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2012年8月

2012年8月31日 (金)

上西充子さんの新連載@日経ビジネスオンライン

日経ビジネスオンラインで上西充子さんが「その数値に騙されるな データで読み解く大学生のシューカツの実態」という連載を始めました。第1回は、「「どっちがホント?」 異なる就職率が併存する理由と弊害 文科省と厚労省の共同調査に潜む3つの由々しき問題点」です。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120829/236163/

中身はこれまでも指摘されてきた、就職内定状況調査というのが、就職希望者が年度末に近づくにつれどんどん減っていって、分母が少なくなるから、結果的に就職率が高くなったように見える、という話ですが、噛んで含めるように丁寧に説明されています。

この中に、上田晶美「研究ノート 大学生の就職率調査の現状とその問題点」(『嘉悦大学研究論集』第54巻第2号通巻100号2012年3月)を引用しているところがあり、リンク先を覗いてみると、大変興味深い分析がされていました。

http://ci.nii.ac.jp/els/110008921084.pdf?id=ART0009877815&type=pdf&lang=en&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1346412673&cp=

本稿では、公的機関の行なっている以下の代表的な3つの大学生の就職率調査について検討する。1「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」(厚生労働省・文部科学省)、2「学校基本調査」(文部科学省)、3 各都道府県労働局の就職率である。1については厚生労働省担当者に直接疑問点を尋ね、聞き取り調査を行った。世の中に官民併せ多くの就職率調査がある中で、これらの3つの調査を選び研究することとした理由は、国や都道府県の行うものとして信頼度が高く、新聞紙上などでもひときわ大きく扱われ、国民への影響力が大きいだけでなく、国の就職対策の予算の根拠となっているものが含まれているからである。 大学生の就職の現状は、1990年代のバブル崩壊後、長期間にわたって厳しい状況が続いており、我々、大学教育現場にいるものにとって、憂慮すべき課題となっている。若年者の就職難は大学だけにとどまらない大きな社会問題であり、教育現場だけで解決できるものではなく、これまで以上に官民一体となった就職支援対策を講じることが必要であると思われる。そのためには、根拠となる「現状の把握」が不可欠であり、大学生の就職率を正確に調査することが大前提になる。ところが、本稿でとりあげるこの3つの調査は、国の調査という信頼度の高いものにも関わらず、また、同じ省庁が関与しているというのに、一見したところ調査結果の数字は大きく食い違うものとなっている。調査対象の選び方やいわゆる「就職率」の計算方法、特に調査ごとに計算式の分母がそろっていないことが主たる要因であると推定できる。本稿では、これらの調査を有効活用できるものにするために、それぞれの調査の調査対象の選び方や「就職率」の計算方法の特徴を検討した上で、大学生の就職支援対策にとってより有効な調査とするための改善策を提案する。

なぜ、こうも本質を取り違えた問題設定をしてしまうのか?

安藤至大さんのついーとですが、

http://twitter.com/munetomoando/status/241029907721900033

仮に高齢者の継続雇用を企業に強制しても問題がないのであれば、いっその事、老若男女を問わず希望者全員の雇用を企業に義務付けてはいかがでしょうか?失業問題が完全に解決しますね!

なぜ、こうも本質を取り違えた問題設定をしてしまうのか?とため息が出ます。

いうまでもなく、老若男女を問わず、正当な理由があれば雇用の継続を希望する人であっても雇用を終了して構わないし、正当な理由がなければそういうわけにはいかない、というのがものごとの出発点。

問うべき問いは、なぜ60歳という一定年齢であれば、「他の年齢であれば許されないような」雇用終了が許されるのか?という問いでなければなりません。

いうまでもなく、OECD加盟国では日本と韓国を除き、そういう年齢差別は許されないことになっています。

それがすっぷりぬけおちて、こういうおかしな問いの立て方になってしまうのは、60歳という一定年齢に達しない限り、正当な理由があっても解雇することはできない、などという現実とはかけ離れた、しかしながらある種の経済学者や評論家が主張したがる偏見が背後にあるからでしょう。

実は、今回の改正案は国会で修正がされていて、そういうわけではないということが法律上に明記されています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-25a6.html(衆院厚労委、高齢法の民自公修正案を可決)

3 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

この趣旨は、昨年末の建議にあるように、

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000022toc-att/2r98520000022tt7.pdf

・・・その際、就業規則における解雇事由又は退職事由(年齢にかかるものを除く)に該当するものについて継続雇用の対象外とすることができるとすることが適当である(この場合、客観的合理性、社会的相当性が求められると考えられる)。

別に年齢を理由にしなくても雇用終了できるような場合だったら継続雇用しなくていいよ、とごく当たり前のことを言ってるだけでして、それが困るというのは、要するに解雇できるのに姑息にも解雇しないでおいて、60歳まで待ちに待って、「いやあ年ですからやめてよね」と言いたいというだけのことでしょう。

それだけのことが、それほど大騒ぎしなければならないことなのか、というのが実のところかくも騒ぐ人々が真剣に考えるべき事柄でもあります。

ハイエクもフリードマンも載ってました(ペコ)

画面上でざっと見ただけでは見落とすものですね。

ついうっかり、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-4b86.html(組み合わさってますけど・・・)

確かにフリードマンもハイエクも載ってませんが・・・。

などと口走ってしまいましたが、ちゃんと載ってました。ただし、本文じゃなくてコラムですが。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12/dl/1-02.pdf

コラム 20世紀における社会保障・福祉国家への批判

オーストリアの経済学者・哲学者であるフリードリヒ・フォン・ハイエク(Friedrich August von Hayek, 1899-1992)は、市場の自動調整機能を損なうような、強制的手段による弱者保護や累進課税を否定した。
ハイエクによれば、福祉や再分配の領域における国家の政策では、分配の基準について、国家が判断することとなるが、こうした基準の設定を限定的な知しか持ち得ない国家が行うことは、恣意的な分配にしかなり得ない。むしろ、国家が介入せず、この種の判断 を個々人にゆだねるならば、自由に交わる個人はそれぞれの持つ情報や知恵を結晶化させて「自生的秩序」を生み出す。それを代表する自由市場は、いかなる中央の計画者にも入手できない種類の知を提供する価格というシグナルを備え、個々人を全体的な善に導く経済活動に向かわせると主張する。
すなわち、国家が計画を策定し、特定の目的を達成するため資源を再分配することは、個人の自由を侵害するだけでなく、それ自身に任せておけば全ての人に利益を与えるはずの市場プロセスを非効率なものにして、長期的には社会の発展を阻害することになるとする。
また、アメリカの経済学者であるミルトン・フリードマン(Milton Friedman,1912-2006)は、①裁量的な福祉政策は現に望ましい結果をもたらしてはおらず、②家族の絆や社会のダイナミズムを失わせ、人々の自由を阻害しているとして、福祉国家・大きな政府に反対した。
フリードマンは、政府のなすべき役割は、①市場を通じた経済活動の組織化の前提条件(ゲームのルール)を整備すること、②市場を通じて達成できるかもしれないが多大な費用がかかることを行うことに限定されるべきで、「負の所得税」制度という単一の包括的なプログラムを導入し、アメリカの社会保障制度は解体すべきであると主張した(『資本主義と自由』,1962年)。この背景にあるのは、効率を重視する市場メカニズムへの大きな信頼であり、自由な経済秩序は市場メカニズムの貫徹によって、個人の自由と福祉を最もよく増進できるという哲学であった。

もっとも、これらはハイエクやフリードマンの原典の邦訳ではなく、

嶋津 格「ハイエクと社会福祉」(塩野谷祐一・鈴村興太郎・後藤玲子 編『福祉の公共哲学』(東京大学出版会,2004年)所収)
小峯 敦 編『福祉の経済思想家たち』【増補改訂版】(ナカニシヤ出版,2010年)

という参考文献による記述のようです。

ちなみに、そのすぐ後に載っているロールズとノージックに関する記述は、いずれも原典の邦訳が参考文献に挙がっています。まあ、妥当なところじゃないか、と思いますが、人によってはこの扱いの差に腹が立つかも知れません。

敵を最強に描いておけば・・・

被災地で日夜奮闘するマシナリさんも、心が折れそうになったことが何度もあったのです。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-530.html(「絶対最強の公務員」なんているはずがない)

・・・被災地で復旧・復興支援に当たっていた公務員が自殺するという事態が発生しています。

・・・正直にいえば、私自身、震災後の被災地の状況やそれに対応するための業務の錯綜のため、心が折れそうになったことは何度もあります。あるいは、もうすでにある意味でのメンタルは崩壊しかかっているのかもしれません。もちろん、直接被災した地域ではない内陸部に住んでいて、自分を含む家族が直接の被害を受けていませんので、直接被害に遭われた方々に比べれば恵まれています。しかし、従来の通常業務に加えて被災地支援の業務を一部担当している中で、自分なりに手を尽くしても目に見えて被災地の復興が進むわけでもなく、したがって支援している方々に直接感謝されることも(たまにはありますが)ほとんどありません。むしろ、例年に比べて数倍に膨れあがったサー○ス残業を強いられながら、「役所なんかろくなこともしないでムダなことばかりしやがって」とか「くだらない決まり事ばかり気にして柔軟な対応もできない役立たずめ」という批判に日常的に晒されていれば、通常の精神状態でいられなくなるのもやむを得ないものと諦めております。

なぜこういうことがまかり通るのか、

・・・端的に言えば、報道機関による不適当な報道でこうした誤解や思い込みが広がっていくのですが、我々が普段接する批判というのは、こうした誤解や誤報に基づくものがほとんどでして、結局報道機関のミスのつけは公務員に回ってくることになります。公務員というのは、そうした誤解や誤報に基づく批判を正面から受けなければならない一方で、その誤解や誤報を指摘すれば「言い訳がましい」とさらに批判を強められてしまう立場ですので、基本的には平身低頭して不快・不満な思いをさせてしまったことをお詫び申し上げるしかありません。これで通常の精神状態を保つというのは、少なくとも私にとっては至難の業です。

・・・こうした我々の社会の「普通」の中では、不適切な報道やそれに基づき誤解を振りまいていく方々に手をつけることはできません。結局地元自治体として執りうる手段は、冒頭で引用した記事にあるように「男性の自殺を受け、派遣を受ける県内の市町村に対して、職員の心身のケアを徹底するよう通知」する程度です。不思議なことに、普段は「抜本的解決が必要だ」などと息巻いている方々の多くは、そうした公務員の心身のケアが必要となってしまうような状況の根本的な原因となっている誤解や誤報を「抜本的」に解決しようとすることありません。むしろそうした誤解に振り回された多数派を「民意」として、それは尊重されるべきという論調が多いように思います。しかし、こういう負のスパイラルはイタチごっこにしかなりませんし、それに対応するために要する時間、心身の疲労こそをムダの源泉として、その削減に取り組まなければならないものだと思います。

そして、さらに事態の本質をえぐっていくと、

敵を強大に描いておけば、持論が実現しない場合であっても「その敵が強大な力を有していて、あらゆる手段を使って陰謀を張り巡らしているから、俺は正しいことをいっているのに実現されないのだ」と言いつのることで、永遠に言い逃れをすることができます。「公務員は絶対的な権力を持ち、絶対に折れない精神力を持ち、絶対に利得を確保する頭脳を持ち、絶対にそれを知られないようにする陰謀を張り巡らしている」というあり得ない虚像を描いて、「相手が絶対に倒れない」という安心感から無秩序な批判を繰り広げるのが我々の社会の「普通」であるならば、その虚像に祭り上げられた生身の人間は心身を病んでしまいます。それもまた我々の社会の「普通」なのかもしれません。

という近年「りふれは」方面を中心に大流行の「陰謀論」に至りつくわけですが、肝心のその張本人の人々は、ハナから反省するどころか、まだまだ「巨悪」への攻撃が足りないとばかりに、空想的陰謀論の展開に余念がないようです。

被災地の公務員や公共サービスに関わる人々は、こういう不条理きわまる状況下で、それでも精神の健全さをなんとか保ちつつ、(そういう陰謀論者が指先一本動かすことのない)被災者のためのサービスに必死の思いで頑張っているのですが・・・。

2012年8月30日 (木)

組み合わさってますけど・・・

http://twitter.com/shinichiroinaba/status/240464930724257793

『ベヴァリッジ報告』は『自由社会における完全雇用』と読み合わせないとだめですよ。つまりケインズと組み合わせないベヴァリッジは非常に危険。 / “『平成24年版厚生労働白書』は社会政策の教科書: hamachanブログ(EU労働法政策雑…”

組み合わさってますけど、何か・・・。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/24-7de8.html(『平成24年版厚生労働白書』は社会政策の教科書)

第1章 なぜ社会保障は重要か
◉ カール・ポラニー 『[新訳]大転換―市場社会の形成と崩壊』(野口建彦・栖原 学 訳 東洋経済新報社,2009年[ 原著1944年])
◉正村俊之 『グローバリゼーション 現代はいかなる時代なのか』(有斐閣,2009年)
◉福澤直樹 『ドイツ社会保険史 社会国家の形成と展開』(名古屋大学出版会,2012年)
◉田中拓道 『貧困と共和国――社会的連帯の誕生――』(人文書院,2006年)
J.M.ケインズ 『雇用・利子および貨幣の一般理論』(普及版,塩野谷祐一 訳 東洋経済新報社,1995年[ 原著1936年])
ウィリアム・ベヴァリジ 『ベヴァリジ報告 社会保険および関連サービス』(山田雄三監訳 至誠堂,1967年[ 原著1942年])

◉横山源之助 『日本の下層社会』(岩波文庫,1985年[原著1899年])
◉ 農商務省商工局工務課工場調査掛 『職工事情』(上)(中)(下)(犬丸義一 校訂 岩波文庫,1998年[原著1903年])
◉細井和喜蔵 『女工哀史』(岩波文庫,2009年[原著1925年])
◉濱口桂一郎 『労働法政策』(ミネルヴァ書房,2004年)
◉ 齋藤純一・宮本太郎・近藤康史 編 『社会保障と福祉国家のゆくえ』(ナカニシヤ出版,2011年)
◉堀 勝洋 『社会保障法総論』(東京大学出版会,1994年)
◉広井良典 『日本の社会保障』(岩波新書,1999年)
◉ 橘木俊詔 『安心の社会保障改革 福祉思想史と経済学で考える』(東洋経済新報社,2010年)
◉ 橘木俊詔 『朝日おとなの学び直し 経済学 課題解明の経済学史』(朝日新聞出版,2012年)
◉松村祥子 編著 『欧米の社会福祉の歴史と展望』(放送大学教育振興会,2011年)
◉糸賀一雄 『福祉の思想』(NHKブックス,1968年)
◉小峯 敦 編 『福祉の経済思想家たち』[増補改訂版](ナカニシヤ出版,2010年)
◉椋野美智子・田中耕太郎 『はじめての社会保障』[第9版](有斐閣アルマ,2012年)
◉ クリストファー・ピアソン 『曲がり角にきた福祉国家――福祉の新政治経済学』(田中浩・神谷直樹 訳 未來社,1996年[ 原著1991年])
◉東京大学社会科学研究所 編 『転換期の福祉国家[上]』(東京大学出版会,1988年)
◉坂井素思・岩永雅也 編著 『格差社会と新自由主義』(放送大学教育振興会,2011年)
◉友枝敏雄・山田真茂留 編 『Do! ソシオロジー』(有斐閣アルマ,2007年)
◉ Paul Pierson “Dismantling the Welfare State?:Reagan, Thatcher and
the Politics of Retrenchment”(Cambridge University Press, 1994)
◉宮本太郎 編 『比較福祉政治―制度転換のアクターと戦略』(早稲田大学出版部,2006年)
◉ アンソニー・ギデンズ 『第三の道―効率と公正の新たな同盟』(佐和隆光 訳 日本経済新聞社,1999年[ 原著1998年])
◉横山和彦 『社会保障論』(有斐閣,1978年)
◉宮本太郎 『福祉政治 日本の生活保障とデモクラシー』(有斐閣,2008年)
◉宮本太郎 『生活保障 排除しない社会へ』(岩波新書,2009年)
◉伊東光晴 編 『岩波 現代 経済学事典』(岩波書店,2004年)

第2章 社会保障と関連する理念や哲学
◉伊奈川秀和 『フランス社会保障法の権利構造』(信山社,2010年)
◉重田園江 『連帯の哲学Ⅰ フランス社会連帯主義』(勁草書房,2010年)
◉(再掲)田中拓道 『貧困と共和国――社会的連帯の誕生――』(人文書院,2006年)
◉近藤康史 『個人の連帯 「第三の道」以後の社会民主主義』(勁草書房,2008年)
◉ アダム・スミス 『道徳感情論』(上)(下)(水田 洋 訳,岩波文庫,2003年 [原著1759年])
◉ アダム・スミス 『国富論』(一)~(四)(水田 洋 監訳,杉山忠平 訳,岩波文庫,2001年 [原著初版1776年,原著第五版1789年])
◉大野忠男 『自由・公正・市場 経済思想史論考』(創文社,1994年)
◉堂目卓生 『アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界』(中公新書,2008年)
◉塩野谷祐一 『経済と倫理―福祉国家の哲学―』(東京大学出版会,2002年)
◉塩野谷祐一・鈴村興太郎・後藤玲子 編 『福祉の公共哲学』(東京大学出版会,2004年)
◉ ジョン・ロールズ 『正議論 改訂版』(川本隆史・福間 聡・神島裕子 訳 紀伊國屋書店,2010年[ 原著改訂版1999年,原著初版1971年])
◉ ジョン・ロールズ 著/エリン・ケリー 編 『公正としての正義 再説』(田中成明・亀本 洋・平井亮輔 訳 岩波書店,2004年[ 原著2001年])
◉ アマルティア・セン 『正義のアイデア』(池本幸生 訳 明石書店,2011年 [原著2009年])
◉川本隆史 『ロールズ―正義の原理』(講談社,2005年)
◉長谷部恭男 『続・Interactive憲法』(有斐閣,2011年)
◉(再掲)広井良典 『日本の社会保障』(岩波新書,1999年)
◉ ロバート・ノージック 『アナーキー・国家・ユートピア 国家の正当性とその限界』(嶋津 格 訳 木鐸社,1992年[ 原著1974年])
◉ M・J・サンデル 『リベラリズムと正義の限界 原著第二版』(菊池理夫 訳 勁草書房,2009年[ 原著第二版1998年,原著初版1982年])
◉ マイケル・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』(鬼澤 忍 訳 早川書房,2010年 [原著2009年])
◉川崎 修・杉田 敦 編 『現代政治理論』(有斐閣アルマ,2006年)
◉ W・キムリッカ 『新版 現代政治理論』(千葉 眞・岡﨑晴輝 訳者代表 日本経済評論社,2005年[ 原著第二版2002年])
◉ アダム・スウィフト 『政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか?』(有賀誠・武藤 功 訳 風行社,2011年[ 原著2006年])
◉田中成明 『現代法理学』(有斐閣,2011年)
◉亀本 洋 『法哲学』(成文堂,2011年)
◉ 原 美和子 「浸透する格差意識 ~ISSP 国際比較調査(社会的不平等)から~」(NHK放送文化研究所 『放送研究と調査』2010年5月号)第1部 社会保障を考える
◉ 髙橋幸市・村田ひろ子 「社会への関心が低い人々の特徴 ~「社会と生活に関する世論調査」から~」(NHK放送文化研究所 『放送研究と調査』2011年8月号)

第3章 日本の社会保障の仕組み
◉広井良典・山崎泰彦 編著 『社会保障』(ミネルヴァ書房,2009年)
◉ (再掲)椋野美智子・田中耕太郎 『はじめての社会保障』[第9版](有斐閣アルマ,2012年)
◉(再掲)宮本太郎 『生活保障 排除しない社会へ』(岩波新書,2009年)
◉ 阿部 彩 『弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂』(講談社現代新書,2011年)
◉島崎謙治 『日本の医療 制度と政策』(東京大学出版会,2011年)
◉ 堤 修三 『介護保険の意味論 制度の本質から介護保険のこれからを考える』(中央法規出版,2010年)
◉権丈善一 『再分配政策の政治経済学』Ⅰ~Ⅴ(慶應義塾大学出版会,2001~2009年)
◉ 細野真宏 『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?  ~世界一わかりやすい経済の本~』(扶桑社新書,2009年)
◉太田啓之 『いま、知らないと絶対損する年金50問50答』(文春新書,2011年)

第4章 「福祉レジーム」から社会保障・福祉国家を考える
◉ G・エスピン-アンデルセン 『福祉資本主義の三つの世界 比較福祉国家の理論と動態』(岡沢憲芙・宮本太郎 監訳 ミネルヴァ書房,2001年[ 原著1990年])
◉ G・エスピン-アンデルセン 『ポスト工業経済の社会的基礎 市場・福祉国家・家族の政治経済学』(渡辺雅男・渡辺景子 訳 桜井書店,2000年[ 原著1998年])
◉ G・エスピン-アンデルセン 『アンデルセン、福祉を語る 女性・子ども・高齢者』(京極高宣 監修/林 昌宏 訳/B.パリエ 解説 NTT出版,2008年)
◉(再掲)宮本太郎 『福祉政治 日本の生活保障とデモクラシー』(有斐閣,2008年)
◉(再掲)宮本太郎 『生活保障 排除しない社会へ』(岩波新書,2009年)
◉ (再掲)齋藤純一・宮本太郎・近藤康史 編 『社会保障と福祉国家のゆくえ』(ナカニシヤ出版,2011年)
◉ 富永健一 『社会変動の中の福祉国家 家族の失敗と国家の新しい機能』(中公新書,2001年)
◉ 藤井 威 『福祉国家実現へ向けての戦略―高福祉高負担がもたらす明るい未来―』(ミネルヴァ書房,2011年)
◉ 湯元健治・佐藤吉宗 『スウェーデン・パラドックス 高福祉、高競争力経済の真実』(日本経済新聞社,2010年)

第5章 国際比較からみた日本社会の特徴
◉ OECD “Society at a Glance 2011:OECD Social Indicators” (OECD Publishing,2011)
◉ OECD 編著 『図表でみる世界の社会問題2 OECD社会政策指標 貧困・不平等・社会的排除の国際比較』(高木郁朗 監訳,麻生裕子 訳 明石書店,2008年)
◉ OECD “How’s Life?:Measuring Well-being”( OECD Publishing,2011)
256 平成24年版 厚生労働白書
◉ OECD 編著 『世界の若者と雇用―学校から職業への移行を支援する 〈OECD若年者雇用レビュー:統合報告書〉』(濱口桂一郎 監訳,中島ゆり 訳 明石書店,2011年)

第6章 日本社会の直面する変化や課題と今後の生活保障のあり方
◉ 国立社会保障・人口問題研究所 京極高宣・髙橋重郷 編 『日本の人口減少社会を読み解く 最新データから読み解く少子高齢化』(中央法規出版,2008年)
◉宮本みち子 編著 『人口減少社会のライフスタイル』(放送大学教育振興会,2011年)
◉宮本太郎 編 『弱者99%社会 日本復興のための生活保障』(幻冬舎新書,2011年)
◉大嶋寧子 『不安家族 働けない転落社会を克服せよ』(日本経済新聞出版社,2011年)
◉宇沢弘文・橘木俊詔・内山勝久 編 『格差社会を超えて』(東京大学出版会,2012年)
◉濱嶋 朗・竹内郁郎・石川晃弘 編 『社会学小辞典』[新版増補版](有斐閣,2005年)
◉内閣府 『経済財政白書』(各年版)
◉内閣府 『国民生活白書』(各年版)
◉内閣府 『男女共同参画白書』(各年版)
◉内閣府 『子ども・子育て白書』(各年版)
◉内閣府 『子ども・若者白書』(各年版)
◉文部科学省 『文部科学白書』(各年版)
◉国土交通省 『国土交通白書』(各年版)
◉経済産業省 『通商白書』(各年版)

そういえば、

http://twitter.com/dig_nkt/status/240363519088930816

それにしても今年の厚生労働白書は、例年のものよりかなり教科書的だ。講義のテキストや参考書にしたいという感想もうなずける。しかし、全体的に経済学の知見はあまり反映されていないように思える。参考文献にも経済学のものは殆ど無い。

という声もあるようですが、そこでいう「経済学の知見」って、どんなものなのでしょうかね。

ケインズはいうまでもなく、ポランニーもアダム・スミスもアマリティア・センも、いわんや権丈善一も経済学者ではないのでしょう。「殆ど無い」というくらいなので。

確かにフリードマンもハイエクも載ってませんが・・・。

POSSEのみなさんも

POSSEの今野晴貴さんも厚生労働白書を読むように薦めています。

http://twitter.com/konno_haruki/status/240339709904162816

濱口さんのブログでも紹介されていましたが、厚生労働白書の内容が大変勉強になります。福祉の必要性を、きちんと「商品化」の文脈から説明されているので、基礎的な理解に役立つと思います。POSSEのみなさんも、ぜひ読んでください。特に前半ですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/24-7de8.html(『平成24年版厚生労働白書』は社会政策の教科書)

批判ですらない批判 @マシナリさんブログ

名を変えアドレスを変えながらしつこく投稿する革命烈士(笑)殿のコメントを、これまた丁寧にそのつど公開されるマシナリさんの度量の広大さにはいつも感服の至りですが、それはさておき、このエントリは、誰かさんの私に対する滾るような悪意が充ち満ちたあのツイートでしたね。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-529.html(批判ですらない批判)

私も忘れかけていたこの呪いの言葉の群れを、HALTANさんが墓場から掘り起こしてくれていたようで、

「あ、たぶん彼の所属している組織を仕分け対象にすべきである、と僕らの仲間の一部が主張しているからね。露骨なものだ。」
「そこに加えて彼ら個人の利害(特に後者は長年の私怨もからんでいるようですが)が、彼らをネットという場を利用した露骨な景気対策批判につなげているのでしょう。やれやれ」
「公務員は公益を実現することに配慮するのだが、これではまるで公益を人質(いいわけ)にして、自分たちの縄張りの利害を最優先してます(だからデフレ脱却にトッププライオリティはない)といってるのと同じだわ。なんということかなあ。ため息」
「まあ、率直にいって、いまさら右派と左派とかよく本人もわかってないような対立軸持ち出して、ある特定の経済政策を主張する人を批判する場合は、1)その主張する人が感情的に嫌、2)別な私的利益を守りたい のいずれかでほぼ間違いないと思う。そうでなければ、ただの古臭い思想ボケ」
「あなたはそういうのよりもつまんない枝葉末節の公務員の「利害」が大事なわけねw」

マシナリさん曰く、

利害関係者の発言に対する忌避感と公務員に対する敵意では、拙ブログにコメントいただいている方に勝るとも劣らない勢いtweetの数々に圧倒されます。

拙ブログでは、そうした所属する組織や職業、さらに人格を標的とした批判は慎んでいるつもりでして、3年ほど前にも「求めるべきは政策至上主義」などというエントリの中で、「その主張の個々の論点については是々非々で判断するべきであって、人格やその行為などで判断するのはフェアではない」と書いているところですので、こうした批判をしてしまわないよう改めて自戒しなければと思う次第です。

そうした思いを持つ者としては、6年前の「とある方」のこの言葉には激しく同意いたします。

何が出てくるかと思いきや、

さらに再三念のためにいうが、ある学説の主張とその主張者の人格や帰属先とを関連づけるような批判は批判ですらないのはここで何度も強調しておきたい。

わはは。第3法則自らが第3法則を批判する之巻。

(ちなみに)

念のために言うと、上記呪いの言葉のもとになった私の発言は、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-66be.html(リフレがトッププライオリティなんて人は存在し得ない)

ただ、問題はそもそも現実の社会的存在として本当に「リフレ政策の実現がトッププライオリティ」であるような人が、この現実社会において存在するのか?ということです。

敢えて言えばそんな奇怪な人間は(後に述べるように、それすらも現実にはそうではないはずですが)大学でマクロ経済学を担当している教授くらいしかあり得ないと思われます。

それ以外の、現実社会でそれぞれの社会的役割を担っている人々は、その自らの社会的役割自体を平然と否定するような議論とワンセットで持ち出されたら、リフレ政策はセカンドプライオリティになるはずです。自分の社会的任務を否定する人々と和やかに手をつなげるだけのトッププライオリティをリフレ政策に与えられる人はたぶん存在しない。

いや実のところ、大学でマクロ経済学を教えている人だって、「大学でマクロ経済学なんて学生にとってクソの役にも立たないものを教えるのは全くの無駄だから、全部お釈迦にしよう」という主張をする人と、無邪気にリフレ政策で共闘はできないはずでしょう。もしできるというのなら、是非やってみてください。

実際、「りふれは」が熱中しておられるみんなな人々や維新な方々も、トッププライオリティは何よりも公共サービスシバキ上げであって、リフレはせいぜいセカンドプライオリティ、いやそれすらもリップサービスであって、実のところプライオリティなんてかけらもないんでないかい、というのが、最近sunafukin99さんらが懸念しておられるところなんでしょうけど。

http://twitter.com/sunafukin99/status/240957677004537856

元々リフレ主流派が現代型ケインジアン政党(?)を創出すべきだったのに、構造改革派色の強い人たちに肩入れしすぎてきて、今は維新みたいなシバキ成分の多いところに期待する始末になってしまってるのが問題かなと。

http://twitter.com/sunafukin99/status/241081138758680576

だいたいここ数年暗黒氏がリフレ派の混乱に拍車をかけてしまった感は強いなあ。特に維新が出てきてから原発事故を経てどんどん意味不明になってる。何がやりたいのかさっぱりわからなくなってきた。

まあ、行き着くところまで行き着くしかないんでしょう。

2012年8月29日 (水)

破毀院のトロツキストどもを叩き出せ!

