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« 大内伸哉さんの根本的誤解 | トップページ | 『教育の設計と社会の設計』 »

2013年4月22日 (月)

「ジョブ型正社員の雇用ルールの整備について」 by 鶴光太郎

さて、先週金曜日の4月19日の規制改革会議雇用ワーキンググループに提出された鶴光太郎座長の提出資料が、いろいろと誤解の絶えないジョブ型正社員の雇用ルールについてかなり詳しく書いているので、やや長いですが全文引用して、この会議でどういうことが考えられていて、どういうことが考えられていないか(ココ重要)を、よく理解して頂ければ、と思います。

ここに書かれていることに関する限り、私は鶴さんの見解とだいたい同意見です。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130419/item1.pdf

1. 日本の正社員の特徴

・ 正社員とは、(1)期間の定めのない雇用(無期雇用)、(2)フルタイム、(3)直接雇用(雇用関係と指揮命令関係が同一)といった要素で特徴付けられる。
・ 日本の正社員の場合は、加えて、無限定社員という性格が強い
・ 無限定社員とは、(1)職務、(2)勤務地、(3)労働時間、などの制約、限定がない社員。つまり、将来、職種、勤務地の変更、残業などの命令があれば基本的に受け入れなければならないという「暗黙の契約」が上乗せされている社員。
・ 入社した企業の一員となることが大きな意味を持つため、メンバーシップ型社員、就社型社員ともいえる。
・ また、無限定な働き方ができるという意味で正社員は男性中心であり、女性が家事に専念するという家族単位の犠牲・協力が前提にあった。
・ さらに、男性が一家の大黒柱として家族を養い続けなければならないという意味で賃金制度も後払い的(年功的)性格が強かった。
・ 日本の正社員は、(1)無期雇用、(2)無限定社員、(3)解雇ルール(解雇権濫用法理)が密接かつ強力な補完関係(「鉄の三角形」)
・ 一方、欧米では、アメリカ、ヨーロッパにかかわらず、ジョブディスクリプション(履行すべき職務の内容、範囲)が明確であり、職務限定型が一般的であり、それに付随して一般社員にとって勤務地限定、時間外労働なしが前提。一方、幹部(候補生)ほど、無限定社員に近くなるというイメージ。

2. 無限定正社員のメリット、デメリット
メリット:
・ 企業側からすれば解雇をしなくても、配転や労働時間による雇用調整が可能という意味で柔軟性大
・ 企業特殊な投資が促進
・ 配転等を通じて企業の部門間のコーディネーションが良好
・ 労働者からみれば無限定な働き方に即した雇用保障、待遇(年功賃金、退職金等)を獲得
デメリット:
・ 労働者からみれば不本意な転勤や長時間労働を受け入れなければならないことで家族やワークライフバランスが犠牲に
・ 雇用保障や待遇が手厚い分、企業は正社員採用に慎重になり、雇用の不安定な有期雇用が増加
・ 無限定正社員は「なんでも屋」になってしまい、特定の能力・技能が身に付きにくく、キャリア形成が難しい。
・ このため、転職が難しく、外部オプションが限定され、自己のキャリアの可能性を広げることができない。

