々と出し始めた。

    合理的な理由のない解雇は権利の乱用であり、無効になるという考え方が、50~60年代を通じて定着していった。この考え方は75年の最高裁判決で最終的に確認され、現在は2008年施行の労働契約法の中で明文化されている。

    裁判所が相次ぎ解雇を制限する判断を出した時期は高度成長期と重なる。56年に経済白書は「もはや戦後ではない」と宣言、60年に池田隼人首相は国民所得倍増計画を打ち出す。日本は国民総生産(GNP)で西ドイツを抜き、世界2位の経済大国になる。

    製造業の飛躍や経済成長を支えたのが、この時期にかたちづくられた日本型の雇用システムだった。熟練労働者を育てて企業内に抱え込めるよう、勤続年数に応じて賃金が上がる年功制を敷き、長期にわたって社員を雇用した。

    雇用保障と引き換えに、社員は会社への忠誠心や配置転換などの命令に従うことを求められた。一人ひとりの社員をどの地域で、どんな仕事に就かせるかは会社が自由に決められ、これが生産性向上を後押しした。

    解雇を制限した裁判所の判断は、こうした当時の現実を踏まえてのものだと労働法の専門家の間ではいわれている。「終身雇用」を企業も社員も当たり前と考えているのなら、解雇には厳しい歯止めをかけなければならないというわけだ。

    つまり解雇をめぐる現在のルールは、裁判所が押しつけたわけではなく、企業経営や雇用の実態にあわせて出来上がったものだ。だとすると、企業や社員の置かれた状況が変化すればルールも変わるのが自然だ。

    89年の冷戦終結後、世界はがらりと変わった。ヒト、モノ、カネが国境を越えて動くグローバル化が進み、今も止まらない。新興国企業が台頭し、企業の競争の舞台は地球規模になった。競争激化にIT(情報技術)の進歩が拍車をかけている。

    このため創意や専門性にとんだ人材で組織を構成する必要性は以前より高まっている。企業を力のある人材の集団にしたいという経済界の主張は世界の変化を考えれば理にかなう。

    もちろん雇用契約のルールを変えようとすれば、契約の打ち切られた人に再就職を支援する仕組みなど、安全網(セイフティネット)の充実が欠かせない。規制改革で職業紹介事業の民間開放を進め、競争を通じてサービスの質を高めるなど、人がほかの仕事に移りやすくなる労働市場づくりに本気で取り組まなければならない。

    企業が問われるのは、「なんでもやる」正社員を都合よく使ってきた経営をどう変えていくかだ。長期雇用を保障しないのなら、転勤や所属部署の異動の命令を自由に出すわけにもいかなくなる。社員の職種や業務目標、役割などをはっきりさせ、公正に評価して報いる人事管理は必須になる。

    雇用保障があり職務が柔軟に変わる従来型の正社員は、「コア人材」などとして今後も残るとしても、契約にのっとって人を使う米欧型の雇用も企業は取り入れていかなくてはなるまい。日本型の殻を破ったあたらしい経営に企業は踏み出せるだろうか。

    ほぼ、先日の日経の社説と同じ論調ですので、

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-2f9a.html(日経新聞の社説は話の順番が逆)

    と同じ論評をすることになりますが、それにしても、こういう形でも拙著『日本の雇用と労働法』が活用されるようになったことは感慨深いものがあります。

    2013年4月15日 (月)

    『﨑岡利克オーラルヒストリー』

    今日はもう一つ労働史のオーラルヒストリーが届きました。こちらは田口和雄さんと鈴木誠さん(JILPTのアシスタントフェロー)による電機連合の賃金政策担当者へのオーラルヒストリーの第一冊目です。

    こちらはそれほど知られていないでしょうから説明しておきますと、﨑岡氏は1970年代から80年代の第1次~第3次賃金政策の立案に関わった方です。

    その後の第4次~第6次賃金政策に携わった加藤昇氏への聞き取りが今後予定されているそうです。

    『近江絹糸人権争議オーラル・ヒストリー(1)』

    労働オーラルヒストリーでその名も高い梅沢・南雲・島西グループによる新たなレポートですが、これは大阪で気を吐いているエル・ライブラリーの谷合香代子さん、千本沢子さん、関西女の労働問題研究会の伍賀偕子さんも加わり、もと近江絹糸労働組合の小林忠男氏の話を聞いたもので、表紙の一番上には「エル・ライブラリー労働史オーラル・ヒストリー・シリーズ」と書かれています。

    近江絹糸人権争議は戦後労働史で大変有名ですが、争議後組合は分裂していて、それは経営立て直しをめぐって夏川社長と大株主の銀行が対立し、主流(全繊)派は銀行側、反主流(総評)派は夏川社長側に立って対立してるんですね。

    これは(1)で、さらにこの争議のオーラルヒストリーは続いているそうです。

    2013年4月14日 (日)

    特定社労士しのづかさんの『世界』論文への感想

    労働者側の立場に立つ「人権派社労士」のしのづかさんが、『世界』5月号に書いた拙論「労使双方が納得する」解雇規制とは」について、次のような感想を書かれています。

    私の趣旨を的確に捉えていただいていて、とてもありがたく思います。

    http://sr-partners.net/archives/51890931.html(解雇規制緩和論争の本質がわかる@岩波書店「世界」5月号)

    ・・・最重要の記事として最も楽しみにしていた濱口桂一郎氏の「「労使双方が納得する」解雇規制とは」を,今慎重に読み終えたところです。

    この記事で言われている見解は,正に私の実体験から出て来るものと同じであると申し上げておきます。

    4月10日の拙ブログで,「近頃マスコミで,金銭を払えばいくらでも解雇はできるなどと浅薄な解雇規制論争が盛んですが,この特集をお読みになって,より本質を知った上で議論をなさってはいかがですか。」と書かせていただきました。

    その本質がこの記事に書かれてあります。

    日本の解雇規制は厳しいことはありません。特に中小企業ではバンバン解雇されています。大企業でも一部ブラック系企業は,能力不足や規律違反で簡単に解雇通告をしています。そのような被解雇者からの依頼で私は今仕事がパンパンです。

    業績不振によるやむを得ない解雇なら,零細企業ではいたしかたないと私は考えています。しかし,その被解雇者の選定は,権利意識の強い者から先に解雇されていると思われる事案が多々あります。整理解雇の人選基準がないに等しく,法制化されていない弊害がもろに出ています。手続方法も法制化されていないので,事前の説明など一切なくいきなり「当社の将来が見えなくなったので解雇」とやっている。

    解雇の金銭解決というのは,不当解雇だからいくらいくら支払いますので辞めてね,というのを許すという意味ではなく,労働裁判で解雇無効と判決されたときに復職しか選択がない現状に,復職ではなく月給の6カ月分や12カ月分,32カ月分の金員を支払えという判決もできるようにする,というそれだけのことです。なにも解雇基準を緩和せよという議論ではないはずです。

    しかし,裁判で復帰させずに金銭支払を命ずる判決が可能になれば,裁判を提起する(される)前に,ADRの場面で頻繁にみられるように,金銭解決を提示するという解決策が取られることに拍車がかかる。

    労働裁判において金銭解決の判決が可能になる,その結果,あっせんなどADRにおける解決金の基準が,今よりはるかに高くなるであろうことは容易に想像ができます。

    だから,せいぜい三カ月分を払えば不当解雇でも終わらせられると考えていた中小零細企業経営者にとっては脅威であり,逆に中小零細企業の労働者にとって福音となると思うのであります。

    この後半のところが、社労士としてあっせんの現場にいるしのづかさんの感覚の確かさをよく示しているように思います。

    一体、日本のどこが世界一解雇が難しい終身雇用の国だっていうんだ

    112050118「会津」さんが、読書メーターで、拙著『日本の雇用終了』について、次のように簡評していただいております。

    http://book.akahoshitakuya.com/cmt/27847405

    読了…はしてないけど一旦読了扱いで。 労働法のしばりが機能してない領域で、いかに無理無法がまかり通ってるかがレポートされた良著。 有給使ったから解雇、気に入らないから解雇、就業規則を確認したら解雇。 一体、日本のどこが世界一解雇が難しい終身雇用の国だっていうんだ。


    2013年4月13日 (土)

    吉田・名古・根本編『労働法Ⅱ〔第2版〕』

    Isbn9784589035073続々と新しい労働法の教科書をお送りいただいております。

    今回は吉田美喜夫・ 名古道功・ 根本到編『労働法Ⅱ〔第2版〕』(法律文化社)を、編者の一人根本到さんからお送りいただきました。いつも有り難うございます。

    http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03507-3&genre=%98J%93%ad%96%40&author=&bookname=&keyword=&y1=&m1=&y2=&m2=&base=genre

    こちらは、2010年の初版を約3年ぶりに改訂しています。

    全15章のうち、総論、労働条件の決定変更、労働者と使用者の権利・義務、労働関係の終了など、重要な5章を根本さんが執筆しています。

    その中から、やはり今日の関心事項である雇用終了関係の部分を引用しておきましょう。「第13章 労働関係の終了」の一番冒頭のパラグラフです。およそ解雇や雇い止めなど、雇用終了に関わることを考える上で、一番最初に頭に置いておかなければならない一番重要なことがさらりと書かれています。

    個別的労働関係法の適用は、労働関係の存在を前提とする。このため、使用者が恣意的に労働関係を終了することができれば、個別的労働関係法は骨抜きになる。こうした意味において、労働関係の終了に関する法規制は、労働法の要であると言っても過言ではない。

    そう、問題は何よりも「恣意的な労働関係の終了」を抑止することにあります。少なくともそれが万国共通の解雇規制の基本哲学です。



    中窪・野田『労働法の世界〔第10版〕』

    L14446中窪裕也、野田進両先生より『労働法の世界〔第10版〕』(有斐閣)をお送りいただきました。有り難うございます。

    http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144460

    1994年からほぼ隔年で改訂され続けて遂に第10版です。本ブログでお礼を申し上げるのももう何回目かになります。

    日々変化する「労働法の世界」を実像に迫りながら明快に描写。労働契約法や派遣法改正等の最新の法状況や判例,学説の動向を反映する。時を重ね,世紀を超えて進化・発展をつづける教科書。第10版の描き出す「労働法の現在」はいかに。

    今回は、コラム「Brush up」の中から、近年話題の「解雇の金銭解決」(351ページ)を紹介しておきましょう。この問題に関する極めて端的な概説になっています。このコラムの執筆はおそらく野田先生でしょうが、そもそも無効構成ではないフランスの解雇法制の感覚がにじみ出ています。

    解雇を裁判で争う場合には、労働契約の存続または従業員たる地位についての確認訴訟が一般的である。その場合には、解雇権濫用に該当し、または強行法規や労働協約・就業規則に違反すると、解雇無効と判断されて、解雇の意思表示はなかったことになる。その結果、使用者は、労働者の現実の復職を法的に強制されることはないとしても、労働者の就労申し入れを拒み続けると、労働者が別会社に就職するなど特段の状況変化が生じない限り、毎月の賃金支払い義務が発生し続けることになる。したがって、常識的な経営者であるならば、その状況を放置することはできず、現実には敗訴後に金銭和解等の何らかの解決の手を打たざるを得ない。

    だとすれば、解雇権濫用についても、その効果を無効と定める必要はなく、始めから金銭解決を図ることを認めても良いのではないだろうか。実は、解雇保護立法を有するヨーロッパを中心とする多くの諸国では、解雇については金銭解決が原則であり、例外的に、公序違反や組合活動を理由とする不当解雇などに限り、無効・復職を認める立法が多い。

    これに対して、日本で解雇の無効・復職が原則とされるのは、我が国において伝統的な終身雇用慣行が解雇法理に影響を及ぼしたものと考えられる。また、「不当な解雇をしても、金銭さえ支払えば良い」という考え方に、抵抗感を持つ見解も根強い。

    ただ、近年の労働審判やあっせんの解決例では金銭解決が標準であり、一度失われた労使の信頼関係を元に戻して労働者を復職させることは、現実には困難である。また、正社員以外の雇用が39%近くにもなる今日の雇用実態では、終身雇用慣行を基本とする必要もない。公序違反等の解雇の場合を除き、金銭解決が可能であるものとし、賠償金(解決金)の最低額や標準額を法律で定めるなどして、解雇の金銭解決を適正かつ円滑にするための取り組みが必要である。


    マンナ運輸事件の評釈@東大労判

    昨日、東京大学労働判例研究会で久しぶりに判例評釈をしてきました。取り上げた判決はマンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)(労働判例1058号21頁)です。

    http://homepage3.nifty.com/hamachan/manna.html

    2013年4月12日 (金)

    「不当なクビ切り横行も」暗中模索の雇用流動化 解雇規制緩和@サンケイBIZ

    本日のサンケイBIZの「「不当なクビ切り横行も」暗中模索の雇用流動化 解雇規制緩和」という記事に、わたくしの発言も少し載っています。

    http://www.sankeibiz.jp/econome/news/130412/ecd1304120800000-n1.htm

    政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)で、民間議員が提案した解雇規制の緩和が議論を呼んでいる。企業経営者らは正社員の解雇をしやすくすれば不採算部門からの撤退が容易になり、競争力向上につながると期待しているのに対し、専門家の間には「不当なクビ切りが横行しかねない」との慎重意見も強い。安倍政権は、従来の雇用維持重視から労働移動を促進する姿勢に転じているものの、6月に策定する成長戦略で具体的な緩和方針を打ち出せるかは不透明だ。

    ・・・これに対し、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎・統括研究員は「解雇を議論するならば、雇用形態のあり方も含めて考えるべきだ」とくぎを刺す。

     日本企業の正社員は手厚く雇用が守られるが、代わりに企業の人事権が強く、勤務地や職種の自由度が少ない。濱口氏は「解雇しやすさを追求すれば、企業の権利だけがより強まり、不当な解雇が可能になる恐れがある」と指摘する。・・・

    電話取材だったので、若干趣旨がずれているところ(「勤務地や職種の自由度が少ない」のではなく、限定がない、つまり企業側の自由度が大きい)もありますが、おおむねこういうことです。

    梅崎修・田澤実編著『大学生の学びとキャリア』

    9784588686061梅崎修・田澤実編著『大学生の学びとキャリア』(法政大学出版局)をお送りいただきました。ありがとうございます。

    http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-68606-1.html

    大学生はどのような学生生活をして、いかにして学び、将来の進路を決めていくのだろうか。また、入学前と卒業後ではどのように意識が変化するのか。本書は、筆者らが独自に開発した「キャリア意識の発達に関する効果測定テスト」(CAVT)による統計調査にもとづいて大学生のキャリア発達を実証的に俯瞰し、大学のキャリア教育の役割と実践はいかにあるべきかを検証する。

    といわれても今一つイメージがわきにくいですが、目次はこんな感じです。

    序 章 学びとキャリアを分析する意義

    第Ⅰ部 何をもってキャリア教育の効果があったとするのか?
     第1章 キャリア意識の測定テスト(CAVT)の開発
     第2章 体験型学習の効果──CAVTを使った効果測定の試み
     第3章 初期キャリアの決定要因──全国の大学4年生の継続調査
     第4章 教育効果の大学間格差──全国の大学4年生と卒業後2年目の継続調査

    第Ⅱ部 どのような学生生活がキャリア発達を促すのか?
     第5章 人間関係の構築と進路意識──高校に対するキャリア意識調査
     第6章 大学生活と自尊感情──大学1年生に対する縦断調査
     第7章 時間管理とキャリア意識

    第Ⅲ部 就職活動を通じてキャリア意識は変化するのか?
     第8章 希望業種の男女間比較──4年間の継続調査
     第9章 希望進路の変化と内定先満足度──学生インタビュー調査
     終 章 分析結果のまとめ

     附 録 キャリア意識の発達に関する効果測定テスト
        (キャリア・アクション・ビジョン・テスト: CAVT)―活用の手引き―


    職場のジェンダー・ハラスメント@内藤忍

    JILPTホームページのコラム、今回はいじめ・嫌がらせ問題の『顔』になってきた内藤忍さんの「職場のジェンダー・ハラスメント」です。

    http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0220.htm

    「何だ、その太い足は」「デブはクビだ」「お前がスカートなんて信じられない」などの発言をされる、シングルマザーの労働者が上司から「付き合っている人がいるという噂があるが、その人と結婚するのか」などの質問をされる、名前ではなく「おばはん、ばばあ」などと呼ばれる……これらは、都道府県労働局が取り扱ったいじめのあっせん事案における実際の内容の一部である(JILPT2010、JILPT2013)。

    ここ数年、職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメント(以下、職場のいじめ)の調査研究を担当している。そのなかで、性別に関係するハラスメント(ジェンダー・ハラスメント)の存在を意識するようになった。・・・・・

    この先はリンク先でお読みいただきたいのですが、一点だけ。上の「JILPT2013」というのは、もうすぐ出る

    JILPT(2013)『職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態―個別労働紛争解決制度における2011年度のあっせん事案を対象に―』資料シリーズ(近刊)

    です。あっせん事案に見られるいじめ・嫌がらせ・パワハラのさまざまな姿が分析されていますので、乞うご期待、ということで。

    BSフジプライムニュースの映像

    去る4月9日(火)のBSフジプライムニュースの映像です。

    公式PRIMENEWS 20130409 1/2 雇用 65歳定年制と解雇規制緩和

    公式PRIMENEWS 20130409 2/2 雇用 65歳定年制と解雇規制緩和

    2013年4月11日 (木)

    ワークルール検定

    131562世に検定という名の試験はいっぱいありますが、ありそうでなかったのがワークルール検定。

    旬報社のHPに、NPO法人 職場の権利教育ネットワーク 編『ワークルール検定2013』が載っていましたので、

    http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/831

    働きやすい職場を実現するために!
    全国で初めて開催される「ワークルール検定」
    初級検定試験の公式テキスト

    その「全国で初めて開催される「ワークルール検定」」の公式ウェブサイトはこちらですね。

    http://www.kenrik.jp/wr/index.html#top

    今年の6月に札幌で行われるそうです。

    ●個別法分野 労働契約法上の権利義務,就業規則,採用・内定・試用,人格的利益,人事,賃金,労働時間・休日・年次有給休暇,懲戒,退職・解雇・雇止め
    ●集団法分野 労働組合,不当労働行為,団体交渉・労働協約,争議など労働法全般
    ●労働問題に関わる一般的知識

    これに関する北海道新聞の記事も載っています。

    http://www.kenrik.jp/katsudo/baozhi2013a.pdf

    今年の6月に札幌で行われるそうです。

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    内閣府規制改革会議第2回雇用ワーキング・グループでプレゼン

