改正労働契約法はジョブ型正社員への第一歩
さて、明日は学習院大学で日本労働法学会の第124回大会があり、「有期労働をめぐる法理論的課題」というテーマで大シンポジウムが行われるわけですが、
http://www.rougaku.jp/contents-taikai/124taikai.html
統一テーマ:「有期労働をめぐる法理論的課題」
司会:青野覚(明治大学)、米津孝司(中央大学)• 趣旨説明(9:30~9:40)
•第1報告:「有期契約労働と派遣労働の法政策
――規制原理としての労働権保障の観点から――」(9:40~10:20)
報告者:有田謙司(西南学院大学)
• 第2報告:「有期雇用(有期労働契約)の法規制と労働契約法理
――労働契約法改正と契約論アプローチ――」(10:20~11:00)
報告者:唐津博(南山大学)
• 第3報告:「有期労働契約法制と均等・均衡処遇」(11:00~11:40)
報告者:沼田雅之(法政大学)
• 第4報告:「非正規労働者の社会・労働保険法上の地位」(13:50~14:30)
報告者:小西啓文(明治大学)• 質疑応答・討論(14:45~17:00
それとはまったく無関係に、『情報労連REPORT』10月号の「hamachanの労働ニュースここがツボ!」では「改正労働契約法はジョブ型正社員への第一歩」という小文を書きました。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororen1210.html
ご笑覧いただければ幸いです。
去る8月に、長年の懸案だった労働契約法の改正案が成立し、有期契約労働者の雇止め防止と処遇改善に向けた第一歩が進められました。この改正については、入口規制が設けられなかったことなど、その欠点を指摘する向きもありますが、現実の政策決定過程に関わった人々からすれば、労使のぎりぎりの妥協の産物としてこれ以上の成果は期待できなかったのが本音でしょう。
しかしながら、わたしはむしろ今回の改正が入口規制ではなく出口規制という形をとったことに積極的な意味を見い出したいと思っています。それは、日本における「正社員」という概念の特殊性に関わります。
世界中どこでも、有期契約と無期契約という対立軸は明確で、有期契約の問題点が更新を繰り返した挙げ句に期間満了で雇用終了されてしまう雇止め問題にある点も共通です。しかしながら、日本の特殊性は、無期契約でフルタイムで直接雇用であれば「正社員」であるとは言えないところにあります。パート法8条1項に裏側から規定されているように、日本の「正社員」(パート法上は「通常の労働者」)とは「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が・・・変更すると見込まれるもの」なのです。
職務や勤務場所が決まっていないのが「正社員」なのですから、有期契約労働者が無期契約になっただけでは「正社員」にはなりません。今回の改正では、無期化しても労働条件は同一とわざわざ明記していますから、これは日本型「正社員」とは異なる無期契約労働者になったということのはずです。それは、日本以外の国の普通のレギュラー・ワーカーと同じということでもあります。
わたしはそれを「ジョブ型正社員」と称し、会社のいうがままに働きすぎになりがちな「正社員」とは異なるオルタナティブとして提示してきましたが、現実の労働社会が日本型「正社員」と非正規労働者に両極化されている状況では、その導入はなかなか難しい面があります。もし労働契約法改正で入口規制が導入されていたとしたら、またもや有期契約でなければ日本型「正社員」でなければならないという不毛な二者択一が出現した可能性もあります。その意味で今回、入口規制なしの出口規制で、有期契約から転換される非日本型「正社員」タイプの無期契約労働者が明確に出現することになるわけで、ある意味では怪我の功名とも言えるのではないでしょうか。
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