上西さんの授業でハロワの解説後篇プラス
先日の
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-0156.html(上西さんの授業でハロワの解説)
の続きを、引き続き上西さんのツイートからトゲ
ハロワ26:同じ業界にどのような企業があるかを知るには業界団体のHPを見るといい。企業HPからリンクしている場合もあるし、「食品」「業界団体」などと検索しても見つかる。業界団体傘下の企業の求人情報を調べる。また、業界団体自身がHPで求人している場合も。
POSSE1:この春に入社した新入社員からも既に数十件の相談がPOSSEに寄せられている。パワハラ、長時間労働、サービス残業など。うつ状態に追い込まれる新入社員もいる。労働基準局やハローワークで相手にしてもらえなくてPOSSEに来ているケースも。
POSSE2:悪質な求人の例としては80時間の時間外労働を組み込んだ額を初任給のように提示していたケースがある。時間外労働が80時間に満たない場合の最低支給額は123,000円。(大庄店員過労死事件
ハロワ27:ハロワ求人でトラブルがあればハロワにぜひ相談してほしい。ハロワ以外の求人で東京であれば「東京都ろうどう110番」で相談に応じている
ハロワ28:相談の際は具体的な記録がある方がいい。給与明細書や、何月何日に何時から何時まで残業した、どの上司からどういう言動があった、などのメモなど。手帳につけた記録でも大丈夫。
ハロワ29:問題のある求人は受付時にチェックしている。特に新卒求人は丁寧にチェックしている。ただし、問題があると特定が難しい求人もある。裁判で負けるなど、明らかに問題がある企業の求人は受付を拒むことができるが、それ以外の場合は対応が難しい。
ハロワ30:退職を勧められてもすぐに退職願いを書かないことが大切。自己都合退職と解雇では失業給付を受け取れる期間、受け取れる額に大きな違いがある。とにかく書類はその場で書かずに持ち帰って専門家に相談すること。
総括1:というわけで、ハロワの求人も信頼度100%ではないものの、問題がある場合は相談に応じる体制はある、また、問題がある場合には記録をつけて相談に来てほしい、という感じで話はおしまい。
総括2:おそらくPOSSEの話を聞くだけだと学生は「働くって怖い・・嫌だ・・」となる。ハロワの話を聞くだけだと聞き流してしまう。
総括3:働かせ方に問題がある企業もある、その中でどう求人情報を読み解くか、という姿勢を持つにはPOSSEとハロワ、双方にいていただいた今回の企画は良かったと考えています。
総括4:学生の当日レポートには、「就活は自分ひとりだけでするものと思っていたが相談することが大切」「焦って求人票を軽視しないよう気をつけたい」「情報の量より、どれだけ自分が疑問をもてるか、おかしいなと思えるかのほうが大切」
総括5:「情報を正しく理解し、また自分がよく学習することで相手に『いいように使われない』ことの大切さを再確認」「情報を分析する時には、労働に関する知識が不可欠となるので、労働時間、休暇制度などの知識をきちんと持っていることの重要性を改めて感じた」などの感想。
総括6:他方で「現職で仕事を続けたいという気持ちで労働条件を改善していくにはどうすればよいのか」「職場内での残業やパワハラ等に関する悩みは・・結局は自分自身がどこまで我慢できるかにかかると思う」という記述も。
総括7:今回は組合の役割には踏み込めなかったので、後期の授業には組合の方に来ていただこうと思います(翌週授業ではそういう場合こそ組合が・・と短くフォロー)。ご協力いただいたハロワ職員さん、POSSEスタッフさん、ありがとうございました。
ということで、大変ためになる授業だったようです。
なお、昨日大学院にやはりPOSSEの川村さんを呼んで話をさせたようで、そのトゲもついでに、
今日はPOSSE事務局長の川村遼平さんを大学院の授業にお迎えして、若者雇用の現状と課題、高校・大学における労働法教育へのPOSSEの関わり、などについてお伺いしました。3時間、密度の濃い内容をお伺いしたのですが、若干だけ紹介。
川村さんの暫定的な定義によればブラック企業とは「(正社員で募集をかけ)長期雇用を匂わせているにもかかわらず、労務管理や雇用条件などが原因で多くの人にとって長年勤めることができない企業や法人」。日本型雇用が内包していたブラックな面が全面化されたのがブラック企業。
正社員が「長年勤めることができない企業」は企業として存続できないのでは、という見方もあるが、川村さんによれば外食、小売、アパレルでは業務がマニュアル化されていて正社員がクリエイティビティを発揮する余地がなく、非正規が大半でも回せる職場があり、
そういう企業では正社員が数年で入れ替わっても企業として存続しえてしまう、とのこと。そのため自浄作用が働きにくく、そういう企業が市場から淘汰されにくい。だから若者自身が声を上げることが大切である、とのこと。
またPOSSEが高校・大学などで話をする際には、「4つの合言葉」を伝えるそうです。(1)会社の言うことがすべてではない。(2)あきらめない自分を責めない。(3)「おかしい」「つらい」と思ったら専門家に相談しよう。(4)証拠・記録を残そう。