    本日、内閣府規制改革会議第2回雇用ワーキング・グループで報告してきました。

    http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130411/agenda.html

    報告者は、佐藤博樹、大内伸哉、わたくし、及び小嶌典明の4名です。はじめの3人が(限定正社員、試用期間について、小嶌氏が有料職業紹介についてという割り当てでした。資料はリンク先にアップされていますが、そのうち、わたくしのレジュメをこちらにコピペしておきます。

    なお、やりとりもいろいろと興味深いものがありましたが、そのうちオフィシャルな議事録がアップされると思いますので、ここでは触れないでおきます。

    Ⅰ 日本型雇用システムと雇用法制

    1 メンバーシップ契約としての雇用契約

    ・日本型雇用システムの本質は正社員の雇用契約が「職務の限定のない地位設定契約」(メンバーシップ契約)であることにある。
    ・日本型雇用システムの特徴とされる長期雇用制度、年功賃金制度及び企業別組合は、すべてそのコロラリー(論理的帰結)として導き出される。

    2 長時間労働と転勤を条件とする雇用保障

    ・日本型雇用システムにおいて雇用契約で限定されていないのは職務だけではなく、労働時間と就業場所についても原則として限定はない。
    ・これが女性や家庭責任を有する労働者にとって正社員として働くことを困難にしている。
    ・この職務、時間、空間について限定のない労働義務の代償として、職務がなくなっても守られるべき雇用保障が存在している。

    3 生活給制度のメリットとデメリット

    ・年功賃金制には、正社員の家族の生活費(子供の教育費を含む)も含めて保障する生活給制度という意味がある。
    ・それがまた、職業的意義の乏しい教育をもたらしている。

    4 陰画としての非正規労働者

    ・以上のシステムが適用されるのは正社員のみであって、日本には膨大な数の非正規労働者が存在している。
    ・非正規労働者の労務管理は以上と全く逆で、職務、時間、空間の限定があるかわりに、職務があっても雇用保障は存在しない。
    ・かつては主婦パートや学生アルバイトが主であったが、正社員の収縮に伴い、正社員を望む若者の不本意な非正規就労が増加した。

    5 ジョブ契約としての雇用契約

    ・しかし、民法、労働基準法、職業安定法、労働組合法など日本の実定労働法は雇用契約をメンバーシップ契約ではなく(万国共通の)ジョブ契約を想定して規定している。

    6 メンバーシップ型に修正された判例法理

    ・このように正反対の枠組みに立脚する日本型雇用システムと労働法制の隙間を埋めてきたのが、包括的な人事権法理、整理解雇法理、就業規則の不利益変更法理など戦後裁判所の判決で確立してきた判例法理である。
    ・雇用調整助成金など1970年代以降の政策立法も企業行動をメンバーシップ型に誘導した(1960年代まではむしろ外部労働市場型の政策)。

    Ⅱ 今後の方向について

    1 ジョブ型正社員の構築

    ・ジョブ(職務)や勤務地を限定した期間の定めのない雇用契約。ジョブを超える配転はないが、そのジョブがある限り原則として解雇から保護される。逆に当該ジョブがなくなったり、ジョブの絶対量が縮小すれば他のジョブに配転することで雇用を保障する義務はない。(不当な解雇から保護されるべきことはいずれの形態であっても当然)
    ・2012年改正労働契約法により無期転換した有期契約労働者が典型。
    ・当面は今までの正社員や非正規労働者から希望に応じてジョブ型正社員に移行するという形になるが、将来的には雇用契約のデフォルトルールをジョブ型正社員とすることも考える必要。

    (付)試用期間について

    ・ジョブ型社会においては、試用期間とはあるジョブに採用した労働者が当該ジョブを遂行しうるかを判断するための期間。それゆえ、試用期間は個別解雇が緩やかとなる。
    ・日本型雇用システムではジョブが限定されないので、試用期間の性格が曖昧化(人間性判断?)。
    ・ジョブ型正社員であれば、試用期間の性格は諸外国型となる。
    ・ただし、欧州の試用期間は(その性質上)14日から長くても1年、多くは3か月から6か月である。

    2 ジョブ型雇用政策の再構築

    ・公共職業安定所及び職業紹介事業者は、求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対しては、その雇用条件に適合する求職者を紹介するよう努めなければならない。(職業安定法第5条の7)
    ・これが現実となるような労働市場インフラとして、企業を超えた職業能力評価システムをいかに整備するかが課題。

    2013年4月10日 (水)

    労働政策レポート『団結と参加―労使関係法政策の近現代史』

    Danketuこちらは、わたくしが既存の邦語文献をもとにまとめたものです。

    http://www.jil.go.jp/institute/rodo/2013/010.htm

    こちらも、まえがきを引いておきます。

    最近、非正規労働問題の解決の道筋として集団的労使関係システムに着目する議論がいくつかなされています。たとえば厚生労働省の「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」が2012年3月にとりまとめた報告書は、「職務の内容や責任の度合い等に応じた公正な処遇」を求めた上で、「・・・労働契約の締結等に当たって、個々の企業で、労働者と使用者が、自主的な交渉の下で、対等の立場での合意に基づき、それぞれの実情を踏まえて適切に労働条件を決定できるよう、集団的労使関係システムが企業内の全ての労働者に効果的に機能する仕組みの整備が必要である。」と、やや踏み込んだ提起をしています。

    ここで、「集団的労使関係システム」に注がつけられ、「集団的労使関係システムにおける労働者の代表として、ここでは、労働組合のほか、民主的に選出された従業員代表等を想定している」と書かれています。ここには、これまでほとんど議論の対象になってこなかった集団的労使関係システムを通じた非正規労働問題の解決という道筋が垣間見えているともいえます。

    こうした問題意識は、たとえば2011 年2 月の「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」報告書でも、待遇に関する納得性の向上に関わって「このため、ドイツの事業所委員会やフランスの従業員代表制度を参考に、事業主、通常の労働者及びパートタイム労働者を構成員とし、パートタイム労働者の待遇等について協議することを目的とする労使委員会を設置することが適当ではないかとの考え方がある」と、かなり積極的姿勢に踏み込んでいます。

    もっとも、その直後に「ただし、日本では、一般的には労使委員会の枠組みは構築されていないことから、パートタイム労働者についてのみ同制度を構築することに関して検討が必要となろう」とあるところからすると、この問題は集団的労使関係システム全体の再検討の中で検討されるべきという姿勢のようにも見えます。

    こうした考え方は労働法学者にも共有されるようになっています。たとえば菅野和夫氏の『労働法第十版』(弘文堂)においても、「特に、正規雇用者と非正規雇用者間の公平な処遇体系を実現するためには、非正規雇用者をも包含した企業や職場の集団的話し合いの場をどのように構築するかを、従業員代表法制と労働組合法制の双方にわたって検討すべきと思われる。」と書かれるに至りました。

    今後、様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制の在り方に関して、法政策的な検討が積極的に進められていくことが期待されますが、そのための基礎作業としても、ドイツやフランスなどいつも取り上げられる諸国に限らず、世界各国の集団的労使関係法制のあり方を、労働組合法制と従業員代表法制の双方に目を配りながら把握することが重要となります。

    本レポートでは、濱口桂一郎統括研究員が、既存の邦語文献をもとに世界各国の集団的労使関係法制を歴史的推移に重点を置きながら概観しています。今後展開される集団的労使関係法制をめぐる法政策論議になにがしか役立てば幸いです。

    目次は以下の通りです。

    序章 労使関係法政策の諸類型と日本法制の性格
    1 集団的労使関係法政策の諸類型
    2 日本の集団的労使関係法制の性格

    第1章 イギリス
    1 労働者規制法と職人規制法
    (付) 救貧法制
    2 団結禁止法
    3 友愛組合
    4 工場法
    5 団結禁止法の撤廃とその修正
    6 主従法
    7 1871年法
    8 1875年法
    9 1906年労働争議法
    10 1913年労働組合法
    11 第一次大戦と職場委員
    12 ホイットレー委員会
    13 賃金委員会法
    14 1927年労働争議・労働組合法
    15 強制仲裁制度
    16 第二次大戦と合同生産委員会
    17 ドノヴァン報告書
    18 1971年労使関係法
    19 70年代労働党の労使関係法政策
    20 経営参加構想
    21 サッチャー政権の労使関係法政策
    22 メージャー政権の労使関係法政策
    23 賃金政策の推移
    24 ブレア政権の労使関係法政策
    25 EU指令に基づく情報協議規則

    第2章 フランス
    1 絶対王制下の同職組合とマニュファクチュール
    2 フランス革命期の団結禁止政策
    3 二月革命期の国立作業場
    4 第二帝政の労使関係法政策
    5 第三共和制の労使関係法政策
    6 労働組合の発展と第一次大戦後の労使関係法政策
    7 全国経済審議会
    8 人民戦線内閣の労働立法
    9 ヴィシー政府の労使関係法政策
    (付) コルポラティスム
    10 終戦直後期の労使関係法政策
    11 1950年労働協約法
    12 労働者参加の推進
    13 企業内組合権の確立
    14 オルー法
    15 オブリー法
    16 フイヨン法
    17 2008年法

    第3章 ドイツ
    1 ツンフト体制
    2 営業の自由と団結禁止
    3 三月革命と団結自由
    4 第二帝政の労使関係法政策
    5 共同決定制の生成
    6 第一次大戦と城内平和
    7 11月革命とワイマール共和国の労使関係法政策
    8 事業所委員会の確立
    9 紛争調整制度の確立
    10 ナチスの労使関係法政策
    11 西ドイツにおける労使関係法制の再建
    12 共同決定制の開花
    13 1972年事業所組織法改正
    14 1976年共同決定法
    15 ドイツ統一以後

    第4章 ドイツ周辺諸国

    第1節 オーストリア
    1 団結禁止時代
    2 三月革命と団結自由
    3 第一次大戦とオーストリア革命
    4 教権ファシズムとナチス支配
    5 第二共和国

    第2節 スイス
    1 労働協約法制のパイオニア
    2 被用者代表法制の成立

    第3節 ベルギー
    1 第一次大戦前の労使関係法政策
    2 戦間期の労使関係法政策
    3 第二次大戦後の労使関係法政策

    第4節 オランダ
    1 第二次大戦前の労使関係法政策
    2 ドイツ占領体制とネオ・コーポラティズムの形成
    3 労使協議制

    第5章 北欧諸国

    第1節 スウェーデン
    1 12月の妥協と労働協約法
    2 基本協約
    3 企業協議会
    4 共同決定法

    第2節 デンマーク

    第3節 ノルウェー

    第4節 フィンランド

    第6章 南欧諸国

    第1節 イタリア
    1 労働運動の形成
    2 国家の政策
    3 工場評議会運動
    4 ファシズムの労使関係法政策
    5 戦後労使関係の枠組みと憲法
    6 「熱い秋」と労働者憲章法
    7 被用者代表制度の再確立

    第2節 スペイン
    1 王制期とプリモ・デ・リヴェラ体制
    2 第二共和政の労使関係法政策
    3 フランコ体制と労働憲章
    4 戦後フランコ体制下の労使関係法政策
    5 民主化後の労使関係法政策

    第3節 ポルトガル

    第7章 東欧諸国

    第1節 ロシア(ソビエト)
    1 帝政ロシアの労使関係法政策
    2 ロシア二月革命
    3 ロシア十月革命と戦時共産主義
    4 ネップ時代の労使関係法政策
    5 スターリン時代の労使関係法政策
    6 非スターリン化時代の労使関係法政策
    7 ペレストロイカの労使関係法政策
    8 体制転換後のロシア労使関係法政策

    第2節 ポーランド
    1 社会主義体制下の労使関係法政策
    2 連帯運動以後の労使関係法政策
    3 体制転換前後の労使関係法政策
    4 体制転換後の労使関係法政策

    第3節 (旧)ユーゴスラビア
    1 社会主義体制の成立
    2 労働者自主管理の展開
    3 労働者自主管理の解体

    第8章 アメリカ
    1 労働差止命令とシャーマン法
    2 クレイトン法
    3 第一次大戦と全国戦時労働局
    4 鉄道労働法制
    5 福祉資本主義と被用者代表制
    6 ノリス・ラガーディア法
    7 全国産業復興法
    8 ワグナー法
    9 ニュー・ディール型労使関係の企業別的性質
    10 第二次大戦と戦時労使関係
    11 タフト・ハートレー法
    12 ランドラム・グリフィン法
    13 GM-UAW協約体制
    14 労働法改善法案
    15 ダンロップ委員会報告とチーム法案
    16 被用者自由選択法案

    第9章 その他のアングロサクソン諸国

    第1節 カナダ
    1 労働争議調査法
    2 戦時立法
    3 労働関係争議調査法
    4 労働法典第5部

    第2節 オーストラリア
    1 強制仲裁制度の成立
    2 強制仲裁制度の推移
    3 企業レベル協定への法改正
    4 職場関係法
    5 労働選択法
    6 公正労働法

    第3節 ニュージーランド
    1 強制仲裁制度の成立
    2 労働党政権の改革
    3 1991年雇用契約法
    4 2000年雇用関係法

    第10章 日本
    1 治安警察法
    2 労働組合法制定に向けた動きの始まり
    3 労働委員会法案
    4 若槻内閣の労働組合法案
    5 労働争議調停法
    6 濱口内閣の労働組合法案
    7 産業委員会法案とその後
    8 産業報国会
    9 1945年労働組合法
    10 労働関係調整法
    11 経営協議会
    12 占領政策の転換
    13 1949年の法改正
    14 1952年の法改正
    15 スト規制法
    16 労使協議制
    17 過半数代表制
    18 公共部門の労働基本権問題
    19 労使委員会をめぐる法政策論
    20 集団的労使関係法制への関心の高まり

    第11章 韓国
    1 日本統治下の朝鮮
    2 アメリカ軍政時代
    3 李承晩政権の労使関係法政策
    4 朴正熙政権の労使関係法政策
    5 維新体制の労使関係法政策
    6 全斗煥政権の労使関係法政策
    7 民主化宣言と1987年改正
    8 三禁問題の混迷
    9 三禁問題と1996年改正
    10 アジア通貨危機と1998年改正
    11 2010年改正

    第12章 中国

    第1節 中華民国
    1 清朝末期の労働争議禁圧政策
    2 北京政府の労働争議禁圧政策
    3 広東政府の労使関係法政策
    4 国民政府(広東、武漢)の労使関係法政策
    5 南京国民政府の労使関係法政策
    6 日中戦争期の労使関係法政策
    7 国共内戦期の労使関係法政策

    第2節 中華人民共和国
    1 建国期の労使関係法政策
    2 社会主義化時代の労使関係法政策
    3 大躍進と文化大革命
    4 改革開放時代の労使関係法政策
    5 1992年工会法
    6 1993年労働争議処理条例
    7 1994年労働法
    8 2001年工会法
    9 2007年労働契約法と労働紛争調停仲裁法

    第3節 台湾
    1 国民政府による接収
    2 台湾国民政府の労使関係法政策
    3 戒厳令解除と改正労資争議処理法
    4 労使関係法制大改正への道程
    5 新工会法
    6 新団体協約法
    7 新労資争議処理法

    第13章 その他のアジア諸国

    第1節 フィリピン
    1 弾圧の時代と黙認の時代
    2 強制仲裁制度の時代
    3 団体交渉制度の時代
    4 任意仲裁・強制仲裁の枠内での団体交渉制度の時代
    5 その後の推移

    第2節 タイ
    1 初期労働立法
    2 1956年労働法
    3 革命団布告第19号
    4 革命団布告第103号
    5 1975年労働関係法
    6 弾圧と融和
    7 その後の動向

    第3節 マレーシア
    1 英領マラヤの労働組合令
    2 独立マレーシアの労働組合法制
    3 1971年改正
    4 1980年改正
    5 1989年改正

    第4節 シンガポール
    1 独立以前の労使関係法制
    2 独立シンガポールの労使関係法制

    第5節 インドネシア
    1 独立からスカルノ時代
    2 スハルト時代の法制
    3 通貨危機とスハルト後の法制改革

    第6節 ベトナム
    1 独立直後の時期
    2 ベトナム戦争と社会主義化の時代
    3 ドイモイ時代の労使関係法制
    4 労使関係法制の動向

    第7節 ミャンマー(ビルマ)
    1 植民地時代からクーデタまで
    2 社会主義時代
    3 民政移管と2011年労働組合法

    第8節 インド
    1 1926年労働組合法
    2 1947年の労働組合法改正と労働争議法
    3 労使関係法制改正の試み
    4 その後の動向

    細川良・山本陽大『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約』

    GermanJFrance_2ILPTの研究報告書として『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約』(第1巻:ドイツ編。第2巻:フランス編)がアップされました。

    http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0157.htm

    執筆者は、ドイツ編が山本陽大さん、フランス編が細川良さん、いずれもJILPTの若手労働法研究者です。

    そもそもどうしてこういう研究をしているのかについて、まえがきをまず引用しておきます。

    現代日本においては、労働法制上は労働組合が使用者ないし使用者団体と締結する労働協約が使用者の定める就業規則に優越する法規範として位置づけられているにもかかわらず、企業別組合中心の労働社会においてその存在感は希薄であり、過半数組合ないし過半数代表者の意見を聴取するとはいえ使用者の一方的決定による就業規則が法規範の中心的存在となっている。例えば、菅野和夫『新・雇用社会の法』においても、就業規則を「雇用関係の基本的規範」と呼んでおり、規範としての労働協約の影は極めて薄い。
    これに対し、欧州諸国では全国レベルや産業レベルで労働組合と使用者団体との間で締結される労働協約が国家法と企業レベルを媒介する重要な法規範として労働社会を規制しており、その位置づけは極めて高いものがあるといわれている。その典型的な諸国としては、ドイツやフランスが挙げられる。こうしたマクロ社会的な労使の自治規範がほとんど存在しない日本においては、ミクロな企業レベルを超える問題は直ちに国家法の問題となるため、例えば労働時間問題などにおいても、過度に法律政策に依存したものになりがちとの指摘もある。
    もっとも近年は、これら諸国においても事業所協定や企業協約への分権化の傾向が指摘されており、産業別協約がどの程度規範としての力を保持しているのか、関心を呼んでいるところである。
    そこで、労働政策研究・研修機構においては、産業レベル労働協約が中心である欧州諸国、具体的にはドイツ及びフランスを対象として、現代先進諸国における規範設定に係る集団的労使関係のあり方を調査研究することとした。具体的には、国、産業レベルの団体交渉、労働協約とその拡張適用、企業や事業所レベルにおける労働組合ないし従業員代表機関との協議交渉や協定等について、実証的かつ包括的に調査研究し、これからの日本の労働社会のあり方に関するマクロ的議論の素材とすることを目指している。
    今年度はまず、ドイツ、フランス両国の集団的労使関係法制の現状を分析するとともに、両国における産業別協約の実態を明らかにした。
    本報告書が多くの人々に活用され、今後の労働法政策に関わる政策論議に役立てば幸いである。

