松尾匡さんの絶妙社会主義論
松尾匡さんから、松尾さんの「リスクと決定から社会主義を語る」という掛け合い漫才風の絶妙な社会主義論を含む社会主義理論学会編『資本主義の限界と社会主義』(時潮社)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
http://www.jichosha.jp/cl04/detail/470
松尾さん自身がご自分のHPのエッセイでこう紹介していますので、それを引用しますと、
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__120729.html
ここの最後の章がボクの章で、ベテラン「革命家」の「南天南八(なんてんなんぱち)」と、アイドルの女子大生「下原千恵(げばらちえ)」の掛け合いという形式で書きました。国営指令経済で特権と粛清が発生するのはなぜか、ソ連・東欧経済が私有資本主義になった理由、なぜコルホーズ制をとったか、労働者自主管理企業で内部資金で蓄積すると年功制や会員権方式を通じて変質すること、ユーゴ型自主管理経済がインフレで崩壊する必然などを説明したあと、決定とリスクと責任のバランスという観点から企業の主権のあり方を考察しています。
背景には、ゲーム理論などの応用ミクロモデルがあるのですが、もちろん、まったく数式などは出さず、例によって主観的には一般向けにわかりやすく書いたつもりです。実はひとりよがりかもしれませんけど。参考文献案内もたくさんつけましたので、立ち入った勉強をしたいときにも役立ちます。
これが絶妙。どう絶妙かと言えば、引用し始めるときりがないので、もうとにかく本屋で立ち読みでも何でもしてね、としかいいようがない。社会主義の問題点とあり得る可能性を、ここまで分かりやすく軽妙に、しかもレベルを全然落とさずに書いたものはたぶんほかにないはず。
本当は「是非買ってね」と言ってもらいたいところでしょうけど、正直言って、ほかの論文は金を出して読むほどのものとはとても思えなくって、そこまではなかなか言えない。
はじめに 西川伸一
第1部 資本主義の行き詰まり
第1章 鎌倉孝夫「体制」変革の理論と実践
第2章 森本高央 証券化資本主義の破綻が招くドル基軸通貨体制の終焉
第3章 瀬戸岡紘 近代社会と市民にかんする一一般理論序説
一新しい社会主義像を構想する手がかりをもとめて
第2部 中国の経験を振り返る
第4章 大西 広 毛沢東、文化革命と文化の次元
第5章 瀬戸 宏 戦後日本の中国研究
--日本現代中国学会を中心に
第3部 社会主義の新たな可能性
第6章 田上孝一 マルクス疎外論の射程
一新たな社会主義構想のためにー
第7章 山崎耕一郎 労農派社会主義の原点と現在
--山川均論を中心に--
第8章 紅林 進 ベーシックインカムと資本主義、社会主義
第9章 松尾 匡 リスクと決定から社会主義を語る
おわりに 田上孝一
入会の呼びかけ・会則・論文集既刊・研究会の歩み・執筆者略歴
それでも理論編のところは、あんまり一般向けに面白いものじゃないけど、まあそれなりに読めるのかも知れないけれど、中国ネタの論文は正直、これのどこが「社会主義理論なの?」としか思えなかった。
あんなに立派だった八路軍が文革で悪になったというけれど、文革にも値打ちがあった、って、おいおい、文革の前に反右派闘争だの、大躍進だのっていろいろあったんですけど。
いやなにより、何で社会主義理論の本のはずなのに、「文化の次元が大事」だの、「早すぎた毛沢東」だのって観念論ばっかり出てきて、肝心の労働者のあり方が全然出てこないの?
その次のも、要するに現実をそのまま見ることの出来なかった左翼中国シンパの失敗の歴史なんじゃないの?
そんなのが「社会主義」なら、資本主義よりも百万倍も限界があるのは当然じゃないかと思う。
正直、こういうのが並んだ本を、「是非買ってね」というのはつらい。
うーむ、なんだか山形浩生氏の辛口批評みたいになってしまったけれど、松尾さんの掛け合い漫才論文は、絶対に読む値打ちがあるので、是非図書館に買ってもらいましょう。
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コメント
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いつも早々にご紹介下さり、本当にありがとうございます。しかも過分なご評価をいただき恐縮です。
まあこの山崎さんの文章を読んでも思いますけど、大異を捨ててつくのは山川派の出自の性みたいなもので、今回の新書の仕事ではじめて本人の文章をちゃんと読んで、やっと自分と等身大に思えて限界を認識した次第です。わかっちゃいるけどやめられないことも自覚したもので、これにかぎらず各方面w、あまりおこらないでねw。
投稿: 松尾匡 | 2012年8月 8日 (水) 08時23分
山崎耕一郎氏のいう「これからも全無産勢力の連携、結集を」ですね。
いや、連携、結集は結構ですけど、それが明白な悪事の隠蔽や弁護をもたらす危険は、まさにこの本に結集している人々が一番よく分かっていることだと思うのですよ。
たぶん、(少なくとも日本の文脈における)ある時期以降の左翼の不評の最大の要因は、そこにあるように思います。そのあたりの認識がいまいち足りないのではないか、と。
いやこんなことは、松尾さんの「新しい左翼入門」にちゃんと書いてあるわけですが・・・。
投稿: hamachan | 2012年8月 8日 (水) 08時54分