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2012年6月11日 (月)

遠藤公嗣編著『個人加盟ユニオンと労働NPO』

101530遠藤公嗣編著『個人加盟ユニオンと労働NPO 排除された労働者の権利擁護』(ミネルヴァ書房)を、編著者の遠藤さんと、この本の一章を書かれている橋口昌治さんににお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.minervashobo.co.jp/book/b101530.html

個人加盟ユニオンと労働NPOは、企業内組合ないし日本的雇用慣行から排除された労働者の権利を擁護する。その意味で、新しい労働者組織である。個人加盟ユニオンと労働NPOは、1つ1つは小さいながらも、ワーキング・プアの増加や格差の拡大という社会問題を抱える現代日本において、重要な役割を果たしている。個人加盟ユニオンと労働NPOは、どのような組織構造と実際の機能をもっているのか。どのようなメンバーがいて、どのように活動に参加しているのか。これらの新しい労働者組織の意義は、どのように理解すべきなのか。本書は、これらの新しい労働者組織の事例比較を中心とした共同研究の成果である。比較事例の対象として、韓国と中国の労働者組織も取り上げている。さらに、アメリカとイギリスにおける事例と研究動向にも言及する。

本書は、遠藤さんを中心とする科研費プロジェクトの成果で、次のような内容です。

序 章 新しい労働者組織の意義(遠藤公嗣)
 1 本書の課題
 2 新しい労働者組織の発展史⑴——個人加盟ユニオン
 3 新しい労働者組織の発展史⑵——原告支援の労働者組織 
 4 新しい労働者組織の国際比較——アメリカ合衆国の例
 5 労働研究理論への示唆
 6 各章の紹介

第1章 中小労連から地域労組へ(上原慎一)
    ——札幌地域労組の事例から
 1 本章の課題と対象
 2「札幌中小労連・地域労組」と地区労
 3 札幌地域労組が中心の活動へ
 4 組織化の特徴、交渉の実態
 5 活動の特徴とその意義

第2章 九州のユニオンと東京のユニオン(福井祐介)
    ——2000年・2010年コミュニティ・ユニオン組合員意識調査から
 1 2つの調査と調査対象ユニオン
 2 組合員属性・雇用環境の変化
 3 本人収入と世帯収入
 4 職場分会と他組合員支援経験
 5 紛争状況とユニオンで得られたもの
 6 政治意識と階層帰属意識
 7 九州と東京——共通点と相違点

第3章 ゼネラルユニオンと大阪の外国人非正規労働者(チャールズ・ウェザーズ)
 1 安定的な組織
 2 GUの組織的特徴
 3 1990年代の英会話学校との闘い
 4 2000年代以降の安定的な労使関係と社会保険運動 
 5 最近の活動
 6 ラテンアメリカ人労働者とフィリピン人労働者
 7 成功への鍵

第4章 自己責任論と個人加盟ユニオン(橋口昌治)
    ——「若者の労働運動」の事例から
 1 本章の課題
 2 先行研究の検討と研究の方法
 3 事例研究⑴——Aさんの場合
 4 事例研究⑵——Bさんの場合
 5 ユニオンの果たした機能

第5章 労働NPOの特質(小関隆志)
    ——個人加盟ユニオンとの対比・関連において
 1 本章の課題
 2 労働NPOの出現
 3 労働NPOの役割
 4 労働NPOの財政基盤・人的基盤
 5 社会運動的労働運動における労働NPOの意義と課題
 6 結 論

第6章 派遣切り問題にみる「協セクター」の可能性(大山小夜)
    ——愛知派遣村のフィールドワークを通じて
 1 問題設定と本章の概要
 2 ある男性のケース
 3 派遣切りとは
 4 リーマン・ショック前
 5 リーマン・ショック後
 6 その後の支援活動と相談者の状況
 7 協セクターの限界と可能性

第7章 韓国における女性非正規労働者の組織化(金 美珍)
    ——韓国女性労働組合(KWTU)の事例
 1 研究課題
 2 結成の経緯とその背景
 3 10年間の主な成果
 4 組織構造と運営
 5 韓国女性労働組合(KWTU)の意義

第8章 中国における「工会」と草の根労働NGOの変容(澤田ゆかり)
    ——農民工の権益保護をめぐって
 1 問題の所在——農民工の権利をとりまく変化
 2 工会の役割の変遷——上昇する組織率と機能の限界
 3 草の根NGOの成長と制約
 4 草の根労働NGOの意義と展望

終 章 排除された労働者の権利擁護の研究にむけて(遠藤公嗣)
 1 米国と英国の研究企画
 2 日本の研究企画

さまざまな対象をさまざまな視点から分析する諸論文なので、それぞれに興味深いのですが、まずはお送りいただいた橋口さんの「自己責任論と個人加盟ユニオン」、

「自己責任」意識を持った若者は、抱える困難の社会的原因を問う契機を持ちにくく、「自分に問題があった」と考え、違法な解雇を受忍したり、権利として認められた生活保護申請を思いとどまる場合がある。自己責任論の問題点は、社会的な解決の道を閉ざしてしまい、負うべき必要のない「責任」まで個人に負わせてしまうことにある。

それに対して、「若者の労働運動」の現場では、「自己責任」意識を持っていた若者が自分個人の問題を集団的・社会的に解決されるべき「労働問題」だと意識するようになる姿が見られる。・・・

というその「姿」を2つの事例で示しています。

あと、札幌地域労組の第1章、大阪のゼネラルユニオンの第3章も、興味深い事例が挙がっています。このゼネラルユニオン、私が評釈した例のGABA事件の当事者でもあるんですね。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roui1203.html(英会話学校講師の労働者性)

遠藤さんは序章と終章で少し大きな枠組みから位置づけを試みています。ただ、そこで言われる団体交渉レジームから雇用権レジームへ、という議論については、確かにアメリカの方向性を示しているのは確かなのですが、それだけでいいのかな、という疑問も湧かないでもありません。

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