    研究計画では、初年度は産業レベルの労働協約の実態を調査し、2年度は企業・事業所レベルの実態を調査する予定です。

    この報告書はその初年度の報告書で、関心のある方々には大変有用だと思われます。

    是非リンク先でダウンロードしてお読みいただきたいと思いますが、取り敢えずどういうことが書いてあるのかを本人らによる概要によると、

    (1) ドイツの産業別協約

    ドイツにおいては、法律上、労働協約は労働組合員に対してのみ直接適用されることとなっているが(労働協約法3条1項)、実務上は、非組合員と使用者との個別労働契約のなかで、当該非組合員に対して、組合員に適用されている労働協約を適用する旨の条項(援用条項)が置かれることで、非組合員に対しても間接的に労働協約を適用するという取り扱いが頻繁に置かれている。そして、ドイツの統計を見ると、このような労働協約の直接的・間接的適用により、現在でも旧西ドイツ地域において約7割、旧東ドイツ地域でも約6割の労働者が、産業別労働協約が定める労働条件のもとで就労している。このことからすれば、ドイツにおいて産業別労働協約は、現在でも労働者の多数をその適用下に置いているのであって、労働関係における規範設定に当たり、なお重要な地位を占めているものと評価することができる。

    もっとも、このような協約適用率は、近年一貫して低下傾向にある。これには、産業別労働組合・使用者団体の組織率低下、使用者団体内における「協約に拘束されない構成員」の増加、企業別労働協約の増加、開放条項の多用、一般的拘束力宣言を受けた労働協約数の増加など、様々な要因が作用している。これらの要因を検討したところによれば、ドイツにおいて産業別労働協約が保持していた企業横断的な労働条件規制力は、従来に比べれば着実に弱体化しており、我が国においてもつとに指摘されてきたドイツにおける産業別労働協約の「危機」や「動揺」は現在もなお進行中であるといえる。

    特に、労働条件規制権限の産業レベルから企業・事業所レベルへ「分権化」との関連では、かかる分権化には、2つの傾向が指摘できる。1つは企業別労働協約の締結による労働条件規制であり、もう1つは産業別労働協約が定めた開放条項を利用することによる事業所協定の締結を通じた労働条件規制である。本研究では、とりわけ後者に着目し、金属産業およびサービス産業(小売業)の労働協約を採り上げ、実際に産業別労働協約がどの程度開放条項を置き、事業所内労使関係(事業所委員会と個別使用者間の労使関係)に労働条件規制権限を委ねているのかを明らかにした。それによれば、金属産業においては、週所定労働時間の配分・延長や、土曜労働、労働時間口座制の導入、週10時間・月20時間を上限とする時間外労働時間、操業短縮の実施、深夜労働および日曜祝祭日労働の実施など、主に労働時間に関する事項を中心に労働者の重要な利害に関わる開放条項が複数存在する。また、賃金関係でも、協約が定めているのとは異なる賃金等級や格付手続きを事業所協定により定める旨の開放条項や、労働協約による賃金引上げが企業の経営危機をもたらす場合、使用者と事業所委員会は、協約当事者に対して、当該事業所に関して特別な取り扱いをするよう、提案することができる旨の開放条項があり、事業所パートナーに対してかなり分権化の途を開いている。これに対して、小売業の労働協約についてみると、労働者の重要な利害に関わるものとしては、52週間の範囲内で平均的週労働時間が37.5時間となる限りにおいて、週所定労働時間の変形を認める変形労働時間制や、パートタイム労働者の労働時間の配分を原則5日から6日へ延長することを、事業所協定によって行うことができるという開放条項が存在する程度であり、金属産業に比べて、開放条項の数が極めて少ない。それゆえ、小売業においては事業所協定の締結による労働条件規制権限の分権化の余地に乏しいといえようが、他方で企業別協約の締結による分権化が生じている可能性はなお残されている。

    (2) フランスの産業別協約

    フランスにおいては、労働組合が当該産業における職業(労働者全体)の代表であると位置づけられ、職業(産業)単位で労働条件を規律してきたというその歴史的経緯も影響し、近年における企業内労使交渉を促進する政策にもかかわらず、現在においてもなお(特に中小企業、および中小企業が多い産業において)企業内の労使関係が十分に成熟しておらず、労働条件決定には、企業別協約・協定との一定の役割分担を前提に、今なお産業別ないし職種別労働協約が大きな影響力を有している。その証左の1つとして、産業別労働協約の規定内容が非常に細かく、労働者にとって自身が適用される産業別ないし職種別労働協約の規定内容が非常に重要となっており、産業別ないし職種別労働協約は、とりわけ、産業別ないし職種別最低賃金の設定を通じた市場における労働条件引き下げ競争の防止、産業別職業資格制度の確立および職業教育の実施を通じた労働者のキャリア形成について、主要な機能を果たしている。

    ただし、フランスの産業別労働協約は、あくまでも産業別の「最低基準」を設定するものであるので、当該産業における大企業(あるいは中企業)、また地位の高い労働者(管理職等)については企業別協約ないし個別の契約により、労働条件が上乗せされるあるいは独自に決定されているケースが多く、これに対し、従業員200人未満の小規模企業においては、1.でも述べたとおり、企業内の交渉が実体的にはほとんど存在しない結果、産業別ないし職種別労働協約に定める労働条件がほぼそのまま適用されているケースが多い。この結果、具体的には大企業における労働者と小企業における労働者とではおおよそ1:2~1:3程度の賃金の差異が生じている。

    2004年の法改正により、企業別協約による産業別労働協約・協定の適用除外制度が導入され、企業別協約によって産業別労働協約の定める労働条件を不利益に変更することができないとする、いわゆる「有利原則」に基づいた労働協約の「階層性」は、制度上は突き崩された。しかし、その実態をみると、企業別協約による産業別労働協約の適用除外の仕組みはほとんど利用されておらず、すなわち現状においては「有利原則の撤廃」は象徴的意味を有するにとどまり、企業単位で労働条件を決定するといういわゆる労働条件決定の「分権化」はほとんど進んでいないのが実情である。その背景には、フランスにおける企業別交渉(労使関係)の基盤の脆弱性、特に中小企業における使用者の(企業別)労使交渉に対する忌避に加え、労働組合のみならず、使用者側においても、産業レベルで労働条件の最低基準をコントロールすることの重要性が今なお(産業別の使用者団体を中心に)一定の支持を受けていることがある。ただし、政府の方針およびフランス経団連の方針として、企業別交渉の基盤を整備する法政策の推進が検討されており、企業別交渉の基盤整備の促進により、こうした状況が変化していくのか、今後注目していく必要がある。

     

    野川忍編『レッスン労働法』

    L14445野川忍編『レッスン労働法』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。さてこの本、著者は、笠木映理、富永晃一、原昌登、渡邉絹子という、東大系若手4人で、編者が一世代上の野川忍さん。

    http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144453

    教師と学生の架空ゼミ形式による,新たな試みのテキスト。全25回。前半のレポート(学生の報告)では,各回で学ぶべき概要がわかりやすく伝えられ,後半のレッスン(教師と学生の対話)では,重要論点について楽しく理解が深められるようになっている。

    中身は左の表紙に描かれている労働法の先生と学生4人によるディスカッションという構成ですが、そのプロフィールというのが、

    M大学法学部教授 如月健太

    M大学法学部4年生 栗田みちる

    M大学ロースクール(既修)2年生 吉川翔

    M大学ロースクール(未修)3年生 白鳥涼香

    M大学ビジネススクール2年生 山本一生

    なんか、かっこよすぎるんですけど・・・。いや、誰が誰とかいうんじゃなしに。

    中身は、若手研究者が自己抑制したためか、大内伸哉さんの類書とは比べものにならないくらいおとなしいです。ちょっと、おとなしすぎる感も・・・。


    成長のための人的資源活用検討専門チーム報告書

    本日、内閣府の経済社会構造に関する有識者会議の日本経済の実態と政策の在り方に関するワーキング・グループの下に置かれた「成長のための人的資源活用検討専門チーム」の報告書『成長のための人的資源の活用の今後の方向性について』が公表されました。

    http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/pdf/jintekisigenhoukokusyo.pdf

    概要版から重要なポイントを示すと、

    ・ 正社員としての雇用の安定性を一定程度確保しつつワークライフバランスが確保できるような、残業なしの働き方や短時間正社員、職種限定正社員など、多元的な無期雇用形態を個人の選択により可能にすること

    ・ 職業能力をレベル毎に的確に評価でき、それが転職した場合にも賃金に反映されるような企業横断的な職業能力評価制度の整備などを通じた専門能力活用型のジョブ型労働市場の整備を図ること

    ・ 変化に対応して新しい技術・技能を常に身につけることができる効果的な学び直しを行うための良質な教育訓練機会の確保を図ること

    ・雇用制度の在り方を考えていく際には関係者の納得感が重要であること

    と、極めてまっとうな提言を行っています。

    ここをもう少し詳しく要約したもので見ると、

    多元的な働き方の実現

    現在、正社員と非正規雇用に二極分化しており、職務内容、労働時間、勤務場所などについて限定的に働きたいが雇用の安定を求めたいという正社員・非正規雇用労働者のニーズに十分応えられていない面がある。
    このため、正社員と非正規雇用労働者の二極化を解消するため、正社員としての雇用の安定性を一定程度確保しつつワークライフバランスが確保できるような、残業なしの働き方や短時間正社員、職種限定正社員、業務限定正社員など、多元的な無期雇用形態を、雇用契約の多元化や明示などを通じて可能として普及し、各雇用形態間を労働者個人の選択によって相互に移行可能にしていくことが考えられる。これまで無限定の働き方を避け、有期契約の非正規雇用を選択していた者も働き方を限定したままで無期契約の正社員に移行することができる。また、希望に応じて正社員に移行するルートとして多元的な働き方が活用しうる。
    なお、制度設計に当たっては、個人の選択が確保され、企業からの強制や正社員の処遇切り下げとならず、改革を通じて雇用の安定化が図られる層が増えるよう配慮がなされるべきである。

    職業能力評価制度の整備などジョブ型労働市場の整備

    正社員であっても、非正規雇用であっても、自らのキャリア、職業能力を軸として円滑に労働移動することによって、雇用の安定を図っていくことが考えられる。職業能力を蓄積することにより賃金上昇を可能とすることによって、転職した場合にも生活の安定を図っていくことが考えられる。そのためには、それを可能とする専門能力活用型のジョブ型労働市場の整備を図るべきである。職業能力をレベル毎に的確に評価でき、それが転職した場合にも賃金に反映される企業横断的な職業能力評価制度の整備が必要である。

    若者への人的資源形成機会の提供

    若者が新卒時に安定した職を得て、腰を据えて職業能力を養成し、その後の人生において、場合によっては職業能力を軸に離転職することが可能となることによって、雇用の安定を図っていく必要がある。中小企業を含めれば新卒者の求人倍率は1を超えている。在学時からキャリア教育の充実、中小企業の人材ニーズに応える教育の推進や、中小企業の魅力を伝えることにより、中小企業と学生のマッチングを図り、新卒者の希望者全員ができるだけ安定した雇用を得ることができるようにすることを目指す。
    バブル崩壊以後、フリーターやニートとなり、安定的な雇用が得られず、長期間が経過している者に安定的な雇用を得るための教育訓練、トライアル雇用、精神面も含めたサポートなど、重点的な支援を可及的速やかに行うべき。

    継続的人的資源形成のための教育訓練の見直し

    時代にあった多様な人的資源形成のために教育のあり方を見直していくことが必要である。職業に直接役立つ企業内外の効果的な教育訓練機会の確保が企業内外の高生産性部門への円滑なマッチングを進めるための前提である。
    経済社会の変化に対応して新しい技術・技能を常に身に付ける必要性が生じうるということを、学生の時代から一人一人の労働者に自覚を促していく必要がある。また、個人の意欲を喚起しつつ、効果的な学び直しを行うための良質な教育訓練機会の確保とともに意欲ある者に手厚い支援を行う必要がある。ただし、その際には公的支援と自己負担を組み合わせるなどモラルハザードが生じない仕組みを工夫する必要がある。

    ひねこびた観点からけちをつけるだけのねじけた議論は次第に淘汰されていき、こういうまっとうな筋道の通った議論が徐々に主流になりつつあると、希望的に考えていきたいところです。

    神林龍さんの「解雇規制の論点」@日経経済教室

    昨日、本日と、日経新聞が経済教室で「解雇規制の論点」を載せています。昨日は労働法学者の大内伸哉さん、今日は労働経済学者の神林龍さんです。

    なのですが、正直言って、労働法学者の大内さんの議論には大変違和感ばかりを感じてしまい、労働経済学者の神林さんの議論の方に遙かにシンパシーを感じてしまいました。

    大内さんへの違和感はいくつもありますがとりわけ、企業が当該労働者を戦力外と判断したらそれを尊重すべきというのは、現在の無限定な働き方の下ではただのブラック企業を認めるだけだと思いますし、中小企業の適用除外も、経営上の理由による解雇についてはそもそも解雇回避努力の余地がないという割り切りがあってもいいとは思いますが、「企業が必要としない人材を抱える負担」などという貴様ぁ解雇の万能の理由を認めるのは大問題でしょう。

    それに比べると、今日の神林さんの議論は、私の名前が2回も出てくるから言うわけではないですが、全体にわたって極めて納得できる議論になっていて、是非多くの人々に読んでほしいな、と思います。

    ・・・第1に、他の人事管理をそのままにして解雇ルールだけを変更することは実効が危ぶまれる。第2に、人事管理と解雇ルールの構築・運用には、少なくとも現在までは、基本的に当該労使間のコミュニケーションが重要であり、第三者の介入はそれほど決定的ではなかったということだ。・・・

    ・・・日本的雇用慣行の下で融通無碍だった労働契約の「白地性」を捨てる覚悟も必要だろう。人事管理の問題だった解雇ルールを、社会的ルールとして整備すべきかどうか検討する時期なのかもしれない。

    2013年4月 8日 (月)

    沢村凜さんの労基萌え

    843_2本日発売された『世界』5月号ですが、他の記事はやはり結構既視感があるのに対して、沢村凛さんの「ディーセント・ワーク・ガーディアンを絶望させないために 労働基準監督官というマイノリティ」は、本邦初の労基小説を書いた沢村さんの、労基世界発見の心の旅路を描いたなかなか読み応えのある作品です。

    たとえば、『DWG』出版後、労基官と懇談する機会を重ねるうちに気がついたこと:

    ・・・入職2,3年目の新人さんは、もっと早く成長したいともがいていた。キャリアが10年前後の中堅組は、まさに脂がのっている風に、苦労さえも溌剌と語った。ここまでは、スペシャリストの職場として大変に健全で頼もしく思える。ところが、20年以上のベテラン、管理職になろうとしている人たちは、静かに絶望していた。

    そう見えるのか・・・と思い当たる人々もいるのでしょうか。

    最後のところは、いかにもなるほどな、という感じです。

    ・・・『DWG』二は、エンタメ小説にありがちな癖のある人物が登場する。特に労基官5人は、新人はテンネンだし、署長は絵に描いたような事なかれ主義(労基署長も労基官だ)、主人公を含む残りの3人は、一本気で偏屈だ。

    だから、現実の労基官にお会いするときには、、「労基官が変人ばかりになってすみません。ストーリー展開上、必要だったんです」と、謝罪しつつ言い訳するつもりだった。ところが、いろいろな方に「こんな監督官、実際にいますよ」とか、「この監督官、あの人がモデルでしょ」と言われた。特に、もっとも偏屈で一本気な労基官について、こんな人間が実在するとは、労働者にとっては頼もしいが、一緒に仕事をしている人たちはさぞ大変だろうと、、同情を禁じ得ない。

    登場する労基官のうち、「こんな人いますよ」の指摘がなかったのは、「このタイプは絶対に、どこの組織にもいるはず」と確信を持って書いた、事なかれ主義の署長だけだった。

    小谷敏『ジェラシーが支配する国 日本型バッシングの研究』

    512小谷敏さんから『ジェラシーが支配する国 日本型バッシングの研究』(高文研)をお送りいただきました。ありがとうございます。

    http://www.koubunken.co.jp/0525/0512.html

    近年、メディアの報道が発端となった「生活保護〈不正受給〉バッシング」のような、実態(受給者の大半が高齢者・母子家庭・障がい者)とかけ離れた〝弱者たたき〟が日本社会に吹き荒れるようになった。

    このバッシングの背景には、哲学者・ニーチェが唱えたルサンチマン(うらみ・つらみ・ねたみ・そねみ)があるのではないか? 具体例として、小泉郵政改革や橋下改革で批判の的となった公務員バッシングなど、日本社会に渦巻く「ジェラシー(ねたみ)」の噴出現象を、社会学者が徹底分析する!

    ということで、今日の日本のさまざまな現象をバサリバサリと斬っていきます。

    Ⅰ 日本人が最も恐れる「世間」というモンスター
    Ⅱ「空気」「世間」に抗った人びと
    Ⅲ「畜群」対「個人」――河野義行のたたかい
    Ⅳ オウム化する日本社会――宗教学者・島田裕巳の受難
    Ⅴ「非国民」を排除せよ!――イラク人質事件で起きたバッシングの異常
    Ⅵ 暴走する被害者意識――北朝鮮バッシングと嫌中嫌韓
    Ⅶ「小泉劇場」とは何だったのか
    Ⅷ「巨大な凡庸」――光市母子殺人事件報道
    Ⅸ 猛威をふるう「引き下げ民主主義」
    Ⅹ「ハシズム」と「民意」はどこへ行くのか

    担当編集者によると、「ねたみ」をキーワードにして、4年をかけて作り上げた本だそうです。

    日本人が「熱狂」するとき、ロクなことにならないんじゃないか?
    なぜ弱い者を徹底的に叩くバッシングがひんぱんに起こるのか?
    バッシングが繰り返されるたびに、日本の社会がどんどん悪い方に変質していくのではないか?
    バッシングの原動力になっているのは「ねたみ」ではないか?

