経済財政諮問会議民間議員の提言@日経報道
本日の日経に、「労働市場の総合改革を 諮問会議民間議員提言へ」という記事が載っています。
提言は「退職に関するマネジメントの在り方について総合的な観点から整理すべきだ」と指摘する。会社員の退職ルールの再検討を求める内容で、先進国でもっとも厳しい正社員の解雇規制などが念頭にあるとみられる。
この書き方からすると、「先進国でもっとも厳しい正社員の解雇規制」というのは提言の言葉ではなく、日経の記者の脳内妄想に過ぎない可能性もあるわけですが、とはいえこういう言葉がするりと出てくるということは、そういう誤った認識に基づいて事態が動いていく可能性もあるわけで、ちゃんと釘を刺しておく必要はあるでしょう。
いうまでもなく、アメリカを除けば、不公正な解雇は許されないというのは先進国共通のルールで、日本の解雇権濫用法理もなんら「もっとも厳しい」ものではありません。
それが欧州諸国と違ってくるのは、解雇規制自体ではなく、その背後にある雇用契約の性格がジョブ型かメンバーシップ型かということに基づくのであって、メンバーシップ型でどんな命令にも従う代わりにどんな仕事でもあてがうという約束であればジョブがなくなっても解雇できないのは当然であるわけです。
それは解雇規制「が」厳しいのではなく、解雇規制が適用される雇用契約がそういう風になっているからで、それは企業側もそれを活用してとことんフレクシブルに労働者を使ってこれたこととの対価である以上、逆に、そこの所を欧州並みに緩やかにするのであれば、正社員に対する人事権も欧州並みに制約するという覚悟はありますね、例えば労働時間規制とか、いまだにILO1号条約も批准できない状態を変えるということですね、と問わなければならず、そっちは使い放題のままで、こっちは緩和というようないいとこ取りはできませんよ、としかいいようがない。
後段をみると、日経記者よりもそこはわかっているのかもしれない気配はあり、
技能や能力を持った労働者が適切に処遇される「ジョブ型のスキル労働者」の浸透に向け、労働法制だけでなく、社会保障制度などとパッケージで改革を進めるよう提言する。
という記述からすると、自由な人事権が制約されたジョブ型正社員の創設を前提にして、そういう人々については解雇規制の適用の在り方が当然変わってくるという話のようにも見えますが、何にせよ、「先進国でもっとも厳しい正社員の解雇規制」と平気で言えるような日経記者の書いた記事なので、この程度にとどめておきます。
(追記)
とはいえ、もう一つ気になった記述について、
労働者の意欲を引き出すために、正規・非正規という雇用形態の違いにかかわらず、能力や成果によって処遇を決めることも求める。
いや、それって、非正規も今までの正社員並みにばりばり働かせようという話ですか?それは筋が違う。
そもそも、職務ではなく「能力や成果」で処遇を決めるのが末端の正社員やへたをすると非正規まで及んでいるのが日本の特徴であり、つまり仕事(ジョブ)に値札がついていないということなので、そういうことをやればやるほど、ジョブ型からは遠ざかるのですよ。
いやそれがわかった上で言ってるのならいいのですが、それならますます解雇規制は厳しくしないとね。そう、日経記者の脳内妄想みたいに「先進国でもっとも厳しい」ものにしないと釣り合わないよ。
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ゲゲゲ。ビックリたまげた。
労働時間規制も批准していないなんて。。
しかも日本は当初特殊国条項まで適用されていたのに。。
どんだけ搾取するつもりなんだ。
戦前の経営者のバリバリ搾取メンタリティーがメンバーシップ型雇用形態により戦後企業の正社員に受け継がれているとしたら。。
そんなメンバーシップなんてゴメンだ、というのがまっとうな人間の判断ではないでしょうか?
少々言い過ぎかもしれませんが。
目玉の親父もビックリですね。
投稿: 高橋良平 | 2013年2月 5日 (火) 10時07分