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2012年4月29日 (日)

法学部生でも大部分は読まないでしょうが・・・

上西充子さんが、本ブログで以前書いた法政での授業についてついーとされています。

http://twitter.com/#!/mu0283

この発言の背景にはメアリー・C・ブリントン『失われた場を探して―ロスト・ジェネレーションの社会学』を読んだときの感慨がある。アメリカの子どもは、近所の知り合いの家でのベビーシッターなど、信頼関係によって守られた中で働く経験を始める。

一方で日本の高校生・大学生は、最初の就労経験であるアルバイトによって、世の中が矛盾に満ちていることを知ってしまう。そして、働くことに諦めを最初に抱いてから就職して本格的に社会人になっていく。そのことがいかに不幸なことであるかを日米比較の中で感じたのだ。

今、手元に本がないので正確に引用できないが、ブリントンのこの本の中では「企業の不当行為から若者を守る」という提案がなされていたはず。「企業の不当行為から若者を守る」ことができていない中で「働くことの厳しさ」への覚悟を若者に求めるのは間違っている。

2010年10月に、自分が従事しているアルバイトについて、授業中に大学生にアンケート調査をしたことがある(回答者58名:2年生26名、3年生29名、4年生3名)(調査結果は公表していません・・)

雇用される際、労働条件を記載した書面を交付されたかの問いに対し「交付され、保管している」25名、「交付されたが、保管していない」6名、「書面を見せられたが、渡されなかった」4名、「書面はなく、口頭での説明だけだった」14名、「よく覚えていない」7名、「何も説明されていない」2名。

まともな例では、「契約時、契約更新時に印を押し、1枚保管用として交付された」など。問題のある例では「仕事の内容等は詳しく説明されましたが、雇用の話は2人に1枚の紙を見せて少し読んだという記憶しかなく、さらっとながしていたと思います」など。

事前にネットなどの求人情報で把握していた労働条件と実際の労働条件が同じだったかという問いに対しては、「同じだった」25名、「ほぼ同じだった」18名、「かなり違っていた」8名、「よく覚えていない」1名、「労働条件は事前に把握していなかった」5名、「無回答」1名。

問題のある例では、(1)ネットでの募集要項は時給1000円と書かれていたが、実際に入ったら950円で、店長に話を聞いたら「社長にネットの記載を直すように言ってるんだけどね」となんとなく話を流された例(労働条件は口頭での説明のみ)、

(2)働き始めた月の給料から制服代として3000円引かれるのを働くのが決まってから知った例(労働条件は口頭での説明のみ)、(3)毎日1時間ぐらいの時給は認定してもらえない、やめた月には給料をもらえなかった例(労働条件は口頭の説明のみ)

(4)はじめ1か月ほど研修時給830円、その後通常の時給850円になると言われたが、9か月目にやっと850円にあがり、差額は支払われていない、店長に言っても無視されたという例(労働条件については書面を見せられたが渡されず)、など。

労働条件を記載した書面をちゃんと交付していないところでは、いいかげんな働かせ方がまかり通っている。「まともな例」もあることを知ることによって、自分の職場がまともじゃないんだ、ということを学生が知るきっかけにはなった。

しかしこの結果を受けて授業で濱口桂一郎さんにお話しいただいたところでは、なぜ権利を主張しないのかという濱口氏の問いかけに対し、それは無理という反応が多かった。

理由は、せっかく見つけた授業と両立できるアルバイト先を失いたくない、文句を言ってシフトを変えられたら困る、店長がものすごく働いているから自分だけ苦情を言うのは申し訳ない、など。

濱口氏コメント【その気になればいくらでもアルバイト先はあり、搾取されながら我慢し続けなければならない理由などなさそうに見えるのですが、意識構造はそうではないのです。まるで、「気分は正社員」。】

3401310http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-6887.html(気分は正社員?または権利のための闘争)

濱口氏が言及されたイェーリンク『権利のための闘争』(岩波文庫)【自分が権利を持つことを知らずに、または安逸と臆病から――いつまでも全く権利主張をしないでいるならば、法規は実際に萎え衰えてしまう】

