EU及びEU諸国の従業員代表制@『Int'lecowk-国際経済労働研究』2013年4月号
『Int'lecowk-国際経済労働研究』2013年4月号に載せた「EU及びEU諸国の従業員代表制」です。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/intlecowk1303.html
1 EUレベルにおける従業員代表制と、2 EU諸国における従業員代表制の現状は、今までも紹介してきた内容ですが、最後に新たな動きとして「3 多国籍企業協約に向けた試み」について簡単に紹介しております。
これについては、機会があればもう少し詳しく、いろんな実例なども交えながら、きちんと紹介したいと思っています。
本稿の最後に、現在EU当局が広く一般に向けた協議を行っている多国籍企業協約について簡単に触れておこう。
2000年代に入ってから、欧州レベルで活動する多国籍企業において国境を越えた労働協約を締結する事例が増えてきた。欧州委員会は2008年7月の文書『国際統合進展の中の多国籍企業協約の役割』(SEC(2008)2155)においてこの問題を取りあげ、政労使からなる専門家グループによる検討を行う意向を示した。この報告書は2012年1月に公表され、現状を詳細に分析するとともに、法制面その他のいくつかの問題点を指摘した。
EUの欧州事業所委員会指令は、単に欧州レベルでの情報提供と協議を義務づけているに過ぎない。その協議の結果欧州レベルで合意(agreement)がなされ、文書化された場合に、それがいかなる法制度の下でいかなる法的効果を持つのか持たないのか、といったことについては、EU法は一切語らないのである。そもそも企業協約を含め、団体交渉や労働協約に関わる法制は各国の歴史と伝統によって極めて多様であり、EUレベルでそれを調整するような仕組みも存在しない。とりわけ、多国籍企業協約をめぐって紛争が生じたときに、いかなる法制度によっていかなる処理がされるのかされないのかまったく不明なままである。たまたま締結式が行われた国の国内法によって処理されるのか。国際私法によって処理されるのか。いかなる法制度によっても対応されないのか。それともEU法で何らかの対応がされるべきなのか。
2012年4月、欧州委員会は雇用政策全般にわたる文書『ジョブリッチな回復に向けて』(COM(2012)173)において、「労使対話の強化」という項目の中で、「・・・ますます多くの企業において、これは多国籍企業協約という形をとり、それを通じて危機によって生じた課題に対する欧州レベルの合意された対応がなされ、変化をマネージするメカニズムが構築されている。多国籍企業協約は既に1000万人の従業員をカバーしており、その役割はより認識され、支援されるべきである。」と述べた。
そして2012年9月、欧州委員会は『多国籍企業協約:労使対話の潜在力を実現する』(SWD(2012)264)という文書により、労使団体に限らず広く一般に向けて意見を募る協議を開始した。同文書の質問項目のうち重要なものを示すと次の通りである。
・多国籍企業協約の適用の法的確実性はいかにして達成しうるか?かかる協約の法的効果を明確化するための仕組みの発展を想定すべきか?
・紛争の予防や裁判外処理を支援するための行動が取られるべきか?もしそうなら、どのような行動か?
・上述のような諸問題を解決する選択的な枠組み、例えば指針といった形式を発展させるべきか?かかる枠組みに盛り込むべき主な要素は何か?
今後の動向が注目される。
« 公明党労働政策委員会で | トップページ | 常見陽平『「すり減らない」働き方』 »
コメント