本当の意味での派遣労働者の保護とは何か@『情報労連REPORT』11月号
『情報労連REPORT』11月号に載せた「本当の意味での派遣労働者の保護とは何か」をHPにアップしました。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororen1211.html
去る10月1日から改正労働者派遣法が施行されました。改正案段階に含まれていた製造業派遣や登録型派遣の原則禁止は削除されましたが、自公政権時代の法案に含まれていた日雇派遣の原則禁止は残り、また一定の場合の派遣先による雇用申込みのみなし規定も、施行時期を3年後に遅らせながらも維持されました。こうした派遣法改正の流れについて、ややもすれば単純に労働者保護をめざす規制強化派対労働者保護を否定する規制緩和派との対立図式で描き出そうとする向きもありますが、それは実は根本から間違っています。なぜなら、そもそも日本の労働者派遣法は、派遣労働者保護のために規制をしているのではないからです。この点で、まさにパート労働者の保護のためのパート労働法や、有期労働者のための今回の労働契約法改正とは異なります。また、西欧諸国の派遣労働者保護のための労働者派遣法とも異なります。
では、日本の派遣法の目的は何か?よく使われる言葉ですが、「常用代替の防止」です。しかし、その意味を的確に理解しているとは思えない向きもあります。とりわけ今回の改正では、派遣労働者がこんなひどい目に遭っている、という問題意識から出発しながら、それを常用代替防止という目的が緩和されたからだ、もっと厳しく規制せよという方向に議論が進んでしまいました。
しかし、常用代替防止とは、派遣先の常用労働者の雇用を代替しないように、派遣なんてのはごく一部の職種ないし一定期間に閉じこめておけ、と言っているだけであって、その閉じこめられた派遣労働者がどういう目に遭うか遭わないかには何の関心もないのです。そのため、今回残った日雇派遣の禁止も日々紹介に姿を変えるだけで、雇用の不安定さには何の変わりもありません。
とりわけ、最近ILOから勧告が出されたいよぎんスタッフサービス事件判決では、常用型のみのはずの特定派遣事業の下で登録型で11年も契約を反復更新しながら、雇止めされた派遣労働者に対して、「同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から同法の予定するところではないといわなければならない」と、常用代替防止が派遣労働者を差別することを正当化する論理となっています。
今回の改正には、派遣労働者保護のための萌芽的な規定もいくつか盛り込まれているとはいえ、法の根幹は依然として常用代替防止のままです。派遣労働者の保護に純化した真の労働者派遣法改正は、実はこれからの大きな課題なのです。
ちなみに、『労働法律旬報』11月下旬号で、「ILO181号条約違反申立に関する日本政府への勧告」が特集されるようですが、
いうまでもなく、西欧諸国のどこもまったく禁止していない登録型派遣の是非などというガラパゴス的問題がILOにとって論点であるはずもなく、まさに上で述べた「常用代替防止」による派遣労働者に対する差別という異常な事態が問題であるわけですが、その点がきちんと論じられているのかどうか、懸念を持ちつつ期待したいと思います。
[巻頭]団体自治と便宜供与=田端博邦・・・04[シンポジウム]派遣労働者の待遇改善をめざして=毛塚勝利+中嶋滋+関根秀一郎+中野麻美・・・06
[解説]「ILO181号条約違反申立に関する日本政府への勧告」を受けて
ILO181号条約と派遣労働者の雇用・権利~憲章24条申立に対する勧告を読む=中野麻美・・・24
何としてもILOの日本政府に対する勧告を活かし、「登録型派遣」の禁止を実現したい=鴨 桃代・・・30
【資料】
①ILO181号条約違反申立に関する日本政府への勧告(2012.3.26)・・・72
②民間職業仲介事業所に関する条約(第181号)(1997.6.19)・・・79
③民間職業事業所に関する勧告(第188号)(1997.6.19)・・・82
[研究]改正労働者派遣法の概要と問題点=沼田雅之・・・32[研究]外国労働判例研究192イギリス/書簡による職業活動妨害のハラスメント該当性=滝原啓允・・・50
[解説]精神的不調を抱える労働者に対して求められる対応~日本ヒューレット・パッカード事件最高裁判決をふまえての考察~=嶋﨑量・・・56
[書評]上林陽治著『非正規公務員』(日本評論社)裁判例の系譜を丹念にたどり非正規公務員問題の全容を明らかにした書=早川征一郎・・・61
[紹介]一橋大学フェアレイバー研究教育センター62「生涯一労働者」―50年の私的労働運動体験記(上)=伊藤藤夫・・・64
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