3. なぜジョブ型正社員の普及が必要か
ジョブ型正社員とは?
・ 無限定正社員に対し、(1)職務が限定されている、(2)勤務地が限定されている、(3)労働時間が限定されている(フルタイムであるが時間外労働なし、フルタイムでなく短時間)、いずれかの要素(または複数の要素)を持つ正社員をジョブ型正社員と呼ぶ。
 注:ジョブ型という言葉は元々職務限定型の意味合いが強いが、下記の厚労省調査によれば、なんらかの限定が行われている正社員の内、職務限定型が8~9 割を占めており、それに付随して、勤務地や労働時間が限定される場合も多いのでここではジョブ型という言葉で代表することにする。
日本においてジョブ型正社員の普及・定着が必要な理由
・ 非正社員の雇用安定
 正規・非正規の労働市場の二極化が問題となる中で、その間に多様な(多元的な)雇用形態を作ることにより、有期雇用から無期雇用への転換をより容易にし、雇用の安定化を高める。
 正社員を希望する不本意型非正社員も、雇用の安定から期間の定めのない契約(無期雇用)への移行を望んでいる場合も、転勤や残業が強制されるような無限定な働き方を望んでいるとは限らない。
・ ファミリーフレンドリーでワークライフバランスが達成できる働き方の促進
 無限定社員のワークライフバランス等の推進が必要であることは言うまでもないが、勤務地限定型や労働時間限定型をライフサイクルに応じて選択できることで、子育て・介護との両立やワークライフバランスをより達成しやすい働き方がより可能となる。
・ 女性の積極的な活用
 正社員として登用され、昇進していくためには暗黙的に無限定な働き方が要請、期待されてきたため、特に既婚女性にとっては不利であった。特に、地域限定型、労働時間限定型の正社員が普及することで女性の労働参加の促進、優秀な女性の活躍の場の広がりが期待できる。
 特に、同一の企業で無限定型とジョブ型を相互に移動することが可能になれば、無限定型で入社した社員が子育て期には勤務地や労働時間限定型になり、その後、また無限定型に戻ることが可能となり、キャリアの継続に大きな効果が期待される。
・ 自己のキャリア・強みの明確化と外部労働市場の形成・発達
 特に、職務限定型正社員の場合、自分のキャリア、強みを意識し、価値を明確化させながら働くことで外部オプションを広げ、転職可能性も高まり、それが現在の職場での交渉力向上にもつながるため、将来に向けたキャリアを意識しながら「未来を切り開く働き方」を実現できる。
 職務限定型正社員が普及することで外部労働市場(転職市場)も拡大し、「人が動く」ことがより容易に。そうした動きが出てきて初めて職業能力評価システムなどの整備を同時並行的に進めることが可能に。

4. ジョブ型正社員の現状と問題点
現状:
・ 厚労省の多様な正社員に関する企業調査(2011 年、1987 社、正社員100 人以上)によれば、対象企業の51.9%が多様な正社員(ジョブ型正社員)を導入している。従業員数でみれば、正社員全体の32.9%が多様な正社員であり、その内、職務限定が28.0%、労働時間限定が3.4%、勤務地限定が8.9%である(それぞれ重複あり)。
・ 就業規則や労働契約で限定が明確化されていない場合が多い。
 職務限定型で就業規則や労働契約で仕事の範囲が確定しているのは 21.1%。
 勤務地限定型で就業規則や労働協約で勤務地になんらかの限定があるのは 15.6%。
・ 事業所閉鎖、事業や業務縮小の際の人事上の取り扱いは通常の正社員と同じ場合が多い。
 職務限定の場合、通常の正社員と同じであるのが 76.6%。
 勤務地限定の場合、通常の正社員と同じであるのが 63.0%。
・ 多様な正社員の賃金は通常の正社員の8~9 割未満が最も多い。
・ ジョブ型正社員についての契約解除(雇用終了)についてのこれまでの裁判例をみると、いわゆる整理解雇の四要件(要素)1の判断枠組を基本的に維持しつつも、職務(職種)や勤務地が限定されている点を考慮し、無限定正社員とは異なる判断を行い、解雇を有効とする事例がみられる。
問題点:
・ 対象企業の半分が導入するなどジョブ型正社員の導入は進んできているが、その形態が労働契約や就業規則で明示的に定められていないことが多いため、人事上、その特性に沿った取り扱いが必ずしもなされていない。
・ 一方、労働契約で明確化されている場合でも実際の運用が属人的になっている可能性ある(ジョブ型であるに能力が高いためなし崩し的に働き方が無限定になっていたり、無限定社員がいずれかの点で限定的な取り扱いを受けているような場合)。
・ ジョブ型正社員に対しその特性に沿い、無限定正社員と異なる取り扱いがなされれば、企業は更にジョブ型正社員を増やせるであろうが、リスクに敏感になり、及び腰になっている面も。

