組合要らぬ会社が理想のヨニウム氏
本日の朝日の「耕論」は「春の闘い何のため?」と題して、山田久、神部紅、ビル・トッテン3氏の意見を載せています。
山田久さんの「賃上げでデフレ脱却を」は、題名通りまことにもっともながら、今の労働組合にその力量があるかという問いへの答えが一番難しいわけですが。
ここ突っ込むと、雇用第一ゆえに賃金・労働条件のフレクシビリティを大幅に受け入れるという日本型フレクシキュリティが、結果的にデフレを増幅する要因になってきたのではないか、失業者が出たら国にきっちりと面倒見させるから、賃金・労働条件は引き下げないぞ、という「物わかりの悪さ」、1980年代の日本では「だから欧米はダメなんじゃ」とどや顔でいわれていたような面が、逆にデフレに対するストップ要因になってきたのではないか、という大変深刻な問題につながっていくわけです。
日本の「リフレ派」で、ここんとこをちゃんと突っ込んでいる人はほとんど見かけませんが。
また首都圏青年ユニオンからは河添誠さんではなく神部紅さんが登場して、
ごくわずかですけど、既存の労組の中には、非正規の問題に正面から取り組もうという意識を持つ人が現れ始めています。非正規の人たちと力を合わせるならば、労働組合の存在感は高まる、そのことに気づいてほしいと思います。
と述べています。1000万人連合とかいうんだったら、まずは足下の非正規をちゃんとしろよな、そこスルーして絵空事いうなよな、という話ですね。
最後のビル・トッテン氏ですが、
「組合要らぬ会社が理想」
なんだそうです。
そして、そのビル・トッテン氏に熱烈な賛辞を送っているのがあのヨニウム氏。
http://twitter.com/yoniumuhibi/status/296426232197808129
今日の朝日の耕論(19面)いいですね。特にビル・トッテンの話が素晴らしい。「日本は終身雇用制度を中心とした家族的な雇用形態を守るべきでした。それが、日本企業の強みだったからです」。本田由紀や左派の脱構築屋連中は、濱口桂一郎ではなく、こういう声を真面目に聞いて受け止めろよ。
なるほど、私の声など聞くんじゃなく、
経営者がそこで働く人を本当に大切にしていたら、労働者は組合を作る必要はありません。理想論かもしれませんが、春闘なんて亡くなるんです。
というすばらしき福音を「真面目に聞いて受け止め」なくてはいけませんね。
さあ、今日から毎日叫びましょう、「組合要らぬ会社が理想」と。
(追記)
ちなみに、このヨニウム氏、こういうことも口走ってる。
http://twitter.com/yoniumuhibi/status/295173462341844992
本田由紀とかに言いたいが、定時に会社から帰るジョブ型やっていたら、50歳くらいのときにあの番組の唐沢寿明みたいにはなれないんだよ。メーカーというのは世界を相手にした全部の能力が要る。語学も技術も法律も。その能力のある社員たちが必死で残業して、やっと世界の市場で売れる製品が作れる。
全くその通り。なれないし、なる必要もない。それをなれないゾと脅しつけて必死で残業させるロジックにもっていくブラックな手口は、『POSSE』17号で今野さんと対談した時のこれと同じ。
濱口:若者の味方と称する人たちの議論に共通なものがあって、典型的には城繁幸さんのような議論になります。彼はたとえば『7割は課長にさえなれません』という本を出しています。まったくその通りだし、もっと言うと、なる必要もない。みんなが課長になれるのだという人参を目の前にぶら下げて、本来だったらあり得ないような働き方をさせるというやり方が、ある時期まではそれなりに通用していました。それがもはや持続可能ではないと指摘するのは、確かに正しい議論なんです。
正しいにも関わらず、彼に根本的に欠落しているのは、課長になれない7割の人たちはどこに着地するのかという点です。本来はそれこそがまさにジョブ型正社員であり、普通のレギュラーワーカーの働き方であり、要するに契約に書かれたことだけきちんとやれば、それ以上の要求をされないという働き方のはずです。それ以上会社が面倒を見るわけではないけれども、その限りでは一定の雇用と生活の安定はある。それ以上のことは国がちゃんと面倒をみますというのが抜けています。
そうすると、そこで7割は課長になれませんという言説はどういう機能をもつかというと、「お前はその3割になれないぞ。さあその3割に潜り込むためにもっと頑張れ」という脅しになってしまいます。そこで持ち出されるのは、欧米のサラリーマンはこんなにすごい働き方をしているという話です。
その手の議論でイメージされているのは欧米のエリート労働者層です。確かに彼らは猛烈な働き方を自発的にしているだろうし、極めて裁量的に働いているでしょう。でも、それに対応した極めて高い処遇を受けているわけだし、当然のことながら、みんなにそんなものを要求するなんてことはしていません。その限りで、それは釣り合いが取れています。エリートというのはまさにそういうものなんですね。
