『ヨーロッパ労働運動の悲劇』を復刊して欲しい
昨日のエントリでも引用したシュトルムタールの『ヨーロッパ労働運動の悲劇』は、日本では1958年に岩波書店から岩波現代叢書の一環として、神川信彦・神谷不二両氏の翻訳により2冊組で刊行されています。
これは今こそ読み返されるべき名著だと思うのですが、今ではほとんど知っている人も少なく、amazonでも中古品が1円とかいう値段がついてしまっています。
巻末の同叢書の一覧を見ると、カーの『危機の二十年』、ノーマンの『日本における近代国家の成立』、ヒックスの『価値と資本』、カッシーラーの『人間』、ハヤカワの『思考と行動における言語』など、その後岩波文庫に収録された名著が結構並んでいますが、シュトルムタールのこの本も決してそれに劣らない値打ちがあると思うのですよ。
岩波書店の中の人が見てたら、是非一度書庫から取り出して、半世紀以上前に出版された本書を読んでみて、今の時代に何らかの示唆を与えるものであるかどうか検討してみて欲しいと思います。
第Ⅰ巻
第1部 なぜ労働運動は失敗したか
第1章 プレッシュア・グループか政治的行動か
第2章 革命政党からプレッシュア・グループへ
第3章 レーニン主義
第2部 革命の挫折
第4章 ドイツ労働者の典型ヘルマン・ミュラー
第5章 社会主義者と革命
第6章 中産階級共和国の安定
第3部 大恐慌における労働運動
第7章 「医者たるべきか嗣子たるべきか」
第8章 イギリス労働運動、失策を重ねる
第9章 ドイツ社会民主党の「寛容」政策
第10章 フランスのニュー・ディールの失敗
第11章 スウェーデンの労働運動の成功第Ⅱ巻
第4部 ファシズムの昂揚
第12章 ファシズムの出現
第13章 ファシストの敗北
第14章 ヒトラーの勝利
第15章 二月の大砲
第16章 労働陣営の新戦術
第5部 国際場裡のファシズム
第17章 社会主義対外政策とファシズム
第18章 人民戦線
第19章 スペイン内戦
第20章 ミュンヘンへの道
第21章 奈落の底へ
第6部 展望
第22章 地下運動
第23章 新しい機会
・・・経済学の専門家であるヒルファーディングは、高度に発展した資本主義経済の複雑なメカニズムに強い印象を受けたので、彼はそれに対するほとんど全ての干渉を危険なものと考えるに至った。すなわち彼は、マンチェスター派の自由主義者に接近していった。彼は、イギリスでスノーデンが演じたと同じ役割を演じ、恐慌中に提案された繁栄の回復を早めるための多くの計画を拒絶した。そのような努力は、よくいってさらに悪い経済的破局の道を用意するに過ぎないと確信してであった。・・・
・・・社会民主党は、異常な強度と持続性を持つ恐慌を洞察しなかった。経済的暴風が全勢力をもって吹き荒れていた1931年になってすら、彼らは、危機自体の緩和にはあまり役立たず、ただ労働階級の直接的苦悩を軽減することを主眼とした政策を固執した。多くの社会民主党と労働組合の指導者たちは、オーソドックスの理論に執着していた。それは、国家の干渉は目先の救済をもたらしはするが、それはただその代償として危機を一層長期にわたらしめ、さらに性質において一層厳しいこともあり得るような別の恐慌を準備するに過ぎないという理論である。従って社会民主党と労働組合は、政府のデフレイション政策を変えさせる努力は全然行わず、ただそれが賃金と失業手当を脅かす限りにおいてそれに反対したのである。・・・
・・・しかし彼らは失業の根源を攻撃しなかったのである。彼らはデフレイションを拒否した。しかし彼らはまた、どのようなものであれ平価切り下げを含むところのインフレイション的措置にも反対した。「反インフレイション、反デフレイション」、公式の政策声明にはこう述べられていた。どのようなものであれ、通貨の操作は公式に拒否されたのである。
・・・このようにして、ドイツ社会民主党は、ブリューニングの賃金切り下げには反対したにもかかわらず、それに代わるべき現実的な代案を何一つ提示することができなかったのであった。・・・
社会民主党と労働組合は賃金切り下げに反対した。しかし彼らの反対も、彼らの政策が、ナチの参加する政府を作り出しそうな政治的危機に対する恐怖によって主として動かされていたゆえに、有効なものとはなりえなかった。・・・
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濱口先生の紹介が原因だと思いますが、中古本相場が随分値上がりしています(苦情ではありません)。中古本価格によりこのblogの影響力の強さを実感できました。岩波書店さんも復刊を真剣に検討されるのではないでしょうか。
投稿: pvpmtfv | 2012年11月26日 (月) 08時48分
ぎゃ、昨日は1円だった中古本が、今日は3,000円になっている。
投稿: hamachan | 2012年11月26日 (月) 23時22分