    例えば、ランドセルのメーカー・クラレが毎年実施している新一年生の保護者へのアンケートがあります。
    この設問の一つ、「親の就かせたい職業」の不動の1位は「公務員」です。ところが、最近は「公務員バッシング」がことあるごとに吹き荒れます。
    公務員は収入や身分が安定しているとはいえ、自分の子どもに世間の冷たい視線にさらされる職業に就かせたいという心理はどこから来るのか。

    この「矛盾」を解くカギは、「ねたみ」ではないかと長年考えてきました。
    そして、この「ねたみ」をキーワードにして、日本社会を切り取ったら面白い本ができるんじゃないかと思い、4年をかけて社会学者の著者と作り上げたのがこの本です。

    「バッシング」を日本社会に特有の現象と考える方にぜひ読んでいただきたいと思っています。

    (真鍋かおる)

    どの章も面白いですが、本ブログとの関係でいえば、「Ⅸ 猛威をふるう「引き下げ民主主義」」が、阿久根のブログ市長、丸山真男をひっぱたきたい赤木智宏氏、そして生活保護叩きを扱っていて、大変アクチュアルです。

    ・・・自分と同じような存在であるがゆえに、少しでも恵まれた者に対しては嫉妬や羨望の気持ちが生じる。そしてよく似た者たちであるがゆえに、わずかの考え方の違いも許せなくなる。かくして、主にネット上では、窮境に置かれた若者たちの間で壮絶なバトルが展開されることになります。赤木は自らのホームページである「深夜のシマネコ」に発表した文章が注目されることで、世に出ることができました。そのホームページの掲示板の過去ログは、窮境に置かれた若者たちの相互の罵り合いによって埋め尽くされています。自分にとって身近な存在に対する正負の「相対的剥奪感」を煽り立ててゆく戦略は、「弱者同士の内ゲバ」を誘発する危険性を孕んでいます。次に見る生活保護受給者へのバッシングは、「弱者同士の内ゲバ」の最たるものと言えるでしょう。

    さて、本書の「終わりに」を読むと、上の編集者「真鍋かおる」さんが登場します。真鍋さんから「このテーマで、単著をぜひお書きいただきたくお願い申し上げます」というメールをもらった小谷さんは、自分の書いた文章が美しい女性編集者によって高く評価されたというので有頂天になるのですが・・・・・、

    その続きは是非本書で。

    日経新聞の社説は話の順番が逆

    本日の日経新聞の社説が解雇規制を取り上げていますが、物事の筋道をわきまえた経済財政諮問会議や規制改革会議の議論と、わきまえていない産業競争力会議の議論がごっちゃになったまま、混乱した頭が書かれているため、話の順番が逆になっています。

    http://www.nikkei.com/article/DGXDZO53716170Y3A400C1PE8000/元気な社会へ新たな雇用ルールを

    ・・・雇用契約が解除できるのは就労が難しいほど労働者の健康状態が悪いときや、希望退職募集など労務コストの削減を進めても経営が立ち行かなくなる恐れがある場合など、一部に限られる。

    こうした現状を変えたいと政府の産業競争力会議で民間議員から提案があった。解雇権乱用を禁じた労働契約法の条文を見直すとともに、どんな場合は解雇を禁止するか規定を設けたうえで、使用者は自らの意思で正社員の雇用契約を打ち切ることができると同法に明記するよう求めている。

    経済・社会の変化にあわせ、雇用のルールや慣行も変えていくことはもちろん重要だ。解雇規制もそれが日本の成長力をそいでいるなら、見直す必要がある。

    まず、ここの認識が間違っている。労働契約法16条は客観的に合理的な理由と社会的相当性というやや抽象的な要件を規定しているだけで、そんな細かいことまで書いていない。そういうことになるのは解雇規制のせいではなく、それが適用されるメンバーシップ型の雇用契約のせいだと、何回言ったら分かるのか・・・。

    客観的に合理的な理由がなくても、貴様は気に入らねぇからクビだ、という風にしたいというふうにしか、その意見はならないのですよ。

    ただ、その後で、話の後先を間違えながら、こういう話もしています。

    ただし、これまでは長期の雇用が当たり前と思われてきたため、ルールの変更は影響が大きい。

    企業は社員に長期雇用を約束するのと引き換えに転勤や残業を強いてきたが、こうした日本的な経営は見直しを迫られる。雇用契約を打ち切られた人の再就職を社会全体で助ける仕組みも、あわせて整えることが不可欠だ。

    欧米企業は一般に職務内容をあらかじめ決めて雇用契約を結ぶが、日本の正社員は会社の指示通りに部署を移り、「なんでもやる」使い勝手の良い労働力だ。会社への忠誠心も高い。いずれも事実上の雇用保障があるためだ。

    雇用契約が解除されやすくなれば、社員はこれまでの使われ方に疑問を持とう。会社にとって便利な正社員の働き方を見直すなど、雇用のあり方を根本から改める覚悟を経営者は問われる。

    なんで、こう、話の順番を見事に間違えてしまうのでしょうか。

    メンバーシップ型ではなく、始めにジョブありきの雇用契約であれば、そのジョブがなくなれば解雇するのは十分に客観的に合理的な理由になりますよ。現に、欧米社会ではそうなんだから。

    それを、解雇自由にしたら「社員はこれまでの使われ方に疑問を持とう」などとのんきな言い方をする。逆でしょう。仕事があるのにいつ首を切られるか分からないとなったら、ますます怖くて、文句など言えなくなります。

    解雇問題は、順番を間違えると、ブラック企業を作り出すだけになるのです。

    『世界』5月号は本日発売です

    843既にお知らせしているように、「人間らしい働き方が消えていく」という特集の雑誌『世界』5月号は本日発売です。

    http://www.iwanami.co.jp/sekai/index.html

    【ミクロとマクロの乖離】
    「競争力の向上」と「雇用確保」を両立させるための条件  樋口美雄 (慶應義塾大学)

    【本当の雇用改革とは】
    雇用格差の核心に迫る改革が未来を決める 中野麻美 (弁護士)

    【問題はアンフェア解雇】
    「労使双方が納得する」解雇規制とは何か──解雇規制緩和論の正しい論じ方  濱口桂一郎 (労働政策研究・研修機構)

    【連合に告ぐ】
    インタビュー 労働組合は生きているか  熊沢 誠 (甲南大学名誉教授)【執筆者からのメッセージ】

    【私たちを支える公共セクター】
    公務員は「安定した仕事」なのか──臨時・非常勤等職員の雇用実態から見えてくるもの  根本 到 (大阪市立大学)

    【生きるために働く】
    「ディーセント・ワーク・ガーディアン」を絶望させない ために  沢村 凜 (作家)

    【「解雇しつづける社会」へ?】
    労働契約法は「改正」されたのか?  樫田秀樹 (ルポライター)

    【若者を使いつぶす妖怪】
    ブラック企業が日本の未来を食いつぶす  今野晴貴 (POSSE代表)

    私の論文は、本ブログをお読みの皆様にはもうとっくに読み飽きたことばかりが書いてありますが、世間の方々に物事の筋道を分かっていただくうえでは、それなりにお役に立つかも知れません。

    冒頭の一節を:

    はじめに

     昨年12月の総選挙で自由民主党が大勝し、第二次安倍晋三政権が誕生して以来、世間の注目はもっぱらアベノミックスと呼ばれる経済政策に集中している。その内容が、アメリカでは民主党支持者のポール・クルーグマンの主唱するケインジアン的経済政策であること自体、安倍政権の他分野における(アメリカでは共和党に近い)保守的政策とのねじれが現れているが、この点については本誌の他の論考で論じられるであろうから、これ以上触れない。

     本稿の課題は、今年に入って各種政策関係の会議から矢継ぎ早に示されてきている雇用労働分野における規制緩和の動きについて、批判的に論評することである。ここでいう「批判的」とは、いうまでもなく事実と論理を腑分けし、的確な方向を指し示すことであって、一方的な非難を浴びせることではない。「解雇規制緩和けしからん!」という結論をお望みの読者には必ずしも面白くない議論が展開される可能性があるので、あらかじめ予告しておく。ここで述べられるのは、解雇規制緩和論の正しい論じ方である。


    2013年4月 7日 (日)

    まったく・・・

    本田由紀さんの愚痴:

    https://twitter.com/hahaguma/status/320901730067939329

    断片的で不十分な情報やきわめて個人的な経験や信念から発生する、妄想、曲解、断定、固執。それらに基づいた、何かや誰かの称揚や推進、あるいは逆に何かや誰かの否定や排斥。それによって閉塞状況への鬱憤や不満を晴らす。ヘイト、ブロック、偽アカ。そこらじゅうにそんなことだらけ。

    まったく・・・。

    まあ、永遠に直らぬ馬鹿どもはほっといて、元気にいきましょうや。

    なんだかんだ言っても、世の中、まともな意見が徐々に力を得てきてます。

    薄っぺらなデマゴーグがいっときみたいに簡単に通らなくなってきて、慌ててるんですよ、やつら。

    今野さんの新著予告

    今野晴貴さんがツイートで、新著『なぜ日本の「労働」は違法がまかり通るのか!』のことをちらりと語っています。

    https://twitter.com/konno_haruki/status/320855644817223681

    先ほど、今月末に刊行予定の星海社新書『なぜ日本の「労働」は違法がまかり通るのか!』の最終原稿チェックを終了しました。長かった。『ブラック企業』よりも先に書き始めていたのに・・。あまりに本気で書きすぎて、激難しくなったのを、何度も簡単に書き直しました。本当に、渾身の一冊です。

    そういえば、『POSSE』17号の対談をしたときに、もうすぐ2冊本が出ると言われていて、その一冊が今やベストセラー驀進中の『ブラック企業』だったわけですが、もう一冊はどうしたんだろうと思っていたら、本気で書きすぎて何回も書き直していたのですね。なるほど。

    OECDの解雇指標について

    原田さんのコメントに対するとりあえずの情報を簡単に。

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-0c27.html#comment-96582704

    ペンネーム原田と申します。

    MyNewsJapanの渡邉正裕氏が『「解雇ルール見直し」に強まる反発(http://toyokeizai.net/articles/-/13535?page=2)』について、『この文脈は正社員についての話だから事実誤認。正社員は堂々1位』とtwitterで述べております。

    渡邉氏がジョブレス解雇と貴様ぁ解雇を単純比較すること自体に違和感がありますが、この指摘は事実でしょうか。

    おそらく、これを論拠に解雇自由論を展開してくると思われますので、コメントではなくブログでご意見をお示し頂けると幸いです。

    浅学で恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

    ここで言われているOECDのデータは、

    http://www.oecd.org/employment/emp/oecdindicatorsofemploymentprotection.htm

    46085712figure201

    ですね。

    一目見れば分かるように、日本(左から8番目)の正社員の解雇規制は決して一番厳しくはないですね。コメントに対するお答えとしては、実はこれだけでおしまいで、OECDが日本の正社員が一番厳しいと言っているというのはウソです。以上。

    ただ、そもそもこのグラフが、どういうデータを組み合わせて作られているのかを知らないと、日本は比較的緩いというOECDが言っていること自体がどうなのか、と言う疑問がわくでしょう。と言うか、わかないと困るわけですよ。

    その辺を、その一つ前のOECDのデータについて解説したのが、『ビジネス・レーバー・トレンド』2007年7月号に、藤井宏一さんが書いた「OECDにおける雇用保護法制に関する議論について」と言う文章です。

    http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/bn/2007-07/P26-33.pdf

    ここには、OECDのこの指標がどういうデータを組み合わせたものかが載っています。

    これを見ると、特に日本について、をいをい!という点が結構見受けられます。

    28ページを見て下さい。

    解雇予告手当の下にそれとは別に「解雇手当」という欄があって、勤続20年で2.9か月分とか書いてありますが、そんなのどこにあるの?とか、不当解雇の補償が9か月分とか、いったい何を見て書いてるの?みたいな。

    確かに、ヨーロッパ諸国の感覚からすると、不当解雇の補償金が9か月分だったら、「比較的緩い」方になるでしょうね。もっと高い国が結構ありますから。

    でもこれは、ヨーロッパ諸国の解雇の金銭解決制度が当たり前の諸国を前提に、裁判の判決では金銭解決がない日本を無理やり当てはめたためにこういうことになっているわけですが、本ブログをご覧の方は疾うにご存じの通り、労働局のあっせん事案など日本の現実はそんなに手厚くないわけですよ。

    つまり、原田さんの紹介された「日本が一番厳しいとOECDが言ってる」というのは明白なウソですが、ではそOECDの言っていること(日本の解雇規制はわりと緩い)はどこまで正しいかというと、現実よりも相当程度に厳格な方向に虚構のバイアスのかかった数字である可能性が高いようです。言い換えれば、日本の正社員の解雇規制は、OECDの言う「わりと緩い」というよりも、「もっとずっと遥かに緩い」というのが実態じゃないかと思われます。

    この辺は、是非『日本の雇用終了』のデータをもとにして、もういっぺん計算し直して貰うといいかもしれないですね。解決金の平均が10万円台という数字で。

    (追記)

    気になったので、どうして不当解雇に対する補償が9か月なんていう変な数字が出てきたのかと思って、過去のOECDの文書を遡っていくと、1994年のOECDの雇用アウトルックにたどり着きました。

    http://www.oecd.org/employment/emp/2079974.pdf

    ここの103ページの「Table 2.A.6. Compensation pay and related provisions following unjustified dismissal」に、日本はこの時は26か月というとんでもなく高額の数字が書かれています。

    で、その前の101ページに

    Frequent orders of reinstatement with back pay.

    しばしばバックペイを伴って復職命令。

    そうか、バックペイだから、20年前は裁判が長くて26か月分で、司法改革で裁判が短縮してきたので最近は9か月ですか。

    でも、それはヨーロッパ諸国に普通にある金銭補償じゃないですね。

    OECDのデータは、きちんと調べていくと、これくらい結構いい加減なんですね。

    2013年4月 6日 (土)

    『労働関係法令の立法史料研究(労働組合法関係)』(労働問題リサーチセンター)

    渡辺章先生を中心とする労働関係法令立法史料研究会の報告書『労働関係法令の立法史料研究(労働組合法関係)』(労働問題リサーチセンター)をお送りいただきました。有り難うございます。

    これは、1945年に制定された旧労働組合法、1949年の現労働組合法の制定経緯を、厚生労働省で発見された立法史料簿冊に基づき、労働法の研究者たちが詳細に分析した報告書です。

    かつて松本岩吉文書に基づいて労働基準法の制定経緯を明らかにした研究の労働組合法版ですが、どこかにあるはずと探し求めていた関係資料一式が厚労省内から発見された時の興奮した渡辺章先生の姿は、今でも記憶しています。

    目次は以下の通りです。

    第1章 昭和20年労働組合法(渡辺章)

    Ⅰ 昭和20年労働組合法案の起草及び帝国議会の審議経過概要

    Ⅱ 昭和20年労働組合法の草案審議及び成立

    第2章 昭和24年改正労働組合法

    Ⅰ 昭和24年労働組合法改正の経緯及びGHQ勧告、第1次案から第12次案までの概要(竹内(奥野)寿)

    Ⅱ 総則・刑事免責解題(富永晃一)

    Ⅲ 労働組合・民刑事免責解題(野川忍)

    Ⅳ 団体交渉解題(竹内(奥野)寿)

    Ⅴ 不当労働行為解題(中窪裕也)

    Ⅵ 労働協約解題(和田肇)

    Ⅶ 労働委員会解題(野田進)

    Ⅷ 雑則・罰則・附則解題(土田道夫)

    労働立法政策史に関心のある方にとっては必読です。

    つまり、ジョブレス解雇じゃなくて、貴様ぁ解雇がやりたいと

    今野晴貴さんのついーとから:

    https://twitter.com/konno_haruki/status/320395861920215040

    産業競争力会議でのローソン社長の発言「勤務態度が著しく悪く、または結果を著しく出せていない社員は他の社員に迷惑をかけていることを十分認識しなくてはいけない…組織全体で迷惑をかけている人に対して解雇が会社として検討しやすくなる柔軟な要件を入れるなど、是非今後検討していただきたい」

    ほんとかどうか確認してみましょう。

    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai4/gijiyousi.pdf

    (新浪議員)

    解雇法理について、四要件全てを満たすことは、世界経済に伍していくという観点からは大変厳しい。緩和をしていくべき。被解雇者選定基準の合理性は大変重要。特に被解雇者選考基準が大事。例えば、勤務態度が著しく悪く、または結果を著しく出せていない社員は他の社員に迷惑をかけていることを十分認識しなくてはいけない。
    一方で、企業として教育や研修の機会を付与したのかも考慮する。それらを解雇選基準に入れ、柔軟に解釈すべき。解釈においては、解雇法理そのものよりも、組織全体で迷惑をかけている人に対して解雇が会社として検討しやすくなる柔軟な要件を入れるなど、是非今後検討していただきたい。

    確かに明確に言ってますね。

    始めのところでは「解雇法理について、四要件全てを満たすことは、世界経済に伍していくという観点からは大変厳しい。緩和をしていくべき」と言っていて、いかにも整理解雇法理が問題であるかのようですが、そしてその点については確かに、日本のメンバーシップ型社会と異なり、欧米のジョブ型労働社会では、同一事業場の同一職種に配転する余地がなければ原則としてそれ以上の配転の必要はなく整理解雇が正当と認められますが、大事な事が抜けてます。

    それは、剰員整理解雇、ジョブレス解雇である以上、それは労働者の行為や能力とは関係のない企業側の都合による解雇なのだから、被解雇者を勝手に選んではいけない!ということです。

    それを認めたら、要はジョブレス解雇という名目のもとに、気に入らないやつをクビにする貴様ぁ解雇、アンフェア解雇を大手を振ってまかり通らせることになるからです。

    ジョブ型社会のルールとは、ジョブがなくなれば解雇していいけれども、誰を解雇するかは会社が勝手に決めてはいけない、ということなんですが、その一番肝心な、一丁目一番地を、真っ先に踏みにじる発言を、しかもその自覚が全く無しにやってのけてしまえるというところに、日本の解雇規制緩和論のどうしようもない危うさが露呈していますね。

    112050118ちなみに、『日本の雇用終了』には、この「勤務態度が著しく悪く、または結果を著しく出せていない社員は他の社員に迷惑をかけていることを十分認識しなくてはいけない」といってスパスパ解雇している実例がてんこ盛りです。

