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2012年10月

2012年10月31日 (水)

今野『ブラック企業』正式な予告

文藝春秋のHPに正式な予告が載ったようです。

http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784166608874

今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』文春新書

定価:809円(税込)

発売日:2012年11月19日

ということで、宣伝文句も一緒にアップされています。

ブラック企業が日本を壊す! 正社員使い捨て時代への処方箋

就活生が脅える「ブラック企業」の実態とは? 労働者を壊す会社の見分け方から、武器としての法律と交渉術まで、1000件を越す実例から解説

就活生の最大の恐怖「ブラック企業」。大量採用した正社員をきわめて劣悪な条件で働かせ、うつ病から離職へ追いこみ、平然と「使い捨て」にする企業が続出しています。著者は一橋大学在学中からNPO法人POSSE代表として1000件を越える若者の労働相談に関わってきました。誰もが知る大手衣料量販店や最大手家電メーカーの新入社員集団離職など豊富な実例を元に、「ブラック企業の見分け方」「入ってしまった後の対処法」を指南。社会の側の解決策まで視野に入れた、決定的な1冊です。人事担当者も必読。

宣伝してるからといって、別に回し者ではありませんので、念のため。

労働者派遣法を根本から考え直す@『人材ビジネス』11月号

201211明日発行の『人材ビジネス』11月号に掲載されるわたくしの「労働者派遣法を根本から考え直す」をホームページにアップしました。

http://www.jinzai-business.net/gjb_details201211.html

http://homepage3.nifty.com/hamachan/jinzai1211.html

製造業派遣や登録型派遣の原則禁止が国会修正で削除され、日雇派遣の原則禁止と違法派遣の場合の労働契約申込みみなしなどが残った今回の労働者派遣法改正については、各論点ごとにいろいろと論評がされている。しかしながら、今必要なのは各論の議論とともに、それらを包括する総論の議論ではなかろうか。今こそ、労働者派遣法を根本から考え直すべき時期ではなかろうか。
 労働者派遣法を根本から考え直すというと、そもそも派遣という働き方は良いのか悪いのかという議論をすると心得る向きもある。実際、2007年頃からの労政審における議論の転換は、そういう派遣是非論が先導してきた。しかし今考え直すべきは、そういう派遣労働だけを取りだして、他の労働法分野の常識とは隔絶した特別扱いをしたがる発想そのものなのではなかろうか。
 労働法研究者の多くがうすうす気がついているにもかかわらず、敢えて言挙げしてこなかったことは、日本の労働者派遣法制が世界的に見て極めて異例な仕組みになっているということだ。先進諸国の派遣法制は労働法制の一環である。すなわち派遣労働者を保護するための労働法である。当たり前ではないかと思うかも知れないが、日本の派遣法はそうではない。派遣という本質的に望ましくない働き方を抑制するために派遣事業を規制することが目的の事業立法である。問題は、派遣という働き方が誰にとって望ましくないのか、だ。派遣法制定時の政策文書を見れば分かるように、「望ましくない」のは日本的雇用慣行の中にいる常用労働者にとってであって、派遣という働き方をしている労働者にとってではない。それを象徴する言葉が派遣法の最大の法目的とされる「常用代替の防止」だ。派遣という「望ましくない」連中が侵入してきて、われわれ常用労働者の雇用が代替されては困る、という発想だ。
 ではどうしたら常用代替しないように仕組めるか。最初に派遣法が制定された時のロジックは、新規学卒から定年退職までの終身雇用慣行の中にいないような労働者だけに派遣という働き方を認めるというものだった。それを法律上の理屈としては、専門的業務だから常用代替しない、特別な雇用管理だから常用代替しない、と言ったわけである。しかし、その「専門的業務」の中身は、結婚退職したOLたちの「事務的書記的労働」であった。「ファイリング」という職業分類表にも登場しない「業務」が最大の派遣専門業務となったのは、その間の論理的隙間を埋めるものであった。後には事務職なら最低限のスキルである「事務用機器操作」が専門業務としてその隙間を埋めた。このごまかしが世間で通用したのは、OLは新規学卒から結婚退職までの短期雇用という暗黙の了解の下に、OLの代替は常用代替ではないと認識されていたからであろう。この暗黙の了解が通じなくなると、もともと事務処理こそが派遣の太宗であったにもかかわらず、それが法律の建前の専門業務ではないというそれ自体は正しい理屈が暴走することになる。
 このごまかしに満ちた特殊日本的労働者派遣法を抜本的に作り替えるチャンスが実は一度だけあった。ILO181号条約の制定を受けて行われた1999年の派遣法改正だ。筆者は1997年のILO総会で同条約の採択過程に立ち会い、世界の政労使が交わす議論をつぶさに見てきただけに、この改正が新条約の思想に立脚して行われると考えていたが、残念ながらそうはならなかった。「常用代替の防止」という日本独自の派遣法思想は何の修正もなく維持された。専門業務だから常用代替しないというフィクションも維持された。付け加えられたのは、専門業務ではなく、それゆえ常用代替する危険性のある一般業務について、派遣期間を限定するから常用代替の危険性が少なくなるという新たなロジックである。
 誤解している人もいるのだが、これは欧州の派遣規制の一つである雇用期間限定とは異なる発想である。フランスが代表的だが、雇用契約は無期契約が原則であるから、有期契約をできるだけ限定しようという発想だ。そこで直用有期であれ派遣であれ、有期契約は限定し、長く使うのであれば無期雇用にせよという法政策がとられる。大事なのは、これは有期や派遣で働く労働者の保護を主眼においた労働者保護政策だということだ。賛成反対以前に、誰のための政策かをきちんと認識することが必要である。これに対し、1999年改正で導入されたのは、派遣労働者本人とはほとんど関係のない派遣会社による派遣先に対する派遣サービスの上限である。派遣労働者の保護など眼中になく、もっぱら派遣先の常用代替をしないことのみを目的としてつくられた日本的派遣法の、極めてグロテスクな論理的帰結であった。
 そのグロテスクさが露呈したのが、有名ないよぎん事件である。派遣法以外ではまともな日本の労働法では、有期契約を何回も反復更新すれば雇止めが制限される可能性が出てくる。今回の労働契約法改正で盛り込まれた雇止め法理だ。ところが裁判所は、派遣法は常用代替防止が目的だからといって、それを認めなかった。日本的派遣法は、派遣労働者を差別することを要求しているのである。
 今回の改正で「派遣労働者の保護」がタイトルに入ったにもかかわらず、以上のような「常用代替防止」思想には何の修正もされていない。派遣労働者に着目しない派遣期間限定の上に期間を過ぎた派遣先の労働契約申込みみなしを載っけた改正など、その論理的破綻を象徴していると言える。ずっと就労して3年に達する直前に入れ替えられた労働者は何の権利もなく、入れ替わりに入った労働者が申し込まれたとみなされるのだ。
 その他にも、特殊日本的派遣法の矛盾はあちこちに噴出している。今こそ、労働者派遣法を根本から考え直すべき時期ではなかろうか。
 

2012年10月30日 (火)

これ2009年の本なんだよなぁ

中嶌聡(キリン)さんのツイートで、3年前の拙著『新しい労働社会』が取り上げられていました。

http://twitter.com/kirinnnn/status/263112047305318401

「新しい労働社会」濱口桂一郎さん「日本の労働社会全体をうまく機能させるためには、どこをどのように変えていくべきかについて、過度に保守的にならず、過度に急進的にならず、現実的で斬新的な改革の方向性を示そうとした」(はじめにより)

http://twitter.com/kirinnnn/status/263112561434714112

①終身雇用②年功賃金③企業別労働組合を三種の神器と形容しつつ、これら三つはJOB型ではなくメンバーシップ型を前提においている雇用契約から必然的に帰結するものであると分析した上で、メンバー型の弊害としてメンバー外、周辺の非正規、女性、中小零細の雇用を分析。おもしろいなぁ。

http://twitter.com/kirinnnn/status/263112924799827970

以前読んだ時も整理の仕方がうまくよく理解したつもりだったけど今あらためて読むとどんどん入ってくる。これ2009年の本なんだよなぁ。すごいなぁ。ほんとに現場にとってありがたい。

はい、2009年の本です。

この本では言及していないさまざまなトピック、たとえば最近話題のブラック企業などの現象を考える上でも、本書の枠組みは有用だと思います。

笠木映里『社会保障と私保険』

L14436九州大学の笠木映里さんより、新著『社会保障と私保険 フランスの補足的医療保険』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。前著『公的医療保険の給付範囲』が助手論文の書籍化だったのに対し、本著は九大に行かれてからの研究のまとめで、とても興味深い領域を扱っています。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144361

混合診療問題や公的医療保険の財源問題など,医療保険をめぐる環境は激変している。本書はフランスの補足的医療保険(私保険)の歴史と現状を紹介・分析し,日本との対比を行いながら,仮に私保険を日本に導入するならば,その意義・課題を展開する意欲的研究書である。

Kasagiタイトルには「私保険」とありますが、素材になっているフランス(EU)の補足的社会保険というのは純民間ベースの私保険というよりは、労使による運営の職域保険という性格が強く、EU労働法制を見てきたわたくしの目からすると、たとえば差別禁止法制などで社会保険に準じるものとして位置づけられているという印象が強いのですが、それ自体をきちんと勉強したことはなく、笠木さんがこういう形でその歴史的な発展の姿を詳しく解説してくれるのは、大変有り難いことです。

序 編 本書の問題意識と検討対象
第1編  補足的医療保険─現状と発展の歴史
 第1章  補足的医療保険組織に関する現行法の定め
 第2章 発展の歴史
第2編  補足的医療保険をめぐる法制度の展開
 第1章  現代的な社会保障制度の創設と補足的医療保険の誕生
 第2章  補足的医療保険に関する体系的な法規制の試み
 第3章  欧州保険市場の統合と補足的医療保険
 第4章 デュアル・システムの制度化
 第5章 デュアル・システムの展開
 第6章 被用者の補足的医療保険
 第7章  補足的医療保険法令の展開と近年の動向
第3編 社会保障と私保険─日仏法比較
 第1章  フランス法における社会保障と私保険
 第2章  日本法における社会保障と私保険
 第3章 比較法的考察
おわりに・残された課題

2012年10月28日 (日)

違法労働から若者救わねば@東京新聞

Pk2012102802100055_size0なんだかタイミングがよすぎますが(笑)、東京新聞に「違法労働から若者救わねば 相談激増 直談判も」という記事が載っています。昨日紹介した『ブラック企業 日本を食い尽くす妖怪』の今野晴貴さんの活動が、写真入りで紹介されています。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012102802000115.html

いま、働く若者の三人に一人は非正規。経済が縮小する中、雇用の調整弁として利用されている現実がそこにある。一橋大学大学院生の今野晴貴さん(29)は、六年前にNPO法人をつくり、若者の労働相談を続ける。法律に違反する過酷な働き方を強いる「ブラック企業」。うつ病になるまで追い込まれる若者。そこに目を向けようとしない社会。腹立たしさともどかしさが原動力となっている。 (森本智之)

 「POSSE」(ポッセ、ラテン語で「力を持つ」の意)と名付けたNPOの設立は二〇〇六年六月。小泉改革で非正規雇用が増え、社会問題化していた。中央大法学部で労働法を学んでいた今野さんは「若者が仕事を辞めるのは精神的にひ弱になったからだ」という世間の論調に反発を覚えた。「若者が相談できる場所がなかった。だからつくろうと思った」。メンバーは二十代の学生が中心だ。

 始めてすぐ、相談がいくつも舞い込んだ。三カ月の雇用契約だったのに一カ月で突然打ち切られたり、給料を突然減額されたり…。「法律がこんなにも踏みにじられる世界があることに驚いた」

 〇九年夏、就職活動でも人気の大手ITコンサルタント会社の男性が訪れた。入社して数カ月で、うつ状態だった。上司に呼び出され、毎日二時間以上も「おまえはクズだ」と叱られたという。同僚の中には「度胸をつけるために」と駅前でナンパを命じられたり、「日本語がおかしい」と小学生の国語ドリルを数十冊解かされたりした人もいた。深夜の呼び出しなども常態化していた。

 巧妙なのは、会社側からクビにしないことだ。精神的、肉体的に追い込んだ上で、辞表を提出させようとする。結局、男性も自主退職を決断した。

 「派遣切り」が流行語になっていた。だが現実は想像以上のスピードで深刻さを増していた。「正社員になりたい」という若者の期待につけ込んで、簡単に使い捨てる「ブラック企業」がいくつも存在することが分かった。

 「実態を知れば知るほど、これまでの社会が労働者側の権利に無関心だったことが分かった」。終身雇用と定期昇給が当たり前だった時代は、休日出勤もサービス残業も「仕方ない」と皆、受け入れた。だがその仕組みが崩れた今、見返りもないまま、しわ寄せだけが若年労働者に一気に襲いかかっているように見える。

 POSSEが昨年一年に受けた相談は約四百件。それが今年は一千件ペースに激増しているという。上司の言動や労働時間など、記録を付けるよう助言し、それにもとづき今野さんらが会社へ直談判に訪れることもある。生活保護申請の支援や、大学や高校で労働者の権利を守るための出張講義も始めた。

 会社が人の尊厳や命を脅かす社会。「変えたい」という思いは募る一方だ。

駅前でナンパしてこいという業務命令にどこまで従う必要があるのかというのは、労働法の試験にいいかもしれません。

2012年10月27日 (土)

今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』文春新書

いささかフライング気味ですが、もうセブンネットショッピングに掲載されているので、こちらでも明かしちゃっていいでしょう。

http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1106220824

今野晴貴『ブラック企業の正体』文春新書

発売予定日 2012年11月19日

販売価格 809円

「正体」ですか・・・。ブラック企業という「奴の正体」はいったい何か?

すでに、川村さんとの共著『ブラック企業に負けない』や、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-2a4d.html

雑誌『POSSE』第9号などで

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-6c58.html

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/posse-b1f7.html

示されてきていますが、今回は新書一冊を充てて熱く語っています。

(追記)

ご本人からタイトルが変わっているというお知らせ:

http://twitter.com/konno_haruki/status/262109391556329472

濱口さんがフライング気味に紹介してくださいました。。文春新書から『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』を出版します。濱口さんの紹介は、企画の初期段階で検討されていたタイトルですね・・本書は「告発本」ではない新しい格差問題本だと自負しています

「正体」よりも、さらにおどろおどろしいタイトルになりましたね。さてはゾンビの呪いか。

(再追記)

さらに今野さんと常見さんののツイートから、

http://twitter.com/yoheitsunemi/status/262101180178644993

これは期待。グッドタイミング。今野さんと一緒にブラック企業論(いや、ブラック労働論)について語り合いたい→今野晴貴『ブラック企業の正体』文春新書

http://twitter.com/konno_haruki/status/262110227313328128

タイトルが企画段階のものだったので、ほんとうは『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』です。まあ、おどろおどろしいタイトルですが、かなりまじめな「労使関係論」の本だと思っています。常見さんの「ジム」も引用しておきましたよ!

http://twitter.com/yoheitsunemi/status/262119033443332096

ムサビで「ブラック企業とは何か?」と学生に問いかけたら「ワタミ!」という答が速攻でかえってきたわけですが、まあ、ああいう会社をどうするかも大事ですが、普通の平和な職場でもいつの間にかブラック労働をしているというのが問題だと思うわけですよ。

http://twitter.com/konno_haruki/status/262121834294697984

その通りだと思います。どんな企業でも「ブラック化」できてしまう。それが根本問題です。つまり、労し関係の解体と、雇用システムの機能不全です。そして、それを乗り越える新しいシステムは、ノマドのためではなく、普通の若者のためでなくてはならなりません。

http://twitter.com/konno_haruki/status/262122517672624129

こうした雇用システムの再構築という文脈で、ジムも引用させていただきました。今の政策論がエリート偏重で、普通の若者を無視していることの指摘です。 今回は、常見さんの他、木下武男先生と濱口桂一郎先生を引用しています。その辺の適当な本とは一味違うと自負します

正確にいうと、「エリート偏重」じゃなくて、ノンエリートにノンエリートとしての生き方を許さずにエリート(まがい)の生き方を要求するということですね。欧米型の本当の「エリート偏重」なら、ノンエリートは不満はあってもブラックにはなりにくい。

天声人語はネオリベサヨがお薦め?

本日の朝日の天声人語は、政局話から二大政党が思想的にぐちゃぐちゃというその通りの指摘をしたあと、最後は「あぁ、やっぱり朝日さんはネオリベ風味のリベサヨさんがお好きなのね!」というお言葉が・・・。

http://www.asahi.com/paper/column.html

甘党から悪党まで、党のつく言葉は多い。政党名に至っては増える一方だ。自由民主党、公明党、日本共産党などの老舗は辞書にもあるが、多くは載る間もなく消えていく▼国政に戻る石原慎太郎氏の新党は、「党」ぬきの凝った名前になるのだろうか。なにせ母体となる「たちあがれ日本」の命名者である。氏が閣下と尊ばれるネット上では、「石原軍団」「大日本帝国党」と党名談議がにぎやかだ▼80にして起(た)つ。「なんで俺がこんなことやらなくちゃいけないんだよ。若い奴(やつ)しっかりしろよ」。脚光が嫌いなはずもなく、うれしそうに怒る記者会見となった。心はとうに都政を離れ、「やり残したこと」に飛ぶ▼霞が関との闘いはともかく、憲法の破棄、核武装、徴兵制といった超タカ派の持論を、新党にどこまで持ち込むのか。抜き身のままでは、氏が秋波を送る日本維新の会も引くだろう。保守勢力の結集は、深さ広さの案配が難しい▼政界は再編の途上にある。旧来の価値観や秩序を重んじる保守と、個々の自由に軸足を置くリベラル。競争と自立を促す小さな政府と、弱者に優しい大きな政府。乱雑なおもちゃ箱のように、二大政党にはすべての主張が混在する▼安倍さん率いる自民党など保守の品ぞろえに比べ、反対側、とりわけ「リベラル×小さな政府」の選択肢が寂しい。今から再編の荒海に漕(こ)ぎ出すなら、この方位も狙い目だ。もとは「泥船」からの脱出ボートでも、針路を問わず、漕ぎ手しだいで船の名が残る。

「反対側、とりわけ「リベラル×小さな政府」の選択肢が寂しい」って、つまりそういう政治勢力に頑張って欲しいという天声人語氏の願望なんでしょうね。

2012年10月26日 (金)

ゾンビ襲来!

08249l本が送られてきたので開けてみると、中から出てきたのは

ギャアァァーー!!!

ゾンビが出てきた。

いや、『ゾンビ襲来』という本が出てきました。

こんな本を送ってくるのは誰だろうと表紙を見ると、谷口功一さんが訳しているではないですか。法哲学が嵩じてついにゾンビになったか。

実際、裏表紙見返しの著者・訳者紹介の写真を見ると、著者のドレズナー氏とともに、谷口さんともう一人の訳者の山田高敬さんがいずれも背筋も凍るゾンビ121026_201111_2の姿となって映っております。

え、改めて、本書を版元のHPの言葉で紹介しますとですね、

http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08249

「ゾンビの突発的発生は必ず起こる!」その日にどう備えるべきか? 国際政治学の世界的権威で、ゾンビ研究学会顧問のドレズナー先生が、対応策を分かりやすく提示。各国首脳必携!

なんと、ゾンビで国際政治学の理論を説明してしまおうという凄い本だったんですね。

  第1章 アンデッドへの…イントロダクション
 第2章 これまでのゾンビ研究
 第3章 ゾンビを定義する
 第4章 食屍鬼についての本筋から外れた議論
 第5章 リビング・デッドのレアルポリティーク(現実政治)
 第6章 リベラルな世界秩序の下でアンデッドを規制する
 第7章 ネオコンと死者たちの悪の枢軸
 第8章 ゾンビの社会的構築性
 第9章 国内政治…すべてのゾンビ政治はローカルか?
 第10章 官僚政治…ゾンビにまつわる“押し合いへし合い”
 第11章 人間だもの…アンデッドに対する心理学的反応
 第12章 結論…ってゆうか、そう思うでしょ?

