菅野和夫『労働法 第十版』
菅野和夫先生の教科書『労働法』の第10版をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.koubundou.co.jp/books/pages/30453.html
時代の変化のなかで形成されてきた新しい労働法の姿を体系化し、個々の解釈問題を相互に関連づけて検討した、労働法の現在を知るために最適の基本書。
2012年の労働契約法・労働者派遣法・高年齢者雇用安定法等の法改正に完全対応し、今後の改正動向にも言及。重要な裁判例や学説の動向等にも目配りした決定版。
ということで、各改正法規の説明も興味深いのですが、今回は例えば、第1編第1章の中に「労働法変動の時代」という項が設けられ、次のような記述がされています。
・・・雇用システムとの関係では、1970~80年代は、長期雇用システムが雇用の安定と経営の柔軟性とを両立させ、、労働法制は同システムの長所(企業の雇用維持努力)を補強し、部分的問題点(男女別管理、高齢化、長時間労働、等)を補正する政策を行ってきた。非正規労働者も90年代半ばまでは雇用労働者の2割を占める程度で、自発的選択者(学業過程者、自由度優先者、家事重視者、引退過程者)が多かったので、大問題とはならなかった。
長期雇用システムの変化は、1990年代後半から進行したが、正社員の長期雇用システム自体は、賃金・処遇制度の修正を施されつつも、基本的には維持されている。顕著に生じた変化は、正社員の絞り込みと非正規労働者の大幅増加であり、非正規労働者が不本意選択者(正社員になりたいが、なれない者)を多数含んで約34%にまで増加した状況は、長期雇用システム化の正規・非正規雇用の制度的分断と処遇格差によって増幅されている。非正規雇用問題は、正規・非正規労働者の関係いかんという雇用システム全体の問題となり、その全体的補正という新たな課題が生じていると考えられる。
このわずか2パラグラフで、問題状況を的確に言い尽くしている見事さをご堪能下さい。
このあとに、
最近の労働法改革論には、規制強化論(31)、規制緩和論(32)、雇用システム再構築論(33)、規制方向改革論(34)などがあるが、問題状況は大規模・複雑であって、1つの立場や方法論で律しきれるものではない。・・・
という文が続き、かっこ内数字の脚注にそれぞれの「論」を代表する人の本が挙がっています。31は西谷敏『人権としてのディーセント・ワーク』、32は小嶋典明『労働市場改革のミッション』、34は水町勇一郎『労働法改革』ですが、それらに並んで33に濱口桂一郎『新しい労働社会』が示されております。
ということで、私は自分の論が「雇用システム再構築論」であるということを初めて認識いたしました(笑)。
この項の最後のパラグラフも、今後の労働法政策の課題をさらりとしかしぐさりと指摘しています。
・・・労働政策の基軸は、いずれの時代にも、雇用社会の安定性・公正性の確保と多様性の尊重に置かれるべきである。その上で、今後の基本問題は①解雇規制の在り方、②非正規雇用規制の在り方、③集団的労使関係の再構築であり、特に、正規雇用者と非正規雇用者間の公平な処遇体系を実現するためには、非正規雇用者をも包含した企業や職場の集団的話し合いの場をどのように構築するかを、従業員代表法制と労働組合法制の双方にわたって検討すべきと思われる。
« 中国成都から帰国 | トップページ | 「ラジオみなみ関東」さんの拙著簡評 »
「値段が張る」などと言って購入を見合わせてはいけませんね。本屋さんに行きます。
投稿: kメギシ | 2012年12月 7日 (金) 14時19分
上石神井の書庫には歴代旧版が揃ってますよね。カバーはかけてありましたっけ? 版によって、カバーの色合いが微妙に違うので、グラデーションを楽しみたい時は上石神井に行くことにしますww
第10版の特徴は、パワハラの記述が厚くなったことではないかと思います。
第9版までは、事項索引にパワハラの項目さえなく、本文の記載も、わずか8行のみでした。(うろおぼえですが、それなりにショックでしたので印象が強い。)
第10版はなかなか上梓されず、待たされた感もあるのですが、本当に素晴らしい本ですね。
かばんに入れて持ち歩けば筋トレにもなりますし、仮眠のさいには枕にもなります。ページを開けば、眠気も吹き飛びます。
おかげで最近は心身が爽快です。
投稿: Okapia johnstoni | 2012年12月 7日 (金) 16時00分