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-12a7.html(中小企業ではスパスパ解雇してますよ)

    ごく一部だけ転記しておくと:

    ・10037(試女):受付業務を教えるように言われ、拒んだら普通解雇(不参加)
    ・20057(正男):職務命令違反、勤務態度不良で普通解雇(不参加)
    ・20110(正男):上司に従わないという理由で懲戒解雇を予告されたので退職届を提出(30 万円で解決)
    ・20120(正男):運行命令の放棄と社内での暴言が理由で懲戒解雇(打ち切り)
    ・20123(正男):悪質運転を繰り返したことを理由に「もう要らない」(打ち切り)
    ・20169(正女):上司の指示に従わない(トイレ掃除等)ので普通解雇(不参加)
    ・30004(非女):指導に従わないので普通解雇(不参加)
    ・30056(非女):自己都合退職後アルバイト勤務中業務妨害したので普通解雇(不参加)
    ・30079(派男):一部業務を拒否し派遣先の要求で契約解除(15 万円で解決)
    ・30097(非男):同僚とのトラブルでうつ病に、業務命令を拒否したら更新拒否(不参加)
    ・30128(非女):仕事を拒否し、意に反することがあると無断欠勤するので退職勧奨(7 万円で解決)
    ・30185(非女):指示に従わないので退職勧奨(打ち切り)
    ・30207(正男):専任講師として採用されたのに収益追求を強要され、退職勧奨(不参加)
    ・30222(非女):「会社の方針に従えなければ辞めてくれて結構」(不参加)
    ・30223(非女):「長い時間働かなければ辞めてくれ」(不参加)
    ・30240(正女):受付事務でカウンセリング業務を拒否したので普通解雇(10 万円で解決)
    ・30278(正男):研修中本人の就業拒否のため普通解雇(不参加)
    ・30337(非女):業務改善に応じず「明日から来なくてもいいです」(打ち切り)
    ・30363(正男):再三の是正指示にかかわらず業務着任できないため普通解雇(打ち切り)
    ・30559(正男):社命に従わず仕事に熱意なしと普通解雇(不参加)

    ・10018(非男):出退勤をメールで送信したため普通解雇(不参加)
    ・10021(非女):業務怠慢を理由に普通解雇(不参加)
    ・10038(正男):移転就職で、住民票を移しておらず自分の車をもたないことを理由に普通解雇(不参加)
    ・10098(正男):業務上の失態重なり報告怠るので普通解雇(不参加)
    ・10106(派男):派遣先からの勤務態度についての苦情で雇止め(打ち切り)
    ・10112(正男):仕事に誠意が見られないとして解雇(取下げ)
    ・10116(非男):業務手順が守られないという理由で普通解雇(不参加)
    ・10139(正男):職務怠慢を理由に懲戒解雇(不参加)
    ・20015(非男):ずさんな清掃の仕方ゆえ普通解雇(2 万円で解決)
    ・20016(非女):作業内容の不備を理由に労働条件引き下げに加え退職勧奨(不参加)
    ・20047(正女):能力、勤務態度、協調性の問題から普通解雇(15 万円で解決)
    ・20096(正男):事務局長として職務懈怠で懲戒解雇(10 万円で解決)
    ・20162(正女):仕事中に抜け出すので普通解雇(1 万円で解決)
    ・20200(非女):接客態度が悪いので普通解雇(不参加)
    ・20201(非女):誠実さがないので普通解雇(不参加)
    ・30025(正男):ミスを報告しないので普通解雇(不参加)
    ・30173(正男):業務に支障をきたす行為多く、パート社員とし「クビ」(30 万円で解決)
    ・30276(正男):勤務態度不良、成績不良で普通解雇(打ち切り)
    ・30279(派女):マナー違反を理由に雇止め(不参加)
    ・30328(試男):態度が反抗的なので普通解雇(打ち切り)
    ・30371(派男):勤務中の居眠りを理由に普通解雇(打ち切り)
    ・30390(正男):後輩に誤った指示をし、業務をほったらかしにしたので普通解雇(50 万円で解決)
    ・30517(正男):仕事ぶり、態度ともに悪いので普通解雇(打ち切り)
    ・30583(非男):勤務中の言動や行動に改善なしとして普通解雇(打ち切り)
    ・40018(非男):勤務態度に問題ありと普通解雇(打ち切り)
    ・40019(非女):事務の乱雑さで雇止め(打ち切り)
    ・40030(非女):勤務態度、勤務成績不良で普通解雇(打ち切り)
    ・40035(非男):業務態度不良で雇止め(打ち切り)
    ・40038(正男):警備室内でスリッパを履いていたので普通解雇(打ち切り)

    ・10028(正女):職場のトラブルで夫が威力業務妨害したので退職勧奨(謝罪・退職金で解決)
    ・10044(非女):フロアマネジャを怒らせたので出勤停止、普通解雇(取下げ)(あっせん外で30万円で解決)
    ・10169(派女):宗教関係の精神の混乱のため退職勧奨(15 万円で解決)
    ・10171(非女):従業員間のトラブルを報告したら誤解で即日普通解雇(不参加)
    ・20042(正女):再入社が知れていじめを受け、「これからいじめがひどくなるから退職してほしい」(不参加)
    ・20071(正男):「傷害事件を起こす恐れがあるので辞めてもらう」(打ち切り)
    ・20092(非女):マネージャーとトラブって欠勤、メールのやりとりで退職とされた(打ち切り)
    ・20113(非男):上司との喧嘩で顧客から殴られたことを理由に退職勧奨(打ち切り)
    ・20154(非男):個人を誹謗中傷するメールを再度送ったため普通解雇(打ち切り)
    ・20155(正男):部下とトラブり、「こんな部下と一緒に働けない」と言ったら退職とされた(28 万円で解決)
    ・20160(非女):会社の調和を乱したので雇止め(不参加)
    ・20176(正女):上司とのトラブルで普通解雇(50 万円で解決)
    ・30007(非男):協調性の欠如ゆえ雇止め(不参加)
    ・30011(非女):職場トラブルから「不満があれば辞めてもらっていい」(打ち切り)
    ・30051(非男):職場内の人間関係や勤務態度から雇止め(打ち切り)
    ・30054(正男):人間関係乱したとして普通解雇(打ち切り)
    ・30065(試男):職員との信頼感欠如を理由に普通解雇(25 万円で解決)
    ・30087(試男):自分でネットショップを経営し火の車で使用者や他の従業員に無心したので普通解雇(打ち切り)
    ・30104(派男):就労初日に派遣先担当者との見解の相違で即日解除(不参加)
    ・30136(試女):同僚とコミュニケーションを図ろうとしないので退職勧奨(30 万円で解決)
    ・30151(正女):職場の秩序を乱したとして普通解雇(50 万円で解決)
    ・30156(非男):コミュニケーションがとれず協調性に欠けるとして雇止め(取下げ)
    ・30170(試男):協調性がないという理由で普通解雇(不参加)
    ・30181(派女):他スタッフとの協調性低いとして雇止め(不参加)
    ・30192(試男):現場責任者が指導したところ噛みつきトラブルになり退職勧奨(1.2 万円で解決)
    ・30226(非女):チームワークを乱すので退職勧奨(不参加)
    ・30235(試女):挨拶ができない、声が小さいので普通解雇(不参加)
    ・30241(派女):派遣先から人間関係のトラブルで契約解除の申し出あり雇止め(15 万円で解決)
    ・30253(正男):取締役に罵声を吐くなど勤務態度不良で普通解雇(720 万円で解決)
    ・30254(正男):協調性がないので普通解雇(取下げ)
    ・30294(派女):派遣先で他の派遣労働者とのトラブルを理由に雇止め(打ち切り)
    ・30312(試男):意思疎通を図らず社長の指示以外聞かないので普通解雇(40 万円で解決)
    ・30349(正男):職場での暴言、脅迫、命令無視を理由に懲戒解雇(打ち切り)
    ・30353(正女):職場内の人間関係が悪化したため普通解雇(40 万円で解決)
    ・30355(派男):女性パートが嫌がっているという理由で雇止め(不参加)
    ・30415(非女):皆から無視されるようになり、異動先がないとして普通解雇(不参加)
    ・30434(正男):業務中不満をぶちまけ、同僚を脅迫したため退職勧奨(不参加)
    ・30435(非女):上司とのコミュニケーションがとれないので普通解雇(不参加)
    ・30515(試男):コミュニケーション能力不足を理由に普通解雇(不参加)
    ・30536(非男):風紀を乱したため普通解雇(打ち切り)
    ・30540(試男):態度が悪く、周りとコミュニケーションがとれないとの理由で普通解雇(不参加)
    ・30574(派女):派遣先での喧嘩を理由に普通解雇(打ち切り)
    ・30625(試男):協調性の欠如ゆえ普通解雇(50 万円で解決)
    ・30642(非女):他の作業を手伝わなかったから普通解雇(取下げ)
    ・40009(正男):職場の秩序を乱すとして普通解雇(打ち切り)
    ・40012(正女):他従業員とのトラブルで解雇(離職直前に過去に遡って1年の有期契約にして雇止め)(4 万円で解決)
    ・40032(試男):試用期間中、他の従業員に溶け込まず孤立して普通解雇(打ち切り)

    『HRmics』15号

    1海老原嗣生さんのニッチモが出している『HRmics』15号が出ました。

    http://www.nitchmo.biz/

    リンク先のこの同じ画像をクリックすると、中身が読めます。

    今号の特集は「非正規雇用の決着点」。

    表紙にでかく・・・、黒田日銀新総裁の顔が載っていますが、これはほとんど関係がなくってですね、上の方にでかく、「有期雇用は総合職と表裏一体の関係 法制の大幅な変更は正常化への第一歩となるか」と書かれていて、これがこの特集の基本的スタンスを良く表しています。

    特集 非正規雇用の決着点

    1章 契約社員、何がいけない?なくすと困る?

    01.それは正常化への第一歩なのか
    02.5年にわたる派遣と有期雇用、法改正のプロセス
    03.法改正で新たに生まれる課題

    2章 その宿題、プロはどう考えるか

    01.解雇規制と雇用者保護
    02.企業側に混乱は起きているか
    03.今回の法改正は雇用正常化への第一歩なのか
    04.その時、派遣の役割は?

    <結び>労使対立を超え、雇用正常化へ本気で取り組むきっかけに

    登場する人々はなかなか渋い選択ですよ。

    「解雇規制と雇用者保護」には労働法学者の野川忍さん。

    海老原:日本企業がもっと解雇をしやすくするにはどうしたらいいのでしょう。

    野川:簡単です。人事権を一部放棄して、雇用契約を双方向のものにすればいいのです。今のような「面倒は見てやるから、言うことは聞け」というようなウェットな関係ではなく、その分、ドライで、「おまえの言い分も聞くけど、その分、尻も拭わないよ」という関係に。・・・繰り返しますが、人事権と解雇権は対の権利なのです。人事権が欲しければ解雇権が制限されるのは致し方ない。解雇の自由が欲しければ人事権はある程度放棄せざるを得ないのです。

    「解雇の自由」という表現はやや語弊がありますが、ジョブがなくなったらドライに解雇できるという意味ではそうですね。

    次の「企業側に混乱は起きているか」はリクルートワークスの豊田義博さんですが、その次の「今回の法改正は雇用正常化への第一歩なのか」は、連合総研の龍井葉二さんと派遣ユニオンの関根由一郞さん。

    龍井さんは「ジョブ型正社員」に疑問を呈しています。どういう風に?それは是非リンク先でお読み下さい。

    さらにその次の「その時、派遣の役割は?」は、雇用維新でおなじみの出井智将さんと、カヨリンこと川渕香代子さん。

    なかなかすごいことを言っています。

    川渕:・・・これを契機に、改めてジョブ型社員というものの人事制度や市場機構を整えていかなければならないと思います。

    海老原:・・・今の日本で、付け焼き刃的に職務別賃金や資格などを作るのも無茶ですよね。

    出井:・・・まずはジョブの評価を行う市場が必要になりますね。標準的な資格などがなく、評価の仕組みも不全であれば、私達人材ビジネスがその代役となって、評価や認証などを行い、企業に推薦していく必要があるのではないでしょうか。

    これに海老原さんは「心強いですね」と応じているのですが、わたしはむしろ、これは労働組合に対する警醒の声だと認識すべきだと思いますよ。

    本来労働組合がやらなければならないことを全然やらないものだから、人材業界が自分でやるぞと言っているんですよ。ここに危機感を感じないで、どこに感じるんですか。

    まじめな話、ここにこそ、集団的労使関係の出番があるはずではないでしょうか。そこのところが今、労働組合にどこまで認識されているのか。

    あと、連載ものを紹介。

    森戸英幸さんの感情働法理論は「魔法のツール?退職金」

    はっしーの上から目線のコンプライアンスは「社長、甘やかしておいて追い出し部屋はないんじゃない?」

    常見陽平さんの「採ってはいけない、その学生」は「真のスポーツ勇者しっかり見分けろ」で、冒頭、いきなり「押忍!もう一丁、押忍!」と、体育会系に始まります。

    山内大地さんの大学巡りは、「実社会の厳しさを学生も体感している大学」で、岐阜大学の「販路開拓、アポ取りもさせる本物インターンシップ」などが紹介されてます。

    石渡嶺司さんの就活温故知新は「新卒求人広告に見る世相と採用方法の変遷」

    マシナリさんの公僕からの反論は「判決で終わる司法と議決から始まる行政の違い」

    最後のわたくしの「雇用問題は先祖返り」は、「近代的労使関係はどこにいったのか」

    これは、わたくしのHPにアップしておきますので、関心のある方は(あまりいないかも知れませんが)どうぞご覧下さい。

    http://homepage3.nifty.com/hamachan/hrmics15.html

    ・・・

    4 「近代的」労使関係の完成が「近代主義の時代」を終わらせた
     
     日本の労働政策は1970年代初頭までは「職業能力と職種に基づく近代的労働市場」をめざし、年功制を脱した職務給を唱道してきましたが、1970年代半ば以降は企業内における雇用維持を最優先とし、企業を超えた外部労働市場の充実は二の次三の次と見なすような政策思想に大きく転換しました。

     この転換のもとになった要因にはさまざまなものがあります。もっともよく指摘されるのは、高度経済成長下で進められた技術革新の中で、新規事業への転換が頻繁に起こり、職務給のような「古くさい」考え方ではそれに対応していけないという企業現場レベルの反発です。これを受けて、すでに1960年代末には、日経連も『能力主義管理』において職務主義から能力主義への転換を図っていました。

     なお近代主義の言葉を語り続けていた政府が最終的に立場を翻したのは1970年代半ばでした。1973年に起こった石油ショックに対して、労使一体となった要求に基づき、雇用調整助成金の導入による雇用維持を最優先とする方向に大きく舵を切ったのです。労使一体で雇用維持を求めたのは、同盟系の組合だけでなく、雇用保険法の改正に反対していた総評系の組合も含まれていました。まさに、「個々の労働者の現実から遊離した政治活動」から現場の労働者の利益に直接関わる政策課題への転換でした。この流れがやがて政策推進労組会議を経て、全民労協、民間連合、そして現在の連合につながっていくわけですが、それはまさに日本生産性本部が広めようとしていた「近代的労使関係」の完成された姿であるとともに、それなるがゆえに、1960年代に経済政策サイドや雇用政策サイドが主唱していた「近代主義の時代」に終止符を打つものでもあったのです。

    BSフジプライムニュースのお知らせ

    来週火曜日のBSフジプライムニュースに出演します。

    4月9日(火) 『65歳雇用義務化・解雇規制緩和 日本の雇用を考える』

     今月1日から改正高年齢者雇用安定法が施行され、定年に達した希望者全員の65歳までの雇用確保がすべての企業に義務付けられた。
     4月から年金の支給開始年齢が61歳となり、段階的に65歳まで引き上げられることに伴い、無収入の期間が生じてしまう可能性があるための措置だが、この制度によって若者の雇用を奪うのではとの懸念も指摘されている。
     一方、政府の産業競争力会議で、解雇規制の緩和をめぐる議論が活発化している。「解雇を容易にして雇用の流動化を高め、衰退産業から成長産業へ経済の新陳代謝を促す」というのが推進派の主張だが、これまで終身雇用に守られてきた多くのサラリーマンには不安を覚える内容となっている。
     今回の65歳定年制、解雇規制緩和論議など、高齢化社会での働き方を考える。
    ゲスト: 塩崎恭久 自由民主党政務調査会長代理
    濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構統括研究員
    八代尚宏 国際基督教大学客員教授

    まず、65歳定年の義務化じゃないし、65歳雇用義務化は既に2004年改正で導入されていて、今回の改正はその例外措置をなくしただけだし、その労使協定で継続雇用されなかったのは昨年の段階でせいぜい2%くらいであって・・・と、このタイトルに文句をつけるあたりから話が始まりそうな予感が。

    (追記)

    昨日のプライムニュースの動画がBSフジのサイトにアップされています。

    http://www.bsfuji.tv/primenews/movie/index.html?d130409_0

    解雇規制論議 労使納得してこそ@朝日記者有論

    本日の朝日新聞の「記者有論」というコラムで、沢路毅彦さんが標記のような記事を書いています。

    「4要件は、歴史的にできあがった日本的雇用慣行を、裁判所が認めただけだともいえる」と、正しい認識を示した上で、次のように語っています。

    ・・・忘れてはいけないのは、雇用慣行は労使が話し合って積み上げた結果だということだ。日本の経営者は、労働者の雇用を保障する一方で、強い人事権を使ってきた。裁判所も企業の強い人事権を認めている。例えば、共稼ぎであっても、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」がなければ、転勤命令を拒否することはできない。

    どんな時でも、労働者と企業の利益のバランスを図ることが大切だ。規制改革会議は「労使双方の納得感とメリット」を議論する際の原則にしている。原則通りに進むのか、注視していきたい。

    全く同感。私も注視していきます。

    『世界』5月号の御案内

    843来週月曜日(4月8日)発売予定の雑誌『世界』5月号に、拙論文が載っております。

    http://www.iwanami.co.jp/sekai/index.html

    特集は「人間らしい働き方が消えていく-待ったなしの改革とは」というものですが、次のような論文が載っておりまして、

    【ミクロとマクロの乖離】
    「競争力の向上」と「雇用確保」を両立させるための条件 樋口美雄 (慶應義塾大学)