実際、ゾンビたちが血しぶきをあげ、肉片を飛び散らせながら、冷静に国際政治学を「講義」してくれるというのですから、相当の奇書怪書ではありますな。

さらに本訳書は、谷口功一さんによる膨大な「ゾンビ研究事始」という解説が付いていまして、これが並々ならぬ怪文であります。

ゾンビ研究事始(谷口功一)
 1.著者ドレズナーと本書の内容について
 2.ラムズフェルド発言(Unknown unknowns)
 3.人間対ゾンビごっこ(Human vs. Zombies)
 4.ゾンビ研究学会(Zombie Research Society)
 5.ゾンビと哲学(philosophical zombie)
 6.ゾンビの社会文化史
 7.ゾンビと医学・生命科学
 8.現代議会主義におけるゾンビの精神史的地位
 9.余は如何にしてゾンビ愛好者となりし乎
  付録1 ブックリストなど
  付録2 本書の中に登場する映画、ドラマ、小説の初出一覧(本書登場順)
  付録3 独断と偏見に基づくお薦めの鑑賞リスト
  あとがき

そのうち、、「6.ゾンビの社会文化史」と「8.現代議会主義におけるゾンビの精神史的地位」がPDFで公開されていますので、是非今ここでリンク先に飛んで読んでみてください。

抱腹絶倒とはこのことか、という感じです。

常用代替防止法の賞味期限切れ

『労基旬報』10月25日号に「常用代替防止法の賞味期限切れ」を寄稿しました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo121025.html

 この10月1日から施行された改正労働者派遣法は、法律の題名に「派遣労働者の保護」が入ったことにも窺えるように、2000年代半ばから後半にかけての非正規労働問題の昂揚を背景に、派遣労働者の保護を主たる目的として改正された法律であることは間違いありません。しかしながらその改正内容は、(国会修正で削除された製造業派遣や登録型派遣の原則禁止だけでなく)結果的に残された日雇派遣の原則禁止に典型的に見られるように、依然として27年前の派遣法制定時の常用代替防止を至上命題とするイデオロギーから一歩も抜け出していません。

 もともと派遣の前身である労働者供給事業が禁止されたのは労働者保護の観点からでしたが、それが解禁される際の主たる問題意識は日本的雇用慣行に悪影響を与えないということに変貌していました。新規学卒採用から定年退職までの終身雇用慣行の中にいる正社員ではない分野についてのみ派遣を認めるという、ある意味で極めてエゴイスティックなロジックで派遣法は構築されたのです。その際用いられた「専門業務」というのが、ファイリングにしても事務用機器操作にしても、その名に値しない虚構の「専門職」であったことは、以前に書いたとおりです。

 この虚構を解消する絶好の機会がILO181号条約にもとづく1999年改正であったはずですが、残念ながら常用代替防止法という本質をより一層強化する方向の改正になってしまいました。同改正で導入された派遣期間の上限規制は、しばしば誤解されるような欧州の有期雇用の期間規制とは似ても似つかぬものであり、派遣元から派遣先への派遣サービスの上限規制に過ぎません。つまりそこには、派遣労働者というヒトには何の関心も向けられていないのです。派遣サービスによって代替されうる正社員のことしか心配していないのです。

 かかる派遣労働者保護には何の関心も向けない常用代替防止法という本質をそのままにして、それに派遣労働者保護という問題意識で作り出された期間経過後の派遣先の雇用申込みみなし規定を接ぎ木すると、こういう事態が発生します。すなわち、派遣期間制限はヒトではなくサービスにのみ着目していますから、2年11か月経ったところでヒトの入れ替えは十分あり得ます。そもそも派遣先はヒトに着目してはいけないのですから文句は言えません。その入れ替えられた新人派遣労働者は、しかし常用代替防止法たる派遣法においてはもうすぐ3年目という身分であり、それを過ぎたら派遣先は雇用を申し込んだものとみなされるのです。1か月前に雇用を打ち切られた前任者は、常用代替防止法たる派遣法上は何の権利もありません。

 こういうグロテスクな法状況をもたらす元凶である常用代替防止という法思想に対して、そろそろ賞味期限切れという三行半を突きつけるべき時期に来ているのではないでしょうか。

湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』より

14122ということで、世の中ではあちこちでヒーローが騒ぎを起こしているようですが、何にせよ、本ブログでも何回か取り上げてきた「保守と中庸の精神」に満ちた湯浅誠さんのこの言葉を、改めて拳々服膺したいですね。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14122

・・・尊重されるべきものが尊重されていないという不正義が自分の身に降りかかっていて、他にもそういう被害者がいるらしい。なぜそんな不正義がまかり通るのかといえば、自分のことしか考えず、自己利益のために正義を踏みにじる「既得権益」が世の中にあるからだ。だから、「切り込み隊長。頼むよ」ということで、バッサバッサとやってもらうことが正義にかなうと感じられるのですが、複雑な利害関係がある中でバッサバッサとやることで、気づいてみたら自分が切られていた、ということもあり得るでしょう。

なぜなら、自分にとっては「必死の生活とニーズ」であるものも、他の人からは「所詮は既得権益」と評価されることがあり、それが「利害関係が複雑」ということだからです。

自分はヒーローの後ろから、ヒーローに声援を送っているつもりだった。ヒーローはバッサバッサと小気味良く敵をなぎ倒し、突き進んでいく。「いいぞ。やれやれ」とはやし立てていたら、あるときヒーローがくるりと振り向いて自分をばっさり切りつけた。

一瞬何が起こったか理解できなかったが、遠のく意識で改めて周囲を見回してみたら、ヒーローをはやし立てている人は自分以外にもたくさんいて、そのうちの何人かは自分を指さして「やっつけろ」と言っていた。そのことに気づいたときには、自分はもう切られた後だった--という事態です。

実際、世の中には、自分が切りつけられる寸前なのに、やんややんやとヒーローに声援を送りつづけている無邪気な人が絶えませんね。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-9f6e.html(湯浅誠氏が示す保守と中庸の感覚)

・・・世の中の仕組みをどうするかというときに、「ステップを踏むなんてもどかしい」と「ウルトラCに賭ける」のが急進派、革命派であり、「ウルトラCなんかない」から「ステップを踏んでいくしかない」と考えるのが(反動ではない正しい意味での)保守派であり、中庸派であると考えれば、ここで湯浅氏と城氏が代表しているのは、まさしくその人間性レベルにおける対立軸であると言うことができるでしょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-3bac.html(湯浅誠氏がさらに深めた保守と中庸の感覚)

・・・わたくしがこれらの言葉の中に聞くのは、「他者をこきおろす者が、それが強ければ強いほど高く評価されるような状態、より過激なバッシングへの競争状態」が猛威を振るう現代において、ほとんど得難いほどの透徹した「保守と中庸の感覚」の精髄です。

なにゆえに、保守と中庸の感覚が期待されるはずの人々にもっともそれらが欠落し、かつてまでの常識ではそれらがもっとも期待されないような「左翼活動家」にそれらがかくも横溢しているのか、その逆説にこそ、現代日本の鍵があるのでしょう。

2012年10月25日 (木)

〔座談会〕労働者派遣法改正法をめぐって@『ジュリスト』10月号

L20120529310_2有斐閣の『ジュリスト』10月号に掲載された「〔座談会〕労働者派遣法改正法をめぐって」のうち、わたくしの発言部分を、11月号が発売されたので、ホームページにアップしました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/hakenzadankai.html

出席者
諏訪康雄  法政大学教授(司会)
Suwa Yasuo
濱口桂一郎  労働政策研究・研修機構
労使関係部門統括研究員
 Hamaguchi Keiichiro
徳住堅治  弁護士
 Tokuzumi Kenji
木下潮音  弁護士
 Kinoshita Shione

次のようなさまざまな論点について、わたくしの見解を述べております。

はじめに
Ⅰ.改正法の概略
Ⅱ.総論的な検討
1.研究者からの評価
2.労働者側からの評価
3.使用者側からの評価
4.評価をめぐる補足
5.施行後の見通し
6.専門業務という発想
Ⅲ.各論的な検討
1.日雇派遣の原則禁止
2.グループ内派遣の規制
3.賃金決定時の均衡考慮
4.マージン率公開等
5.無期雇用化の努力義務
6.契約解除時の措置
7.違法派遣への対応――労働契約申込みのみなし
Ⅳ.今後の派遣法制度の展望
1.法制度の展望
2.派遣先の団交義務
Ⅴ.残された課題
おわりに

2012年10月24日 (水)

今こそ共産党が必要なんだが・・・

産経の記事から、

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121024/chn12102409100000-n1.htm(中国で拡大する“異常”な所得格差 所得分配改革待った無し)

人事社会保障省が発表した「2011年中国薪酬(給与・ボーナス)発展報告」が話題を呼んでいる。ある保険会社の総経理の年収が6616万元(約8億4490万円)で、労働者平均の2751倍、農民工平均の4553倍にも達している、と報告の中で指摘されたからだ。政府はかねて検討中の所得分配改革案をまもなく発表するといわれているが、こうした異常なばかりの所得格差拡大にどのように対処していくのだろうか。

格差社会といえばアメリカといわれますが、何の何のそのアメリカが裸足で逃げ出す格差社会ぶりです。

先日の反日暴動の背景の一つにこういう絶望的な格差があることも繰り返し指摘されていますが、さて、

本当は、こういう事態に対して異議を申し立てるためにこそ、共産党という名前の政党はあったはずなんですが・・・、

(余談)

ちなみに、こういう社会は田母神さんたちとは波長が合うんじゃないでしょうか。

http://twitter.com/toshio_tamogami/status/248566605762658305

人権救済法案が閣議決定されました。弱者が権力を握ろうとしています。弱者救済が行き過ぎると社会はどんどん駄目になります。国を作ってきたのは時の権力者と金持ちです。言葉は悪いが貧乏人は御すそ分けに預かって生きてきたのです。「貧乏人は麦を食え」。これは池田総理が国会で言った言葉です。

2012年10月23日 (火)

専業主婦世帯の収入二極化と貧困問題

JILPTのディスカッションペーパーとして、周燕飛さんの「専業主婦世帯の収入二極化と貧困問題」がアップされています。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2012/12-08.htm

古典的なダグラス有沢法則以来、専業主婦というのは豊かな家計というイメージがありますが、実は結構貧困家庭なのに専業主婦というのもあって、それを経済学の見地から分析した論文です。

本文の最後の「終わりに」から

裕福の象徴と思われている日本の専業主婦のイメージを一変させるような調査結果を、JILPT が2012 年3月に発表した。JILPT の調査結果によると、専業主婦世帯の12.4%もが、貧困ライン以下の収入で暮らしている。その結果を直近の国勢調査と照らし合わせると、貧困層の専業主婦世帯の総数が、55.6 万世帯に上ると推計される。こうした世帯のほとんどは、食料や衣料等生活必需品の不足がそれほど深刻ではないものの、「子どもの学習塾」など教育投資の負担感が非常に強く、経済的な理由で子どもを通塾させられない家庭が非常に多いことが分かった。
計量分析の結果、専業主婦でいるケースの大半は、本人が直面している市場賃金が低く、家事・育児活動の市場価値が相対的に高いことに起因する合理的選択であることが分かった。ただし、貧困専業主婦の中にも、5人に1人は今すぐに働きたいのに、不本意ながら専業主婦でいる。働きたいのに、働けない社会環境的要素として、認可保育所不足が一因だと考えられる。推定結果では、200 人以上の規模の待機児童を抱える都市部では、貧困なのに専業主婦となるリスクが高くなっている。また、多くの主婦が望む時間の融通の利く仕事の求人が少ないという労働需要側の要因もある。
専業主婦世帯の貧困を解消する手段として、主婦の就労が有効だと考えられる。調査では、8割強の貧困専業主婦は早かれ遅かれ働きたいと考えているようである。そこで、仮に彼女たちが全員パート就業(JILPT 調査ベースで年収94 万円と想定)できていれば、専業主婦世帯全体の貧困率が、最大で7.3 ポイント(12.4%→5.1%)下がるとみられる。
貧困層の専業主婦が働くための環境整備として、保育所不足が深刻な都市部を中心に認可保育所を拡充させること17や、働く時間に融通の利く仕事の求人を増やすよう企業や公共団体等に働きかけることが必要不可欠である。また、貧困層の専業主婦が直面している市場賃金を高めることも、彼女らの職場進出につながるであろう。具体的には、無料職業訓練の提供、専門資格取得への支援等の手段が有効だと考えられる。

とのことです。

地震学者と経済学者

いや、地震なんか来ないよ、大丈夫だよと言ってたら地震が来てしまった、ということで禁固6年になる地震学者に比べたら、ケーザイ学者って気楽なもんだね。

いやサブプライムだろうが何だろうが大丈夫だよ、今やニューエコノミーだよ、金融万歳万歳といってたらリーマンショックが来てしまった方々は、何のお咎めもなしに意気軒昂なようですけど。

もちろん雑件です。コメントの要なし。

年齢に基づく雇用システムと高齢者雇用

本日、東大の学部横断型ジェロントロジー教育プログラムの一環として、「年齢に基づく雇用システムと高齢者雇用」を講義してきました。

http://www.iog.u-tokyo.ac.jp/education/core2.html

考えてみると、これも2008年に始めてからもう5年目になりますね。あんまり中身は変わっていませんが、講義のあとの質問で「最後がすごく悲観的な感じでしたが、わたしたちはどうすべきなんでしょうか」(大意)というような質問を受けて、最後の締めがかつてよりも悲観的なトーンになってたんだとあらためて認識しました。

NHKハートネットTV「貧困拡大社会」

Kikuchi2 残念ながら昨夜はよんどころない用事があり見られなかったのですが、昨夜と今夜の二晩連続で、NHK教育のハートネットTVで「貧困拡大社会」という番組を放送した(する)そうです。

http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/500/

Yuasa2 湯浅誠さんと戸板女子短期大学客員教授の菊池桃子さんが出演したようで、そのメッセージもリンク先に載っています。

テーマは、昨夜が「相次ぐ若者の過労死」で、今夜が「若者を追い詰めるブラック企業」とのことで、もろPOSSE路線ですな。

実は先日、私のところにも取材陣が見えて、若干法的な話などもしましたが、どの程度番組に反映しているかは分かりません。

昨日、都内某所で・・・

昨日、都内某所で某氏と対談。

ほとんど大部分の点で意気投合してしまう展開。

来月上旬には出ますので、よろしく。

2012年10月21日 (日)

職業教育は選択肢を狭めるか

森直人さんが「もどきの部屋」で、「教育と職業・政治 再論」というタイトルの研究会について「とりとめなく」語っていますが、その中で、

http://d.hatena.ne.jp/morinaoto/20121020/p1

・・・だから教育学者としての広田はずっと同じことを主張していて、それは「子どもに可能な限り選択肢を提示しろ」ということだと思う。その選択肢が貧しくなったときが危険なときなんだ。・・・

教育は子どもの選択肢を可能な限り狭めないものとして――もし望めるなら選択肢を増やしてやるものとして――構想されなければならない。すごい正統派教育学者の発想である。そして、そんな彼の眼に職業教育は子どもの可能性を一点に――ある特定の職業に、そしてある特定の職業「のみ」に――「限定」するものに映るから、「職業教育主義」には批判的なスタンスを崩さない。「特定の職業」のことしか考えなくなるし、「職業のために」という以外の可能性を教育に見出す視点も失ってしまうから。

もし批判されるべきだとしたら、そういう「職業教育」理解が「貧しい」ということだろうか。一面的、というか。職業陶冶論とか難しい言葉はあるけれど、「普通教育では適応できなかったのに職業訓練では皆勤で通した子」というのはいて、そういう子は職業教育・職業訓練でこそ可能性を拓くし、もしかしたらそういうところでしか救えない。そして、ある特定の職業に一心に打ち込むことによってそこから始めて世界を見る目が拓かれていく、というのは「教養人」たるにありうる回路の一つである。

ただし、広田的問題意識のうち私がとても重要で譲ってはならない一線だと思うのは、職業教育を重視するというあまり、学歴資格の制度的に固定化された格差を容認する方向性は持ち込むべきではないというところ。このあたりは濱口さんのおっしゃるところとは少し異なるのかもしれないけれど(よくわかってないけれど)、四年制の「大学(学士)」に対してそれより格下の教育機関・教育資格として制度化されるのはいろいろ不都合なことが起こり過ぎるのではないか(ここはだから佐々木輝雄がどうして企業内訓練に高校と同じクレジットを与えるという制度に拘泥したかを思い出すべきなんだろうと思う。彼は企業内訓練の経験「しか」ない者も「大学」に行ける制度なんだ、ということでこのクレジット制に拘っていたはずであって、そこは広田的問題意識と通じているんだと思う)。

なんだかかなり前にここで論じたデジャブを感じたりしますが、最後のパラグラフについて言えば、まさに現在の大学というものを職業教育機関として位置づけようとしない考え方こそが、職業教育を「四年制の「大学(学士)」に対してそれより格下の教育機関・教育資格として制度化」し、それを固定化しようとしているわけです。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post.html(「職業教育によって生徒は自由な職業選択が可能になる」はずがない)

なんだか、金子良事さんにケチばかり付けているようで、気が重いのですが、「職業教育についての論点整理(1)」というエントリが正直よく分からないので、感じたことを述べておきます。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-112.html

あまりにも危うい職業教育待望論、それから、それに便乗するという向きが多いので

ま、たしかに私も「便乗するという向き」の一人ですし、

職業教育及び職業訓練の必要を主張する議論の多くに対してはかなり疑問に思っています。

「職業教育及び職業訓練の必要を主張する議論」を展開しているのも確かですので、批判されるのはやぶさかではないのですが、

それにしても、職業教育訓練重視派が主張していることになっている、

命題1 職業教育によって生徒は自由な職業選択が可能になる

なんてのは、一体、どこのどなたがそんな馬鹿げたことを申し上げておるんでごぜえましょうか、という感じではあります。

もちろん、金子さんの言うとおり、

職業教育ならびに職業訓練はある特定のスキルを習得することを前提としています。つまり、ある職業教育を受けるということはその時点でもう既に選択を行っているのです。すなわち、選択が前倒しされるだけなのです。この世の中に無数にある職業の大半に接するなどということは実務的に絶対不可能です。ということは、職業教育はその内容を必ずどこかで限定せざるを得ない。

職業教育訓練とは、それを受ける前には「どんな職業でも(仮想的には)なれたはず」の幼児的全能感から、特定の職業しかできない方向への醒めた大人の自己限定以外の何者でもありません。

職業教育訓練は、

この意見が人々を惹きつけるのは「選択の自由」という言葉に酔っているからです。

などという「ボクちゃんは何でも出来るはずだったのに」という幼児的全能感に充ち満ちた「選択の自由」マンセー派の感覚とは全く対極にあります。

職業教育訓練とは、今更確認するまでもなく、

選択を強制されるのはそれはそれなりに暴力的、すなわち、権力的だということは確認しておきましょう。

幼児的全能感を特定の職業分野に限定するという暴力的行為です。

だからこそ、そういう暴力的限定が必要なのだというが、私の考えるところでは、職業教育訓練重視論の哲学的基軸であると、私は何の疑いもなく考えていたのですが、どうしてそれが、まったく180度反対の思想に描かれてしまうのか、そのあたりが大変興味があります。

まあ、正直言って、初等教育段階でそういう暴力的自己限定を押しつけることには私自身忸怩たるものはありますが、少なくとも後期中等教育段階になってまで、同世代者の圧倒的多数を、普通科教育という名の下に、(あるいは、いささか挑発的に云えば、高等教育段階においてすら、たとえば経済学部教育という名の下に)何にでもなれるはずだという幼児的全能感を膨らませておいて、いざそこを出たら、「お前は何にも出来ない無能者だ」という世間の現実に直面させるという残酷さについては、いささか再検討の余地があるだろうとは思っています。

もしかしたら、「職業教育及び職業訓練の必要を主張する議論」という言葉で想定している中身が、金子さんとわたくしとでは全然違うのかも知れませんね。

(追記)

そういえば、マックス・ウェーバーが、「職業」としての学問を論じた中でも、似たようなことを云ってませんでしたっけ。

(再追記)

黒川滋さんが、本エントリに対して、「職業教育に関するいろいろな思い出」というエントリで、

http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2010/02/213-3150.html

その意見の違いを見て、いろいろ葛藤した14~5歳のときのことの人生選択を思い出してしまった。

と、ご自分の若い頃の思い出を綴っておられます。

黒川さんは、

自分の中では、能力なんて大したものではないのではないかとずっと怯え続けていたこともあって、早く社会に役立つ能力を身につけたいと思っていたし、自宅の近所に県の肝いりで作った職業科総合高校もあったため、職業科に進学したかったのだが、やめなさい、普通科行きなさい、大学行きなさい、と言われ続けて断念し、結局、自棄気味に選んだ普通科高校に進学した。

のだそうです。そのとき、

その時の周囲のおとなたちの言い分は金子良事さんの論旨とほとんど同じ。労働者天国をめざすマルクス経済学の影響を受けた若者時代を送った親ほど、強く言われた。将来を固定するものではない、と普通科進学を強く言われた。

そうだったろうな、と、その情景が浮かびます。

(※欄)

正味のところ、濱口先生はどれくらい本気で「一般教育はいつまでも自由な選択を可能にする」説が唱えられているとお考えですか。

「誰の本気」のことを問うているのかによって、答えは全く異なってくると思います。

教育学者や教育関係者で職業教育を排撃し一般教育を主唱する人々は、たぶんこの上なく本気でそれが当該子どもの自由な選択を可能にすると思っているのだろうと思います。ただ、教育学者や教育関係者の現実感覚については、いろいろと感じるところがあることはご承知の通りです。

