石井知章『中国革命論のパラダイム転換』
これはいただき物ではなく、ブックファースト新宿店に厚生労働白書フェアの具合を見に行ったついでに、たまたま目について買った本ですが、なかなかスリリングで、久しぶりに知的興奮を感じました。
http://www.shahyo.com/mokuroku/consciousnes/philosophy/ISBN978-4-7845-1814-2.php
中国革命をめぐる「不都合な真実」。
「労農同盟論」から「アジア的復古」を導いた「農民革命」へ。
中国革命のパラダイム転換は、二つの巨大な「後進社会主義」党=国家
という独裁的政治権力を背景にして「恣意的に」行われた。
K・A・ウィットフォーゲルの中国革命論の観点から、
中国革命史における「大転換」の意味と、現代中国像の枠組みを問い直す。
というオビの文句は確かに伊達ではありません。
石井さんは労働の世界では中国の労働組合の研究者として有名で、実は一度、ソーシャルアジア研究会でお会いしたこともあるのですが、もう一つの顔として、本書を含むウィットフォーゲルの東洋的専制主義論の数少ない理論家でもあるのですね。
序章 中国革命論のパラダイム転換
1 アジア的生産様式論における「アジア的」なものとは何か─中国との関連で
2 ロシアと中国におけるアジア的生産様式とブルジョア革命
3 K・A・ウィットフォーゲルと中国革命論をめぐる社会認識のパラダイム
4 中国革命論をめぐるパラダイム転換
5 本書の目的と構成
第Ⅰ部 K・A・ウィットフォーゲルの中国革命論
第一章 「ブルジョア民主主義」と国共合作
K・A・ウィットフォーゲルの中国革命論(1)
はじめに
1 中国におけるコミュニズムの台頭と国民革命運動
2 ブルジョア民主主義革命論(レーニン)の中国への受容
3 コミンテルンによる統一戦線の構想
4 「ブルジョア的」なものをめぐる国共間の非対称性
5 第一次統一戦線(国共合作)とコミンテルン
第二章 農民問題と「アジア的復古」
K・A・ウィットフォーゲルの中国革命論(2)
1 中国共産党内における「アジア的復古」の兆候
2 軍事力を媒介とした国民革命統一戦線の変貌
3 中国共産党内における「アジア的復古」と農民の役割
4 中国におけるコミンテルンの知識人とその役割
5 上海クーデターとコミンテルンにおける「アジア的」なものへの後退
6 第一次国共統一戦線が中国社会に与えた意味
7 土地所有をめぐる「封建」概念と過渡期における「アジア的」中国社会
8 「労農同盟」から「農民革命」へ─「アジア的」なものへの後退
おわりに
第三章 毛沢東主義と「農民革命」
K・A・ウィットフォーゲルの中国革命論(3)
はじめに
1 農村ソヴェトの成立と毛沢東の台頭
2 毛沢東の虚像と実像
3 国民党との関係性における毛沢東
4 毛沢東の「湖南報告」とコミンテルンの農業政策
5 毛沢東主義と「日和見主義」の展開
6 中国共産党の発展とその主な特徴(一九二七─一九三五年)
7 農村根拠地と毛沢東の革命戦略
8 蒋介石に対する評価の変化と毛沢東の立場
第四章 統一戦線の再形成と崩壊
K・A・ウィットフォーゲルの中国革命論(4)
1 コミンテルン第七回大会と抗日「民族」統一戦線
2 西安事件(一九三六年)と段階的調整
3 第二次国共合作における中国共産党の政策の変化(一九三七─一九四五年)
4 独ソ条約と毛沢東の「新民主主義」論
5 「社会主義」国家としての執政党への道(一九四五─一九四九年)
おわりに
第Ⅱ部 中国における〈アジア的なもの〉と世界史の再検討
第五章 中国近代のロンダリング
汪暉のレトリックに潜む「前近代」隠蔽の論理
はじめに
1 中国革命史における「脱政治化」とはなにか
2 「脱政治化」と文革の評価をめぐり
3 「中国近代のロンダリング」と毛沢東の「農民革命」
4 「中国近代のロンダリング」と「脱政治化」なるもののゆくえ
おわりに
第六章 『東洋的専制主義』「前文」への解題とその全訳
[解題]
ますます〈不安を駆り立てる〉ことになった議論についての前文
K・A・ウィットフォーゲル(一九八一年)
1 重大なるイデオロギー的秘密の「アジア的」根源
2 秘密のもう一つの側面
3 マルクス──独自の社会的功績と独自の「科学に対する罪」
4 アレクシス・ド・トクヴィルの陰
5 「アジア」の権力的側面と世界史の再検討
終章 中国における「アジア的」なもののゆくえ
あとがきに代えて
1 本書の方法論的位置づけをめぐり
2 アジアにおける「近代」の再考
3 アジア的生産様式と「近代」
4 現代日本における「市民社会」論の現状とその問題性─植村邦彦氏との対話
ウィットフォーゲルの未公開原稿に基づいて国民党の視点から中国革命を読み解いていく第1部が本書の中核で、実際中国共産党公認の国定教科書的歴史像をひっくり返していく叙述はとても面白いのですが、外野席の野次馬的には、近頃中国共産党の御用文化人として日本でも評判の高い汪暉氏の議論を徹底的に叩いている第5章が面白かったです。
も一つ、終章の最後のところで、マルクスのアジア社会論を隠蔽することで成り立ってきたソ連や現代中国の東洋的専制主義を批判する視座として市民社会論というのが出てきて、「アジア的なるもの」をめぐって植村邦彦氏とのやりとりが紹介されているあたりが、これは立ち読みでもいいですから是非ご一読ありたいところです。
本書でこういう分野に興味を持たれた方は、同じ石井さんの
http://www.shahyo.com/mokuroku/consciousnes/philosophy/ISBN978-4-7845-0879-2.php
や、ウィットフォーゲルの主著である
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%BA%E3%83%A0%E2%80%95%E5%B0%82%E5%88%B6%E5%AE%98%E5%83%9A%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E3%81%AE%E7%94%9F%E6%88%90%E3%81%A8%E5%B4%A9%E5%A3%8A-%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BBA%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%AB/dp/4794802412
もあります。
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