本日、午前中はボルドー大学のロイック・ルルージュさんの講演(フランスのモラルハラスメント法制)を聴く。

いろいろと興味深い話がありましたが、一番印象に残っているのは、近年破毀院(=最高裁判所)がモラルハラスメントについてやたらに革新的な判決を繰り出しているのに対して、彼らがいわゆる68年世代であることから、経営側が「あの破毀院のトロツキストどもを叩き出せ!」と批判しているというお話。

ふむ、フランスは最高裁がトロツキストに占拠されているわけでありますか・・・。

午後は今度はわたくしが都内某所で日本の雇用終了についての講演。おかげさまで満席の状況でありました。

2012年8月28日 (火)

高齢法改正案、参院厚労委で可決  29日成立で来年4月1日施行へ

国会はいよいよ不毛が不毛の花を咲かせたような意味不明の混乱状態に陥っていく寸前ですが、その寸前のところでなんとか高齢法改正案が命をとりとめたようです。

http://www.advance-news.co.jp/news/2012/08/post-573.html

参院厚生労働委員会は28日、政府提出の高年齢者雇用安定法改正案(高齢法)と民主・自民・公明による「修正案」(政府案の追加、削除)について審議入りし、即日採決の結果、賛成多数で可決した。あす29日午前中の参院本会議で可決され、成立する運びだ。施行は来年4月1日。

正確にいうと、明日の午前中までが正常な状態で、午後から「空転」状態に突入するようです。

明日29日午後から国会は事実上「空転」する模様で、今国会における労働法制の成立法案は「改正高齢法」までとみるのが現実的。従って、昨年12月の臨時国会に小宮山洋子厚労相の肝煎りで提出していた、完全分煙などを核とする「労働安全衛生法改正案」は、衆院厚生労働委員会で趣旨・提案理由の説明まで駆け込んだものの見送られる公算が高い。

というわけで、たばこのけむりはさすがにたばこのけむりよろしく消えていくようです。

まあ、あんな修正されるくらいなら、先送りにされた方がいいという考え方の人もいるかも知れません。

『季刊労働法』次号の「たばこのけむりの労働法政策」は、そういうわけで尻切れトンボとなりますのでよろしく。

以上は狭義の労働関係法案ですが、実はもっとデカイ本質的労働法案が残っています。

加えて、審議する委員会は内閣委員会だが、国家公務員に労働協約締結権などを認める「国家公務員制度改革関連4法案」も政府は断念。こちらは、問題を多数内在した法案だけに今国会での「断念による法案練り直し」は前向きにとらえる見方もある。ただ、同法案の成立に最もこだわっていた支持母体の連合と政府・民主党との関係悪化は避けられない模様だ。

さらに厚生関係まで目を広げると、

もう一段掘り下げて、今国会の厚生労働省関連の法案状況を検証すると、約2年前から社会的問題となっている「3号被保険者主婦年金の追納法案」、また、「交付国債をつなぎ国債にする法案」、「特例水準の引き下げをあわせた法案」、「低所得の年金受給者に福祉的給付をする法案」――の4本の法案が手つかずで閉会する見込み。

(追記)

ということで、無事、

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2902H_Z20C12A8000000/改正高年齢者雇用安定法が成立 参院本会議

60歳の定年後も希望者全員を雇用することを企業に義務付ける改正高年齢者雇用安定法は29日の参院本会議で可決、成立した。1968年に西日本一帯で起きた大規模な食品公害「カネミ油症」の被害者救済法も可決、成立した。

そのあとのレベルの低い田舎芝居については、特に言及いたしませんが。

『平成24年版厚生労働白書』は社会政策の教科書

本日公表された『平成24年版厚生労働白書』は、第1部が「社会保障を考える」と題して、社会政策の根本論から説き起こして、福祉レジーム論や国際比較などを取り混ぜながら、社会保障改革の方向を検討する内容となっており、これはもう、そこらの凡百のろくでもない社会保障論もどきをちらりとでも読んでる暇があったら、これを教科書として熟読玩味した方が百万倍役に立つというものになっています。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12/index.html

第1部  社会保障を考える
はじめに(1~4ページ) [644KB]

第1章  なぜ社会保障は重要か(5~18ページ) [1,397KB]
 第1節  社会保障の誕生
 第2節  社会保障の発展
 第3節  社会保障の「見直し」と再認識
 第4節  日本の社会保障はどうだったのか
第2章  社会保障と関連する理念や哲学(19~28ページ) [801KB]
 第1節  自立と連帯 ~「自立した個人」を、連帯して支える~
 第2節  効率と公正 ~効率と公正の同時実現を追求する時代に~
第3章  日本の社会保障の仕組み(29~77ページ) [2,776KB]
 第1節  社会保障の目的と機能
 第2節  これまでの日本の社会保障の特徴
 第3節  日本の社会保険制度
 第4節  諸制度の概要
 第5節  制度理解の現状
第4章  「福祉レジーム」から社会保障・福祉国家を考える(78~86ページ) [688KB]
 第1節  福祉レジーム論の概要
 第2節  自由主義レジーム
 第3節  社会民主主義レジーム
 第4節  保守主義レジーム
 第5節  3つの福祉レジームを比較する
 第6節  日本はどうなのか
第5章  国際比較からみた日本社会の特徴(87~134ページ) [3,561KB]
 第1節  一般的な背景の国際比較
 第2節  「自立」に関する指標の国際比較
 第3節  「公正」に関する指標の国際比較
 第4節  「健康」に関する指標の国際比較
 第5節  「社会的つながり」に関する指標の国際比較
 第6節  社会保障の給付と負担に関する指標の国際比較
 第7節  国際比較からみた日本社会の姿
第6章  日本社会の直面する変化や課題と今後の生活保障のあり方(135~217ページ) [7,524KB]
 第1節  日本社会の直面する変化と課題
 第2節  社会変化に対応した生活保障のあり方
第7章  社会保障を考えるに当たっての視点(218~244ページ) [2,626KB]
 第1節  望ましい社会の姿を考える
 第2節  社会保障の機能・役割を理解する
 第3節  社会保障の費用負担を考える
 第4節  他者の立場で考える
おわりに  ~今こそ、国民的議論を~(245ページ) [276KB]

参考  現在の社会保障改革に向けた取組み(社会保障と税の一体改革)(246~253ページ) [2,192KB]
 第1節  社会保障改革の基本的考え方
 第2節  社会保障改革のポイント
 第3節  社会保障改革の方向性
参考文献(254~257ページ) [463KB]

あえて言うと、やや教科書的に過ぎる感がありますが、そこはまあ「白書」ですから・・・。

ついでに、この第1部の参考文献のリストを挙げておきましょう。ポランニーの『大転換』から始まるこのリストも、今日社会政策を論ずる上での不可欠な文献です。

ポランニーは新訳なのに、ケインズは塩野谷旧訳のままかよ、といったつまらぬツッコミはなしね。

第1章 なぜ社会保障は重要か
◉ カール・ポラニー 『[新訳]大転換―市場社会の形成と崩壊』(野口建彦・栖原 学 訳 東洋経済新報社,2009年[ 原著1944年])
◉正村俊之 『グローバリゼーション 現代はいかなる時代なのか』(有斐閣,2009年)
◉福澤直樹 『ドイツ社会保険史 社会国家の形成と展開』(名古屋大学出版会,2012年)
◉田中拓道 『貧困と共和国――社会的連帯の誕生――』(人文書院,2006年)
◉ J.M.ケインズ 『雇用・利子および貨幣の一般理論』(普及版,塩野谷祐一 訳 東洋経済新報社,1995年[ 原著1936年])
◉ ウィリアム・ベヴァリジ 『ベヴァリジ報告 社会保険および関連サービス』(山田雄三監訳 至誠堂,1967年[ 原著1942年])
◉横山源之助 『日本の下層社会』(岩波文庫,1985年[原著1899年])
◉ 農商務省商工局工務課工場調査掛 『職工事情』(上)(中)(下)(犬丸義一 校訂 岩波文庫,1998年[原著1903年])
◉細井和喜蔵 『女工哀史』(岩波文庫,2009年[原著1925年])
◉濱口桂一郎 『労働法政策』(ミネルヴァ書房,2004年)
◉ 齋藤純一・宮本太郎・近藤康史 編 『社会保障と福祉国家のゆくえ』(ナカニシヤ出版,2011年)
◉堀 勝洋 『社会保障法総論』(東京大学出版会,1994年)
◉広井良典 『日本の社会保障』(岩波新書,1999年)
◉ 橘木俊詔 『安心の社会保障改革 福祉思想史と経済学で考える』(東洋経済新報社,2010年)
◉ 橘木俊詔 『朝日おとなの学び直し 経済学 課題解明の経済学史』(朝日新聞出版,2012年)
◉松村祥子 編著 『欧米の社会福祉の歴史と展望』(放送大学教育振興会,2011年)
◉糸賀一雄 『福祉の思想』(NHKブックス,1968年)
◉小峯 敦 編 『福祉の経済思想家たち』[増補改訂版](ナカニシヤ出版,2010年)
◉椋野美智子・田中耕太郎 『はじめての社会保障』[第9版](有斐閣アルマ,2012年)
◉ クリストファー・ピアソン 『曲がり角にきた福祉国家――福祉の新政治経済学』(田中浩・神谷直樹 訳 未來社,1996年[ 原著1991年])
◉東京大学社会科学研究所 編 『転換期の福祉国家[上]』(東京大学出版会,1988年)
◉坂井素思・岩永雅也 編著 『格差社会と新自由主義』(放送大学教育振興会,2011年)
◉友枝敏雄・山田真茂留 編 『Do! ソシオロジー』(有斐閣アルマ,2007年)
◉ Paul Pierson “Dismantling the Welfare State?:Reagan, Thatcher and
the Politics of Retrenchment”(Cambridge University Press, 1994)
◉宮本太郎 編 『比較福祉政治―制度転換のアクターと戦略』(早稲田大学出版部,2006年)
◉ アンソニー・ギデンズ 『第三の道―効率と公正の新たな同盟』(佐和隆光 訳 日本経済新聞社,1999年[ 原著1998年])
◉横山和彦 『社会保障論』(有斐閣,1978年)
◉宮本太郎 『福祉政治 日本の生活保障とデモクラシー』(有斐閣,2008年)
◉宮本太郎 『生活保障 排除しない社会へ』(岩波新書,2009年)
◉伊東光晴 編 『岩波 現代 経済学事典』(岩波書店,2004年)

第2章 社会保障と関連する理念や哲学
◉伊奈川秀和 『フランス社会保障法の権利構造』(信山社,2010年)
◉重田園江 『連帯の哲学Ⅰ フランス社会連帯主義』(勁草書房,2010年)
◉(再掲)田中拓道 『貧困と共和国――社会的連帯の誕生――』(人文書院,2006年)
◉近藤康史 『個人の連帯 「第三の道」以後の社会民主主義』(勁草書房,2008年)
◉ アダム・スミス 『道徳感情論』(上)(下)(水田 洋 訳,岩波文庫,2003年 [原著1759年])
◉ アダム・スミス 『国富論』(一)~(四)(水田 洋 監訳,杉山忠平 訳,岩波文庫,2001年 [原著初版1776年,原著第五版1789年])
◉大野忠男 『自由・公正・市場 経済思想史論考』(創文社,1994年)
◉堂目卓生 『アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界』(中公新書,2008年)
◉塩野谷祐一 『経済と倫理―福祉国家の哲学―』(東京大学出版会,2002年)
◉塩野谷祐一・鈴村興太郎・後藤玲子 編 『福祉の公共哲学』(東京大学出版会,2004年)
◉ ジョン・ロールズ 『正議論 改訂版』(川本隆史・福間 聡・神島裕子 訳 紀伊國屋書店,2010年[ 原著改訂版1999年,原著初版1971年])
◉ ジョン・ロールズ 著/エリン・ケリー 編 『公正としての正義 再説』(田中成明・亀本 洋・平井亮輔 訳 岩波書店,2004年[ 原著2001年])
◉ アマルティア・セン 『正義のアイデア』(池本幸生 訳 明石書店,2011年 [原著2009年])
◉川本隆史 『ロールズ―正義の原理』(講談社,2005年)
◉長谷部恭男 『続・Interactive憲法』(有斐閣,2011年)
◉(再掲)広井良典 『日本の社会保障』(岩波新書,1999年)
◉ ロバート・ノージック 『アナーキー・国家・ユートピア 国家の正当性とその限界』(嶋津 格 訳 木鐸社,1992年[ 原著1974年])
◉ M・J・サンデル 『リベラリズムと正義の限界 原著第二版』(菊池理夫 訳 勁草書房,2009年[ 原著第二版1998年,原著初版1982年])
◉ マイケル・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』(鬼澤 忍 訳 早川書房,2010年 [原著2009年])
◉川崎 修・杉田 敦 編 『現代政治理論』(有斐閣アルマ,2006年)
◉ W・キムリッカ 『新版 現代政治理論』(千葉 眞・岡﨑晴輝 訳者代表 日本経済評論社,2005年[ 原著第二版2002年])
◉ アダム・スウィフト 『政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか?』(有賀誠・武藤 功 訳 風行社,2011年[ 原著2006年])
◉田中成明 『現代法理学』(有斐閣,2011年)
◉亀本 洋 『法哲学』(成文堂,2011年)
◉ 原 美和子 「浸透する格差意識 ~ISSP 国際比較調査(社会的不平等)から~」(NHK放送文化研究所 『放送研究と調査』2010年5月号)第1部 社会保障を考える
◉ 髙橋幸市・村田ひろ子 「社会への関心が低い人々の特徴 ~「社会と生活に関する世論調査」から~」(NHK放送文化研究所 『放送研究と調査』2011年8月号)

第3章 日本の社会保障の仕組み
◉広井良典・山崎泰彦 編著 『社会保障』(ミネルヴァ書房,2009年)
◉ (再掲)椋野美智子・田中耕太郎 『はじめての社会保障』[第9版](有斐閣アルマ,2012年)
◉(再掲)宮本太郎 『生活保障 排除しない社会へ』(岩波新書,2009年)
◉ 阿部 彩 『弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂』(講談社現代新書,2011年)
◉島崎謙治 『日本の医療 制度と政策』(東京大学出版会,2011年)
◉ 堤 修三 『介護保険の意味論 制度の本質から介護保険のこれからを考える』(中央法規出版,2010年)
◉権丈善一 『再分配政策の政治経済学』Ⅰ~Ⅴ(慶應義塾大学出版会,2001~2009年)
◉ 細野真宏 『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?  ~世界一わかりやすい経済の本~』(扶桑社新書,2009年)
◉太田啓之 『いま、知らないと絶対損する年金50問50答』(文春新書,2011年)

第4章 「福祉レジーム」から社会保障・福祉国家を考える
◉ G・エスピン-アンデルセン 『福祉資本主義の三つの世界 比較福祉国家の理論と動態』(岡沢憲芙・宮本太郎 監訳 ミネルヴァ書房,2001年[ 原著1990年])
◉ G・エスピン-アンデルセン 『ポスト工業経済の社会的基礎 市場・福祉国家・家族の政治経済学』(渡辺雅男・渡辺景子 訳 桜井書店,2000年[ 原著1998年])
◉ G・エスピン-アンデルセン 『アンデルセン、福祉を語る 女性・子ども・高齢者』(京極高宣 監修/林 昌宏 訳/B.パリエ 解説 NTT出版,2008年)
◉(再掲)宮本太郎 『福祉政治 日本の生活保障とデモクラシー』(有斐閣,2008年)
◉(再掲)宮本太郎 『生活保障 排除しない社会へ』(岩波新書,2009年)
◉ (再掲)齋藤純一・宮本太郎・近藤康史 編 『社会保障と福祉国家のゆくえ』(ナカニシヤ出版,2011年)
◉ 富永健一 『社会変動の中の福祉国家 家族の失敗と国家の新しい機能』(中公新書,2001年)
◉ 藤井 威 『福祉国家実現へ向けての戦略―高福祉高負担がもたらす明るい未来―』(ミネルヴァ書房,2011年)
◉ 湯元健治・佐藤吉宗 『スウェーデン・パラドックス 高福祉、高競争力経済の真実』(日本経済新聞社,2010年)

第5章 国際比較からみた日本社会の特徴
◉ OECD “Society at a Glance 2011:OECD Social Indicators” (OECD Publishing,2011)
◉ OECD 編著 『図表でみる世界の社会問題2 OECD社会政策指標 貧困・不平等・社会的排除の国際比較』(高木郁朗 監訳,麻生裕子 訳 明石書店,2008年)
◉ OECD “How’s Life?:Measuring Well-being”( OECD Publishing,2011)
256 平成24年版 厚生労働白書
◉ OECD 編著 『世界の若者と雇用―学校から職業への移行を支援する 〈OECD若年者雇用レビュー:統合報告書〉』(濱口桂一郎 監訳,中島ゆり 訳 明石書店,2011年)

第6章 日本社会の直面する変化や課題と今後の生活保障のあり方
◉ 国立社会保障・人口問題研究所 京極高宣・髙橋重郷 編 『日本の人口減少社会を読み解く 最新データから読み解く少子高齢化』(中央法規出版,2008年)
◉宮本みち子 編著 『人口減少社会のライフスタイル』(放送大学教育振興会,2011年)
◉宮本太郎 編 『弱者99%社会 日本復興のための生活保障』(幻冬舎新書,2011年)
◉大嶋寧子 『不安家族 働けない転落社会を克服せよ』(日本経済新聞出版社,2011年)
◉宇沢弘文・橘木俊詔・内山勝久 編 『格差社会を超えて』(東京大学出版会,2012年)
◉濱嶋 朗・竹内郁郎・石川晃弘 編 『社会学小辞典』[新版増補版](有斐閣,2005年)
◉内閣府 『経済財政白書』(各年版)
◉内閣府 『国民生活白書』(各年版)
◉内閣府 『男女共同参画白書』(各年版)
◉内閣府 『子ども・子育て白書』(各年版)
◉内閣府 『子ども・若者白書』(各年版)
◉文部科学省 『文部科学白書』(各年版)
◉国土交通省 『国土交通白書』(各年版)
◉経済産業省 『通商白書』(各年版)

大体において、社会政策に関わることに、一知半解で知った風な口をききたがるエセ経済学者の手合いに限って、ここに挙げられた本のかなりのものは、読んでもいないことが多いようですし。

『日本の雇用と労働法』簡評

112483 「給与の素人である地方公務員が公立学校教員の給与制度について学習する中で考えたこと」を綴られる「教員給与の学習ノート」で、久しぶりに拙著『日本の雇用と労働法』への書評がアップされました。

http://hayamitaku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-27

著者の本はこの学習ノートで以前も紹介した(234.読書=『新しい労働社会』)。この本は、日本の雇用システムの成り立ちとその生きた姿を概観し、裁判例の変遷を追いつつ日本の労働法制との密接な関係を領域ごとに解説するものとなっている。

ご覧のとおり、本書は日本の雇用・労働問題の全体像を俯瞰しつつ、特徴をよく描き出し、問題点を示してくれるものとなっている。専門的で精緻な議論をされると門外漢は大変なストレスを感じるものだが、素人にとっても実にわかりやすい。公務員の人事・給与制度を理解する上でも、本書を読めば「そうだったのか」と納得させてくれる好著である。

とのことです。

131039145988913400963 なお、以前『新しい労働社会』についても書評していただいていまして、それはこちらです。

http://hayamitaku.blog.so-net.ne.jp/2010-01-09

この新書は、現在日本の労働社会が直面している問題-働き過ぎの正社員、非正規労働者を巡る問題などについて考え、日本における雇用論議に一石を投じたものである。
 この本で、日本型雇用システムと呼ばれる労働社会のありようの根源に立ち返って考察する序章の記述は、この学習ノートにとってみても、教員給与の姿を考える上で、大きな示唆を与えてくれる。

2012年8月27日 (月)

働く若者への期待――意識の変化と就労支援@『BLT』

201209_3『ビジネス・レーバー・トレンド』9月号は、「働く若者への期待――意識の変化と就労支援」の特集です。中身は、6月30日の労働政策フォーラム「若者は社会を変えるか―新しい生き方・働き方を考える」の記録が中心。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/index.html

<講演>
社会構造の変容と若者の現状 本田由紀 東京大学大学院教育学研究科教授
若者の働き方と意識の変化―「若者のワークスタイル調査」から― 堀 有喜衣 JILPT副主任研究員
<実践報告>
閉塞が一瞬だけ開けた被災地―ソーシャルアントレプレナーと産・官・学の関係についてのケーススタディ 菅野拓 パーソナルサポートセンター事務局長
若者の新しい働き方―協同労働の実践 髙成田 健 ワーカーコープ・センター事業団神奈川事業本部本部長
震災復興の現場で、若者はいかに成果をあげたか 藤沢 烈 RCF復興支援チーム代表理事
<パネルディスカッション>
コメンテーター
渡邊秀樹 慶應義塾大学文学部人文社会学科教授
コーディネーター
宮本みち子 放送大学教養学部教授

興味深いのは、実践報告をしている3人がいずれも30代の男性であることで、藤沢さん曰く、

・・・これには理由があると思っています。震災復興の現場では、実は30代の男女が活躍をしているのです。我々のような民間のNPOに限らず、国、現地の市や町、あるいは企業の震災担当の方もみな30代です。

それはおそらく、若者の新しい働き方に、何か理由があるのではないかと思っています。・・・


『月刊人材ビジネス』9月号予告

201209_29月1日発行予定の『月刊人材ビジネス』9月号の予告がアップされていますが、

http://www.jinzai-business.net/gjb_details201209.html

このうち、

[改正労働者派遣法特集]
[Part1]確定した政省令の2大ポイント
[Part2]有識者に聞く改正労働者派遣法

の「有識者」に私も入って、一言二言述べております。中身は、9月末発行予定の『ジュリスト』10月号の座談会で述べていることの要約版です。

若年雇用について考える@『電機連合NAVI』

『電機連合NAVI』2012年夏号をお送りいただきました。特集は「若年雇用について考える」です。

若年雇用の核心は何か?~正規雇用に潜む「成長の危機」 豊田義博

厳しい雇用環境に耐えられる「骨太な若者」を育てる・・・? 上西充子

「新しい」若年雇用問題-問題は非正規雇用の増加だけではない 今野晴貴

若者雇用問題に対する連合の取り組みについて 杉山豊治

まずは、豊田さんのこの文章は、「全員エリート幻想」にしがみついたままの「グローバル人材論」の危うさを摘出しています。

・・・すべての大卒人材が、幹部社員になることはあり得ないし、そうではない人材の方が圧倒的に多くなっている。にもかかわらず、日本企業は、大卒人材を今も全員が幹部候補であるかのように採用し、配置している。・・・大卒人材のすべてに新たな市場を作り上げるグローバル人材であることを求めているのは、その典型だろう。すべての大卒人材が、企業の望むグローバル人材になることは、無理であるばかりでなく、無駄でもある。また、全員がグローバル人材として立ち働くことを望んでいるとも思えない。大卒人材の中には、事業マネジメントを志向するのではなく、自身の領域で専門性を高めたいというプロフェッショナル志向タイプが数多くいるだろうし、給与がさほど上がらなくても、定型的、安定的な仕事をコツコツとこなすことを求める人材もたくさんいる。