産業界や企業関係者が職業教育よりも一般教育を求めているとすれば、それは訓練可能性、可塑性ということに重点を置いているからでしょう。一言で言えば、その教育を受けた子どもを雇い入れる企業にとって「いつまでも自由な選択を可能にする」から望ましいという判断であって、これはこれで根拠のある現実感覚に裏打ちされたものであることはもちろんです。ただし、そこには、企業の自由な選択によって選択されなかった「何でも出来る可能性はあるけれど現実には何にもできない」子どもを誰が面倒見るかという観点はありません。もちろん、ミクロの企業にそんな観点を要求すべきでもありませんが、マクロ的には必要になる観点でもあります。

子どもに一般教育を勧める親や親戚の人々の「本音」は、おそらく金子さんが指摘するような面がかなりあるだろうと思われます。これまた、ミクロの最適化戦略という観点からすると批判すべきことではありませんが、そうやって社会的に必要とされるよりも多くの子どもがホワイトカラーになることを予定するコースに進み、いざ社会に出る段になって、そんなにたくさん要らないんだよなあ、という事態になったときに、どうするかという問題は残ります。
それをどうするかはもはやマクロ社会政策の問題であって、勧めた親や親戚の人の「本気」をどうこういってみても始まらないでしょう。わたしがミクロレベルの「本気」がどうであるかを追求することにあんまり関心がないのはそのためです。ミクロレベルの職業差別意識自体がいいとか悪いとか云ってみても仕方がないのであって、その親や親戚の差別意識のためにかえって人生行路を困難にしてしまったあまりできのよくない普通科高校生や選抜性の高くない文科系大学の学生をどうするかということの方が、政策的思考にはなじみます。

2012年10月20日 (土)

あまりにも香ばしいりふれは

これでなお、リフレ派はリフレという一点でのみ共通するのだから・・・などと戯言を並べ立てる人々が跡を絶たないのだから、呆れてものが言えないというか・・・。

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259508938687533056

倉山「白川さんって何故恥をかかないんですか?国際会議で」 田中「中国が日銀のバックにいるんですよ。日銀理論を中国とタイアップしているようなものですから。IMF世銀会議を中国がボイコットしていなければ、そこで見られたものは中国と日銀のタッグだったかもしれません」

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259520795569709057

倉山「マフィア国家中国共産党の資金源が日銀で~」 田中(うなずいて)「そうです」 倉山「全部日本人から巻き上げて日本人が怒ってない」 田中「20年間徐々に取られているから気が付かない」

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259522608809259008

倉山「だから、本当に軍事進駐の必要がある時まで、これを続けていられる。滅ぼしてさえくれないということですか」 田中「そうです。だから、いいところまで腐らせてパクって食べる」 倉山「本当に必要になったら殺す」 田中「そうです。そういう展開です」

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259674002342178816

倉山「白川さんよりもましな人は5000人位いるでしょうしね」 田中「います」 倉山「間違いなく」 田中「だって貨幣刷ればよいだけだもの。誰でもできますよ。子ども銀行の人だってできますよ」 倉山「私でもできるかもしれない」

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259674079064383488

田中「通りを歩いている人に「ちょっと日銀総裁やらない?」って」 倉山「いっぱいやっちゃいますね」 田中「とりあえずマネー刷れと。それだけですね」 倉山「貴方、愛国心ありますか?中国嫌いですか?と言ったら貴方もなれる。ほんと、そんなレベルですものね」

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259675063299743746

倉山「ただ日銀総裁っていうのは総理大臣よりも強くて偉いという」 田中「そうです」 倉山「これを叩きのめさなくてはならない」 田中「ただ、日本の場合、中国共産党の方が日銀よりも偉いってなっちゃっているから」 倉山「つまり、日銀総裁って植民地総督な訳ですね」

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259675653891313664

田中「いつの間にかね、恐ろしいですね」 倉山「つまり独立戦争って訳ですかね、日銀法改正は」 田中「そうです」

http://twitter.com/kobayashi_masa/status/259676782750494720

田中「経済政策を日本の国民に取り戻しましょうよ」 倉山「日銀法改正と白川討伐は独立戦争だという結論で宜しいでしょうか?」 田中「そうです」

いやはや・・・。

(追記)

それとも、良識あるリフレ派の皆様方は、やっぱり「りふれはなんて言うな」と仰せでしょうかね。

そうすると、本エントリのタイトルは「あまりにも香ばしいリフレ派」となってしまうんですけど、それでよろしい、と。

いや、皆さまがそれでよろしければ、わたくしはタイトル変更にやぶさかではありませんよ。どうせ自分の評判じゃないし。

派遣あり方研第1回で何が語られたのか?

10月17日に開催された第1回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会について、

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002m113.html

同研究会を傍聴していた出井さんが、このように各委員の発言を伝えています。

http://ameblo.jp/monozukuri-service/entry-11383216954.html(在り方研報道に見る各社スタンス)

お伝えしたように、私も同研究会を傍聴していましたが、登録型等々の規制強化については、有識者の方々から、まったくというほど、話しに出て来ておりません。

ちなみに、発言を抜粋として挙げますと、

「労働市場はサマ変わりしたのに、制度は古いままで、成人が子供服を着たままの状態」(小野晶子氏)

「派遣法はつぎはぎ改正が相次いだため、誰のための改正かわからなくなった。人材育成の観点が不可欠」(山川隆一氏)

「派遣における雇用の安定をどう考えるべきか。常用型と登録型、有期雇用と無期雇用などについて抜本的な議論が必要」(竹内寿氏)

「改正法で禁止された日雇い派遣も含め、改正法には問題が多い」(木村琢磨氏)

など、派遣制度に対するさまざまな疑問、批判が出されています。

いずれも、派遣法以外の労働法の世界のまともな感覚から、派遣法という特別な世界のあり方に疑問を呈している発言と言えます。

こういう意見がちゃんと出てこずに、およそあらゆる労働者保護法を敵視する人々と、他の労働法と隔絶した派遣法のイデオロギーに執着する人々の間でのみ激論が交わされ、まっとうな労働法感覚が押しのけられていたことこそが、いままでのこの分野の議論が歪んだものとなっていた最大の原因であることを思えば、ようやくこういうまっとうな感覚から議論が始まろうとしていることは大変歓迎されるべきことです。

ただし残念ながら、それを報道するマスコミの方は、依然として異常な感覚から脱却できていないようですが。

社会保障改革@読売解説スペシャル

本日の読売の「解説スペシャル」が、社会保障改革を取り上げていますが、まことに的確な解説で、政局しか見えない人や「りふれ」しか見えない歪んだ議論に悩まされている方々には大変有用です。

・・・それを理解するには、政権交代を挟んだ議論の系譜を見なければならない。

野田政権がめざす社会保障・税一体改革は、自公政権で麻生内閣が設置した「安心社会実現会議」の路線を受け継いでいる。それまでもさまざまな会議が提言を重ねてきたが、安心会議は与謝野馨・経済財政相(当時)が主導し、野党だった民主党のブレーン的存在の宮本太郎・北大教授を敢えて中心メンバーに迎え入れたことで、大きな転換点となった。・・・

・・・自公政権の末期に民主党の考え方を取り入れ、政権交代後は民主党の非現実的なマニフェストを修正することで、議論は超党派的に収斂しつつあった。

ところが、民主党内でマニフェスト至上主義者を抑えきれず、棚上げした新年金創設と後期高齢者医療制度廃止が論戦のテーマとして息を吹き返した。国民会議は、そんな民主党の混乱を収めるために自民党が出した助け船でもあった。

民自公3党が政権交代を挟んで合意形成した一体改革を円滑に実施していくためにも、国民会議を早急に設置し、地に足の着いた議論を始めるべきだ。・・・

こういう、分かっている人にとっては今更いうまでもないくらいの事柄が、政局バカやりふれはにはまったく見えなくなってしまうという事態こそが、現代日本の最大の宿痾なのでしょう。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-9a3d.html(欧州型社民主義者としての与謝野馨氏)

人権擁護法案をめぐって

いろんな意味で興味深い

http://twitter.com/toshio_tamogami/status/248566605762658305

Tbty1fu0p2ttveeie97h_reasonably_sma人権救済法案が閣議決定されました。弱者が権力を握ろうとしています。弱者救済が行き過ぎると社会はどんどん駄目になります。国を作ってきたのは時の権力者と金持ちです。言葉は悪いが貧乏人は御すそ分けに預かって生きてきたのです。「貧乏人は麦を食え」。これは池田総理が国会で言った言葉です。

http://twitter.com/t_ishin/status/259311311094157312

A_reasonably_smallメディアは人権擁護法案にとことん批判してきた。言論の自由の抑制に繋がると。しかしメディアの中できちんと自浄作用が働かなければ、メディアの抑制も必要になる。確かに僕は公人だから、個人がメディアに攻撃を受けるのと少し文脈が違うが、それでもメディアがどこまで今回の件を自己検証できるのか

ものごとを筋道ではなくてあっち側とこっち側、敵と味方という構図でしか考えられない人々ほど、頭が混乱していそうですね。

いや、ものごとを「誰が」じゃなく、筋道で考える人であれば別に混乱してないでしょうが。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-0adf.html(なるほど、こういうつながり)

2012年10月19日 (金)

福祉+α『格差社会』『福祉政治』

ミネルヴァ書房から新しいシリーズ「福祉+α」が出されることになり、その第1巻『格差社会』第2巻『福祉政治』をお送りいただきました。

102525まず橘木俊詔編著『格差社会』は、

http://www.minervashobo.co.jp/book/b102525.html

「格差社会」という言葉が使われるようになってから十数年が経過し、国民の主要な関心事の一つとなっている。そして政策面においてもこれを是正するために改革が実施されたが、どれだけ有効性を持っているのだろうか。本書では、気鋭の執筆陣が実証データをもとに「格差」に関して様々な角度からアプローチし、現状と課題をあぶりだし、今後取るべき対策を論じる。

中身は次の通りで、後述の『福祉政治』と比べると、どちらかというとすでに名の通った研究者が執筆されている感じです。

総 論 格差をどう考えるか(橘木俊詔)
第1章 地域間格差(浦川邦夫)
第2章 隠れる女性の見えない貧困(室住眞麻子)
第3章 子どもの格差(阿部 彩)
第4章 働き方による格差(金井 郁)
第5章 外国人対日本人(村上英吾)
第6章 障害者と格差社会(勝又幸子)
第7章 若年者の格差(太田聰一)
第8章 高齢期における所得格差と貧困(山田篤裕)

102527それに対して、もう一冊の宮本太郎編著『福祉政治』の方は、わりと若手中心の執筆陣になっていますね。

http://www.minervashobo.co.jp/book/b102527.html

社会保障と雇用をめぐる制度の形成・維持・再編を目指す「福祉政治」。まず、その分野を概観した上で、年金、ライフスタイル、高齢者、エコロジー、世論、政策評価、言説、ワークシェア、ポスト社会主義国との比較などのキーワードを個別に分かりやすく説明する。「福祉政治」の現状と課題、そして今後への提言の全体像を立体的に捉える。

総 論 福祉政治の新展開(宮本太郎)
第1章 年金改革の政治(伊藤 武)
第2章 ライフスタイル選択の政治学(千田 航)
第3章 高齢者介護政策の比較政治学(稗田健志)
第4章 エコロジー的福祉国家の可能性(小野 一)
第5章 福祉政治と世論(堀江孝司)
第6章 福祉政治と政策評価(窪田好男)
第7章 比較福祉国家論における言説政治の位置(加藤雅俊)
第8章 ワークフェアと福祉政治(小林勇人)
第9章 ポスト社会主義国における福祉政治へ(仙石 学)

これら若手研究者の論文も結構興味深いのですが、ここではやはり冒頭宮本太郎さんの総論で、近年の自公政権から民主党政権にかけての時期の政権の性格を、ワークフェア、アクティベーション、ベーシックインカムという3つの言説の対抗関係で読み解いたあたりがとても面白く、その中の「小沢型ベーシックインカム」の政治的性格を摘出した一節を引用しておきます。

・・・なぜ現金給付が前面に打ち出されたのであろうか。それは民主党が国民の強い行政不信に依拠した官僚制批判を繰り返してきたことと関わっている。こうした官僚制の影響力こそ自民党政権の負の遺産であり、民主党政権が打ち破るべきものとされてきたのである。反官僚制の主張を堅持しながら、小沢が「生活第一」を打ち出すためには、かつての自民党政権のような業界保護でもなく、アクティベーション型の公共サービスでもなく、官僚制や公共サービスを経由せずに国民に直接届く現金給付がもっとも手っ取り早い手段であった。

同時に、社会民主主義、保守主義、新自由主義が併存する民主党の党内事情からしても、ベーシックインカム型の政策は、党内の合意を得やすいものであった。社会民主主義派は生活保障の強化という点で、保守派は在宅育児などこれまでの家族の形を維持するという点で、また新自由主義派は官僚制を肥大させない最低所得保障という点で、現金給付中心のマニフェストを支持した。・・・

本気のベーカム派など殆ど居ないにもかかわらず、他の派のイデオロギーがより強く出る政策を忌避することによる相対的な優位性によってベーシックインカム型の政策が選好されてしまったという皮肉な事態が、見事に摘出されています。

なお、両書の巻末広告のシリーズ続刊にあるとおり、この「福祉+α」の先の方に、

『福祉と労働・雇用』濱口桂一郎編著

というのが予定されております。

2012年10月18日 (木)

後藤和智さんの批判について

本ブログのエントリ

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-761b.html(海老原嗣生『女子のキャリア』)

への当の海老原さんのコメントに対して、かつて本田由紀さんらと共著を出した後藤和智さんがツイートで激烈な批判をしていますが、

http://www.facebook.com/kazutomogotooffice/posts/465396016836832(続:海老原嗣生の正体見たり枯れ尾花)

やや議論が偏狭かつイデオロギッシュになっている感があり、それ自体が肝心の労働問題から目を逸らさせる道具になってしまう危険性すらあるように感じられます。

まずもって、

《若年雇用が「劇的に悪化した」わけではないでしょう。にもかかわらず、マスコミは若年雇用にばかり目を向けます》《そろそろ、若者問題と女性・高齢者問題。雇用問題の力点を変えて、そこから日本型雇用を責める時期ではないでしょうか。》

という言説を

少なくとも私は、この発言から、海老原が「若者雇用は大した問題ではない」と言っており、かつそこを問題視することを批判することによって若年雇用の問題を、結局のところ自己責任として処理していると判断せざるを得ません。

と捉えてしまうのは、「俺の問題だけが大事だ」「いや、私の問題だけが大事よ」という無意味な喧嘩を煽るやり方であって、実はそれ自体が、ほんの数年前までの構図の単なる反転にしかなっていないように思われます。

いわゆる「若者問題」が問題として可視化されてきた時に、フェミニスト系の論者が、「【男の】若者の非正規労働がクローズアップされて初めてみんな騒ぎ出した。女の非正規にはみんな騒がなかったのに」(大意)と批判した問題がここに露呈しているのであって、より正確にいえば、家計補助的な主婦たる「女」と小遣い稼ぎ的な「学生」だけが非正規だと思われていた(現実はまた別)からこそ、その認識枠組みと不協和を生ずる現象が「若者問題」として浮かび上がったわけです。

より細かくいえば、認知的不協和を生ずるはずの現象を見ても不協和を起こさないために、「夢見るフリーターには困ったもんじゃ」という不協和解消のための慰安言説が振りまかれ、それが十年にわたって影響したために若者対策の着手が遅れ、そのイデオロギーを批判するというのがまさに後藤さんたちの仕事となったわけです。

しかしながら、不協和解消のための慰安言説を批判することの重要性は言うを待たないとしても、それがそれだけにとどまっていいわけでもありません。慰安言説が必要とされるのは、その前提となる大きな認識評価枠組みが厳然と存在しているからなのです。

もちろん、問題を問題と認知するために既存の認識枠組みはまずは重要ですが、それがその枠組み自体の問い返しにつながらないならば、結局、かつてのような家計補助的労働者のみが非正規であった「古き良き時代」に戻ればいい(再三、現実はまた別。)というアナクロな議論につながる可能性すらあります。

後藤さんの議論自体がそうなっているというわけではありませんが、最後のところで、

例えば原田泰の『日本はなぜ貧しい人が多いのか』(新潮選書)などは、若年雇用の問題について「構造問題」ばかり採り上げられるがむしろ重要なのは景気の問題である、という指摘をしている。こういう議論こそが若年雇用言説のある種の歪みを正し、よりよい政策論に結びつけるものなのである。

と、りふれはに引き寄せられるような言い方になっているところを見ると、若干懸念の余地はあるようです。

(追記)

ちなみに、上記のような認識評価枠組みに何の疑いも感じないままに、現前の「問題」(それが真の問題であるかどうかはともかく)に拙速に対応しようとした一つの典型的な事例が、一昨日のフォーラムでも批判の的になった日雇派遣の禁止の例外とされるものです。

一 当該日雇労働者が六十歳以上の者である場合

二 当該日雇労働者が学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条、第百二十四条又は第百三十四条第一項の学校の学生又は生徒(同法第四条第一項に規定する定時制の課程に在学する者その他厚生労働省令で定める者を除く。)である場合

三 当該日雇労働者及びその属する世帯の他の世帯員について厚生労働省令で定めるところにより算定した収入の額が厚生労働省令で定める額以上である場合

ここにくっきりと露わになっている属性決定的家計補助的労働イデオロギーを、残念ながら後藤さんの批判は抑制するのではなく、むしろ煽り立てる危険性があるのではないでしょうか。

2012年10月17日 (水)

遠藤公嗣,筒井美紀,山崎憲『仕事と暮らしを取りもどす ― 社会正義のアメリカ ― 』

0258620遠藤公嗣,筒井美紀,山崎憲『仕事と暮らしを取りもどす ― 社会正義のアメリカ ― 』(岩波書店)をお送りいただきました。

http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/1/0258620.html

どのようにすれば私たちの生活に公正さを取り戻せるのか.そのヒントは,新自由主義国家アメリカにこそ存在した.深刻化する貧困にあらがって,弱い立場の人々の権利をまもり,助け合いを支える――社会正義を追い求める新たな労働運動・ネットワークを紹介し,その背景を分析する.

この本、本ブログで紹介したJILPTの研究報告書

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-0914.html(『アメリカの新しい労働組織とそのネットワーク』)

の市販版です。もっとも、報告書が

序論 目的と方法
第1章 労働組織の法的・制度的環境とその通史的概観(830KB)
第2章 新しい労働組織とニューディール型労使関係(1.0MB)
第3章 職業訓練と職業斡旋―労働力媒介機関の多様性と葛藤(818KB)
第4章 「相互扶助」を軸とする労働組織の活動とネットワーク化(869KB)
第5章 ワーカーセンターと権利擁護団体(776KB)
第6章 本調査結果に対する米国社会政治史的考察
まとめと政策的インプリケーション(767KB)

という構成であるのに対して、本書は

日本の読者へ   トーマス・A・コーハン
はじめに   〈遠藤公嗣〉
第1章 権利をまもる
――労働組合でない権利擁護組織の発展  〈遠藤公嗣〉
1 ワーカーセンター
2 全国ネットワーク・労働組合との関係

第2章 雇われずに働く
――助け合う組織づくりとワーク・ルール立法運動   〈筒井美紀〉
1 生活保障のために団結を――フリーランサーズ・ユニオン
2 ホームヘルパーたちが所有する会社――CHCA

第3章 スキルを身につけ仕事を探す
――地域密着型の職業訓練と斡旋   〈筒井美紀〉
1 地域と中小零細企業の支援組織――WIRE-Net
2 職業の相談・斡旋・訓練をワンストップで――ミシガン・ワークス!

第4章 支え合う社会を復活させる
――ソーシャルネットワーク化する組織   〈山崎憲〉
1 労働運動とコミュニティ・オーガナイジング・モデル
2 新しい労働組織の概要
3 10年先を見据えて

あとがき   〈山崎憲〉

と、再編されています。

本書の編集担当の中山永基さんは、

格差と貧困に覆われた日本社会.その現実は,どのようにしたら変えることができるのでしょうか.そのヒントが,「貧困大国」「新自由主義国家」といわれるアメリカにこそ存在します.

 既存の労働組合とは異なる新しい労働組織とそのネットワークが,いかに社会のニーズをくみ取り,非正規雇用などこれまでの労働運動から排除されてきた人たちを包摂し,若い人たちをも巻き込みながら,現実を変えつつあるのか――.

 全米を席巻したオキュパイ運動にもつながりうる,アメリカにおける社会変革の「今」を詳細にレポートします.