5. ジョブ型正社員の雇用ルール整備のあり方
基本的考え方:
・ 就業規則や労働契約でジョブ型正社員の内容を明確化する。
・ 無限定正社員とジョブ型正社員との間の均衡処遇を図る。
・ 事業所閉鎖、事業や業務縮小の際の人事上の取り扱い等についてその特性に沿った取扱いができることについて法的ルールの確認・整備を行う。
具体的な提案:
(1)労働条件の明示
・ ジョブ型正社員の雇用形態を導入する場合は、就業規則においてジョブ型の具体的な契約類型を明確に定める。
・ ジョブ型正社員を実際に採用する場合、その契約類型であることを契約条件として書面で交わす。
 具体的には、現行の労働基準法15 条による労働条件明示義務と重要な労働条件の書面による通知とジョブ型正社員の契約条件の書面化との関係を整理する必要あり。
 合わせて、労働契約法4条 2 項による労働条件明確化のための書面による要請が必要。
 労働基準法 15 条、労働基準法施行規則5 条によれば、「労働契約の期間に関する事項」、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」などを労働者に通知する義務があるが、現状では、実際の人事管理の運用を前提に、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」については、当面のものと解するという解釈がされている。
 そこで、この現行規定をより整備して、無限定正社員かジョブ型正社員かを明示し、かつ、ジョブ型社員の「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」を詳細に特定すること求めてはどうか。
(2)均衡処遇・相互転換の要請
・ 有期労働契約についての労働契約法20 条に類する規定(雇用形態による不合理な労働条件の禁止)を定めることを検討するとともに、無限定契約とそれぞれの限定契約との相互転換に関する規定を設け、契約形態相互間の壁を低くしながら、ライフスタイルやライフサイクルに合わせた多様な就労形態選択を可能とする法的基盤を整備してはどうか。
(3)ジョブ型正社員の人事処遇ルールの検討
基本的認識:
・ いかなる契約形態をとるかは、基本的に当事者の自由である。その中で、ジョブ型正社員の形態をとり、それを普及・定着させていくためには、労働契約において職務または勤務場所などを定めることにとどまらず、人事処遇全般のルールを定める必要がある。従来の就業規則は、無限定正社員の働き方を前提としたルールが多く、ジョブ型社員にはなじまない規定が多いからである。とくに、人事異動、時間外労働を含む時間管理、雇用の終了などについて、ジョブ型社員の働き方に即したルール作りが求められる。
・ 例えば、ジョブ型正社員については、職務や勤務地を変更する配転、約定された労働時間を超える残業、人事上の能力評価等の点で企業の人事権が制約される可能性がある反面、職務や勤務地が消失した際の取扱いについては、無限定正社員とは異なる人事上の取扱いをすることが考えられる。
・ また、従来の人事処遇に関する判例法理が、企業が無限定社員について行ってきた人事管理ルールを色濃く反映したものであることを考慮すると、ジョブ型社員の普及は、判例法理の見直しにつながっていくと思われる。しかし、判例法理の変化を漫然と待つのではなく、それをリードできるようなジョブ型社員の働き方にふさわしい労働契約紛争の解決ルールを検討することが必要であろう。
具体的対応:
・ 勤務地限定型、職務限定型正社員については、限定された勤務地、職務が消失した場合を解雇事由に加えることを労使で話し合うことを促すことが考えられる。
 具体的には、就業規則の解雇事由に「就業の場所及び従事すべき業務が消失したこと」を追加することが可能であること確認してはどうか。
・ ジョブ型正社員の場合、限定された勤務地・職務が消失した場合における解雇権濫用法理(労働契約法16 条、特に整理解雇四要件)の適用については、これまでの裁判例を参照しつつ、多様な実態に応じた解雇の合理性・相当性に関するルールを整理する。
・ その上で、限定された勤務地・職務が消失した場合、解雇が客観的合理性と社会的相当性を持つには更にいかなる要件が少なくとも必要であるか、労使および司法の間のコンセンサスを形成していくことが重要であり、かつ現実的にも有効ではないか。さらに、法解釈、必要な要件について一定のコンセンサスが得られればなんらかの形で方向性を示すべきではないか。
 規制改革会議雇用WGで議論のためのたたき台を作ってはどうか。
 法解釈等について最終的に立法事項とするのが難しければ、解釈通達などで明文化してはどうか。
(4)労使双方の納得性を高めるための対話の促進
・ 現場の実態に応じた雇用ルールの明確化を図るためには、企業の現場において労働組合または過半数代表者等と多様な就労形態についての議論を促すことがそもそも重要であり、それがひいては当事者の納得性(ひいては生産性)を高めることにつながる。
・ 同一企業で無限定正社員をジョブ型正社員に転換する場合は、労働条件決定の合意原則から考えて、労働者の同意を要することを確認してはどうか。

以上

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