しかるに、日本企業は、全員をグローバル人材、幹部人材になることを想定しながら、まずは現場の定型的な仕事から始め、ある程度の習熟が見込めてからは、プロフェッショナルになることを求め、さらに、幹部人材としてのマネジメント能力を求める。つまり、各々の特性の異なる仕事を、幹部人材になっていくためのキャリアパスの材料として扱っている。高度成長を支え、ジャパン・アズ・ナンバーワンと評価された成長期の配置・育成モデルを、環境が激変した今もだましだまし使っている。・・・

次の上西さんの文章は、若者雇用戦略策定のためのワーキンググループにおける議論の紹介です。上西さん自身がツイートで同時的に発信していたので、本ブログの読者の多くはご存知のことですが、最後の次の文章は、労働組合関係者に対する強い訴えになっています。

・・・先に、若者は就職に当たって早期離職や鬱病に追い込まれない就職先を求めており、しかし情報が少ないために大企業志向になっていると述べた。筆者は、労働組合の有無が「まともな職場」を判別する指標として機能するようになることを願っている。

・・・労働組合には是非、長時間労働の是正を初めとした若者が働きやすい職場作りに積極的に取り組んでいただきたい。そうすれば若者は、労働組合のある職場に行きたいと願うだろう。・・・

POSSE今野さんの文章は、例によって労働相談の事例をたくさん引きながら、

・・・ただ「正社員」を増やすだけでは若年雇用問題の解決を図ることはできない。もちろん、正社員が増えるのは望ましいことであるが、そのために非正規雇用の競争が激化して労働が過酷化してしまったり、肝心の正社員の内容が「ブラック企業」と呼ばれるものであったりすれば、意味がない。さらに、これらの結果、かえって生活保護へと「転落」する若者が増加しているとすれば、皮肉としか言いようがない。

と述べています。

杉山さんの文章は連合の取り組みについての紹介ですが、「若年雇用検討会」というのをやってたんですね。ちなみにそのアドバイザーとして、JILPTの小杉礼子さんと上記上西充子さんが入っていますね。

ふむふむ、でも、連合雇用法制対策局長の杉山さんには、若者雇用もいいけど、是非休息期間(勤務間インターバル規制)に力を入れてもらいたいな、と。

2012年8月26日 (日)

大内伸哉『最新重要判例200[労働法]<第二版>』

30166大内伸哉『最新重要判例200[労働法]<第二版>』をお送りいただきました。ありがとうございます。「第2版」とありますが、初版との間に「増補版」がありますので、実質的には第3版ですね。

http://www.koubundou.co.jp/books/pages/30166.html

重要判例のうち新しいものを中心に一貫した視点から厳選し、単独著者の解説で統一的理解ができるよう工夫された判例ガイドの最新版。
今回、全面的な記述の見直しのほか、収録裁判例のなかで上級審の判断が出されたものを差し替え、最新の判例8件を新たに追加するとともに、13件の判例を削除し、216判例を収録。解説をコンパクトに付し、判旨の要点がひと目でわかる2色刷りにより、読者の学習に配慮した判例解説の決定版。学部生をはじめ、国家試験受験生、社労士、人事・労務担当者にも最適の1冊です。

今回新たに入ったのは、河合塾、阪急トラベルサポート、大庄、クボタなど、まさにこの間の重要判例ですが、一つ、だいぶ前のものが新たに入っています。整理番号58番、整理解雇に関する東京自転車健康保険組合事件という東京地裁の判決で、えっ?何これと思ってみてみると、4要素のうちはじめの3つの主張立証責任を会社側に、最後の手続き要件の主張立証責任を労働者側に振り分けた判決なんですね。

とはいえ、これって、判例200撰に選ばれるほどのものなのか、どうなんでしょ。

あと、重要性がないというひと言でばっさり切られたうちに、組合労供事業に関する泰進交通事件判決が含まれているのは、個人的には残念でした。


話はそれからだよ

jura03さんが、さすがにがまんできないと声を荒らげた一幕:

http://d.hatena.ne.jp/jura03/(扇動のための不当表示としての「リフレ派」 part64)

yasudayasu ネタ

いつも、身内に変なのがいるのにそれを叩けない奴らは信用出来ない、といったことを言っている厳しいid:jura03さんが、同じ反ネットリフレの人が「りふれは」という変な言葉を使い続けるのに対しては何も言わない不思議

はあ?意味が分からんな。hamachan先生でも理屈がどうかと思うときはなんか言うかもしれないけど、「変な言葉」を使ってたらそれを批判しなきゃならんわけ?難癖もここまで来るとすごいねえ。

いいですか。リフレ派の場合は、そもそも根本的に同居してるのがおかしい人たちが同居していたり、高橋洋一のように明らかなウソや無茶を唱える扇動家やそれに追随する学者たちについていっている。それをまず批判しろと僕は言ってるんだ。

hamachan先生が「変な言葉」でレッテル張りしてても、ただのレッテルに過ぎないという自覚があるはずだから、別にかまわんじゃないですか。そこは個人の勝手でしょうよ。根本的な立場の矛盾や扇動家の無批判な受容と、片言隻句と同列に論じるって、いやはや、難癖も極まってるなぁ。

つべこべ言う前に、高橋洋一や田中秀臣やら、あなたのその該博な知識でリフレ派をまともにしなさいって。話はそれからだよ。

まあ、最近は「りふれは」ならぬ「リフレ派」の中で、少しはこういう手合いをきちんと批判しなければという機運も徐々に出てきているようですけどね。

http://twitter.com/sunafukin99/status/239163937789186048

だから、維新の国政進出にしてもまがりなりにも暗黒氏がしがみついてそっち(リフレ的方向)へ誘導できたとしても、シバキアゲ体質が強すぎて結局効果が不十分、緊縮の引締め効果が上回ってしまうという可能性が高いと思うんですよね。小泉よりその傾向はあるかと。

http://twitter.com/sunafukin99/status/239166533430046720

暗黒氏の政治への関わり方ってどうも筋が悪い感じがするんですよね。彼自身リフレ派諸氏の中ではあんまり評価はしていないんですが。特に地方分権とか公務員カイカクとか強調しすぎで、そんなもん正直どうでもいいし今の時点では不要とすら思ってる。

http://twitter.com/sunafukin99/status/239304116311048192

そういえば、反官僚意識が行き過ぎてちょっとアレになっちゃってる人が暗黒卿ファンなんかには多そうだから、少し頭を冷やして考えた方がいいんじゃないかな?とか思うことはある。一歩間違うと陰謀論の泥沼にはまり込む。

ただ、もはや世間的というか、マスコミ的には、「リフレ派」とは高橋洋一みたいな人々という印象が強すぎて、そうじゃないイメージはほとんど目に入りにくくなっているように思われます。

それ自体、冷ややかに言えば「自業自得」ではありますけど。

(追記)

山のようにjura03さんに反論しているつもりなんでしょうが、

こんなものなのに「リフレ派の場合は、そもそも根本的に同居してるのがおかしい」という状況がよく分からん。保守ともリベラルとも両立するリフレを、保守の人もリベラルの人も支持していたとして、いったいどこかおかしいか?

これが保守とリベラル、シバキと社会保障重視、そういった両者で必ず反対になる争点なら「根本的に同居してるのがおかしい」というのも理解できるが。たとえばデフレこそ国益という人がリフレ派に同居してるなら変だ。

そういったデフレこそ利益と考えるような人が同居している気配はない。リフレと両立可能な意見の持ち主が集まって、ただ別の争点ではバラバラというだけで「根本的に同居してるのがおかしい」と言い切れるのが不思議。どこら辺が根本的なのだろう。

まあ、今回のエントリーでjura03さんは身内には甘く他所には厳しい人間だということだけはよくわかった。

なぜか、一番肝心要の

高橋洋一のように明らかなウソや無茶を唱える扇動家やそれに追随する学者たちについていっている。それをまず批判しろと僕は言ってるんだ。

は見事にスルー。

もし、高橋洋一氏が「明らかなウソや無茶を唱える扇動家」ではないと心から信じているなら、なによりもまずそれをきちんと説明する必要があるはずだが、そういう負けるケンカはやりたくないようです。

もっとも、ある程度政治感覚のある非「りふれは」的リフレ派の方は、そろそろ

http://twitter.com/sunafukin99/status/239858724515246080

暗黒さんもやばいんじゃないの?

と、身を引き離しつつあるようですが。

と思うと、今度はPOSSEの坂倉さんの言葉に対して、

http://twitter.com/yasudayasu_t/status/239809256512159744

そうそうhamachan先生は「変な言葉」を使って捩るだけでなく、「アナーキストとリフレ派の共有する思想的弱点が空虚なBI論を推進する」という文章に「名言」とか言っている

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-fbd4.html(小さな政府で成長するって、どういうふうにやるんだ?)

と見当外れの喧嘩を売ってみたり。

2012年8月25日 (土)

雇用ミスマッチと法政策

New『日本労働研究雑誌』9月号が出ました。まだJILPTのHPにはアップされていませんが、特集は「雇用ミスマッチ」です。

提言 ミスマッチの背景   大橋勇雄

論文 雇用ミスマッチの概念整理   川田恵介・佐々木勝

職業間ミスマッチの地域間格差に関する分析   佐藤仁志

雇用ミスマッチと法政策   濱口桂一郎

労働市場制度とミスマッチ-雇用調整助成金を例に   神林龍

企業内の雇用ミスマッチと解雇権濫用法理   島田陽一

雇用の場における若年者と高齢者-競合関係の再検討   太田聰一

このうち、わたくしが執筆した「雇用ミスマッチと法政策」について、論文冒頭の和文要約と巻末の英文要約を引用しておきます。

日本の労働市場法制の基本枠組みは諸外国と同様、具体的な職業能力と労働条件を互いにシグナルとしながら需給を結合させようとするジョブ型モデルに立脚しており、その需給の不適合(ミスマッチ)を公的職業紹介、失業給付、公的職業訓練といった諸施策で縮小するという政策体系である。一方、大企業正社員に典型的なメンバーシップ型モデルでは、潜在的な職務遂行能力ないし訓練を受ける能力(=人間力)が重要となるので、こういったミスマッチ縮小施策の有効性は少なくなる。

日本の労働政策は終戦直後から70年代初めまでは、職務分析、職業訓練と技能検定、職種別中高年雇用率制度など、ジョブ型を志向するものであったが、石油危機以降もっぱら「雇用の安定」を至上命題とする政策に転換した。職業や技能を重視しないミスマッチ対策とは企業への財政支援に集約される。その後90年代の「自己啓発」を標榜した時代を経て、2000年代には公的職業訓練や職業能力の公的証明といったジョブ型政策によるミスマッチ解消策に再び傾斜してきている。しかしながら、そのような政策方向はメンバーシップ型社会のただ中で生きてきた政権中枢の人々によって共有されておらず、無駄として繰り返し「仕分け」の対象となってきている。

The basic framework of Japanese labour market legislation bases on the job-model in which labour supply and demand are matched by signaling their concrete job skill and working conditions and the mismatches between them should be minimized with such measures as public job exchange, unemployment benefit and public vocational training. In contrast, in the membership-model which is typical in the regular workers in the larger companies, such measures to minimize the mismatches are less effective because potential ability to perform any job or to be trained is more important.

Japanese labour policy had been oriented to the job-model untill early 1970's, such as job analysis, vocational training, skill certification and job-based quota system for middle-and-older workers. After the oil crisis, however, it changed its course to the policy which placed "employment security" above anything else. Its mismatch measures which disregard job and skill concentrated on the financial support to the companies. 1990's passed with the slogan of "self enlightenment." In 2000's, It has been inclined to the job-model policy such as public vocational training and skill certification. Such policy orientation is, however, not shared with major politicians and has been targetted as "useless" in the policy classification.

「一人人気商売」大統領制の落とし穴

中身の議論は当ブログの所掌範囲外ということでスルーさせていただくとして、痛感したのはやはり大統領制、つまり議院内閣制ではなく国民なり住民の直接選挙で選ばれた「一人人気商売」のまずい点が露呈したということではないか、と。

新聞報道からする限り、韓国の外交通商部の役人たちは、(もちろん彼らも「独島」の領有権を守ろうとすることでは大統領に劣らないはずですが)ああいう(せっかく実効支配していて、「領土問題は存在しない」といっているのに、わざわざ世界中に領土問題があると騒ぎ立てるような)やり方に批判的なようですが、そういう「つかさつかさ」の声が大統領の絶対権力を抑制することが、やはり困難なのでしょうね。

このあたり、議院内閣制の日本政府の抑制された対応との違いが目に付きますが、実はよく考えると、日本でもナショナル政府は議院内閣制ですが、都道府県や市町村は大統領制であるわけで、そういう意味では、まさにまったく同じような「一人人気商売」の落とし穴を露呈し続けている人々もあちこちにいるようで、そういうプチ「大統領」たちに悩まされるという点では、やはり共通の問題を抱えているのかも知れません。

もちろん、マスコミで受けるたぐいの政治学者や政治評論家の世界では、大統領制が一番人気であるわけですが、こういう落とし穴があるということも頭の片隅に置いておくといいかも知れません。

(追記)

http://twitter.com/h_uenohara/status/239245050209505280

先日も河野先生がポピュリズム批判の観点から首相公選制を否定しておられたが、濱口先生はいったい誰を念頭に置いているのだろう。そもそも、大統領制と議院内閣制の優劣は政治学の最も古典的な論点の一つであって、「一番人気」の一言で済ませられるような話ではない。

http://twitter.com/ryusukematsuo/status/239243914052243456

まぁ,濱口先生が想定していらっしゃる「政治学者」は,かなり限定された一部の方々を念頭に置いてイメージされていますからね.

と言われたので、念のため「マスコミで受けるたぐいの」という形容詞句をつけておきました。

(おまけ)

http://www.j-cast.com/2012/08/25143992.html()石原都知事、10月にも自ら尖閣上陸 「逮捕されても結構」

尖閣諸島購入を目指す東京都の石原慎太郎知事は2012年8月24日の記者会見で、10月にも都の現地調査に同行し、自ら尖閣諸島に上陸する予定だと明かした。国は政府関係者以外の上陸を認めない方針だが、石原都知事は「逮捕されれば、それで結構」と気炎を上げ、改めて国に許可を促した。

http://mainichi.jp/select/news/20120825k0000m010043000c.html(竹島・尖閣問題:石原知事、中国と韓国の批判展開)

東京都の石原慎太郎知事は24日の定例記者会見で、尖閣諸島や竹島の問題に関連し・・・「(韓国の李明博氏は)大統領の器じゃない」などと中国、韓国への批判を展開した。・・・

韓国の李大統領に対しては・・・竹島上陸を「外交感覚が欠落している」と批判。・・・

ワロタ。

2012年8月24日 (金)

『季刊労働法』238号は「職場いじめ」特集

労働開発研究会HPに『季刊労働法』238号の予告がアップされています。

http://www.roudou-kk.co.jp/quarterly/archives/005309.html

今年3月に厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を取りまとめました。この数年でずいぶん議論の進んだ職場いじめへの対応がまた一歩進んだといえそうです。

提言を踏まえ、行政がどういった具体的取組みを進めるのか注目しなければなりませんが、次号では、新たな段階を迎えた職場におけるいじめの問題を特集で取り上げます。

ということで、ラインナップは次の通りです。

●職場いじめに関する法規制の現状と課題 内藤 忍
●ベルギーにおける「職場いじめ」規制法 大和田敢太
●予防に重点を置く,スウェーデンの職場いじめに対する法制度 西 和江
●職場いじめ・嫌がらせ問題 岡田英樹

季労のいじめ特集も結構数を重ねています。同誌に載った職場いじめ関係の論文も結構な数に上るはず。

もう一つ特集があって、

第2特集では、労働者のキャリア権をめぐる最前線の情報を提供いたします。

●キャリア権を問い直す 諏訪康雄
●「キャリア権」総論 西尾健二
●キャリア権における学習権 石山恒貴
●キャリア権から見たメンタル不調者の職場復帰支援 本田和盛
●企業における人材育成と個人の能力開発の融合 佐藤雄一郎

そのほかにもいろいろ記事が予定されていますが、わたくしの連載「労働法の立法学」は「たばこのけむりの労働法政策」です。

国会の動きがどうなるか、昨日まで著者校正を引き延ばして粘っていましたが、ついに時間切れになりました。

男女均等と職業家庭両立の両立

『労基旬報』8月25日号掲載の「男女均等と職業家庭両立の両立」です。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo120825.html

女性労働政策の二つの柱が男女均等待遇の促進と職業家庭生活の両立にあることはいうまでもない。しかし、この二つの柱が矛盾なく両立しうるものなのかという点には、とりわけ企業の中で現実に生き抜いてきた女性管理職の方々から若干の疑念も呈せられているようである。最近労働政策研究・研修機構(JILPT)がまとめた『大企業における女性管理職登用の実態と課題認識-企業人事等担当者及び女性管理職インタビュー調査』に掲載されている女性管理職インタビューを読むと、「・・・でも、自分がちゃんと、自分のポテンシャルをアップさせようと思ったら、そのような育児休業や短時間勤務をばりばりに使ってということは多分しないんじゃないかなという気がします。」等と、ワーク・ライフ・バランス施策に否定的な発言もされている。

ここには、日本の男女均等政策が欧米のような男女同一労働同一賃金政策を中心に置くのではなく、それまでの男女別人事管理を前提に男女間の「コースの平等」をめざしてきたことの一つの帰結がみられるように思われる。

均等法以前の伝統的日本型システムにおいては、新規学卒から定年退職までの男性正社員と新規学卒から結婚退職までの女性正社員はまったく別のコースであった。そしてそれを前提として、男性正社員はすべてなにがしか管理職的性質をもって、しかしながら管理職的処遇は昇進後の将来像としておあずけにする形で、猛烈にばりばり働くことが期待されていた。彼らにはワーク・ライフ・バランスなどという言葉は世迷い言の一種であったろう。この点、入社時からエリートとノンエリートを明確に分け、後者は私生活と両立できる程度にゆったり働くことが当然である欧米の労働者とは出発点が違った。

その日本で男女均等という言葉が、それまで女性向けコースしか与えられなかった女性に男性向けコースに挑戦する権利を与えるものとして受け取られたことは不思議ではない。しかしながらそれは、女性を男性並みに昇進させるという意味の男女均等が、ワーク・ライフ・バランスと矛盾するという皮肉な結論を導くものでもある。均等法成立以来四半世紀が経ったが、日本の女性労働政策はこの矛盾のはざまでなお進むべき道筋を見いだせていないように見える。

2012年8月23日 (木)

道幸哲也・加藤智章編『18歳から考えるワークルール』

20120823道幸哲也・加藤智章編『18歳から考えるワークルール』(法律文化社)を共著者の大石玄さんよりお送りいただきました。

道幸先生の「ワークルール」本って、既にいっぱい出ていますが、今回は道幸門下の研究者や弁護士による共著です。共著者は以下のごとし。

プロローグ (道幸哲也:放送大学)
仕事をはじめるときに気をつけることは?(國武英生:小樽商科大学)
内定したのに働けない!? (迫田宏治:弁護士)
労働条件とはどのように決まるの? (村田英之:弁護士)
賃金のルールってどうなってるの? (開本英幸:北海道大学客員准教授・弁護士)
バイト時間が長すぎる!? (淺野高宏:北海学園大学准教授・弁護士)
ワーク・ライフ・バランスって何? (大石玄:釧路高専)
労働条件って一方的に変更されていいの? (山田哲:東京農業大学)
職場で何をするとマズいの? (平澤卓人:弁護士)
職場でセクハラやいじめにあったら? (上田絵理:弁護士)
仕事をしてうつ病になったら? (加藤智章:北海道大学)
仕事をしながら子どもを育てるには?(所浩代:新潟青陵大学)
やめさせるのは会社の権利 (斉藤善久:神戸大学)
会社から契約を更新しないといわれたら? (戸谷義治:琉球大学)
失業したとき,どんな支えがあるの? (片桐由喜:小樽商科大学)
労働組合って何なの? (中島哲:弁護士)
困ったときどこに操舵nすればいいの? (平賀律男:パラリーガル)

ところで、この「18歳から」シリーズって、「学問の世界への第一歩」と称して、「大学の新入生を対象に、高校までの勉強とはひと味違う学問の面白さを感じてもらうための入門書シリーズ」とのことですが、いやまあもちろん労働法も学問の一種ですが、むしろ労働市場に足を踏み入れ始めた若者への第一歩という感じではあります。

まず冒頭から、

大学生になったAさんはアルバイトを始めました。面接の時に会社から「遅刻には厳しく対処します。1回につき5000円を罰金として減給します」と言われ、Aさんは仕方がないと思って同意しました。

会社に年次有給休暇があるか確認したところ、「アルバイトに年次有給休暇なんてあるはずないよ」と説明されました。そもそも、アルバイトに労基法などの法律は適用されるのでしょうか。

と、基本的な話が始まります。

(追記)

共著者の大石玄さんのブログでも紹介されています。

http://d.hatena.ne.jp/genesis/20120823/p1

2012年8月22日 (水)

理論・実務からみた労働者派遣法改正@『ジュリスト』10月号予告

雑誌『ジュリスト』10月号の予告が有斐閣のサイトにアップされています。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/next

ジュリスト 2012年10月号(No.1446)

2012年09月25日 発売
予定価 1,400円(本体 1,333円)

特集は「理論・実務からみた労働者派遣法改正」です。

特集 理論・実務からみた労働者派遣法改正

・〔座談会〕労働者派遣法改正法をめぐって/諏訪康雄・濱口桂一郎・徳住堅治・木下潮音

・2012年改正法の概要/厚生労働省
・経済学からみた2012年改正法/神林 龍
・労働者派遣事業の適正化/有田謙司
・派遣労働者の保護(1)/高橋賢司
・派遣労働者の保護(2)/富永晃一

自分で言うのもなんですが、この座談会は一読の値打ちがありますよ。

あと、読んでないけど、ほかの方々の論文もいかにも面白そうです。

『日経マネー』10月号にちょびっと登場

Mon260 なぜか『日経マネー』という雑誌にちょびっとだけ顔を出しています。

表紙の一番下にある「「40歳定年」時代が来る? 収入減を生き抜く!最新マネー術」という特集記事の中に、

・・・一方、雇用問題の専門家らは冷ややかに受け止めた。「定年とは年齢による一律解雇。あり得ない」と労働政策研究・研修機構の統括研究員、濱口桂一郎さんはいう。その上で、「中高年の人件費負担は重い。年功型賃金の契約をリセットして、働き相応の給料まで引き下げたいというのが経営者の本音だろう」と、背景には年功型賃金の問題があると指摘する。

その後の方では、海老原さんも登場しています。

・・・人材紹介会社リクルートエージェントのフェロー海老原嗣生さんは、「中高年の賃下げはさらに加速する」と見る。

そして、さらにめくると慶応塾長の清家先生が、

「40歳定年」など荒唐無稽。今先進諸国を見ると、「定年禁止」の方向に向かっています。・・・問題は年功賃金です。これがあるから、中高年の社員をリストラしたり、定年を早めようという議論が起こったりする。・・・

と述べています。

とはいえ、ここまではこの雑誌からしたらおそらくイントロに過ぎなくて、本番はその後の

収入減を生き抜く資産計画
【家計防衛編】収入減不安を抱えるミドル世代の緊急家計診断
【運用編】「減収でも100歳まで安心」の老後資金づくり
【収入キープ編】40~50代から助走、会社の外にもうひとつの仕事場を持つ

という記事なんでしょうけど。

2012年8月21日 (火)

民主党雇用ワーキングチームにて

4c6e468f27243b73af4583a403f41066本日、民主党の雇用ワーキングチームに呼ばれて、「欧州における雇用・労働の基本原則」についてお話をして参りました。

既に、同ワーキングチームの石橋みちひろ参議院議員のブログに紹介されております。

http://blog.goo.ne.jp/i484jp/e/9123e6b76555443601d3c94bb370ad73

ところで、今日の第20回雇用ワーキングチーム(WT)会合、議題はこれまで継続的に議論を進めてきている「目指すべき雇用・労働の在り方」についてのヒアリングで、濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構(JILPT)統括研究員より「欧州における雇用・労働の基本原則」についてお話を伺い、意見交換しました。

濱口さんからは、EC社会憲章(1989年)とEU基本権憲章(2007年)を中心に、欧州を取り巻く政治的情勢の中で、労働・雇用に関する基本原則がいかにしてEUレベルの共通基本原則として確立されてきたか説明をいただいた上で、EU基本権憲章で定められている労働・雇用関係の主な項目について簡単に紹介していただきました。

雇用WTとしては、今日の濱口先生からのヒアリングを含め、これまでの数次にわたるヒアリングの成果を基に、これから「目指すべき雇用・労働の在り方」についての骨格案づくりに入ります。出来れば、9月8日の通常国会会期末までに骨格案についての議員間討議を行い、今後のさらなる肉付け論議のためのベースを作り上げておきたいと考えています。

とのことです。

ゴードン『日本労使関係史1853-2010』

0242930今月上旬に発行されたはずなのになかなか入手できず、本日、都心に出たついでにようやくゲットしました。「日本で書かれたものを含めて、日本労使関係史の中で最高傑作」と、わたし自身が申し上げたその翻訳です。

http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-024293

1980年代に「日本型雇用システム」として世界的に喧伝された雇用形態(「終身雇用」「年功序列型賃金制」「企業福祉」「企業別労働組合」……)はいかに形成され,そして変容し現在に至ったのか.労働者・経営者・官僚の相互関係に注目し,彼らが目的・利害をめぐって争い妥協してきた150年に亘る日本労使関係を描いた決定版.

