中央公論対談記事の一部が
10日前に発売された『中央公論』12月号、話題を呼んでいる柳川範之さんの40歳定年論と、それに対する海老原さんとわたくしの対談が、それぞれ冒頭の一部だけですが、中央公論社のサイトにアップされています。
http://www.chuokoron.jp/2012/11/post_156.html(四十歳定年制の真意は誤解されている 柳川範之=東京大学教授)
まず申しあげたいのは、「四十歳定年制」は報告書の主要なメッセージではなく、日本経済が生き残っていくために、社会全体の構造を変える一つの方法として提案したということだ。「四十歳定年制」は想像していた以上に強い言葉で、四十歳で働き場所がなくなってしまうというような感覚で受け止められ、そこだけがクローズアップされてしまった。後で述べるが、四十歳で雇用を切るという意味ではないことを強調しておきたい。
今回の議論は、日本経済が直面する三つの構造的な問題をどのように軽減、克服するかという問題意識が出発点にある。第一に人口減少、特に十五~六十四歳の「生産年齢人口」が今後大幅に減少する。経済成長が鈍化する一方、高齢者を支える現役世代の負担は大きくなる。少子化対策や移民政策は即効性にも短期的な実現性にも欠けるため、現在の人口構造は当面変わらないだろう。現実的な対策は、女性や高齢者など意欲も能力もあるのに活用されていない人が働けるようにすることだ。
第二に経済や社会の変化のスピードが速くなり、一つの世代が働き始めてから引退するまでの三〇~四〇年ほどのあいだでも大きな環境変化が生じる。変化に対応するための能力開発が行われなければ、限られた労働力も有効に活用できなくなる。
第三に、人々の寿命が延び、長い一生をどのように生き、働くかを個人が見直すべき時期に来ている。例えば「六十歳定年」と言っても、平均寿命が六十代半ばの時代と八十歳超の時代とでは全く意味が異なる。第一の点とも相まって、定年後の二〇~三〇年を全て社会保障でまかなうことはできないとの前提で、これからの働き方を考えようというのが議論の背景だ。
(続きは本誌でお読み下さい)
http://www.chuokoron.jp/2012/11/post_157.html(管理職を目指さない自由を 「四十歳定年制」より大事なこと)
海老原 今年の夏、国家戦略室のフロンティア分科会「繁栄のフロンティア部会」で提言された「四十歳定年制」。少し正確に言うと、日本が二〇五〇年に繁栄しているにはいくつかの条件が必要で、その一つとして、みんなが七十五歳まで働き、人生で二、三回転職することが普通になる社会にするために、「労使が自由に定年年齢を設定できるようにして、最速で四十歳定年制を認める」というものです。問題意識としてわかるところもあるけれど、反発するところもかなりある。すぐに「ナンセンス」とコメントを出された濱口さん、いかがですか?
濱口 まず、定年とは法律学的に言えば、年齢に基づく強制退職年齢です。四十歳定年ならば、四十歳になったというただそれだけの理由で解雇することを、世の中の規範として確立しましょうということ。
次に経済学的に考えれば、エドワード・ラジアーの議論を引き合いに出すまでもなく、賃金構造に直結する。賃金構造を変えずに四十歳定年制にするのであれば、会社のために一所懸命働いてきた労働者が、これからその貯金を下ろそうという時期にクビになる。経済学的に合理的な四十歳定年制があるとすれば、四十歳までに会社と労働者との間で仕事と賃金の貸し借りがゼロになる制度を作らなくてはいけない。はたしてそこまで考えているのか甚だ疑問です。海老原 まず、定年が強制退職だという点からすると、年金との連結を考えなくてはいけませんね。
濱口 少なくとも先進国の水準から言えばそうなります。OECD諸国で現在、年金支給前の定年を禁止していないのは日本と韓国だけ。そもそも欧米の感覚では、年齢を理由にした解雇が許されるとすれば、それは国がちゃんと年金を支払うという条件が必要でしょう。アメリカに至っては上限なく年齢差別が禁止されている。
海老原 二番目の賃金制度については、僕もまったく同感です。この報告書は、“定年”の定義をゆるやかに捉えていて、「期限の定めのない雇用契約を正規とするのではなく、有期を基本とした雇用契約」にすべきであるとしています。僕は、細かな点はともかく、就職して二〇年経った時に、次の再契約をするかしないか考えてみましょう、取り敢えず人生の途中で契約を一回清算してみましょうよ、という概念に関しては、肯けるところがあるのですが。
濱口 辞めたい人がもっと気楽に辞められる社会という趣旨なら賛成ですが、辞めたくないのに辞めさせられる社会が望ましいとは思えません。本音を言えば、年功的な賃金体系のために中高年の人件費がかさむので、早いうちに追い出したいというだけではないのでしょうか。
(続きは本誌でお読み下さい)
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