    【本当の雇用改革とは】
    雇用格差の核心に迫る改革が未来を決める 中野麻美 (弁護士)

    【問題はアンフェア解雇】
    「労使双方が納得する」解雇規制とは何か──解雇規制緩和論の正しい論じ方  濱口桂一郎 (労働政策研究・研修機構)

    【連合に告ぐ】
    インタビュー 労働組合は生きているか  熊沢 誠 (甲南大学名誉教授)【執筆者からのメッセージ】

    【私たちを支える公共セクター】
    公務員は「安定した仕事」なのか──臨時・非常勤等職員の雇用実態から見えてくるもの  根本 到 (大阪市立大学)

    【生きるために働く】
    「ディーセント・ワーク・ガーディアン」を絶望させない ために  沢村 凜 (作家)

    【「解雇しつづける社会」へ?】
    労働契約法は「改正」されたのか?  樫田秀樹 (ルポライター)

    【若者を使いつぶす妖怪】
    ブラック企業が日本の未来を食いつぶす  今野晴貴 (POSSE代表)

    ということで、私の文章の説明は:

    昨年末政権交代後、今年に入り各種政策関係の会議から、矢継ぎ早に雇用労働分野における規制緩和が示されてきている。経済財政諮問会民間議員の提言「雇用と所得の増大に向けて」は、「ジョブ型のスキル労働者」を創出することを前提として、あくまでも「事業・産業構造転換に伴う労働移動等に対応するため、退職に関するマネジメントの在り方」を検討しようとしており、必ずしも解雇自由化論を打ち出しているわけではない。問題の焦点は、雇用契約の在り方と整理解雇規制の在り方の関連にある。しかし一方で、竹中平蔵氏のように、「無限定に働かされる代わりに、簡単に解雇はされない」という日本型正社員の特殊さのうち、後半の「簡単に解雇されない」だけを問題視する議論がなされている。解雇規制緩和論の何が問題なのか、事実と論理を腑分けし、的確な方向を指し示す。

    ちなみに、このラインナップを見て「へぇへぇへぇ」となったのは、沢村凜さんの登場でした。

    「たまたま労基官を主人公にエンタメ小説を書くことになった取材の苦手なファンタジー作家が、〈労基〉へのポジティブなイメージを膨らませるよう努めながら、乏しい情報をかきあつめる」──〈普通に働いて、普通に暮らせる〉社会をめざして、日々奮闘している「ディーセント・ワーク・ガーディアン=労働基準監督官」を描いた作家が、基本的なことを調べはじめて突き当たった疑問、「なぜ、労基官はこれほど嫌われるのか」。そして作品出版後にして実際に出会った労基官たちの姿から見えたものとは。

    これは面白そう、是非読みたいですね。

    参考までに、

    9784575237542http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-748a.html(本邦初の労基小説! 沢村凜『ディーセント・ワーク・ガーディアン』)

    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/vs-f4d1.html(厚生労働大臣vs労働基準監督官)

    2013年4月 5日 (金)

    常見陽平『「すり減らない」働き方』

    04394220x354常見陽平さんから『「すり減らない」働き方-なぜあの人は忙しくても楽しそうなのか』(青春新書)をお送りいただきました。有り難うございます。

    http://www.seishun.co.jp/book/13801/

    青春新書って、その昔『試験に出る英単語』とかでお世話になった人が多いと思いますが、巻末のリストを見ると、中野雅至とか、村上龍とか、浜矩子とか、いろいろ出しているんですね。

    さて本書、

    「バリバリ働く」
    いま、この言葉を聞いてどのように感じるでしょうか? 以前は決意、希望を感じたこの言葉に、違和感、いや嫌悪感すら感じないでしょうか?仕事に追われる日々の中で、いつしか、この「バリバリ働く」という言葉を聞いただけでも疲れてしまうようになります。
    忙しすぎることが原因で、メンタルヘルスで倒れる人も増えています。たとえば東京都におけるメンタルヘルスの相談件数は2006年には807人だったものが、2010年においては3000人に迫る勢いで増えています。
    気づけば、誰もが身も心もすり減る働き方をしているのです。
    本書では、まず、私たちはどのくらい忙しいのか、昔と今では労働時間はどう変わってきたかをデータから読み解きます。そのうえで、忙しさとどうつき合えっていけばいいのか、心身をすり減らさない働き方のヒントについて考えていきます。

    という本ですが、常見さんから直筆で書かれた謹呈のお手紙が入っていて、そこに、本文には出てこないなかなかの決めぜりふが出てきますので、ここでご紹介。

    ・・・処世術の本を書きました。

    「働き方を野球からサッカーに」

    これが最近の関心事です。

    時間内でやりきること。・・・

    なるほど、時間内でやりきるのがサッカー流ですか。ロスタイムはありますけどね。

    それにしても、そういうテーマの本なのですが、中で紹介される常見さんの超ハードスケジュールは半端じゃないですよ。これ、死にますよ。


    2013年4月 4日 (木)

    EU及びEU諸国の従業員代表制@『Int'lecowk-国際経済労働研究』2013年4月号

    『Int'lecowk-国際経済労働研究』2013年4月号に載せた「EU及びEU諸国の従業員代表制」です。

    http://homepage3.nifty.com/hamachan/intlecowk1303.html

    1 EUレベルにおける従業員代表制と、2 EU諸国における従業員代表制の現状は、今までも紹介してきた内容ですが、最後に新たな動きとして「3 多国籍企業協約に向けた試み」について簡単に紹介しております。

    これについては、機会があればもう少し詳しく、いろんな実例なども交えながら、きちんと紹介したいと思っています。

    本稿の最後に、現在EU当局が広く一般に向けた協議を行っている多国籍企業協約について簡単に触れておこう。

    2000年代に入ってから、欧州レベルで活動する多国籍企業において国境を越えた労働協約を締結する事例が増えてきた。欧州委員会は2008年7月の文書『国際統合進展の中の多国籍企業協約の役割』(SEC(2008)2155)においてこの問題を取りあげ、政労使からなる専門家グループによる検討を行う意向を示した。この報告書は2012年1月に公表され、現状を詳細に分析するとともに、法制面その他のいくつかの問題点を指摘した。

    EUの欧州事業所委員会指令は、単に欧州レベルでの情報提供と協議を義務づけているに過ぎない。その協議の結果欧州レベルで合意(agreement)がなされ、文書化された場合に、それがいかなる法制度の下でいかなる法的効果を持つのか持たないのか、といったことについては、EU法は一切語らないのである。そもそも企業協約を含め、団体交渉や労働協約に関わる法制は各国の歴史と伝統によって極めて多様であり、EUレベルでそれを調整するような仕組みも存在しない。とりわけ、多国籍企業協約をめぐって紛争が生じたときに、いかなる法制度によっていかなる処理がされるのかされないのかまったく不明なままである。たまたま締結式が行われた国の国内法によって処理されるのか。国際私法によって処理されるのか。いかなる法制度によっても対応されないのか。それともEU法で何らかの対応がされるべきなのか。

    2012年4月、欧州委員会は雇用政策全般にわたる文書『ジョブリッチな回復に向けて』(COM(2012)173)において、「労使対話の強化」という項目の中で、「・・・ますます多くの企業において、これは多国籍企業協約という形をとり、それを通じて危機によって生じた課題に対する欧州レベルの合意された対応がなされ、変化をマネージするメカニズムが構築されている。多国籍企業協約は既に1000万人の従業員をカバーしており、その役割はより認識され、支援されるべきである。」と述べた。

    そして2012年9月、欧州委員会は『多国籍企業協約:労使対話の潜在力を実現する』(SWD(2012)264)という文書により、労使団体に限らず広く一般に向けて意見を募る協議を開始した。同文書の質問項目のうち重要なものを示すと次の通りである。

    ・多国籍企業協約の適用の法的確実性はいかにして達成しうるか?かかる協約の法的効果を明確化するための仕組みの発展を想定すべきか?

    ・紛争の予防や裁判外処理を支援するための行動が取られるべきか?もしそうなら、どのような行動か?

    ・上述のような諸問題を解決する選択的な枠組み、例えば指針といった形式を発展させるべきか?かかる枠組みに盛り込むべき主な要素は何か?

    今後の動向が注目される。

    公明党労働政策委員会で

    昨日、公明党労働政策委員会・青年委員会にお呼びいただき、国会議員の皆様に雇用の在り方についてお話をしてきました。それについて、出席しておられた古屋範子議員が、ブログで書かれています。

    http://ameblo.jp/furuya-noriko/entry-11504315241.html(日本型雇用からジョブ型雇用へ)

    15時30分から、党労働政策委員会で労働政策研究・研修機構 濱口桂一郎総括研究員より、「雇用の在り方について」をテーマに講演を伺いました。いわゆる、会社に就職する日本型雇用システム=メンバーシップ契約としての雇用契約から、ジョフ型゙雇用政策の再構築へ・・・

    ジョブ(職務)や勤務地を限定した期間の定めのない雇用契約。

    自分はこの‘仕事’をするために就職する。企業もこの‘仕事’をする人を雇うーというジョブ型雇用はあるべき姿なのだと思います。しかし、新卒でそうした能力がない場合、まず、企業に入って訓練を受けなければなりません。ジョブ型雇用に耐えうる能力をどう身につけていけるのか。

    大学の動きは遅く、その点を質問しました。デュアルシステムやインターンシップなどをまず、推進していくことだと答えられました。

    これから、労働の規制緩和など、議論を深めていかなければなりません。(・∀・)/

    各議員から大変熱心なご質問をいただき、時間をかなり超えて議論が深まりました。

    ジョブ型雇用システムをまったく理解していない解雇自由派

    昨今の解雇規制をめぐる議論がぐちゃぐちゃになる一つの理由は、左派がメンバーシップ型感覚にどっぷりつかってジョブ型システムをまったく理解していないということもありますが、それ以上に事態を悲惨なものにしているのは、自分では欧米型を主張しているつもり(あくまでも「つもり」)の連中が、実は極めて日本的な「貴様ぁ解雇」「この無能野郎解雇」を意識的無意識的に前提にしていることでしょう。

    実際、『日本の雇用終了』には、具体的にどのジョブのどういうスキルがないのかまったく不明な「能力を理由とする解雇」がてんこもりです。

    ある種の人々は、なにかというと無能な中高年をクビにして云々というけれども、そもそも明確なジョブディスクリプションのない日本だから、そういう言葉だけの無能呼ばわりができるのであって、仕事のスペックを明確にして雇っている世界であれば、それができていないということをきちんと立証しなければいけないのですよ。

    実際、成果主義でなんぼの特殊なエリートの世界を別にすれば、普通の労働者が能力を理由に解雇できるのは、傷病や障害で職業能力を喪失した場合とか、できると思って雇ってみたけど、全然できなかったという雇用当初の時期くらいでしょう。そのために試用期間というのがあるわけですね。

    逆に、メンバーシップ型の日本では、もともと「これができる」で採用していないので、それができないから試用期間で解雇というのも難しいという構造になっていて、結局試用期間中じゃない学生時代の学生運動を理由に試用期間で解雇が認められるというジョブ型の社会から見たら訳のわからないことになっている。

    これを裏からいえば、「これができる」で採用して、ずっと雇用し続けてきているということは、それができると認め続けてきているわけで、中高年になって急に無能になったなんて理屈は通るはずがない。いうまでもなく、中高年になっても同じ仕事のベテランになるだけで、管理職にならないのがデフォルトだからですが。

    そういう雇用システムの違いをまったく理解しないまま(あるいはうすうすわかっていながらあえて無視して)、一方的なデマを飛ばし続ける人々は何なんだろうか、と思わざるを得ません。

    2013年4月 3日 (水)

    就活のリアル@『現代思想』4月号

    Isbn9784791712601_2最近、むつかしげな哲学思想ばかりでなく現代社会のアクチュアルなテーマも時々取り上げるようになった『現代思想』が、「就活のリアル」という特集を組んでいます。

    http://www.seidosha.co.jp/index.php?9784791712601

    就活のリアル  

    【討議】
    「全身就活」から脱するために / 大内裕和+竹信三恵子

    【概論】
    就職しないで生きるという選択岐 就活と貧困を思考するために / 佐々木賢

    【制度のなかで/権利として】
    対抗的キャリア教育の“魂” / 児美川孝一郎 
    悪化する若者の雇用環境と大学生の就活自殺 / 森岡孝二
    「もう、ブラックでもいい」という隘路から抜け出すために / 水島宏明

    【高校/専門学校の現場では】
    職業世界へ接近・参入する青年たちをいかにとらえるか 専門学校生の検討を中心に / 植上一希 
    ソーシャルスキルとは何か 困難高校卒業後の就職をめぐるエスノグラフィ / 古賀正義 

    【「人材」になるということ】
    『何者』と「就活デモ」を結ぶ線 / 樫村愛子
    「働かないことが苦しい」という「豊かさ」をめぐって / 貴戸理恵

    【就活を終わらせるために】
    シューカツを巡る〈大人〉の欲望のまなざし / 栗田隆子
    「就活」のアンナ・R / 白石嘉治

    【インタビュー】
    グッド・ノイズに耳を澄ませる 日本仕事百貨が繋げる仕事 / 中村健太+西村佳哲

    【あたらしい「生き方」を求めて】
    就活からの脱落 異なる教育実践のために / 渡邊太

    【ブックガイド】
    「就活」を考えるためのブックガイド / 橋口昌治

    竹信さんが対談の中で、2005年頃から非正規問題を紙面に書けるようになったのは、新聞社の上級管理職層がちょうど定年にさしかかったからだと語っているあたりも面白かったりしますが、ここではやはり児美川孝一郎さんのインタビュー記事「対抗的キャリア教育の魂」から:

    ・・・先に、学校教育や大学教育が、若者たちを「就活システム」へと牽引する「馴化」装置になっていると言いました。そこをひっくり返すこと、そこに疑いを持たせることができれば、対抗的なキャリア教育の役割の半分は果たしたことになるのではないでしょうか。生き方としての「正社員モデル」に大いなる揺さぶりをかけるということです。もちろん僕は、若い人たちが正社員になっていくことを否定するつもりはありません。「社畜」にはなって欲しくないだけです。そして、そうならないために、したたかな働き方の“術”を身に付けて欲しいと願っています。・・・

    あと、最後の橋口昌治さんのブックガイドの冒頭に、いかにも意味ありげな落語が載っています。さて、何の隠喩でしょう。

    A「おじさん、すごく深い、大きな穴、掘ってますね」

    B「うん、やっとここまで掘れたんだけどね」

    A「へえ、何で、そんなに大きな深い穴を掘ってるんですか」

    B「誰かがここに、大きな深い穴があるというんで、一生懸命掘って探しているんですけど、なかなか出てこないんです」

    -桂枝雀

    『大都市における30代の働き方と意識』

    Kosugiこれも、JILPT小杉組の研究成果。『大都市における30代の働き方と意識 ―「ワークスタイル調査」による20代との比較から―』です。

    http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0154.htm

    なかなか格調高いまえがきから:

    90 年代後半以降、日本の若者の教育から職業への移行が大きく変容したことは周知のとおりである。これまで当機構では、学校から職業への移行プロセスの変化について、数多くの調査研究を実施してきた。しかし移行プロセスの変化がどの年齢まで継続しているのかについての調査分析についてはこれまであまり行っていない。そこで本報告書では、「就職氷河期世代」と呼ばれる30 代層に対する調査を実施し、政策的な示唆を探ることにした

    現在の学校から職業への移行プロセスは高度成長期以降にかたちづくられ、70 年代から80 年代に完成期を迎えた。振り返ってみれば、学校から職業へのスムーズな移行が社会の大勢であった時期は歴史上それほど長いわけではない。しかし現在の30 代がこの大きな社会の変化に初めてさらされた時、我々社会の側はこの変化をどのように認識すればよいのかについての解答を持っていなかった。それが現在の20 代がおかれた状況との大きな違いといえる。

    その意味で、現在の30 代はこれからもフロントランナーであり続けることになるだろう。

    執筆者はおなじみの方も含めた

    小杉 礼子 労働政策研究・研修機構 統括研究員
    堀 有喜衣 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
    喜始 照宣 労働政策研究・研修機構 臨時協力研究員
    久木元 真吾 公益財団法人 家計経済研究所 次席研究員
    本田 由紀 東京大学大学院教育学研究科 教授

    リンク先では、主な事実発見が比較的詳しく書かれ、政策的インプリケーションはごく短く載っているだけですが、ここでは本文から堀さんの書かれた序章の最後の政策的支援を整理したところを、やや長いですが引用しておきます。

    http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/documents/0154.pdf

    (1)正社員への移行支援

    非典型雇用から正社員への移行支援を2つに分けて整理する。
    第一に、「取り残された」30 代に対する支援である。20 代ではそれほど顕在化しなかった、典型―非典型の差異が様々な点で鮮明化されていることが見て取れる。一般的に指摘されてきた収入の格差だけでなく、男性において典型―非典型間の意識の「差異」も如実に表れるようになっている。同時に、典型―非典型だけでなく、典型間の差異の顕在化が観察されるのも30 代の特徴である。
    典型―非典型の格差については、20 代のような企業による初期訓練を期待できないので、30 代には、公的支援による職業能力形成を含んだ就職支援が有効である。雇用型訓練(ジョブ・カード訓練等)や、スキル・資格取得の場として学校の活用も考えられる。
    典型間の格差については本報告書の範囲を超えており、次の課題としたい。
    第二に、現在の30 代よりも、より厳しい状況にある20 代への支援を拡充する方向性である。若者の非典型雇用から正社員への移行は景気に左右されやすい。景気拡大を期待したいが雇用に直接結びつくかどうかは未知数であるので、トライアル雇用やジョブ・カード政策など、正社員につながりやすい非典型雇用についてのルートをいっそう整備することが望まれる。

    (2)ハローワークと高校・大学の連携を通じて、多様な移行経路の明示と、企業情報
    の開示の拡大をはかる(特に就業環境や早期離職について)

    一般にはスムーズな移行の方法のみが強調されて伝達されるが、新卒から外れた経路については、職業訓練等の情報を含めて高校や大学には十分な情報がない。新卒採用は今でもメインルートではあるのだが、実際の移行は相当に複線的になっているという情報も、時機を見て伝達していく必要があろう。
    また企業情報の重要性については「若者雇用戦略」においても指摘されてきているが、企業に対する労働法令の周知とともに、労働行政とNPO・学校とが連携しながら宣伝ではない生の企業情報を収集、発信していくことが期待される。

