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海老原嗣生『女子のキャリア』

9784480688903 常見陽平さんに続いて、海老原嗣生さんからも「女子」本をいただきました。『女子のキャリア <男社会>のしくみ、教えます』(ちくまプリマー新書)です。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480688903/

この写真にはついてませんが、腰巻きには

ハピキャリでいくか
バリキャリでいくか

「雇用のカリスマ」が徹底検証

という惹き句が載っています。

このちくまプリマー新書というシリーズ、岩波でいえばジュニア新書という位置づけですが、なかなか大人こそが読む値打ちのある本が結構揃っていて、この海老原本もその例に漏れません。

何よりも、労働社会のもっとも深層のレベルでジェンダーの問題と真正面から向き合った本として、その軽めの外観に関わらず、重要な名著というべきでしょう。

まずはなにより、本屋で手にとって、第1章「クリスマスケーキってなんですか?-女子のキャリアの歴史」をぱらぱらとでも立ち読みしてください。今の若い世代の男女にとってはおそらくかなりの程度外国のような少し前の日本社会の姿が描かれています。

しかしその姿は、決して外国ではなく、実は今日の日本社会のありようを極めて深い次元で規定し、その表層に咲いたさまざまな花々を左右しているということが、読み進めていくうちに分かってくるはずです。

すごく深い本ですよ。

(追記)

本書で一番感動的なストーリーは、第4章「事務職ってダメな生き方ですか?」に載っているある庶務ドリーム女性です。ちょっと長いですが、これは要約じゃなく原文をそのまま載せたいお話なので。

・・・その女性は、総勢15名ほどの小さなアパレル系の専門商社で貿易事務として働いている26歳の人でした。このくらいの規模の会社だと、もちろん貿易事務は全体を任され、その上、最近ではネット通販事業も任されているような、パワフルな女性です。聞くと、Eコマース用のカード決済の仕組みと自社の経理システムの連携、サイトの受発注システムと発送外注の連携なども、実務に詳しい彼女が主役となって行ったそうです。

こういう小さな商社の場合、男の人は営業で忙しく、またMDやデザイナーなどは専門職のために、自分の領域以外の仕事をやりたがりません。デモ、会社の業績は芳しくないために、社長は次々に新しい事業に手を出そうとします。そうしたとき、誰もそれを担当する人がいないために、大体は彼女に任されることになるのです。そして、それを一つずつ片付けていくうちに、彼女は立派な複々線キャリアとなっていました。こんな彼女は転職相談のセミナーでも、ピカピカに光っていました。

そして、「思い切りチャレンジしたい」という彼女に、私はEコマース系のベンチャー企業の、社長秘書の仕事を紹介しました。大手だと未経験で秘書を採用してくれはしないのですが、ベンチャーの場合は、経験よりも実務能力を重視します。社長はすぐに彼女を気に入り、採用となりました。

その後、もちろん彼女はぐんぐん頭角を現していきます。社長秘書業務は当たり前で、社長不在時の代理対応なども行い、さらに商談にも同行するようになっていきます。採用業務で人手が足りないときに、人事を兼務することになり、そこでも段取り上手でしかも応募者のハートをつかむのは上手なので瞬く間に評価がうなぎ登りとなり、なんt、上司の課長を追いやって、自らがそのポストに就いてしまったのです。

そうして2年した頃には、管理部門担当の役員にまで上り詰めていました。・・・・・

実はこのあと、もう一段驚きのどんでん返しが待っているのですが、それは是非本書をお買い求めの上お読み下さい。

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コメント

今回もありがとうございます。
「ママ、あまたが痛いの、すごく、ママ」と携帯から子供の声が漏れるくだりも、「誰にも文句を言えませんね」と複雑な顔で産休に入るくだりも、全部私が上司として直面してきた、女子の悲しさです。
日本型雇用をある面擁護している私ですが、この仕組みの問題点も、中にいたからこそ、よくわかってもいます。
hamachanさんの素敵な言葉「誰もがエリートを夢見てしまう」仕組みづくりに、先進国で唯一成功した日本。だから、モチベーション高く、夢を持ってみなが精進し続けられる。でも、し続けなければならない宿命がある。だから、途中で休まざるをえない、ワーキングマザーは、この仕組みからはじき出されしまうのだと思います。
この仕組みは、45歳くらいで「ご褒美として誰でも管理職」になれた低パフォーマンスな勤続者を、働かない熟年にしてしまうという問題もあります。
そうして、そんな「働かないえらい人」が、家庭でも「俺は偉いんだ」と家事をしない問題を生んでいる。
さらに、彼らは腕が鈍り、使い物にならないから、強制退出の仕組み=定年が不可欠になる。もちろん、彼らも、「これだけ良くしてもらったから」と甘んじてそれを受け入れます。
こうして、女性・高齢者をはじき出すことで成り立つという絶妙のメカニズムとなっています。ただ、現在はそれが社会的にも企業経営的にも問題となってきました。
長くてすみません、以下、次メールで。

