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雇用ミスマッチと法政策

New 本日『日本労働研究雑誌』の10月号が刊行されたので、先月号に載ったわたくしの「雇用ミスマッチと法政策」をホームページにアップしました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/mismatch.html

日本の労働市場法制の基本枠組みは諸外国と同様、具体的な職業能力と労働条件を互いにシグナルとしながら需給を結合させようとするジョブ型モデルに立脚しており、その需給の不適合(ミスマッチ)を公的職業紹介、失業給付、公的職業訓練といった諸施策で縮小するという政策体系である。一方、大企業正社員に典型的なメンバーシップ型モデルでは、潜在的な職務遂行能力ないし訓練を受ける能力(=人間力)が重要となるので、こういったミスマッチ縮小施策の有効性は少なくなる。

日本の労働政策は終戦直後から70年代初めまでは、職務分析、職業訓練と技能検定、職種別中高年雇用率制度など、ジョブ型を志向するものであったが、石油危機以降もっぱら「雇用の安定」を至上命題とする政策に転換した。職業や技能を重視しないミスマッチ対策とは企業への財政支援に集約される。その後90年代の「自己啓発」を標榜した時代を経て、2000年代には公的職業訓練や職業能力の公的証明といったジョブ型政策によるミスマッチ解消策に再び傾斜してきている。しかしながら、そのような政策方向はメンバーシップ型社会のただ中で生きてきた政権中枢の人々によって共有されておらず、無駄として繰り返し「仕分け」の対象となってきている。

内容は以下の通りです。

1 ジョブ型社会の「ミスマッチ」
2 メンバーシップ型社会の「ミスマッチ」
3 ジョブ型労働政策の時代-職務分析
4 ジョブ型労働政策の時代-職業訓練と技能検定
5 ジョブ型労働政策の時代-職種別中高年雇用率
6 「雇用安定・職業不安定」の時代
7 失業なき労働移動と「自己啓発」
8 職業訓練政策のダブルバインド
9 疑似ジョブ型ミスマッチ解消策とその批判
10 「職探し」の世界へ

世の中には、メンバーシップ型のシステムを攻撃して飯を食いながら、それであればますます重要となるはずのジョブ型労働政策のインフラをさらに輪をかけて罵倒して飯のタネにするというたぐいの、論理的には理解不能な、しかし商売的にはまことに理解可能な人々がいるわけですが、そういうえぐいのを目にしたあとの一服の清涼剤としてお読みいただければと。

なお、最後の「10 「職探し」の世界へ」において、「sociologbook」さんのブログ記事を引用させていただいていることを、感謝とともに付け加えさせていただきます。

10 「職探し」の世界へ
 
 去る6月12日に官邸の雇用戦略対話において決定された「若者雇用戦略」には、新規学卒者の上述のような「ミスマッチ」を解消するための方策として、「学校とハローワークの完全連結」が打ち出されている。

○ 学校の就職相談・支援機能とハローワークのマッチング機能を連結するため、以下の施策を実施する。
・ 全ての高校・大学・専修学校等について、ジョブサポーターの全校担当制を導入することにより、学校の就職相談員とジョブサポーターの相対の関係を構築し、マッチングを推進する。
・ 大学・専修学校等の要請に応じて、大学内等へのジョブサポーター相談窓口の設置・出張相談の強化を行う。
○ 学校の相談・支援機能を強化するため、大学内への就職相談員や未就職卒業生の多い高校への就職支援員の継続的な配置を推進する。
○ 地方学生等が就職活動の機会を確保できるよう、ハローワークの全国ネットを活用した広域マッチング体制を強化する。また、ハローワークの実施する面接会へ参加しやすい環境づくりを行う。 

 ハローワークはいうまでもなく、「求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対しては、その雇用条件に適合する求職者を紹介する」機関であり、まさにジョブ型のミスマッチ解消手段である。それを学校とりわけ大学に設置することの隠れた意義は、「君たちがやるべきことは就「職」であって、就「社」ではないのだ」というメッセージを送ることにあるのかもしれない。
 この点で、筆者は最近大変興味深い事例を見た。学生の就職活動に心を痛めているある大学教師のブログに、このような記述があったのである*5。

・・・それでも既卒を中心にハロワですぐに内定取るやつがたくさんいて、話をきくと確かに地味な中小が多いがなかなかのんびりした昭和な感じの会社も多くて、もうこれは職探しの手段としてはハロワ最高ちゃうん、って思って、苦戦してる学生にめっちゃ勧めてるんだけど、あれっと思うほど反応が悪い。
・・・もちろんハロワで見つかる会社にブラックがぜんぜんないっていう話ではぜんぜんなくて、そうなんじゃなくて、どうせ同じならムダに苦労することないと思うんだけど、っていうことやねんけども。やたらと競争率の高いところに行こうとして無理して長い期間しんどい就活しなくても、給料に差は無いんだから、ハロワで地元の中小企業探して、あとはのんびりと最後まで学生生活楽しんだらいいと思って、かなりアツくハロワ推しをしてるんだが、なんかあんまり反応がない。
・・・それで学生たちになんでハロワ行かないのって聞いたら、まあ聞いたらなるほどって思いましたけども、「ハロワに行くのって『職探し』って感じがするんですよー」って言われたときはびっくりした。いやお前らいまやってるの職探しやろ。違うのか。

 メンバーシップ型モデルにおいては、上述のように新規採用とは会社共同体の一員になることであって、いかなる意味でも「職探し」ではない。それゆえ、この学生たちの感覚は(自分たちにそれが可能だと思っている限り)間違いではない。しかしながら、企業側が人事戦略として「長期蓄積能力活用型」モデルを収縮してくる中で、おそらくそこに入り込めない可能性が高いと推測されるこの大学の学生たちにとって、そこから身を引き離してハローワークに象徴される「職探し」の世界に入っていくことにはかなりの意義がありそうである。

*5http://sociologbook.net/?p=385

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