フォト
2025年6月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« 労働組合は政治の婢ではない | トップページ | 「一体改革」はなぜ支持を広げないか@宮本太郎 »

2012年7月 9日 (月)

OECD『図表でみるメンタルへルスと仕事 疾病、障害、仕事の障壁を打ち破る』

102705OECD編著 岡部史信・田中香織訳『図表でみるメンタルへルスと仕事 疾病、障害、仕事の障壁を打ち破る』(明石書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.akashi.co.jp/book/b102705.html

なんですが、初めにちょっとだけ苦言を。

この本、もちろんOECDの報告書の翻訳で、その原著は

http://www.oecd-ilibrary.org/social-issues-migration-health/sickness-disability-and-work-breaking-the-barriers_9789264088856-en

ですが、どこにも「メンタルヘルス」なんて言葉はできてきません。いやもちろん、「Sickness, Disability and Work: Breaking the Barriers」というタイトルの「疾病」にも「障害」にもメンタルな疾病、メンタルな障害は重要な一部として含まれるわけですが、でもフィジカルな疾病、フィジカルな障害だってちゃんと含まれるんですよ。

実際、内容紹介を見ても、目次を見てもそれは明らかなんですが、

非常に多くの労働者が健康上の問題または障害を原因として永続的に労働市場から離脱しており、そして就労能力の減退している人が雇用を維持するということはほとんど見られない。この状態は、事実上、OECD加盟国のすべての国で共通している社会的・経済的な悲劇である。この状態はまた、説明を必要とする明らかな矛盾を生じさせている。その矛盾とは、平均的な健康状態が向上してきているにもかかわらず、しかしいまだに生産年齢にある大多数の人が労働力から離脱して、長期の疾病給付や障害給付を当てにしているのはなぜかということである。
 この報告書は、過去数年間にわたってOECDが取り組んできた疾病、障害、仕事に関する調査プロジェクトの結果を総合し、そして上述の矛盾の背後にあると考えられる要因を探求している。また、各種の団体と政策の役割を強調し、そして主要な関係者(労働者、雇用主、医師、公的機関、サービス提供者)に対する期待を高めることと適切なインセンティブが重要であると結論付けている。さらに、OECD加盟国間での優れた実績や悪しき実践例の調査を踏まえて、健康上の問題を抱えている人の就労を促進させるために、一連の主要な政策を改革することが必要であることを示している。
 この報告書は、数多くの重要な政策の選択肢――例えば、1)障害給付への流入を絞り込むこととその流出を高めること、2)健康上の問題を抱える人の雇用の維持を促進させることと新たにそうした人を採用すること――を検証している。本報告書は、2つの異なる不測の事態である失業と障害を区別する必要性に疑問を投げかけ、適切な証拠に基づく必要性を強調し、さらに政策を実施するための課題を浮かび上がらせている。
 本書の表紙の絵は、障害のある人の芸術作品の紹介普及活動を展開しているフランスの非営利団体Ateliers Personimages(www.personimages.org)のものである。

第1章 障害関連政策の経済的背景
 はじめに
 第1節 経済と社会にとっての障害のある労働者の重要性
  1.1 障害のある人の社会的・経済的インクルージョン
  1.2 人口統計学的な諸課題と将来的な労働力供給不足に対処すること
 第2節 障害のある労働者は労働市場で大きな障壁に直面する
  2.1 変化する労働市場の状況
  2.2 障害のある人の労働市場のアウトカムに対する経済の影響
  ・Box1.1 景気循環は障害のある労働者の労働市場のアウトカムにどのように影響するか
 第3節 景気循環および高齢化による障害給付の受給率と受給者数の動向
  3.1 障害給付受給率の動向は景気循環にどの程度影響を受けるか
  3.2 障害給付受給者数の動向は高齢化にどの程度影響を受けるか
 第4節 結論
 付属資料1.A1 障害の定義と測定
 付属資料1.A2 根拠となる補足資料

第2章 疾病・障害関連政策の主要な動向とアウトカム
 はじめに
 第1節 労働市場での障害のある人の不十分な統合
  1.1 就業率が低い
  1.2 パートタイム就労の割合が高い
  1.3 失業率が高い
 第2節 障害のある人の貧弱な資力
  2.1 可処分所得が少ない
  2.2 貧困リスクが高い
  2.3 雇用されてもいないし給付も受けていない
 第3節 疾病給付と障害給付のスキームに対する多額の費用
  3.1 公的支出は高額となっている
  3.2 受給者数が多くかつ増加してきている
  3.3 受給者の年齢構造が変化してきている
 第4節 給付制度にとっての好ましくない動き
  4.1 障害給付への前兆としての病欠
  4.2 障害給付流入率は高い
  4.3 障害給付からの流出はほとんどない
 第5節 結論
 付属資料2.A1 根拠となる補足資料

第3章 障害関連政策改革の最近の方向性
 はじめに
 第1節 OECD加盟国における主要な改革動向
  1.1 統合政策を拡大すること
  1.2 各種団体の編成を改善させること
  1.3 補償政策を厳格化すること
 第2節 疾病・障害関連政策の動向:変化と一致
  2.1 過去15年間での政策の変化を測定すること
  ・Box3.1 OECDの障害関連政策指標
  2.2 政策クラスターおよび政策の一致
  ・Box3.2 3つの主要な障害関連政策モデル
 第3節 障害給付受給者名簿への政策の変化の影響
 第4節 改革の政治経済学
  ・Box3.3 OECD加盟国の中で特筆すべき国からの政策過程の教訓
 第5節 結論
 付属資料3.A1 OECDの障害者政策の類型:指標スコアの分類
 付属資料3.A2 OECDの障害者政策の類型:2007年頃の国別スコア

