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2012年6月 5日 (火)

公契約における労働条項

私の偏頗な紹介ぶりに坂倉さんが泣いているので、

http://twitter.com/magazine_posse/status/209964793497526272

濱口桂一郎さんが『POSSE vol.15』の橋下改革特集のうち、いちばん橋下改革に関係ない(泣)、今野論文を紹介してくださっています。

関係ないけど、その少し前のつぶやきにちょっと説明を付けておきましょうか。

http://twitter.com/magazine_posse/status/209911886106476546

公務員の給料や生活保護費が高いと思うなら、バッシングよりも、企業の低すぎる賃金をまともにすべき。そのための現実的な政策である公契約条例を、まずは大都市から広めていかないと。/渋谷区 公共工事に最低賃金 23区初の公契約条例案

040720この説明は、今東大の公共政策大学院でやっている「労働法政策」の講義テキストです。

8年前に出たミネルヴァ版に相当程度書き加えているものです。

第3部 労働条件法政策

第5章 賃金法政策

第3節 公契約における労働条項

(1) 1950年公契約法案

 最低賃金とは異なり、公的機関が一方当事者となる公契約において公正な労働条件を確保し、低賃金を除去することを目的とするのが、1949年の第32回ILO総会で採択された「公契約における労働条項に関する条約」(第94号)及び同名の勧告(第84号)である。日本は本条約を批准していないが、採択の翌年の1950年に、労働省はこれを受けた法律案を内部的に作成したことがある。
 同法案によると、国及び公社公団等の注文を受けて対価が一定額以上の工事の完成、物の生産及び役務の提供を行う者との契約には、①労働基準法その他の労働関係法令の遵守、②役務等に使用する労働者に対し、当該労働者の職種及び就労地域について一般職種別賃金が定められている場合は、その額を下らない賃金を支払うこと、といった労働条項を含まなければならず、この一般職種別賃金は、その地域における同種の職業に従事する労働者に対し一般に支払われている賃金を基準として、労働大臣が定める。
 行政官庁は、役務等提供者が労働条項に違反して一般職種別賃金を下回る賃金を支払った場合には、当該契約に対する対価のうち、その未払賃金相当額の支払いを留保することができ、この場合労働者は国等に直接未払賃金相当額の支払いを請求することができる。さらに、役務等提供者が相当な理由なく労働条項のうち重要な事項に違反した場合には、労働大臣は閣議決定を経て国等の機関に対し当該契約の解除を請求することができる。これらに対する損害賠償請求はできない。なおもしばしば違反した場合にはその者の氏名名称を国等の機関に通知して、その後2年間はその者との契約の締結が禁止される。
 これは、役務等が数次の契約によって行われる場合には各契約に適用され、下請人が労働条項に違反した場合には、元請との契約が解除されることになる。
 このように、大変厳しい内容の法案であり、建設業界始め建設省や運輸省から批判が集まり、労働法学者(松岡三郎)までも憲法違反との批判を行い、結局閣議決定に至ることなくお蔵入りとなってしまった。 *17

(2) 公契約条例

 2000年代に入って、この公契約規制の考え方が蘇ってきた。全国の多くの自治体の議会で、公契約法や公契約条例に関する意見書が続々と採択され、こういった動きの先頭として、2009年9月に千葉県野田市で野田市公契約条例が採択された。
 同条例が適用される労働者は、①受注者に雇用され、②下請負者に雇用され、③受注者又は下請負人に派遣されて、専ら当該公契約に係る業務に従事する者である。これら受注者、下請負者、派遣元は、市長が定める賃金以上の賃金を支払わなければならない。条例上に金額は規定されず、工事・製造請負の業務については公共工事設計労務単価を、それ以外については野田市現業職員の初任給を勘案して定めるとされている。受注者は下請負者や派遣元の違反に対して連帯責任を負う。報告と立入検査、是正措置の規定に加えて、一定の場合には公契約の解除が制裁として設けられている。
 これより先、尼崎市でも条例案が議員提案されたが、市当局が違法性があるとしたため、採択されなかった。一方、2010年12月には川崎市で契約条例の改正により公契約条項が盛り込まれた。こちらでは一人親方も対象に含まれている。さらに2011年12月、多摩市も公契約条例を制定した。

(3) 公共サービス基本法

 国レベルではより一般的なものとして、2009年5月に公共サービス基本法が制定されている。これは「安全かつ良質な公共サービスが、確実、効率的かつ適正に実施されること」といった基本理念を掲げた法律であるが、その中に第11条(公共サービスの実施に従事する者の労働環境の整備)として、「国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする」という規定が盛り込まれている。
 2006年に制定された競争の導入による公共サービスの改革に関する法律が、民間が担うことができるものは民間にゆだねる観点から、官民競争入札又は民間競争入札により経費の削減を図る改革を推進してきたことに対する、理念上での反転の第一歩といえる。
 なお、民主党内部では2009年に「国等が発注する建設工事の適正な施行を確保するための公共工事作業従事者の適正な作業報酬等の確保に関する法律案」を作成し、国会に提出しようとしていたが、現時点ではまだ提出に至っていない。

(4) 連合の公契約基本法構想

 公契約に関して、連合は2008年6月、「公契約に関する連合見解と当面の取り組み」において、「国レベルでは、公契約に関する基本法を制定し、その中で公契約における公正労働基準や労働関係法の遵守を徹底させるとともに、地方レベルでは、「公契約条例」の制定をめざす」との方針をまとめた。
 その後2011年7月には、「公契約基本法の制定に向けた連合の考え方」をまとめ、公契約の対象範囲、労働者の対象範囲(派遣労働者、一人親方、個人請負も対象)、事業者の対象範囲(下請、孫請事業者も対象)、公契約の受注者の決定方式(判定・審査基準は、「公契約に働く者の公正労働基準と労働関係法の遵守、社会保険の全面適用」および「公契約への障害者など多様な人材の雇用促進」を実現する観点を踏まえたものとする)、契約に盛り込む事項、条例化に向けた規定などが示されている。
 なお、2012年1月には「公契約条例モデル(案)」を作成している。

(追記)

http://twitter.com/magazine_posse/status/209987363508715522

濱口さんが先ほどのツイートに返事をくださいました。ありがとうございます。とほほ。そもそも『労働法政策』ってそんなに改訂されてたんですね。新しいのにしないといかんですな。

いや、改訂「版」は出ていません。全然売れずに8年前の版の在庫がミネルヴァ書房にまだ積み上がっているので、とても改訂版なんか出せませんよ。

上のバージョンは、大学院の講義用のアップデート版ファイルの一部で、受講者には配っていますが、まとまった形では出ていません。

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