三井正信『基本労働法Ⅰ』
三井正信『基本労働法Ⅰ』(成文堂)をお送りいただきました。ありがとうございます。
この本は、ロースクールの授業をもとにしたテキストブックであり、Ⅰが総論と労働契約法、Ⅱが労働条件決定・変更システム、Ⅲが集団的労使関係と紛争解決という予定だそうです。ざっと通読してⅠが大変面白かっただけに、ⅡⅢを早く読んでみたいという思いが湧いてくる本です。
さて、本書のテキストブックとしての特徴としてわたくしが感じた点は、大きな枠組みに関するところと、コラムに表れる自分史表白的なところです。
まず前者ですが、Ⅰだけでも全編にわたって日本的雇用慣行との関係における労働法制という問題意識が強く示されていて、ある意味で拙著『日本の雇用と労働法』と通じるものも感じられました。いや、もちろん、素人向けの拙著と違って、ロースクールというプロ仕様のテキストですが。
・・・さて、このようなルール形成にあたっては終身雇用制、年功処遇制、企業別組合といった日本的雇用慣行・・・が考慮に入れられた。・・・これを単純化して言えば、労働者はよほどのことがなければ簡単にはクビにはならない・・・代わりに、労働者は使用者に命じられれば時間外労働やさまざまな仕事を(業務)を行い、辞令一本で転勤や配置換えなどの人事異動に従い・・・、一定の労働条件の不利益変更を甘受(ガマン)しなければならない・・・という構図になっているのである。つまり、労働者雇用安定化機能と使用者裁量権容認機能はギブ・アンド・テイクないしトレード・オフの関係に立っていると言える。このような労働関係の継続性と柔軟性を重視するという特徴を有する一群の判例ルールが労働契約法理と呼ばれるものである。
後者は、著者略歴を見てから読むとよく分かりますが、
1982年 京都大学法学部卒業 以後、住友金属工業(株)勤務、京都大学大学院、京都大学助手、広島大学助教授を経て、現在広島大学教授
民間企業への勤務経験をお持ちなんですね。で、それがコラムに結構たくさん顔を出します。
採用内定のところでは、
なお、ついでにここで、筆者の就職活動について書いておきたいと思う。1981年に大学4年生となったが、当時はまだ就職協定があり・・・・・・
配転のところでは、
かなり以前、筆者が某鉄鋼会社に勤めていた頃の話である。当時、筆者は、北九州の小倉にある製鉄所の労務部に勤務していた。・・・
とか、
・・・筆者はかつて大学を卒業して某鉄鋼会社に就職した経験があり、配属された製鉄所の近くの独身寮に入っていた。・・・
出向については、
・・・しかし、その後筆者が、某鉄鋼会社に勤めていたとき、製鉄所の労務部にいた関係で、出向はいわば日常茶飯事に話題となっており、それでようやくいろいろなタイプの出向があることが肌身に沁みて分かった。・・・
転籍のところでも、
筆者がかつて勤めていた会社のことばかり書いて恐縮であるが・・・
そして合併のところではしんみりと、
先日、かつて筆者が務めていた某鉄鋼会社が業界第1位の鉄鋼会社と合併するというニュースに接し非常に驚いた。・・・昔いた会社がもはやそのままの名前と形では存続しないのかと思うと、若干寂しい気もした。しかし・・・
ここまで著者の個人史が色濃く描かれたテキストブックはあまりなかったのではないかと・・・。
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