原著「The Evolution of Labor Relations in Japan」の翻訳に加えて、その後の推移を第5部として加えていることは、広告の紹介の時に申し上げましたが、

日本語版への序文/謝辞
凡例
序章
第Ⅰ部 産業革命期の労働者と経営者
 第1章 工業労働者の組織化
 第2章 温情主義と直接的管理
 第3章 労務管理改革と労働運動――1917~1921
第Ⅱ部 労働者と経営者――戦間期における雇用制度
 第4章 渡り職工の消滅?――採用と長期雇用
 第5章 賃金制度の複雑化
 第6章 企業共同体――会社,組合,労働者階級
第Ⅲ部 戦時の労使関係と政府
 第7章 長期雇用と統制賃金
 第8章 産報――労働組合不在の労働者組織
第Ⅳ部 戦後の決着
 第9章 組合主導の労使関係
 第10章 経営主導の労使関係
第Ⅴ部 労使関係――高度成長期とその後
 第11章 日本型労使関係のヘゲモニー
 第12章 日本型労使関係の終焉?
結論
訳者あとがき
インタビュー対象者一覧/主要参考文献一覧
索引

細かくいうと、第11章は「The Wages of Affluence」の要約版で、第12章がその後の「失われた20年」(という表現にゴードンさん自身は批判的ですが)の記述です。

冒頭の部分が立ち読みできますが、

http://www.iwanami.co.jp/.PDFS/02/8/0242930.pdf

むしろ実際に立ち読みして欲しいのは、今回加筆された最後の「結論」です。

この本の中心テーマが、ブルーカラー労働者が職場のメンバーシップを要求し獲得していくことであることがよく分かります。

なお、訳者あとがきにあるように、本訳書では原文の「メンバーシップ」や「フルメンバー」を、文脈に応じて「構成員として」「正規構成員」「正社員」などと適宜訳し分けて、ルビを付けるというやり方をしていますが、これはとてもいいやり方だと思いました。

さあ、これで立派な翻訳もでたことだし、本書の中身は労働問題を語る人にとっては名実ともに必須のものとなりました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-a7e9.html(ゴードン名著の翻訳)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/1853-2010-c73d.html(アンドルー・ゴードン『日本労使関係史1853-2010』)

実は、今とりあえず追加部分に目を通したところで、原著部分はこれからじっくりと読みます。

公明党は職場喫煙規制後退に反対

既に、政治の世界は民自公3党の事実上の連立に近い状況と報じられていますが、その疑似連立の「扇の要」の公明党が、何遍もマスコミで報じられている労働安全衛生法改正案(職場の喫煙規制)への修正に反対しているというニュース。

http://www.komei.or.jp/news/detail/20120815_8870たばこ対策の後退許すな 職場や飲食店等での義務化進めよ

・・・にもかかわらず、受動喫煙防止対策を遅らせる動きがあることは誠に残念だ。

民主と自民両党が同改正案について、職場の全面禁煙や飲食店などの分煙義務化を見送り、努力義務にとどめる修正案をまとめ、法案の趣旨を大幅に後退させようとしている点だ。

この修正案に公明党は反対である。そこで独自に修正案をまとめた。職場の全面禁煙や空間分煙義務化に取り組む事業者には、新たに喫煙室の設置費用の助成や専門家によるアドバイス、資料の提供などを行えるようにするほか、飲食店などの分煙強化の取り組みにも、換気設備の設置費用を助成するなど、禁煙、分煙をさらに後押しする修正案を国会に提出する方針だ。

公明党は、国民の健康被害をなくすことを第一に考えたい。

労働安全衛生法改正案は、既に8月3日に衆議院厚生労働委員会で大臣から趣旨説明が行われ、翌週に質疑・・・という予定だったところに消費税法案をめぐるてんやわんやがあり、それが落ち着いたところで夏休みに入り・・・、で、ようやく再び審議を再開するというところなわけですが、規制を緩めるという自民・民主両党の流れに対して、公明党が敢然と反対を掲げたようで、これでまた先行きが見えなくなってきました。

たばこ問題は政党の枠組みというよりもご本人の主義嗜好が重要な問題のように思われますので、このボールは結構重要かも知れません。

2012年8月20日 (月)

『よくわかる 社会保障と税制改革』

Sho_613生活経済政策研究所より、『よくわかる 社会保障と税制改革 福祉の充実に向けた税制の課題と方向』(イマジン出版)をお送りいただきました。

http://www.imagine-j.co.jp/book/general/bs613.html

著者は、

神野 直彦 (東京大学名誉教授)
星野 泉  (明治大学教授)
町田 俊彦 (専修大学教授)
中村 良広 (熊本学園大学教授)
関口 智  (立教大学准教授)

の方々です。

惹き句は、

社会保障のなにがほんとうの問題なのか?

税の負担と分配は適正なのか?

社会保障と税制をめぐる日本の現状と課題を、海外の事例と比較しながら、第一線で活躍する著者たちが、それぞれの研究から問題点をわかりやすく解説。

真の社会保障と税の一体改革に必要な議論がここにある!

消費税問題を考える上でも必読の書!

生活経済政策研究所の「税制のあり方研究会」の成果物ということで、リンク先に詳細な目次が載っていますので、ご参照下さい。

ここでは、「おわりに」の一節を、

・・・日本の制度は、サービス供給や給付について、ミーンズテストを行い、困った人を探して提供する選別主義的な分野が多いが、財源確保いいかえれば負担についても、支払い可能な一部の納税者に負担を求める選別主義となっている。法人税の課税ベースは狭く、欠損法人も多い。所得税は、家庭内事情を所得控除で対応し、これも課税ベースが広いとは言えない。子ども手当と高校無償化が変化の突破口になるかと思われたかが、それも後退しつつある。・・・

こうした、サービスが選別的であるからその財源も選別的、一部の人からの負担という考え方では、企業や家計に政府を補完する余力がない以上、国民生活維持の観点からこのまま続けていくことは難しい。サービス供給面だけでなく、税制面でも課税ベースが広いヨーロッパ型の検討が待たれる。・・・

摂氏28度は労働安全衛生問題

結構話題になっているようですが、

http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120818-OYO1T00636.htm(職場暑すぎても法令違反、節電の落とし穴に注意)

残暑が厳しい中、職場で節電し過ぎると、法令違反になる恐れがあります――。全国で節電が求められている今夏、多くの企業や家庭で、「エアコン温度を高めにする」という取り組みが定着してきている。だが、労働安全衛生法が事業所の室温を28度以下に保つよう定めていることはあまり知られていない。

正確には、労働安全衛生法自体ではなく事務所衛生基準規則という省令で、規定も義務ではなく努力義務規定ではありますが、とはいえ

結局、同省は「違反」と認めた上で、▽まずは28度とするよう努める▽29度に引き上げる場合も熱中症予防策を講じる――という対応が必要だとし、6月に経団連などの経済団体や全国の労働局に通知した。

実はこの問題、昨年の東日本大震災直後に『ビジネス・レーバー・トレンド』6月号に寄稿したときに、原発作業員の被曝問題のついでにちょっと触れておいたこともあります。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2011/06/002-016.pdf(11ページ)

・・・原発事故は電力不足という形で一般労働社会にもさまざまな労働問題を生み出していく可能性がある。以下、思いつくままにいくつか指摘しておきたい。

 夏季の冷房用空調設備が電力消費の相当部分を占めることは周知の事実だが、これも労働法と無関係ではない。事務所衛生基準規則は事業者に、事務室の気温が一七度以上二八度以下となるよう努力義務を課している。努力義務とはいえ、これを遵守せよと政府が言うべきなのか、という問題が早晩出てこよう。原発作業員には被曝上限を引き上げておいて、電力消費者の側は「快適な職場」を享受するのか、という倫理的問題も孕みうる。そうすると、一日の電力消費量の平準化のために、サマータイムの導入とか、さらには深夜勤務への転換といった方策が論じられることになる。さらに、会社に出勤することなく在宅勤務で対応しようという声も出てきている。しかし、あまり節電効果のなさそうなサマータイムを除けば、労働契約の根幹に関わる変更をもたらすもので、一律に行えるものではない。

2012年8月19日 (日)

新書とは異なる次元に存在する書物

112483斉藤社会保険労務士事務所さんのブログに、拙著『日本の雇用と労働法』の書評が書かれています。

http://www.ajconsult.jp/article/14509688.html

著者である通称“hamachan先生”といえば、超一流の研究者でありながら、キングブロガーの異名を持つ一風変わった出で立ちの方です。この先生のホームページをチェックしている専門家も多いことでしょう。

いや、キングブロガーなどと言われたのは初めてですが。

法政大学の授業用に執筆されたとのことですが、新書でありながら雇用システム、歴史、労働法と、よくこのスペースに押し込むことができると感心させられます。新書とは異なる次元に存在する書物だと思った方が良いでしょう。

「新書とは異なる次元に存在する書物」ですか・・・。

むしろ、本来新書というのはそういう書物であったような気が。

労働法を苦手としている人でも、この本なら好きになれるかもしれません。それだけ、分かりやすく面白く、深く、本当に勉強になる本です。

いずれにしても、ありがとうございます。


『弱者99%社会』への感想

300739b宮本太郎さん編の『弱者99%社会』への感想がツイートされていました。

http://twitter.com/kusakanmuri_m/status/235266743331872769

宮本太郎さん編「弱者99%社会」。福祉政策論を専門とする北大院教授が識者との対談を通し、同時多発不安を抱える社会からの脱却のあり方を問う。個人的には、湯浅誠氏・濱口桂一郎氏との現役世代の支え方を問う2章、大沢真理氏・土井丈朗氏との財源の問題に切り込んだ5章に多く学んだ。

この本は、本ブログで紹介したように、BSフジでの番組がもとになっています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/bs-e6ef.html(BSフジプライムニュース)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/bs-9821.html(BSフジプライムニュースに出てきました)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/99-ff15.html(宮本太郎編『弱者99%社会 日本復興のための生活保障』幻冬舎新書)

小熊英二『社会を変えるには』

32797033新書としては分厚い500頁越えの中に、日本の社会運動の歴史から古代ギリシャ以来の政治思想の歴史からいろいろ詰め込んでいますが、どちらかというとよく言われていることをまとめたという感じの本です。

わたくしからすると、「新しい」社会運動に肩入れしすぎて、逆にとりわけヨーロッパと比べて日本で希薄になりすぎてしまっている「古典的」社会運動の位置づけがどうなのかなあ、というところもありますが(より正確にいえば、70年代に確立した日本の「昭和」システムと日本的「新しい」社会運動の共犯性という高原基彰さんの問題ですが)、これだけの議論を一望できるという意味では有用な本でしょう。

おそらく一番力の入っている第6章が、不確定性原理や現象学から再帰性やフレクシキュリティを引っ張り出しているのは、やや飛ばしすぎの感もあります。もっとも、この章の労働社会政策に関するところは、あとがきによると仁平典宏さんにチェックしてもらったということで、ごく簡単な解説としては信頼できます。

その中の「保守主義の逆機能」という項から、「再帰性」でもって通俗的な議論を批判しているあたりを;

・・・たとえば、「3年で辞める若者はわがままだ」と唱える財界人がいます。しかし同じ人が、下請企業は従来の経緯に縛られずに世界中から自由に選ぶ、法人税を下げなければ海外に工場を移転する、がまんも限界だ、などと主張したりします。こういう人は、「なんで女が家事をやるの。でもあなたは男だから働いて」などと言われたら、たぶん怒るでしょうが、自分が何を言っているのか分かっていないのでしょう。

しかも、「下請企業は自由に選ぶ」などと発言したら、その会社の取引先も、「自由」に振る舞うようになるに決まっています。「グローバル基準で厳選採用する」と発言したら、相手もグローバル基準で厳選します。能力主義を社員に要求する社長が、有能でなかったとしたら、正統性が低下します。自分の振るまいが、相手に影響を与え、よけいに再帰性を増大させることになるのが分かっていません。そこに対立が生まれ、逆機能が生じるのです。


芦田宏直先生の講演で紹介されていたので

131039145988913400963久しぶりに、『新しい労働社会』を「読みました」というエントリ。「悩める戦うビジネスマン」ことkahusuさんの「01-Reading 大人の読書」というブログです。

http://d.hatena.ne.jp/kahusu/20120818

先日に参加した芦田宏直先生の講演で紹介されていたので購入。
日本の雇用システムがよくわかる一冊です。
特に非正規労働者を取り巻く三者間労務供給関係のパターンは秀一でした。

芦田さんには、かつて本書をめぐり、いろいろと論じていただいたことがあります。

http://www.ashida.info/blog/2009/10/post_385.html(岩波新書『新しい労働社会』の著者・濱口桂一郞さんが、彼への私の言及にコメントをくれました ― こんなことってあるんですよね(朋あり遠方より来る、また楽しからずや)。 2009年10月27日

私が書いたキャリア教育についての論文の中で触れた濱口桂一郞さんの著書『新しい労働社会』(岩波社会)。この著作は書評誌でも話題を呼んでいる著作だが、その労働問題の専門家である濱口さんが自身のブログで、私の言及にコメントをしてくれている。私の孤独な作業にも、労働問題の専門家の読者がいたことに謝意を表して、こちらからも彼のブログを紹介したい。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-fe82.html(芦田宏直さんのキャリア教育・職業教育論)

http://www.ashida.info/blog/2009/10/post_386.html(岩波新書『新しい労働社会』(濱口桂一郎)と私のキャリア教育論 2009年10月29日

濱口さんの「メンバーシップ型」「ジョブ型」雇用についての体系だった説明は類書の従来の説明とは質的に異なり、あざやかなものだった。この本の中身をもっとも役に立てるのは私しかいない、と思うほどのものだ。著者とは直接的な関心は違うが、私が抱えている数々の難問が「氷解」するという感覚でもあった。

いうまでもなく、ノマドは遊牧民であって狩猟採集民ではない

まことに詰まらん話ですが、

http://twitter.com/ikedanob/status/236794564659269633

「ノマド」を自由な働き方だと思っている人がいるが、これは逆。人類の遺伝子は狩猟採集社会のノマドだが、集団を離れると餓死するので帰属意識が強く、平等主義で強いリーダーを殺す

ノマドとは、いうまでもなく遊牧民であって、狩猟採集民ではない。人類史において、農耕牧畜革命以前と以後を取り違えるというのは、かなりな感度ですね。

遊牧騎馬民族は、もちろん近代的な意味で「自由」ではないが、平等主義ではない。むしろ実力のあるリーダーを求める。

2012年8月18日 (土)

磯野ワカメの生活保護申請

どこの大学での試験問題かはよく分かりませんが、非法学部生にはちょっと難しかったかも・・・。

http://twitter.com/aka_kappa/status/236441658240155649

今期の某科目の試験は大学生になった磯野ワカメがシングルマザーになり生活保護申請するも却下されたので、これを批判しなさいというものでした。両親が彼女の生活費を出すと言うので補足性の原則から却下されたが、実は彼女は兄の悪戯の濡れ衣を着せられて波平から殴られたのを虐待と感じていたし→

http://twitter.com/aka_kappa/status/236443100288012288

→フネは諫坂先生と浮気しているので彼女は母を尊敬できず、タラ夫とも喧嘩ばかりで…、というもの。条文などを掲載して配慮したつもりですが、非法学部の学生は戸惑ったみたいですね。採点のときは、「ワカメちゃん頑張ッテ!」とだけ書かれた答案に1点くらいあげようかどうかで悩みましたよっと

僕の身も蓋もない理解によれば・・・

金子良事さんのツイートから、

http://twitter.com/ryojikaneko/status/236506333938073600

僕の身も蓋もない理解によれば、濱口先生が学校の職業的意義の重要性を主張して来たのは、このクォリフィケーションの問題に他ならない。ただし、低いジョブレベルでも、大学にそういうものが実現出来たら、マージナル大学の学生も上の学校と同じ土俵で勝負出来るという話だ。

いやあ、「身も蓋もない」と言うといかにも建前と異なる隠した本音みたいですが、金子さん本人にも、また広田さんの研究会の場でも、結構あからさまに喋ってきているつもりなんですが。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/hirotakaken.html

私は実は、どういうジョブについてどういうスキルを持ってやるかで仕事に人々を割り当て、世の中を成り立たせていくジョブ型社会の在り方と、そういうものなしに特定の組織に割り当て、その組織の一員であることを前提にいろいろな仕事をしていくメンバーシップ型社会の在り方の、どちらかが先験的に正しいとか、間違っているとは考えていません。
 
ある意味ではどちらもフィクションです。しかし、人間は、フィクションがないと生きていけません。膨大な人間が集団を成して生きていくためには、しかも、お互いにテレパシーで心の中がすべてわかる関係でない限りは、一定のよりどころがないと膨大な集団の中で人と仕事をうまく割り当てることはできません。
 
そのよりどころとなるものとして何があるかというと、ある人間が、こういうジョブについてこういうスキルがあるということを前提に、その人間を処遇していくというのは、お互いに納得性があるという意味で、非常にいいよりどころです。
 
もちろん、よりどころであるが故に、現実との間には常にずれが発生します。一番典型的なのは、スキルを公的なクオリフィケーションというかたちで固定化すればするほど、現実にその人が職場で働いて何かができる能力との間には必ずずれが発生します。
 
ヨーロッパでいろいろと悩んでいるのは、むしろその点です。そこから見ると、日本のように妙な硬直的なよりどころがなく、メンバーとしてお互いによく理解しあっている同じ職場の人たちが、そこで働いている生の人間の働きぶりそのものを多方向から見て、その中でおのずから、「この人はこういうことができる」というかたちで処遇していくというやり方は、ある意味では実にすばらしいということもできます。
 
ただし、これは一つの集団組織に属しているというよりどころがあるからできるのであって、それがないよその人間との間にそうことができるかというと、できるはずがありません。いきなり見も知らぬ人間がふらりとやってきて、「私はできるから使ってくれ」と言っても、誰も信用できるはずがありません。そんなのを信用した日には、必ず人にだまされて、ひどい目に遭うに決まっています。だからこそ、何らかのよりどころが必要なのです。
 
よりどころとして、公的なクオリフィケーションと組織へのメンバーシップのどちらが先験的に正しいというようなことはありません。そして、今までの日本では、一つの組織にメンバーとして所属することにより、お互いにだましだまされることがない安心感のもとで、公的なクオリフィケーションでは行き届かない、もっと生の、現実に即したかたちでの人間の能力を把握し、それに基づく人間の処遇ができていたという面があります。
 
おそらくここ十数年来の日本で起こった現象は、そういう公的にジョブとスキルできっちりものごとを作るよりもより最適な状況を作り得るメンバーシップ型の仕組みの範囲が縮小し、そこからこぼれ落ちる人々が増加してきているということだろうと思います。
 
ですから、メンバーとして中にいる人にとっては依然としていい仕組みですが、そこからこぼれ落ちた人にとっては、公的なクオリフィケーションでも評価してもらえず、仲間としてじっくり評価してもらうこともできず、と踏んだり蹴ったりになってしまいます。「自分は、メンバーとして中に入れてもらって、ちゃんと見てくれたら、どんなにすばらしい人間かわかるはずだ」と思って、門前で一生懸命わーわーわめいていても、誰も認めてくれません。そういうことが起こったのだと思います。
 
根本的には、人間はお互いにすべて理解し合うことなどできない生き物です。お互いに理解し合えない人間が理解し合ったふりをして、巨大な組織を作って生きていくためにはどうしたらいいかというところからしかものごとは始まりません。
 
ジョブ型システムというのは、かゆいところに手が届かないような、よろい・かぶとに身を固めたような、まことに硬直的な仕組みですが、そうしたもので身を固めなければ生きていくのが大変な人のためには、そうした仕組みを確立したほうがいいという話を申し上げました。

2012年8月16日 (木)

ワタミ会長 いじめ発覚なら担任教師の給料下げるべきと提案

残念なことに、ブラック企業大賞の栄誉を東京電力に譲ったワタミですが、さすがに立派な発言を連発しておられます。

http://news.livedoor.com/article/detail/6858941/

極端に言えば、例えばいじめが起きたクラスの担任教師は給与を下げる。いじめにいたるまでには芽の段階があるのだから、事前に芽を摘み取っておくべきで、それができなかったのは教師の能力が足りなかったか、やる気が足りなかったかだ。

既に山のようなツイートやコメントがついていますが、ここでは黒川滋さんのを引用しておきます。

http://twitter.com/kurokawashigeru/status/235954254039367680

いじめを隠蔽することを奨励しているようなものではないか。労働問題を隠蔽している企業体質さながらです。

http://twitter.com/kurokawashigeru/status/235954665479614465

ワタミ会長は極めて日本的なトラブル処理の仕方をする人だということがわかりました。いじめの発生は教員の職務と無関係に発生します。起きたことに対応することが職務であって、それに対して教員の賃金はあるはずです。

これが重要なのは、いうまでもなく職場のいじめ問題に対して

極端に言えば、例えばいじめが起きた部や課の部長や課長は給与を下げる。いじめにいたるまでには芽の段階があるのだから、事前に芽を摘み取っておくべきで、それができなかったのは管理職の能力が足りなかったか、やる気が足りなかったかだ。

てなことをやれば、現場で何が起こるであろうかという形で、ダイレクトに労働問題につながるからですが。

ちなみに、依然として学校間競争とかバウチャーとかいうてはりますが、

学校も同じである。教育方針、私立であれば経営実態のディスクロージャー(公表)を進め、公立と私立の間で自由競争を起こすためのバウチャー制度を導入するなどし、生徒や親が学校を本当に自由に選べるようになれば、良い学校は生徒が集まり、そうでないところは淘汰される。それが学校に対する評価である。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-1984.html

・・・ところが、身分は公務員でもなく、教育委員会の管轄下にもない私立学校では、・・・

なるほど、さすが民間。「怯懦と保身と事なかれ主義にとらわれた者たちが右往左往」するなどというみじめなことはやらないのですね。堂々と、根性焼きされた側の被害者を退学処分にして「意見は受け付けない」。

「生徒や親が学校を本当に自由に選」んでも、なかなか淘汰されないようですな。

『債権法改正と労働法』(商事法務)

4785720032 土田道夫編 債権法改正と雇用・労働契約に関する研究会著『債権法改正と労働法』(商事法務)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://bizlawbook.shojihomu.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?CID=&ISBN=4-7857-2003-2

法制審議会で改正作業が行われている民法(債権法)であるが、労働法・雇用契約と密接な関係のある「雇用」の規定も、その検討対象になっている。本書は、民法(債権法)の改正について、労働法の観点から法理論的研究を行った画期的業績。

ということで、以下の目次に載っている名前をみただけで、労働法学界の錚々たる人々による本格的な研究書だということが分かりますが

第1章 雇用規定の検討
第1節 民法623条 〔水町 勇一郎〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨―「雇用」と「労働契約」
3 議論の状況―今日の議論と債権法改正をめぐる状況
4 立法論上の課題―「雇用」と「役務提供契約」総則との関係
第2節 民法624条 〔本庄 淳志/大内 伸哉〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第3節 民法625条 〔本庄 淳志/大内 伸哉〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第4節 民法626条 〔奥田 香子/篠原 信貴〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第5節 民法627条 〔根本 到〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第6節 民法628条 〔根本 到/石田 信平〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第7節 民法629条 〔奥田 香子/篠原 信貴〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第8節 民法630条 〔坂井 岳夫〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第9節 民法631条 〔坂井 岳夫〕
1 総論―労働法体系との関係
2 立法経過、趣旨
3 議論の状況
4 立法論上の課題
第2章 その他の論点の検討
第1節 民法536条2項 〔村中 孝史/坂井 岳夫〕
1 本節の目的―問題の所在
2 基本方針および中間的論点整理の提案内容
3 不就労の法的評価と判断枠組み
4 使用者の帰責事由
5 因果関係
6 効果としての賃金請求権の発生
7 利益の償還
第2節 約款、事情変更制度、継続的契約 〔土田 道夫〕
1 本節の目的
2 約款
3 事情変更制度
4 継続的契約
第3節 不当条項、契約締結過程の説明義務・情報提供義務、申込みに変更を加えた承諾(留保付承諾)、時効 〔荒木 尚志〕
1 本節の目的
2 不当条項
3 契約締結過程の説明義務・情報提供義務
4 申込みに変更を加えた承諾(留保付承諾)
5 時効
第3章 座談会「債権法改正と労働法」
荒木 尚志/大内 伸哉/土田 道夫/中田 裕康/山川 隆一/山本 敬三

より正確にいうと、錚々たる人々プラス土田道夫門下の若手4名というラインナップですね。法学部では民法でも労働法でもあんまり突っ込んでやらない民法の雇用規定を一条ずつ突っ込んだ第1章と第2章は、夏休みの課題図書に最適ですし、その前の頭の準備体操には第3章のこれまた膨大な分量の座談会がとても役に立ちます。

中から一つ夏休みの宿題を(266ページ)。

土田 前から少し気になっているのは、これは完全に労働法の問題ですが、労働契約法6条によれば、労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、賃金を支払うことについて「合意すること」によって成立するわけです。そうすると、たとえば、「この契約は労働契約ではない」という合意をしておけば、実態上使用されて労働しているにもかかわらず、「労働契約ではない」という合意をしているから、契約の性質としても労働契約ではないという事態があり得るのかないのか。

2012年8月15日 (水)

とってもメンバーシップ型なユーゴスラビア労働法

「そういえば、その昔、ゆーごすらびあなんていう国がありましたなあ」

「そうそう、ろうどうしゃじしゅかんりとかいうのもありましたねえ」

と、老翁老婆が渋茶を啜りながら回想するような歴史的存在となった旧ユーゴスラビアですが、ソ連やポーランドと比較しながら、旧ユーゴスラビアの労働法をいろいろ読んでいくと、これって究極のメンバーシップ型労働法理論を構築していたのだという事が分かりました。

労働者自主管理というのも1950年に始めてから徐々に進化していっているのですが、その完成形とみなされているのが1976年の連合労働法というやつですが、この法律では、連合労働者の労働関係は、一方が他方を雇う雇用関係ではなくって、「全ての者が互いに労働関係を結ぶ相互的労働関係」なんですね。企業という概念の代わりに「労働組織」というのが中心で、その労働者評議会が仲間として入れる人間を選定する。事業管理機関も労働者評議会が選ぶ。まさに、出資者がメンバーである会社ではなく、労働者がメンバーである労働組織が社会の中心をなすのが自主管理社会主義というわけで、法制度自体がとってもメンバーシップ型なわけですね。

今の日本で言えば、「協同労働の協同組合」に近いわけですが、社会全体をこういう仕組みにしようとしたところが旧ユーゴの特徴であり、結局それに失敗してユーゴという国まで一緒に崩壊してしまったというわけです。

連合シンポジウム 個別労働紛争処理システムのあり方を考える

連合が8月29日に、「個別労働紛争処理システムのあり方を考える~ユーザーから見た現状と課題」というシンポジウムを開きます。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/info/event/20120829/index.html

司会
寺田 弘 非正規労働センター総合局長

主催者あいさつ
南雲 弘行 事務局長

連合本部報告
「個別労働紛争処理制度の現状と連合の考え方について」
…新谷 信幸 総合労働局長

基調講演
「個別労働紛争処理制度の課題と展望」(仮)
…毛塚 勝利 中央大学教授

リレー報告と討論
「個別労働紛争処理制度の現状と課題」
・連合神奈川 紙屋  源太郎 アドバイザー
・連合北海道 小倉 佳南子 組織局次長 (労働委員会委員)   
・連合大阪  坂本 博信 アドバイザー (労働審判員) 
・棗 一郎 弁護士
・毛塚 勝利 中央大学教授

まとめ
安永 貴夫 副事務局長

とんことなので、上のリンク先から是非申し込みましょう。

そういうお前は?

