埋橋孝文編著『生活保護』(福祉+α)
ミネルヴァ書房から刊行されている「福祉+α」というシリーズの第4巻、埋橋孝文編著『生活保護』をお送りいただきました。
図ったわけではないのでしょうが、まさに生活保護をめぐる政治的議論が盛り上がっているときだけに、時宜に適した出版です。
http://www.minervashobo.co.jp/book/b108007.html
「働くことが割に合う」社会の実現をめざして
2012年度に入って生活保護をめぐる議論と改革に向けた動きが活発化している。いままさに、生活困窮者の生活支援のあり方を見直し、社会保障制度の抜本的な再編が求められている。このような状況をふまえて、本書では経済的・政治的・社会的に注目される「生活保護」に対して、多面的なアプローチを試み、その現状と問題点を解明するとともに、今後の改革の方向性を提示する。
[ここがポイント]
・生活保護の不正受給の問題など関心が高まるなかで、タイムリーな一冊。
・国内だけではなく海外の事例も盛り込んでいる。
目次は以下の通りですが、かなり幅広い方々による実に包括的な一冊になっています。
総 論 生活保護をどのように捉えるべきか[埋橋孝文]
−−本書のねらい
第Ⅰ部 生活保護に分析のメスを入れる
第1章 生活保護への四つの批判[阿部 彩]
−−研究からの反論
第2章 生活保護改革論議の課題[嶋田佳広]
−−法学の視点から
第3章 公的扶助への社会学的接近[菊地英明]
−−生活保護と家族モデル
第4章 生活保護における社会福祉実践は、如何に可視化・評価されるのか[森川美絵]
第5章 生活保護の歴史を概観する[岩永理恵]
−−受給動向と雑誌記事から
第6章 「自立支援」による生活保護の変容とその課題[桜井啓太]
第Ⅱ部 生活保護の受給者と行政の取り組みから考える
第7章 生活保護世帯の家計・生活構造[室住眞麻子]
−−母子世帯を中心に
第8章 住宅困窮問題と生活保護および住宅政策[小田川華子]
第9章 障害者の生活と生活保護制度[山村りつ]第10章 「食わせて寝かせる」から40年[松木宏史]
−−救護施設と「最低基準」
第11章 医療ソーシャルワーカーが取り組む経済的相談[野村裕美]
−−医療扶助を中心に
第12章 「自立支援」は生活保護をどのように変革(転換)したか[櫛部武俊]
−−希望をもって生きる釧路チャレンジを通じて
第13章 何を考えてケースワークをしているのか[石橋和彦]
−−反省も込めて
第14章 生活保護と就職困難者[四方理人]
−−埼玉県「生活保受給者チャレンジ支援事業」のデータ分析
第Ⅲ部 諸外国の経験を視野に入れる
第15章 イギリスの公的扶助制度の展開と課題[所 道彦]
第16章 フランスの公的扶助[都留民子]
−−ワークフェア・積極的連帯手当(RSA)
第17章 ドイツにおける最低生活保障制度[森 周子]
−−社会扶助と求職者基礎保障を中心に
第18章 スウェーデンの社会扶助受給者像と今日的課題[岩名(宮寺)由佳]
第19章 フィンランドの公的扶助制度と課題[石川素子]
第20章 韓国の国民基礎生活保障制度[金 成垣]
−−現状と問題、そしてその特徴文献案内
あとがき
索 引
この中でも、特に今読まれるべきは、なんと言っても第1章の阿部彩さんの「生活保護への四つの批判−−研究からの反論」でしょう。
いま、まさに生活保護ブームである。政党は世論の高まりを受けて、こぞって生活保護改革を打ち出している。にわかな関心の高まりのきっかけは、2011年、1950年代以降初めて、生活保護受給者数が200万人を超えたことである。そして、最近になって売れている芸能人の母親が生活保護を受給しているという報道が第二のブームを呼んだ。
これら世論の背景には、生活保護の受給者が増えること自体に対して、社会は嫌悪と危機を感じていることにある。だからこそ、不正受給はもちろんのこと、経済的に余裕のある家族がいる「けしからん」ケースなどについて、激しい非難が巻き起こる。ネットを少し検索すれば、生活保護の受給者に対する批判は山のように出てくる。中には、生活保護受給者は「税金泥棒」などの悪質な書き込みもあり、犯罪者のような扱われ方をしているものもある。
なぜ、人々はこれほどまでに生活保護を嫌うのか。・・・・・・
あと、本書で是非必読なのが、四方理人さんの「生活保護と就職困難者−−埼玉県「生活保受給者チャレンジ支援事業」のデータ分析」です。
そう、本ブログでも取り上げてきたあの埼玉県の事業を分析しています。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-4287.html(埼玉県が生活保護家庭の教育支援へ)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/200-f0ab.html(『生活保護200万人時代の処方箋~埼玉県の挑戦~』)
こうして着々と出版されてくると、次の次ぐらいに予定されている私にもプレッシャーが・・・・・。
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