と紹介しています。

ここでは、一番冒頭に置かれているコーハンさんの「日本の読者へ」から、メッセージのコアの部分を

・・・伝統的な労働組合が労働者を組織するモデルはもはや壊れていて取り替えられる必要があるのです。

・・・労働組合はこれまで交渉力の源泉をストライキに置いていました。これももはや有効ではなくなりつつあります。使用者が労働組合に突きつけるさまざまな譲歩の規模を縮小させるという程度の役割でしかありません。本書が取り上げる「次世代労働組合」は、知識と技術を労働者に授けることで雇用主との競争力を獲得することを試みるとともに、雇用に関連した政策の推進に関してたよりになる運動やネットワークを作ろうとしています。・・・

本書は先駆的なコミュニティ組織も取り上げています。これらの組織は労働者の権利を守るさまざまな組織と提携するパートナーとなっています。・・・

社会的な運動としての「労働」は、そこに関連のあるあらゆる組織に拡大して労働者の権利を守るために結集させる必要に迫られています。・・・それは、労働者を教育し、職業資格を与え、転職のための手助けをする組織であったり、労働者の社会的かつ政治的な必要に応えるコミュニティや民族、移民、宗教に根ざしたグループであったり、労働条件を改善するために雇用主に圧力をかけるNGOであったりといううようにさまざまです。

ライフネット生命出口社長の推薦書は・・・

先ほど、ライフネット生命社長の出口治明さんが、本ブログの記事を引いて、

http://twitter.com/p_hal/status/258501120320733184

先日、とある議員の方と話をしましたが、「社会保障の教科書」を読まれていなかったので、強く、お勧めしておきました。

とツイートされました。

実は、出口さんは昨日のダイヤモンドオンラインで、

http://diamond.jp/articles/-/26333(たった2週間で昨年1年分を上回る売り上げ 前評判の高い「厚生労働白書」を読んでみよう)

を書かれていたのです。

10月11日の読売新聞(朝刊)に、面白い記事が載っていた。「東京・西新宿の書店で、異例のブックフェアが開かれている。一般になじみの薄い2012年版厚生労働白書をテーマとしたフェアで、この2週間で白書は昨年1年分を上回る部数が売れたそうだ」「今回の白書は、厚労省の20~30歳代の若手職員が斬新な感性を生かして執筆した。マイケル・サンデル教授の『正義論』を引用、各種制度の歴史も詳述し、『社会保障の教科書』との評価も受けている」。

 筆者も、常時、生きた情報(数字・ファクト)の宝庫である各種白書を愛用しているが、では、つとに前評判の高い今年の厚生労働白書(以下「白書」と呼ぶ)を読んでみることにしよう。

以下、

国語ではなく算数で考える

格差・貧困問題にもっと目を向けよう

子どもの健全な育成こそ最優先されるべき事柄

という項目ごとに、まことにまっとうな意見を展開しておられます。

是非リンク先をじっくりお読みいただきたいところですが、厚生労働白書2012への出口社長の評価はこの言葉に尽きるのでしょう。

白書は、日本社会の長所として、「経済水準の高さ、就業率の高さ、教育水準の高さ、長寿社会を実現した質の高い保険医療システム」を挙げる一方で、日本社会の課題として「所得格差、男女間格差、社会的つながり、社会保障の安定財源確保(≒社会保障と税の一体改革)」を指摘している。白書の中では、このような認識に至る思考のプロセスが、数字・ファクト・ロジックで丁寧に語られているので、ぜひ一読してほしい。筆者は大変勉強になった。

本白書が発表されたときに、間髪を入れず、

http://blogos.com/article/46029/(劣化著しい厚生労働白書 - 鈴木 亘)

などというそれ自体劣化著しい闇討ち的文章を書いたケーザイ学者とは大違いですね。

Bookfirst

『勤務医の就労実態と意識に関する調査』

Kinmui 既に新聞発表のときに紹介しておりますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/4862-be71.html(宿直がある者の平均睡眠時間は4時間未満が半数弱。翌日は通常勤務が86.2%)

JILPTの調査部門の郡司正人、新井栄三、奥田栄二による調査のまとめが『資料シリーズ』として冊子にまとめられました。全文がPDFファイルで読めますので、是非こちらを。

http://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0102.pdf

研究の目的と方法

医療従事者(勤務医等)は、長時間労働をはじめとして厳しい勤務環境に置かれている。また、医療従事者の偏在など需給面での問題も顕在化するなかで、将来にわたり医療従事者の労働需要を充足し、安全・安心の医療提供体制を構築・維持していくために、医療従事者の労働条件の改善や需給調整の仕組みの再構築など、労働政策的観点からの総合的な対応が喫緊の課題となっている。そこで、当機構では、医療従事者のなかでも、勤務実態などを把握できる調査が比較的少ない勤務医を対象とするアンケートを実施した。
調査は、民間の医療領域専門調査会社が保有する医師モニターのうち、全国の20床以上の病院に勤めている24歳以上の勤務医を対象にインターネットを用いて実施した。調査実施時期は、2011年12月1日から12月9日。配信数は、11,145人であり、無効票を除いた有効回答数は3,467票(有効回収率31.0%)である。

主な事実発見

他の勤務先を含めた1週間当たりの全労働時間の平均は53.2時間で、「60時間以上」(「60~70時間未満」「70~80時間未満」「80時間以上」の合計)の割合は40.0%となっている。昨年1年間に実際に取得した年次有給休暇の取得日数は、約半数(47.2%)が「3日以下」(「0日」「1~3日」の合計)となっている。
医療業務に携わるうえでの満足度をみると、「満足である」(「満足している」「まあ満足」の合計)とする割合でもっとも高いのは、「勤務先(職場全体)」(64.0%)であり、次いで、「勤務先の仕事の質、内容」、「患者(とその家族)との関係」などとなっている。一方、「不満である」(「不満」「少し不満」の合計)とする割合がもっとも高いのは、「給料・賃金の額」(37.7%)であり、次いで、「休日・休暇の日数」、「研究等スキル向上やキャリアアップに費やす時間」、「労働時間の長さ」などとなっている。
勤務医の勤務環境改善の障害事由は、「地域・診療科による医師数の偏在」が53.8%ともっとも多く、次いで「医療行為以外の業務量の多さ」、「絶対的な医師不足」、「時間外診療、救急診療の増加」などとなっている(図表1)。勤務医の勤務環境を改善するための方策について尋ねたところ、「医師数の増加(非常勤・研修医を含む)」が55.4%ともっとも多く、次いで「当直明けの休み・休憩時間の確保」、「他職種(看護師、薬剤師等)との役割分担の促進」、「診療以外の業務の負担軽減」などとなっている(図表2)。

政策的含意

地域・診療科によって医師不足感を感じる割合が高くなっており、長時間労働や休日を取得しづらい実態が確認されている。仕事や職場に対する満足度は高いが、収入面や休暇の取りづらさ、長時間労働などに不満を抱く者も多い。地域・診療科による医師不足の解消のみならず、高齢化社会の下での過度な医療需要の抑制への対策を行うとともに、医師が医療業務に集中できる環境整備や休暇の確保等による疲労回復など、勤務環境の改善策が求められる。

政策への貢献

医療従事者の勤務環境の改善は、厚生労働省で検討課題となっており、本調査はそのための基礎資料として使用されている。

派遣問題フォーラム速報

N121016_2 昨日の派遣問題フォーラムについて、早速アドバンスニュースに速報が載っています。

http://www.advance-news.co.jp/news/2012/10/post-622.html(改正派遣法の課題浮き彫りに  第一人者5人が活発な議論展開)

初めに、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員が「労働者派遣法を根本から考え直す」と題して基調講演した。続いて、静岡大学人文社会科学部の本庄淳志准教授が「改正労働者派遣法の問題点からみた今後の論議のあり方」、ニッセイ基礎研究所生活研究部門の松浦民恵主任研究員が「派遣社員のキャリア形成の課題と今後の展望」、慶応大学大学院商学研究科の鶴光太郎教授が「非正規雇用改革~近年の政策対応の評価と残された課題」と題して、それぞれの立場から問題点や提言を発表した。

この後のパネルディスカッションでは、東大大学院情報学環の佐藤博樹教授がコーディネーターとなり、改正派遣法を中心に5人による意見交換があった

写真では左側の席で、佐藤博樹先生の横にいるのが私です。

私の講演メモをHPにアップしておきましたので、関心のある方はご覧下さい。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/2012forum.html

2012年10月16日 (火)

2012派遣問題フォーラム

本日のシンポジウムの最終御案内です。

http://www.npo-jhk-support119.org/theme29.html

【2012派遣問題フォーラム】

『改正労働者派遣法の課題と今後の雇用問題を考える!』

 参加無料(先着300名)

◆日時 2012年10月16日(火) 13:00~17:30[12:30受付開始]
◆会場 第一ホテル両国 5階「清澄」TEL03-5611-5211
◆主催 NPO法人 人材派遣・請負会社のためのサポートセンター
◆協賛 株式会社 労働新聞社

基調講演
 「労働者派遣法を根本から考え直す」
  労働政策研究・研修機構  濱口桂一郎統括研究員

プレゼンテーション
 ①「改正労働者派遣法の問題点からみた今後の論議のあり方」
  静岡大学人文社会科学部法学科  本庄淳志准教授

 ②「派遣社員のキャリア形成の課題と今後の展望」
   ニッセイ基礎研究所生活研究部門 松浦民恵主任研究員

 ③「非正規雇用改革-近年の政策対応の評価と残された課題」
   慶應義塾大学大学院商学研究科  鶴光太郎教授

パネルディスカッション
 ・コーディネーター   :東京大学大学院情報学環 佐藤博樹教授  
 ・コメンテーター    :基調講演者、濱口桂一郎統括研究員
 ・パネラー        :鶴教授、本庄准教授、松浦主任研究員

2012年10月15日 (月)

海老原嗣生『女子のキャリア』

9784480688903 常見陽平さんに続いて、海老原嗣生さんからも「女子」本をいただきました。『女子のキャリア <男社会>のしくみ、教えます』(ちくまプリマー新書)です。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480688903/

この写真にはついてませんが、腰巻きには

ハピキャリでいくか
バリキャリでいくか

「雇用のカリスマ」が徹底検証

という惹き句が載っています。

このちくまプリマー新書というシリーズ、岩波でいえばジュニア新書という位置づけですが、なかなか大人こそが読む値打ちのある本が結構揃っていて、この海老原本もその例に漏れません。

何よりも、労働社会のもっとも深層のレベルでジェンダーの問題と真正面から向き合った本として、その軽めの外観に関わらず、重要な名著というべきでしょう。

まずはなにより、本屋で手にとって、第1章「クリスマスケーキってなんですか?-女子のキャリアの歴史」をぱらぱらとでも立ち読みしてください。今の若い世代の男女にとってはおそらくかなりの程度外国のような少し前の日本社会の姿が描かれています。

しかしその姿は、決して外国ではなく、実は今日の日本社会のありようを極めて深い次元で規定し、その表層に咲いたさまざまな花々を左右しているということが、読み進めていくうちに分かってくるはずです。

すごく深い本ですよ。

(追記)

本書で一番感動的なストーリーは、第4章「事務職ってダメな生き方ですか?」に載っているある庶務ドリーム女性です。ちょっと長いですが、これは要約じゃなく原文をそのまま載せたいお話なので。

・・・その女性は、総勢15名ほどの小さなアパレル系の専門商社で貿易事務として働いている26歳の人でした。このくらいの規模の会社だと、もちろん貿易事務は全体を任され、その上、最近ではネット通販事業も任されているような、パワフルな女性です。聞くと、Eコマース用のカード決済の仕組みと自社の経理システムの連携、サイトの受発注システムと発送外注の連携なども、実務に詳しい彼女が主役となって行ったそうです。

こういう小さな商社の場合、男の人は営業で忙しく、またMDやデザイナーなどは専門職のために、自分の領域以外の仕事をやりたがりません。デモ、会社の業績は芳しくないために、社長は次々に新しい事業に手を出そうとします。そうしたとき、誰もそれを担当する人がいないために、大体は彼女に任されることになるのです。そして、それを一つずつ片付けていくうちに、彼女は立派な複々線キャリアとなっていました。こんな彼女は転職相談のセミナーでも、ピカピカに光っていました。

そして、「思い切りチャレンジしたい」という彼女に、私はEコマース系のベンチャー企業の、社長秘書の仕事を紹介しました。大手だと未経験で秘書を採用してくれはしないのですが、ベンチャーの場合は、経験よりも実務能力を重視します。社長はすぐに彼女を気に入り、採用となりました。

その後、もちろん彼女はぐんぐん頭角を現していきます。社長秘書業務は当たり前で、社長不在時の代理対応なども行い、さらに商談にも同行するようになっていきます。採用業務で人手が足りないときに、人事を兼務することになり、そこでも段取り上手でしかも応募者のハートをつかむのは上手なので瞬く間に評価がうなぎ登りとなり、なんt、上司の課長を追いやって、自らがそのポストに就いてしまったのです。

そうして2年した頃には、管理部門担当の役員にまで上り詰めていました。・・・・・

実はこのあと、もう一段驚きのどんでん返しが待っているのですが、それは是非本書をお買い求めの上お読み下さい。

『平成史』に労働の章がないのだが・・・

9784309624501 さて、先週金曜日にご紹介した小熊英二編著『平成史』ですが、私は敢えていわなかったのですが、確かにそういえばそうなんですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-fbb3.html(小熊英二編著『平成史』)

http://twitter.com/shinichiroinaba/status/257461845907107840

実は小熊『平成史』に欠けていて気になっているのは「労働」である。「労働」の章を立てずにおもにそれを「教育」「社会保障」で論じる。これはありうべき選択である。

まさに、仁平さんの章と貴戸さんの章が、それぞれ労働問題の最隣接分野たる社会保障と教育からこの平成の四半世紀の労働のありようを照らし出しているわけですが、さはさりながらそれはあくまで外側から照らし出しているのであって、この間に起こった雇用システムをめぐる変転をそれとして正面から描き出しているわけではもちろんありません。

少なくとも労働問題に関わるものの目からすれば、このある意味における欠落は大きなものですが、しかしながらかかる労働問題の問題としての欠落それ自体がこの平成時代という一時期を特徴づけるものということもできるわけで、それをわざわざこと挙げて妙な因縁をつけるような野卑な真似をするものではないというのが、礼節を心得た人間の行為規範であろうと思われます。

いや、もちろん、稲葉振一郎氏自身は、妙な因縁をつけているわけではなく、

http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20121012/p1

しかし平成史を標榜する本だというのに「経済史」の章がありません。政治サイドの充実(小熊稿のほか菅原琢、中澤秀雄)に比べると何とも……。

と呟いているだけではあるのですが、調子に乗って、

http://twitter.com/hidetomitanaka/status/257122347952250881

稲葉振一郎さんが指摘していたが、平成史なのに経済の側面が事実上なし。経済問題は別物だという認識が強いみたい。経済的知という技術的知への軽視や、経済的認識のむずかしさを嫌うただのなまけもの的様相かな>小熊英二編著『平成史』。

などと罵倒し、

http://twitter.com/atkyoudan/status/257222249671692288

『平成史』で経済が扱われてないとかいう批判、自分の読みたいことが書かれてないからケチつける「~~の視点が足りない」系の典型的なダメ書評ですね。お前の理想の本はお前が書け。

とからかわれている人もいるようなので、気をつけた方がいいとは思います。

もちろん私も気をつけます。

2012年10月14日 (日)

誰か、『物語 労働の歴史』を書いてよ!

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-c615.html(共産党独裁国家ではスト権はないのだよ)

の※欄で、こうつぶやいたのですが、

考えてみると、労使関係システムが近現代史の中でどういう風に発展してきたかについて、玄人向けではなく素人向けに、広く国際的視座で解説したわかりやすい本って、今ではほとんどないのですね。

そういう庶民レベルの常識の欠落が、ああいう根本的に勘違いしているねとうよの発生のもとになっているようにも思われます。

誰か、『物語 労働の歴史』を書いてよ!

2012年10月13日 (土)

OECD『若者の能力開発』上西さん自身によるまとめ

45926662cover2015020english_2本日、下のエントリで紹介したOECD編、岩田克彦・上西充子訳『若者の能力開発 働くために学ぶ』(明石書店)について、訳者の上西充子さんご自身が、ツイッター上で内容をわかりやすくかつ端的に紹介しておられます。

http://twitter.com/mu0283

さらにそれを、母熊こと本田由紀さんがトゲっておられます。

http://togetter.com/li/389304

それをそのままこっちにコピーするというのはまことに手抜きの最たるものと言えますな。

OECD『若者の能力開発-働くために学ぶ』2012年、明石書店(Learning for Jobs, 2010) 岩田先生との共訳。10/16あたりに大型書店に出る予定。簡単に概略(引用ではない)とコメント(カッコ内)を(後でまとめます)。

(1)Learning for Jobsは17の国・地域における若者向けの初期職業教育訓練(Initial Vocational Education and Training)に関する国別レビューの統合報告書。日本は含まれていない。

(2)(OECD諸国では職業教育訓練の重要性に対する認識が高まっているが、日本はそうではないようで。濱口桂一郎さんがご指摘のように。)

(3)なぜOECD諸国で初期職業訓練への関心が高まっているか。若年失業問題が深刻であるがOECD諸国は非熟練職種では国際競争力がない。そのため、職業教育訓練によるスキル形成と、労働市場への若者の円滑な移行が重要。

(4) 最低賃金や雇用保護などの規制が緩い労働市場では、雇用主は若者を低賃金で雇用できる。しかし若者は低スキル・低賃金の職にとどまって安定的な雇用に移行できない恐れがある。

(5) より規制された労働市場においては、見習い訓練のような道筋を欠いている場合には、若者の労働市場への移行は困難を抱えがち。しかし、企業のニーズにあった見習い訓練が実施されている場合には、見習い訓練を通じて若者の能力を見極めることもでき、円滑な移行・採用が可能。

(6) 後期中等教育段階(日本の高校に相当)で職業教育訓練に参加している学生の割合は国によって大きな差。チェコ、オーストリア、フィンランド、スイスなどは6割以上。韓国、日本などは3割以下。

(7) 15歳の若者が30歳までに就こうと考えている仕事として高スキルのブルーカラーの仕事が選ばれる割合を見ると、チェコ、ハンガリー、ドイツ、デンマークなどでは15%を超えるのに対し、韓国や日本は5%以下。後期中等教育段階における職業教育訓練の規模の違いが影響。

(8)職業教育訓練はどのような職業向けのプログラムを提供するか。そこでは産業界のニーズ、将来のスキル・ニーズ、生徒の選考、がいずれも考慮される必要がある。職業プログラムに職場訓練を組み込めば、職業プログラムの構成は産業界のニーズを適切に反映しうる。

(9)1つの職業で生涯のキャリアをまっとうすることが難しい今日にあっては、新たな職業に向けた学び直しも重要。そのためには、職業プログラムに参加する学生も生涯職業能力開発を可能とする基礎スキル(基礎学力)を身に付けておく必要がある。

(10)しかし、職業プログラムに参加している学生はアカデミックな学習に熱心になれないことも多い。そういう学生向けには、職業的な実践に即した学習が有効。ただしそのためには、一般教育の教員と職業教育の教員の連携が必要。

(11)学生が職業プログラムを選択するにあたっては、キャリアガイダンスが重要。適切なキャリアガイダンスは、学生の職業志向を現実的なものにする。そのためには心理カウンセリングからは独立しており、労働市場情報を十分に把握しているキャリアガイダンス専門職が必要。

(12)また、キャリアガイダンス専門職が利用可能な、労働市場情報の整備が必要。(日本はインターネット上に整備された職業情報「キャリア・マトリックス」が仕分けによって廃止されてしまいました・・)

(13)職業教育訓練の教員と訓練指導員には、高齢化や職場経験が限られているという問題がある。教員や訓練指導員が職場で過ごす時間を制度的に確保すれば、産業界のニーズを知ることができる。また、職場の従業員がパートタイムで職業教育訓練の指導員となることも有効。

(14)職業教育訓練に職場経験を組み込むことは、産業界のニーズにあった職業教育訓練を学校が行うこと、産業界のニーズにあわせてそれぞれの職業プログラムに参加する学生の人数を調整すること、最新の設備を通して学生が現実的なスキルを身に付けることを可能とする。

(15)さらに、職場経験を通じて学生は、仕事の中で直面する問題状況への対処など、教室では学べないスキルを身に付けることができる。ただし、適切な職場経験ができるためには、職場訓練の質管理が重要。

(16)職業資格の枠組みづくりやスキルのアセスメントシステム、職業プログラムの有効性を判断するためのデータ整備(修了生進路調査など)など、職業教育訓練制度を支援する諸ツールの開発が重要である。

(17)別添AはOECD諸国における全国的な職業教育訓練センターを紹介。別添Bは各国の初期職業教育訓練の強みと弱み、そしてOECDからの勧告を収録。最後に用語解説と岩田先生による訳者あとがき。

