世界の派遣業界はディーセントワークとソーシャルパートナーシップを掲げる
http://www.joho.or.jp/up_report/2012/04/
特集は「不信”ではなく“信頼”へ 今こそ、安心できる 社会保障システムを!」で、大沢真理、岩永牧人、榊原智子、湯浅誠といった人々の話に、情報労連の縄倉さんの文章など。そして中島岳志さんの「バッシングでは社会は改善しない」は特集の一環ですが、むしろ時論のような感も。
わたくしの連載「労働ニュースここがツボ!」は、今回は「世界の派遣業界はディーセントワークとソーシャルパートナーシップを掲げる」と題して、先日のCIETTのワークショップの紹介です。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororen1204.html
去る3月6日、CIETT(国際人材派遣事業団体連合)の地域ワークショップとして講演とシンポジウムが開かれ、私もパネリストの一人として出席しました*1。聴衆の大部分は日本の派遣業界の方々ですが、CIETT、とりわけその中核をなしているヨーロッパのEuro-CIETTの方々の話が、どれくらい日本の聴衆に伝わっているのだろうか、と若干心配な気持ちにもなりました。というのも、当日の講演の内容も、その背景となったCIETTの冊子「Adapting to Change」(当日邦訳を配布)も、日本の派遣業界ではほとんど使われることのない言葉がキーワードとして使われていたからです。ハーステレン会長(蘭)やペネル専務理事(仏)が繰り返し強調したのは、人材派遣こそがディーセントワークを提供しうるのだということであり、そのフレクシビリティとセキュリティの両立のためには適切な規制が必要だが、その中でも労使対話型が望ましく、人材派遣業界は労使対話に尽力しているのだということでした。ヨーロッパ各国で、労使パートナーによる人材派遣業界対象の共同組織が多数設立されていることが紹介され、「ソーシャルパートナーシップ」という言葉が何回も繰り返される姿は、ほとんどILO総会かと見まがうばかりでした。
残念ながら、日本の派遣業界はこれまでディーセントワークとかソーシャルパートナーシップという概念に無関心でした。時としては公然と敵意を示すことすらありました。たとえば、かつて政府の規制改革会議や労働政策審議会労働条件分科会の委員として、公的な立場で派遣業界の意見を世間に示す立場にあった方が、「ILOは後進国が入るところだ。先進国はみんな脱退している」とか、「労働省や労基署はいらない」とか、「過労死は自己責任だ」といったことを語っていたのです。もちろん個人的にそのような意見を持つ方がいても全く自由ですが、公的に派遣業界を代表する立場の人がそのような発言をするという事態の背後には、派遣業界のこの問題に対する認識の水準が顕れていたといわれても仕方がないでしょう。
しかしながら、これは派遣業界を責めていればよい問題でもありません。既存の労働組合がややもすれば正社員組合に安住して、派遣労働者など非正規労働者の組織化に取り組んでこなかったことが、こういう事態の背景にあるとも言えるからです。派遣労働者を含む非正規労働者の「発言」のメカニズムをどのように構築していくか、日本の労働組合が非正規労働分野においても「ソーシャルパートナー」の名に値する存在であるのかどうかが問われているのです。
*1ファシリテーターは八代尚宏氏、他のパネリストは鶴光太郎氏、龍井葉二氏、松井博志氏、アンネマリー・ムンツ氏(Euro-CIETT)、坂本仁司氏(人材派遣協会)。
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最近、あまりネットをうろついてなかったんですが、今回の件で、あちこちみてまわっております。
出井智将さんの『雇用維新』というブログで、労働契約法改正案が閣議決定について書かれています。
...... [続きを読む]
» http://hakennoobachan.blog.fc2.com/blog-entry-3.html [派遣のおばちゃん 「なんや、それ」]
いやぁ、今、便利になっているんですね。労働問題、派遣について、皆さん、どんな考えを持っていらっしゃるのだろう。そう思って、ネットを検索したら、でてくる、でてくる。真面目に問題に取り組んでいらっ...... [続きを読む]
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