Okapia Johnstoniさんも『日本の雇用終了』をレビュー
引き続き、アマゾンカスタマーレビューで『日本の雇用終了』への書評がアップされています。評者は、やはり前著を評していただいているOkapia Johnstoniさん。
こちらはかなり長めの力の入った書評です。
本書が研究対象とするのは、労働局に持ち込まれた個別労働紛争あっせん事案である。
これまでこの領域においては、典型的といえるあっせん事例の紹介はあっても、統計的・全体的な分析はなされてこなかった。
濱口氏の分析によって明らかとなったのは、日本の雇用社会(とりわけ中小企業)には、国家の制定法や判例法理がそのままには通用しないことである。
そして、それらを代替する「フォーク・レイバー・ロー」とも呼ぶべき雇用慣行が定着していることである。
あっせんに持ち込まれる紛争の多くは、コミュニケーション不全に根ざしたものだ。
そもそも我が国の雇用社会は「メンバーシップ型」であり、それぞれの職場が固有の文化を持つものである。
そのような風土において解雇の理由となるのは、客観的な「能力」よりもむしろ主観的な「態度」なのである。
労働者がこのような雇用慣行の「文法」を理解しないまま「発言(voice)」をすると、売り言葉に買い言葉で紛争が発生することがある。
そこで問題とされるのは、主張内容の正当性より以上に「主張することそれ自体」すなわち協調性に欠けると看做されることである。
また、経営不振や試用期間を理由とする解雇など、使用者の行為に法規範との乖離がみられる点についても、その一方的である点においてコミュニケーション不全の現象と言うことができよう。
判例法理においては、経営不振を理由とする整理解雇には使用者の説明・協議義務が厳しく求められる。また試用期間は決して「お試し期間」というわけではなく、労働者に対する教育を充分に行い、それでも尚改善の見込みがない場合にのみ解雇が許されるのだ。
こういった判例法理に比して、あっせん事案から浮き彫りとなるのは、如何に安易に労働者のクビが切られるかという現実である。
コミュニケーションが可能となるのは相手を自分と対等の「人間」と認めたときであるが、日常業務における力関係の不均衡が、契約の成立・解約の場面にまで影響を及ぼしているのである。
本書は研究者向けの専門書であるが、具体的事例の分析をした第2章は誰にとっても興味深いものであるはずだ。時間のある方には、なるべくじっくり第2章をお読みいただきたい。時間のない方には、第4章が僅か8ページで本書のダイジェストとなっている。
世間で労働法が守られていないことを指摘するのみでなく、「実際に世間で通用しているルール」がそれとは別にあることを示したところに本書の主眼があるので、先に第4章を熟読したうえで本書の全体を軽く通読するのが最も効率良く的を外さない読み方であるかもしれない。
また第5章では金銭解決のメリットについても触れられており、今後の政策的提言として注目すべきである。
このように、必ずしも読みやすいとはいえない研究報告書をしっかりと読み込んで的確に評していただけることは大変有り難いことです。
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