第4章 障害給付を就業促進の手段に転換させること
 はじめに
 第1節 障害の査定から就労能力の査定へ
  1.1 就労能力を査定すること
  1.2 査定基準
 第2節 就労に向けての積極姿勢への移行
  2.1 就労関連活動に参加するための要件
  2.2 一時給付金と健康状態の定期査定
 第3節 就労が報われるようにすること:税・給付制度の改革
  3.1 障害給付の適切性と寛容性
  3.2 障害給付はその他の生産年齢関連給付とどのように比較されるか
 第4節 結論

第5章 雇用主と医療専門家を積極的にさせること
 はじめに
 第1節 健康上の問題を抱えている労働者の雇用維持のための雇用主のインセンティブを強化する
  1.1 健康状態を改善させる職場環境
  1.2 病欠を短縮させるための疾病モニタリングと管理者の責任
 第2節 雇用主がその責任を果たし得ることを確保するための措置を支援すること
  2.1 雇用維持と新規採用:本質的な課題
  2.2 雇用主がその責任に応じるための適切なサポートの提供
 第3節 医療専門家が就労への焦点を強化すること
  3.1 診療ガイドラインの整備
  3.2 医療専門家のための明確な行政管理手続
  3.3 診断書の体系的管理
  3.4 医師のための財政的インセンティブ
 第4節 結論

第6章 適切な人が適切な時期に適切なサービスを受けること
 はじめに
 第1節 担当機関の間での調整と協力を向上させること
  1.1 給付とサービスを統合させた入口に向けて
  1.2 不統一な制度を合理化すること
  1.3 資金提供の責任を一致させかつ分担させること
  1.4 ガバナンス:地域と地方の担当当局をモニターすること
  1.5 アウトカムの測定とプログラムの評価
 第2節 体系的かつ適切なやり方でクライアントと関わること
  2.1 サービスの供給と需要の均衡を保つための一層の投資
  2.2 問題点の早期の特定
  2.3 各種サービスの適切な調整の特定
 第3節 民間サービス提供者のインセンティブの向上に取り組むこと
  3.1 アウトカムベースの資金に向けて
  3.2 質、競争、サービスバウチャー
  3.3 民間サービス提供者の問題に取り組むこと
 第4節 結論

 訳者あとがき

いやまあ、なぜこういうタイトルになったかは実はよく分かっていて、「メンタルヘルス」と唱うと売上げが伸びるだろうという出版サイドの思惑であることは重々承知なんですが、それにしてもこの本にメンタルヘルスという題名はちょっとまずい。

812011181mなぜかというと、訳者あとがきにも書いてあるのですが、OECDはこの「疾病、障害、仕事」のプロジェクトの後、いよいよ本格的にメンタルヘルスに焦点を当てたプロジェクトを昨年11月に開始しているからなんです。

http://www.oecd.org/document/20/0,3746,en_2649_33927_38887124_1_1_1_1,00.html(The OECD "Mental Health and Work Project")

Mental illness is a growing problem in society and is increasingly affecting productivity and well-being in the workplace, says OECD.

Sick on the Job? Myths and Realities about Mental Health and Work says that one in five workers suffer from a mental illness, such as depression or anxiety, and many are struggling to cope.

The report challenges some of the myths around mental health and concludes that policymakers need to look for new solutions. Most people with a mental disorder work, with employment rates of between 55% to 70%, about 10 to 15 percentage points lower than for people without disorders.

メンタルヘルスって言葉をタイトルに唱うべきはやはりこっちでしょう。

と、一応必要な文句を言っておいた上で、本報告書が提起する革新的な政策提案として、「単一の生産年齢給付への移行」を紹介しておきます。

・・・一つの代替的アプローチは、さまざまな不測の事態に応じて完全に区別された状態を廃止し、またさまざまに準備された利用可能な生産年齢給付を単一のものに取り替えることを最終目標として、給付と制度を簡略化することである。

この革新的なアプローチは、OECD加盟国のどの国でも未だ試みられておらず、また近い将来にそれが実施される見込みもない。もっとも、この考え方は前途有望なものであって、この方向に一歩を踏み出し始めている国もある。・・・

あと、訳者の岡部史信さんという方は、日本でスペイン労働法を専攻しておられるたった二人のうちの一人です。

もう一人は博物士こと大石玄さんであることはご承知の通りです。

http://d.hatena.ne.jp/genesis/

« 労働組合は政治の婢ではない | トップページ | 「一体改革」はなぜ支持を広げないか@宮本太郎 »

コメント

私は精神障害で手帳を持っている身です。
昔に比べれば障がい者の雇用は増えてるのですが、精神障害や聴覚障害を持つ人はなかなか採用されないのが現状です。
企業側から準備ができていない
(おそらく半永久的に採用する気がない)
と言われて断られる事が多いです。

軽度の内臓疾患を持つ障がい者が一番優先されて雇用されているようですが、無理をさせられて病状を悪化させたり、精神障害まで抱えてしまうという二次被害を受ける人が出る始末です。

障害を抱えている人の多くは真面目で能力があるので、障がい者を雇用する環境を整えて欲しいものです。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 労働組合は政治の婢ではない | トップページ | 「一体改革」はなぜ支持を広げないか@宮本太郎 »