いや、実は同じ日の同じ時間に、こういう野暮用を入れてしまっているもので・・・。

http://www.roudou-kk.co.jp/meeting/archives/2012reikai/005183.html

第2595回労働法学研究会「日本の雇用終了の実態」/8月29日(水)

―労働局のあっせん事例からみる雇用終了の実態と日本の職場の姿―

『講師』濱口 桂一郎 

こちらも似たテーマではありますが・・・。

福島原発所員への差別・中傷

産経の記事から、

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120815/dst12081507040000-n1.htm(アパート借りられない、避難所で暴言 福島原発所員の精神的苦悩2倍に)

東京電力福島第1原発事故後の復旧作業に当たっている福島第1、第2原発所員の一部が、差別や中傷を受けていたことが明らかになった。両原発で健康相談や心のケアをしている愛媛大と防衛医大(埼玉県)のチームが、所員のうち東電社員を対象にアンケートを実施、85%に当たる1495人から回答を得た。こうしたケースは精神的な問題を抱える確率が2倍になることも分かった。

原発所員であることを理由にアパートの賃借や病院の受診を断られたり、避難所で暴言を浴びせられたりしたとの証言があった。差別や中傷を受けたことがあると回答した所員は191人(12・8%)に上った。

差別や中傷を受けた所員は、受けなかった所員に比べると、気分の大きな落ち込みや絶望感による苦悩に陥ったり、感情のまひやショッキングな場面を思い出してしまう心的外傷後ストレス反応(PTSR)が表れたりする確率が、それぞれ約2倍になっていた。差別や中傷が大規模災害時の復旧作業員の精神面に影響することが明らかになったのは初めてといい、愛媛大の谷川武教授(公衆衛生学)は「社会の理解がなければ、鬱病や、作業へのモチベーション低下が懸念される」と指摘した。

この構図、どこかでみたことがあると思いませんか、

そう、昨日の朝日で、金子勝さんが、子ども向けではなく大人向けに書いた「いじめている君へ」そのままですね。

http://www.asahi.com/edu/news/TKY201208130480.html

子どもは大人の背中を見て育つと言いますが、君には大人のまねをしないでほしいと思っています。

ある国会議員(こっかいぎいん)が、高額所得(こうがくしょとく)の芸能人(げいのうじん)の母親が生活保護(ほご)を受けていることを国会で問題にしました。その芸能人は法律(ほうりつ=生活保護法)に違反していたわけではありません。でも、人気商売である芸能人が反論(はんろん)できないのをよいことに、テレビや週刊誌からも袋だたきにされ、多くの人がその騒動(そうどう)を楽しみました。

君がいじめている子と似ていませんか。逃げ場がどこにもなく、先生も守ってくれず、抵抗(ていこう)する手段(しゅだん)も限(かぎ)られているからです。

なにしろ、従業員がひどい目に遭っているという意味のはずの「ブラック企業」を選ぶ大賞に、ドヤ顔で東京電力が選ばれるくらい「社会の敵」扱いされているので、良心の呵責なく、むしろ自分が正義の味方をやっているという満足感に満ちたりながら、安心して抵抗できない「わるもの」に対する「いじめ」を楽しむことができるという、現代日本の典型的な構図が。

なんにせよ、こういう「社会的いじめ」に対して、マスコミがきちんとした反応ができるかどうかが、日本がまだまともな社会であり続けられるのか、もはやどうしようもないのかを分ける境目になるのでしょう。

2012年8月14日 (火)

真正リフレクラスタからの「りふれは」批判

今ごろになって、とも、今さらなにを、とも、申しません。

本当に心ある(「りふれは」ではない)リフレ派なら、本来こういうことこそをはじめから言い続けるべきだったと思いますが、とはいえ、正しいことは正しいと率直に評価するべきでしょう。HALTANさんもね。

http://twitter.com/sunafukin99/status/235140436929429504

世論が維新のような勢力に期待している政策も実は同じ線上(痛みを伴うシバキアゲ)にある。ところがリフレ派の親維新派はそういうのとは真逆の政策を求めている。このへんが不可解なところだ。実際は前者が実施される可能性がはるかに高いじゃないか。

http://twitter.com/sunafukin99/status/235159693209763840

リフレ派ってもう少し「空気」や「民意の暴走」に懐疑的な人たちかと思ってたけど、橋下騒動や原発騒動以後そんな人ばかりじゃないということが見えてきた。自分の都合次第でころころ変えるのはどうかなあと思うぞ。

http://twitter.com/sunafukin99/status/235163259328688128

最近はむしろ維新肯定派の方が少数派になってしまってるように見えるんですがね。リフレ主流のマスコミ露出派以外は。肯定派にはちょっとついていけないのであしからず、と言う感じです。

http://twitter.com/sunafukin99/status/235191391712579584

リフレ政策がいつまでたっても政治的な力を持たないのもその他の部分であまりにもバラバラだからかもしれない。本当は政治的価値観含め一定の範囲に収斂しないとダメなんじゃないかな。

http://twitter.com/sunafukin99/status/235232011307085824

「俺の方がシバキアゲだ!」「いいえ、私の方がシバキアゲよ!」・・・シバキアゲ度の強さを競い合う日本の政治家という未来予想図も

http://twitter.com/sunafukin99/status/235240417245933568

リフレクラスタの多くが高橋洋一氏を盲目的に信じすぎてるところはあるよなあ。さすがに最近少し考えないと、とは思う。

HALTANさんなら、今ごろになって「さすがに最近少し考えないと」かよ、と嘲笑うところかも知れませんが、それにしても、この数年間繰り返しわたくしが言い続けてきたことの問題意識がほぼそのままの形で、真正リフレクラスタの「すなふきん」さんのツイートの中に現れていることは、最近の陰謀説剥き出しの匿名増田氏のような存在も依然あるとはいえ、まっとうなリフレ派の人々のものをきちんと考える能力について、勇気を与えるものであることは否定できません。

問題は、こういうちゃんとものを考えるリフレ派がサイレントマジョリティの間にはちゃんと現れてきているのに、マスゴミで活躍するノイジーな「りふれは」ばかりが目立つことであるわけですが。

2012年8月13日 (月)

登録型派遣はILO181号条約違反だって?

『労働新聞』ともあろうものが、やや軽率な記事を載せているようです。

8月13日号7面の「今週の視点」で、

改正労働者派遣法の成立とほぼ同時期のILO勧告に対し、日本政府はどういったことを報告するのか。「登録型派遣」は。日本が批准している条約に違反するとした勧告だが、改正原案にあった"原則禁止"を見送った国会状況の説明では足りないから、施行1年後をめどに論点を整理し、審議懐疑論を再開するとした附帯決議への理解を求めることになるのか。・・・

というリードの記事を載せているのですが、一体、労働新聞の記者は、世界中でILO181号条約を批准している多くの諸国で、登録型派遣がことごとく禁止されているとでも思っているのでしょうか。

近年の労働者派遣に関する国際的な記事や論文をちょっとでも囓っていれば、すぐにおかしいと分かるようなこんな記事が載るのは、いかに日本の派遣問題の議論が、ガラパゴス化しているかをよく示しています。

ILOの勧告(英文)はここにあるので、よく読んでからものを言った方がいいでしょう。

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_176588.pdf

The Committee notes that the complainant alleges that the Supreme Court decision in the Iyo Bank case violated the concept of “employment” provided for in Article 1(1)(b) of Convention No. 181, under which the private agency assumes the role of an employer.

委員会は、いよぎん事件における最高裁判決が派遣元が使用者としての役割を果たすという181号条約第1条(1)(b)に規定する「雇用」の概念に違反するという訴えを留意する。

The Committee further notes the complainant’s allegation that the judicial decision denied the temporary worker’s right to expect continued employment and failed to recognize the temporary work agency’s responsibilities as an employer, regardless of the duration of the employment relationship or the complaint of harassment.

委員会はさらに、当該判決が派遣労働者の継続雇用への期待権を否定し、雇用関係期間の長さやハラスメントの訴えにかかわらず派遣元の使用者としての責任を認め損なっているとの訴えを留意する。

読めば一目瞭然のように、世界中どこでも普通に行われている登録型派遣がILO条約違反だなどと馬鹿げたことは、ILO自身はもちろん、訴えた日本のユニオンも主張していません。そんな奇怪な議論が通用するのは日本だけだと言うことは分かっているからでしょう。

それに対して、ユニオンが訴え、ILOもなるほどと言っているのは、いよぎん事件という最高裁判決、というよりも、最高裁が無考えにそのまま認めてしまった馬鹿げた下級審判決なのです。

このいよぎん事件の高裁判決については、わたくしがかつて東大労判で評釈し、『ジュリスト』に載せたことがあるので、読んでいただければと思いますが、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/iyogin.html

・・・本判決は、派遣法の常用代替防止という立法目的が、派遣労働者の雇用の安定とは相反するものであるという前提に立脚して論を進め、「Xの雇用継続に対する期待は、派遣法の趣旨に照らして、合理性を有さず、保護すべきものとはいえない」と述べている。しかしながら、そもそも派遣法は派遣労働者の雇用の安定を重視するが故に派遣元の常用労働者のみである特定派遣事業とそうでない一般派遣事業の規制に格差を設けているのであり、派遣労働者の派遣元に対する雇用継続期待は法の予定する合理的な保護法益である。これに対して、常用代替防止とは派遣先の常用労働者との関係で問題になるものであり、派遣先に対する派遣就労継続期待は法の予定する合理的な保護法益ではないという意味に過ぎない。特定派遣事業においても、派遣先の常用代替防止という要件は当然にかかるのである。もちろん、登録型においては雇用契約の存在が派遣契約を前提とするものであるため、派遣元における雇用継続に対する期待は派遣契約のない場合にまで保護されるものではないが、それは派遣先における常用代替防止とはなんら関係のないことである。本来派遣元と派遣先の間の商取引契約の存在と派遣元と派遣労働者の間の雇用契約の存在は別次元のものであり、前者の終了が後者の終了を自動的に正当化するわけではない。・・・

派遣法は常用代替防止が立法目的だから、派遣労働者には非派遣労働者には当然認められる雇用継続の期待すら認められないのだ、などという馬鹿げた判決を、これまた最高裁が何も考えずにそのまま認めたので、そんな派遣労働者を特別に差別することを目的とするような法はILO条約に沿っているとは言い難いですねえ、という反応が返ってくるのは当然でしょう。

そういうまっとうな訴えとまっとうな反応を、日本のガラパゴス状態をいいことに、「「登録型派遣」は。日本が批准している条約に違反するとした勧告」などという捏造もいいところの報道をするのは、『労働新聞』として如何なものかと思いますよ。

(追記)

こういうことをきちんと指摘できる論者が私くらいしかいないというところに、日本の絶望的なガラパゴス状況が浮き彫りになっているわけです。派遣業界の味方みたいな顔をしてしゃしゃり出てくる誰かさんたちは、こういう話ではILOに莫迦言うな、と言われるようなことばかり言うものだから、結局日本の中でしか通用しない。

そういう莫迦を使うな、と何遍言っても、味方が欲しいものだからすぐ使いたがるわけですがね。

海老原嗣生『雇用の常識 決着版』ちくま文庫

9784480429773 東野圭吾や宮部みゆきといった人気作家の小説であれば、3年ルールももどかしくこないだ刊行されたと思ってた本が早速文庫に、ということはままありますが、雇用問題の本で単行本が3年で文庫化というのは、あまり聞いたことがありません。それだけ評判の本であったということでしょうが、そこは海老原さん、3年前の本を判型を縮小するだけで出すなどということはしません。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480429773/

タイトルにあるように、この本は「決着版」。何がどう決着しているのかは読んでのお楽しみというところですが、この3年間に怒濤のように出されたあの本やこの本から、いっぱい取り入れられています。

とりわけ最終章の「現実的な改良案」は、『就職絶望期』で示された「誰もがエリートを夢見る社会からの卒業」なども載っていて、今日的バージョンに仕上がっています。

2012年8月12日 (日)

同一労働同一賃金はどいつの台詞だ?@『HRmics』13号

1海老原嗣生さんの雑誌『HRmics』がこの13号から大幅に模様替えしました。

http://www.nitchmo.biz/hrmics_13/_SWF_Window.html

特集は「本当のグローバル戦略、グローバル採用」ですが、その後ろに控える新連載記事たちが、一癖も二癖もある筆者が並んでいてなかなか壮観です。

なにしろまず、常見陽平さんの新連載「採ってはいけないその学生」で「学生団体代表なんてマハラジャのお立ち台女と変わらん」。

タイトルも凄いけど、中身もそれにまして刺激的です。

対照的に、山内大地さんの「大手も採るべきこの大学」が「身体を動かすことが好きで、従順な学生のいる大学」。そりゃ一体どこだ?上のリンク先を見れば書いてあるので、産業能率大学と東京都市大学だそうです。

石渡嶺司さんの「就活温故知新」は「学力試験はいつ消えたのか」。ある意味で、後述のわたくしの文章とも共通しますが、今日ただ今確立している「日本型」システムってのが、ほんの少し前までは必ずしもそんなに一般的というわけではなかったという歴史秘話ものとして楽しめます。

次はブログでおなじみのあの人シリーズ。

「企業法務マンサバイバル」の橋詰卓治さんが「上から目線のコンプライアンス」で「社長、安易なノマド活用は、自縄自縛となりますよ」。これについては、ご本人がブログで紹介されているので、

http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/52268764.html

そして、本ブログでもおなじみ被災地の地方公務員として日夜かけずり回っているあのマシナリさんが、『HRmics』に連載です。題して「公僕からの反論」、記念すべき第1回は「復興の遅れ、公務員批判、政治決断」。ぞくぞくするようなマシナリ節がお楽しみいただけます。

今のところまだ、ご本人のブログには紹介されていませんが

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/

なお森戸英幸さんの「感情的法律論」は既に連載13回目ですが、今回はトピカルに「これでいいのか生活保護」。

そして、不肖わたくしも「雇用問題は先祖返り」という新連載です。第1回目は「同一労働同一賃金はどいつの台詞だ?」 。

その最後の一節をこちらにチラ見させておきます。中身は是非上のリンク先へ。

・・・・・改めてこの数十年の歴史を振り返ってみると、「攻守ところを変え」という言葉が思い浮かびます。1950年代から60年代には経営側や政府が同一労働同一賃金原則を声高に主張し、労働側は正面から反論しにくいものだからいろんな屁理屈をこねていたのに、そんな問題が意識されなくなった時代を間に挟んで、1990年代から2000年代には労働側が(どこまで本気であるかはともかく)同一労働同一賃金原則を声高に叫び、経営側は「同一価値労働かどうかは中長期に判断するのだ」などと苦肉の反論をしています。

同一労働同一賃金という字面それ自体はまことにもっともな原則であるがゆえに、反論する側が屁理屈になる傾向があるわけですが、そもそも声高に主張している方が(かつての経営側にしても現在の労働側にしても)どこまで本気で言っているのかいささか疑問なしとしないというところも、かつてと現在の共通点かも知れません。

なんにせよ、こういう経緯を眺めてくると、「同一労働同一賃金はどいつの台詞だ?」といいたくなりますね。どいつもこいつも本気じゃないのに・・・。

国際問題に素養も理解もなき民間の喝采を博せんとする外交ほど国家の前途に取って重大なる憂患はない

本日の東京新聞の「筆洗」。

幣原喜重郎のこの言葉を示したというだけで、大いに意味があります。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2012081202000088.html

・・・その外交政策を厳しく批判していた政治家がいた。政界を一時、引退していた幣原(しではら)喜重郎元首相は「国際問題に素養も理解もなき民間の喝采を博せんとする外交ほど国家の前途に取って重大なる憂患はない」と憂えた

今面前にある外交政策についてもまさにそうですが、他のいかなる分野についても、

●●問題に素養も理解もなき民間の喝采を博せんとする政策ほど国家の前途に取って重大なる憂患はない

というのは永遠の至言でしょう。

その永遠の至言が常に適用すべきことばかりが目白押しというのが、現在の哀しき現実であるわけですが・・・。

そういえば、権丈さんのところにこういう戯れ歌が・・・。

http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/

「選挙に勝つことだけ」が
何よりも大切だよ
「政策」の裏側にある「財源」に
眼を「背けて」
夢をみてよ どんな時でも
全てはそこから 始まるはずさ
「年金」と出逢ってから
いくつもの「選挙」を「勝ち続けた」 
はちきれるほど My 「議席」
「年金」一つだけで「政権与党」へ In The Sky
飛びまわれ この「マニフェスト」

権丈さんの採点は

史実をみごとに捉えているので、この学期は「歴史」科目A。。。

だそうです。

(追記)

http://b.hatena.ne.jp/entry/eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-0bda.html

lcwin 政治 北方領土や竹島や尖閣諸島の話だと素直にとぼけてみる 2012/08/12

いや、別にとぼけなくても上の記事は本来そういう話ですよ。

それこそ「国際問題に素養も理解も」ある自衛官出身の防衛相が

http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-120810X885.html

森本敏防衛相は10日午前の記者会見で、李明博韓国大統領の竹島訪問について「韓国の内政上の要請によるものという印象を持っている。他の国の内政にほかの国がとやかくコメントするのは控えるべきだ」との考えを明らかにした。

のに、あれこれ文句をつける「民間の喝采を博せんとする政策」の恐ろしさを、少しは頭を冷やして考えてみたらどうかということなんでしょうね。

つうか、一世代前の『諸君』とか『正論』って、そういう切れ味鋭いパワーポリティクスのリアリズム感覚が横溢していたと思うのですが、保守論壇の今の(よく言えば全共闘的純粋さに満ちた)ねとうよ的惨状って何とかならないもんでしょうかね。もうすぐ国を滅ぼすよな。

2012年8月11日 (土)

『ソ連の労働階級及び労働政策』より

まだソ連を社会主義の祖国と崇める人々が多かった時代に出版された本を、必要があって読んでいるのですが、

https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details.cgi?lang=0&amode=11&place=&bibid=2000523194&key=B134465618312457&start=1&srmode=0

ソロモン M.シュワルツ著 ; 松井七郎訳『ソ連の労働階級及び労働政策』(巖松堂書店)(1955年)

その中の、スターリン時代のエピソード:

8月30日にオレル地方のビルヤンスク地区人民裁判所の裁判官は、病気保養のために欠勤した者に有罪の判決を下し、被告を病院から監獄へ収容した。

被告ゾトヴアは出勤途中市街電車から振り落とされ両足を負傷した。彼女は職場に時間までに出頭し、自分の名前を書き留めて、工場の医局に行きたいと申し出た。・・・ゾトヴアが1時間欠勤したことに関する証拠を提出した工場管理者及びモスコウ市第11地区人民裁判所の裁判官は、上述の事実が取るに足りないことを発見した。人民裁判所は彼女に職場に於ける矯正労働4か月の判決を下した。

いうまでもなく、労働者のための国家だと自称しているからといって、そうである保証などこれっぽっちもないことは歴史が証明しているわけですが、別の形をして出てくると、やっぱり善男善女の皆さんはころりといかれてしまうというのもまた歴史の法則であるようです。

2012年8月10日 (金)

暑中読書『日本の雇用と労働法』

112483この暑さの中でも、拙著『日本の雇用と労働法』を読んでつぶやいている方がおられますね・・・。

http://twitter.com/venturingbeyond/status/233831080665436160

では、最近読了したものを何点か。濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』。各所のレビューにある通り、日本の雇用・労働政策を概観する良書。同著者の『新しい労働社会』(岩波新書)との併読をおすすめ。いろいろと勉強になりました。

http://twitter.com/suzuken/status/233879999441149953

濱口桂一郎「日本の雇用と労働法」を読んでる。半分くらい読んだけど、とても面白い。裁判所がこんなにメインプレイヤーになっているのかと驚いている

小野善康ゼミナール on 「さっさと不況を終わらせろ」

黒川滋さんが、峰崎直樹さんと一緒に小野善康さんを訪ねて、クルーグマンの「さっさと不況を終わらせろ」について検討してきた内容をブログに書いています。

http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2012/08/89-7e41.html(長期不況の経済学のおさらい)

峰崎さんの問いに小野さんが答えるというスタイルですが、

峰崎さんの疑問①グルークマンの主張する財政破綻や金利上昇はま​ったく心配する必要はないのか。
小野さん:金融が崩壊する可能性はある。そうなるとますます現金​所有願望は高くなり、景気は非常に悪くなる。

峰崎さんの疑問②日本への提言と読めるのか、それともアメリカと​EUだけか
小野さん:消費願望が著しく衰退している(60年代のテレビへの​あこがれの話になる)。金融政策で何とかしようとするのは、消費​欲求が高くない成熟社会では効果が少ない。中国やインドの不況へ​の対処法である。

峰崎さんの疑問③国土強靱化や国土減災という新たな公共事業は?
小野さん:何もしないより良いが、支出の質や効果としてはどうか​。
東北の罹災者の生産力が復活するような事業であれば問題ないが、​自己目的化した公共事業であれば、やめるときに縮む経済をどうす​るかという問題になる。これは小渕内閣の大盤振る舞いとその後の​小泉構造改革の弊害そのものだ。

峰崎さんの疑問④大不況の中で財政緊縮や増税を進めることは不況​を長引かせる愚の骨頂なのか。
小野さん:増税をできるだけ社会に必要な資源に振り分けていくこ​とが大切だ。財政再建のための増税をすると増税分は金融機関にま​わるが、長期不況のもとではそうした資金は実需にはまわらないの​で、デフレ不況を深刻化させる。また支出についても宇宙開発のよ​うな青い鳥の政策ではなく現実にボトルネックになっている問題に​使わないと効果が出ない。

峰崎さんの疑問⑤「流動性の罠」にはまっているのだからインフレ​期待を作り出すことが重要であるとの指摘について。
小野さん:インフレを作りたいとおもって作ることはできない。現​金がジャブジャブになっても消費する先がないのだから、景気は良​くならない。

などと問答をして、新自由主義の次に出てきて、民主党の増税反対​派を中心とした政治家にいいように利用されているリフレーション​派の間違いを説明していただきました。

そのあとの部分については、黒川さんが正確でなかったとして次のように書き換えておられますので、修正後の記述を改めて引用しておきます。

小野先生はバブルの真っ最中に、マネーサプライ​を追いかけていく研究のなかで、永続的なデフレ不況が起こると出てきたが、先生自身現実に起こるとは信じ切れず学問的可能性として学究の中での発表にとどめたそうです。
それと同じ感想を八田達夫先生も持っていつつも、「デフレなど近年になってからは現実には起こっていない」と指摘してくれたことに対し、「経済学者がうまくいっているときにいかなくなるって予​測するのは結構勇気のいることなんですよ」と小野先生はおっゃったそうです。
その後の展開は、小野先生が学界に留めたことと、八田先生の予測しつつもありえないと思ったことが実現する展開になっていったということでした。

(追記)

黒川さんのエントリに対するこれこそ失笑すべきコメント

http://twitter.com/yasudayasu_t/status/234188907850375168

[トンデモ][抜粋引用][ネタ]最後にリフレを全く理解していないのを吐露してて失笑。/ 「さっさと不況を終わらせろ」は金融政策一辺倒であったリフレーション派が雇用に着目して動き出したという点で注目されるべき部分はあるのかも知れません

それはまっとうな「リフレ派」が言うべき台詞。

労働社会政策をひたすら憎悪する「りふれは」にはまさしく適切な評語と言うべきでしょう。

こういうふうに、(まっとうなリフレ派に累が及ばないように)わざわざ「りふれは」とまっとうな「リフレ派」を分けてさしあげると、こんどは

http://anond.hatelabo.jp/20120716230730

『りふれは』として出してくる人がすごく限定的。『不当表示~』の方に到っては実質的に片手の指で足りる程しかいない。だったら「○○派」とか言わずに、その個人に対して批判をすれば事足りるはずなのに、そうはしない。

つまりは学問としてのリフレは支持してますよ、とかの物言いは単なる建前で、実際にはそれを含めたリフレを(おそらく実際にはそちらこそを)貶めたいというのが本心であろう。

姑息な建前を語る彼らに、まともな議論をするのに必要な誠実さは期待できない。

と非難されるのだから世話はない。

そういう社会政策憎悪派のたぐいの連中と一緒にされたいのか、されたくないのか、はっきりしやがれ。

2012年8月 9日 (木)

日本における労働社会が、世界のそれと比較されることで俯瞰的に見えてくる。

131039145988913400963久しぶりに、ほぼ3年前に出た『新しい労働社会』へのブクログ書評がアップされました。評者はsuicatrainさんです。

http://booklog.jp/users/suicatrain/archives/1/4004311942

日本における労働社会が、世界のそれと比較されることで俯瞰的に見えてくる。

良く目にする報道のように、残業にかかわる使用者・労働者の裁判を未払賃金の問題としてフォーカスすると、長時間にわたる(健康維持が難しくなる)労働時間という問題から視点がずらされてしまう。
確かに!

問題は、しかし、使用者だけでなく、労働者も長時間労働を容認していることにもあり。
民間企業に勤めていた際は残業に抵抗なかったしな…

理由として、もちろん残業代が得られる事もあるけど、やるべき仕事に時間を注ぎ込みたいという思いからもあり。

それからもし長時間労働の少数人員に替えて、短時間労働人員を多数にした場合、その企業の競争力ってどうなんだろう。

少数精鋭の方が情報伝達も管理もやりやすいし、仕事にたいする意識や情熱も共有しやすいように思う。
職種によるけど。

企業としての競争力が落ちたらそもそも人を雇うことすら出来なくならないか?

