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2012年9月28日 (金)

石水喜夫『現代日本の労働経済』岩波書店

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石水喜夫さんの『現代日本の労働経済』(岩波書店)をお送りいただきました。

石水さんはいうまでもなく6年間にわたって労働経済白書を執筆してきた労働エコノミストの代表であり、現在は京都大学で教鞭を執っています。

失業や不安定雇用といった現代日本が抱える労働問題の現状を,豊富なデータから多角的に描き出し,経済運営の抜本的な転換に向けた経済理論と政策論を構想する.「労働経済白書」の執筆を担ってきた著者が,主流派の市場経済学に代わる新たな労働経済論の枠組みをトータルに提示.

第1部の「労働経済の分析」が、労働経済白書で書けなかったところまで踏み込んだ総集編であるのに対し、第2部の「理論研究の課題」は、石水さん独自の経済学を構築しようという試みと言えます。

主流派の市場経済学に対して政治経済学を対置するその情熱的な語り口には、心を動かされる人々も多いに違いありません。

ただここでは、あえて石水さんの思想と私の思想の違いをクリアに示しておきたいと思います。ともに、労働者のための、より良き労使関係のための政策を目指しているはずですが、なにが労働者のためであり、より良い労使関係であるかについては、かなり大きな乖離が両者の間には窺われるからです。

石水さんには、OECDの雇用戦略や日本の構造改革論といった「外在的」な、敢えて言えば余計な横からの入力のせいで、素晴らしかった日本の雇用慣行が崩れてきた、というイメージが強固にあるように見えます。そういう側面があることは否定しません。

しかし、本当に日本のそれまでの仕組みが、その中にいる人々みんなにとって良きものであったのなら、たかが横からの雑音ごときで崩れるはずはないのではないでしょうか。

90年代にアングロサクソン的なバイアスのかかった改革論が持て囃された原因には、それに呼応する感覚があったからだと思います。

もう少し腑分けしていうと、石水さんの議論には、日本型システムにおいてもともと周縁的な立場やその外側にいた人々にとってそれがどういう存在であったかという観点が薄いように思われます。

また、それと対比的に内部にいる人々にとって、日本型システムがもたらすその長期的なキャリア保障という望ましい側面と裏腹の形で存在していた極めて強い組織への義務づけが、決して嬉しいばかりのものではなかったという(70年代、80年代の議論では後ろに隠れがちであった)側面も、なぜ90年代に「社畜」批判という形で吹き上がったのかを理解する上で逸することはできないでしょう。

これらを全て、OECDやら構造改革論といった横からの入力に騙されたのだという風に考えてしまうと、それこそ労働経済だけではない社会のさまざまな側面まで総合的に勘案した社会政策の視点にはならないように思われます。

むしろ、正しい問題設定はこうあるべきではないでしょうか。すなわち、90年代初頭から提起されてきていたまっとうな日本的システムへの疑義を、安易にアングロサクソン型の市場原理主義に載っかる形でしか実行できなかったのはなぜか、と。

これらは、主に第1部の第3章、第2部の第2章で論じられている議論に対応する話ですが、今回の著書はそれらを超える次元に翼を羽ばたかせている部分も多く、わたくしには議論する素養がないところもあります。是非多くの方にお買い求めいただき、そして是非自分はどう考えるかを常に意識しながらお読みいただきたいと思います。そういう読み方にふさわしい本だと思います。

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コメント

hamachanの書評に概ね同感です。実は石水さんから5月頃に本書のゲラ段階の原稿を送っていただいたさいにもいくつかの感想を述べさせていただき、その中で日本的雇用慣行は無条件に理想とすべきものではありえないことにつて述べさせてもらいました。
さて、この度石水さんのこの本の出版を契機に、労働法律旬報の新年号向けに座談会を行う企画がされました。石水さんを囲んで連合、電機連合、UAゼンセンそしてJAMから私というメンバーです。多岐にわたる論点が提起されている本ですから、既に行われた座談会でもいろいろと意見が出され、それなりに面白い議論ができたかなと思っております。是非hamachanにもご一読いただき、忌憚のないご意見を聞かせて戴ければ幸いです。

早川さん、お知らせいただきありがとうございます。

大変興味深いメンツの座談会ですね。

ぜひ、読ませていただいて、本ブログ上で感想を申し上げたいと思います。

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