(18)(とまあ、日本にとってはあまりなじみのない話題が多いわけですが、こういった論点になじみがないままでよいのか、という問題も。例えば日本ではキャリア教育は注目されてきているものの、職業教育への注目度は依然として低い。)

(19)(「職業教育なんて、やっても産業界のニーズに合うものにはならない」といった決めつけが日本では強い。しかし、この本では、職業教育訓練をどうやって産業界のニーズに適合させるか、が論じられている。)

(20)(また、日本のキャリア教育は学生に「やりたいこと」を問いがちだけれど、産業界のスキル・ニーズとのすり合わせは行われていない。職場経験が組み込まれてない職業プログラムは、産業界のニーズとかけ離れた学生の選好を反映した偏ったものとなるリスクが高い。)

(21)(普通教育中心でも高校生や大学生が熱心に学んでいれば問題ないかもしれないが、実際は教育機関に所属しながらも学びから離れていく生徒・学生も多いわけで。また、新卒採用からこぼれ落ちる若者もいるわけで。そういう日本の現状の課題を考える上でも、国際比較の視点は必要か、と)

(22)(あまり部数が出る本でもないので、3800円+税とお高いのですが、研究費や図書館予算でご購入いただければ、と・・)

改正労働契約法はジョブ型正社員への第一歩

さて、明日は学習院大学で日本労働法学会の第124回大会があり、「有期労働をめぐる法理論的課題」というテーマで大シンポジウムが行われるわけですが、

http://www.rougaku.jp/contents-taikai/124taikai.html

統一テーマ:「有期労働をめぐる法理論的課題」
司会:青野覚(明治大学)、米津孝司(中央大学)

• 趣旨説明(9:30~9:40)
•第1報告:「有期契約労働と派遣労働の法政策
――規制原理としての労働権保障の観点から――」(9:40~10:20)
報告者:有田謙司(西南学院大学)
• 第2報告:「有期雇用(有期労働契約)の法規制と労働契約法理
――労働契約法改正と契約論アプローチ――」(10:20~11:00)
報告者:唐津博(南山大学)
• 第3報告:「有期労働契約法制と均等・均衡処遇」(11:00~11:40)
報告者:沼田雅之(法政大学)
• 第4報告:「非正規労働者の社会・労働保険法上の地位」(13:50~14:30)
報告者:小西啓文(明治大学)

• 質疑応答・討論(14:45~17:00

2012_10 それとはまったく無関係に、『情報労連REPORT』10月号の「hamachanの労働ニュースここがツボ!」では「改正労働契約法はジョブ型正社員への第一歩」という小文を書きました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororen1210.html

ご笑覧いただければ幸いです。

去る8月に、長年の懸案だった労働契約法の改正案が成立し、有期契約労働者の雇止め防止と処遇改善に向けた第一歩が進められました。この改正については、入口規制が設けられなかったことなど、その欠点を指摘する向きもありますが、現実の政策決定過程に関わった人々からすれば、労使のぎりぎりの妥協の産物としてこれ以上の成果は期待できなかったのが本音でしょう。

しかしながら、わたしはむしろ今回の改正が入口規制ではなく出口規制という形をとったことに積極的な意味を見い出したいと思っています。それは、日本における「正社員」という概念の特殊性に関わります。

世界中どこでも、有期契約と無期契約という対立軸は明確で、有期契約の問題点が更新を繰り返した挙げ句に期間満了で雇用終了されてしまう雇止め問題にある点も共通です。しかしながら、日本の特殊性は、無期契約でフルタイムで直接雇用であれば「正社員」であるとは言えないところにあります。パート法8条1項に裏側から規定されているように、日本の「正社員」(パート法上は「通常の労働者」)とは「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が・・・変更すると見込まれるもの」なのです。

職務や勤務場所が決まっていないのが「正社員」なのですから、有期契約労働者が無期契約になっただけでは「正社員」にはなりません。今回の改正では、無期化しても労働条件は同一とわざわざ明記していますから、これは日本型「正社員」とは異なる無期契約労働者になったということのはずです。それは、日本以外の国の普通のレギュラー・ワーカーと同じということでもあります。

わたしはそれを「ジョブ型正社員」と称し、会社のいうがままに働きすぎになりがちな「正社員」とは異なるオルタナティブとして提示してきましたが、現実の労働社会が日本型「正社員」と非正規労働者に両極化されている状況では、その導入はなかなか難しい面があります。もし労働契約法改正で入口規制が導入されていたとしたら、またもや有期契約でなければ日本型「正社員」でなければならないという不毛な二者択一が出現した可能性もあります。その意味で今回、入口規制なしの出口規制で、有期契約から転換される非日本型「正社員」タイプの無期契約労働者が明確に出現することになるわけで、ある意味では怪我の功名とも言えるのではないでしょうか。

名古道功・吉田美喜夫・根本到編『労働法Ⅰ集団的労働関係法・雇用保障法』

Isbn9784589034540名古道功・吉田美喜夫・根本到編『労働法Ⅰ集団的労働関係法・雇用保障法』(法律文化社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03454-0

集団的労働関係法および雇用保障法を詳細に概説した体系的教科書。初学者以外に労働者にも理解しやすく丁寧に叙述し、学説・判例は客観的に解説した。旧版刊行(06年)以降の動向をふまえ改訂。

ということで、中級レベルの教科書として手頃です。第1章が総論(吉田美喜夫・名古道功)、最後の第8章が労働市場法(根本到)で、その間に集団的労働法が6章分はいっているという構成です。

根本さんの書かれた第8章のそのまた一番最後の項で、労組労供についての説明といくつかの裁判例を紹介しているのは、このクラスの教科書としては珍しいのではないかと思います。

ここでは、第1章の最後の「労使紛争解決システムの課題」のそのまた一番最後の二つの段落を引用しておきます。

労使紛争が増加する中で、紛争処理システムが多様化し、それぞれに適合的な解決制度が整備されたことは評価しうるであろう。これまで泣き寝入りしていた労働者も解決を求めやすくなったと言える。しかし、真に実効性のある解決となっているかは慎重に検討する必要がある。例えば、労働者にとってアプローチしやすいのは、相談窓口が労働基準監督署に置かれている個別労働紛争解決制度であるが、あっせんとの解決制度であるため、必ずしも満足のいく解決につながっていない。

最近、コミュニティユニオンが注目されている。その理由は労働者の個別紛争の相談に熱心に取り組み、団交を通じた自主解決において成果を上げているためである。労働者が「駆け込み訴え」を行うのは、多様な紛争解決システムへのアプローチのハードルが依然として高い、あるいは実効性に欠けているためであるように思われる。こうした点の改善が求められるとともに、紛争の発生を防止することが重要である。このためには、第1に経営者が労働法の知識を有することが必要になる。第2に、駆け込む労働者の大多数は中小零細企業で働いている。そこでは企業内労働組合の組織率は低く、労使コミュニケーションは不十分であると推測できる。従業員代表制も含めて、組合の存在しない企業において従業員の声を反映させる制度の検討が必要である。

今日の問題状況を手際よくまとめていると思います。

OECD『若者の能力開発』

45926662cover2015020englishまだ明石書店のサイトには邦訳版の表紙がアップされていないので、とりあえず原著の表紙を左に貼っておきます。

OECDの「Learning for Jobs」の邦訳が、岩田克彦さん上西充子さんの共訳で明石書店から出版されました。早速おおくりいただき、ざっと目を通させていただきました。ありがとうございます。

http://www.akashi.co.jp/book/b104187.html

OECD17ヵ国における職業教育訓練(VET)システムについてのデータをまとめた一冊。世界的な景気停滞のなか、若者の就労支援、労働市場におけるキャリア開発のために有効なプログラムはどうあるべきか、今後の政策を探る。

本ブログでも何回も述べてきたように、その「OECD17ヵ国」に我が日本国は参加しておりません。この職業教育訓練の研究プロジェクトと表裏一体の関係にある若者の雇用に関しては、日本政府もちゃんと参加し、その成果物も、日本に関する報告書、全体の総合報告書いずれも明石書店から邦訳(濱口監訳、中島ゆり訳)が出版されているのですが、この落差はいったい何なのだろうか・・・というあたりに、実は日本の病弊が現れているという見方も出来ないではありません。

もちろんそれは、OECDの労働担当部局のカウンターパートにあたる日本政府の部局と、OECDの教育担当部局のカウンターパートにあたる日本政府の部局の、この問題に対する感度の差が現れているわけですが。

とりあえず、その「OECD17ヵ国」に韓国が入っていて、さらにOECD加盟国ではないのになぜか中国も最後の別添B「レビュー対象国のアセスメント(評価)概要と政策勧告」に名を連ねているということだけ述べておきます。そのリストに、日本はないのです。そういうことに危機感を感じないくせに・・・いやまあ、それはともかく。

さて、その内容ですが、

序文
 謝辞

 働くために学ぶ(Learning for Jobs):概要と政策メッセージ

第1章 職業教育訓練の課題
 第1節 なぜ職業教育訓練に目を向けるのか
 第2節 若者を対象とした職業教育訓練プログラムの価値
 第3節 初期職業教育訓練は労働市場の特性にいかに依存するか
 第4節 職業教育訓練プログラムを現在の世界に適合させる
 第5節 OECDレビュー
 参考文献

第2章 労働市場のニーズに合わせる
 第1節 財源と職業プログラムの構成
 第2節 訓練された者を適切な人数確保する
 第3節 職業プログラムにおけるスキルの適切な構成を確保する
 第4節 労働市場のニーズに合わせる:結論
 参考文献

第3章 キャリアガイダンス
 第1節 キャリアガイダンスの主な特徴
 第2節 なぜキャリアガイダンスが重要か
 第3節 課題
 第4節 政策対応
 第5節 キャリアガイダンス:結論
 参考文献

第4章 有効に働く教員と訓練指導員
 第1節 職業教育訓練教員と訓練指導員を分類する
 第2節 職業教育訓練機関における教員と訓練指導員
 第3節 産業界に属する訓練指導員のための準備
 第4節 職業教育訓練機関と産業界とのリンクを強化する
 第5節 有効に働く教員と訓練指導員:結論
 参考文献

第5章 職場学習
 第1節 職場訓練の強み
 第2節 職場学習の質を保証する
 第3節 雇用主および訓練生にとってのインセンティブ
 第4節 職場学習:結論
 参考文献

第6章 制度を支援する諸ツール
 第1節 利害関係者を巻き込むメカニズム
 第2節 職業教育訓練制度を支援するため資格枠組みを活用する
 第3節 実践的なスキルをアセスメントする共通ツールを開発する
 第4節 労働市場での成果に関するデータを強化する
 第5節 エビデンスベースの改善
 第6節 政策を支援するツール:結論
 参考文献

 別添A OECD諸国における全国的なVET(職業教育訓練)センター
 別添B レビュー対象国のアセスメント(評価)概要と政策勧告
 用語解説

 訳者注
 訳者あとがき

「若者の能力開発」という邦題は、現在の日本で手にとってもらうためにはやむを得ないと思いますが、原題の「Learning for Jobs」って、なかなかに味わいのあるフレーズですよね。

「働くために学ぶ」

そう、学習とは、仕事をするために、仕事をする上で必要な知識を身につけるというのが出発点であったはずなのです。


だいたい暗黒卿がリフレ派の本流かよw

http://twitter.com/sunafukin99/status/256722739392565250

だいたい暗黒卿がリフレ派の本流かよw

だから、わざわざまっとうなリフレ派諸氏と差別化するために「りふれは」というラベルを作って差し上げておりますのに、それがけしからからん!!!とひたすら責め立てる方々の群れ群れ群れ・・・。

どないせぇちゅぅんじゃ。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-0adf.html(なるほど、こういうつながり)

(追記)

それにしても、「りふれは」ではなくても、リフレ派諸氏というのは、リフレという言葉尻にのみ敏感に反応し、その前後のエントリに労働問題に関する大変興味深い論点がてんこ盛りに載っていても、ほとんど食指が動かない、というよりそもそも不感症?状態であるということがよく分かりました。そういう感性だからこういう事態になるのでしょ、という話に、ほんとはなるはずなんですがね。

2012年10月12日 (金)

小熊英二編著『平成史』

9784309624501 小熊英二編著『平成史』(河出ブックス)を、執筆者の一人である仁平典宏さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309624501/

この本は、

私たちはどんな時代を生きているのか。政治、地方‐中央関係、社会保障、教育、情報化、国際環境とナショナリズム……気鋭の論者が集い、白熱の議論を経て描く、新たなる現代史のすがた。

ということで、こういう方々がこういうテーマを執筆しています。

序文(小熊英二)
総説——「先延ばし」と「漏れ落ちた人びと」(小熊英二)
政治——再生産される混迷と影響力を増す有権者(菅原琢)
地方と中央——「均衡ある発展」という建前の崩壊(中澤秀雄)
社会保障——ネオリベラル化と普遍主義化のはざまで(仁平典宏)
教育——子ども・若者と「社会」とのつながりの変容(貴戸理恵)
情報化——日本社会は情報化の夢を見るか(濱野智史)
国際環境とナショナリズム——「フォーマット化」と擬似冷戦体制(小熊英二)
平成史略年表

このうち、私の関心分野と深い関わりがあるのは、仁平さんの社会保障の章と、貴戸理恵さんの教育の章です。

仁平さんは、昭和に成立した日本型生活保障システムが平成期に入って変容を遂げていく姿を、3期に分けて描き出していますが、とりわけそのネオリベラリズムのゼロ年代としての平成Ⅱ期について、

・・・以上の動きは、一見、他の先進国のネオリベラリズムと同じように見える。だが、他のヨーロッパ諸国では、包摂的な社会保障制度を削減するためのものだったのに対し、日本では、それが未形成のうちにネオリベラリズムを迎えたという重要な違いがあった。

・・・だから日本版ネオリベラリズムは、実は広範な支持も得やすい。反対者が、規制緩和や民営化によって作られたものが、これまでの「標準」と比べていかに質が低いかを説いても、失業者や待機児童や介護難民のために、まずは規制を緩めて量を確保するべきだという声の前に空転する。特にこれまで「標準」の外部に排除されていた人にとっては、規制緩和に伴う自由度の増大や選択肢の拡大は福音である。実際に供給量が増える中で、反対者は不当な「既得権益」を護持する立場とみなされるだろう。この文脈ではネオリベラリズムを正当化する上で、「市場競争が質の高いものを生み出す」云々という教義を持ち出す必要すらない。・・・平成Ⅱ期に日本版ネオリベラリズムを普及させる上で、「思想」や「神学」は不要だった。卓越したネオリベラリズムの理論家もいなかったが、自己責任論と「困っている人の声」の双方を、文脈に応じて駆使できる言説磁場があった。・・・

と、その「神学なきネオリベラリズム」を浮き彫りにしています。

次の貴戸さんの章も、「学校と企業を貫くメンバーシップ主義」という視角から、昭和の「学校と企業が成功しすぎた社会」が揺らいでいく過程として平成史を描いていきます。

貴戸さんの絶妙な比喩を引用すれば、

「学校と企業が成功しすぎた社会」とは、例えば「意図せざる絶妙なもたれ合いの結果、なぜか二者で三人分の荷物を持ち得ていた状態」であったと言える。そんな二者が、時代の波に足を取られてバランスを崩し、全部の荷物を落としてしまったらどうか。「それは二人の仕事だ」と認識してきた周囲は、「ちゃんとやれ」と文句をいうばかりで助ける術を知らない。しかし一度バランスを崩した以上、三人分の荷物など二度と持てない。いや、もたれ合いに慣れた身体では、ひとりが一人分の荷物すら、持てないかも知れない。--そうした中、ますます多くの若者が「仕事をして自活し、パートナーを得て子供を産み育てる」という人生の可能性から疎外されるようになっている。

この貴戸さんの論文は、私の雇用システムについてのメンバーシップ型という議論を、教育システムまで包摂したより大きな枠組みとして再構築したものになっていて、マクロ近現代史を論じていく上では極めて重要な提起だと思います。

ちなみに、編著者の小熊さんの総論は、『社会を変えるには』に比べると共感できる記述が多いのですが、正直なお淡々と年表を繰っているような感じもあり、総論に過ぎるという印象を持ちました。

木下武男『若者の逆襲 (ワーキングプアからユニオンへ)』

12876 木下武男さんより『若者の逆襲 (ワーキングプアからユニオンへ)』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/793

旬報社のサイトに、「はじめに」がまるごと載っていますので、それをそのまま引用します。木下さん自身による要領の良い紹介になっています。

「今時の若い者は」という言い方は、古今東西いつの時代にもありました。それは若者の純粋さや未熟さからくる行為に、上の世代が違和感を感じてのことだと思います。しかし、現代日本社会で、同じような感情から若者をみるとするならば、それは現実を見誤ることになるでしょう。若者とその上の世代とのギャップは、意識の問題ではなく、働き生活する客観的基盤の大きな「断絶」からきているからです。
   非正規雇用の働き方で、自分の生活をなりたたせなければならない若者たち、正社員なのに過酷な労働を強いられる若者たち。二〇〇〇年代以降、この「断絶」は広がり、深まっています。
   二〇〇六年から、突如として巻きおこった若者の異議申し立ての運動は、日本の労働社会の大きな変化から生まれたのです。「反貧困」・「反格差」をもとめるこの運動は、規模や水準は違いますが、緊縮財政政策に反対するヨーロッパの運動や、「ウォール街を占拠せよ」の標語のもとで起きたアメリカの若者の運動とも共通するところがあります。
   この「新しい運動」の登場や、民主党新政権の誕生は、人びとにいくらかの希望をもたらしたように感じました。しかし、民主党政権は動揺し、自壊しつつあります。人びとは再び時代閉塞感を強めているように思われます。そして、この閉塞感を利用して、過激な新自由主義勢力が台頭しつつあります。
   ユニオン運動はこの時代の転換点にたって、いかなる構想力をもたなければならないのか。それは、若者を中心にした働く者の世界に何が起きているのか、そして「新しい運動」はどのような意味をもっているのか、これらを分析することをつうじて理解されると思います。

   この本は次のように構成されています。第1章は、一九九〇年代から二〇〇〇年代にかけて戦後日本の労働社会に生じた激変を、時代の経過にそいつつ、若者の貧困と過酷な労働に焦点をあてて分析しています。第2章は、その貧困や過酷な労働を克服するために、社会労働運動がきちんと戦略をたてる必要にいま迫られていること、それは、福祉国家とジョブ型労働市場の形成という方向にあることを示しました。第3章と第4章は、その方向に向かっていくためには、これまでの運動を根本的に改革する必要があることを検討しています。
   本書では三人の若者と四つの団体の発言を文中に入れています。どんなに貧困で過酷な労働のもとにあっても人びとは立ち上がりません。三人の若者はワーキングプアからユニオンにたどり着いた少数者です。四つの団体は、「新しい運動」の一翼を担って運動をすすめた団体のリーダーです。ここでの発言は個人的なものであり、団体を代表してのものではありません。四団体についてここで紹介しておきます。
●首都圏青年ユニオン
二〇〇〇年に、パート・アルバイトなど不安定雇用の青年たちが中心となって結成された労働組合です。文字どおり若者を対象にしたユニオンです。つねに若者の現実をリアルに捉え、とくに貧困問題と労働問題とを結合して運動を進めています。「反貧困たすけあいネットワーク」にも積極的に参加しています。
●東京東部労組
一九六八年に結成された地域合同労組です。労働相談活動では定評がある組合で、グーグルの労働相談の検索ではトップクラスにランクされています。若者を対象にした組合ではありませんが、二〇〇九年の大会で選出された委員長の菅野存さんと、書記長の須田光照さんはともに三〇歳代です。ユニオン・リーダーが若者ということです。
●NPO法人「POSSE」
二〇〇六年につくられた若者を対象にする労働NPOです。労働相談活動を軸に労働法を社会に普及させる取り組みや、東日本大震災の復興のためのボランティア活動、年四回発行の雑誌『POSSE』の刊行などの活動をおこなっています。代表は二九歳、編集長も二九歳、事務局長は二五歳という、若者による若者のための労働NPOです。
●NPO法人ガテン系連帯
二〇〇六年に結成されました。私が共同代表をつとめていますので若者の団体とはいえません。しかし、参加している人の多くは若者です。派遣労働者がすぐに労働組合に入れなくても、それを支援していく揺籃のようなものをめざし、また、派遣労働の実態を社会的に訴えるためにつくられました。派遣切りにあって多くの会員が派遣の現場から追われました。

というわけで、POSSEのみなさんの発言が頻繁に出てきます。

木下さんはご承知の通り、この分野ではある意味で一番早い段階から、明確にジョブ型労働市場の実現を主張してきた方ですが、本書でもその主張が繰り返されています。

本ブログで以前、木下さんと八代尚宏さんの対談を取りあげたことがあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-e71c.html(朝日ジャーナル怒りの復活またはジョブ派対談意気投合)

Ef409dd006967b9a147c14ff5ab2eb82_4 また、近ごろSAPIOのソーシャルが欠けた論壇MAPとかいうのが出回っているようですが、かつてPOSSE誌上で格差論壇MAPというのを提示されたのも木下さんでした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/posse-fb68.html(『POSSE』第4号)

白河桃子+常見陽平『女子と就活』

150431 かつては、労働基準法を始め法律上は「女子」っていうのが普通だったのに、今ではだいたい「女性」になっているわけですが、その平成の世でなぜか一見昭和風の「女子」なるタームが異常流行し、いろんな分野に繁殖した挙げ句、ついに就活本にも「女子」本が登場しました。

今週月曜日、BSフジのプライムニュースでご一緒した常見陽平さんから、婚活・妊活の女王白河桃子さんとの共著『女子と就活 20代からの「就・妊・婚」講座』(中公新書ラクレ)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chuko.co.jp/laclef/2012/10/150431.html

「手遅れになる前に、教えてほしかった…」という後悔を根絶すべく、「婚活・妊活の提唱者」と「就活の神様」のコラボ講義が実現。就活に苦戦する女子も、将来が見えない女子も、不安の正体がわかれば怖くない! 「結婚では食べていけない時代」の、産める仕事生活マニュアル。

「講座」と銘打つくらいですから、0時間目のオリエンテーションから始まって、お二人の講師陣によるみっちりとした講義が堪能できます。

冒頭のシラバスには、留意事項として、

受講後、ブログやツイッター、フェイスブック等に感想を寄せること

とありますので、みなさんも心して受講するように。

さて、やはり名言炸裂は0時間目のオリエンテーションでしょうね。

みなさんの頭は「お花畑」になっていませんか?