    (3)在学中における相談機会を充実させる(特に卒業時に非典型雇用になる場合)

    卒業時に非典型雇用だった場合でも在学中に相談経験がある者は、30 代になってからのソーシャル・ネットワークが豊かになっており、また「他形態から正社員」となった割合が高かった。これだけのデータでは擬似相関である可能性は否定できないものの、「自分のこれから」について在学時に相談する機会を持たせることは、年齢を重ねても、持続的な効果を持つ可能性があることは政策的に踏まえられてよい。特に卒業時に安定した移行に至らない者について支援をいっそう充実させることは、卒業時にいったん非典型雇用になったとしても、その後のキャリアにプラスに働くことにつながるものと思われる。

    (4)定点観測調査の必要性

    若者の移行プロセスは景気だけでなく、高学歴化や就職・進路指導などの学校側の要因や少子化など様々な要因によって変化する。現在の実態を把握するためには一時点の調査ではなく、過去と比較できるデータを調査研究によって蓄積していくことが肝要である。


    2013年4月 2日 (火)

    『DIO』281号

    Dio連合総研の機関誌『DIO』281号は、「歴史からの教訓―戦前日本は危機にどう対応したか」が特集です。

    http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio281.pdf

    「平等」意識を欠いた自由主義政党―1930年代危機と立憲民政党―  坂野 潤治
    高橋財政の「失敗」に何を学ぶのか  井手 英策
    戦前日本の失業対策と労働組合の対応  加瀬 和俊

    というラインナップは、なかなか渋くていいですね。

    坂野さんの「「平等」意識を欠いた自由主義」って、今風に言うとソーシャルを欠いたリベサヨって感じでしょうか。

    次の台詞なんか、ほとんど本ブログで言ってきたことと同じ感じです。

    ・・・しかし筆者は、「自由」と「平等」のセットは1930年代の日本にもありえたと考える。そしてその実現を阻んだのは社大党の陸軍接近だけではなく、自由主義政党の民政党における「平等意識の欠如」にもあった、とこれまでの研究で唱えつづけてきた(拙著『日本政治「失敗」の研究』、拙編『自由と平等の昭和史』など)。1931年の危機の際と同じく、1936・7年の危機においても、民政党は社大党や総同盟が求める「退職積立金法案」に背を向けた。同法案は失業保険のない日本で、せめて退職金の支払いだけは法律で企業に義務づけようとするものであったが、資本家団体の猛反対で完全に骨抜きの法律になった。資本家団体の意を受けて同法案の骨抜きの先頭に立ったのは、自由主義政党の民政党だったのである。

    戦前の日本にファシズムがあったかどうかの厳密な考証を脇に置けば、軍部と社大党はファッショ的であった。しかしファッショは、実現性はともかく口先では、社会経済的な平等を国民に約束する。社大党の「広義国防」は、その典型であった。それに対抗する自由主義政党が、資本家団体の意を受けて、労働組合法案や退職積立金法案を葬っていたのでは、労働者や小農は「平和」や「自由」の味方にはつかない。

    このような歴史の教訓をもとにして昨2012年末の総選挙での民主党と社民党の惨敗を振り返れば、その一因が両党における「平等意識の欠如」にあったことが明らかになろう。財政の健全化を最重視した民主党は、かつての民政党の井上準之助蔵相と同じように、社会の底辺に予算を注ぎ込むことをしなかった9条を守れ、としか言わなかった社民党は、自らの党名の意味を全く理解していなかった。20世紀以降の欧米社会で「保守党」と対抗してきた政党は、党名の如何にかかわらず、社会の弱者の救済につとめてきた。これに対し民主党は古典的な意味での「自由党」であり、社民党はその党名を裏切っている。「平和」も「自由」も重要であるが、保守政党自民党との対抗軸は「平等」なのではなかろうか

    こういう言葉が、しかしながら、肝心の人々の耳に伝わっていかないのですね・・・。

    あと、今号では、「視点」として南雲智映さんが「学生に対する労働教育の充実を」を書いています。

    これまた、昨今話題のブラック企業を取り上げながら、労働教育の必要性を論じています。

    ・・・自発的にせよ、非自発的にせよ、不幸にして「ブラック企業」に就職する学生は少なくない。このことを、競争の結果だから、自己責任だから、運が悪かったからなどの理由で仕方ないと割り切れというのは、あまりに酷ではないか。とりうる方策はいくつかあるだろうが、学生を対象とした労働教育の充実がその1つであろう。

    ・・・全国の大学、高校、あるいは義務教育の段階で一定の時間を割いて授業を行うべきであろう。学生が十分に労働者の権利を理解して就職活動をすれば、労働条件への関心が高まるので、「成長」とか「やりがい」といった表面的な言葉に惑わされにくくなり、「ブラック企業」を事前に見分けられる可能性が高くなるだろう。これが学生向けの労働教育に期待される1つ目の効果である。

    2つ目の効果は、「ブラック企業」を選ばざるを得なかった、もしくは「ブラック企業」だと気づかなかったという学生であっても、労働者の権利をよく知っていれば、労働基準監督署などに訴えることにより法定以上の労働基準に是正させる、あるいは心身を壊さないうちによりましな企業に移る、労働組合をつくって労働条件交渉により改善をはかるなどの自己防衛の段をとりやすくなるはずである。とくに労働組合の結成については、よりよい労働条件を獲得し、その後の企業経営に対して牽制力を持てるという意味で、かなりの力を入れて教えていってもいいと個人的に思う。

    さらに、今号で目を通しておくべきは、「「労働組合による異議申し立て行動の実態」についての調査報告書 ―21世紀の日本の労働組合活動に関する調査研究委員会Ⅲ―」の概要です。

    例の中村圭介主査による労働組合研究の3段目で、労働争議、というかもう少し広くとって異議申し立て行動を調査したものです。

    第1章  交渉力の基盤は「日常の活動」にあり マイカルユニオン
    第2章  廃業の危機から労使一丸となって事業存続を実現  自治労全国一般新潟労働組合新潟容器支部
    第3章  組合を通じて業界イメージを改善していきたい  アコムユニオン
    第4章  小売業におけるスト権の事前確立  上新電機労働組合
    第5章  審判員の地位向上へ向けて  JSD連帯労組プロ野球審判団支部
    第6章  オーナー経営のもとで労働条件向上へ大きな一歩を踏み出す  大和冷機労組
    第7章  賃金の「構造維持」を守り抜く  松山労働組合
    第8章  組合執行部への信頼関係再構築 大梅製作所労働組合(仮名)
    第9章  人員不足および労使慣行破棄によるストライキ 小田急バス労働組合
    第10章  会社解散通告を乗り越えて  全国一般石川地方労働組合中央自動車学校分会
    第11章  投資ファンドとの1年超におよぶ闘い  東急観光労働組合(現トップツアー労働組合)合中央自動車学校分会

    これ、もとになった報告書もすでにお送りいただいていて、大変面白いです。

    それぞれの章の執筆者は以下の通りで、JILPTアシスタント・フェローの鈴木誠さんが計4章も執筆していて大活躍です。

    21世紀の日本の労働組合活動に関する調査研究委員会Ⅲ「労働協約とストライキ」の構成と執筆分担
    (肩書は2012年10月現在)
     主 査 中村 圭介  東京大学社会科学研究所教授
    (序論)
     委 員 佐藤  厚  法政大学キャリアデザイン学部教授(2012 年3月まで)
         鈴木  誠  労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー(第5章、第7章、第8章、第9章)
         杉山 寿英  連合労働条件・中小労働対策局部長(第2章、第3章)
         陳  浩展 連合雇用法制対策局次長
     連合総研事務局
         龍井 葉二(副所長)
         中野 治理(主任研究員)
         髙島 雅子(前研究員; 第4章、第10 章)
         南雲 智映(研究員;第1章、第6章、第11 章)

    しんぶん赤旗 on 限定正社員

    本日のしんぶん赤旗の主張が、限定正社員に対して猛烈な批判を繰り広げています。

    http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-04-02/2013040201_05_1.html(限定正社員 「多様な正社員」の落とし穴)

    もちろん、いろんな考え方があって良いのですが、なんだかいいとこ取りをすると始めから決めてかかっているような・・・。

    日本のように人間らしく働くルールが弱い国での正社員化は、企業による強い支配従属関係に入ることになります。普通の正社員でさえ長時間・過密労働できびしいのに、「限定」された低水準の待遇で、正社員としての高い目標を押しつけられる雇用形態はあってはならないものです。

    いや、「正社員としての高い目標」って、契約で決まった仕事をきちんとするというのは世界中どこでも当然のことであって、「あってはならない」どころかそうでなければならないわけだし、今の日本型正社員が会社の命令権に限度がないので「長時間・過密労働できびしい」のをとらえて、「普通の正社員でさえ」と、それ以上に厳しいかのように描くのはいささかなのではないかと。

    いや、そういういいとこ取りをしたがる会社は当然出てくるでしょうし、そういう趣旨ではないと言うことをきちんと徹底していかなければ行けないのは当然ですが、それにしても、「普通の正社員でさえ」はないでしょうに。

    そして、返す刀で、

    限定正社員の場合、危険なのはリストラで地域、業務がなくなったら解雇が必至です。このための解雇自由のルールが伴って出てくる可能性もあります。正社員の雇用形態を破壊し、不安定雇用化へと激変をもたらすきわめて重大な動きといえます。

    いや、それがヨーロッパの普通の正規労働者なんですけど、それが「正社員の雇用形態を破壊し、不安定雇用化へと激変をもたらすきわめて重大な動き」と。是非、ヨーロッパに行ってそう言ってきてほしいですね。あんたらなんか、日本型正社員から見たら不安定雇用なんだ、と。確かに、日本型正社員の雇用安定・職業不安定から見れば、あちらは職業安定・雇用は中くらい安定ですけど。

    それと、ジョブがないのは解雇の正当理由というのを「解雇自由」とごっちゃにするのは、ある種のねおりべな方々が泣いて喜ぶのではないかと思いますよ。日本に比べても、貴様ぁ解雇を認めてなんかいませんよ。

    そこまでいうなら、「リストラで地域、業務がなくなっ」ても解雇されることがないように、平生からいかなる会社の命令にも従うようにしておかなきゃいけない、ことになるわけなんですが、それがそのいうところの「日本のように人間らしく働くルールが弱い国での正社員化は、企業による強い支配従属関係に入ることにな」っていたわけなんですけど。そっちの方がいいのでしょうか。

    いや、そっちの方が良いというのは立派に一つの考え方なので、それならそれで一貫するならば別に文句は言いませんけど、そうでもない。要するにこれは、竹中平蔵氏のようないいとこ取りの議論の正反対に位置するもう一つのいいとこ取りの議論じゃないですかね。

    実は、そういういいこと取りの典型的な議論がここにありましたが、

    https://twitter.com/tashi_masa/status/317816104514883585

    雇用の「地域限定」「職務限定」というのは、平常時と経営危機など緊急時の2つに分けて考えるべきだ。平常時は、経営者の好き勝手に配置転換されたら困る。だが、怪我で現在の職務につけないときは職務転換してほしいし、経営危機なら別地域への配転も考慮する。常に労働者の利益優先であるべきだ。

    常に会社の利益優先というわけに行かないのと同様に、常に労働者の利益優先というわけにも行かない、というのが、労使関係の論理というものなんですがね。

    3公社5現業がすべて消えた

    昨日2013年4月1日は、戦後労働法制にとってなかなかに記念すべき日だったことをご存じでしょうか。

    国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るための国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律の施行により、特定独立行政法人等の労働関係に関する法律の対象から国有林野事業が除かれ、法律の名称も特定独立行政法人の労働関係に関する法律と「等」がとれたのです。

    http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxmiseko.cgi?H_RYAKU=%8f%ba%93%f1%8e%4f%96%40%93%f1%8c%dc%8e%b5&H_NO=%95%bd%90%ac%93%f1%8f%5c%8e%6c%94%4e%98%5a%8c%8e%93%f1%8f%5c%8e%b5%93%fa%96%40%97%a5%91%e6%8e%6c%8f%5c%93%f1%8d%86&H_PATH=/miseko/S23HO257/H24HO042.html

    この法律、1948年に制定されたときは「公共企業体労働関係法」でした。国鉄と専売公社だけが対象だったのです。

    1952年の公労法改正で、電電公社が入って「3公社」になるとともに、公務員でありつつ公労法の対象となるいわゆる「5現業」として、郵便事業(郵政省)、印刷事業(印刷庁)、造幣事業(造幣庁)、国有林野の営林事業(林野庁)及びアルコール専売事業(通産省)が入りました。法律の名称は公共企業体「等」労働関係法ですね。

    これが戦後労働運動史を彩った「3公社5現業」というやつです。

    その後、国鉄がJRへ、専売公社がJTへ、電電公社がNTTへ民営化されて3公社がなくなり、「国営企業労働関係法」になり、そして郵政が郵政公社を経てJPへといった動きと、他方独立行政法人制度の導入による公務員型特定独立行政法人を同法の対象とする動き(でかいのは国立病院、ちなみに国立大学は非公務員型なので同法の対象にならず)がこの間ずっと続き、一昨日までは「特定独立行政法人等の労働関係に関する法律」で、「等」の中身は国有林野という状態だったのですね。

    それがついに消えたというわけです。

    切り込み隊長ブラック企業を語る

    Hyoshi18というわけで、昨日届いた『POSSE』18号の多彩なゲストの中に、我らが切り込み隊長やまもといちろう氏もいらっしゃいまして、どう紹介しようかと頭を悩ませていたところ、御自らブログに紹介文を書かれていて、これをそのまま紹介すればいい、と。

    http://kirik.tea-nifty.com/diary/2013/04/posse-vol18-beb.html(【告知】『POSSE vol.18: ブラック企業対策会議』に寄稿しました)

    ・・・問題は、企業というのは競争でありますので、同じ業界にブラックなところがあり、そこら辺がダンピングして受注することが常態化しますと、業界全体の収益性が下がって、「ブラック企業とコンペに勝つには、コスト的にこちらもブラックにならなければならない」という本末転倒な事態が発生することになります。また、いろんな革新があって、人が要らなくなりましたという話や、新しい技法が出てきたのでそちらをみんなで使いましょうというときに、そういうブラック企業のお陰で埋没してしまう恐れもまたあるわけですね。

     そうなると、いま日本で起きている「解雇しやすい労働法にしよう」というムーブメントって、まずは違法な労働状態を強いている会社に対して適切な処置ができるような方法を考えてからにしたほうがいいんじゃないの、とも思います。むつかしいんですけどね、機微が。・・・

    まさに、その機微の難しいところをさりげに語っているところが切り込み隊長ならでは、というところかも。

    その機微のわからない正義おもこな人々がいっぱいいるのもまた事実なんですが・・・。

    『働き方と職業能力・キャリア形成』

    KosugiこちらもやはりJILPT小杉組の研究成果。

    http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0152.htm

    労働政策研究報告書 No.152 平成25年3月25日

    働き方と職業能力・キャリア形成
    ―『第2回働くことと学ぶことについての調査』結果より―

    こちらは事実発見がかなり長いので、リンク先を見ていただくことにして、それを踏まえた政策的インプリケーションを:

    非正社員はOJTを含め職業能力開発の機会が限られている。能力開発機会の拡大のためには、企業内において基幹的な業務への職域拡大を促進することが考えられるが、それは同時に非正社員側の意欲や姿勢にも左右される。企業の非正社員への雇用管理・キャリア管理を改善する施策として、具体的にはジョブ・カード制度のキャリアアップ型等を用いた正社員への登用の促進、非正社員へのキャリア・カウンセリング機会の提供、非正社員と正社員の間の均衡・均等待遇化の促進、非正社員の職域拡大にキャリア形成助成金などを使いやすくする施策などが考えられる。

    特に能力開発機会が少ない中小規模企業向けに、これらの政策的支援を活用するために必要な事務処理などを援助する、中間的な支援の仕組みも考慮されるべきであろう。

    外部労働市場を通じてのキャリア形成を目指す非正社員も少なくないことから、企業外での能力開発機会の充実も重要である。男性非正社員では、働き方を変えるための自己啓発に比較的長期で経費負担の大きい教育機会を利用する傾向もあった。一定水準の専門性や技能水準を担保するために、高等教育機関などの活用や職業資格取得と結びつけるなど、長期的な訓練で、かつ、企業現場での実践的な学びを核とすることにより企業からの評価を高めるとともに、個人の経費負担も抑えられるような職業訓練システムの設計も、ひとつの方向として考えられる。

    女性の能力開発機会も限られている。男女間賃金格差には、就業経験年数ばかりでなくOJTを含む能力開発機会の格差も強く影響していると推測される。中でも有配偶女性の機会が乏しいが、その背後には、深く根付いた性別役割分業観があると推測される。こうした現状を前提にすれば、両立支援施策と併せて、女性の能力開発を促進する均等施策を推進する必要がある。

    女性は企業内での能力開発機会が限定されがちであるため、自己啓発のしやすい環境整備が重要である。キャリア形成助成金の認定コースを女性の視点から見直し、より女性の関心が高い分野への拡充を図ること、また、雇用保険加入期間が短かったり、未加入の就業者に対する自己啓発支援制度の整備も期待される。


    『ジョブ・カード制度における雇用型訓練の効果と課題』

    JobJILPT小杉組の研究成果です。

    http://www.jil.go.jp/institute/reports/2013/0153.htm

    労働政策研究報告書 No.153 平成25年3月25日

    ジョブ・カード制度における雇用型訓練の効果と課題

    ―求職者追跡調査および制度導入企業ヒアリング調査より―

    主な事実発見は:

    1.雇用型訓練受講者は、公的訓練非受講者に比べて就職できる確率と、正社員就職する確率が高いことが、求職者に対する追跡調査から確認された。雇用型訓練は雇用への橋渡しという役割は果たしていると考えられる。また、委託訓練活用型デュアル訓練、その他公的訓練の受講者との比較においても、就職確率、正社員就職確率は高く、企業に雇われながら訓練を受けるという実践的な訓練方式も一定の効果があると考えられる。

    2.賃金面では、雇用型訓練受講者の月収は他のカテゴリーの者(訓練非受講者、他の公的訓練の受講者、委託訓練型デュアルの受講者)の月収に比べて、第2回調査時点では統計的に有意に高かった。しかし、第3回以降は統計的に有意な差は観察されず、雇用型訓練の訓練量あるいは質の面で改善の余地があると考えられる。