「法学部であればみんな学ぶイェーリンクの『権利のための闘争』」と濱口氏は書いておられるが、他学部では確かに学ばない・・。

まったくどうでもいい話ではありますが、「法学部であればみんな学ぶイェーリンクの『権利のための闘争』」ってのは、言葉のはずみとはいえ過大評価もいいとこで、たぶん全国の法学部生の99%は「イェーリンクなにそれ食えるの?」でしょうね。つまり、法学部生も含めて、今の日本の大学生には「権利のための闘争」なんて恐ろしげな過激思想(!?)はほとんど縁もゆかりもないと思った方がいいと思います。

ちなみに、上西さんのついーとを遡っていくと、労働教育についてもつぶやいておられました。

(3)労働教育について。本日の濱名委員・松井委員の発表ではキャリア教育について基礎的・汎用的能力が中心的に言及されていた。

しかし2011年1月中教審答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」では重視すべき教育内容として「経済・社会の仕組みや労働者としての権利・義務等についての理解の促進」が挙げられていたことを指摘した。

同時に、この労働教育(労働法教育、ワークルール教育、等、呼び方は様々)は、本来はキャリア教育・職業教育、労働教育の3本柱となってもいいような重要な内容であるにもかかわらず、キャリア教育について語られる際には看過されがちであることを指摘した。

今日のクローズアップ現代「やめさせてくれない」でも、ワークルール教育の重要性がまとめのコメントの中で言及されていたわけで・・。労働教育をしなくても大丈夫な現状かと言えば、全然そうではないのが現状なのだから。

話はそれるがこの労働教育の重要性については厚生労働省の2009年2月「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会報告書」が正面から取り上げている。座長は佐藤博樹先生、私は委員の一人で、今回のWGの委員である吉田委員からもヒアリングを行っていた。

この研究会の事務局には濱口桂一郎さんがいらした。この研究会を受けて、厚生労働省から「知って役立つ労働法」が作成され、ネットでPDFが公開されている。

この「知って役立つ労働法」、中高生版も企画されていたのに震災で中断されたままらしい。本日吉田委員から、ぜひ中高生版の作成も進めてほしい、高校生がアルバイト先に持って行って示せるようなものを、という要望が厚生労働省に示された。

厚生労働省2009今後の労働法関係制度をめぐる教育の在り方に関する研究会報告書:労働者自身が労働関係法制度の基礎的な知識を理解していない場合、労働者としての権利を行使することが困難であり、そもそも権利が守られているか否かの判断すらできない。

文部科学省2011「学校が社会と協働して一日も早くすべての児童生徒に充実したキャリア教育を行うために」:誤解をおそれずに分かりやすい言葉でいえば、”世の中の実態や厳しさ”を子どもたちに学ばせることも重要である。

この乖離にくらくらする・・。

いやまあ、厚労省と文科省の思想の乖離もありますが、それよりなにより、労働法の知識は何とか教え込んだとして、それを実際に自分の「権利のための闘争」の武器として使うという心の構え方がそもそもきわめて希薄なところにこそ、実のところは最大の問題があるのでしょう。

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コメント

まさに「イェーリンクなにそれ食えるの?」な学生です。
イェーリンクそれ自体の思想は確かに99%の学生が知らないと思いますが、「全く権利主張をしないでいるならば、法規は実際に萎え衰えてしまう」っていう理屈自体は憲法第12条を通して法学部生はみな学んでいると思います。
「憲法12条とイェーリンクの主張は全く異なるものだ! この浅学者め!」と言われてしまうと、イェーリンクを知らない以上何とも答え難いのですが。
ただ、実感としては「権利として認められるものであっても立場が上の者から強く押し付けられるとこちらが萎えてしまう」ってことは多々あります。
そもそも、憲法第14条3項に反して勲章を貰った人は事実上年金を貰えるわけですし、憲法第38条に反して事実上捜査機関によって自白は強要されているのですから、「憲法なにそれおいしいの?」というのが正直な気分だったりします。

はてブから来ました。
イェーリングも読まない学生がそんなにいるんですね(^_^;)

「権利」や「憲法」って所与のものではないし、その内容自体に議論の余地があるはずなのですが、そういうことって最近の学生は気にならないのでしょうか…

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