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2012年5月19日 (土)

ステークホルダー民主主義とは無責任なポピュリズムの反対

池田信夫氏が、それ自体はまっとうな議論を、おかしな用語法に流し込んでいるようです。

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51790132.html(「ステークホルダー民主主義」の終焉)

「消費地の理解」とは何のことか。消費者の過半数が賛成しないと原発は運転できないのか。「再稼働に反対する各種の世論調査」というのは朝日新聞の調査のことだろうが、産経の企業アンケートでは48%が再稼働賛成だ。いずれにせよ世論調査も再稼働の法的要件ではない。

かつて日本的経営を「ステークホルダー資本主義」の一種として賞賛する議論が流行したことがあるが、このように多くの「世論」が政治的決定に関与するのはステークホルダー民主主義ともいえよう。企業統治については多くの研究があるが、法的な決定権者である株主以外のステークホルダーが意思決定に関与することは交渉問題を増やして非効率な結果をまねくので、株主資本主義がもっとも効率的だ、というのがほぼ一致した結論である。

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すくなくとも、拙著『新しい労働社会』で述べたのは、そういう大阪あたりを震源地とする無責任なポピュリズム政治にもっと対極的なものこそが、利害関係に立脚するステークホルダー民主主義だということだったのですが、

 大衆社会においては、個人たる市民が中間集団抜きにマクロな国家政策の選択を迫られると、ややもするとわかりやすく威勢のよい議論になびきがちです。1990年代以来の構造改革への熱狂は、そういうポピュリズムの危険性を浮き彫りにしてきたのではないでしょうか。社会システムが動揺して国民の不安が高まってくると、一見具体的な利害関係から超然としているように見える空虚なポピュリズムが人気を集めがちになります。これに対して利害関係者がその代表を通じて政策の決定に関与していくことこそが、暴走しがちなポピュリズムに対する防波堤になりうるでしょう。重要なのは具体的な利害です。利害関係を抜きにした観念的抽象的な「熟議」は、ポピュリズムを防ぐどころか、かえってイデオロギーの空中戦を招くだけでしょう。

 利害関係者のことをステークホルダーといいます。近年「会社は誰のものか?」という議論が盛んですが、「会社は株主のものだ。だから経営者は株主の利益のみを優先すべきだ」という株主(シェアホルダー)資本主義に対して、「会社は株主、労働者、取引先、顧客などさまざまな利害関係者の利害を調整しつつ経営されるべきだ」というステークホルダー資本主義の考え方が提起されています。そのステークホルダーの発想をマクロ政治に応用すると、さまざまな利害関係者の代表が参加して、その利益と不利益を明示して堂々と交渉を行い、その政治的妥協として公共的な意思を決定するというステークホルダー民主主義のモデルが得られます。利害関係者が政策決定の主体となる以上、ここでは妥協は不可避であり、むしろ義務となります。妥協しないことは無責任という悪徳なのです。労働問題に関しては、労働者代表が使用者代表とともに政策決定過程にきちんと関与し、労使がお互いに適度に譲り合って妥協にいたり、政策を決定していくことが重要です。

少なくとも現在の日本では、池田信夫氏が上記エントリで具体的に批判している対象の人々が、自分の意見も人の意見もそれぞれに利害に基づく立場というのがあり、その間で辛抱強く利害調整をしていかなくてはいけないなどという発想とは、まったく対極的な世界に生きていることだけは間違いないわけです。

そういう絶対的唯我独尊的な人々を、さまざまなステークホルダーの一つではなく、唯一の「法的な決定権者」にしてまったらどういうことになるか、それを考えることこそが、歴史を学ぶものの務めでもあるわけです。

今必要なのは、「電気がなかったら俺たちの生活どうしてくれるンや」というまさにステークホルダーの利害そのものの声のはずなのですが。

(ついでながら、こういうねじ曲げのロジックは「第何法則」といえばいいのでしょうか)

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コメント

>企業統治については多くの研究があるが、法的な決定権者である株主以外のステークホルダーが意思決定に関与することは交渉問題を増やして非効率な結果をまねくので、株主資本主義がもっとも効率的だ、というのがほぼ一致した結論である。

株主資本主義の問題点が指摘される昨今なのに、それでも「一致した結論」といけしゃーしゃーと言っちゃうところが池田イズムなのでしょう。

ともあれ、池田氏に対するブーメランになっているのが面白いです。関電の大株主は大阪市ですが、市長の橋下氏は脱原発派であり、池田氏とは反対の主張ですので。

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