って考えてしまったけど、この考えがもう日本の経営陣の思想に毒されてるんだろうか。

yunusu2011さんの「りふれは」論

マシナリさんの最新エントリのコメント欄に、yunusu2011さんがとてもブリリアントな批評を書かれています。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-525.html#comment870(クルーグマン先生のこと)

リフレ派の代表的な論客の1人である、山形浩生氏が、クルーグマンの新著「さっさと不況を終わらせろ」を翻訳して、解説でいろいろ言い訳されているのが興味深い。クルーグマンは、本来ケインジアンであるから、金融政策のみで、経済が不況から脱するというような主張をするのが、本来おかしかった。あくまで、ポリシー・ミックスで、拡張的なマクロ経済政策(財政政策も含む)をいうのが、あたりまえのところだろう。
それが、日本不況脱出については、金融政策だけでなんとかなるようなことをいい、それをリフレ派がことさらにとりあげてきた。
それが混迷する日本の経済論壇の「失われた10年」のきっかけとなったのではないか?

アマゾンの書評で、リフレ派といわれる方々の本を何冊か書評させてもらったが、山形氏は割合良心的だからおいておいても、自分の主張のためには、歴史までねじまげてもかまわないぐらいの、学問に対する真摯さが足りない方々もいるのは明らかな事実だ。また、すぐに陰謀論に走りややすい人々であることも確認できた。

クルーグマンは、本来はアメリカのリベラル派なのだし、新著でも、不況における失業を大変心配している。
新著でケインジアンらしい主張が前面にでてきてほっとしたとともに、これまで、ノーベル賞受賞者クルーグマンの権威に悪乗りしてきたリフレ派の一部は真摯に反省すべきだ。
そういう意味で、とにかく金融政策だけでなんとかなるようなことをいってきた真摯さに欠けるリフレ派を、「りふれは」と揶揄することに、特段問題はないと思う。

やはり、物事を素直に見ることの出来る人であれば、自ずからそういう結論に導かれていくようです。

せっかくですので、yunusu2011さんのアマゾン書評を覗いてみると、

51thz8bl9tl__bo2204203200_pisitbsti5つ星のうち 2.0 ここにきて、普通のマクロ経済政策ですか?クルーグマン先生!

きわめてあたりまえの、マクロ経済政策を訴える、ノーベル賞経済学者の本。

クルーグマンは、過去に金融政策に過度に偏った政策が、日本の不況脱却に効果的と主張した。
その議論が、きわめて影響力をもったのは、財政政策にたよらず、金融政策だけで
なんとかなるという、いまにしてみれば、「幻想」を日本の経済論壇に与えたためだ。

ここにきて、財政政策の重要性と、財政政策と金融政策の協調による、いわばあたりまえの、教科書的な議論を繰り出してきた。
訳者の山形氏の翻訳はわかりやすいが、いくら解説で補足しても、なんだ、教科書的な普通の議論をいっているにすぎない。

アメリカみたいに、財政政策に否定的な知的風土では印象深い議論なのかもしれないが、日本のようなケインズ経済学的な議論がわりあい容認されているところでは、いまさらあたりまえの議論ですか、といいたくなる。

読んで損はないが、それでは、金融政策だけで、日本はデフレ脱出だったんではないですか、と、クルーグマンを熱狂的に支持してきた人々に問いたくなる、リフレ派の魔術から脱却する観点からは読んでも損はないかも

その他のyunusu2011さんのアマゾン書評は、ここで全部読めます。

http://www.amazon.co.jp/gp/cdp/member-reviews/A2WWIWRY31NC0O/ref=cm_pdp_rev_all?ie=UTF8&sort_by=MostRecentReview

(追記)

このyunusu2011さんのコメントに対するマシナリさんの応答が

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-525.html#comment872

クルーグマンの新著は未読なのですが、クルーグマンは1990年代から、日本と同程度に国民負担率が低いアメリカについても増税の必要性を指摘していましたし、労働組合が賃金などの労働条件を向上させることも主張していたはずですが、日本ではリフレ派と呼ばれる方々にそうした主張はほとんど受け入れられませんでしたね。私が拙ブログで述べていることはクルーグマンの主張に沿ったものだと考えているのですが、増税とか労働組合とかいうとリフレ派と呼ばれる方々は総じて批判的なところが日本の特殊的事情なのでしょうか。

と、「増税とか労働組合とかいうとリフレ派と呼ばれる方々は総じて批判的なところが日本の特殊的事情」と、日本の「リフレ派」を反クルーグマン的な反増税反労働組合主義者として描き出しているわけです。

「りふれは」という用語を使わなければ、誰であってもこういうマシナリさんの表現にならざるを得ませんね。常識的に言って。

しかしながら、これでは、そうでないまっとうなリフレ派が可哀想だと思って、わたくしはわざわざそうじゃない「りふれは」という有徴の表現をして差し上げているわけです。まっとうなリフレ派のための苦肉の表現なのですよ。

ところがそれがケシカランのだと、怒りまくる人々がいるんですな。これは結局、自分自身が反増税反労働組合主義のかたまりであるにもかかわらず、そうでないまっとうなリフレ派(非りふれは)とあたかも同志的結合を有しているかの如き印象を振りまきたいがゆえに、そこにひびを入らせかねないこの表現が不愉快極まるということなのでしょうね。

何遍も言いますが、わたくしはまっとうなリフレ派は「増税とか労働組合とかいうと」「総じて批判的」とは必ずしも考えていません。

しかし、まさにそれにどんぴしゃ当てはまるたぐいの人々は、たまたま「リフレ」という旗印を掲げているからと言って、なんら批判を免れるべき理由はありません。

厳密な表現をすれば「たまたま金融政策においてリフレを主張しているが、ミクロ政策においては徹底した公的サービスの削減と労働組合の敵視をひたすら追及する人々」というあまりにも長々しい表現を、「りふれは」という4文字でぴたりと過不足なく表現できるというのは、なかなか適切な修辞なのではないでしょうかね。

もっといい表現があれば是非教えていただきたいところです。

2012年8月 8日 (水)

労働法制も再起動へ

既にいやというほど(オリンピック情報に割って入って)流れているニュースですが、

http://mainichi.jp/select/news/20120809k0000m010063000c.html

野田佳彦首相は8日夜、自民党の谷垣禎一総裁と国会内で約40分間会談し、消費増税を柱とする税と社会保障の一体改革関連法案について「(民主、自民、公明の)3党合意を踏まえて早期に成立を期す。成立した暁には近いうちに国民に信を問う」ことで合意した。自民党は法案成立の条件として衆院解散・総選挙の確約を求めていたが、谷垣氏がこの合意を受け入れ、首相が政治生命を懸ける消費増税法案は10日に参院で可決、成立する見通しとなった。

これにより、昨日予定していた参議院での高齢法改正の審議が取りやめになるなどちょっと足踏みしていた労働法制もまた動き出すようです。

安全衛生法も(報道通りたばこの煙を薄めて)成立に向かうのでしょう。

成功した起業家が陥る‘ブラック企業’への道

労働調査会のHPに載っている「労働あ・ら・かると」に、日本人材紹介事業協会の岸健二さんが「成功した起業家が陥る‘ブラック企業’への道」というエッセイを書かれています。

http://www.chosakai.co.jp/alacarte/a12-07.html

・・・今年は、なぜか相談に応じた方々が皆「自分が勤めた企業はブラック企業なのではないか?」という疑問を抱いてのご相談でした。

・・・ご相談者の勤務先はいずれもここ10年20年で起業から急成長し、中には上場を果たした企業もあります。お話に共通するのは、創業者が経営陣として君臨しており、「創業時の起業家精神を忘れるな」と良く口にしているということです。もちろん企業を立ち上げ、発展させていく精神力をはじめとした様々な努力には、本当に心から敬意を表するものですが、困ってしまうのは、「創業時には、小さな賃借事務所に寝泊まりして、家には帰らず頑張ったものだ。(だから君たちもそのように働いて欲しい)」と言い、現実にそのように忠実に「滅私奉公」した急成長期からの社員を重用するので、経営幹部になった急成長期に「苦楽を共にした戦友」達も、同じことを新入社員たちに強要している体質があり、そこに何の疑問も抱かないことです。

いやあ、これはまさに、わたくしがブラック企業の一類型として提示した「強い個人型のガンバリズム」ですね。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/alter1207.html(日本型ブラック企業を発生させるメカニズム(『オルタ』2012年7-8月号 ))

強い個人型ガンバリズムが理想とする人間像は、ベンチャー企業の経営者だ。理想的な生き方としてそれが褒め称えられる。一方、ベンチャー企業の経営者の下にはメンバーシップも長期的な保障もあるはずもない労働者がいる。しかし、彼らにはその経営者の考えがそのまま投影される。保障がないまま、「強い個人がバリバリ生きていくのは正しいことなんだ。それを君は社長とともにがんばって実行しているんだ。さあがんばろうよ」と慫慂される。こうして、イデオロギー的には一見まったく逆に見えるものが同時に流れ込むかたちで、保障なきガンバリズムをもたらした。これが現在のブラック企業の最も典型的な姿になっているのではなかろうか。

こういうベンチャー型ブラック企業に対する岸さんの感想:

もしご相談者の勤務先の経営者の方とお会いできる機会があれば、「雇う側」と「雇われる側」には大きな立場の違い(労働基準法をはじめとするさまざまな労働法の適用の有無)と責任の種類の違い(ハードソフト両方の働く環境を整備する義務責任と、職務を忠実に行う義務責任)があることについてお話できたらなぁと、つくづく思います。

私もつくづく思いますが、しかしながら、、「雇う側」と「雇われる側」をごっちゃにするところに、ベンチャー企業や、とりわけそれを礼讃する低級マスコミの議論の特徴があるので、言ってもなかなか理解されないでしょうね。

また、人材からのご相談をお受けしていて思うのは、もう一つの「ブラック企業」の特徴として、経営陣に「経営に強大な権限を持つ一方、株主、雇った人びと、その企業の製造物や提供するサービスの利用者、延いては社会全体に対して重い責任も負っている」という根本的な責任の自覚がないということです。そして、責任は他人や組織内の弱者(名ばかり管理職など)に押し付けているという点がどうしても見えてきてしまうのです。

今回ご相談に応じた若い人材の方々の勤務先の経営者は、まるで自分の責任は全くなく、当事意識は全くなくて責任はすべて「現場管理職」にありとの言動をしたそうで、その管理職の訴えに聞く耳を持たなかったそうです。

この辺もいかにも、という感じです。

しかし、岸さんは最後に、そういう企業に入ってしまう学生さんたちにも厳しい目を向けます。

一方、新卒で就職活動をされる学生さんの中には、テレビ広告でよく見かける企業や、企業家精神にあこがれて応募入社される傾向も見て取れるのが事実でもあります。

マスコミによく登場し経営について弁舌さわやかな言辞を弄している経営者が経営している企業に於いて、一方では過労死や個別労働紛争が多発したりしていることもよく指摘されています。このような情報の公開を、どう実現していくかが事態の解決に役立つようには思いますが、皆さんいかがお考えでしょうか?

ほらほら、そこのシューカツ産業にいいように操られて「テレビ広告でよく見かける企業や、企業家精神にあこがれ」たり、「マスコミによく登場し経営について弁舌さわやかな言辞を弄している経営者」にあこがれたりしている、そこの無考えな学生さんたち。

こういう本当にあなた方のことを考えて言ってくれている言葉にきちんと耳を傾けましょうね。

あなたがいなかった方が世のため人のためであったはずと言いたくなる研究者、特に経済学者や政治学者

久しぶりの権丈節。

慶應義塾大学のパンフレットから、

http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/hangakuhankyo.pdf

これまで私は、研究者そのものが、問題の解決者というよりは問題の原因である事例を数多く目の当たりにしてきた。むしろ、あなたがいなかった方が世のため人のためであったはずと言いたくなる研究者、特に経済学者や政治学者がいかに多いことか。政策論という国民の生活に密着する研究領域の場合、間違えたら、たちどころに人々を不幸にしてしまう。後になって、間違えましたで済む話ではない。

かつて、福澤諭吉が、是非判断の分別がつかない者が政治経済を学ぶことを、「その危険は小児をして利刀を弄せしむるに異ならざるべし」と論じていた意味が、年を経るほどに分かるようになってきているのかもしれない。

ちなみに、このページには、法学部法律学科の女子学生が学部の壁を越えて「権丈先生に師事したい! という熱い想い」をほとばしらせています。

松尾匡さんの絶妙社会主義論

Test松尾匡さんから、松尾さんの「リスクと決定から社会主義を語る」という掛け合い漫才風の絶妙な社会主義論を含む社会主義理論学会編『資本主義の限界と社会主義』(時潮社)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.jichosha.jp/cl04/detail/470

松尾さん自身がご自分のHPのエッセイでこう紹介していますので、それを引用しますと、

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__120729.html

ここの最後の章がボクの章で、ベテラン「革命家」の「南天南八(なんてんなんぱち)」と、アイドルの女子大生「下原千恵(げばらちえ)」の掛け合いという形式で書きました。国営指令経済で特権と粛清が発生するのはなぜか、ソ連・東欧経済が私有資本主義になった理由、なぜコルホーズ制をとったか、労働者自主管理企業で内部資金で蓄積すると年功制や会員権方式を通じて変質すること、ユーゴ型自主管理経済がインフレで崩壊する必然などを説明したあと、決定とリスクと責任のバランスという観点から企業の主権のあり方を考察しています。
 背景には、ゲーム理論などの応用ミクロモデルがあるのですが、もちろん、まったく数式などは出さず、例によって主観的には一般向けにわかりやすく書いたつもりです。実はひとりよがりかもしれませんけど。参考文献案内もたくさんつけましたので、立ち入った勉強をしたいときにも役立ちます。

これが絶妙。どう絶妙かと言えば、引用し始めるときりがないので、もうとにかく本屋で立ち読みでも何でもしてね、としかいいようがない。社会主義の問題点とあり得る可能性を、ここまで分かりやすく軽妙に、しかもレベルを全然落とさずに書いたものはたぶんほかにないはず。

本当は「是非買ってね」と言ってもらいたいところでしょうけど、正直言って、ほかの論文は金を出して読むほどのものとはとても思えなくって、そこまではなかなか言えない。

はじめに 西川伸一
第1部 資本主義の行き詰まり
第1章 鎌倉孝夫「体制」変革の理論と実践
第2章 森本高央 証券化資本主義の破綻が招くドル基軸通貨体制の終焉
第3章 瀬戸岡紘 近代社会と市民にかんする一一般理論序説
一新しい社会主義像を構想する手がかりをもとめて

第2部 中国の経験を振り返る
第4章 大西 広 毛沢東、文化革命と文化の次元 
第5章 瀬戸 宏 戦後日本の中国研究
--日本現代中国学会を中心に

第3部 社会主義の新たな可能性
第6章 田上孝一 マルクス疎外論の射程
一新たな社会主義構想のためにー 
第7章 山崎耕一郎 労農派社会主義の原点と現在
--山川均論を中心に--
第8章 紅林 進 ベーシックインカムと資本主義、社会主義
第9章 松尾 匡 リスクと決定から社会主義を語る

おわりに 田上孝一
入会の呼びかけ・会則・論文集既刊・研究会の歩み・執筆者略歴

それでも理論編のところは、あんまり一般向けに面白いものじゃないけど、まあそれなりに読めるのかも知れないけれど、中国ネタの論文は正直、これのどこが「社会主義理論なの?」としか思えなかった。

あんなに立派だった八路軍が文革で悪になったというけれど、文革にも値打ちがあった、って、おいおい、文革の前に反右派闘争だの、大躍進だのっていろいろあったんですけど。

いやなにより、何で社会主義理論の本のはずなのに、「文化の次元が大事」だの、「早すぎた毛沢東」だのって観念論ばっかり出てきて、肝心の労働者のあり方が全然出てこないの?

その次のも、要するに現実をそのまま見ることの出来なかった左翼中国シンパの失敗の歴史なんじゃないの?

そんなのが「社会主義」なら、資本主義よりも百万倍も限界があるのは当然じゃないかと思う。

正直、こういうのが並んだ本を、「是非買ってね」というのはつらい。

うーむ、なんだか山形浩生氏の辛口批評みたいになってしまったけれど、松尾さんの掛け合い漫才論文は、絶対に読む値打ちがあるので、是非図書館に買ってもらいましょう。

2012年8月 7日 (火)

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評で『日本の雇用終了』

112050118労政時報の人事ポータル「jin-jour」の「人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評」で、和田泰明さんが『日本の雇用終了』について書評していただいています。

http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=57306

内容について簡単に解説していただいた上で、

ある意味、現行の労働法制の在り方に対する鋭い問題提起となっており、こうした法と社会の乖離の実態をどうすれば良いかについてはいろいろ議論があるかと思いますが、個人的に気になったのは、事案の半数近くが、被申請人(企業側)の不参加によりあっせん打ち切りとなっていることです。

労働審判と異なり、被申請人の参加が任意である以上やむを得ないのかもしれませんが、実質的なあっせんの手続きにすら入ろうとしない企業が多いのはなぜでしょうか(企業規模を問わず見られる傾向)。

個別紛争に費やす労務コストは大きいと思いますが、解決金の額は平均水準ではそれほど高額にはなっておらず、紛争を長引かせ労働審判や裁判に持ち込まれる(あるいはユニオンに駆け込まれる)よりは、企業側もあっせんの場を“積極利用”して早期に決着した方が、代理人を立てた場合の費用なども含め、トータルでは安くつくのではないかと思いました。

との感想を示され、最後に、

事例集であるため、(濱口氏の著書としては)とっつきやすく、企業側不参加の事案であっても事前に「回答書」を提出するなどしているケースが多いため、労働者側の主張しか分からないという事案はむしろ少数です。

労使とも「相互被害者意識」からのトラブルが多く、中には申請人がいわゆる「モンスター社員」ではないかと疑われるものもあります(こうした社員は企業規模に限らずどこにでも一定割合はいるのではないでしょうか)。そうしたことも含め、著者なりの分析も的確に織り込まれており、企業規模を問わずお薦めです。

とお勧めいただいております。

「いじめ」も民間ガー?

いや確かに大津の中学校も教育委員会もよろしくない。

熊沢誠さんも「怯懦と保身と事なかれ主義にとらわれた者たちが右往左往したこの暗鬱な事件」と激怒しているとおりです。

http://www.kumazawamakoto.com/essay/2012_july.html

そういう小役人根性の教育委員会が諸悪の根源だから潰してしまえという勇ましい正義の論も盛んです。

ところが、身分は公務員でもなく、教育委員会の管轄下にもない私立学校では、

http://mainichi.jp/select/news/20120807k0000m040093000c.html

同級生から、たばこの火を腕に押しつけられるなどしたとして、仙台市の私立高2年の男子生徒(16)が6日、傷害や暴行容疑で宮城県警仙台東署に被害届を提出、受理された。生徒は退学処分を宣告されたといい、「いじめた生徒と学校は事実を明らかにし、謝罪して」と訴えている。

・・・学校は「やけど痕を他の生徒に見せびらかし、動揺させた」などとして、退学処分を宣告。母親らが反論しても「意見は受け付けない」と答えた。県警に被害届を出したこの日、学校側は「もう一度、調査をする」と説明したという。

なるほど、さすが民間。「怯懦と保身と事なかれ主義にとらわれた者たちが右往左往」するなどというみじめなことはやらないのですね。堂々と、根性焼きされた側の被害者を退学処分にして「意見は受け付けない」。

これこそ、民間ガー諸氏が心の底から讃嘆すべき民間組織の誉れと言うべきでしょうか。

いや最後がちょっと小役人根性に近づいているようですが。

学校側は毎日新聞の取材に対し、「担当者が出張中で答えられない」としている。

2012年8月 6日 (月)

研究者だけでなく、多くの企業の人事担当者や労働者自身にも参考になるのではないのか

112050118_2「あーか」さんの『日本の雇用終了』への書評です。

http://shizumokei09.hamazo.tv/e3748052.html

まず驚いたのが、本書で取り上げられる事例の多さと中身キラキラ
従来は労働局のあっせんに関しては統計的な数しか公表されていないが
本書は、内部の職員しか知りえない実際の事例を基にしてる点でとても具体的キラキラ

取り上げられる事例も多く、カテゴリー別になっていて、また一部の事例にかんしては
考察もあり、非常に参考になるキラキラ
あとは解決金の金額等もね汗

これを読むと様々なケースがあり
こういう理由でやめたり、やめさせれるんだ~とある意味、面白いキラキラ

と評していただいた上で、

これは、研究者だけでなく、多くの企業の人事担当者や
労働者自身にも参考になるのではないのかと思うニコニコ

とお勧めいただいております。

太平電業・中部プラントサービス・中部電力(浜岡原発)労災事件判決

3月23日に静岡地裁が下した判決が裁判所HPにアップされています。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120806133945.pdf

これは、浜岡原発における重層請負関係のもとで起こったアスベスト曝露による死亡(労災認定済)について安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求めた事件ですが、

中部電力→中部プラントサービス→太平電業→野口工業→労働者

という4重請負関係の太平電業・中部プラントサービス・中部電力を全部被告にして訴えたのですね。

結論は、下請と孫請の太平電業・中部プラントサービスについては安全配慮義務を認めたのに対し、中部電力については認めませんでした。

問題はその理屈です。

被告太平電業は,作業現場に工事担当者を置いて野口工業の現場作業指揮者を指揮監督し,朝礼を主宰した。工事担当者は,野口工業の作業員に代わって実際に作業を行うこともあった(1(5)イ)。そうすると,被告太平電業は野口工業の従業員であった Dから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたと認められるから,安全配慮義務を負う。

被告中部プラントサービスは,実際の作業手順,作業スケジュールを記載した作業手順書及び作業工程表を作成し,これをもとに野口工業ら2次下請業者の現場作業指揮者が細かい施行方法を決定していた。
また,被告中部プラントサービスは,作業全般の調整業務を行う現場責任者と作業現場の監督をする現場監督者を選任していたところ,現場監督者はほぼ現場に常駐し,朝礼や現場での打合せに参加するほか,被告太平電業の工事担当者を通じて作業を監督した。
そして,被告中部プラントサービスは,工事要領書を作成していたところ,これには点検工事に当たって被告中部プラントサービスの現場監督者が留意し作業員に対して指導確認すべき重要管理項目等が詳細に記載されていた(1(5)イ)。
このような事情によれば,被告中部プラントサービスは現場監督者による被告太平電業の工事担当者に対する指示という形で間接に野口工業の従業員である Dを指揮監督しており,また必要があれば Dに直接指示を行うことも可能であったといえるから,請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたと認められるから,安全配慮義務を負う。

下請と孫請はひ孫請会社の労働者を指揮監督していたから、安全配慮義務を負うと。

ところが、

被告中部電力は,作業現場である浜岡原発の敷地・建物を所有・管理し,放射線管理の観点から作業員の出入り等を厳重にチェックしていた。また,作業員に対し防護服,工具の一部及び材料等を提供し,請負会社である被告中部プラントサービスに対し定期点検の実施要領である工事仕様書を渡していた(1(5)ア,イ)。
しかし,工事仕様書に記載される事項は概括的な事項にとどまっており(1(5)ア),社員を現場に常駐させていたわけではなく,進行状況については被告中部プラントサービスの現場監督者に対して適宜報告を求め,また品質管理の観点から重要項目について現場監督者に立会いを求めていたにとどまるものであるから(1(5)イ),野口工業の雇用していた Dから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたとは認められず,安全配慮義務を負うものではない。

中部電力はそこまでやらずに任せていたから、安全配慮義務はないと。

これは、起こったことの責任論からすればそういうことになるのでしょうけど、逆に浜岡原発という現場で働く全ての労働者の安全衛生を、誰がどのようにきちんと守るべきなのか、という観点からすれば、逆に中部電力は無責任じゃないか、という意見もあり得るでしょうね。

いや本事件はアスベストが問題になっていますが、いうまでもなくこれからこういう問題が山のように起こってくるのは、放射線曝露の問題であるわけですから。

「工事仕様書に記載される事項は概括的な事項にとどまっており・・・,社員を現場に常駐させていたわけではなく,進行状況については被告中部プラントサービスの現場監督者に対して適宜報告を求め,また品質管理の観点から重要項目について現場監督者に立会いを求めていたにとどまるものであるから」安全配慮義務はないというのは、いささかつらいものがあります。

世間はそんなものだということがよくわかります

112050118「しましま(偽)」さんのツイートで、『日本の雇用終了』に言及されていました。

http://twitter.com/shimashima35/status/232297908085616643

実は先週中に「日本の雇用終了」を読了していた。本当に淡々と事例が書かれていて、しかもかなりえぐい話もありやるせない気持ちになる。あれも「あっせん」事例なので、あっせんにまで行っていない事例はもっとあるだろう。そしてそれはもっとえぐいことになっている気がする。

http://twitter.com/shimashima35/status/232304316436840448

「日本の雇用終了」にも似たような事例はあるが、自分自身以前「労働基準法は守らなくてもよい」と断言する社長の下で働いたことがあるので世間はそんなものだということがよくわかります。

そうですね、アネクドータルなレベルでは実は誰でも「そんなこと知ってるよ」というようなことなのに、いざ経済学者と労働法学者がマジに議論すると、そんな実態はどこにもないような観念的な話が進んでしまうという奇妙な実態を何とかしたいというのが、こういう学術書の体裁をとった実態書を出す意味だと思っています。

ちなみに、労働法をどうするかという議論ではこういう実態論は姿を見せないのに、「公務員はケシカラン」の文脈で「民間ガー」になると、なぜか「絶対に解雇できないのが最大の問題点」だったはずの民間労働法が、「民間に倣ってさっさとクビにしろ」になるというアクロバット論法が平然と通用するのも、この落差の一つの表れと申せましょう。

欧州アジェンダに「ソーシャル」を取り戻せ@欧州労研

欧州労研(ETUI)のサイトに、「Putting the "social" back on the European agenda」(欧州アジェンダに「ソーシャル」を取り戻せ)という紹介記事が載っています。

一昨日紹介した若森みどりさんの『生活経済政策』の文章とも連なる話なので、紹介。

http://www.etui.org/News/Putting-the-social-back-on-the-European-agenda

その一節から、

First, the growing pressure for fiscal consolidation as a result of the financial crisis has made social policy lose weight on the political agenda. “Europe 2020 strategy’s reinforced emphasis on supply-side driven growth and new economic governance has a one-dimensional focus on fiscal policies, thereby limiting the chances of building a comprehensive social policy dimension”.