(1)会社の言うことがすべてではない: たとえば選択肢は2つだ、給与の引き下げを了承するか、辞めるか、どちらかを選べと言われても、会社側の言い分にとらわれる必要はない。「どちらも嫌だ」はアリ。
(2)あきらめない自分を責めない: 自分に反省すべき点があるとしても、それと会社の違法行為は別問題。自分を責めても問題は解決しない。
(3)「おかしい」「つらい」と思ったら専門家に相談しよう: 若者の権利意識は総じて希薄。「違法かどうかわからないことで相談に来てすいません」という場合もたいていは、明らかに違法。どう違法かはわからなくていい。「おかしい」と思ったらまず相談。病名がわからなくても医者に行くのと同じ。
(4)証拠・記録を残そう: 契約書、求人票は保管しておこう。労働時間は記録しておこう。パワハラはできれば録音、無理なら記録を残しておこう。
POSSE1:90年代から個人加盟のコミュニティ・ユニオンが各地にできたが、強い権利意識を持ち、会社と争う姿勢を持つ人しか行きにくいという問題があった。
POSSE2:POSSEでは「NO!」と言えない若者たちを前提にSOSの声を上げられる環境づくりとして電話・メールによる労働相談を行っている。労働相談の内容は会社を訴えたいといったものではなく「どうやったら辞められるか」といったものが多い。
POSSE3:労働相談で事情を聞く中で会社側の問題点を指摘していく。その上で、会社と争う場合、争わない場合、それぞれで取りうる選択肢を提示する。会社と争わない場合は取りうる選択肢は少ない。我慢しようとする人も多いが我慢しても解決には至らない。
POSSE4:そのため、会社側の問題点の「意識化」を通じて、SOSから「NO!」へと相談の水準を上げていくように努めている。これまでの労働相談の蓄積から、「あなたの相談は全然特殊な事例じゃない」ことを伝える。
POSSE5:そして、「全然特殊な事例じゃないけれど、ここにたどり着く人は少数」だと伝える。「自分が我慢すればいい」と考えている人が「ここでNO!と声を上げることは、他の人のためにもなりそう」と考えるようになると頑張れるようになる。
POSSE6:また会社とは争わないが、メディアに向けた取材には協力するという人もいる。POSSEが連携している大阪青年ユニオンなどは、ニコニコ生放送で労働相談を行うなど、自分が会社と争わなくても活躍できる居場所がある。
POSSE7:悪質な企業の中には「鬱病にしたら勝ち」と考えている企業がある。欝病になると休むことが第一となり、会社と争うことができにくい。そのため、会社側から見ると訴えられるリスクを潰せる。
POSSE8:そのような現状の中でPOSSEは、欝になる前のアウトリーチに努めている。また、欝にした会社の責任を問うていくようにしている。
POSSE9:労働相談は最初は電話かメール。その後、事務所に来られる人には来てもらう。会社と争う場合には日本労働弁護団http://roudou-bengodan.org 所属の弁護士に協力してもらっている。
POSSE10:「準社員」という人たちがいる。正社員にならないと生きられない家計自立型非正規の人たちが「準社員」に引き寄せられてきている。待遇は非正規並みで、義務だけ正社員並み。この人たちからの過労の相談が増えてきている。
POSSE11:彼らは正社員になれることへの期待が弱い(なれなくてもしょうがないと考えがち)。そのため、「義務だけ正社員」で過労に追い込まれていてもそれが問題だと意識化されず、相談に来ないところで問題が蓄積されている可能性が高い。
POSSE12:勤務地や業務内容など、働き方については会社に白紙委任、残業も断れない、その代わりに年功賃金と長期雇用が保証されていた、というのが従来の日本型雇用。ブラック企業では頑張って働き続けても年功賃金・長期雇用という見返りがない。
POSSE13:この問題を解決していくためには無限の指揮命令にいかに「限定」をかけるかが課題。特に労働時間の規制が重要。現在、過労死防止法の制定に向けた署名活動が進められている<この基本法の制定から労働時間の上限規制につなげていきたい。
POSSE14:またメンバーシップ型の雇用をジョブ型の雇用に移行させていくことも重要。ブラック企業で無限定な働き方・長時間労働を強いられないためには、失業給付を現在よりも受け取りやすくする(現在は自己都合退職の場合は3か月間受給できない)ことも必要。
POSSE15:労働組合の第一義的意義は労働力の価格統制。しかし、メンバーシップ型の雇用を前提とした日本の企業別組合は労働力の価格の決め方・労働時間・失業給付の在り方への関与を放棄し、賃金交渉に重点を置いてきた。
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参考になった!自分の勤め先はおそらく大丈夫だと思いますが、御用になる時は読み返そうと思います。
投稿: | 2012年7月15日 (日) 17時49分