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2012年10月 5日 (金)

金久保茂『企業買収と労働者保護法理』信山社

25351353_1 金久保茂さんの『企業買収と労働者保護法理』(信山社)をお送りいただきました。大著をお送りいただき、ありがとうございます。

金久保さんは弁護士として活躍しながら、一橋大学の修士課程、東京大学の博士課程と労働法の研究に打ち込んでこられ、今回この大著をまとめられたご努力には感服の極みです。

日本、ドイツ、アメリカの事業譲渡法制を詳細に分析しつつ、その中での労働者保護の在り方を突き詰めて検討しているまさに本物の研究論文です。細かい目次が出版社のHPに上がっているので、コピペしておきますが、

第1章 問題の所在
 第1節 M&Aのストラクチャーと事業譲渡の機能
  Ⅰ M&Aを取り巻く状況と労働者保護問題
  Ⅱ M&Aの手法と事業譲渡の機能
   1 M&Aのストラクチャーの異同/2 倒産時の事業譲渡と労働者保護規定/3 事業譲渡の機能
 第2節 事業取得型M&Aにおける労働関係に関する法規制と立法措置の検討状況
  Ⅰ 合併の規制
   1 合併の法的性格/2 合併における労働者の不利益
  Ⅱ 会社分割の規制
   1 会社分割の法的性格と問題点/2 承継法の規制内容/3 会社分割における労働者の不利益
  Ⅲ 事業譲渡の規制
   1 事業譲渡における「承継される不利益」/2 事業譲渡における「承継されない不利益」
  Ⅳ 研究会報告の内容
   1 平成12年研究会報告/2 平成14年研究会報告
 第3節 本書の問題設定
   1 M&Aにおける労働関係の承継論と労使紛争の背景/2 分析の手法

第2章 日本における事業譲渡と労働関係
 第1節 事業譲渡と個別的労働関係の承継
  Ⅰ 学  説
   1 当然承継説/2 原則承継説/3 営業の同一性当然承継説/4 原則非承継説/
   5 解雇法理適用説/6 事実上の合併説
  Ⅱ 裁判例の状況
   1 当然承継説を採用した裁判例/2 原則承継説を採用した裁判例/
   3 原則非承継説を採用した裁判例/4 解雇法理適用説を採用した裁判例/
   5 裁判例の総括
 第2節 事業譲渡と集団的労使関係の承継
  Ⅰ 労働協約の承継
  Ⅱ 譲受会社の不当労働行為責任
   1 労組法7条の使用者性/2 団体交渉応諾義務/3 解雇・不採用の不当労働行為性/
   4 労働委員会の命令および裁判例の総括
 第3節 買収時の労働条件の不利益変更
  Ⅰ 労働条件の不利益変更の方法
   1 就業規則による不利益変更/2 労働協約による不利益変更/3 変更解約告知
  Ⅱ 労働条件不利益変更法理の具体的判断
   1 合併・会社分割における具体的な適用/2 事業譲渡における具体的な適用

