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2012年7月21日 (土)

水島治郎『反転する福祉国家―― オランダモデルの光と影 ――』

0244660水島治郎『反転する福祉国家―― オランダモデルの光と影 ――』(岩波書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-024466

「オランダモデル」と言われる雇用・福祉改革が進展し,「寛容」な国として知られてきたオランダ.しかし,そこでは移民・外国人の「排除」の動きも急速に進行している.この対極的に見えるような現実の背後にどのような論理が潜んでいるのか.激動の欧州を読み解き日本社会への示唆を得る.

表紙はいわずと知れたレンブラントの「夜警」ですが、そのモチーフである「光と影」が、本書全体を貫く基軸になっています。

「光」とはもちろん、ワーク・ライフ・バランスやフレキシキュリティを促進する雇用・福祉改革のモデルとしてのオランダ、そして「影」は移民に対する排外主義が進むオランダです。

第1章でオランダ政治構造の簡単な概説をした上で、第2章は「光」を、第3章は「影」を描き出します。

第一章 光と影の舞台――オランダ型福祉国家の形成と中間団体
第一節 現代政治の歴史的文脈
1 「身軽な国家」オランダの成立/2 一九世紀後半――自由主義と宗派勢力の対抗/3 二〇世紀――「柱」社会と中道キリスト教民主主義政党の優位

第二節 オランダにおける「保守主義型福祉国家」の成立
1 「保守主義型福祉国家」とは/2 大陸型福祉国家の特徴/3 オランダにおける福祉国家の形成/4 民間団体主体の福祉

第三節 中間団体政治の形成と展開
1 中間団体をめぐる歴史的背景/2 中間団体の包摂――マクロレベル/3 中間団体の包摂――メゾレベル/4 中間団体批判/5 紫連合政権の成立/6 審議会制度の改革/7 開かれたガバナンスの模索

第二章 オランダモデルの光――新たな雇用・福祉国家モデルの生成
第一節 大陸型福祉国家の隘路
1 ワークシェアリングを越えて/2 大陸型福祉国家の特徴と限界/3 大陸型福祉国家の構造的問題

第二節 福祉国家改革の開始 
1 ワセナール協定へ/2 ルベルス政権下の改革/3 第一次コック政権――分権的制度の改革/4 第二次コック政権――「給付所得より就労を」/5 労使の排除と抵抗/6 バルケネンデ政権下の就労強化政策/7 改革の政治的背景

第三節 パートタイム社会オランダ
1 就労形態の多様化/2 雇用格差と非正規労働/3 非典型労働の「正規化」/4 オランダのパートタイム労働――歴史的展開/5 パートタイム保護を取り巻く制度的枠組み/6 多様な休暇制度/7 日蘭比較からみたワーク・ライフ・バランス/8 フレキシキュリティへの対応

第四節 ポスト近代社会の到来とオランダモデル
1 ポスト保守主義型福祉国家へ?/2 「女性のフルタイム就労」への厳しい視線/3 オランダのパートタイム論争/4 脱工業社会における競争戦略

第三章 オランダモデルの影――「不寛容なリベラル」というパラドクス
第一節 移民問題とフォルタイン
1 ポピュリズムの台頭/2 オランダにおける移民/3 フォルタイン党躍進の文脈/4 フォルタインの登場とイスラム批判/5 二〇〇二年選挙に臨むフォルタイン/6 政治戦略としてのポピュリズム

第二節 フォルタイン党の躍進とフォルタイン殺害 
1 「すみよいオランダ」の結党/2 フォルタインの登場/3 「すみよいロッテルダム」の設立とフォルタイン擁立/4 「すみよいオランダ」との決裂とフォルタイン党結成/5 「すみよいロッテルダム」の圧勝/6 フォルタイン党の展開/7 フォルタインの死と総選挙/8 中道右派連立政権の成立/9 フォルタイン現象の衝撃

第三節 バルケネンデ政権と政策転換
1 バルケネンデ政権の八年/2 キリスト教民主主義政党の「自己革新」とバルケネンデ/3 移民政策の転換/4 移民の「選別」の開始/5 社会文化政策

第四節 ファン・ゴッホ殺害事件――テオ・ファン・ゴッホとヒルシ・アリ
1 映画『サブミッション』/2 モハメド・ブエリ――移民二世の青年の急進化/3 「ソーシャル・パフォーマンス」としてのファン・ゴッホ殺害