まず、金融危機の結果としての緊縮財政への高まる圧力が政治的アジェンダにおける社会政策の重みを失わせている。「欧州2020戦略の供給サイドが引っ張る成長と新たな経済的ガバナンスへの強調は、財政政策に一次元的な焦点を当て、包括的な社会政策次元を建設する機会を制約している」

しかし、こういうのを読むたびに、財政政策をめぐる論争が財政再建のための緊縮派対需要サイドに着目した社会政策拡大派というまっとうな対立軸で行われているヨーロッパがうらやましくなります。

何しろ、日本では土俵の上であたかも需要サイドの中心にいるような顔をして騒がしく吠えているのは、どちらもヨーロッパでは雑魚並みのコンクリート財政派と金融インフレ派ばっかりで、どちらも社会政策には異常な敵意を燃やす。一番肝心のはずの社会政策拡大派は、そういうトンデモ連中と距離を置こうとすると、なぜか緊縮財政派と呉越同舟を迫られるという不可思議。

こんな人にシンパ持たれているマシナリさんなどが可哀想だ

その当のマシナリさんのブログに紹介されて、こんな誹謗をされていたことを発見。

http://anond.hatelabo.jp/20120716230730(『りふれは』とか『扇動のための不当表示としての「リフレ派」 』とか言う人って)

つまりは学問としてのリフレは支持してますよ、とかの物言いは単なる建前で、実際にはそれを含めたリフレを(おそらく実際にはそちらこそを)貶めたいというのが本心であろう。

姑息な建前を語る彼らに、まともな議論をするのに必要な誠実さは期待できない。

・・・・・

もう完全に確信犯なんだな。どうしようもない、こういう芸風なのだろう。こんな人にシンパ持たれているマシナリさんなどが可哀想だ。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-525.html(制度とミクロな経済政策)

私自身、リフレーション政策を緩やかに支持する者として、hamachan先生はリフレーション政策そのものは批判していないと考えていますし、リフレーション政策以外で適切でない再分配政策を主張しているのでもないと考えていますので、私自身はhamachan先生にシンパを持っていただいていることに何の違和感も感じないんですけど何か?

むしろ、リフレーション政策を緩やかに支持する立場の私から見て、リフレーション政策以外の政策で適切ではない政策を主張していると見受けられる方はたくさんいますので、そのような主張をする方については、リフレ派であろうと何だろうと批判しなければならないと考えております。ところが、リフレーション政策を緩やかに支持していると明言しているにもかかわらず、一部のリフレ派と呼ばれる方を批判したことをもって、やれ「反リフレ派」だとか「デフレ派」と口を極めて罵られるのが現状ですね。

わたくしが繰り返し指摘している「りふれは」諸氏の「身内集団原理」(@松尾匡)ですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-fb61.html(身内集団原理のねおりべ、りふれは。開放個人主義原理の社会主義者・・・。)

・・・しかし、少なくとも知的活動に従事すると称する類の人間が、あからさまに身内集団原理を振りかざすというような事態は、どう贔屓目に見ても一個のスキャンダルでしかないと思われるのですが、まありふれは方面の方々には必ずしもそうではなさそうなところが恐ろしいところです。

そういう下劣なレベルを抜きに理論のレベルでいえば、マシナリさんのこれに尽きるわけですが、

なにやらミクロ的な経済政策についても「リフレ派」にはコンセンサスがあるようでして、「現物給付よりも現金給付の方が効率的」、「デフレ下で増税なんてけしからん! まずは減税すべき」、「小さな政府とか大きな政府なんて議論は意味がない。政府の活動を極力縮小して、再分配した個人の所得の範囲内で市場原理を働かせて効率化を進めればよい」という辺りがリフレーション政策とセットとして主張されることが多いと感じています。

リフレーション政策を緩やかに支持する者とすれば、上記のとおり、たとえば政府支出を通じた社会保障の現物給付の不要論やそれを供給する人員の削減、公務員人件費の削減、職業訓練などの積極的労働市場政策の不要論といった「ミクロの経済政策」については、流動性の供給を通じた適切な再分配を阻害する政策として個別に批判できると考えています。ところが、「リフレ派」と呼ばれる方の多くはそうは思っていなさそうでして、これが「リフレ派」と呼ばれる方々の「ミクロの経済政策」についての理解に根深い影響を与えているのではないかと思います。

そして、これをもう少し下世話な言い方に直すと、「鮟鱇」さんの

http://d.hatena.ne.jp/tonmanaangler/20120726/1343292077(息を吐くように陰謀論を唱える)

リフレ派の陰謀論体質が批判されていることは結構知られているところであるにもかかわらず、このようにナチュラルにプチ陰謀論が出てくるところが何とも。本人にその自覚はないんでしょうけどね。こうして自らリフレ派に陰謀論者が多いことを証明なさっている。

になるわけです。

1これだけだと、例によって例の如き「りふれは」批判の繰り返しなので、せっかくの機会にマシナリさんの雑誌寄稿記事を紹介しておきます。

http://www.nitchmo.biz/

海老原嗣生さんのところで出している『HRmics』13号に、マシナリさんも「公僕からの反論」という連載を開始しています。

地方公務員発!マスコミ、政治家、識者の無定見な絵空事を一蹴

リンク先で全文読めますので、是非。

2012年8月 5日 (日)

「消費者教育の推進に関する法律案」ってのを出すのなら・・・・

本田由紀さんのツイート経由で、

http://twitter.com/hahaguma/status/231714590663254017

中日新聞:大学でも消費者教育 今国会で法案を審議中:暮らし(CHUNICHI Web) 労働法教育もこれと同等以上に必要。

http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2012071902000172.html

若者の消費トラブル防止や生活設計力向上のため、中学高校や大学での消費者教育の推進を盛り込んだ「消費者教育の推進に関する法律案」が、今国会で審議されている。中高では、家庭科や公民の授業に組み込まれているテーマだが、大学での取り組みはこれから。普及に向けた動きと課題を探った。(小形佳奈)

専門家を講師に招き、新入生対象の必修科目に取り入れる大学も出てきている。筑波大は消費生活専門相談員が、大妻女子大では弁護士が、授業一コマ分を使い消費者被害の実例や契約の大切さを伝える。

日本学術会議は家政学分科会で、新たな教養教育科目「生活する力を育てる」に消費者教育を盛り込む準備を進めている。

若者の消費者教育を重視する背景には、インターネットや携帯電話の普及で、若い世代の消費者トラブルが増えていることがある。文部科学省は昨年三月、「大学等及び社会教育における消費者教育の指針」を作成。六月には法案が提出された。

<消費者教育の推進に関する法律案> 今国会に参院で議員提案され、6月20日に可決、現在衆院で審議中。消費者教育の重要性を掲げ、国や地方自治体の責務、消費者庁に消費者教育推進会議の設置、人材の育成-などとともに、学校での消費者教育の推進を盛り込んでいる。

その法案を見てみると、

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18002026.htm

消費者教育の推進に関する法律案

第一章 総則

 (目的)
第一条 この法律は、消費者教育が、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差等に起因する消費者被害を防止するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるようその自立を支援する上で重要であることに鑑み、消費者教育の機会が提供されることが消費者の権利であることを踏まえ、消費者教育に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他の消費者教育の推進に関し必要な事項を定めることにより、消費者教育を総合的かつ一体的に推進し、もって国民の消費生活の安定及び向上に寄与することを目的とする。

 (定義)
第二条 この法律において「消費者教育」とは、消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育(消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む。)及びこれに準ずる啓発活動をいう。
2 この法律において「消費者市民社会」とは、消費者が、個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会をいう。

 (基本理念)
第三条 消費者教育は、消費生活に関する知識を修得し、これを適切な行動に結び付けることができる実践的な能力が育まれることを旨として行われなければならない。
2 消費者教育は、消費者が消費者市民社会を構成する一員として主体的に消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与することができるよう、その育成を積極的に支援することを旨として行われなければならない。
3 消費者教育は、幼児期から高齢期までの各段階に応じて体系的に行われるとともに、年齢、障害の有無その他の消費者の特性に配慮した適切な方法で行われなければならない。
4 消費者教育は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場の特性に応じた適切な方法により、かつ、それぞれの場における消費者教育を推進する多様な主体の連携及び他の消費者政策(消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策をいう。第九条第二項第三号において同じ。)との有機的な連携を確保しつつ、効果的に行われなければならない。
5 消費者教育は、消費者の消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に与える影響に関する情報その他の多角的な視点に立った情報を提供することを旨として行われなければならない。
6 消費者教育は、災害その他非常の事態においても消費者が合理的に行動することができるよう、非常の事態における消費生活に関する知識と理解を深めることを旨として行われなければならない。
7 消費者教育に関する施策を講ずるに当たっては、環境教育、食育、国際理解教育その他の消費生活に関連する教育に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされなければならない。

 (国の責務)
第四条 国は、自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができる自立した消費者の育成が極めて重要であることに鑑み、前条の基本理念(以下この章において「基本理念」という。)にのっとり、消費者教育の推進に関する総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
2 内閣総理大臣及び文部科学大臣は、前項の施策が適切かつ効率的に策定され、及び実施されるよう、相互に又は関係行政機関の長との間の緊密な連携協力を図りつつ、それぞれの所掌に係る消費者教育の推進に関する施策を推進しなければならない。

 (地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、消費生活センター(消費者安全法(平成二十一年法律第五十号)第十条第三項に規定する消費生活センターをいう。第十三条第二項及び第二十条第一項において同じ。)、教育委員会その他の関係機関相互間の緊密な連携の下に、消費者教育の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の社会的、経済的状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (消費者団体の努力)
第六条 消費者団体は、基本理念にのっとり、消費者教育の推進のための自主的な活動に努めるとともに、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場において行われる消費者教育に協力するよう努めるものとする。

 (事業者及び事業者団体の努力)
第七条 事業者及び事業者団体は、事業者が商品及び役務を供給する立場において消費者の消費生活に密接に関係していることに鑑み、基本理念にのっとり、国及び地方公共団体が実施する消費者教育の推進に関する施策に協力するよう努めるとともに、消費者教育の推進のための自主的な活動に努めるものとする。

 (財政上の措置等)
第八条 政府は、消費者教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
2 地方公共団体は、消費者教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。

第三章 基本的施策
 (学校における消費者教育の推進)

第十一条 国及び地方公共団体は、幼児、児童及び生徒の発達段階に応じて、学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、大学及び高等専門学校を除く。第三項において同じ。)の授業その他の教育活動において適切かつ体系的な消費者教育の機会を確保するため、必要な施策を推進しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、教育職員に対する消費者教育に関する研修を充実するため、教育職員の職務の内容及び経験に応じ、必要な措置を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、学校において実践的な消費者教育が行われるよう、その内外を問わず、消費者教育に関する知識、経験等を有する人材の活用を推進するものとする。

 (大学等における消費者教育の推進)
第十二条 国及び地方公共団体は、大学等(学校教育法第一条に規定する大学及び高等専門学校並びに専修学校、各種学校その他の同条に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うものをいう。以下この条及び第十六条第二項において同じ。)において消費者教育が適切に行われるようにするため、大学等に対し、学生等の消費生活における被害を防止するための啓発その他の自主的な取組を行うよう促すものとする。
2 国及び地方公共団体は、大学等が行う前項の取組を促進するため、関係団体の協力を得つつ、学生等に対する援助に関する業務に従事する教職員に対し、研修の機会の確保、情報の提供その他の必要な措置を講じなければならない。

なるほど、消費者教育のためにはここまでやろうという国会議員がいっぱいいるのに、労働法教育にはそれだけの熱意はないのでしょうか。

まあ、あんまり中身のない法案で、法文中「消費者」というのを一括変換で「労働者」に置換したらそのまま別の法案になってしまいそうでもありますが。

労働者教育の推進に関する法律案

第一章 総則

 (目的)
第一条 この法律は、労働者教育が、労働者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差等に起因する労働者被害を防止するとともに、労働者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるようその自立を支援する上で重要であることに鑑み、労働者教育の機会が提供されることが労働者の権利であることを踏まえ、労働者教育に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他の労働者教育の推進に関し必要な事項を定めることにより、労働者教育を総合的かつ一体的に推進し、もって国民の労働生活の安定及び向上に寄与することを目的とする。

 (定義)
第二条 この法律において「労働者教育」とは、労働者の自立を支援するために行われる労働生活に関する教育(労働者が主体的に労働者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む。)及びこれに準ずる啓発活動をいう。
2 この法律において「労働者市民社会」とは、労働者が、個々の労働者の特性及び労働生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの労働生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会をいう。

 (基本理念)
第三条 労働者教育は、労働生活に関する知識を修得し、これを適切な行動に結び付けることができる実践的な能力が育まれることを旨として行われなければならない。
2 労働者教育は、労働者労働者市民社会を構成する一員として主体的に労働者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与することができるよう、その育成を積極的に支援することを旨として行われなければならない。
3 労働者教育は、幼児期から高齢期までの各段階に応じて体系的に行われるとともに、年齢、障害の有無その他の労働者の特性に配慮した適切な方法で行われなければならない。
4 労働者教育は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場の特性に応じた適切な方法により、かつ、それぞれの場における労働者教育を推進する多様な主体の連携及び他の労働者政策(労働者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策をいう。第九条第二項第三号において同じ。)との有機的な連携を確保しつつ、効果的に行われなければならない。
5 労働者教育は、労働者労働生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に与える影響に関する情報その他の多角的な視点に立った情報を提供することを旨として行われなければならない。
6 労働者教育は、災害その他非常の事態においても労働者が合理的に行動することができるよう、非常の事態における労働生活に関する知識と理解を深めることを旨として行われなければならない。
7 労働者教育に関する施策を講ずるに当たっては、環境教育、食育、国際理解教育その他の労働生活に関連する教育に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされなければならない。

 (国の責務)
第四条 国は、自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができる自立した労働者の育成が極めて重要であることに鑑み、前条の基本理念(以下この章において「基本理念」という。)にのっとり、労働者教育の推進に関する総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
2 内閣総理大臣及び厚生労働大臣は、前項の施策が適切かつ効率的に策定され、及び実施されるよう、相互に又は関係行政機関の長との間の緊密な連携協力を図りつつ、それぞれの所掌に係る労働者教育の推進に関する施策を推進しなければならない。

 (地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、労働生活センター(労働者安全法(平成二十一年法律第五十号)第十条第三項に規定する労働生活センターをいう。第十三条第二項及び第二十条第一項において同じ。)、教育委員会その他の関係機関相互間の緊密な連携の下に、労働者教育の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の社会的、経済的状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (労働者団体の努力)
第六条 労働者団体は、基本理念にのっとり、労働者教育の推進のための自主的な活動に努めるとともに、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場において行われる労働者教育に協力するよう努めるものとする。

 (事業者及び事業者団体の努力)
第七条 事業者及び事業者団体は、事業者が商品及び役務を供給する立場において労働者労働生活に密接に関係していることに鑑み、基本理念にのっとり、国及び地方公共団体が実施する労働者教育の推進に関する施策に協力するよう努めるとともに、労働者教育の推進のための自主的な活動に努めるものとする。

 (財政上の措置等)
第八条 政府は、労働者教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
2 地方公共団体は、労働者教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。

第三章 基本的施策

 (学校における労働者教育の推進)

第十一条 国及び地方公共団体は、幼児、児童及び生徒の発達段階に応じて、学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、大学及び高等専門学校を除く。第三項において同じ。)の授業その他の教育活動において適切かつ体系的な労働者教育の機会を確保するため、必要な施策を推進しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、教育職員に対する労働者教育に関する研修を充実するため、教育職員の職務の内容及び経験に応じ、必要な措置を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、学校において実践的な労働者教育が行われるよう、その内外を問わず、労働者教育に関する知識、経験等を有する人材の活用を推進するものとする。

 (大学等における労働者教育の推進)
第十二条 国及び地方公共団体は、大学等(学校教育法第一条に規定する大学及び高等専門学校並びに専修学校、各種学校その他の同条に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うものをいう。以下この条及び第十六条第二項において同じ。)において労働者教育が適切に行われるようにするため、大学等に対し、学生等の労働生活における被害を防止するための啓発その他の自主的な取組を行うよう促すものとする。
2 国及び地方公共団体は、大学等が行う前項の取組を促進するため、関係団体の協力を得つつ、学生等に対する援助に関する業務に従事する教職員に対し、研修の機会の確保、情報の提供その他の必要な措置を講じなければならない。

はは、まんまだ。

でも、そういう法案は提出しようという動きはないんですね。

「お客様は神さま」の日本にふさわしい光景と言うべきでしょうか。

(参考)

http://twitter.com/roubenshiomi/status/232068384676777985

どうせなら「お客様は神様」的思考がサービス産業の生産性を下げ労働者の所得低下を招くことも教育して欲しいものです

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-107c.html(スマイル0円が諸悪の根源)

・・・それを裏返すと、消費者天国の日本だから、「スマイル0円」の日本だから、サービスの生産性が異常なまでに低いのです。膨大なサービス労務の投入量に対して、異常なまでに低い価格付けしか社会的にされていないことが、この生産性の低さをもたらしているのです。

生産性を上げるには、もっと少ないサービス労務投入量に対して、もっと高額の料金を頂くようにするしかありません。ところが、そういう議論はとても少ないのですね。

2012年8月 4日 (土)

『Economist』誌のいささか低水準な記述

イギリスの定評ある週刊誌『Economist』誌に、「Politics in Japan Eyes right An unusual militancy is creeping into mainstream politics」(日本の政治 右傾化する主要政党 日本では珍しい好戦性が政治の主流に忍び込んでいる。)という記事が載っています。

http://www.economist.com/node/21559656

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35802(邦訳)

全体としては、

On the country’s populist fringe, firebrands such as the governor of Tokyo, Shintaro Ishihara, and the mayor of Osaka, Toru Hashimoto, are also stirring up the political agenda, engaging in China-baiting and union-bashing respectively. It is not clear, though, that they have the clout to go far on the national stage.

日本のポピュリストの一角では、石原慎太郎・東京都知事や橋下徹・大阪市長のような扇動的な政治家も政策問題を巻き起こし、前者は中国批判、後者は労働組合叩きを展開している。しかし、両氏が国政の舞台で大きな成果を上げるだけの影響力を持っているかどうかは不透明だ。

といった穏当な論調なのですが、次の一節はさすがにミスリーディングも甚だしいと言うべきでしょう。

Mr Noda, meanwhile, has also sought to move his beleaguered party firmly to the right. In June his fiscal conservatism prompted more than 50 left-leaning lawmakers to leave the DPJ. The government has jettisoned many of the pledges the DPJ made to the public in 2009, such as strengthening the social safety net.

一方で、野田首相も窮地に立つ民主党を大きく右寄りに移行させようとしてきた。この6月、首相が抱く財政保守の思想は、50人以上に上る左派議員の民主党離党を招いた。政府は社会的セーフティネット(安全網)の強化など、2009年に民主党が国民に約束した公約の多くを放棄した。

財務省サイドと社会保障サイドの綱引きなど一連の事態を細かく見ればいろいろとありますが、少なくとも、「税と社会保障の一体改革」を掲げて増税をしようとする側が「右派」で、増税を批判して飛び出したポピュリストたちが「左派」というのは、増税賛成が経済左派、増税反対が経済右派という、エコノミスト誌の本拠であるヨーロッパの常識感覚からいっても矛盾しているとは思わないのでしょうか。

日本のレベルの低いマスコミ報道の色づけをそのまま無批判に取り入れたからなのか、あるいは、もはやグローバル雑誌になったので、ヨーロッパの感覚は薄れたのか。いずれにしても、在欧中は必ず毎週読んでいた『Economist』誌とは思えないB級日本マスコミ的な記述でした。

「一般」部門と労働部門

「非国民通信」さんは、いくつかの点でかなり認識を共有しているように感じられるブログですが(もちろん、かなりの落差を感じるエントリも結構ありますが)、これは本ブログで繰り返し述べていることとほぼ同様のことを言っているとみていいでしょう。

http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/134f229674a6be54781f9a597c5656b5(「ブラック企業」の耐えられない軽さ)

少し前にも取り上げましたが(参考)、「ブラック企業大賞」なる企画がありまして、だからどうしたという規模の代物ではあるのですが、その「大賞」に東京電力が選ばれたそうです。なお随所に事実誤認の後が見え隠れするレイバーネットの認識では「第一回」とのことですけれど、2011年にも「ブラック企業大賞2010」という運営元を同じくする企画は存在しており、専ら労働問題ではなく環境問題、ただし科学的であるよりもノスタルジーや精神論の見地から「ブラック企業」を論おうとしていた痕跡が残っています(「いちばん わるいのは だれだ?」ですって!)。何をブラックと呼ぼうが勝手ではあるにせよ、とても労働問題に理解があるとは思えない(関心があるのは「悪者」探しとしか)人たちが、単に自分たちの気に入らない企業を「ブラック」と呼んで嘲笑している、そういう光景を見せられると「ブラック企業」という言葉が非常に軽く感じられる、単なる罵りの言葉へと凋落している感じがして、何だか嫌です。

という非国民さんの意見には基本的に同感ですが、リンクされている「ブラック企業大賞2010」を覗くと、「とても労働問題に理解があるとは思えない」というよりも、そもそも一昨年にはノミネート企業が「一般部門」と「労働部門」に分けられていたということを発見しました。

http://www.parc-jp.org/kenkyuu/2010/black.html(ブラック企業大賞2010)

そもそも労働部門に対して「一般部門」とはなんだ?労働問題ってのは、そんなに一般的じゃない特殊な世界の特殊な人々だけが関心を持つ特殊な問題なのですかね???と聞いてみたいところではありますが、まあそこはおいといて、一般部門というのをみると、

中国電力 祝島原発建設に強引に着手し、生物多様性条約国締結会議の場でも国際的に大きな非難を浴び実に多くの人から注目された

セニブラ 日本の製紙会社投資100%である同社は、ブラジルのユーカリ植林で小農民の土地を奪い、水資源を破壊、パルプ生産による有毒な廃液で住民の健康破壊、環境破壊。取材の日本人ジャーナリストへの嫌がらせも。

住友化学 再三の指摘にもかかわらず、ODAを使って危険な農薬蚊帳をアフリカに拡大。ラウンドアップ撒き過ぎによる“スーパー雑草対策”でモンサントと提携。カメムシ防除に最適とネオニコチノイド系農薬を売りまくる。

UR都市機構 住宅開発・販売会社の巨悪代表。自然環境を軽視する旧国家官僚の意識をそのまま残していること。地方公務員や自然保護団体をさげすむ態度も、いまや化石的に悪い。

三菱重工 軍産複合+原発。

伊藤ハム 対面販売惣菜への食品添加物表示を拒否したり、消費期限を表示しない一方で、閉店後に残った惣菜を持ち帰った従業員を退職勧奨(事実上の強強要)に追い込むといった行き過ぎた廃棄強要の実態がある、反サステナビリティ企業。

住友不動産㈱ セクハラ、パワハラ。忘年会で、席順のクジを引かされ、女性社員は男性社員の間に座わらされホステス役。社長は子会社から出向している女子社員を飲みに誘いセクハラ発言。夜の大運動会がリークされた時は犯人探しで反省なし。

セブン&アイ 地方の中小商店をつぶした上、不採算店は切り捨てるため買い物難民を生み出している。生産者からは大量注文して買い叩きを行い営農困難

日本原燃 大量のお金使って核のゴミ作って、しかも失敗。

武田薬品工業 藤沢・鎌倉に股がる住宅街に動物実験を含む研究施設。住民運動を受けて実験動物焼却の外注を決めたが、バイオハザードに対する住民の不安回避や動物を犠牲にしない代替法追求に対する主体性が全く認められず。

P&Gジャパン 40年以上もその強い環境毒性が指摘されているLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)を含む洗剤を、全く安全であるかのように売り続け、都市河川や里山の生態系を悉く破壊し続けてきた確信犯の責任は重大。

この方々が、どういうことを(労働問題などと言う特殊な世界じゃない)一般的な意味での「悪いこと」だと考えているかがよく分かります。

正直言うと、なんで「セクハラ、パワハラ」が労働問題じゃなくって「一般」問題なのかもよく分かりませんが、まあそういうことなんでしょう。

OECDの「Learning for Jobs」今秋翻訳刊行予定

上西充子さんがぽろりと、

http://twitter.com/mu0283/status/231673676129501184

↓ これ、行きたかったんだけれど、8日午前中までに終わらせるべき翻訳チェックが終わらないので、断念。清水さん、平塚さん、河添さん、いずれの方もナマでお話を伺ったことがないので、行ってみたかったのだが・・。

http://twitter.com/mu0283/status/231675033775374336

翻訳って、自分の言葉じゃないので、訳語がぶれたり、見直すごとに「なんでこんな訳し方したんだろう」と思うような箇所があったり、慣れていないので結構神経を使います。共訳だし(岩田先生と)。OECDのLearning for Jobs。秋ごろには出る・・はず・・。

上西さんが全国進路指導研究大会を断念して翻訳しているOECDの「Learning for Jobs」、拙監訳の『世界の若者と雇用』のあとがきでももうすぐ出るみたいなことを書きましたが、いよいよ今秋刊行のようです。

職業教育訓練についての先進国標準の考え方が、いかに日本の俗流の発想と違うか、是非読んで堪能していただければ、と。

精神障害者の雇用義務化と差別禁止法

昨日、障害者雇用関係の3つの研究会の報告書が同時に発表されました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002gyh3.html

厚生労働省は、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(平成22年6月29日閣議決定)などを踏まえ、障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方等について検討するため、「障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会」(座長:今野浩一郎 学習院大学経済学部経営学科教授)、「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」(座長:岩村正彦 東京大学大学院法学政治学研究科教授)および「地域の就労支援の在り方に関する研究会」(座長:松爲信雄 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部社会福祉学科教授)の3つの研究会を開催し、平成23年11月から議論を重ねてきました。
この度、この議論の結果として、各研究会の報告書が取りまとめられましたので、公表します。
なお、これらの報告書の内容は、今後、労働政策審議会(障害者雇用分科会)に報告して議論していきます。

その3つは、

「障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会報告書」 
障害者雇用促進法における障害者の範囲や雇用率制度における障害者の範囲等について検討し、雇用義務制度の考え方とその範囲などについて提言

「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会報告書」
労働・雇用分野における差別禁止等の枠組みの対象範囲等について検討し、障害を理由とする差別の禁止や職場における合理的配慮、権利擁護(紛争解決手続)などについて、実効性を担保した上で、講ずべき措置などについて提言