第3章 ドイツにおける事業譲渡と労働関係
 序 説 ――考察の視点
 第1節 M&Aの手法と事業譲渡の機能
  Ⅰ M&Aのストラクチャー
   1 合併(Verschmelzung)/2 分割(Spaltung)/3 事業譲渡
  Ⅱ 事業譲渡の意義
   1 税法上の問題/2 義務・責任等の承継の有無/3 契約関係の移転の有無/
   4 手続の異同/5 労働者に対する情報提供義務/6 倒産会社の買収(譲渡による再建)/
   7 小  括
 第2節 解雇規制と労働条件変更法理
  Ⅰ 経営上の理由による解雇の規制
   1 民法典による解雇規制/2 経営上の理由による解雇の実体的要件/
   3 大量解雇に関する手続的要件/4 事業所組織法による解雇の手続規制/5 違法解雇の効果
  Ⅱ 個別的労働関係上の労働条件変更法理
   1 労務指揮権(指揮命令権)の行使/2 撤回留保の合意/3 変更契約/4 変更解約告知
  Ⅲ 集団的労使関係上の労働条件変更法理
   1 労働協約の労働条件変更/2 事業所協定の労働条件変更/3 事業所委員会の参加権による制約
  Ⅳ 小  括
 第3節 事業譲渡における労働者保護規制
  Ⅰ 企業移転指令制定前のヨーロッパの状況
   1 1928年フランス労働法典における労働契約の自動承継規定の導入の経緯/
   2 フランス労働法典L.1224-1条の概要/3 EUにおけるリストラ関連3指令の制定
  Ⅱ 企業移転指令の概要
   1 企業移転指令の趣旨・目的/2 指令の最低限度の要請/3 指令の要件・適用範囲/
   4 指令の手続規制/5 指令の個別的労働関係上の効果/6 指令の集団的労使関係上の効果/
   7 解雇規制/8 倒産等の場合の適用除外と規制緩和/9 小  括
  Ⅲ ドイツ民法典613a条による労働者保護
   1 民法典613a条の制定前の議論状況/2 民法典613a条の制定経過とその後の追加・修正/
   3 民法典613a条の趣旨・目的/4 民法典613a条の要件・適用範囲/
   5 民法典613a条の手続規制Ⅰ(使用者の情報通知義務)/
   6 民法典613a条の手続規制Ⅱ(労働者の異議権)/7 民法典613a条の個別的労働関係上の効果/
   8 民法典613a条の集団的労使関係上の効果/9 事業移転の際の解雇の効力/
   10 民法典613a条の強行法規性と脱法行為/11 再雇用請求権と継続請求権/12 小  括
  Ⅳ 企業移転指令の「法的移転」と民法典613a条の「法律行為」の意義
   1 企業移転指令と民法典613a条の要件論の枠組み/2 指令1条1(c)項の「法的移転」の意義/
   3 民法典613a条の「法律行為」の意義/4 小  括
  Ⅴ 指令の「企業」「事業」と民法典613a条の「事業」の意義
   1 指令の「企業」「事業」の意義/2 経済的統一体の同一性保持に関する判断要素/
   3 指令改正前の欧州司法裁判所の判断の変遷/
   4 連邦労働裁判所による民法典613a条の「事業」概念の解釈の変更/5 小  括
  Ⅵ 経済的統一体の同一性保持に関する具体的判断
   1 企業の性質/2 有形資産の移転/3 無形資産の移転/4 労働者の多数(従業員集団)の移転/
   5 顧客の移転/6 活動の類似性/7 中断期間/8 新使用者による事業継続(事業所有者の交替)/
   9 新使用者の下での経済的統一体の同一性保持の要否/10 裁判例の分析と考察
  Ⅶ 事業移転に関する事業所組織法による手続規制
   1 事業所変更における事業所委員会の参加権/2 経済委員会との協議・情報提供義務
 第4節 ドイツ倒産法における事業譲渡と平常時規制の変容
  Ⅰ 1994年倒産法改正前の議論状況
   1 倒産法改正委員会の報告書とその後の政府草案の公表/2 譲渡による再建に関する改正議論/
   3 倒産法制と労働者保護立法の調整
  Ⅱ 1994年倒産法の概要
   1 手続の概要/2 倒産手続における事業譲渡のタイミングと手続規制
  Ⅲ 倒産手続における民法典613a条の適用
   1 旧破産法下における従前の学説の状況/2 1980年1月17日の連邦労働裁判所の判断/
   3 倒産法における民法典613a条の取扱い
  Ⅳ 倒産手続における解雇規制の修正
   1 解雇制限法の適用維持/2 解約告知期間の短縮等(倒産法113条)
  Ⅴ 倒産手続における手続規制の修正
   1 倒産管財人の事業所委員会に対する通知・意見聴取義務/2 倒産手続における事業所変更規制
  Ⅵ 倒産手続における民法典613a条4項の解釈・適用の修正
   1 事業譲受人の構想に基づく旧使用者による解雇/2 雇用契約の合意解約と民法典613a条の脱法の可否/
   3 倒産手続における再雇用請求権・継続請求権の有無
  Ⅶ 倒産時の労働条件変更規制
   1 倒産手続における変更解約告知/2 倒産時の事業所協定に関する協議および解約/
   3 倒産時の労働協約の即時解約
 第5節 ドイツ法の総括

第4章 アメリカにおける事業譲渡と労働関係
 序 説 ――考察の視点
 第1節 M&Aの手法と事業譲渡の機能
  Ⅰ M&Aのストラクチャー
   1 合  併/2 事業譲渡
  Ⅱ 事業譲渡の機能
   1 合併と事業譲渡の差異/2 事業譲渡の活用場面
 第2節 解雇規制と労働条件変更規制
  Ⅰ 経済的理由による解雇規制
   1 随意的雇用原則/2 随意的雇用原則の修正/3 制定法による随意的雇用原則の制限/
   4 労働協約による随意的雇用原則の制限
  Ⅱ 個別的労働関係上の労働条件変更法理
  Ⅲ 集団的労使関係上の労働条件変更規制
   1 NLRAの特徴/2 労働協約成立前の労働条件の変更/3 労働協約成立後の労働条件の変更/
   4 労働協約上の権利義務のエンフォースメント
  Ⅳ 小  括
 第3節 事業譲渡における労働者保護規制
  Ⅰ 承継者法理による労働者保護
   1 承継者法理の歴史的展開 ――1964年のWiley事件最高裁判決までの状況/
   2 承継者法理に関する5つの最高裁判決の概要/3 承継者法理の要件論の枠組み/
   4 労働力の継続性/5 新旧使用者の実質的継続性/6 承継者の労働条件変更の可否/
   7 不当労働行為責任の承継者(Golden State Successor)/
   8 仲裁付託義務の承継者(Wiley successor)/9 小  括
  Ⅱ 分身法理による労働者保護
   1 分身法理の概要/2 連邦最高裁による分身法理の承認 ――Southport Petroleum Co.事件/
   3 分身法理の判断枠組み(一般的判断要素)/4 所有者または支配の実質的同一性/
   5 同一家族所有と独立当事者間取引/6 使用者の不法な動機・意図/7 小  括
  Ⅲ 各州の企業買収に関する労働者保護立法
   1 労働協約保護法/2 失業労働者保護法/3 ティン・パラシュート法/
   4 信認義務修正法(Constituency Statutes)
 第4節 連邦倒産法における事業譲渡と平常時規制の変容
  Ⅰ 連邦倒産法第11章再建手続の概要
   1 第11章再建手続の導入の経緯/2 第11章再建手続の概要/3 プレ・パッケージ型再建手続/
   4 連邦倒産法363条に基づく事業譲渡
  Ⅱ 倒産時の解雇・労働条件変更規制 ――平常時規制との相違点
   1 個別的労働関係/2 集団的労使関係
  Ⅲ 倒産手続と承継者法理の適用
   1 倒産法の目的と承継者法理の衝突/2 使用者の倒産と承継者法理の適用の可否/
   3 承継者法理に対する363条(f)の適用の可否/4 363条saleの許可基準と労働者保護
  Ⅳ 倒産手続と分身法理の適用
   1 分身法理の原則適用/2 「事業目的」と倒産時の買収の特殊性
 第5節 アメリカ法の総括