    3.仕事の満足度の諸側面のうち、キャリアの見通しに関しては、雇用型訓練受講者は他の比較グループと比べて統計的に有意により満足度が高まり、かつその効果は時間が経過しても残っていた。

    4.企業ヒアリング調査から、雇用型訓練を実施していた企業のうち、新たな採用などの需要がない場合を除けば、半数が制度を活用し続けていた。助成金の削減は制度活用を止める理由のひとつではあるが、制度の運用面での問題を感じていたところに助成率低下が重なることで、「割に合わない」という感覚からの利用断念が多かった。一方で、新たな企業に対して制度の利用を促進する上では、助成金(額)の役割は大きかった。

    5.雇用型訓練の効果として、①採用や新人育成における課題(即戦力しか採用できない、新人教育をおこなう余裕がない)が解消され、より効果的な採用・育成ができたという声があるほか、②訓練生は採用後の仕事ぶりやスキルの伸びが大きい、訓練生以外の従業員にも刺激になりその意識や仕事ぶりが向上した、制度導入をきっかけに社内に体系的な人材育成の仕組みをとりいれた、などの波及的な効果が見られた。制度活用をやめた企業でも、人材育成の仕組みとして、同制度の考え方が定着する傾向があった。

    6.制度の運用上の課題としては、①事務負担の大きさや柔軟性のない訓練スケジュールなどの制度の利用しづらさ、②訓練のチェックが助成金の適正な支給のための形式的なものになってしまっていること、③本制度がトライアル雇用などの雇用対策と同列に理解されがちであり広報に課題があること、などが指摘された。

    政策的インプリケーションとしては:

    第1に、基本型訓練には求職者を雇用に結びつける効果があることがみとめられた。雇用型の訓練を今後とも拡充していくことが望まれる。ただし、その雇用が長期的な安定にはつながらない場合があることも示唆されたので、訓練後の状況についての継続的な調査を行い、マッチングや訓練期間などの問題がないかを検討する必要がある。

     

    第2に、煩雑な事務や厳格なスケジュール管理など、企業にとって負担感のある制度であることが指摘された。また、訓練成果ではなく、計画通りの事業遂行をチェックするという仕組みにも不満があった。本訓練が小規模企業で多く行われていることから、こうした負担感・不満が特に大きいのではないかと推測される。企業負担を軽減するためには、訓練計画の作成や事務を補助し、場合によっては訓練成果を第三者として測れるような職業訓練の専門家が必要ではないだろうか。こうした「訓練コンサルタント」となる人材の育成、活用を検討する必要がある。

     

    第3に、この制度が、実質的には中小企業に入職訓練を提供する仕組みとして機能していること、さらに、より広く企業内に人材育成システムを根付かせる契機となっていることを評価するべきである。中小企業の人材育成支援を制度の目標のひとつとして掲げること、また、制度の普及のための広報においても、職業訓練の制度であるという性格を強調すべきである。トライアル雇用など他の政策と差別化した広報戦略が望まれる。

    とのことです。

     

     

    2013年4月 1日 (月)

    『東洋経済』4月6日号の他の読むべき記事

    20120627000143401_2さて、本日発売の『東洋経済』4月6日号には、特集の他にも目をとめておくべき記事があります。

    一つは、巻頭近くの「解雇ルール見直しに波紋 労働市場改革の高い壁」です。ここで、規制改革会議で雇用問題を担当している鶴光太郎さんがこう述べていますが、読めば分かるように、日本の解雇規制が世界一厳しいとか口走るある種の人々とは一線を画し、ちゃんと物事の筋道をわきまえた議論を展開しようとしていることが分かります。

    ・・・政府の規制改革会議の民間議員である、鶴光太郎・慶應義塾大学大学院教授は、そうして状況を憂慮し、「解雇ルールというより、正社員改革の議論をすべき」と話す。鶴氏が提案するのは、「限定社員の雇用ルール整備」である。

    鶴氏によると、現状の「正社員」は、職務や地域などが限定されない雇用契約を結んでいるため、仮に所属先の部署の業績が悪化しても、他部署や地域に転籍(ママ)できる。結果的に企業が余剰人員を抱え、雇用の流動化につながらない。

    「職務や地域を限定した新たな正社員のルールを設ければ、雇用契約のハードルが下がる一方、事業の終了時に雇用関係も終了しやすくなり、人の移動が促される」(鶴氏)

    と、基本的には私の認識とほぼ同じ見解を示しています。

    一つだけ懸念があるのは、日本の解雇規制は厳しいと思い込んでいる人がこのロジックを半ば意識的に誤解して、経営上の理由によるジョブレス解雇でなくても、限定正社員はクビが切りやすいと勝手に思い込んでしまう可能性で、これは「准正社員」というようないかにも二級とかB級みたいな表現をするとその危険性が高まるので、明確に人事権の行使が限定される「限定」正社員と呼ぶべきだと思っています。

    もうひとつ、この4月6日号で労働問題への深い認識を示しているのは巻末近くの与那覇潤さんの「会社は「学校の延長」か? 新卒採用の季節に改めて考える」です。

    次の言葉も、本ブログや拙著を読まれた方にはとても近しい感覚を持たれるでしょう。

    ・・・逆に言うと、日本の場合は、英米ではごく一部のエグゼクティブやスペシャリストに限定されている「学校を出てから間断なく企業へと移動する」ライフコースが、一般的な事務職や高卒者、中卒者も含めて、労働者のほぼ全階層を覆っている点が特殊だ。それは広範な国民に「職場」というアイデンティティを供給する一方で、一回でも移動に失敗して所属する場所(学校・企業)がなくなると、「浪人」として白眼視されがちな社会を作ってきた。・・・

    与那覇さんはこのエッセイで、菅山真次『「就社」社会の誕生』とか、野村正實『日本的雇用慣行』といった、大変重量級の専門書を紹介しています。

    6542_2http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-b3b7.html

    31930747http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_449b.html

    そして、最後に紹介しているのが最近私とコンビ化している今野晴貴さんの『ブラック企業』。その台詞が:

    ・・・それはまさに、人生経路の全てが「学校の延長」として設計されてきた、日本的雇用のディストピアにほかならない。


    ブラック企業対策会議@『POSSE』18号

    Hyoshi18ようやく『POSSE』18号が届きました。特集は左の表紙にあるように「ブラック企業対策会議」です。

    http://www.npoposse.jp/magazine/no18.html

    特集は「ブラック企業対策会議」です。研究者、評論家、投資家など各界の論客からブラック企業への対抗策の意見を集めました。
    国会の首相答弁にも「ブラック企業」が登場し、「ブラック企業」言説が急速に広まっています。
    そこで今号の特集は「ブラック企業対策会議」と題し、研究者、評論家、投資家など各界の論客からブラック企業への対抗策の意見を集めました。
    また、巻頭には大阪市天王寺区での生活保護「不正受給」に関するルポを掲載。作られた「不正受給」の実態や、生活保護制度がどうあるべきなのか、またブラック企業と生活保護費の引き下げの関係性を検討しました。

    ということで、まず目次を。なかなかすごいメンツを集めましたな。

    ◆特集「ブラック企業対策会議」

    「海外に学ぶ労働時間規制」田端博邦(東京大学名誉教授)
    なぜ日本で長時間労働を規制できないのか

    「「一流企業」批判なくしてブラック企業批判はできない」佐高信(評論家)
    社畜批判のあの論客がブラック企業問題を斬る!

    「労働の自己疎外から「自生的秩序」の構想へ」柴山桂太(滋賀大学准教授)
    グローバル資本主義の深化が、社会の「自己防衛」に帰結する

    「地域を空洞化させるブラック企業」三浦展(消費社会研究家、マーケティング・アナリスト)
    労働とコミュニティを見直し、シェア社会の実現を

    「ラック企業に掘り崩された社会を救うには」常見陽平(作家、人材コンサルタント)
    ブラック企業を選んでしまう学生たちへ、就活生とノマドに問う

    「フェアな経営のためにブラック企業をつぶせ」山本一郎(投資家、イレギュラーズアンドパートナーズ(株)代表取締役)
    経営者が語るブラック企業対策! ブラック企業が業界全体を崩壊させる?

    「ブラック企業の消費者も加害者である」岩崎夏海(作家、ブロガー)
    ブラック化は資本主義の必然だった?

    「「悪いのはアナタじゃない!」――会社の奴隷と化す前に」河合薫(健康社会学者)

    「ブラック企業の若者を救済するための策」海老原嗣生(人事コンサルタント、編集者)
    苦しいのは失業者だけではない

    「政治が変わらなければブラック企業は変わらない」山下芳生(日本共産党参議院議員)
    なぜ若者に雇用政策は届かなかったのか?

    「“職業的意義のある教育”で「強み」と「当事者意識」の育成を」本田由紀(東京大学大学院教授)
    意識調査から見えてきた、若者の労働環境を変えるカギ

    「なぜ労基署は「使いにくい」のか?――労働基準監督官に聞く、労基署の実態と「正しい」使い方」労働基準監督署官
    労基署にいるのはどんな人たちなのか?

    「過労死の労災認定と遺族の取り組み」本誌編集部
    過労死・過労自殺の労災認定により、遺族の救済と長時間労働の社会問題化を

    「生活保護制度の破壊は最悪のブラック企業支援策」川久保尭弘(京都POSSE代表)
    労働市場規制のための社会保障の充実を

    「15分でわかるブラック企業――長時間労働と過労死」「ブラック企業を考えるための11冊」

    「作られた「不正受給」――犯罪取り締まりではなく、福祉の専門家による支援の必要性」
    岩橋誠(京都POSSE事務局)

    「ほんとうに必要な貧困支援とは何か――生活保護制度に求められる根本的改革」
    藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事)

    「格差の広がる韓国社会に福祉国家政策を」韓国福祉国家ソサイエティ

    「韓国の若者労働運動――その現場から」韓国青年ユニオン

    「「これから」のマルクスとユニオニズム――現代日本の左派における資本主義批判再定義」
    木下武男(昭和女子大学特任教授)×佐々木隆治(一橋大学社会学研究科特別研究員)

    「学生アルバイトの基幹化に関する調査」本誌編集部

    佐高さんのインタビューは、「いかにも」的な展開ですが、でもやはり、こういう発想で議論していったんではダメだよね、という典型になっているように思います。

    ・・・『ブラック企業』を読んで、まず最初に考えたのが、もちろんブラック企業というのは、とんでもない企業なんだけれども、あなた方の切り口でいったときに、原発の問題がある東京電力がブラック企業から抜けてしまうということが、一番難しい問題だなと思ったわけ。

    というわけで、私が例のブラック企業大賞で、一番ダメな点と指摘した東京電力問題が、まったく正反対の観点からこう言われているのを見ると、佐高氏と私はよっぽど対極的なんでしょうね・・・。

    (念のため)

    https://twitter.com/yamachan_run/status/318660856449757184

    今月号のPOSSEはいつもに増して執筆陣がすごいな。hamachan先生・海老原さん・常見さん・本田由紀さんという常連カルテット+三浦展・岩崎夏海・佐高信・やまもといちろう ! ”労基署はなぜ使いにくいのか”という文章もある。

    いや、今号に私はいません。私は前号で今野さんとたっぷり対談してますので、。

    ちなみに、その17号の今野さんとの対談の一部が、POSSEメンバーズブログに今日アップされています。

    http://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/215b098f6516beb647d9bb1ae5d40ec4ブラック企業への対案は契約の限定とノンエリートである(『POSSE』vol.17)

    今回は『POSSE』vol.17に掲載された濱口桂一郎さん(独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員)と、今野晴貴(NPO法人POSSE代表)の対談企画の一部を紹介します。

    今野が『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)を出版したのは記憶にあたらしいところですが、2012年の後半は「ブラック企業」という言葉がメディアに取り上げられる頻度も増え、社会的な広がりを持つようになってきています。こうした状況の中で、ブラック企業を批判する言説には、悪徳な経営者へのバッシングという性質のものや、ジャーナリスティックな問題関心から報道されるものも多いです。

    対談では、こうした表面的な批判や論評ではなく、理論的な視座をもって議論がなされ、ブラック企業問題への対案として重要になるのは契約の限定とノンエリート論だと述べられています。

    濱口「ここに触れないと絶対にブラック企業の問題が解決しないと思っていることがあります。それは、エリート論をエリート論としてきちんと立てろということなんです。つまり、日本では、本当の一部のエリートだけに適用されるべき、エリートだけに正当性のあるロジックを、本来はそこに含まれない、広範な労働者全員に及ぼしています」。(p.131

    今野「現在では、正社員とはまったく違う仕組みであるはずの非正規雇用のなかでも、契約内容が日本型正社員と同じように崩され、無限定に命令されてしまう状況にひきずられています。正社員とは仕事内容も待遇も違う働き方を主張することが、実は一番、労働者の権利を擁護する主張なのではないかということだと思います」。(p.133

    濱口「釣り合いがとれている一部のエリートのあり方を、あたかも全体の姿であるかのごとく、欧米のサラリーマンはこうなるんだと持ち出すと、課長になれる3割にどうやって入るんだという脅しのロジックになります。結局、いままでの日本型システムはダメなんだという議論が、一見日本型システムを否定するようにみえて、実は日本型システムの根幹の部分を維持することによって、かえってブラック企業現象を増幅している。そこのところをきちんと批判しないといけないと思いますね」。(p.134

    今野「ブラック企業に対する対案はノンエリートでなければなりません。とにかく3割しか残れないという仕組みの話を議論する(※)のではなく、切り離された7割の人たちのための雇用システムを議論していけばよいということだと思います」。(p.134

    (※城繁幸『7割は課長にさえなれません』PHP新書)

    ブラック企業の定義について、今野はひとまず「日本型雇用からの逸脱」と規定しています。すなわち、従来の正社員であれば日本型雇用システムの枠内で雇用保障がなされ、高処遇にあり、その対価として広範な指揮命令権のもとでの過剰な労働を受け入れるという「釣り合いのとれた」関係がありました。しかし、現代のブラック企業では正社員ですら離職に追い込まれるように、雇用保障がなくなっているが過剰な労働を行なわなければいけないという関係に変化してきています。

    こうした広範な指揮命令権の根底にあるのは、雇用契約が職務に基づいていないために、契約内容が実質的に無限定となっていることです(詳細は濱口桂一郎『新しい労働社会』などを参照)。この前提に立ち、ブラック企業問題を克服するため必要なのは、政策的に雇用契約の内容を明確化すると同時に限定をかけることと、無限定の労働が伴う従来の正社員モデルではなく、高処遇ではないが雇用契約が限定された新しい正社員として「ノンエリート論」を立てることの二つだというのが対談で両者の主張が一致したところでした。

    ノンエリート論については、昨今注目を集めつつあり、常見陽平『僕たちはガンダムのジムである』や熊沢誠『労働組合運動とはなにか――絆のある働き方をもとめて』といった書籍でも論じられています。ブラック企業への対案としてノンエリート論は、言説的に今後広がりをもっていく可能性があります。

    ここではブラック企業への対案についてみてきましたが、対談ではブラック企業の起源や近年の雇用政策の誤謬など、興味深い論点が多数挙がっています。『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』から、さらに立ち入った議論に触れてみたい方、より理解を深めたいという方は一読してみてはいかがでしょうか?

    『POSSE』編集部ボランティア(大学生)

    若者の働く環境悪化@読売新聞

    さて、エイプリル・フール特集3弾目は読売新聞です。第11面(社会保障)の大きな記事「若者の働く環境悪化」に、最近このペアで登場がやたらに目立つ今野晴貴さんとともに、ブラック企業話を。

    労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員は、「従来、日本の企業では若い頃に激務を課されるのが普通だったが、終身雇用と年功賃金という『見返り』とセットだった。ブラック企業は、長く雇用するつもりがなく、『見返りのない滅私奉公』を強いる点でまったく違う」と解説する。

    ちなみに、最後に遠藤公嗣さんが登場し、EUの連続11時間の休息規制の導入を述べております。

    労働生産性から考えるサービス業が低賃金なワケ@『東洋経済』

    20120627000143401エイプリル・フール3連発、2発目は既に予告した『東洋経済』です。

    「給料大格差時代」というすごい特集の中の、「労働生産性から考えるサービス業が低賃金なワケ」という記事。

    え?どこかで聞いたような、と感じたあなた。ピンポーン。

    そう、本ブログで何回か取り上げてきた、あのサービス業の生産性問題を、まったく同じ観点から記事にしています。

    ・・・端的にいって、二つの労働生産性を混同していることが議論の混乱を生んでいる。それは物的労働生産性と付加価値労働生産性だ。

    ・・・逆に言えば、いくら物的労働生産性を高めても、安売りに走れば、それは付加価値労働生産性を低めていることになる。・・・

    で、最後のところで、私自身も登場してこう喋っています。

    「日本の消費者は安いサービスを求め、労働力を買いたたいている。海外にシフトできず日本に残るサービス業をわざわざ低賃金化しているわけだ。またその背景には、高度成長期からサービス業はパート労働者を使うのが上手だったという面もある」(労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員)

    こう考えると、サービス業の賃金上昇には、高付加価値化といった産業視点の戦略だけでなく、非正社員の待遇改善など労働政策も必須であることがわかる。「サービス価格は労働の値段である」という基本に立ち戻る必要がある。


    残業代ゼロ法案@『週刊ポスト』

    1200767678『週刊ポスト』4月12日号が、6年前とまったく同じ感覚で「安倍が目論む『残業代ゼロ法案』(ホワイトカラーエグゼンプション)であなたの給料は3割減る」という巻頭記事を載せています。

    で、私も電話で取材を受けて、何カ所かに私の発言が載っているんですが、一番熱を入れてしゃべった物理的労働時間規制こそが重要というところは残念ながらスルー。

    載っているのは、「残業代で稼ぐ日本の特殊性」のところと、7年前の議論への批判のところです。後者は以下の通り。

    前出の濱口氏はこう言う。

    「経営側の本音は、残業しても成果が上がらないホワイトカラーに残業代は払いたくないというもの。長く働けば多くの製品を生産できるブルーカラーとは仕事の内容が違うのだから、ホワイトカラーの仕事を時給で計算するのは無理があるが、それなら金は払えないから残業するなと本音で交渉するべきです。それを“仕事と家庭の両立”“家庭にいる女性が働きやすくなる”」など、本質からはずれた理屈を持ち出してごまかそうとするから批判を浴びる。今の議論は7年前の失敗に懲りていません」

    読者もそうでしょうが、自分でも言いながら、ものすごいデジャビュを感じていました。デジャビュ全開です。

    Hung

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