「地域の就労支援の在り方に関する研究会報告書」
今後の地域の就労支援の在り方について検討し、中小企業等が安心して障害者雇用に取り組むために求められる支援を明らかにするとともに、それを踏まえた、各就労支援機関等に求められる役割や地域の就労支援ネットワークに求められる取組、就労支援を担う人材の育成などについて提言

ですが、このうち法政策的に重要なはじめの2つについて特定のポイントに絞ってごく簡単に見ておきましょう。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002gyh3-att/2r9852000002gyx7.pdf「障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会報告書」 

精神障害者に対する企業の理解の進展や雇用促進のための助成金や就労支援機関における支援体制の強化等の支援策の充実など、精神障害者の雇用環境は改善され、義務化に向けた条件整備は着実に進展してきたと考えられることから、精神障害者を雇用義務の対象とすることが適当である

義務化の意味合いは非常に重く、企業の経営環境や企業総体としての納得感といった観点からは、実施時期については、精神障害者を雇用義務の対象とすることが適当であることを踏まえ、慎重に結論を出すことが求められる

つまり、精神障害者も雇用義務の対象とするが、実施時期は慎重に検討する、ということのようです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002gyh3-att/2r9852000002gyy9.pdf「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会報告書」

労働・雇用分野における障害者権利条約への対応は、障害者雇用促進法を改正して対応を図るべきである。

差別的取扱いを禁止することは、一般的には機会の均等を確保するものと考えられる。一方、障害者権利条約においては、積極的差別是正措置をとることが盛り込まれており、また、我が国における障害者雇用率制度は障害者雇用の確保に関し成果を上げてきていると評価できることから、積極的差別是正措置として位置づけ、引き続き残すべきである

合理的配慮の枠組みについて・・・法律では概念や枠組みを定め、具体的な中身についてはガイドラインなどで定めるべきである。

合理的配慮の提供に係る経済的な負担に対する支援に関しては、合理的配慮の提供が事業主に対する義務付けであることから、原則、個々の事業主により負担するものであると整理した上で、現行の納付金制度の大枠は変えない範囲で、合理的配慮の導入に伴い対応可能な部分についての見直しを図るべきである。

途中で読むのをやめてしまった。別に全部読まなくても・・・

112050118『日本の雇用終了』への書評です。

http://d.hatena.ne.jp/e-takeuchi/20120803/p2

全部は読んでいない。本書の9割近くを占めるのが、労働局にもちこまれた斡旋事例の記述である。類型化されてはいるものの、同じような話が延々と続く。しかも、解雇に至った経緯が明確に分かるものは少ない。労働者側があっせんを依頼しても、労働局には強制力がないので、企業側があっせんに応じないケースや途中で参加しなくなるケースがたくさんあるためだ。労働局によるあっせんにどんな存在価値があるのだろう。そんなわけで、事例については途中で読むのをやめてしまった。別に全部読まなくても、日本の中小企業では解雇規制なんてどこにも存在しないといえるほどだということは十分にわかる。解雇規制に限らず、終身雇用だの、年功賃金だの、いわゆる日本的雇用慣行は、中小企業には無縁だ。労基法だって守られているとは言いがたいのが現状。雇用の流動化を勧めるべきだとか、解雇規制を緩和しろとか主張する人は、この本のようなことを知っているのだろうか。

確かに仰るとおり、事例をいちいち読んでいるといいかげん読むのをやめたくなるでしょうね。

2012年8月 3日 (金)

若森みどり「劣化する新自由主義と民主主義の危機」@『生活経済政策』

Img_month生活経済政策研究所から『生活経済政策』8月号をお送りいただきました。

http://www.seikatsuken.or.jp/monthly/index.html

特集は「資本主義に未来はあるか」です。

ニーズ指向の経済への転換/八木紀一郎
非自発的雇用という日本経済の危機/高橋伸彰
金融危機と新自由主義経済学の危機/服部茂幸
資本主義の未来、あるいは脱資本主義への指向/田中史郎
劣化する新自由主義と民主主義の危機/若森みどり

このうち、ここでは若森みどりさんの「劣化する新自由主義と民主主義の危機」を紹介しておきたいと思います。

というのは、文中でわたくしがこの雑誌の今年4月号に書いた「『失敗した理念』の勝利の中で」のフレーズを絶妙に使っていただいているから、ということもあるのですが・・・。

・・・新自由主義以外の経済改革を思いつかない「政官財学報」(政界、官界、財界、学界、報道界の複合体)はいま、急進的な競争的市場経済の創出を容易にする「決断できる政治」を支持しているように見える。雇用や生活の不安の声に政治が応えるための「民主主義的手続き」が、市場経済の円滑な進行を阻害する「決断できない政治」として揶揄されている。

・・・リーマンショックに端を発する金融危機の嵐が吹き荒れた2008-2009年に世を覆っていたのは、強欲資本主義に対する批判であり、危機をもたらした新自由主義的改革に対する批判だったのに、「金融危機がソブリン危機に転化」したとたんに、「それまでの金融資本主義批判の雰囲気が一気に緊縮財政、公共サービス削減に転換」したのである。金融危機のもたらした市場の混乱に対応する過程で、多額の公的支出を行ったことが新自由主義の復活の最大の理由であるとすれば、それは奇妙な「逆転劇」である(濱口2012)。

・・・不安定化する金融市場、企業の競争力の低下、産業の空洞化、長引く不況、人的資本の劣化、そして何よりも若者の希望と雇用を提供できない資本主義の諸問題。これらを自らが作り出した「社会的危機」としていかに自己了解するかが、新自由主義に問われている。試練に晒されているのは新自由主義であり、現在進行しているのは新自由主義の危機なのである。

もう一つ興味深い記事は、吉田徹さんの「2012年フランス大統領選挙を振り返る—「否定形の政治」の行方」ですが、これについては、『労働調査』の松村文人さんの記事と併せて、改めて。

改正労働契約法 待遇改善へ大きく前進

産経新聞の労働契約法改正の記事に、わたくしが登場しています。

新聞に出るときはいつもそうなのですが、常用漢字表に従うということで、「濱口」が「浜口」になるんですね。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120803-00000112-san-bus_all(改正労働契約法 待遇改善へ大きく前進 5年を前に解雇…“抜け道”指摘も)

有期契約労働者の無期雇用への転換を促す改正労働契約法が3日、成立した。専門家は、これまで十分な規制がなかった有期契約労働者の待遇改善に向け大きく前進したと評価する一方、改正法の“抜け道”も指摘する。

従来は、1回の契約期間が原則3年以内という雇用期間の定めがあっても、契約を何度も更新することで事実上「常用」として使いながら、雇用者側の都合で契約を切ることができた。この「雇い止め」は「解雇」ではないため、「切りやすい」というのが最大の問題だった。

それが今回、同じ職場で5年を超えて働いた場合、本人の希望に応じて無期限の雇用に転換できるように改正された。

厚生労働省労働条件政策課の担当者は改正について、「有期から無期への転換を促すことで、正規・非正規の二極化の緩和や労働市場の安定化を図るのが狙い」と話す。労働政策研究・研修機構(東京)の浜口桂一郎研究員(労働法政策)は「これまで明確なルールがなく、雇用者側の都合で切られていたものが法制化されたことは非正規労働者対策として大きな前進だ」と評価する。一方で専門家の中には、5年を前に雇用者側が契約を打ち切り、無期雇用への転換から逃れるケースが相次ぐのではと懸念する声も上がっている。

浜口研究員は「今回の法改正には、有期契約を何度も繰り返した上で雇い止めした場合は解雇と同等にとらえて無効にするという最高裁判例が盛り込まれていることから、一定の歯止めがかかるのではないか」としている。

今日の昼前にかかってきた電話にお答えしたものが記事になっています。

安衛法改正案、衆院厚労委で審議入り 柱の「全面禁煙など」は"消煙"

というわけで、労働安全衛生法改正案も審議入りしたようですが、たばこのけむりはかなり薄くなったようです。

http://www.advance-news.co.jp/news/2012/08/post-551.html

職場での全面禁煙か、基準を満たした喫煙室設置による分煙を事業主に義務付けることが柱となっていた、労働安全衛生法改正案が衆院厚生労働委員会で審議入りした。昨年12月の臨時国会で小宮山洋子厚労相の肝煎りで提出され、今国会に継続審議となっていた法案。しかし、柱であったはずの「義務付け」は“消煙”し、「緩やかな努力義務」で成立する見込み。社会保障と税の一体改革の参院採決をめぐって国会情勢が緊迫度を増しているだけに、参院の出口(成立)に漕ぎ着けられるかは未知数だ。

政府の改正案は受動喫煙防止対策の一環だが、提出直後から関係業界団体や飲食店、ホテルなどから強い反発の声があがっていた。厚労相就任前からの小宮山氏の「信念」だったが、職場に全面禁煙か完全分煙を求める「義務規定を削除」して、事業者の事情に応じ適切な措置を講じる「努力義務」とする。つまり、実態としては全面禁煙、完全分煙は努力義務にもならず、当初の政府案の是非は別として、改正の趣旨は事実上、意味を持たないと言える。

とはいえ、もともと今回の改正案の中心はメンタルヘルス対策だったので、それに純化したということかも知れません。

柱の部分が大幅に後退することで、改正の中心はむしろ「メンタルヘルス対策の充実・強化」へと移る。「精神的健康の状況を把握するための検査等」という新たな項目で、①労働者に対し、医師または保健師による精神的健康の状況を把握するための検査を実施しなければならない、②検査を行った医師または保健師から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない、③検査の結果を通知された労働者が医師による面接指導を希望する旨を申し出たときは、当該面接指導を実施しなければならない、④面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講じなければならない――などが盛り込まれている。

こちらについての経緯などについては、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/mentalhealth.html(「メンタルヘルスの労働法政策」 『季刊労働法』232号)

今国会に提出され(てい)る労働安全衛生法改正案には、世間で注目度の高い職場における受動喫煙防止対策とともに、職場におけるメンタルヘルス対策が含まれています。今回の「労働法の立法学」では、この職場におけるメンタルヘルス問題について、過去の経緯や関連分野も含めて総括的な概観をした上で、立法プロセスにおける議論の揺れの姿を見ていきたいと思います。なお、この問題についてはかつて本誌208号(2005年春)でその時の労働安全衛生法改正案に絡めて、「過労死・過労自殺と個人情報」というテーマの下で取り上げており、同じような問題構造が繰り返し現れてきていることが分かります。

をご覧下さい。

2012年8月 2日 (木)

高齢法改正案の修正について

昨日衆議院厚労委で可決された高齢法改正案の修正ですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-25a6.html(衆院厚労委、高齢法の民自公修正案を可決)

3 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
4 第六条第三項及び第四項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。

もちろんまだ議事録は衆議院HPにアップされていないので、正確なやりとりは不明ですが、赤旗に共産党議員の質疑とそれに対する提案者の公明党議員の答弁の概略が載っているので、参考までに紹介しておきます。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-07-28/2012072802_02_1.html(新たな選別持ち込むな 高年齢者再雇用 高橋議員が追及)

高橋氏は、民主・自民・公明3党の修正案で継続雇用の指針に「心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等」の「取扱い」を加えたことについて、「障害者が差別され、うつ病などで休業している人が退職に追い込まれかねない」とただしました。

提案者の公明・古屋範子議員は「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合」と答弁。高橋氏は「解雇権乱用にならないか。日本経団連の意をくんだ新たな選別の手段になりかねない」と批判しました。

この答弁を見る限り、今年1月6日の建議にある

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001zl0e-att/2r9852000001zl45.pdf

その際、就業規則における解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する者について継続雇用の対象外とすることもできるとすることが適当である(この場合、客観的合理性・社会的相当性が求められると考えられる)。

また、基準廃止後の継続雇用制度の円滑な運用に資するよう、企業現場の取扱いについて労使双方にわかりやすく示すことが適当である。

とまったく同じ中身のようですので、「勤務態度」云々は、(現実の日本の多くの企業におけるフォークレイバーローでは態度が悪けりゃクビでしょうけど)日本の判例法理を前提とする限り、そう野放図に認められるような指針になることはなさそうです。

ちなみに、共産党議員の「障害者が差別され、うつ病などで休業している人が退職に追い込まれかねない」というのは、それはその通りですが、とはいえ現在の解雇権濫用法理においてもまさにそうなので、継続雇用じゃないときには解雇が認められるようなケースでも継続雇用の場合には定年退職を認めないという理屈はさすがに無理と言うべきでしょう。

こちらはこちらで、近年特に深刻な問題が続出しているところではありますが。

『「大量失業社会」の労働と家族生活 筑豊・大牟田150人のオーラルヒストリー』

101902 大月書店の角田三佳さんより、その編集担当された都留民子編著『「大量失業社会」の労働と家族生活 筑豊・大牟田150人のオーラルヒストリー』をお送りいただきました。ありがとうございます。これは結構読む値打ちのある本です。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b101902.html

構造改革、そして3.11以後、不安定雇用と失業が増大する日本。とりわけ地方では、就労と生活の厳しさがより激化している。その実像を大量失業地域150人の切実な語りから描き出し、貧困を根絶する社会保障制度の構築を訴える。

筑豊、大牟田、といえば、かつての産炭地であり、その後は各種失業対策事業の中心だった地域ですが、そこに働き、失業し、生活する老若男女たちのオーラルヒストリーは迫力があります。

やや似た企画としては、連合総研が行ったワーキングプアのケースレポートがありますが、

http://rengo-soken.or.jp/report_db/pub/detail.php?uid=208

こちらは筑豊、大牟田という地域に特化して、この地域の特性も浮かび上がらせています。

序章 社会的貧困の再発見のために(都留民子)

第1章 田川・大牟田地域の特徴(高林秀明・都留民子)
 第1節 地理的位置など
 第2節 産業・就業の推移
  1.炭鉱産業のスクラップ化と労働者の流動化
  2.炭鉱合理化・閉山後の産業政策――企業誘致策の失敗
  3.失業対策事業による地域開発
 第3節 地域住民の労働と生活
  1.人口の減少・高齢化,および世帯の縮小
  2.労働の状況――中心は第三次産業の中小零細企業の労働者
  3.大量の失業者――雇用では解決できない失業問題
 第4節 住民生活を支える社会制度
  1.雇用保険制度の現状――2割を切る失業給付受給者
  2.生活保護の現状――失業世帯には対処できていない
  3.社会保障としての失業対策事業――田川を中心に
  4.公共財としての公営住宅――ヨーロッパ「福祉国家」なみの田川

第2章 「労働」と「家族」のアイデンティティの研究方法(高林秀明・都留民子)
 第1節 調査の方法
 第2節 オーラルヒストリー分析の方法――状況・リアクション・アイデンティティ
 第3節 労働・家族生活からの類型

第3章 14人のオーラルヒストリー――人々はどのように生きているか(都留民子・堀木晶子・高林秀明・増淵千保美)
 第1節 男性たちのオーラルヒストリー
  1. つらい仕事も家族のために――「安定」グループの40代の運輸労働者
  2.朝8時半から翌朝4時まで,休みなしで2か月――「不安定」グループの30代の生活保護受給者性
  3.50歳になろうかっていうおじさんがですよ,親に頼る……――「不安定」グループの40代の求職者
  4.どうしよう……サラ金に手を出したら負けになる――「不安定」グループの50代の求職者
  5. 母ちゃんとの付き合いが一番楽しい……「不安定」グループの40代の求職者
  6.やはり,自分の努力不足……――「不安定」グループの40代の障害者
  7.知人の家に世話になって……――「不安定」グループの50代の元自営業
  8.仕事か労働運動か,今岐路に立っている――「不安定」グループの40代の労働組合活動家
 第2節 女性たちのオーラルヒストリー
  1.私が正規で働きつづけなければ生活はできない――「安定」グループの30代の正規職の母親
  2.自分の人生だから,自分で生きる!――「安定」グループの60代の元失業対策労働者
  3.今が一番幸せ!――「不安定」グループの30代の生活保護受給の母親
  4.まだ働けるから,生活保護はいや――「不安定」グループの母子世帯の母親
  5.同じ肝炎なのに,補償がないんです――「不安定」グループの50代の母親
  6.生活保護があって,よかった!――「不安定」グループのひとり暮らしの高齢者

第4章 「労働」と「家族」のアイデンティティ――8グループの特徴  (都留民子・堀木晶子・高林秀明・増淵千保美)
 第1節 アイデンティティのカテゴリー,そしてシェーマ
  1.「労働」のアイデンティティのカテゴリー
  2.「家族」のアイデンティティのカテゴリー
 第2節 現状はまぁ,満足……――男性の「安定」グループ
  1.「やりがい」と「家族のため」――60歳未満の男性
  2.「充足」と「生きがい」――60歳以上の男性
 第3節 生きのびる手段――男性の「不安定」グループ
  1.「個人的抵抗」と「失意」への傾斜,そして「家族の協力」――60歳未満の男性
  2.余儀なくされた「労働」と「引退」――60歳以上の男性
 第4節 落ち着いた生活―女性の「安定」グループ
  1.家族への「満足」,そして「働きたい」――60歳未満の女性
  2.労働者の集団的アイデンティティの保持――60歳以上の女性
 第5節 生活は苦しい―――女性の「不安定」グループ
  1.働くことは当たり前――60歳未満の女性
  2.集団的アイデンティティの持続,あるいは「とにかく働きたい」――60歳以上の女性

第5章 「労働」の限界・「家族」の限界,「社会化」されないニーズ(都留民子)
 第1節 「個人化」,そして中途半端な「社会化」のなかのアイデンティティ
  1.男性の「労働」と「家族」のアイデンティティ
  2.女性の「労働」と「家族」のアイデンティティ
 第2節 収奪を強める日本の社会保障制度――「医療」への憤慨
 第3節 社会保障制度による生活の「社会化」にむけて

補論 日本における稼働世帯の貧困と社会保障(唐鎌直義)
 第1節 貧困・格差の広がりとその深刻化 
  1.就業形態から見た貧困の実相――世帯業態別に見た稼動世帯の貧困 
  2.地域別に見た貧困の実相――地域別貧困率と保護率 
 第2節 社会保障の貧困除却機能の再構築を 
  1.雇用の劣化と社会保障の危機の本質 
  2.失業者の増大と劣化した雇用保険制度 
  3.社会保障財源をめぐる問題 

付表(唐鎌直義)
あとがき

なんといっても、個々のケースに迫力があります。どれも凄いのですが、たとえば、「朝8時半から翌朝4時まで,休みなしで2か月――「不安定」グループの30代の生活保護受給者」の野原さん。

・・・定時制高校を卒業したが、同期34人中卒業したのは、彼を含めて11人しかいなかった。・・・

卒業後の就職先は、高校時代からアルバイトで働いていたラーメン屋であった。最初は慣れた仕事なので不満はなかったが、経営者が代わると頻繁に朝8時から翌朝の午前4時まで働かされ、2か月間休みは全くなかった。給料は手取りで11万円だけだった。加えて、管理職は自分たちよりも10倍もボーナスが支給されるなど、不平等にも嫌気がさし、3年で辞職した。辞職前には、同僚たちと一緒に、「労働基準法を完全に無視」した勤務・残業代の不払いなどを労働基準監督署に訴えたが、タイムカードでの証拠がないとして、門前払いされた。

・・・ラーメン店を辞めてからは、2度の失業を経験したが、・・・ハローワークの求人に応えて就労し続けた。中小零細事業所の物流運搬・コンクリート工場・菓子製造・コンテナバッグ洗浄など職種は多種多様であるが、雇用形態は、試用の正社員・パート・派遣であり、時給で700~750円、月では額面15万~16万円程度である。

1事業所での就労期間は長くて9か月であったが、どの職場でも自分は長く続いた方だとの原さんは強調する。離職を繰り返したのは、同僚の間でいじめやケンカ・・・が絶えない職場に嫌気がさしたり、粉塵作業で自分で防具を用意せざるを得なかったり、事業主の自宅の左官仕事や飼い犬の散歩までさせられたりしたからである。また辞職だけではなく、仕事中に怪我をしたにもかかわらず、解雇されたときもある。・・・

体力と器用さをもって続けていた就労は、通勤途中の事故をきっかけに中断せざるを得なくなる。雪道をバイクで派遣先に向かう途中で、転倒して首を痛めたのである。この時は昼夜のダブル就業であった。派遣会社は、事故の報告も聞き流すだけだったので、野原さんは事故後は、新しい派遣会社に登録して工場で働き始めた。この就労が野原さんを働けない身体にしてしまった。派遣先の作業は、15~20キロのゴム袋=コンテナバッグの洗浄であった。袋内に付着している化学薬品など有害な粉末が目に入らないように、マスクや眼鏡を自分で用意するなど細心の注意をした。しかし1日600~900袋を手で持ち上げ、機械を操作して洗浄しなければならなかった。7か月後には、腕・右半身が動かなくなった。事故に起因する頸椎版ヘルニアと診断され、3か月間は自宅で寝たきり状態であった。

ちなみに、コンテナバッグ洗浄会社では、10数人の従業員中半分は派遣労働者だが、作業のきつさから。初めての人は作業中に放心状態になり、即退社したり、突然出社してこなくなったりしたらしい。

野原さんは一人暮らしだが、母親と兄弟は近所に住んでいる。兄弟は、ヘルニアで寝ている野原さんに、生活保護を勧め、生活保護の受給を助けてくれた運動団体を紹介している。今民間事業所でフォークリフトの職業訓練を受けているが、この職業訓練も兄が教えてくれた。

このケースに対する著者のコメント:

青年の雇用・失業問題を、学校生活での挫折・学校から労働市場への「移行期」の問題とみる主張もあるが、この論では、学卒から正規職に順調に移行・就職できた野原さんのケースは説明できない。移行期の問題ではなく、労働市場・求人の問題であり、放置されているブラック企業と劣悪な労働現場・労働環境こそを問題視しなければならない。個人への励ましや就労支援がいかに的外れな策であるかが分かる。・・・

全体的には、この言い方もやや行き過ぎと思いますが、少なくともこういう実態にも即して議論をする必要があることは確かでしょう。

2012年8月 1日 (水)

労働安全衛生法も動き出す?

労働契約法、高齢者雇用安定法と動いて、さてたばこがネックになってた労働安全衛生法ですが、今までの報道よりももう一段緩和した修正案で今国会通過を目指しているようです。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120730/plc12073022470014-n1.htm(全面禁煙努力義務を削除 民主が再修正案)

民主党は30日、受動喫煙防止対策として全面禁煙か分煙を全ての職場に義務づける労働安全衛生法改正案について、再修正案をまとめた。職場に全面禁煙か完全分煙を求めた義務規定を削除し、事業者の事情に応じ適切な措置を講じることを努力義務とした。全面禁煙、完全分煙は努力義務にもならない内容で、自民、公明両党と協議し今国会での成立を目指す。

国会提出法案では努力義務ではなく義務づけだったのですが、4月の報道では努力義務ということになり、今回それよりさらに緩和することになったようです。

労働相談から見える労働・福祉相談の課題@今野晴貴

Pic_research_010『社会福祉研究』114号が「貧困問題と社会福祉の対応状況」という特集を組んでいて、その中にPOSSE今野晴貴さんが「労働相談から見える労働・福祉相談の課題-相談活動に求められる<専門性>と<社会性>-」という文章を書いています。

http://www.kousaikai.or.jp/kousai/parts/pdf/fukushi.pdf

労働相談してたら、労働と福祉にまたがる事例がたくさん来て・・・、というはなしから、ソーシャルワークの下位概念としての労働相談という位置づけを提示します。

・・・例えば、労働組合はやはり「労働相談」の中心的な位置を占め続けるべきであるが、彼らはジェネラル・ソーシャルワークの視点に立ち、労働組合に加入して団体交渉を行う以外の方法、あるいは雇用関係を離れてしまったあとの社会福祉施策についても精通し、助言できる存在である必要がある。・・・


衆院厚労委、高齢法の民自公修正案を可決

アドバンスニュースによると、本日衆議院厚労委で高齢法の民自公修正案が可決されたそうです。

http://www.advance-news.co.jp/news/2012/08/post-548.html

衆院厚生労働委員会は1日、高年齢者雇用安定法改正案(高齢法)について、政府案と民自公の修正案を同時に審議を続行した。採決の結果、修正案を賛成多数で可決。衆院本会議を経て、今週中にも参院厚生労働委員会で審議入りする見込み。成立すれば、施行は来年4月1日となり、それまでに労働政策審議会を開いて「現実的かつ柔軟性」のある大臣指針などを定める。一般的に「現行の待遇のままの定年延長」といった誤解もあるが、重要なのは「65歳までのエスカレーター的な定年延長ではなく、労働者の希望に合わせた継続雇用の契約を現行法以上に促す」という点だ。

その可決された修正案は、これですね。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/9_52E6.htm

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案に対する修正案

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。
第六条第二項第二号の改正規定中「限る。)」を」の下に「削り、同項第三号中「、同条第二項」を「並びに同条第二項」に改め、「並びに第九条の事業主が講ずべき同条に規定する高年齢者雇用確保措置」を」を加える。
第九条第二項の改正規定の次に次のように加える。
第九条に次の二項を加える。
3 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
4 第六条第三項及び第四項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。
附則第一項に次のただし書を加える。
ただし、次項の規定は、公布の日から施行する。
附則第二項を附則第三項とし、附則第一項の次に次の一項を加える。
(準備行為)
2 この法律による改正後の第九条第三項に規定する指針の策定及びこれに関し必要な手続その他の行為は、この法律の施行前においても、同項及び同条第四項の規定の例により行うことができる。

「心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱い」を大臣指針で定めるという規定になったようです。

先週の日経の記事では「心身の健康状態や勤務態度が著しく悪い人を継続雇用の対象外とすることを指針で明示する」となっていましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-316c.html

さて、指針で「勤務態度」をどう書くのか、結構深刻な問題のような・・・。

これって、実は、皆さんどこまで気がついているかどうか分かりませんが、個別解雇事由(に相当するもの)を法令上に初めて明記することになるんですね。

労働契約法16条は「客観的に合理的、社会的に相当」という一般的基準を書いているだけで、具体的にどういうところにどういう問題があれば解雇が正当になりうるのか、を法令に具体的に書いたものは未だかつてないわけで、その意味でも、高齢法が労働契約法の伏兵になるという法則は、今回も作動しているようです。

そういえば、既に労働契約法(有期契約)は昨日参議院の委員会で可決され、本会議の議決を待つだけになっていますし、ここにきてものすごい勢いですね。

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