菅野・仁田・佐藤・水町『労働審判制度の利用者調査 -- 実証分析と提言』
菅野和夫・仁田道夫・佐藤岩夫・水町勇一郎『労働審判制度の利用者調査 -- 実証分析と提言』(有斐閣)をお送りいただきました。有り難うございます。
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144422
個別労働紛争の解決手段として多くの関係者に利用されている労働審判制度。その利用者を対象に行われた「労働審判制度利用者調査」の結果を紹介・分析する。現状の労働審判制度のメリット,今後の課題,他の紛争解決手段への応用など,分析・提言ともに興味深い。
ということで、本ブログでも紹介した東京大学社会科学研究所の労働審判調査の結果を、さらにいろいろな観点から分析した本です。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-3e42.html(労働審判の解決金は100万円)
昨年5月に関西学院大学で行われた日本労働法学会で佐藤さん、水町さん、高橋陽子さんらが報告した内容も盛り込まれていますし、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-458b.html(第123回日本労働法学会)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-6668.html(労働審判の解決金は低すぎるのか?)
さらに、菅野先生から始まって、さまざまな立場からの分析や提言が含まれています。
目次は、
1 序 論
第1章 雇用労使関係の変化と労働審判制度の意義(菅野和夫)
第2章 労働審判制度利用者調査の概要(佐藤岩夫)
2 利用者からみた労働審判制度(分析編)
第3章 労働審判制度利用者の動機と期待(飯田 高)
第4章 労働審判制度の基本的特徴の検証--迅速性・専門性・適正性(佐藤岩夫)
第5章 金銭的側面からみた労働審判制度(高橋陽子)
第6章 労働審判制度に対する当事者による評価の全体構造(今在慶一朗)
第7章 民事訴訟利用者調査との比較(菅原郁夫)
第8章 労働審判紛争の社会的構造--問題定義の記述形式を通じて(樫村志郎)
3 労働審判制度のこれからを考える(提言編)
第9章 労働審判制度の意義と課題--労働法学の視点から(水町勇一郎)
第10章 労働審判制度の実務と可能性--裁判官の立場から(渡辺 弘)
第11章 労働審判制度の実務と課題--労働者側弁護士の立場から(宮里邦雄)
第12章 労働審判制度の実務と課題--使用者側弁護士の立場から(中山慈夫)
第13章 労働審判制度と日本の労使関係システム--労使関係論の視点から(仁田道夫)
第14章 労働審判制度から民事訴訟制度一般へ--民事訴訟法の視点から(山本和彦)
ということですが、本書の影の登場人物は、実はわたくしたちJILPTの個別紛争研究でもあります。
第1章の菅野先生の文章から始まって、佐藤岩夫さん、高橋陽子さんの文章にもわたくしたしの労働局あっせんの研究の知見が使われていて、労働審判の実態との比較がされています。
菅野先生の第1章から、「労働関係上の権利の実現に寄与する労働審判制度」の一節を
・・・これを、労働関係における権利の実現という角度からみれば、労働審判制度は、職業裁判官と労使実務家とが権利関係を効果的に判定した上で、その心証を基礎としつつ、事案の内容と当事者の意向に即して、紛争を実際的に解決しているのであって、労働関係の権利や地位を不当に侵害されたと考える労働者が当該権利・地位を主張して使用者に対し迅速にその判定と実際的解決を図ることを可能ならしめている。労働審判手続の主要な事案である解雇や雇い止めについては、審理の結果解雇権濫用の心証となったとしても、調停・審判における職場復帰の事例は少なく、解決金+合意退職の事例が大多数とされるけれども、労働者が解雇・雇い止めの不当性につき司法手続による判定を迅速に得られること、職場復帰よりは解決金を得ての再出発の方が実際的な解決である場合が多いこと、そして、労働審判手続における解雇・雇い止めの解決金は労働局あっせんにおけるそれよりも相当に額が高いことからすれば、労働審判手続による迅速な判定と解決金の救済は、不当な解雇・雇い止めの救済上大きな意義を有すると言えよう。以上のように、労働審判手続は、労働関係の権利(地位)の擁護という点では長足の進歩をもたらしたと評価できる。
どれくらい違うかというと、本書103ページにあるように、労働審判で100万円、労働局あっせんで17.5万円で、文字通り桁が違います。
JILPTの報告書については、
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2010/0123.htm
労働政策研究報告書 No.123
個別労働関係紛争処理事案の内容分析
―雇用終了、いじめ・嫌がらせ、労働条件引下げ及び三者間労務提供関係―
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2011/0133.htm
労働政策研究報告書 No.133
個別労働関係紛争処理事案の内容分析II
―非解雇型雇用終了、メンタルヘルス、配置転換・在籍出向、試用期間及び労働者に対する損害賠償請求事案―
http://www.jil.go.jp/institute/project/series/2012/04/index.htm
日本の雇用終了-労働局あっせん事案から
http://homepage3.nifty.com/hamachan/jilptbookreview.htm(書評)
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