釣り合いが取れている一部のエリートのあり方を、あたかも全体の姿であるかのごとく、欧米のサラリーマンはこうなんだと持ち出すと、課長になれる3割にどうやって入るんだという脅しのロジックになります。結局、いままでの日本型システムはダメなんだという議論が、一見日本型システムを否定するように見えて、実は日本型システムの根幹の部分を維持することによって、かえってブラック企業現象を増幅している。そこのところをきちんと批判しないといけないと思いますね。
一見するところ、日本的雇用システムを口を極めて罵る城繁幸氏と、日本型雇用システムを口を極めて絶賛するヨニウム氏は正反対のように見えて、実のところ、労働組合を敵視し、労働者を脅しつけてブラックに働かせたがるという点において極めて良く似ているというところに、一見パラドックスのように見えて、実は物事の本質が見事に露呈しているというべきでなのしょう。
« ジョブレス解雇と貴様ぁ解雇(再掲) | トップページ | ケインズさんの言葉 »
実際に組合が存在しない中小零細企業の雇用はどうなんでしょうかね。日本人のほとんどの雇用はそれでしょ。
賃金が下に張り付いて労働者はボロ雑巾のように扱われているんでしょうか?
賃上げでデフレ脱却といっても、出来る企業と出来ない企業がある。
利益ないのに報酬を上げられるわけがないじゃないですか。
投稿: hilitespecial | 2013年1月30日 (水) 12時49分
>hilitespecial 様
>賃金が下に張り付いて労働者はボロ雑巾のように扱われているんでしょうか?
「注文が来ないから操業停止するんで、来週から自宅待機ね」とか「親会社の指示で海外に出ることにしたわ、付いて来れない奴はバイバイ」とか、ちょくちょく小耳に挟むケースですね。hamachan先生の「日本の雇用終了」も参照されては如何でしょう。
>賃上げでデフレ脱却といっても、出来る企業と出来ない企業がある。利益ないのに報酬を上げられるわけがないじゃないですか。
だからこそ、例えば「国がセーフティーネットを整備しろ」という要求が出てくるわけで。本来、組合側が経営側の苦労を慮ってさしあげる必要なんぞ、欠片も無いように思いますが。
もっとも、例の「世に倦む何ちゃら」氏などが無批判に「理想像」と持ち上げている「日本的な美しい労使関係」、及びそうした関係に基づく微温的春闘に終始したければ、それはそれで宜しいのではないでしょうか。
投稿: そんなものかね | 2013年1月30日 (水) 22時30分
ビル=トッテンの主張で自分は、カネボウのドンとして長年君臨した伊藤淳二の「企業運命共同体」を連想しましたよ。労使が家族の様に手を取り合って運命を共にする・・・・・その挙句、カネボウは経営破綻寸前にまで行って実質解体された訳ですが。
ちなみに伊藤の「企業運命共同体」を理論づけたのが、伊東の指導教官で右翼で鳴った難波田春夫だったりしますね。
投稿: 杉山真大 | 2013年1月30日 (水) 23時22分
そんなものかね氏へ
///「注文が来ないから操業停止するんで、来週から自宅待機ね」とか「親会社の指示で海外に出ることにしたわ、付いて来れない奴はバイバイ」とか、ちょくちょく小耳に挟むケースですね。///
上記は仕事が無いので給料が払えないケースで、これはもう転職するしか仕方ないでしょう。その業界に先が無い事のお知らせです。
下記はグローバリゼーションで日本の高コストの雇用を嫌っての生産拠点の移動です。
日本から生産拠点がなくなれば日本が貧しくなるは必至でしょう。
これに対抗するには人件費、土地家屋の価格や税金を下げるしか方法はないですが、中々難しい。(最近ブームのインフレはそれらを下げる効果はあります)
しかしこういうネガティブ面はグローバリゼーションのポジティブ面を隠しちゃう。
外国から生産拠点がやってきた人件費の安い国は貧しい国です。
そこの人達に仕事が出来てどんどん豊かになる。
各国の所得水準をフラットにして世界から貧困を無くす力があり、これはとても望ましい事と思いますね。
日本から工場が出て行く事に反対する人は貧しい国はずっと貧しいままでいろ、と言っているのと同義です。
///だからこそ、例えば「国がセーフティーネットを整備しろ」という要求が出てくるわけで。本来、組合側が経営側の苦労を慮ってさしあげる必要なんぞ、欠片も無いように思いますが。///
このようにお考えの人が日本人の大多数を占めているので、日本は貧しくなっているんじゃないのかと訝ってしまいますね。
例えばフォードは黎明期には株主に配当を少しも出さず利益を全て再投資に回したので会社はどんどん大きくなり、比例して従業員も豊かになったのです。
つまり毎年うなるような利益を上げていたんです。もしノータリンの組合がその利益を全て従業員に分配しろと叫び、実際にそうすれば、その地点で投資は止まり成長も止まり、従業員の給料の伸びも止まります。
消尽の祝祭ですよ。
経営をおもんばからない組合運動は自分の首を締めていると同じです。
ですので実際はそこまで経営を無視したアホな要求はしない訳です。
国のセーフティネットとかいうだけなら楽ですが、元手は税金ですよ。
借金編成の財政で、更に支出を増やしたら国債金利が上がってセーフティネットは崩壊しますよ。
そんな危ない網で弱者を包み込で何がセーフティなんですか?
