だから、「日々紹介」とは実態は「登録派遣」なんだが・・・
水谷さんの「シジフォス」に、「労働新聞」7月16日号の興味深い記事が引用されているので、紹介かたがた・・。
http://53317837.at.webry.info/201207/article_17.html(日々雇用でない配膳人の紹介手数料が違法とされた)
栃木県内のホテル経営会社が、配ぜん人を紹介した有料職業紹介会社に対し、「初回を除いてあっせん行為が行われた事実はない」として過去9年間の求人受付手数料および紹介手数料合計約1,000万円の返還を求めた裁判で、宇都宮地方裁判所大田原支部が、原告の主張を全面的に認める判決を下した、との報道などは、実に「画期的」な判決なのだが理解いただけるだろうか。裁判所は「配ぜん人は紹介会社の主張する『日々雇用』ではなく期間の定めのない雇用である」と判示したのだ。
「労働新聞」の記事自体はリンク先をお読みいただきたいのですが、これを見て、拙著『新しい労働社会』をお読みいただいた方は、「はあぁ、あれか」と思われたことと思います。
そうです。この日雇い型紹介という法形式は、まだ派遣法が存在せず、職業安定法により労働者供給事業が労働組合を除いて全て禁止されていた時代に、まごうことなき労働者供給事業を有料職業紹介事業でございますと称してできたものなんですね。だから、日々紹介と言いながら、本当は毎日紹介していなかったわけで。
臨時日雇い型有料職業紹介事業
もう一つ、実態として極めて登録型派遣事業に近いのが、家政婦、マネキン、配膳人といった臨時日雇い型の有料職業紹介事業です。これらにおいても、求職者は有料職業紹介所に登録し、臨時日雇い的に求人があるつど就労し、終わるとまた登録状態に戻って、次の紹介を待ちます。ところが、こちらは職業紹介という法的構成を取っているため、就労のつど紹介先が雇い入れてフルに使用者になります。実態が登録型派遣事業と同様であるのに、法的構成は全く逆の方向を向いているのです。これは、占領下の政策に原因があります。
もともと、これらの職種は戦前は労務供給事業で行われていました。ただし、港湾荷役や建設作業のような労働ボス支配ではなく、同職組合的な性格が強かったと思われます。ところが、これらも職業安定法の労働者供給事業全面禁止のあおりを受けて、弊害はないにもかかわらず禁止されてしまいました。一部には、労務供給業者が労働組合になって供給事業を行うケースもありました(看護婦の労働組合の労働者供給事業など)が、労働組合でなくてもこの事業を認めるために、逆に職業紹介事業という法的仮構をとったのです。
しかしながら、これも事業の実態に必ずしもそぐわない法的構成を押しつけたという点では、登録型派遣事業と似たところがあります。最近の浜野マネキン紹介所事件(東京地裁2008年9月9日)に見られるように、「紹介所」といいながら、紹介所がマネキンを雇用して店舗に派遣したというケースも見られます。マネキンの紹介もマネキンの派遣も、法律構成上はまったく異なるものでありながら、社会的実態としては何ら変わりがないのです。その社会的実態とは労働者供給事業に他なりません。
このように、登録型労働者派遣事業、労働組合の労働者供給事業、臨時日雇型有料職業紹介事業を横に並べて考えると、社会的実態として同じ事業に対して異なる法的構成と異なる法規制がなされていることの奇妙さが浮かび上がってきます。そのうち特に重要なのは、事業の運営コストをどうやってまかなうかという点です。臨時日雇い型有料紹介事業では法令で手数料の上限を定めています。労働組合の労働者供給事業は法律上は「無料」とされていますが、組合費を払う組合員のみが供給されるわけですから、実質的には組合費の形で実費を徴収していることになります。これと同じビジネスモデルである登録型派遣事業では、派遣料と派遣労働者の賃金の差額、いわゆる派遣マージンがこれに当たります。正確に言えば、法定社会保険料など労働者供給事業や有料職業紹介事業では供給先や紹介先が負担すべき部分は賃金に属し、それ以外の部分が純粋のマージンというべきでしょう。この結果明らかになるのは、派遣会社は営利企業であるにもかかわらず、臨時日雇い型紹介事業と異なり、その実質的に手数料に相当する部分について何ら規制がないということです。派遣元が使用者であるという法律構成だけでそれを説明しきれるのでしょうか。
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