太平電業・中部プラントサービス・中部電力(浜岡原発)労災事件判決
3月23日に静岡地裁が下した判決が裁判所HPにアップされています。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120806133945.pdf
これは、浜岡原発における重層請負関係のもとで起こったアスベスト曝露による死亡(労災認定済)について安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求めた事件ですが、
中部電力→中部プラントサービス→太平電業→野口工業→労働者
という4重請負関係の太平電業・中部プラントサービス・中部電力を全部被告にして訴えたのですね。
結論は、下請と孫請の太平電業・中部プラントサービスについては安全配慮義務を認めたのに対し、中部電力については認めませんでした。
問題はその理屈です。
被告太平電業は,作業現場に工事担当者を置いて野口工業の現場作業指揮者を指揮監督し,朝礼を主宰した。工事担当者は,野口工業の作業員に代わって実際に作業を行うこともあった(1(5)イ)。そうすると,被告太平電業は野口工業の従業員であった Dから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたと認められるから,安全配慮義務を負う。
被告中部プラントサービスは,実際の作業手順,作業スケジュールを記載した作業手順書及び作業工程表を作成し,これをもとに野口工業ら2次下請業者の現場作業指揮者が細かい施行方法を決定していた。
また,被告中部プラントサービスは,作業全般の調整業務を行う現場責任者と作業現場の監督をする現場監督者を選任していたところ,現場監督者はほぼ現場に常駐し,朝礼や現場での打合せに参加するほか,被告太平電業の工事担当者を通じて作業を監督した。
そして,被告中部プラントサービスは,工事要領書を作成していたところ,これには点検工事に当たって被告中部プラントサービスの現場監督者が留意し作業員に対して指導確認すべき重要管理項目等が詳細に記載されていた(1(5)イ)。
このような事情によれば,被告中部プラントサービスは現場監督者による被告太平電業の工事担当者に対する指示という形で間接に野口工業の従業員である Dを指揮監督しており,また必要があれば Dに直接指示を行うことも可能であったといえるから,請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたと認められるから,安全配慮義務を負う。
下請と孫請はひ孫請会社の労働者を指揮監督していたから、安全配慮義務を負うと。
ところが、
被告中部電力は,作業現場である浜岡原発の敷地・建物を所有・管理し,放射線管理の観点から作業員の出入り等を厳重にチェックしていた。また,作業員に対し防護服,工具の一部及び材料等を提供し,請負会社である被告中部プラントサービスに対し定期点検の実施要領である工事仕様書を渡していた(1(5)ア,イ)。
しかし,工事仕様書に記載される事項は概括的な事項にとどまっており(1(5)ア),社員を現場に常駐させていたわけではなく,進行状況については被告中部プラントサービスの現場監督者に対して適宜報告を求め,また品質管理の観点から重要項目について現場監督者に立会いを求めていたにとどまるものであるから(1(5)イ),野口工業の雇用していた Dから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたとは認められず,安全配慮義務を負うものではない。
中部電力はそこまでやらずに任せていたから、安全配慮義務はないと。
これは、起こったことの責任論からすればそういうことになるのでしょうけど、逆に浜岡原発という現場で働く全ての労働者の安全衛生を、誰がどのようにきちんと守るべきなのか、という観点からすれば、逆に中部電力は無責任じゃないか、という意見もあり得るでしょうね。
いや本事件はアスベストが問題になっていますが、いうまでもなくこれからこういう問題が山のように起こってくるのは、放射線曝露の問題であるわけですから。
「工事仕様書に記載される事項は概括的な事項にとどまっており・・・,社員を現場に常駐させていたわけではなく,進行状況については被告中部プラントサービスの現場監督者に対して適宜報告を求め,また品質管理の観点から重要項目について現場監督者に立会いを求めていたにとどまるものであるから」安全配慮義務はないというのは、いささかつらいものがあります。
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コメント
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>これは、起こったことの責任論からすればそういうことになるのでしょうけど、逆に浜岡原発という現場で働く全ての労働者の安全衛生を、誰がどのようにきちんと守るべきなのか、という観点からすれば、逆に中部電力は無責任じゃないか、という意見もあり得るでしょうね。
「丸投げ」した側の責任は問われず、「丸投げ」された側ばかりが、糾弾され責任を負わせられる。
例えば労働契約においては、抽象的な契約関係解釈および規律の上では、使用者側には合理的かつ適切な労務指揮権の行使が求められるところ、
多くの人がうすうす感じているように、実際の労働現場は、「丸投げ」したもの勝ち(つまり、労基法でいうところの使用者(側)による、具体性・合理性なき指揮命令の押しつけ)、の状況がいわば当たり前となっている(ように思える)。
はたして、裁判所すらもこの類(たぐい)の状況を仮に放置し続けるとしても、
儒教(『論語』ではない)を学ぶ私のようなものからすれば、
このような状況・状態は“天(の定めるところ)の秩序”に背くもの、と思わざるを得ない。
(まあ、このような言い方では、それこそ「つらい」ところかもしれませんが…。)
投稿: 原口 | 2012年8月 6日 (月) 23時40分
重箱の隅っぽいので恐縮ですが…
中部電力は発注者で、中部プラントサービスが元請、太平電業が下請なのではないですか?
なので中部電力には工事現場管理の責任はないということではないかと思いますが。
投稿: yossy | 2012年8月 7日 (火) 00時26分
いや、さすがにそんな絵に描いたような概念法学は裁判所と雖も言ってません。
これを理論的前提にして、「注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合」ではないといっているわけです。
投稿: hamachan | 2012年8月 7日 (火) 08時48分
>中部電力は発注者で、中部プラントサービスが元請、太平電業が下請なのではないですか?
なので中部電力には工事現場管理の責任はないということではないかと思いますが<
僭越ながら…
お題の事例は、単なる発注者(=顧客)なのではなく、発注者自らが事業を営み、その一部を下請け・孫請け・ひ孫請けさせているという点で、労働安全衛生法に言う少なくとも「元方事業者」だというケースでしょうか。
つまり、刑法の行為論で言えば行為支配(勿論その程度問題であるということですが…)、構成要件的故意責任(若しくは構成要件的行為の過失責任)で論ぜられる入り口論だと思います。けして出口論としての責任ではないと思います。
危険な場所物を生み出した行為にたいする責任という考え方は出来ると思いますし、労働安全衛生法の「元方」や「特定元方」という考え方はそうだったのではないでしょうか。
つまり、猛獣の檻に安全だとだまして入るよう唆かした者は悪い。
同様に、本当は危険なのにみんなが安全だと思い込ませるよう偽網したり、不安全な情報を隠したりして猛獣の檻を設置して誰でも自由に入れるようにした者がいたらそれも悪いと…。
投稿: endou | 2012年8月 7日 (火) 18時14分
>hamachanさま
> そして,注文者と請負人との間において請負という契約の形式をとりながら,注文者が単に仕事の結果を享受するにとどまらず,請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合 <
よく分かりました。請負と言いながら実際は労務提供である場合は安全配慮義務は発注者にもあると。
確かに、プラントの場合は一般の工事現場と違ってほぼ常駐の請負業者がいて、プラントの持ち主(=発注者)の指示を受けているような場合が多いでしょうから。
となると、中部電力はうまく手を打っていたということでしょうか。
投稿: yossy | 2012年8月 7日 (火) 23時09分
これは、東電1F,2F、火力、勿来火力でも同じだった。
投稿: 元東電2Fでの太平担当 | 2013年1月 9日 (水) 23時29分