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2012年8月13日 (月)

登録型派遣はILO181号条約違反だって?

『労働新聞』ともあろうものが、やや軽率な記事を載せているようです。

8月13日号7面の「今週の視点」で、

改正労働者派遣法の成立とほぼ同時期のILO勧告に対し、日本政府はどういったことを報告するのか。「登録型派遣」は。日本が批准している条約に違反するとした勧告だが、改正原案にあった"原則禁止"を見送った国会状況の説明では足りないから、施行1年後をめどに論点を整理し、審議懐疑論を再開するとした附帯決議への理解を求めることになるのか。・・・

というリードの記事を載せているのですが、一体、労働新聞の記者は、世界中でILO181号条約を批准している多くの諸国で、登録型派遣がことごとく禁止されているとでも思っているのでしょうか。

近年の労働者派遣に関する国際的な記事や論文をちょっとでも囓っていれば、すぐにおかしいと分かるようなこんな記事が載るのは、いかに日本の派遣問題の議論が、ガラパゴス化しているかをよく示しています。

ILOの勧告(英文)はここにあるので、よく読んでからものを言った方がいいでしょう。

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_176588.pdf

The Committee notes that the complainant alleges that the Supreme Court decision in the Iyo Bank case violated the concept of “employment” provided for in Article 1(1)(b) of Convention No. 181, under which the private agency assumes the role of an employer.

委員会は、いよぎん事件における最高裁判決が派遣元が使用者としての役割を果たすという181号条約第1条(1)(b)に規定する「雇用」の概念に違反するという訴えを留意する。

The Committee further notes the complainant’s allegation that the judicial decision denied the temporary worker’s right to expect continued employment and failed to recognize the temporary work agency’s responsibilities as an employer, regardless of the duration of the employment relationship or the complaint of harassment.

委員会はさらに、当該判決が派遣労働者の継続雇用への期待権を否定し、雇用関係期間の長さやハラスメントの訴えにかかわらず派遣元の使用者としての責任を認め損なっているとの訴えを留意する。

読めば一目瞭然のように、世界中どこでも普通に行われている登録型派遣がILO条約違反だなどと馬鹿げたことは、ILO自身はもちろん、訴えた日本のユニオンも主張していません。そんな奇怪な議論が通用するのは日本だけだと言うことは分かっているからでしょう。

それに対して、ユニオンが訴え、ILOもなるほどと言っているのは、いよぎん事件という最高裁判決、というよりも、最高裁が無考えにそのまま認めてしまった馬鹿げた下級審判決なのです。

このいよぎん事件の高裁判決については、わたくしがかつて東大労判で評釈し、『ジュリスト』に載せたことがあるので、読んでいただければと思いますが、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/iyogin.html

・・・本判決は、派遣法の常用代替防止という立法目的が、派遣労働者の雇用の安定とは相反するものであるという前提に立脚して論を進め、「Xの雇用継続に対する期待は、派遣法の趣旨に照らして、合理性を有さず、保護すべきものとはいえない」と述べている。しかしながら、そもそも派遣法は派遣労働者の雇用の安定を重視するが故に派遣元の常用労働者のみである特定派遣事業とそうでない一般派遣事業の規制に格差を設けているのであり、派遣労働者の派遣元に対する雇用継続期待は法の予定する合理的な保護法益である。これに対して、常用代替防止とは派遣先の常用労働者との関係で問題になるものであり、派遣先に対する派遣就労継続期待は法の予定する合理的な保護法益ではないという意味に過ぎない。特定派遣事業においても、派遣先の常用代替防止という要件は当然にかかるのである。もちろん、登録型においては雇用契約の存在が派遣契約を前提とするものであるため、派遣元における雇用継続に対する期待は派遣契約のない場合にまで保護されるものではないが、それは派遣先における常用代替防止とはなんら関係のないことである。本来派遣元と派遣先の間の商取引契約の存在と派遣元と派遣労働者の間の雇用契約の存在は別次元のものであり、前者の終了が後者の終了を自動的に正当化するわけではない。・・・

派遣法は常用代替防止が立法目的だから、派遣労働者には非派遣労働者には当然認められる雇用継続の期待すら認められないのだ、などという馬鹿げた判決を、これまた最高裁が何も考えずにそのまま認めたので、そんな派遣労働者を特別に差別することを目的とするような法はILO条約に沿っているとは言い難いですねえ、という反応が返ってくるのは当然でしょう。

そういうまっとうな訴えとまっとうな反応を、日本のガラパゴス状態をいいことに、「「登録型派遣」は。日本が批准している条約に違反するとした勧告」などという捏造もいいところの報道をするのは、『労働新聞』として如何なものかと思いますよ。

(追記)

こういうことをきちんと指摘できる論者が私くらいしかいないというところに、日本の絶望的なガラパゴス状況が浮き彫りになっているわけです。派遣業界の味方みたいな顔をしてしゃしゃり出てくる誰かさんたちは、こういう話ではILOに莫迦言うな、と言われるようなことばかり言うものだから、結局日本の中でしか通用しない。

そういう莫迦を使うな、と何遍言っても、味方が欲しいものだからすぐ使いたがるわけですがね。

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コメント

ま~労働新聞さんにはもっとしっかりしてほしいものですが、ただ引用の判決文、何か当らずとも遠からず的な部分はあるような。
つまり、労働者派遣法の条文を読むと、確かにセーシャインさんのハケン代替を防止する目的は明文規定されていないのですが、実際、「派遣期間」や「特定派遣」と「一般派遣」の規定ぶり。さらに「専門26業務」の規定(と下記↓行政解釈)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000048f3-img/2r985200000048gl.pdf …。

これらを見ると、判決文が言う(趣旨の)ように…“派遣法の立法目的は常用代替防止(=正社員の保護)だから派遣労働者の雇用安定とは両立しない”…だから…Xの雇用継続に対する期待利益は法律上無い”・・・となるのでしょうね。

尤も、裁判官が、(派遣法は労働者差別法だから…)と、派遣法の立法者にケンカを売っているという理解も出来なくもない??(と言う妄想…)。

いや、訴えたユニオンの人たちの主張は、まさにそういうものなわけです。いよぎん判決のような解釈を日本政府が採るのなら、そんな法律は条約違反だというもの。そこから、だから登録型派遣は全部条約違反だなどと言うのはぶっ飛びすぎですが、上の限りではまあ理屈が立たないわけでもない。

実を言えば、日本の四半世紀前の派遣法は、派遣労働者の保護などカケラも考えずに、もっぱら派遣先の常用労働者が代替されないようにということばかりを金科玉条にして作った法律なので、この判決はその精神に則っていると言えないことはないし、その意味ではユニオンのILOへの主張は、(自分たちの派遣制度全体への主張とは実は矛盾しますが)それなりにもっともな面もあるのですね。

この辺、『ジュリスト』10月号の座談会ではかなり喋っていますので、乞うご期待です。


「いよぎん事件最高裁判決今井功反対意見」読みました。
他の3人の裁判官は、上告受理要件で、少なくとも「事実誤認」又は「単なる法令違反」だと民訴法312条2項6号後段…には該当しないと言っているんですね。同条で言う「~理由の食い違い」には、事実誤認と法令違反は含まれない、とな!。

『ジュリスト』10月号、読んでみます。

今日、座談録原稿の私の発言部分に修正を入れて有斐閣に送ったところです。
あと1ヶ月半で刊行されますのでお楽しみに。

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