第五節 ウィルデルス自由党の躍進
1 ウィルデルスの登場/2 ウィルデルスのイスラム批判/3 EU憲法条約否決/4 ヨーロッパ統合とオランダ/5 自由党の設立/6 リュテ政権の成立と自由党の閣外協力

いろんな人々によって既に紹介されている第2章の「光」よりも、第3章で紹介される「影」はいろんな意味で面白いです。例えば、あのリベラルな排外主義者フォルタインの政治経路も、国政進出の直前、オランダ第2の都市ロッテルダムで圧倒的勝利をおさめていたとか。

しかし、なんと言っても本書の最骨頂は、第4章の考察にあります。

第四章 光と影の交差――反転する福祉国家
第一節 福祉国家改革と移民
1 「移民政治」の顕在化と福祉国家/2 「参加」型社会への転換/3「参加」と義務・「責任」の重視/4 福祉国家の変質と移民/5 オランダにおける「シティズンシップの共有」

第二節 脱工業社会における言語・文化とシティズンシップ
1 脱工業社会における「参加」の様相/2 脱工業社会における「非物質的価値」/3 新しい「能力」観――「ポスト近代型能力」の浮上/4 「言語によるコミュニケーション」と「能力」/5 言語・文化の再浮上/6 参加・包摂・排除/7 新たな光と影の交差のなかで

ここで述べられているのは、世界が賞賛するオランダの「光」こそが「影」を産み出している最大の要因なのだ、というまことに皮肉な話であり、そしてそれは程度の差はあれ、どの先進国でも共通の現象、云うまでもなくこの日本も含めて・・・、という冷徹な認識なのです。

少し引用しておきましょう。

・・・そうだとすれば、実は第2章で見た福祉国家の「先進的な」再編の論理の中に、第3章で見たような。移民や難民を「外部者」として排除する仕組みが出現しているのではないか、「モデル」として賞賛される「包摂」の論理の中に、「排除」を正当化するメカニズムが組み込まれているのではないか。

誤解を解くためにあらかじめ云っておくと、これは福祉国家のネーション的性格という半世紀前からの議論のことではありません。労働市場や社会生活への「参加」を強調する近年の福祉国家の「現代化」のもつ性格を論じているのです。

水島さんはこの「全員参加型」福祉社会の背後にある現象を、脱工業化による労働の非物質化、サービス化と考え、そこで求められるコミュニケーション能力、ポスト近代型能力への要求が、包摂と排除を産み出すのだというのです。

・・・一方では、雇用・福祉改革のキーコンセプトに「参加」を据え、硬軟取り混ぜた政策手段を用いて就労を徹底して促進することで、より多くの人々を労働市場へと「包摂」し、福祉国家の「持続可能性」を高めていく。そして、ワーク・ライフ・バランスを可能とする労働環境を整えることで、高度な「能力」を持つ創造経済を支える人材を惹き付けていく。他方では、言語や文化・価値観を共有しない(それゆえにコミュニケーションの「能力」が低いとされる)ために、就労を通じた労働市場への「参加」もしないまま社会統合の妨げになることが見込まれる「他者」、具体的には非先進国出身者に対しては、最初から厳しいハードルを課し、事実上排除の対象にする。いわば「参加」を軸とした包摂と排除の両面を通じて、ポスト近代社会の競争戦略が推進されてきたのではないか。

「排除」と「包摂」は、実はコインの裏表の関係にあったのである。

ちなみに、本書の参考文献には、拙著とともに、本ブログ自体も並べられています。こういう「参考文献」って、初めて見ました。

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コメント

それこそ日本では、経済の高度サービス化によって「コミュニケーション能力」のない知的・精神・発達障害者を「内なる異人」、いや外国人通り越して宇宙人かのように排除してきてるんだよなぁ…。ラッダイト運動かなんかでもして経済を巻き戻して再び第二次産業社会にするくらいしか手はないのだろうか…

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» 福祉で保護される「国民」の範囲とはどこまでか?:反転する福祉国家――オランダモデルの光と影 [本読みの記録]
反転する福祉国家――オランダモデルの光と影作者: 水島 治郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2012/07/19メディア: 単行本 右派の人も、左派の人も必読の一冊。 日本が将来的に米国型社会(自由主義・小さな政府)の道をとらないなら、おそらくオランダに代表される大陸西欧型の福祉国家になるしか無い。 (国の規模や過去の歴史から考えて、北欧型の社会は難しい。) そうした時にどんな世の中になって、どんな問題が起こるのか。 本書で示されたオランダの姿は、日本の将来像としての一つのモデルケース... [続きを読む]

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