第5章 日本における事業譲渡と労働関係に関する考察
 第1節 日・EU独・米における事業譲渡法制の比較法的考察
  Ⅰ 事業譲渡法制と個別的労働関係
   1 日独米の解雇・個別的労働条件変更規制/2 事業譲渡による個別的労働契約に対する影響/
   3 倒産時の事業譲渡と個別法への影響/
  Ⅱ 事業譲渡法制と集団的労使関係
   1 日独米の集団的労使関係制度/2 事業譲渡による集団的労使関係に対する影響/
   3 倒産時の事業譲渡と集団法への影響
  Ⅲ 日独米の法的状況の背景
   1 EU・ドイツにおける雇用関係の特性/2 コーポレート・ガバナンスと労働者の位置づけ
 第2節 事業譲渡と労働関係の承継に関する学説・裁判例の分析および検討
  Ⅰ 当然承継説および営業の同一性当然承継説の問題点
  Ⅱ 原則承継説および原則非承継説の問題点
   1 両説の評価/2 原則非承継説の結論の妥当性
  Ⅲ 解雇法理適用説の問題点
  Ⅳ 事実上の合併説の問題点
  Ⅴ 小  括
 第3節 労働契約の不承継特約の効力と法律行為の解釈
  Ⅰ 労働契約の不承継特約の効力
   1 譲渡会社の解雇・不承継特約と解雇法理の脱法/2 破産手続における事業譲渡/
   3 民事再生・会社更生手続における事業譲渡/4 平時における事業譲渡
  Ⅱ 解雇・不承継特約の無効と法律行為の解釈
 第4節 労働契約承継立法の導入の是非
 第5節 結びに代えて

この最後の結びに代えての文章は、この労働法と会社法・倒産法の交錯する領域を取り扱う手さばきのバランス感覚の良さをよく示していると思うので、引用しておきます。

M&Aを柔軟に利用するための議論が加速する一方で、事業譲渡を取り巻く労働者の環境は確かに脆弱である。事業譲渡を利用したM&Aにおいて、労働契約の不承継特約によって労働者の引き継ぎが排除された場合、組合差別等がない限り、立法のないわが国では、民法90条の公序良俗違反を通じた意思解釈論等によって労働者保護を図らざるを得ず、労働者の雇用が確保される場面はかなり限定される。

しかし、その一方で、企業の経営が悪化し、倒産またはそれに近い状況にある場合は、企業の存続が優先され、労働者の引き継ぎが排除されることもやむを得ない。事業譲渡を取り巻く労働者保護の脆弱性とは、ほかならぬ企業自体の脆弱性であり、企業の存続なくして雇用は生まれないという当たり前の現実を目の前に突きつけられる。企業が倒産すれば、その社会的影響も重大である。

このように事業譲渡と労働関係の承継とその際の労働条件の問題は、労働者保護と企業(事業)の存続という相反する2つの要請がぶつかり合い、しかも、労働法と商法・会社法・倒産法との微妙な調整が必要となる難問である。事業の同一性のみをもって解雇法理の脱法と評価すべきか否かも、人によって価値判断が異なろう。

しかし、不幸にして労使紛争に発展した場合、長期の裁判闘争になる可能性も否定できない。筆者の経験で言えば、それは誰の得にもならない。最終的には、使用者の事業譲渡に関する労働者への真摯な説明・協議と、労働者側の使用者の経営判断。経営状況に対する理解のいずれも求められよう。そのための方策として、労使協議の場を設定する手続的アプローチと解雇の場合の金銭補償の立法化等の検討が有用であることは前述したとおりである。今後の議論の発展に期待したい。

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