その「主婦ニート」願望、「憧れ就職」願望にイエローカードです。

もう少し女子は怒っていいと思います。

彼女たちが尽くし甲斐のある男性と出会える可能性はというと・・・・・・ほとんどありません。

そして常見さんのこれ、

社会に騙されるな、会社に騙されるな、悪い男に騙されるな

2012年10月11日 (木)

BSフジプライムニュースの映像

今週月曜日に放映されたBSフジプライムニュースの映像がアップされました。

禿しく光ってますな・・・。

ブラック企業 粉砕!!

(追記)

奈津さんが感想をアップしておられます。

http://twopence.blog84.fc2.com/blog-entry-404.html(BSプライムニュースで、派遣法の話)

どうも話があちこちに飛んで、方向が定まらないなー、という印象でした。話が別の人に振られるたびに論点が動いていく、みたいな。

・・・どっちも裏返すと「正規雇用のおかしさ」なんですよね。非正規の問題は実は正規の問題でもあって、同じコインの表と裏みたいになってる。

だから非正規の話だけしてても本当の解決にはならないので、正規でも非正規でもディーセントに働けるように…という方向に行ければいいのだけれど。「派遣イコール悪」ではなく。

最後に常見さんが「ブラック企業粉砕」とぶち上げたのはそういう意味での(正規雇用をディーセントにしようという)ことだったと思うんですが、どうも話が飛び飛びだったので、唐突な感じがしてしまいました…(・д・)

ということで、唐突は唐突ですが、分かっている人にはちゃんと通じてたようですよ。

社会保障 永田町の正義は?@読売

本日の読売新聞の4面に、川嶋三恵子記者による「社会保障 永田町の正義は?」というコラム記事が載っています。

東京・西新宿の書店「ブックファースト新宿店」で、2012年版「厚生労働白書」をテーマとしたフェア(16日まで)が開かれている。一般になじみの薄い白書を前面に押し出す試みは異例だろう。

いや、それは中身がいいからで、

今回の白書は、厚労省の20~30歳代の若手職員が斬新な感性を生かして執筆した。米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の「正義論」を引用、各種制度の歴史も詳述し、「社会保障の教科書」との評価も受けている。

あ、それ、私が言ったんですが、もしかしてこのブログを読んでいる・・・。

前評判を聞いた同店担当者が参考文献や推薦図書約160点も併せて陳列する企画とし、この2週間で白書は昨年1年分を上回る部数が売れたそうだ。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-9073.html(ブックファースト新宿店で厚生労働白書フェア)

Bookfirst

という紹介記事だけで政治面のコラムが終わるはずはないので(笑)、その後は政界へのキツイお叱りの言葉です。

この書店に比べて鈍いのが政治の動きだ。社会保障制度改革国民会議を設置するとした社会保障制度改革推進法の成立から2か月も経つのに、設置の気運は高まらない。・・・・・・このままでは時間が足りなくなる。

白書は、国民一人一人が社会保障の議論に参加する必要性を訴え、こう結んでいる。

「この国の将来は国民の英知と行動にかかっている」

その模範となる英知と行動力を、果たして永田町は示せるだろうか。

徒労感

今週月曜日の「プライムニュース」で派遣法についていろいろ喋ったわけですが、こういう感想を見つけて、言い様のない徒労感に襲われています。

http://39383054.at.webry.info/201210/article_13.html(あゝとに熱く!派遣法の改悪?どうなってるのや(警告、考察シリーズ) )

いつもは午後8時からBSフジ、プライムニュースを見る。10月8日は途中からで見たのだが、ゲストが何を言っているかわからなかった。特に、独立行政法人労働政策研究研修機構 濱口桂一郎氏の言っていることが解らないのである。

解らない理由が途中からわかった。氏は「派遣」という概念を明確に「派遣」とのみ意識・区別して使っているのである。パート、季節、日雇いとの概念を派遣の中に含ませていないのである。

これは、これとして正しいのであろう。だが、なんか、どうなっているのだろう、と無力感に襲われてしまったのである。

「学者でもなく、文章を売ってもいない、市井人の不肖、今唐加太朗」は、漠然とした人物でもあるので、派遣と言う言葉の外延を広げて、つまりは、「非正規雇用」の意味で使うことが多い。

そりゃまあ、「派遣」という言葉を「非正規雇用」という意味で使っている人から見たら、私のいってることは「解らないのである」のは当たり前でしょうね。

それで「どうなっているのだろう、と無力感に襲われてしまっ」ちゃうと、一生懸命説明していた私としては、言い様のない徒労感に襲われてしまうのですが・・・。

しかし、これって、例の「年越し派遣村」を始め、マスコミや評論家たちが意図的に煽ってきた勘違いの構図という面もありそうです。

こういう発想の市井人の感覚をバックとして派遣法の改正が進められたら、そりゃ訳の分からない中身にしかなりようがないでしょうね。

出井さんあたりの感想を聞いてみたい気もしますが。

いま、若者のディーセント・ワークのためにできること

本日午後、連合主催で「2012ディーセント・ワーク世界行動デー フォーラム「いま、若者のディーセント・ワークのためにできること」」が開催されます。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/info/boshuu/2012decentwork/index.html

すべての人に「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」を実現することは、私たちの願いです。しかし、いま、若者たちは将来に不安を抱いていると言われます。日本の未来を担う若者のディーセント・ワークのために何ができるのか、一緒に考えてみませんか。

主な発言者は次の通り

報告
「若者のディーセント・ワーク 私たちはこう考える」
学生代表
若手組合員代表
連帯の挨拶
シャラン・バロウ ITUC(国際労働組合総連合)書記長
※ITUC: International Trade Union Confederarion
講演「若者のディーセント・ワークのために、労働組合に期待すること」(仮)
竹信 三恵子 和光大学教授
リレー報告と討論 「若者のディーセント・ワーク」
齋藤 勉 連合北海道 組織対策局長
永井 浩 日本労働文化財団 理事
安永 貴夫 連合 副事務局長
竹信 三恵子 和光大学教授
〈コーディネーター〉 高橋 睦子 連合 副事務局長

関心のある方々はどうぞ。

『日経マネー』記事がアップ

Mon2608月22日付のエントリで紹介した『日経マネー』10月号の記事が日経新聞のサイト内にアップされたようなので、リンクしておきます。

http://www.nikkei.com/money/column/nkmoney_tokushu.aspx?g=DGXNASFK0402M_04102012000000(40歳定年時代の生き残りマネー術)

私の出てくるところは:

2012年7月、国家戦略会議フロンティア部会が2050年を見据えて描いた構想で、「40歳定年制」もあり得ると提言、波紋を呼んでいる。部会の座長を務めた東京大学の柳川範之教授は「75歳まで皆が働ける社会にするには、雇用の流動化を促す必要がある。40歳定年を学び直しの機会とすれば、力を発揮し切れていない人材がアクティブになるのでは」と語る。

ある経営者はこれに賛同。「年金支給が始まる65歳まで継続雇用が義務付けられる見通しだが、中高年社員をこれ以上抱え切れない。生涯一社という時代ではない」。

一方、雇用問題の専門家らは冷ややかに受け止めた。「定年とは年齢による一律解雇、あり得ない」と労働政策研究・研修機構の統括研究員、濱口桂一郎さんは言う。その上で「中高年の人件費負担は重い。年功型賃金の契約をリセットして、働き相応の給料まで引き下げたいというのが経営者の本音だろう」と背景には年功型賃金の問題があると指摘する

そのあとの方で、海老原嗣生さんが登場します。

総合人材サービス業リクルートキャリアのフェロー海老原嗣生さんは、「中高年の賃下げはさらに加速する」とみる。

今後は65歳までの継続雇用義務化により人件費がふくらむ。1人当たりの賃金を抑える形で調整する動きが強まるという。

海老原さんはこんな大胆予測をする。2025年には、大卒社員でも管理職になれる人は4割ほどに絞られる。その選別年齢がより若くなるというのだ。「第1次選抜は35歳くらい、ここで『一生ヒラ社員、給料頭打ちコース』に進む人が出てくる」。

「大卒ノンエリート社員」が増えるという見立てだ。大手製造業でいえば給料は600万円前後から上がらないが、転勤なしで長期雇用が保障されるという。

いや、海老原さんもいうように、「一生ヒラ社員、給料頭打ち」が欧米では普通の労働者のスタイルであるわけですが。

2012年10月10日 (水)

共産党独裁国家ではスト権はないのだよ

河添誠さんに絡んでいるねようよ氏が誠に香ばしく、思わず引用。

http://twitter.com/kawazoemakoto/status/255973429415657472

アメリカでもどこでもストはあるRT : 韓国のコトだけ見て、世界を語るのは間違いでしょ。日本が正常で、韓国が異常。組合活動しなくなったのは、組合活動が、共産党や民主党の特権であり、利権だと、周知され、くだらないものだとわかったからですよ。意味がないストライキ

http://twitter.com/kawazoemakoto/status/255977423617798144

フランスにもイタリアにも共産党もある。国会に議席も。デモの有無と関係ないけどね。調べてからコメントしてね。RT : アメリカに共産党はない  アメリカでもどこでもストはある

http://twitter.com/kawazoemakoto/status/255978459245985792

ストはどの国にでも、日本以上にあるということを言っただけ。アメリカでもドイツでもフランスでもイタリアでも韓国でもどこでも。調べてみたら?RT : アメリカのことを書いてきたくせ、真相を突っ込まれると、逃げの共産党。フランスやイタリアなんて聞いてない。

http://twitter.com/kawazoemakoto/status/255980309940682752

おもしろいなー。ストがない国ってどこ?独裁国家以外はストがどこでもあるよ。あたりまえ。あえて言うなら日本だけど。RT : 火病ですか?議論を整理しなさい。ストライキがない国もあるよ。調べてみたら?

http://twitter.com/kawazoemakoto/status/255980864566087680

あほか。ストはどこにでもある。一部の独裁国家を除けば。RT : 世界全部を見渡してごらん。違うから。アフリカ諸国調べたかい?イスラム諸国は? 日本を支那や朝鮮と同位置に置くのは間違い。

http://twitter.com/kawazoemakoto/status/255981173954715648

あります。ほとんど議席はありませんが。RT : 議論の流れがわからないのですが、アメリカにも共産党はありますよね。アメリカ共産党

http://twitter.com/kawazoemakoto/status/255981598544105472

わかってないな。ストは憲法28条で明確に認められている。勉強してね。RT : デモとストライキは違うでしょ  デモは基本的人権の一つ。民主的で自由な社会を自認する国、いわゆる先進国を先頭に発展してくるもの。日本は先進国ではないのかな?

若干皮肉な言い方をすると、ストライキ権は自由社会の証しであって、共産党が一党独裁しているような社会ではスト権がなくなるんですね。

ま、このねとうよ氏にとっては、日本や韓国も含む自由な欧米型先進国はいとうべき社会で、理想の国はスト権がない共産党独裁国家やアフリカやイスラム諸国のようです。

それこそ、ねとうよさんのいつも使う言い方を借りれば、日本みたいな自由なスト権のある社会がお嫌いなら、いつでもそういうスト権も個人の自由もない国に行っていただいていいんですよ。耐えられるんならね。

ま、河添さんも、労働者の基本的権利としてのスト権を説明するときに共産党だのデモだのを敢えて持ち出す必要はないと思いますけど。

2012年10月 9日 (火)

インドネシアの解雇規制と非正規問題

Sk20127cover1 フロント社会主義同盟といういかにも新左翼ぽい団体の『月刊先駆』というこれまたいかにも前衛ですッキリッ!というタイトルの機関紙に載っている、全然それふうでない小林良暢さんの「雇用のアウトソーシングで揺れるインドネシア」という文章が、なかなかおもしろです。

http://www014.upp.so-net.ne.jp/senku/

久しぶりにインドネシアを訪れた小林さんが見たのは、正社員化を要求する現地労働者に工場を封鎖され、操業停止に追い込まれている日系企業だったようで、そこからインドネシアの雇用問題の根っこにある労働法制の問題に話が及んでいくのですが、意外に知られていないことですが、インドネシアって法律の上では大変解雇規制が厳しい国なんですね。解雇は労働紛争調停委員会の許可制で、そのため、企業に正社員雇用よりもアウトソーシングを積極化させる要因になっているというのです。

この解雇許可制というのは、旧宗主国のオランダと共通する制度ですが、オランダがそれをうまく運用して結構フレクシブルにやっているのに対して、インドネシアはうまくやれていないということでしょうか。

最後のところで、インドネシアの労働運動は、(1)政府が上から組織したイエロー・ユニオン、(2)学生運動から出てきた急進派、(3)会社で働く労働者自身の労働組合の3つの流れがある云々という記述が出てきますが、これも発展途上国ではかなり普遍的に見られる現象かも知れません。

2012年10月 8日 (月)

常用代替防止法から派遣労働者保護法へ

ということで、本日BSフジのプライムニュースに、常見陽平さん、竹花元さんとともに出てきました。

http://www.bsfuji.tv/primenews/schedule/index.htmlノーベル賞!山中教授会見 ▽置き去り?若者雇用 改正労働者派遣法施行

長いようで短い中で、一杯喋ったような気もするし、言いたいことの半分も言ってないような気もしますが、まあこんなもんでしょう。

最後にフリップで示した決め台詞は、

常用代替防止法から派遣労働者保護法へ

でした。

ちなみに、常見さんの捨て台詞は、

ブラック企業 粉砕

でした。

(ツイートから)

http://twitter.com/satow0209/status/255271991400071168

プライムニュースで労働者派遣法を取り上げている。労働関連法規というと、労働者の権利や地位を守るためにあると思われるが、派遣法派遣法はもともと違う。正規雇用者を守るために派遣労働を認める範囲を限定するのが法意。政治家でもそれを知らない人がいるって(x_x)

http://twitter.com/DaichiNotGaea/status/255272555605266432

BSプライムニュースで改正労働者派遣法施行についての話を見てる。そもそも労働者派遣法は派遣労働者を守るのを目的とした法律ではないですよーというところから始まってて、わかりやすい。

http://twitter.com/hiropo8/status/255273025337974784

BSフジ プライムニュース改正労働者派遣法 濱口けい一郎氏:そもそも1985年に出来た労働者派遣法にはっきり書かれている事は正社員を派遣社員から守ると言うこと。枝葉の部分をかえても無駄。

http://twitter.com/ahorashiyaKOBE/status/255291001575452672

プライムニュースhamachanの回は神回だった。労働者派遣法の目的が欧州は労働者保護なのに、日本は正社員雇用代替だという事。そして、そもそも派遣社員は全体の三%で派遣だけでなく不安定な非正規雇用が四割という点も着目しなきゃいけないし、重労働の正社員もつらいという現実。

http://twitter.com/hydra624/status/255318874122240000

今日のプライムニュースは労働者派遣法の改正について、誤解してたのがよ〜くわかったにゃ(⌒-⌒; )態様が派遣から紹介もしくは直接契約(期間契約、パート、アルバイト)に変わっただけなのね(^^;;非正規雇用の問題視を改正しなければ意味無いって事ね

http://twitter.com/qqmasa/status/255269684016988160

労働者派遣法はそもそも常用代替を防ぐためのものだった。つまり正社員の雇用を守るためのものだったのか。そもそも派遣社員を守る目的の法律ではなかった。

(ブログから)

http://101newlifenet.cocolog-nifty.com/newlife/2012/10/bs-f477.html(新しいいのち、新しい世界へ)

本日の午後8時から、BSフジのプライムニュースで、改正された労働者派遣法についてのディスカッションがありました。出演者のひとり、独立行政法人・労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎研究員は、とても興味深いことを言っておられました。

・・・

濱口桂一郎さんの提唱する、新たな視野と土台の上に立案していく「派遣労働者保護法」の立案を心から願いたいと思います。

http://ameblo.jp/monozukuri-service/entry-11375078641.html(雇用維新 派遣?請負?アウトシーシング?民法と事業法の狭間でもがく社長の愚痴ログ)

・・・しかし、BSとは言え、今回のような番組がやっと放送されるようになりました。

2、3年前にはまったく考えられないことです。・・・

hamachan先生の提言、常見氏の提言が、活かされるよう、今度こそ、名ばかり改正とならぬよう進まねばなりません。

久々にいいディスカッションを拝見できました♪

ビラルの世界

1010198_01インドのドキュメンタリー映画ですが、これは凄い。

http://www.ddcenter.org/bilal/

盲目の両親と暮らす3歳の少年ビラルの日常を描いたものですが、これは必見。ILOなんかの文書によく出てくる「インフォーマルセクター」ってのがどういう世界か、等身大で描かれています。

2012年10月 6日 (土)

徴税請負人

一瞬、ローマ帝国かアンシャンレジームかと思ってしまいましたが、現代イタリアの話なんですね。

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20121005-OYT1T01190.htm?from=blist(イタリア自治体の徴税請負人ら、102億円横領)

財政再建中のイタリアで、地方自治体の徴税を請け負う民間会社の元経営者(52)ら5人が、徴集した税金から約1億ユーロ(約102億円)を横領した疑いで警察に逮捕された。

伊各紙が報じた。横領された公金は自家用飛行機やヨット、高級車などの購入にあてられていたという。

同社は2006~09年に約400の自治体の徴税を請け負っていた。同国は年間脱税額が2000億ユーロを超すと指摘されるなど、徴税の不備が財政悪化の一因になっている。

近代租税国家の真ん中で徴税請負人なんていう存在を見るとは思いませんでしたが、国家機能のアウトソーシングがその中核的機能に及んでいけばこういうことになるわけでしょうか。

まあ、イタリアは近代租税国家じゃなかったという説明もあり得るのかも知れませんが。

(日本みたいに会社に源泉徴収させているのは徴税請負人じゃないのか?という突っ込みはありえますが)

本日の読売 on 生活保護

本日の読売は、11面の「編集委員が迫る」で村木厚子社会・援護局長のインタビュー記事「生活保護改革 多角的に」をどんと載せ、

・・・「ただし、報道されるような事例で生活保護制度の全体をイメージするのは、良くありません。受給者の不正事案だけでなく、逆に行政の支援が十分に行き届かず悲劇を招く事例もありますが、極端なケースのみに目を奪われると、制度改革が実態に合わないものになります。」

--「甘すぎる」あるいは「厳しすぎる」といった二項対立に陥っては、建設的な改革が進みませんね。

「そういう認識に立って、多角的な生活困窮者支援対策を作ろうとしています。厚労省が示した改革の論点案を個別に見れば、「甘い」とか「切り捨てだ」といった批判はあるでしょうが、全体を見て評価していただきたい。・・・

と、極めてまともで理性的な記事にしていますし、インタビュワの保高記者も

・・・考え方の違う人たちが極論をぶつけ合い、感情的対立になりがちの生活保護改革で、冷静かつ建設的な議論を促すには適材だ。・・・

とエールを送っています。

どこかの新聞は参考にしてくださいね・・・、といって終われれば良かったんですが、これは巧まざる皮肉というんでしょうか・・・。

その当の本日読売の朝刊の1面トップは、

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121005-OYT1T01788.htm(生活保護、名前使い分け1千万円不正受給した女)

と、まさに「極端なケースのみに目を奪われ」たがっているとしか思えない記事が・・・。

フレクシキュリティからモビケーションへ

田中萬年さんが紹介しているモビケーションというコンセプトについて、

http://d.hatena.ne.jp/t1mannen/20121003/1349234643(国際セミナー 雇用転換のなかの生涯学習 欧州の経験と「モビケーション」)

http://d.hatena.ne.jp/t1mannen/20121005/1349398872(モビゲーションMobigationの日本における課題)

そのもとになった北欧閣僚理事会に提出された報告書というのはこれのようですが、

http://faos.ku.dk/pdf/boger/2011/De_nordiske_landes_konkurrencedygtighed_160811.pdf/(De nordiske landes konkurrencedygtighed – Fra flexicurity til mobication)

50ページを超える大作ですが、残念ながらデンマーク語で書かれているので全然読めません。

そこで、その英文要約を見つけたので、紹介しておきます。

http://faos.ku.dk/english/news/the_competitiveness_of_the_nordic_countries_/(The Competitiveness of the Nordic Countries – from flexicurity to mobication)

Report by Søren Kaj Andersen, FAOS, Nikolaj Lubanski, Professionshøjskolen Metropol & Ove K. Pedersen, CBS

The report argues that high labour mobility and a flexible education system directly supported by government policies may be crucial for the competitiveness and future prosperity of the Nordic countries. In recent years, flexicurity has emerged as a central concept in the debate on how regulation of work and welfare could ensure consistency between supply and demand of labour.

