「就業規則は会社の憲法!」は間違いだけど真実でもある
Dursanさんがコメントで紹介していただいたこのサイト。
http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20121225(ブラック士業絶好調)
いやもう、全編これすべて突っ込みどころではあるんですが、ここではあえて、法律学的には完全に間違いではありながら、日本の労働社会では「真実」でもあるところのこの言葉を取り上げておきましょう。
就業規則は会社の憲法!
言うまでもなく、会社という組織は色々な人の集合体です。
人はそれぞれ異なる価値観や考え方を持っていますから、人がたくさん集まれば集まるほど、組織をまとめるのは大変ですね。
もし、その各人が自身の価値観や考え方に基づいて勝手な行動をしていると、会社はそのうちに崩壊してしまいます。
会社は、収益を上げるという絶対的な目標に向かって邁進しなければなりませんから、個人の固有の価値観や考え方はさておき、一定のルールが必要になってくるのです。
そのルールが就業規則であり、労働者の労働条件や遵守すべき職場秩序を、統一的・画一的に明文化したルールなのです。
国が国民の権利や義務を憲法で定めているのと同様に、就業規則は会社と労働者の双方が遵守しなければならない会社の憲法なのです。
いやもちろん、弁護士であれ、社会保険労務士であれ、まともに法律学を勉強したのなら、
この人物は、憲法というものをまったく理解していないと言わざるを得ないですね。
という反応が唯一正しいものであるわけですが、さはさりながら、日本の職場においては、労働法の明文の規定とは全く異なり、
就業規則は会社の憲法!
であるというのもまた、厳然たる事実であるわけです。
このあたりについては、昨日ラジオみなみ関東さんにベスト3に選んでいただいた『日本の雇用と労働法』の中で、こういう風に説明しておりますので、ご参考までに。
3 就業規則優越システム
(1) 雇用契約の空洞化と就業規則の優越
雇用契約が企業のメンバーとしての地位を設定する機能しか持たない「空白の石版」となれば、それに代わって具体的な雇用労働条件を定める仕組みが必要です。日本型雇用システムにおいてこの役割を果たしてきたのが就業規則です。日本の労働法制の最大の特徴は、就業規則が雇用関係の根本的規範として位置づけられている点にあります。本来であれば雇用契約で定められるべき事項のほとんどが、就業規則に委ねられているのです。そして、雇用契約の締結は就業規則に書かれた事項を一括して合意したこととみなされ、これに基づいて労働条件や人事異動の弾力性や業務命令権の広範さが承認されるという仕組みです。次章以下で具体的に見ていくさまざまな領域の判例法理でも、それらを法規範として支えているのは個別企業が定めた就業規則の規定です。
これに対し、日本以外の社会では具体的な雇用労働条件を定めるのは個別雇用契約と労働協約です。職務や勤務場所など個人的性格の雇用条件は当然個別雇用契約で定めますが、賃金や労働時間など集団的性格の労働条件は、労働組合が使用者団体と団体交渉して締結する労働協約で定めるのが普通です。この点については、日本でも大企業では企業別組合が個別企業と団体交渉して締結する労働協約で定める例も見られます。しかも労働基準法は明確に、労働協約が就業規則に優越すると定めています。にもかかわらず、就業規則が雇用関係の根本規範といわれるのはなぜなのでしょうか。その理由は、就業規則の歴史をたどることで理解することができます。
« ベスト3に選ばれました | トップページ | 労働基準法の「労働者」はどっちなんだよ »
コメント