『労働法律旬報』1780号は、「派遣労働者の待遇改善をめざして」というシンポジウムの記録を載せています。
http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/803?osCsid=f762d25a9f171d5b7750d34662e08bbe
パネラーは、毛塚勝利+中嶋滋+関根秀一郎+中野麻美の各氏で、主眼であるILOの日本政府への勧告の読み方自体についても大きな疑義がありますが、ここでは関根さんの発言のこの部分とあの部分がどういう関係なのか、そしてそれについてのご自分の役割をどのように考えておられるのか、いささか疑問を感じたので、それぞれ引用しておきます。
・・・この日々紹介は、実は、大きな問題があります。
・・・日雇派遣の現場においては、今までも手配ミスやオーバーブッキングで多めに手配されたうちの何人かは、「今日は仕事なし」となってしまう事態がありました。しかし、今までの日雇派遣の場合は、前日のうちに雇用契約が成立していましたから、「今日は仕事なし」となったとしても、休業手当の支払義務がありました。従って、一定の保障はされていました。
ところが、日々紹介になると、朝、出勤した段階で初めて雇用契約が成立するので、出勤した時点で「あなたは今日は要らないよ」と言われてしまえば、最初から雇用契約は成立しません。ですから、日々紹介の場合は、何の保障もされないという事態が発生します。
日々紹介は、日雇派遣以上に不安定な雇用を生み出してしまうのです。・・・
いや、まったくその通りだし、わたくしもかつて、日雇派遣の禁止が議論されていたころ、朝日新聞紙上で、関根さんに対してそう述べていたわけですが、
http://homepage3.nifty.com/hamachan/asahisekine.html(朝日新聞-関根秀一郎との対談「日雇い派遣 禁止は有効?」(2008年5月29日))
――「日雇い派遣禁止」は、なぜ必要なのですか。
関根 派遣労働は、派遣会社が派遣料から会社の取り分(マージン)を引いて賃金を支払うのでピンハネが横行しやすい。なのに、派遣法が99年に改正されたとき、対象を立場の弱い肉体労働にまで広げた。このため日雇い派遣が急拡大し、三つの問題が起きた。①3~5割ものピンハネによる賃金の大幅下落②生計を主に担う働き手まで派遣労働に落とし込まれる③派遣先が、「ウチの社員じゃない」と派遣社員の安全対策を怠り、労働災害が多発――だ。
濱口 問題点は同感だが、ニーズがあるのに禁止しても、企業は他の形に逃げるだけ。85年に派遣法ができた当初も、対象を専門的職種に限ったが、一般事務が「ファイリング」の名で派遣OKとなり、女性の非正社員化が進んだ。事業規制ばかりを考え、労働者保護をほったらかしにする日本の派遣法の枠組みこそ問うべきだ。
――どんなニーズが?
濱口 アルバイトや、本業がほかにある人の週末の副業など、こうした働き方が必要な人もいる。企業にとっても、社員が急病の場合や仕事の繁閑が大きい職種など、1日単位の派遣が必要なケースはあるはず。日雇い派遣という業態そのものは、あってもいい。
関根 日雇い派遣の広がりは「あってもいい」のレベルを超えている。人集めも解雇も簡単なため、20~30代の「ネットカフェ難民」だけでなく、40~50代の「サウナ難民」まで出た。
濱口 そもそも「日雇い派遣」だから問題なのか。直接雇用の日雇いも過酷さは同じだ。
関根 20年ほど前、直接雇用の日雇いとして物流業界でバイトしたが、日給は1万円を下らなかった。日雇い派遣の広がりでピンハネが激しくなり、今は6千~7千円。派遣はマージンを取るので、働き手の取り分を減らし、過酷さを増幅する。
濱口 日雇い派遣なら、毎日別の職場に派遣されても、合わせて週40時間働いていれば「派遣社員として正社員と同等の時間働いている」ことになり、均衡処遇を求める契機になる。
関根 現実は違う。厚生労働省に、「実質は正社員と同じように毎日働いているのだから、仕事が途絶えたら休業手当を払うよう派遣会社を指導すべきだ」と求めたがダメだった。理由は「日雇いだから」だ。
――日雇い派遣を禁止しないとすると、どう解決しますか。
濱口 関根さんの挙げた三つの問題点でいうと、賃金については、派遣会社のマージン率を公開させ、規制する。安全面では危険有害業務への派遣を制限し、労働時間について定める労使協定(36協定)や労災補償に関し、派遣先にも使用者責任を負わせる。安いからと非正社員を増やす反社会的な企業行動には、労組などによる監視の目をはりめぐらす方が効果的だ。
関根 今の提案はすべて賛成だ。だが、禁止措置も意味は大きい。確かに、違法派遣をしたグッドウィルが事業停止処分を受けると、仕事がなくなり困る人も出た。一方で、グッドウィルとの取引をやめた会社から「直接雇用に」と誘われ、日給が4割増えた人もいる。とりあえずストップをかけて企業の方向を変える必要がある。
――労組による監視で企業行動に歯止めをかけられますか。
濱口 日雇い派遣の業態は認め、そのかわり派遣労働者と正社員との均等待遇や均衡処遇を徹底し、「手軽だから日雇い派遣」とはさせないことも必要だ。4月に施行された改正パート労働法で均衡処遇が定められたので、派遣に広げればいい。
関根 日本の「均等待遇」は正社員並みに働くごく一部のパートにしか適用されず、その他のパートへの「均衡処遇」も極めてあいまいだ。
――マージン率の公開は可能でしょうか。
濱口 ピンハネして自家用飛行機を買うような経営者は困るが、マージンは、社会保険料負担や働き手への情報提供などのために必要な経費でもある。その透明化はまともな派遣元にはプラスだ。
関根 派遣業界との交渉で、「悪質な派遣会社と一線を画すためにもマージンの公開を」と迫ってきたが応じない。
――今後は何が必要ですか。
濱口 日本の派遣法は、正社員の派遣社員への置き換え防止に主眼を置き、派遣事業の規制ばかりに目を向けていた。世界の流れは非正社員も含めた均衡処遇と透明化だ。
関根 日雇い派遣を合法化したことで、派遣への置き換えが進んだ。欧州のような均等待遇の実現は遠すぎる。緊急避難として日雇い派遣の禁止を急ぐべきだ。
「過酷さは同じ」どころか、もっと過酷だったということが分かってきたようです。
ところがこのシンポの最後では依然として、
・・・先ほどのように、日々紹介に切り替えるとか、5週間以上の雇用契約を結ぶと言っているところは少数派で、実は、ほとんどの業者は何の対策も取っておらず、10月1日以降も従来通り日雇派遣をやっていくといっている状況です。不安定雇用を規制し、安定雇用への移行を促していくためにも、厚生労働省・労働局においては、この派遣法をきちんと遵守するように、日雇派遣各社を取り締まってもらいたいと思います。
法令遵守は当然ですが、とはいえ自らの論理に忠実に解釈すれば、より過酷な就労形態に移行させろと主張していることになるわけです。
なお、昨日紹介の二宮誠さんも、この日雇派遣の禁止に対しては極めて厳しい批判を繰り出しています。
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