福祉+α『格差社会』『福祉政治』
ミネルヴァ書房から新しいシリーズ「福祉+α」が出されることになり、その第1巻『格差社会』第2巻『福祉政治』をお送りいただきました。
http://www.minervashobo.co.jp/book/b102525.html
「格差社会」という言葉が使われるようになってから十数年が経過し、国民の主要な関心事の一つとなっている。そして政策面においてもこれを是正するために改革が実施されたが、どれだけ有効性を持っているのだろうか。本書では、気鋭の執筆陣が実証データをもとに「格差」に関して様々な角度からアプローチし、現状と課題をあぶりだし、今後取るべき対策を論じる。
中身は次の通りで、後述の『福祉政治』と比べると、どちらかというとすでに名の通った研究者が執筆されている感じです。
総 論 格差をどう考えるか(橘木俊詔)
第1章 地域間格差(浦川邦夫)
第2章 隠れる女性の見えない貧困(室住眞麻子)
第3章 子どもの格差(阿部 彩)
第4章 働き方による格差(金井 郁)
第5章 外国人対日本人(村上英吾)
第6章 障害者と格差社会(勝又幸子)
第7章 若年者の格差(太田聰一)
第8章 高齢期における所得格差と貧困(山田篤裕)
それに対して、もう一冊の宮本太郎編著『福祉政治』の方は、わりと若手中心の執筆陣になっていますね。
http://www.minervashobo.co.jp/book/b102527.html
社会保障と雇用をめぐる制度の形成・維持・再編を目指す「福祉政治」。まず、その分野を概観した上で、年金、ライフスタイル、高齢者、エコロジー、世論、政策評価、言説、ワークシェア、ポスト社会主義国との比較などのキーワードを個別に分かりやすく説明する。「福祉政治」の現状と課題、そして今後への提言の全体像を立体的に捉える。
総 論 福祉政治の新展開(宮本太郎)
第1章 年金改革の政治(伊藤 武)
第2章 ライフスタイル選択の政治学(千田 航)
第3章 高齢者介護政策の比較政治学(稗田健志)
第4章 エコロジー的福祉国家の可能性(小野 一)
第5章 福祉政治と世論(堀江孝司)
第6章 福祉政治と政策評価(窪田好男)
第7章 比較福祉国家論における言説政治の位置(加藤雅俊)
第8章 ワークフェアと福祉政治(小林勇人)
第9章 ポスト社会主義国における福祉政治へ(仙石 学)
これら若手研究者の論文も結構興味深いのですが、ここではやはり冒頭宮本太郎さんの総論で、近年の自公政権から民主党政権にかけての時期の政権の性格を、ワークフェア、アクティベーション、ベーシックインカムという3つの言説の対抗関係で読み解いたあたりがとても面白く、その中の「小沢型ベーシックインカム」の政治的性格を摘出した一節を引用しておきます。
・・・なぜ現金給付が前面に打ち出されたのであろうか。それは民主党が国民の強い行政不信に依拠した官僚制批判を繰り返してきたことと関わっている。こうした官僚制の影響力こそ自民党政権の負の遺産であり、民主党政権が打ち破るべきものとされてきたのである。反官僚制の主張を堅持しながら、小沢が「生活第一」を打ち出すためには、かつての自民党政権のような業界保護でもなく、アクティベーション型の公共サービスでもなく、官僚制や公共サービスを経由せずに国民に直接届く現金給付がもっとも手っ取り早い手段であった。
同時に、社会民主主義、保守主義、新自由主義が併存する民主党の党内事情からしても、ベーシックインカム型の政策は、党内の合意を得やすいものであった。社会民主主義派は生活保障の強化という点で、保守派は在宅育児などこれまでの家族の形を維持するという点で、また新自由主義派は官僚制を肥大させない最低所得保障という点で、現金給付中心のマニフェストを支持した。・・・
本気のベーカム派など殆ど居ないにもかかわらず、他の派のイデオロギーがより強く出る政策を忌避することによる相対的な優位性によってベーシックインカム型の政策が選好されてしまったという皮肉な事態が、見事に摘出されています。
なお、両書の巻末広告のシリーズ続刊にあるとおり、この「福祉+α」の先の方に、
『福祉と労働・雇用』濱口桂一郎編著
というのが予定されております。
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