本報告は、政府の政策に直接支えられた高い労働流動性と柔軟な能力開発システムが北欧諸国の競争力と将来の反映に不可欠であると主張する。近年、労働規制と福祉が労働供給と需要の間の整合性をいかに確保するかに関する議論において中核的コンセプトとしてフレクシキュリティが登場してきた。

However, the current crisis has shown that the positive effects of the so-called Danish flexicurity model can be questioned. Furthermore, other dynamics ensuring high levels of employment seem to be present. For instance the development in policy formulation - especially at the European level - suggests that tomorrow's competitive advantage depends on the ability to ensure a high labour mobility through comprehensive and flexible educational systems. It is this relationship between mobility and education that we term mobication. The term implies that skills are systematically used to promote mobility within and between labour markets. Mobication assume that tomorrow's job openings will be even more changeable and unpredictable than today. This emphasises the challenge of combining a flexible labour market with a high level of security for employees. Flexibility must ensure that employees are moving to where the job openings are. In the flexicurity debate the security aspect has been focused on the possibility to obtain various forms of benefits if one is made redundant. Mobication suggests that security primarily comes from continuous education and training, meaning that the individual employee will have access to further training and/or re-skilling in all stages of working life. The overall aim is to obtain fewer and shorter periods of unemployment for each employee, in spite of restructuring, introduction of new technologies, plant closures, etc. In this sense mobication is an attempt to further develop the Danish flexicurity model.

しかしながら、今日の危機はいわゆるデンマーク型フレクシキュリティモデルの積極的効果に疑問を投じた。さらに、高水準の就業を確保する他のダイナミクスがあるように思われる。それは、我々がモビケーションと名付けた流動性と能力開発の間の関係である。この言葉は、労働市場の内外で流動性を高めるために技能が体系的に用いられるということを意味する。モビケーションは、明日の求人は今日の求人よりもより変化しやすく予測しがたいと考える。これは、柔軟な労働市場と労働者の高水準のセキュリティを結合するという課題を強調する。柔軟性は労働者が求人のあるところへ移動することを確保しなければならない。フレクシキュリティの議論においては、セキュリティの側面は労働者が整理解雇されたときに得られるさまざまな給付に焦点が当たっていた。モビケーションの説くところでは、セキュリティは何よりもまず継続的な教育訓練からもたらされ、すなわち個々の労働者が職業生活のあらゆるステージにおいてさらなる訓練と再技能訓練にアクセスできることからもたらされる。総体的な目的は、リストラや新技術の導入や工場閉鎖にかかわらず各労働者ができるだけ短い失業期間で就職することである。この意味において、モビケーションはデンマーク型フレクシキュリティモデルをさらに発展させる試みである。

The report has been compiled for the Nordic Council of Ministers with the aim to contribute to the development of employment and education policies in the Nordic countries.

本報告書は、北欧諸国の雇用政策及び能力開発政策の発展に貢献する目的で、北欧閣僚理事会のためにとりまとめられた。

2012年10月 5日 (金)

常見陽平さんと共演します

0wicllg6emg3c5p22jcxすでに常見陽平さんのツイートで紹介されておりますが、

http://twitter.com/yoheitsunemi/status/254212135087906817

【情報解禁!】10月8日(月)にBSフジ プライムニュースに、前からお会いしたかった濱口桂一郎先生と一緒に出ます!改正労働者派遣法施行 置き去り?若者の雇用 実態と対策を徹底検証』です。本音しか話しません!夜露死苦!

派遣労働については山のような議論がありながら、この四半世紀の間、派遣法のたった一つの真実だけは誰も語ろうとしませんでした。

それを全部語ってしまいます。乞うご期待!

金久保茂『企業買収と労働者保護法理』信山社

25351353_1 金久保茂さんの『企業買収と労働者保護法理』(信山社)をお送りいただきました。大著をお送りいただき、ありがとうございます。

金久保さんは弁護士として活躍しながら、一橋大学の修士課程、東京大学の博士課程と労働法の研究に打ち込んでこられ、今回この大著をまとめられたご努力には感服の極みです。

日本、ドイツ、アメリカの事業譲渡法制を詳細に分析しつつ、その中での労働者保護の在り方を突き詰めて検討しているまさに本物の研究論文です。細かい目次が出版社のHPに上がっているので、コピペしておきますが、

第1章 問題の所在
 第1節 M&Aのストラクチャーと事業譲渡の機能
  Ⅰ M&Aを取り巻く状況と労働者保護問題
  Ⅱ M&Aの手法と事業譲渡の機能
   1 M&Aのストラクチャーの異同/2 倒産時の事業譲渡と労働者保護規定/3 事業譲渡の機能
 第2節 事業取得型M&Aにおける労働関係に関する法規制と立法措置の検討状況
  Ⅰ 合併の規制
   1 合併の法的性格/2 合併における労働者の不利益
  Ⅱ 会社分割の規制
   1 会社分割の法的性格と問題点/2 承継法の規制内容/3 会社分割における労働者の不利益
  Ⅲ 事業譲渡の規制
   1 事業譲渡における「承継される不利益」/2 事業譲渡における「承継されない不利益」
  Ⅳ 研究会報告の内容
   1 平成12年研究会報告/2 平成14年研究会報告
 第3節 本書の問題設定
   1 M&Aにおける労働関係の承継論と労使紛争の背景/2 分析の手法

第2章 日本における事業譲渡と労働関係
 第1節 事業譲渡と個別的労働関係の承継
  Ⅰ 学  説
   1 当然承継説/2 原則承継説/3 営業の同一性当然承継説/4 原則非承継説/
   5 解雇法理適用説/6 事実上の合併説
  Ⅱ 裁判例の状況
   1 当然承継説を採用した裁判例/2 原則承継説を採用した裁判例/
   3 原則非承継説を採用した裁判例/4 解雇法理適用説を採用した裁判例/
   5 裁判例の総括
 第2節 事業譲渡と集団的労使関係の承継
  Ⅰ 労働協約の承継
  Ⅱ 譲受会社の不当労働行為責任
   1 労組法7条の使用者性/2 団体交渉応諾義務/3 解雇・不採用の不当労働行為性/
   4 労働委員会の命令および裁判例の総括
 第3節 買収時の労働条件の不利益変更
  Ⅰ 労働条件の不利益変更の方法
   1 就業規則による不利益変更/2 労働協約による不利益変更/3 変更解約告知
  Ⅱ 労働条件不利益変更法理の具体的判断
   1 合併・会社分割における具体的な適用/2 事業譲渡における具体的な適用

第3章 ドイツにおける事業譲渡と労働関係
 序 説 ――考察の視点
 第1節 M&Aの手法と事業譲渡の機能
  Ⅰ M&Aのストラクチャー
   1 合併(Verschmelzung)/2 分割(Spaltung)/3 事業譲渡
  Ⅱ 事業譲渡の意義
   1 税法上の問題/2 義務・責任等の承継の有無/3 契約関係の移転の有無/
   4 手続の異同/5 労働者に対する情報提供義務/6 倒産会社の買収(譲渡による再建)/
   7 小  括
 第2節 解雇規制と労働条件変更法理
  Ⅰ 経営上の理由による解雇の規制
   1 民法典による解雇規制/2 経営上の理由による解雇の実体的要件/
   3 大量解雇に関する手続的要件/4 事業所組織法による解雇の手続規制/5 違法解雇の効果
  Ⅱ 個別的労働関係上の労働条件変更法理
   1 労務指揮権(指揮命令権)の行使/2 撤回留保の合意/3 変更契約/4 変更解約告知
  Ⅲ 集団的労使関係上の労働条件変更法理
   1 労働協約の労働条件変更/2 事業所協定の労働条件変更/3 事業所委員会の参加権による制約
  Ⅳ 小  括
 第3節 事業譲渡における労働者保護規制
  Ⅰ 企業移転指令制定前のヨーロッパの状況
   1 1928年フランス労働法典における労働契約の自動承継規定の導入の経緯/
   2 フランス労働法典L.1224-1条の概要/3 EUにおけるリストラ関連3指令の制定
  Ⅱ 企業移転指令の概要
   1 企業移転指令の趣旨・目的/2 指令の最低限度の要請/3 指令の要件・適用範囲/
   4 指令の手続規制/5 指令の個別的労働関係上の効果/6 指令の集団的労使関係上の効果/
   7 解雇規制/8 倒産等の場合の適用除外と規制緩和/9 小  括
  Ⅲ ドイツ民法典613a条による労働者保護
   1 民法典613a条の制定前の議論状況/2 民法典613a条の制定経過とその後の追加・修正/
   3 民法典613a条の趣旨・目的/4 民法典613a条の要件・適用範囲/
   5 民法典613a条の手続規制Ⅰ(使用者の情報通知義務)/
   6 民法典613a条の手続規制Ⅱ(労働者の異議権)/7 民法典613a条の個別的労働関係上の効果/
   8 民法典613a条の集団的労使関係上の効果/9 事業移転の際の解雇の効力/
   10 民法典613a条の強行法規性と脱法行為/11 再雇用請求権と継続請求権/12 小  括
  Ⅳ 企業移転指令の「法的移転」と民法典613a条の「法律行為」の意義
   1 企業移転指令と民法典613a条の要件論の枠組み/2 指令1条1(c)項の「法的移転」の意義/
   3 民法典613a条の「法律行為」の意義/4 小  括
  Ⅴ 指令の「企業」「事業」と民法典613a条の「事業」の意義
   1 指令の「企業」「事業」の意義/2 経済的統一体の同一性保持に関する判断要素/
   3 指令改正前の欧州司法裁判所の判断の変遷/
   4 連邦労働裁判所による民法典613a条の「事業」概念の解釈の変更/5 小  括
  Ⅵ 経済的統一体の同一性保持に関する具体的判断
   1 企業の性質/2 有形資産の移転/3 無形資産の移転/4 労働者の多数(従業員集団)の移転/
   5 顧客の移転/6 活動の類似性/7 中断期間/8 新使用者による事業継続(事業所有者の交替)/
   9 新使用者の下での経済的統一体の同一性保持の要否/10 裁判例の分析と考察
  Ⅶ 事業移転に関する事業所組織法による手続規制
   1 事業所変更における事業所委員会の参加権/2 経済委員会との協議・情報提供義務
 第4節 ドイツ倒産法における事業譲渡と平常時規制の変容
  Ⅰ 1994年倒産法改正前の議論状況
   1 倒産法改正委員会の報告書とその後の政府草案の公表/2 譲渡による再建に関する改正議論/
   3 倒産法制と労働者保護立法の調整
  Ⅱ 1994年倒産法の概要
   1 手続の概要/2 倒産手続における事業譲渡のタイミングと手続規制
  Ⅲ 倒産手続における民法典613a条の適用
   1 旧破産法下における従前の学説の状況/2 1980年1月17日の連邦労働裁判所の判断/
   3 倒産法における民法典613a条の取扱い
  Ⅳ 倒産手続における解雇規制の修正
   1 解雇制限法の適用維持/2 解約告知期間の短縮等(倒産法113条)
  Ⅴ 倒産手続における手続規制の修正
   1 倒産管財人の事業所委員会に対する通知・意見聴取義務/2 倒産手続における事業所変更規制
  Ⅵ 倒産手続における民法典613a条4項の解釈・適用の修正
   1 事業譲受人の構想に基づく旧使用者による解雇/2 雇用契約の合意解約と民法典613a条の脱法の可否/
   3 倒産手続における再雇用請求権・継続請求権の有無
  Ⅶ 倒産時の労働条件変更規制
   1 倒産手続における変更解約告知/2 倒産時の事業所協定に関する協議および解約/
   3 倒産時の労働協約の即時解約
 第5節 ドイツ法の総括

第4章 アメリカにおける事業譲渡と労働関係
 序 説 ――考察の視点
 第1節 M&Aの手法と事業譲渡の機能
  Ⅰ M&Aのストラクチャー
   1 合  併/2 事業譲渡
  Ⅱ 事業譲渡の機能
   1 合併と事業譲渡の差異/2 事業譲渡の活用場面
 第2節 解雇規制と労働条件変更規制
  Ⅰ 経済的理由による解雇規制
   1 随意的雇用原則/2 随意的雇用原則の修正/3 制定法による随意的雇用原則の制限/
   4 労働協約による随意的雇用原則の制限
  Ⅱ 個別的労働関係上の労働条件変更法理
  Ⅲ 集団的労使関係上の労働条件変更規制
   1 NLRAの特徴/2 労働協約成立前の労働条件の変更/3 労働協約成立後の労働条件の変更/
   4 労働協約上の権利義務のエンフォースメント
  Ⅳ 小  括
 第3節 事業譲渡における労働者保護規制
  Ⅰ 承継者法理による労働者保護
   1 承継者法理の歴史的展開 ――1964年のWiley事件最高裁判決までの状況/
   2 承継者法理に関する5つの最高裁判決の概要/3 承継者法理の要件論の枠組み/
   4 労働力の継続性/5 新旧使用者の実質的継続性/6 承継者の労働条件変更の可否/
   7 不当労働行為責任の承継者(Golden State Successor)/
   8 仲裁付託義務の承継者(Wiley successor)/9 小  括
  Ⅱ 分身法理による労働者保護
   1 分身法理の概要/2 連邦最高裁による分身法理の承認 ――Southport Petroleum Co.事件/
   3 分身法理の判断枠組み(一般的判断要素)/4 所有者または支配の実質的同一性/
   5 同一家族所有と独立当事者間取引/6 使用者の不法な動機・意図/7 小  括
  Ⅲ 各州の企業買収に関する労働者保護立法
   1 労働協約保護法/2 失業労働者保護法/3 ティン・パラシュート法/
   4 信認義務修正法(Constituency Statutes)
 第4節 連邦倒産法における事業譲渡と平常時規制の変容
  Ⅰ 連邦倒産法第11章再建手続の概要
   1 第11章再建手続の導入の経緯/2 第11章再建手続の概要/3 プレ・パッケージ型再建手続/
   4 連邦倒産法363条に基づく事業譲渡
  Ⅱ 倒産時の解雇・労働条件変更規制 ――平常時規制との相違点
   1 個別的労働関係/2 集団的労使関係
  Ⅲ 倒産手続と承継者法理の適用
   1 倒産法の目的と承継者法理の衝突/2 使用者の倒産と承継者法理の適用の可否/
   3 承継者法理に対する363条(f)の適用の可否/4 363条saleの許可基準と労働者保護
  Ⅳ 倒産手続と分身法理の適用
   1 分身法理の原則適用/2 「事業目的」と倒産時の買収の特殊性
 第5節 アメリカ法の総括

第5章 日本における事業譲渡と労働関係に関する考察
 第1節 日・EU独・米における事業譲渡法制の比較法的考察
  Ⅰ 事業譲渡法制と個別的労働関係
   1 日独米の解雇・個別的労働条件変更規制/2 事業譲渡による個別的労働契約に対する影響/
   3 倒産時の事業譲渡と個別法への影響/
  Ⅱ 事業譲渡法制と集団的労使関係
   1 日独米の集団的労使関係制度/2 事業譲渡による集団的労使関係に対する影響/
   3 倒産時の事業譲渡と集団法への影響
  Ⅲ 日独米の法的状況の背景
   1 EU・ドイツにおける雇用関係の特性/2 コーポレート・ガバナンスと労働者の位置づけ
 第2節 事業譲渡と労働関係の承継に関する学説・裁判例の分析および検討
  Ⅰ 当然承継説および営業の同一性当然承継説の問題点
  Ⅱ 原則承継説および原則非承継説の問題点
   1 両説の評価/2 原則非承継説の結論の妥当性
  Ⅲ 解雇法理適用説の問題点
  Ⅳ 事実上の合併説の問題点
  Ⅴ 小  括
 第3節 労働契約の不承継特約の効力と法律行為の解釈
  Ⅰ 労働契約の不承継特約の効力
   1 譲渡会社の解雇・不承継特約と解雇法理の脱法/2 破産手続における事業譲渡/
   3 民事再生・会社更生手続における事業譲渡/4 平時における事業譲渡
  Ⅱ 解雇・不承継特約の無効と法律行為の解釈
 第4節 労働契約承継立法の導入の是非
 第5節 結びに代えて

この最後の結びに代えての文章は、この労働法と会社法・倒産法の交錯する領域を取り扱う手さばきのバランス感覚の良さをよく示していると思うので、引用しておきます。

M&Aを柔軟に利用するための議論が加速する一方で、事業譲渡を取り巻く労働者の環境は確かに脆弱である。事業譲渡を利用したM&Aにおいて、労働契約の不承継特約によって労働者の引き継ぎが排除された場合、組合差別等がない限り、立法のないわが国では、民法90条の公序良俗違反を通じた意思解釈論等によって労働者保護を図らざるを得ず、労働者の雇用が確保される場面はかなり限定される。

しかし、その一方で、企業の経営が悪化し、倒産またはそれに近い状況にある場合は、企業の存続が優先され、労働者の引き継ぎが排除されることもやむを得ない。事業譲渡を取り巻く労働者保護の脆弱性とは、ほかならぬ企業自体の脆弱性であり、企業の存続なくして雇用は生まれないという当たり前の現実を目の前に突きつけられる。企業が倒産すれば、その社会的影響も重大である。

このように事業譲渡と労働関係の承継とその際の労働条件の問題は、労働者保護と企業(事業)の存続という相反する2つの要請がぶつかり合い、しかも、労働法と商法・会社法・倒産法との微妙な調整が必要となる難問である。事業の同一性のみをもって解雇法理の脱法と評価すべきか否かも、人によって価値判断が異なろう。

しかし、不幸にして労使紛争に発展した場合、長期の裁判闘争になる可能性も否定できない。筆者の経験で言えば、それは誰の得にもならない。最終的には、使用者の事業譲渡に関する労働者への真摯な説明・協議と、労働者側の使用者の経営判断。経営状況に対する理解のいずれも求められよう。そのための方策として、労使協議の場を設定する手続的アプローチと解雇の場合の金銭補償の立法化等の検討が有用であることは前述したとおりである。今後の議論の発展に期待したい。

離職率を隠す企業の事情とは?@上西充子

日経ビジネスオンライン連載中の上西充子さんの「その数値にダマされるな! データで読み解く大学生のシューカツの実態」の第6回目(最終回)「離職率を隠す企業の事情とは?」では、今年の労働経済白書のデータから始まって、日本経団連のアンケート調査、就職四季報の数字などを使いながら、離職率データの読み方を解説しています。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121001/237468/

その中の「ブラック企業への警戒心」という項で、POSSEの川村さんの話が引用されたすぐあとに、わたくしもちょびっと引かれておりますので、ご関心のある方は是非リンク先へ。

そういう話をすると「若いうちは時間を忘れて仕事に没頭するぐらいじゃないと、一人前には育たないものだよ」といった声を、企業の人事の方から伺うこともある。

しかし労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏によれば、従来は「見返り型滅私奉公」であったものが「見返りのない滅私奉公」となったのがここ十数年来の「ブラック企業」現象であるという(濱口桂一郎「日本型ブラック企業を発生させるメカニズム」『オルタ』2012年7-8月号)。企業内で働いている方々にも、実は共有されている懸念であるとは言えないだろうか。

野川忍『わかりやすい労働契約法〔第2版〕』

4785720186野川忍先生より『わかりやすい労働契約法〔第2版〕』(商事法務)をお送りいただきました。ありがとうございます。

この本の初版をいただいたときに、本ブログで紹介していました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/post_397b.html

