研究者は職務無限定なのか?
依然として、改正労働契約法による有期契約の無期転換について、雇用システム論的省察の薄い議論が行われているようです。
http://ryosukenishida.blogspot.jp/2012/12/blog-post.html(改正労働契約法が博士院生・若手研究者に及ぼす(少なくない)影響)
ざっとそろばんを弾いて10万人単位で存在すると思われる、任期付きや非正規ではたらく若手研究者すべてを、既存の大学が無期で雇用することはどう考えても難しいのが現状だ。そのなかでPDやTA、SA,非常勤講師、任期付きはまったくベストの解とはいえない一方で、ぎりぎりセーフティネットの機能を果たしてきたこともまた事実だ。
これは本ブログの読者にとっては今更的な当たり前の話ですが、雇用契約が「無期」であるというのは、文字通り「期間の定めがない」というだけのことであり、それ以上の何事をも意味しません。
ところが、世の中の圧倒的に多くの人にとっては、この「無期」が脳内で自動的に日本型雇用システムにおけるメンバーシップを付与された「正社員」に転換されてしまうようなのです。
まあ、いままで「正社員」じゃない「無期契約労働者」ってのがほとんど存在しなかったから仕方がないとも言えますが、これをごっちゃにするために、「正社員」にできないから「有期」にするしかない、というおかしな事態が世の中に蔓延してきたわけです。
復習になりますが、世間で言う「正社員」とは、実定労働法ではパート法8条1項の「通常の労働者」であり、単に「無期」であるだけではそれに当たらず、「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が・・・変更すると見込まれるもの」です。
私の本では、これを職務も勤務場所も無限定で、契約が「空白の石版」であるものと表現しました。それ故に、つまり中身が無限定であるがゆえに、たまたまあるときにやっている仕事が無くなっても、別の仕事に移すことが完全に可能であるがゆえに、「仕事が無くなったからクビね」という万国共通の一番自然な解雇理由が通用しないわけです。
ここまで復習して、改めて上で問題になっている若手研究者というのは、職務無限定なのか?という一番基本的な問いを発してみる必要があります。
会社がある限り、言われたことはどんな仕事でもやりますという約束で「正社員」になった人と同じなんですか?と。
実は、そこのところの議論が全然されないまま、なんとなくメンバーシップ型「正社員」モデルを前提にして議論がされるから、わけが分からない事になるのではないでしょうか。
では、せっかく無期になっても「仕事が無くなったらクビね」のジョブ型では意味が無いじゃないか、とお考えですか?
いやいや、「有期」の問題点は、仕事は無くならなくても、ボスのいうことを聞かないような奴は次の期間満了時に更新してやらないぞ、という脅しをかけることで無限定の権力を行使できてしまうという点にこそあります。
そのあたり、むしろ現実に「有期」で働いている人の方がよく分かるのではないでしょうか。
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