投稿: 海老原嗣生 | 2012年10月17日 (水) 06時44分

企業は、熟年層の増加でポスト不足と人件費増加に悩み、社会は少子高齢化で高齢者と女性の労働を必要としだしているからです。
すみません、hamachanさんのブログでこんな話を。
欧米型は、多数のノンエリート層が低い給与で夢も働くから、モチベーションが維持できません。会社は彼らのWLB維持に躍起とならざるをえません。こうした熟練の低賃金労働者がいるために、若年が市場からはじき出されます。つまり、モチベーションと若年受け入れにおいては、日本型の勝利でした。
ただ、こうしたノンエリート型社会は、出世しないわけだから出入り自由であり、長期勤続の必要もなく、いつまでも現役なので腕がさびません。そして前述の通りWLBが充実している。つまり、女性と高齢者の雇用では、明らかに日本型が負けています。
この帳尻を合わせる時期に日本は来ているのだと思います。
思えば、1995年に発表された日経連の「新・日本型経営」は、職業階層を欧州型にしよう、という提案でした。それは、日本型がもう成り立たなくなっている、という経営側からの悲鳴とも言えたでしょう。
この提言に対して、欧州型を信奉するはずの、進歩的言論人が全く相手にせず、逆に、「女性と若者を非正規にして使い捨てにする」悪魔の議定書のようにこき下ろし続けたのが、この20年足らずの混迷につながったのではないでしょうか。
確かに、「一時的雇用」のような経営にとって都合の良い階層を定義していたのが、あの提言の問題点。そこを厳しく批判して、欧州型のように、原則無期限労働と直せば、本当に、欧州に近い仕組みとなったはず。そして、テクニシャンや事務・製造などの「一般職」はWLBが充実するように、経営とキャッチボールし続ければよかったのではないでしょうか。
こうした健全な対話がなかったために、ネオリベと経営側の一方的な支持で、「新日本型経営」は女性・高齢者を受け入れない、経営都合の良いだけのものに堕していきました、
現在非正規は1800万人となっています。うち、35歳未満の若年層は400万人強。つまり、若年は全体の25%程度で、残りの75%は若年ではありません。若年400万人のうち、150万人近くが学生。そして、100万人強が主婦。両者を除くと、150万人余となります。この150万人とて、事務職の非正規(派遣・契約)が多数を占め、これはかつての一般職社員の付け替えだから、彼女らは、その昔と待遇・雇用保証が格段に変わったわけではありません。つまり、若年雇用が「劇的に悪化した」わけではないでしょう。にもかかわらず、マスコミは若年雇用にばかり目を向けます。
一方で主婦非正規は900万人、60歳以上の高齢者(主婦を除く)で300万人。こちらは、とてつもなく大きな数字です。
そろそろ、若者問題と女性・高齢者問題。雇用問題の力点を変えて、そこから日本型雇用を責める時期ではないでしょうか。
hamachanさん、本当にどうもありがとうございます。
来週の中公での対談、楽しみにしております。原稿もありがとうございました。

投稿: 海老原嗣生 | 2012年10月17日 (水) 07時08分

※欄に力の入った文章をありがとうございます。

昨日の派遣フォーラムでは、2回ほど『女子のキャリア』を紹介しさせていただきました。「常用代替防止」とは何か?という話の関係で、派遣法ができた時の日本の企業社会というのは、いかに女性差別的感覚が平然とまかり通っていたのかを理解する上で最適ですよ、という文脈で。

対談も楽しみです。

投稿: hamachan | 2012年10月17日 (水) 16時59分

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