第2版はいうまでもなく、この8月に成立した有期労働契約関係の改正内容を盛り込んだバージョンです。

2012年8月に改正された労働契約法。本改正は、いわゆる雇止めをめぐる判例法理の明文化、期間を反復更新して5年を超えた場合の労働者の「無期契約転換権」や有期労働契約であることを理由とする不合理なとりあつかいの禁止も導入されるなど、非正規労働者の立場に大きな変化をもたらす内容となっている。本書はそれらの内容を踏まえて緊急改訂。

http://bizlawbook.shojihomu.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?CID=&ISBN=4-7857-2018-6

追加された部分はそれほど多くなく、わりとあっさりした記述ですが、一点気になったところがあります。

5年で無期転換のところですが、こう書かれているのですが、

・・・さらに、教員の場合によく見られる形態として、1年の期間を定めた労働契約を通算5年まで更新するが5年で打ち切ることがあらかじめ合意されているような場合、5年で終了したことを踏まえた上で、「再雇用」という趣旨で改めて1年の有期労働契約が締結されたときは本条の適用があるか、という問題も生じるでしょう。これは実態によって異なると思われますが、仮に「5年で終了」という明確な合意が認められ、その後の「再雇用」について新たな契約書が作成されているような場合には、実質的にそれは従来の労働契約と同じ内容であっても、本条の適用はないという解釈が生まれる余地があるでしょう。しかし、「再雇用」の趣旨は実態に照らして厳格に認定されるべきであると思われます。

この理屈はこれとして理解できないわけではないのですが、これとその少し前で書かれている

なお無期転換申込の権利は労働者に付与された重要な権利ですので、あらかじめこれを放棄することはできません。

とは微妙に矛盾するようにも思われます。1年契約を更新して5年経ってもそこで打ちきるとあらかじめ約束しているから、その「打ち切」った直後に同じ1年契約を結んでも無期転換の申込はできないんだよ、いいな、わかったな、ということをあらかじめ約束しているという構造は、結局5年経ってさらに更新しても無期転換の申込はしないという約束をあらかじめしているのとどう違うんでしょうか。

てなことをつらつら。

2012年10月 3日 (水)

暮らしを軸にした労働の再編

お知らせです。

http://www.jil.go.jp/event/society/20121018/info/index.htm

JILPTと明治大学労働教育メディア研究センターの主催で「暮らしを軸にした労働の再編~ニューオリンズ洪水と東日本大震災の復興の経験から」というシンポジウムが開かれます。

コミュニティボイス代表ウェイド・ラスキ氏が来日するのにあわせて、海外労働情報研究会を開催します。

ラスキ氏は労働組合ではない新しい労働組織をアメリカで立ち上げ、コミュニティ(地域)を基盤にした活動に取り組んでいます。その内容は、住宅問題、教育、治安などのコミュニティの暮らしに深く関わるもので、そのなかで雇用創出、職業訓練、労働条件の改善、権利擁護といった労働問題も扱っています。この手法により、ラスキ氏は全米で17万人を組織して2008年の大統領選挙で大きな影響を与えたほか、ニューオリンズの洪水災害復興でも中心的な役割を演じてきました。

アメリカではコミュニティボイスと同様の手法をとる新しい労働組織の存在が大きくなっています。この背景には、頻繁に雇用主を変える労働者の能力育成と労働条件向上をどう結びつけていくのか、健康保険や年金などの社会保障制度をどう維持していくのか、といった問題があります。

これらの環境変化に加えて、アメリカでは2006年のニューオリンズの洪水、日本では2011年の東日本大震災という災害復興努力のなかで、「暮らし」のなかに「仕事」に関係した問題をどのように位置づけるかが重要になってきていると言えるでしょう。本研究会では、変化のなかにある労働をめぐる課題への日米の経験と将来展望について取り上げます

中身は次の通りです。

日時 2012年10月18日(木曜)13時00分~17時00分(開場12時30分)
会場 明治大学タワー・リバティホール(1013教室)

主催 労働政策研究・研修機構(JILPT)/ 明治大学労働教育メディア研究センター

13時00分~
開催趣旨 遠藤 公嗣 明治大学経営学部教授・明治大学労働教育メディア研究センター代表

アメリカにおける労働組合および新しい労働組織の展開 山崎 憲 労働政策研究・研修機構 国際研究部 主任調査員補佐

13時30分~
コミュニティオーガナイジングモデルの展開と災害復興 ウェイド・ラスキ コミュニティボイス代表

15時00分~17時00分
シンポジウム
山崎 憲 司会
ウェイド・ラスキ コミュニティボイス代表
龍井 葉二 連合総研副所長
小畑 精武 江戸川ユニオン副委員長
河添 誠 首都圏青年ユニオン書記長
髙成田 健 労働者協同組合事業団 中国四国事業本部長

なかなかおもしろいメンツです。

2012年10月 2日 (火)

高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(案)

本日の労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会に、去る8月に修正の上成立した改正高年齢者雇用安定法に係る政令案、省令案、指針案が提示されています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002l15q.html

そのうち、国会修正で条文上に盛り込まれた9条3項についての指針の記述を見ておきますと、

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002l15q-att/2r9852000002l1b2.pdf

2 継続雇用制度
継続雇用制度を導入する場合には、希望者全員を対象とする制度とする。この場合において法第9条第2項に規定する特殊関係事業主により雇用を確保しようとするときは、事業主は、その雇用する高年齢者を当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を、当該特殊関係事業主との間で締結する必要があることに留意する。
心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる。
就業規則に定める解雇事由又は退職事由と同一の事由を、継続雇用しないことができる事由として、解雇や退職の規定とは別に、就業規則に定めることもできる。また、当該同一の事由について、継続雇用制度の円滑な実施のため、労使が協定を締結することができる。なお、解雇事由又は退職事由とは異なる運営基準を設けることは高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律(平成24年法律第78号。以下「改正法」という。)の趣旨を没却するおそれがあることに留意する。
ただし、継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する。

就業規則に書いてある解雇・退職事由と同じことを定年時の継続雇用しない理由として就業規則上に、あるいは労使協定上に書くのは良いよ、それより拡大するのはダメだよ、というごく当たり前の話ですね。

なお、その後ろの賃金処遇制度の見直しは、「年齢的要素を重視する賃金・人事処遇制度から、能力、職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること」という話から始まって、特に拘束力のない話が続きますが、この項目は法律的に意味を持つかも知れません。

⑷ 継続雇用制度を導入する場合において、契約期間を定めるときには、高年齢者雇用確保措置が65歳までの雇用の確保を義務付ける制度であることに鑑み、65歳前に契約期間が終了する契約とする場合には、65歳までは契約更新ができる旨を周知すること。

また、むやみに短い契約期間とすることがないように努めること。

日本だってそうなんだけど・・・少なくとも法律は

例によって冷泉彰彦さんの言葉は、その限りでまことに正しいのですが、

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2012/10/post-484.php(アメリカではどうして「労働ストライキ」が可能なのか?)

いや、日本でもまったく同様に可能なんですけど・・・。

雇用側と労働者は対等であるべきという思想、アメリカの労働運動にあるのはそれ以上でも以下でもありません。労働者が正義で、資本家が悪というのではないのです。労働者と雇用側が対決するのも、あくまで民間の「私的な」争い、あるいは「民事係争」であって、あくまで対等なのです。そのルールの下で、労働者が処遇やワーク・ライフ・バランスを追求するために、団結権を行使する、それだけのことなのです。

いや、日本でもそれだけのことなんですけど・・・。

確かにかつては、「労働者が正義で、資本家が悪」みたいな思想を振り回す人もおり、いやそういうんじゃないんだと、近代的労使関係思想を一生懸命説いて回る人もいたわけですが、それもこれもいまやはるかいにしえのことのようにおぼろげにおもいだされるばかりです・・・。

結局、

勿論、ストライキというのは、企業業績の足を引っ張りますし、ブランドイメージにも害を与えるわけです。直接的にユーザーに被害が行くということから、顧客優先主義的な発想からは害悪に見えるということもあるでしょう。ですが、少なくとも、そうした権利が、少なくとも権利があるということが認識されていることで、労使が対等だという思想が死なずに済んでいるという面はあると思います。

毎度毎度でげっぷが出るでしょうけど、「お客様は神様」がいけないんや、で本日の締めということで。

平時忠シンドローム

ついでに、その国家鮟鱇さんのところからリンクされた

http://www.baiko.ac.jp/ars/heike/heike_25.html時忠の傍流意識

が、万古不変の人間の思考行動様式を示していてとても興味深い。

たとえ桓武平氏であろうと、また閨閥で六波羅平氏と結ばれていようと、直系には太刀打ちできない。傍系であることの限界を、時忠は身にしみて感じたことだろう。しかし、だからといって、六波羅平家から離反することは立場上出来ない。多少の不満はあっても、隠忍自重する方が得策でもある。時忠はきざしてきた傍流意識を封印し、試練に耐えることにした。すべては打算だ。
 
「此一門にあらざらむ人は、皆人非人なるべし」と時忠が言い放ったのは、この時期だ。
 
この発言はふつう、平家の奢りの象徴として取りあげられる。それはそれでよいのだが、発言の裏側に秘められている、時忠の屈折した思いを見落としてはなるまい。自分は「一門」の中に丸ごと含まれているわけではないとの、忸怩たる思いを包み込んだ、いわば、ほろ苦発言なのだ。平家内部での立場の弱さの悲哀を紛れさせるために、外に向けて発した虚勢の趣がここにはある。

ああ、この感覚、現代日本のここにもあそこにもいっぱいその例があるわ・・・。

実際に戦争をする必要はないんじゃないか

国家鮟鱇さんが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-6d1a.html(マジで「希望は、戦争」という時代)

及びそこから派生したらしいトゲについて論評していて、なるほどなのですが、一点だけ。

あと、 hamachan先生のところに書いてあることは、一見もっともらしいけれど、それらのことは「戦時体制」がありさえすれば達成できるのであって、実際に戦争をする必要はないんじゃないかと思うんだけどどうだろう?たとえば「軍隊は軍拡を望むけれど戦争は望んでいない」みたいな話は時々耳にするし。

いやまさにその通りで、戦時体制は福祉を向上する可能性があるけれども、ほんとに戦争に突入したら大体低落するでしょう。

だから、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_3f06.html(フリーターが丸山真男をひっぱたきたいのは合理的である)

もちろん、戦争なしにそういう改革ができたのであればその方がよかったのかも知れないが(実際そういう国もないわけではないが)、戦争もなしに戦前の丸山真男たちがそれを易々と受け入れただろうかというのが問題になるわけで。

この辺難しいところで、ほんとに戦争するつもりがある振りをしなくちゃ、今までいい目を見ていた人々にも我慢を強いる戦時体制なんてやれないわけで、ある種のチキンゲームみたいなものかもしれません。

生活保護見直しNHK後藤さんの解説

先日本ブログで厚労省の会議資料を引用しつつ説明したものについて、NHK解説委員の後藤千恵さんが、分かりやすい絵入りで解説しています。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/133008.html(時論公論  「増え続ける生活困窮者 ~支援戦略 どう描く~」)

J120928_03thumb350x196263199_2雇用のあり方や社会、家族のありようが大きく変わる中で、生活に困窮し、孤立する人たちが増え続けています。厚生労働省の審議会はきょう、生活に困窮している人を社会全体で支えていくための新たな戦略を考えようと本格的な議論を始めました。今夜はこの戦略について考えます。

・・・私たちの暮らしを支えるセーフティネットが揺らぐなかで、病気や失業など小さなきっかけであっという間に生活が困窮してしまう、そんな人が増えています。行政だけではなく、民間を含め、様々力を結集して、この社会に新たな、多様なセJ120928_04thumb350x196263201ーフティネットを張り巡らせていく、それは待ったなしの課題です。厚生労働省は今回打ち出した戦略を年末までに具体化し、報告書にまとめるとしています。どんな政治体制の下であっても、実効性のあるものになるよう、しっかりと議論を重ね、具体的な制度設計に取り組んでほしいと思います。

後藤さんは、こういう問題について極めて的確な感覚で解説される方なので、信頼が置けます。

2012年10月 1日 (月)

肝心の論点をスルーする人々

ここで言われていることは、

http://twitter.com/hahaguma/status/252045979220598784

景気がよくなるのにこしたことはないが(仮に雨乞い的でない施策がありうるとして)、そうならない場合でも持続可能なしくみ(再分配等)をつくり実施することが必要なのは言うまでもない(言うまでもなさ過ぎてもう言いたくない)。

http://twitter.com/hahaguma/status/252050064338456576

雨乞いの踊りや呪文以外に実効ある施策があるならやってみてほしい。他方で、景気がよくなることを希う人々の心理的弱さを思う。景気がよくなればみんながそれぞれよくなると期待できるから争う必要も分配に関する面倒な調整も必要ない。それらをスルーしたい人々が経済成長に望みを託す。

http://twitter.com/hahaguma/status/252052173607817217

富国強兵や所得倍増だけめがけて専心できていた時期とは違って、今は複雑にかみ合った様々な要素・条件のどれを固定して考え、どれを変えうると考えるかに関して、無限に近い順列組合せが可能。実現可能性に即せばもっと選択肢は少なくなるがパズルの複雑性は高い。それを無視したいのが景気回復派。

通常の日本語読解能力がある人であれば100人中100人までが誤解の余地はないはずなのですが、なぜかわざと誤解して(あるいは誤解したふりをして)肝心の論点をスルーしてみせるという、思想芸術上の手練手管を示してみるわけですね。

いや、子ども程度の読解力であれば、確かにこの文章を景気対策が雨乞いの踊りに過ぎないか、つまり景気対策が効くか効かないか、が中心的な論点だと読んでしまうこともあり得ます。現代国語ってのは、そういう(文の初めに出てくる)片言隻句にとらわれた浅読みをしないようにするための訓練であるわけですが、それはともかく。

誰の目にも明らかなように、ここで筆者が言いたいことは、景気対策が雨乞いであるかどうかというようなことではなく、それがどちらであろうが必ず必要であるはずの再分配の必要性を、敢えて議論のアジェンダから外すための手段として、景気対策のみに専心せよ、それ以外の余計なことに心を煩わせるな、という「教え」が悪用されているという主張であるわけです。中学生くらいなら趣旨を間違う程度のやや危なっかしい表現が若干かいま見えているとはいえ。

そして、仮に雨が降ったとしても、その流れてきた雨水が、いったい誰の田んぼに優先的に配分され、誰の田んぼが後回しにされるのかという、この文章の最大関心事項について、上記文章が主として念頭に置いているたぐいの人々が、こういう状況であるという事実を見れば、その懸念はまことにリアルなものであるというべきでありましょう。

残念ながら、その次元にまできちんと反応している方は、「りふれは」はいうまでもなく、まっとうな「リフレ派」にもいないようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-0adf.html(なるほど、こういうつながり)

Image3_2 http://twitter.com/toshio_tamogami/status/248566605762658305()

人権救済法案が閣議決定されました。弱者が権力を握ろうとしています。弱者救済が行き過ぎると社会はどんどん駄目になります。国を作ってきたのは時の権力者と金持ちです。言葉は悪いが貧乏人は御すそ分けに預かって生きてきたのです。「貧乏人は麦を食え」。これは池田総理が国会で言った言葉です。

Image4 http://twitter.com/smith796000/status/108338422514589696

いま、田母神さんに電話しました。野田さんとは愛国者つながりがあるので、「増税は外国を利するだけ。いまは絶対やめなさい。」と説得してくれるそうです!今こそ勢力糾合です!



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http://twitter.com/hidetomitanaka/status/169990048937283584

田母神氏は相当前からリフレ支持だと聞いてます。

http://twitter.com/YoichiTakahashi/statuses/23579546933330739399_2

田母神さんと対談したとき日本経済がダメになると防衛費に影響が出て中国になめられるとってたけど、それは本当。韓国にもなめられている。

(追記)

http://twitter.com/shinichiroinaba/status/252747503705935872

先生その援護射撃は筋悪です。その程度の反省は既になされています。

http://twitter.com/shinichiroinaba/status/252069106419892224

景気回復や成長重視を再分配の否定と見るのも被害妄想が過ぎる、と申せます。しかし人間はなかなかゼロサム思考から逃れられない。「あれかこれか」で考えたがる。ゼロサム思考の弊害を説いているはずの成長主義者さえ!

上で述べた「ここで筆者が言いたいことは、景気対策が雨乞いであるかどうかというようなことではなく、それがどちらであろうが必ず必要であるはずの再分配の必要性を、敢えて議論のアジェンダから外すための手段として、景気対策のみに専心せよ、それ以外の余計なことに心を煩わせるな、という「教え」が悪用されているという主張」ということとの関係で、どう「筋悪」であるのか、どこにどういう「反省」があるのか、このツイートだけで理解できる人がいるとは思えないのですが。

というか、わたくしの理解が本田さんの考え方を的確に捉えているかどうかは必ずしも定かではありませんが、わたくしが理解する限り上記本田さんのツイートはおよそ「景気回復や成長重視を再分配の否定と見」ているわけではなく(そう誤解される危険性のある危うい表現ではありますが)、「景気回復や成長重視」を盾にして「再分配を否定」するある特定の考え方の人々を批判しているだけだと思われるのですが。

ここからは余計な話ですが、そもそも経済学内部の論争に最大関心持っているはずのない教育社会学者の発言の中核的意図はその専門分野に関わりのある話に決まっているのであって、経済学者の間で熱心に議論されているからといって、ある種の経済措置が効くか効かないか(雨乞いかどうか)という論点が中心だと理解してしまうところに、そもそもバランスを失したバイアスがあるように思われます。

まあ、いろんな人の諸ツイートを見てると、どうしても対立軸を「「景気回復や成長重視」を盾にして「再分配を否定」」VS「どちらであろうが必ず必要であるはずの再分配の必要性」にではなく、極めて単細胞的に「成長」VS「再分配」としか見ない人々の群れが長々しく続いているのが垣間見えて、一瞬気が遠くなりかけますが。

常見陽平『僕たちはガンダムのジムである』

491012 というわけで、常見陽平さんから『僕たちはガンダムのジムである』をお送りいただきました。

このオビの文句がいいですねえ。

量産型人材として会社という名の戦場を生き抜いてきた著者による
ニュータイプになれない僕たちのための希望のキャリア論!

世の中は1%の「すごい人」(ガンダム)ではなく、99%の「その他大勢」(ジム)が動かしている

表見返しのこの台詞で人を不安に突き落としておいて、

・・・ある時、僕は気づいてしまった。

アニメ『機動戦士ガンダム』というのは、僕たちが生きてきた企業社会の縮図であるということを。

そして、さらに衝撃的なことに気づいた。

僕たちは、「ガンダム」に登場するジムのようなものであるということに。

そう、ガンダムではなく、ジムなのだ。

装甲が弱く装備も貧弱。

いつもやられる--。

最後にこのメッセージで勇気づける。

・・・会社と社会は、僕たちジムで動いている。

この現実を直視するべきだ。

・・・ジムであることの誇りと責任を今こそ持とうではないか。

世の中はガンダムだけで動いているわけではない。世の中はジムで動いている。・・・

・・・僕たちは「ガンダム」のジムである。

ジムだからといって、人生は終わったわけではない。・・・世の中は普通の人で動いている。ジム同士のつながる力で、真っ白な手を広げて待っている明日を少しでも明るく、1℃でも熱くしたいのだ。

ガンダム世代向けのこの表現は、それを「エリート労働者」と「ノンエリート労働者」というより普遍的な言葉に入れ替えれば、まさに普通の労働者のための普通の労働者の呼びかけであり、まことに普遍的なメッセージになるわけです。

第3法則のコロラリー

いうまでもなく、主張すべきことをきちんと主張することと、無駄に喧嘩を売り歩くことと、下劣な罵言を浴びせることはまったく別のことであるわけですが、

http://twitter.com/ikedanob/status/251497779833217024

中国人留学生が拾ったんじゃないの RT : 私が財布を落としたときに、次の日に現金だけ抜かれて放置してあった東大は、良くも悪くも世界基準の大学なのかな。

まあ、考えてみれば、第3法則の延長線上に沿った発言という意味では、何の不思議もないのですけど。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/3_a7ad.html(池田信夫氏の3法則)

池田信夫氏の第1法則:池田信夫氏が自信たっぷり断言していることは、何の根拠もない虚構である蓋然性が高い。

池田信夫氏の第2法則:池田信夫氏がもっともらしく引用する高名な学者の著書は、確かに存在するが、その中には池田氏の議論を根拠づけるような記述は存在しない蓋然性が高い。

池田信夫氏の第3法則:池田信夫氏が議論の相手の属性(学歴等)や所属(組織等)に言及するときは、議論の中身自体では勝てないと判断しているからである蓋然性が高い

学歴や所属組織以上に人種民族というのは究極の属性ですからね。

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