東京電力はどういう理由でブラック企業なのか?
「ブラック企業大賞2012」なる催しが進められているようですが、その「ノミネート企業10社とノミネート内容」というのを見て、正直大変違和感を感じました。
http://blackcorpaward.blogspot.jp/
この会社についてのこの記述です。
10. 東京電力 株式会社
2011年3月11日、東日本大震災の後に発生した福島第一原発事故により、広範囲にわたる放射能汚染を引き起こした。その収束に向けての対応、また避難者・被害者への保障についても、2012年7月現在も不十分といわざるを得ず、日本全体の社会、経済に多大な被害を与え続けている。また農地や海、川や山という自然環境そのものの放射能汚染は、今後数100年、数万年にも及ぶため、人類・自然環境への影響は計り知れない。
私が理解するところ、今日「ブラック企業」という問題意識は、もっぱらその使用者としての労働者との関係性における歪みに着目したものだと考えてきたのですが、この記述からすると必ずしもそうではないようです。
しかし、こういう意味での「ブラック」さ(そういう用語法があり得ることまでを全否定する気はありませんが)を交えてしまうと、そもそも労働問題に着目した「ブラック企業」を問題にした問題意識そのものがぼやけてしまうのではないかと、いささか鼻白んでしまうところもあります。
実をいえば、少なくともその直接雇用する正社員との関係でいえば、東京電力の労働者の賃金水準を下げろ下げろと、ブラックな要求をしているのは「消費者」の錦の御旗を掲げる側なのであり、そういうブラックな要求の感情的根拠となっているのが上述のような東京電力のブラックさなのであってみれば、この大賞に上述のような理由を持って東京電力をノミネートすること自体が、その企業の労働者の労働条件を引き下げるために使われるというまことにブラックな事態となるわけですが、その皮肉をどこまで意識されているのかな?と。
公平を期するためにいえば、ノミネート理由にはそのあとこういう記述も続きます。
労働という視点では、同社は原発稼働・点検のために多数の労働者を必要としているが、その多くは正社員ではなく、派遣・日雇い労働者によるもので、5次・6次にわたる多重請負の構造がある。その中では、被曝に関する安全管理や教育も不十分であり、また使い捨てともいえる雇用状態が続いている。これら総合的な観点から、今回のノミネートに至った。
とはいえ、それならなぜ「東京電力」だけをノミネートするのか理解しにくいところがあります。まあ、「これら総合的な観点」というのは、やはり上記の「原発事故をおこしやがって」というのがもっとも中心的なのでしょう。
だとすると、やはりこのブラック企業大賞2012というイベントのそもそもの性格が一体何なのか、労働関係に大きな問題がある企業を糾弾したいのか、大きな事故を起こした企業を糾弾したいのか、そのあたりが依然不分明といわざるを得ません。
(追記)
危惧していた方向に進んでいるようです。
http://www.j-cast.com/2012/07/12139246.html?p=all(ブラック企業大賞は「ワタミ」か「東電」か 実行委がWEB投票実施中!)
WEB投票は7月27日まで。その翌28日に「受賞式」を行う。7月12日現在、大賞に最も近いのは「ワタミ」の5701票で、全体の58%を占めている。次いで東京電力の2620票(27%)、すき家350票(4%)、ウェザーニューズ212票(2%)、富士通SSL207票(2%)と続いている。
この東京電力に投票した2620人(27%)の方々が、原発事故とは無関係に、もっぱらその労働環境の劣悪さに着目してそうしたとはなかなか想定しがたいところですし、その結果を見た人がそれを原発事故ととは独立の問題として受け取るということも極めて考えがたいことからすると、まさに、「こんな許し難いブラック企業の東京電力の社員の給料はもっともっと引き下げろ!!!」というまことに正義感に充ち満ちた「民意」をますます増幅する結果となる可能性が否定しがたいところですね。
少なくとも、あれだけ話題になった(と思っていたのですが、そうじゃなかったようです)すき屋がわずか4%で、それでも3位なんですから、労働問題はどこかに逝ってしまうことだけは間違いないようです。ワタミさんは露出過剰の社長さんの有名税としか思われないでしょうし。
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7月9日から「ブラック企業大賞2012」が開始され、要項と今年のノミネート企業が発表された。「ワタミ」「ウエザーニューズ」「すき家(ゼンショー)」「SHOP99(現ローソンストア100)」「すかいらーく」「フォーカスシステムズ」「陸援隊・ハーヴェスト・ホールディングス」「丸八真綿」「富士通SSL」「東京電力」の10社であり、労働法を守らなかったり、過労死事件を出したり、労働組合を敵視したりした「実績」のある企業とされている。いわばブラックジョークの類として、何ら気にしていなかったのだが、騒...... [続きを読む]
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リンク先を拝見しましたが、
7,8もどちらかというと、労働的なブラックというより犯罪企業的なブラックという意味合いが強いです。
著者はノミネートの選考基準がブレているように感じます。
投稿: tester | 2012年7月13日 (金) 07時49分
ブラック企業大賞企画委員会メンバーの佐々木亮氏がつぶやいてらしてます。
http://twitter.com/ssk_ryo/status/223781920616628225
http://twitter.com/ssk_ryo/status/223782929833271297
http://twitter.com/ssk_ryo/status/223783553085870080
投稿: 日之人 | 2012年7月14日 (土) 12時00分
東電以外のノミネート企業についても論評いただけると嬉しいです。納得感のある選定なのか?とか、実際にはもっとふさわしい企業があるのではないか?とか。
>東京電力の労働者の賃金水準を下げろ下げろと、ブラックな要求
現場作業員と東電の社員をごっちゃにしてはダメでしょう。現場作業員の待遇を切り下げろというという要求ならばブラックな要求と言えるでしょうけど、あくまで社員に向けられたものなので。社員の高待遇も現場作業員の低待遇も独占企業なるがゆえでしょうか。
投稿: くまさん | 2012年7月15日 (日) 09時13分
「非国民通信」さんがブラック企業大賞について辛口のコメントをしているので、引用しておきます。
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/b69218a5e2b02fad78b20b98c84e49ea">http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/b69218a5e2b02fad78b20b98c84e49ea
投稿: hamachan | 2012年7月15日 (日) 13時30分
ルパン三世のマモーの正体。それはプロテリアル安来工場で開発されたSLD-MAGICという高性能特殊鋼と関係している。ゴエモンが最近グリーン新斬鉄剣と称してハイテン製のボディーの自動車をフルスピードでバッサリ切り刻んで、またつまらぬものを斬ってしまったと定番のセリフ言いまくっているようだ。話をもとにもどそう、ものづくりの人工知能の解析などを通じて得た摩耗の正体は、リカバリー性も考慮された炭素結晶の競合モデル/CCSCモデルとして各学協会で講演されているようだ.
投稿: サムライ・マルテンサイト | 2023年9月 2日 (土) 15時40分