投稿: hilitespecial | 2013年1月31日 (木) 09時28分
hilitespecial様
>しかしこういうネガティブ面はグローバリゼーションのポジティブ面を隠しちゃう。
経営側がグローバル化を志向するのであれば、組合との関係もグローバル化することを受け入れざるを得ない、という点はどのようにお考えでしょうか? いまインドや中国で繰り広げられているような「闘争」が、日本では絶対に起こり得ない、なんて仮定に何ら根拠はありませんよ。
>このようにお考えの人が日本人の大多数を占めているので、
だったらとっくに共産党政権が誕生してますって(笑)
>例えばフォードは黎明期には(中略)会社はどんどん大きくなり、比例して従業員も豊かになったのです。
トヨタやヒュンダイなんか存在しなかった、古き良き時代のノスタルジーを語られましても。それに、全米自動車労組とGMはどんな関係でしたっけ?
フォードを引き合いに出すなら、富岡製糸場はどうでしたか? 実態があれでも「従業員は豊かになった」と仰るのであれば、私と貴方とは認識の隔たりが大きすぎるので、これ以上の議論は無意味かと存じます。
>国のセーフティネットとかいうだけなら楽ですが、元手は税金ですよ。
国民のために税金を使うことの何が問題なんですか?
投稿: そんなものかね | 2013年1月31日 (木) 11時13分
そんなものかね氏へ
組合との関係がグローバルってうまく理解出来ないです。
フォードの例え話は、利益を投資に回して生産を拡大していかなければ利益は出なくなるという一般理論。
当然今も通じますよ。
製造業は20年同じ物を作っていれば倒産するんですよ。
いくら組合がごねても無い袖は振れないんですよね。
国が国民のために税金使う事は問題にしていませんよ。
借金増えればいつか国債の引受け手がいなくなる。
それだと予算が組めないので、予算執行出来ない。
すると生活保護を受けているような弱者、年金頼りの老人は死活問題。
ギリシャやスペインはいい例ですよ。
セーフティネットとやらの充実で、そんな社会になるのを早めてどうするの?
投稿: hilitespecial | 2013年1月31日 (木) 15時33分
いやね。
セーフティーネットが何であるのかというと、
その方が失業者をほっぽっておいた場合の
社会的リスクから発生するコストより安いからなわけで。
なんで、失業者をほっぽっておいた場合の社会的リスクが高いかといえば、
社会不安で消費性向が鈍ったり、暴動やストで社会が停滞したりするからで。
企業は潰せるし、潰れる直前なら社員を切ることができるけど
政府は損を出しても国民を守らないといけないからねぇ
投稿: Dursan | 2013年1月31日 (木) 18時35分
>日本の「リフレ派」で、ここんとこをちゃんと突っ込んでいる人はほとんど見かけませんが。
リフレ派が労働運動によるデフレ脱却に言及しないのは、私には当然に思えます。
ある産業の賃金が下がった場合、その原因は、デフレの他に、その産業に対する消費者の選好が下がった可能性も挙げられます。そして、デフレが原因か、選好が下がった(消費者の人気が低くなった)ことが原因かは、区別が困難です。
このように考えると、労働運動によるデフレ脱却は不適切です。本来、賃金が下がるべき産業の賃金も維持されて、資源配分の非効率につながります。
リフレ派は、マクロ的に集計された物価や賃金が下がっていることを問題にしているのです。個別の産業の物価や賃金の上下は、問題にしていないのです。
文字通りの全産業を代表した労働組合というのは、欧米でも存在しないので、デフレ脱却の任務を労働組合に負わせるのは、困難と思われます。
投稿: thinkingHoliday | 2013年2月 2日 (土) 18時54分