「通常の労働者」から「普通の労働者」へ
というわけで、今日のエントリに深く関わる『POSSE』17号の私と今野さんの対談の関係部分を、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/posse17-8822.html(『POSSE』17号)
「ブラック企業を正しく批判せよ!」
濱口桂一郎(独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員)×今野晴貴(NPO法人POSSE代表)
ブラック企業言説は間違いだらけ? その根源は70年前の労働運動にあった濱口:これはおそらく労働にかかわるいろんな人たちにとって、ややタブーに触れる議論になるんですが、ここに触れないと絶対にブラック企業の問題が解決しないと思っていることがあります。それは、エリート論をエリート論としてきちんと立てろということなんです。つまり、日本では、本当は一部のエリートだけに適用されるべき、エリートだけに正当性のあるロジックを、本来はそこには含まれない、広範な労働者全員に及ぼしています。
そもそもどんな企業であれ、組織であれ、中枢部にはエリートがいるということです。逆にいうと、多くの人はエリートではないんです。ところがここのところが一番議論に抜けているところなんですね。
まず、本来のエリートは、労働条件だけとれば、ものすごくハードで、そう呼びたければブラックな働き方です。ブラックになるような働き方をあえて自ら選び、かつそれを十分補うような高い処遇を受けている人のことを、エリートといいます。
次に、日本的正社員は、そうしたエリートまがいのハードな働き方をしつつ、それに応じた処遇を少なくともその時点では到底受けていません。だから、その時点ですぱっと切ってしまうと、どうみてもブラックにしか見えません。でも、その職業人生の先の方まで含めて主観的に考えれば、定年までの雇用保障と年功制による高い処遇と釣り合いがとれているのでブラックでないのが日本的正社員でした。
そして、日本型正社員であるかのような顔をさせつつ、実はその先の保障がなく、退職に追い込まれて、しかも本人が悪いと思い込まされているのが、現代の正真正銘のブラック企業の労働者です。三つに分類して整理するとこんなところです。
日本の法律では「正社員」のことを「通常の労働者」と呼んでいます。パート法8条1項に裏側から規定されているように、日本の「正社員」とは「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が・・・…変更すると見込まれるもの」です。しかし、職務や配置が変わるのがデフォルトというのは、欧米では「通常の労働者」じゃありません。
重要なのは、日本の「通常の労働者」を欧米社会的な意味での「普通の労働者」に、変えていくことです。ただいきなりそうもできないので、そこに向けてどうしていくかです。
そこであえて私は、有期雇用のまま5年経つと無期契約に転換するという、今回の労働契約法の改正に意味があると主張しています。もちろん、5年経つ直前に雇止めされるだろうという批判はありますが、それは一応抜きにして言います。この改正では、有期雇用から無期になるだけで、待遇が正社員になるわけではなく、有期のときと労働条件は同一であるとわざわざ明記しています。そのことを差別だと言ってはいけません。これは日本の「正社員」とは異なる無期契約労働者になるということ、つまり日本でも欧米型の「普通の労働者」が誕生するということです。ここから一歩進めて、有期雇用で5年待たずとも、最初から「普通の労働者」をつくろうという方向に向かえばいいのではないかと考えています。
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