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2012年11月 5日 (月)

ブラック企業の研究@『日大社会学論叢』

日本大学文理学部社会学科で出している『社会学論叢』という紀要の174号に、立道信吾さんの「ブラック企業の研究 日本企業におけるホワイトカラーの人的資源管理(2)」という論文が載っています。ていうか、見つけました。

ブラック企業という現象を真正面から社会学的研究の対象として取りあげたものとしては、もしかしたら初めてのものではないでしょうか。

立道さんは2008年度までJILPTの研究員だった方で、この論文で使っている素材も、ご自分がJILPTにいたときにやった人事部長とそこで働く労働者に対して行った大規模なアンケート調査です。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/033.html(変貌する人材マネジメントとガバナンス・経営戦略)

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2006/049.htm(変革期の勤労者意識―「新時代のキャリアデザインと人材マネジメントの評価に関する調査」結果報告書 ―)

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2006/061.htm(現代日本企業の人材マネジメント― プロジェクト研究 「企業の経営戦略と人事処遇制度等の総合的分析」中間とりまとめ ―)

それを使って、何をするかというと、「見返りのない滅私奉公」というブラック企業の規定から、

(1)企業側が、過去5年間に「残業が増えるなど労働時間が増加した」「精神的ストレスを訴える社員が増加した」「自己都合で離職する社員が増加した」のうち2項目に当てはまると回答し、かつ今後の長期雇用の方針について「長期雇用の維持は経営における優先課題ではない」と回答した企業を「ブラック企業F」と定義し、

(2)労働者側が、過去5年間に「精神的ストレスが増加した」「自己都合で離職する社過員が増加した」「雇用の安定は期待できなくなった」「転職を意識するようになった」についていずれも「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した企業を「ブラック企業W」と定義し、

これと、さまざまな変数との相関を回帰分析したということです。

では、ブラック企業に統計的に有意の影響を与えていた要因は何か?

まず第1に、情報通信産業だと。いかにも。

第2に、正社員数。え?つまり大企業ほどブラックだって?意外。

第3に、労使協議制のある企業。え?これも労使関係論の常識からすると大変意外ですが、立道さんは次のように述べています。

・・・この現象の解釈は慎重に行うべきだが、長期不況下において、企業の存続とその結果としての雇用保障が、基本的労働条件の確保よりも優先され、それが労使協議の場で、労使の合意の前提となっている可能性がある。だが、この前提には、企業側の欺瞞がセットとして存在する。労使協議の場で雇用保障を優先し、基本的労働条件の切り下げが労使で合意されたとしても、企業側は実は雇用保障は優先すべき課題ではないと考えているのではないか。企業側が労働者側を説得するツールとして、労使協議の場が用いられ、結果的に<ブラック企業>になってしまう可能性をこの結果は示唆している。・・・

第4に、成果主義の導入。いや、これはまさにそうでしょう。

・・・巨大掲示板の<ブラック企業>でしばしば指摘されている成果主義を利用していると思われる過剰な労働強化とこの結果は極めて整合的である。労働者の生産性の向上や社内の公平性の確保を目的とした成果主義が、悪用される形で<ブラック企業>で運用されている可能性がある。・・・

第5に、同年代の課長レベルの正社員につけられた実際の賃金格差。これもいかにも。

第6に1999年のROAが大きく、2004年のROAが小さい企業。

あと労働者側の属性では、年齢、職位が正の影響を与えているのですが、特に興味深いのが学歴です。大卒がブラック企業に正の影響を与えているのです。これについて立道さんは、ハーシュマンのvoiceとexitを使って解釈を示していますが、やや長いのでここでは省略します。興味のある方は大きな大学図書館ででも見てください。

最後のところで、立道さんが結論的に書いている部分を引用しておきましょう。

・・・さらに本稿の分析結果から離れて、「見返りのない滅私奉公」が労働者の側から構築されている可能性を強調したい。日経連は1995年に・・・・・・・。では、労働者側はどのようにこれを受け止めているか。長期安定雇用の部分的な放棄は企業側からもたらされているにもかかわらず、労働者の多くが長期の雇用保障への期待を持ち続けるとともに、転職について後ろ向きであったのではないか。・・・<ブラック企業>のような問題のある企業であっても、勤め続けることが望ましいと考える労働者は少なくないのではないか。・・・退職することは、企業のメンバーシップを失うことであり、雇用の保障とセットとなっている企業側が担っているさまざまな生活保障から切り離されるとともに、非正社員という「保障のない働き方」に直結すると認識されているのだろう。正社員でなおかつ「滅私奉公」的な働き方をすることが日本社会においては望ましい働き方だとされているのだ。転職先がないため、辞めたくても辞められないという現実問題とは別に、こうした「働き方」に関する理想が、<ブラック企業>の問題を労働者の側から構築していると考えることもできる。

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コメント

私も意外に感じたのは、先月だか、日本の勤労者の多くが長期雇用制度を支持するという回答をしているとNHKが報道したことです。
知りたいのは、どの階層や年齢でそうなのかということです。
意外と低所得層と中小企業で多いのではないでしょうか?
その時は「日本の男性はこの期に及んでもやはり保守的なんだな」と勘違いしていたのですが、今となっては、転職や雇用形態の変化に対する社会的な了解や仕組みが整っていないことが原因ではないかと思い始めています。そして社会的な了解というのが本当に難しいと思います。
やはり強力な再分配による普遍的な福祉の革命的増大が必要なのではないかと思います。
そうでもしないと動かないのが日本の勤労者なのでは?と思うのです。そしてそれは日本社会が企業社会と薄い福祉社会である以上、非常に合理的な選択であると考えます。

濱口先生、ご無沙汰いたしております。立道(本人)です。拙稿を執筆する過程では、「ブラック企業」をどう定義するかがネックになったのですが、濱口先生が『オルタ』に書かれた記事の中の「見返りのない滅私奉公」という考え方が突破口になって、問題を解決することができました。『新しい労働社会』も大きな参考になりました。という意味では9割ぐらいは濱口先生のお力をお借りした感じです。心より御礼申し上げます。本ブログの読者として、これからも濱口先生のご活躍をお祈りしております。

立道さん、お久しぶりです。

たまたまJILPT図書館に来た雑誌をパラパラ見ていたら、立道さんの名前と「ブラック企業」というタイトルを見つけて、思わずその場で読んでしまいました。

こういうのがあるので、ときどき新着雑誌を確認に行く必要があるのですよね。

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